【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百八十四話  提督と艦娘⑥

 

 警戒態勢に入ってから3日目に入った。昨日の金剛と鈴谷の報告では鎮守府内部に入っている輩とかは居なかったとの事。

ひとまず安心したが、侵入者がいるとしたら夜中に入ってくる筈だ。それが暗殺目的なら尚更だろう。

そんな事もあり、俺は拳銃を枕元に置き、限界まで起きている事にした。

 

(静かだ......。)

 

 深夜巡回の混成警備部隊以外が寝静まったであろう午前1時前でも俺は起きていた。

 

(もし暗殺が目的なら実行しやすい深夜帯を狙ってくる筈。)

 

 天井をベッドから見上げながらそんなことを思った。

 

(もし今襲われたなら俺は真っ先に拳銃を手に取らなければならないのか......。)

 

 果たして俺にそんな事が出来るのだろうか。今回のことの根源は間違いなく『海軍本部残党』だが、今回も関係のない兵士がこちらに送られてくる事は確実だった。そんな兵士を俺が撃つ事が出来るのだろうか。

幾ら口径が小さくても拳銃だ。銃、それは即ち殺傷兵器。当たりどころが悪ければ最悪、撃たれた相手は絶命してしまうものだ。口径が小さいからって舐めてはいけない。そんな拳銃の銃口を俺はただの任務としてここに現れた人間に向けて引き金を引くのか。考えただけでおぞましかった。

 新瑞が言う『海軍部情報課』という組織はどうやら諜報員の集団だということらしい。そしてこんな事も聞いたのだ。『海軍部情報課は海軍本部諜報部崩れの強者諜報員が集まっている。』と言ったのだ。

それを聞いて俺はあることを思い出した。巡田を洗脳していた先輩も居る可能性があるのだ。そして、今回の一連の騒ぎの首謀者が『海軍部情報課』所属である可能性の裏付けにもなったのだ。

 

(巡田さんでさえもかなりの諜報能力だと思うんだが、アレ以上だと考えるとこの鎮守府はザルだな。)

 

 俺はそんな事を頭で考えていて至って冷静なつもりで居るが、身体は違うみたいだ。さっきから震えが止まらないのだ。

畏怖される俺の暗殺に怯えているだけなのかもしれない。いつかの巡田がやった時はそこまで怖く無かった。その時は鎮守府のそういった事に対処する能力が十分にあると思っていたからだ。だが今ではちゃんと鎮守府がどういうところに秀でていて、何に弱いのか理解している。

今の鎮守府なら確実に俺の暗殺が出来るだろう。頼んでおいて言って悪いがザルな警備だけだからだ。一応、巡田ら諜報班が目を光らせている。

 

「はははっ......。」

 

 乾いた嗤いが口から零れた。すぐに訪れる死への恐怖なのか、はたまた無念からの笑いなのか今の俺には分からない。

 そんな風に俺の脳内は『死』で蝕まれていた。特に夜はそうだ。

誰もいなくなり、誰とも話さなくなると途端にこうなってしまう。常に考える事は暗殺による『死』のみだ。

 

「やばっ......。」

 

 そんな事を呟いている。何か発して気持ちが紛れるかと思ってもそうは行かないのだ。

何か考えようにも頭から離れていかない恐怖に嫌になりつつ俺は時計に目線をやった。現在は午前1時を過ぎて10分くらい経った頃だった。それほど時間は経ってない。

 悪循環に陥りながらも俺の意識は遠のいていった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 気付けば朝になっていた。途中で寝てしまっていた様で、かなり変な体勢から起き上がると俺は背中を伸ばして大きく息を吸った。

梅雨前に近づきつつあるこの頃だが、なぜだか最近は気温が少し下がっているみたいで、朝方は涼しいというより寒かった。今日も例外なく、寒いので俺はすぐに制服に着替えて執務室に出て行く。

 執務室も変わらずに寒いが仕方ないので俺は冷たい椅子に腰を下ろした。ひんやりとした椅子の感触がズボン越しに身体に直接伝わってくる。

 少しすると今日の秘書艦が執務室に入ってきた。時間は丁度いいくらいだ。

 

