【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百九十一話  提督と艦娘⑬

 

 非常事態宣言に驚きつつも鈴谷は提督に頼られた事を嬉しく思いながら任務を全うしていたんだけど、何だか変なんだよね。

提督の様子もそうだけど赤城が特に、鈴谷や金剛さんと同じ反応をしてもおかしくないのに何か思い詰めた様子だったから。

まぁでも分からなかったからそのままだったんですけど、ついに侵入者が侵入したっていう知らせを聞いてから全て分かったんだ。

 提督は怯えていた。その時に分かった事。これまで提督の喜怒哀楽を見てきたけど、こんなの見た事無い。必死に隠そうとしてたけど、状況から察すると侵入者に怯えていたと見てもいいかな。侵入者で怯えるとしたらもうアレしかないよね?

 

「さてさて、行きますか。」

 

 金剛さんが作ってた横須賀鎮守府全体の地図の縮尺を片手に鈴谷は鎮守府の中を単独行動中。提督の怯えが見えてからすぐに持ち歩くようにしたんだ。

 鈴谷に関しては見て回る事はしなくてもいいんだよね。鈴谷は執務室の隠し扉の裏にいるから。そこから番犬艦隊とは別で提督の護衛をしてるの。

 明らかに提督の様子がおかしいのに誰1人として気付いてないんだけど、気付かないのはおかしいかな。番犬艦隊だって『近衛艦隊』の括りに入ってるのに。

 

(あっ......輪形陣をとった。)

 

 今日の秘書艦である秋津洲さんと提督を中心に輪形陣をとった。秋津洲さんはそんな中で無線での情報統制をしているよ。そんな中、どうやら混成警備艦隊との連絡がだんだんと寸断されていってるみたいだね。鈴谷の方にもコールがあったけど、ここで出たら隠れてるのがバレちゃうから無視しちゃった。

 そんな事があって数分後、執務室で異変が起きたの。隙間から覗いていた鈴谷は気付けたんから良かったんだけど、執務室に突然何かが投げ込まれてその刹那、眩い光が辺りを包んだんだ。

最初何か分からなかったけど、それが照明弾の類のものだって事は直感的に分かった。でもその後に目が眩んでいる番犬艦隊や金剛さん、秋津洲さん、提督がいるところにまた何かが投げ込まれた。照明弾の時と同じもので、それが良くないものだってのも分かってた。そしたら案の定だったよ。それは煙を吐き出し始めてそれを吸った執務室の番犬艦隊や金剛さんたち、提督は気を失ったの。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 ガスが充満した部屋に入ってきたのは多分、ものを投げ込んだ張本人だと思う。侵入者がガスマスクをしているから顔がよく分からない。ちなみに鈴谷もこの隠し扉の裏にあったガスマスクをしてるんだ。でないと提督たちみたいになっちゃうからねぇ。

 シュコーって音を立てながらその侵入者は執務室で倒れているというより眠っている番犬艦隊の艦娘たちを提督の私室に放り込んでいって最後に提督の私室の扉に何かを塗ったら寝ている提督の腕を縛って連れて行こうとした。そんなんだから鈴谷の身体は提督を連れて行かせまいと動き出したんだけど、それが阻まれちゃった。

鈴谷の腕を誰かが掴んだんだ。

 

「ダメですよ、鈴谷さん。」

 

 鈴谷の腕を掴んでいたのは警備部の諜報班、あの侵入者のようにかつて鎮守府に侵入して提督を撃った巡田さんだ。

 

「なんでっ?!提督がッ!?」

 

「ダメです。今出て行ってもしも交戦になれば提督にっ......。」

 

 そう鈴谷に訴える巡田さんの目はとても真剣だった。

確かにここで出て行って頭に血が上っり切った状態で戦おうものなら提督に流れ弾が当たるかもしれないってのは分かってた。

 

「後をつけましょう。鈴谷さんは他の残ってる混成警備艦隊に連絡をっ」

 

