【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百八十七話  提督と艦娘⑨

「どうしてだ?」

 

 俺は少し間を置いてからそう秋津洲に訊いた。

 

「移籍した当初はあまり感じなかったけど、時間を置くごとに他の娘が言うような金剛さんの『特徴』に似てきてる事が分かったの。早々に提督の危険を察知出来るの、あたし。」

 

 そう言って秋津洲は眉を下げながら少し笑った。

 

「でも、動かないかも。行動しようとしてもそれは『破壊』だったりするからなんとか行かないようにしてるかも。」

 

 秋津洲が言った事はつまり、理性で抑えるタイプだ。しかも察知が早いときたらもう大井と同じタイプとしか言いようがない。

そう瞬時に俺は脳内で考えると、返事をした。

 

「そうか......。だが行動するタイプじゃなくてよかった。もし行動するタイプだったら昔の金剛と同じになってしまう。」

 

「それはあたしも思ったかも。本当に抑えれて良かった。」

 

 そう少し笑った秋津洲を見て、俺は直感的に心配はないと感じた。

理性で抑えられるならこれ以上のことはない。だが、その時の秋津洲はとてもじゃないが見てられないだろう。

俺は理性で殺意を必死に抑えている赤城を見たことがあるのだ。目が血走り、怖い顔をしている赤城を。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 話をした後も違う話をずっとしていた。

訊いたことが無いからといって俺が作れる料理を全て聞き出されたり、毎日持ってくるお菓子のリクエストを訊いてきたりとかなり長い時間話していた。

 その一方で考える事もあった。大井がどうして秋津洲の事を察知してなかったのか、だ。

この様子から察するに大井の言った説によれば秋津洲もヒトとして俺を見ていると考えられる。さっき話しながら見ていた書類から分かった事だが、秋津洲は書面上移籍となっているが、番犬艦隊にくくられていない。移籍組でありながら番犬艦隊に入れられてない特殊な事例なのだ。

 よくよく考えてみたら番犬艦隊も俺が知っているだけで、非公式艦隊だ。『近衛艦隊』、『親衛艦隊』、『番犬艦隊』と編成されているが、どれも認知はしているが、公に認めている訳ではないのだ。

 

「そういえば秋津洲。」

 

「何かも?」

 

「秋津洲は『親衛艦隊』に所属を?」

 

「あー。」

 

 そう俺が聞くと、秋津洲は何だか変な態度をした。

 

「どうしたんだ?」

 

「言いにくい訳では無いけど、実はあたし、『近衛艦隊』にも『親衛艦隊』にも所属してないかも。」

 

「は?」

 

 どういうことだろうか。赤城や他の艦娘の話を聞く限り、どちらかには所属することになっているらしいのだが、どちらにも所属していないとなると、『番犬艦隊』にもなってない様だ。一応、秋津洲は移籍組なのだが。

 

「アレは勧誘で入るものらしいの。あたしは移籍してきてから結構1人で居る事が多かったから、勧誘したくても見つけられなかったのかも。」

 

「1人で居るって言っても、あそこだろう?」

 

 俺が言ったあそことは、艦娘寮から少し行ったところにあるテラスのことだ。

 

「ううん。哨戒任務してお菓子作って、ご飯も艤装で食べちゃうから実際、あそこに居るのは1、2時間くらいかも。寝る以外の殆どは艤装にいるかも。」

 

 そうかも知れない。哨戒任務といっても沖ギリギリまで出て、二式大艇を飛ばし、帰還をそこで待った後、回収するから相当の時間が掛かるのだろう。しかも、食事は艤装で摂っている上、毎日俺のところに持ってくるお菓子も艤装で作る。そして寝ている訳だからどこかで張ってない限りあまり会うことも無いだろう。俺は毎日持ってくるので会っているが。

 

「そうか......。」

 

 俺は考えた。秋津洲には既に哨戒任務を任せていて時間を結構それで取ってしまっているが、他の艦娘との交流がおろそかになってしまっているのなら別の任務も与えてみようかと。

考え付く任務はそうない。護衛と警護は有事以外は金剛と鈴谷に任せればいいし、有事でも赤城が指揮する混成警備部隊でどうにかなることもある。それ以外では戦術考案のために赤城が"特務"をしている。それに新設といっても結構時間が経っているが、赤城、金剛、鈴谷の騒ぎの時に内偵や下仕事をしてもらっていた霧島、熊野、叢雲の内部情報部隊もある。

どこかに配置するのは一応、適正があるので可能だが、哨戒任務に圧迫されて何か出来るとは到底思えない。

 

「でも寮で部屋が近い娘に仲良くしてもらってるの!瑞鳳ちゃんとか。」

 

「そうなのか。」

 

 どうやら本当に1人ではないみたいだ。

 

「夜になるとたまに一緒に話しましょうって誘われてよく行くの。友達が居ないわけじゃないから!」

 

 そう少し頬を膨らませながら怒る秋津洲を少し笑っていると、突然執務室の扉が勢い良く開かれた。入ってきたのは遠征任務に出ていた天龍だ。

 

「報告書の提出だ。」

 

「あぁ、お疲れ。」

 

「まだまだ行けるぞ?だが、その前に提督に報告しておかなくちゃな。」

 

 額に汗を滲ませた天龍は汗をぬぐいつつ俺に言った。

 

「何だか妙な胸騒ぎがするんだ。」

 

「どういう意味だ?」

 