「Good morning! アドミラルっ!ってどうしたの?」

 

 今日の秘書艦はどうやらアイオワらしい。

 

「あぁ、ちょっとな。」

 

「ミーに出来る事があれば何でも言ってね?」

 

「あぁ。」

 

 明るいアイオワに反して今日の俺は一段と暗いみたいだ。

それもその筈だろう。

 

「さぁー、Breakfastを食べて執務しましょう!」

 

 そんなノリでグイグイと来るアイオワに少し戸惑いながらも俺は付いて行った。

こんな気分の時こそ、アイオワみたいな艦娘と話をすると気が落ちつくみたいだ。アイオワの明るさに充てられて俺は少し元気になったのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 朝食を食べ終わり、金剛がアイオワの補佐をして執務を終わらせるとアイオワが書類提出のために執務室を出て行った。それを待っていたと言わんばかりに金剛がアイオワが出て行ったのを確認すると話しかけてきた。

 

「提督、無理してませんカ?」

 

「無理って......そもそも何を無理すればいいんだ?」

 

 抽象的な言葉で聞かれ、俺は思わずそう答えてしまった。多分、金剛が聞きたかったのは状況を鑑みて俺の精神状態だろう。

 

「......フム......。」

 

 そんな風に答えた俺を黙って金剛は見ると俺の手を掴んだ。金剛の小さい手が俺の手首に巻きつき、引き寄せられる。

 

「アイオワには言っておきマス。提督は休むと良いヨ?」

 

「......。」

 

 俺はそんな金剛に何も言い返せなかった。

実際、俺の精神状態は良くないに決まっている。最近は夜だけだったのに、日中にもたまにだが脳裏をよぎるのだ。

その度に表情に出ない棟にしているが金剛にはお見通しだったみたいだ。

 

「それと私も付いていますカラ......。」

 

 そんな風に金剛は言った。

 

「ありがとう、金剛。」

 

「いえっ......以前の暗殺は提督がこの世界に来てあまり時間が経ってない頃デシタ。あの頃はまだ色々と理解できてないところがありましたから今とは違いマス。今は色々な事を知ってマス。それだけ考えられるようになったんデース。そうなってしまえばこうなるのも仕方がないというものデスヨ?そもそも提督は本当は大人じゃないんデスカラ。」

 

「あぁ。俺はまだまだ子どもだ......。」

 

 そんな事を言われながら俺は私室に入り、ベッドに誘導されてベッドに入った。

 

「かく言う私も歳的には中途半端な子どもですけどネ。それでも培ってきたモノが違いますカラ、そういう差が出てきてるのデス。」

 

「そうかもしれない。......俺の居た世界の大人が同じ境遇に陥っても同じことになっているだろうな.....。」

 

 金剛の言葉に俺は返答をしていく。だが脳裏にはずっと暗殺のことばかりだ。

 

「それに提督は自分の弱いところを隠してマース。夜に吐き出してる事はなんとなくですけど分かってるのデス。」

 

「......。」

 

 俺は今の金剛の発言には返せなかった。図星だったのだ。記憶に新しいのは昨日の夜だ。

 

「こんな事に"気付ける"のは『近衛艦隊』と移籍組だけデース。最も、移籍組は違うニュアンスで捉えてるかもしれマセン。」

 

 ベッドに寝る俺の片手を両手で包み込んだままの状態で金剛は話す。

 

「提督の心身の事、私たちは本当に心配しているのデース。デスカラ一刻も早く、今降り掛かってくる危機を吹き飛ばさなければならないデス。」

 

「早く皆にも"気付いて"欲しいナー。気付いたところで提督の心配事は消えきりませんガ......私たちが深海棲艦と戦い続ける限りは、デスガ。」

 

 そんな金剛の話す声が子守唄のように聞こえてきて次第に俺のまぶたが重くなっていく。

そしてついに俺のまぶたは閉じられた。

 

 




 
 今日のは少し少ないですが勘弁して下さい。キリが良かったものですから......。
 
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