 俺がそう聞くと、天龍は説明をしてくれた。

同じような事を以前にも経験していることと、その時の状況をだ。それだけ聞けば俺も察する事が出来た。

天龍が言ったのは『今日のみたいに胸騒ぎを感じた』のとそれが『鎮守府への空襲』だったことだ。鎮守府への空襲では俺の居た地下司令部が爆弾で潰れている。

つまり、俺の命の危険が迫ってきているということを意味していた。それも近い時間に。

 

「こういう予感が的中するのは嫌だが、報告しておこうと思ってな。確かにしたぜ。」

 

「あぁ、ちゃんと聞いた。ありがとう、天龍。」

 

「あたぼうよ。......だが、様子を見る限り大丈夫そうだから俺はもう行くぜ。」

 

「分かった。」

 

 天龍はそう言って執務室を出て行った。今から多分だが、艤装の点検と風呂にでも入るんだろう。

 天龍が出て行ったのだが、それと入れ替わりで叢雲が入ってきた。

 

「不審人物というか、ほぼ100%侵入者を発見したわ。」

 

「本当か?」

 

「えぇ。巡田さんの班の人がそれらしき人物を発見したって言って今、追跡中。携帯電話で連絡しても良かったけど電源切ってるからってさ。」

 

「じゃあ何故、叢雲が報告に......。」

 

「巡田さんは班の人を追って行っちゃったからね。私が代わりに来たの。」

 

「分かった。秋津洲。」

 

「はいかも。」

 

「非常事態だ、警備に出ていない非番の混成警備艦隊も全て出せ。」

 

「分かった!」

 

 緊張、強張った面持ちで秋津洲は艤装を身に纏い、無線で連絡を取り始める。

やがて鎮守府内は騒がしくなった。次々と本部棟や艦娘寮、酒保から艦娘が門兵と合流して警備の指示を赤城からもらっているようだ。ここからでも赤城の指示を飛ばす声が聴こえるのだ。

 

「混成警備艦隊の総出撃を確認したかも!」

 

「うしっ......。ならそろそろだな。」

 

 俺がそう呟くと示し合わせたかの様に執務室に番犬艦隊が飛び込んできた。どうやら走ってきたようだ。

 

「到着、したわっ。......これから提督の護衛に入るわね。」

 

 肩を上下させながらビスマルクはそう言う。他の番犬艦隊もそんな感じだ。

 

「走ってきたのか......。息を早く整えて頼んだ。」

 

「分かってるわよ。......いつもの護衛じゃないけど、大鮒に乗った気でいなさいっ!」

 

 そうドヤ顔をして言うビスマルクに皆、苦笑いしていたがオイゲンだけ笑い転げている。

 

「ビスマルク......。それを言うなら大船だろう......。」

 

「べっ、別にいいじゃない!大鮒も大船も変わらないわよ!一応、水面に居ることができるしっ!」

 

「船は沈めないぞ......。」

 

 そうフェルトの冷静なツッコミを聞きながら俺は秋津洲に指示を出していた。

秋津洲にも艤装を身に纏い、番犬艦隊と同様に動くように伝えた。

 鎮守府の上空には既に赤城の指示の下、空母の艦娘たちが彩雲や烈風、零戦を出していて上空警戒及び捜索と追跡を始めていた。

 

「じゃあ私たちも、艤装を......。」

 

 ビスマルクたちも秋津洲を見て直ぐに艤装を身に纏った。

執務室に居る艦娘、8人が全員艤装を身に纏うとかなり場所を取ってしまっていて、俺が今居るところから見ていてもかなりの圧迫感が感じられた。

 その中で忙しなく秋津洲は無線を聞いたり応答したりしながらメモを取っていた。大体がこちらが聞く側だったみたいで『はい。』とか『うん。』とかしか言ってない。そして手先はずっと動いたままだった。約5分間、書き続けた頃にどうやら一段落付いたみたいで俺のところに報告に来た。

 

「先ず最初に霧島さんから。『侵入者と思わしき人物を追跡中。確保を検討中。』かも。」

 

 俺も手元にあった紙に乱雑にメモを取った。

 

「次、警備棟の武下さんから。『門を1つ無力化。意識不明の門兵6名を収容中。』かも。」

 

 先ほどと同じく、メモを取る。

 

「次、赤城さんから。『上空から侵入者を捜索中。』かも。」

 

 どうやらこれで終わりのようだった。

俺はペンを置くと、直ぐにそのメモを横にやって状況が動くのを待った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 秋津洲を介した情報を待って数十分くらい経った頃、執務室にある混成警備艦隊から連絡が飛び込んできた。

 

「入電っ!警備棟が無力化されたかもっ!」

 

 一瞬、番犬艦隊はざわついたが直ぐに静かになった。

 

「武下と連絡が取れる門兵に連絡を取るように言ってくれ!」

 

「了解したかも!」

 

 俺はそれと同時に携帯電話から武下に電話を掛ける。

コールが鳴るが、一向に電話には出ずにすぐに留守番電話に入ってしまった。その後も2回連続で掛けるがやはり繋がらない。

武下と連絡が途絶えてしまったのだ。

 

「秋津洲、霧島に打電っ!誰かを警備棟に向かわせろっ!」

 

「分かったかもっ!」

 

 俺は状況を頭で整理しつつ、指示を飛ばす。

そして霧島の返信である『熊野が調査に向かった』後の入電で熊野との交信途絶を最後にあちこちで連絡が取れなくなる混成警備艦隊が出てきたのだ。

状況は最悪だ。こんな短時間でここまでやられてしまうとは思いもしなかったからだ。

 




 今回から激動に入りました。
急に始まった侵入者による攻撃に押し込まれている鎮守府と提督の行く末はいかに。

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