「無理だよ。」

 

 そう言いかけた巡田さんの提案を途中で鈴谷は遮った。

 

「えっ?」

 

「1班残らず全滅したって......。」

 

 秋津洲さんが気を失う前に提督に報告していた情報だった。つい10分前くらい前の話。今はどうか分からないんだけどね。

 

「じゃあ鈴谷さんを1人にしておくわけにはいきませんね。もし何かあったら提督にしょっぴかれますから......。」

 

「その提督を追いかけるのはいいんだけど提督、寝てるんだよね......。」

 

「あははっ、じゃあ追いかけますよ?それとはいっ。」

 

 軽口で少し鈴谷を落ち着かせてくれた巡田さんは鈴谷にあるものを渡してきた。

 

「拳銃です。使い方は分かりますか?」

 

「うん。なんとなくだけど。でも鈴谷、撃ったことないよ?」

 

「構いません。持っているだけで脅威になりますからね。」

 

 そう言われて鈴谷は拳銃をスカートを腰に止めておくベルトに挿して隠し扉に手を掛けた。

 中にはまだガスが残っていて、吸ったらたちまち寝てしまうからそのまま執務室を出て提督を背負った侵入者を追いかけ始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 追いかける途中でガスマスクをベンチの上に置いてきた。必要ない外に出たから。

外を見ると誰1人として歩いていない道で、静けさに包まれていた。そんな鎮守府を不気味に思いつつ、鈴谷と巡田さんとで侵入者を追いかけてるの。途中、侵入者もガスマスクを投棄してたけど結構遠いところから後をつけてるから顔は見えなかった。

 侵入者の後をつけ始めて30分くらい経った頃だったと思う。あるところにたどり付いたの。そこは普通の茂み。特段何かがあるという訳では無いんだけど、それは表向き。

ここは金剛さんが掘った外との連絡トンネルがあるところ。本当の用途は外の情報収集だったんだけど、上手く使えてたみたい。それが2、3ヶ月前の提督にバレた時を境に入り口を塞いだんだ。だけどここに何の用があるんだろう。そう思って遠目から見てたら侵入者がその塞いだ入り口を壊して中に提督を背負って入っていってしまったんだ。流石にこれには鈴谷もだけど巡田さんも焦ってた。このまま行ったら外に逃げられるからね。

 

「どうする?」

 

「後を追います。あっちだって目立つ格好をしているんです。そんな人通りの多い道は通らないでしょう。」

 

 侵入者の格好は黒のBDUにベストと言った特殊部隊みたいな装備。黒一色な上、ヘルメットをしていて白い制服を来た提督を背負っているのなら目立たないはずがないということみたい。鈴谷もそう思ってた。

 

「じゃあ追いかけますか。それならこっちも好都合。」

 

 そう言って鈴谷と巡田さんもその後を追った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 結局行き着いた先は横須賀鎮守府の塀の外側すぐにあった廃工場。人も寄り付かないような場所らしい。そう巡田さんが言ってた。

そんなところに提督を背負った侵入者は入っていったの。

勿論、鈴谷と巡田さんもそれに続いてバレないように入って行ったよ。

 中には色々と準備がしてあったみたいで、提督が降ろされたところには工具やビニールシート、色々なモノが置いてあった。そんなところに足が縛られた状態の提督は椅子に座らされ、更に縄で拘束されたの。見てられなかったけど、まだタイミングではないって巡田さんに言われて殺意を噛み殺しながら提督を見ていた。

 提督には殴打なんていう暴行をしなかったけど、終始、侵入者は提督の額に銃口を突き付けていたの。そんな状態で提督と侵入者は話をしているんだけど、鈴谷たちがいる位置からはその会話の内容は聞こえなかったんだよね。巡田さんもその会話の内容には何か重要な事があるかもしれないといってたけど、これ以上近づけないということで断念になったの。

そんな時、会話が終わったかなぁって思った矢先、銃声が廃工場の中で轟いた。侵入者が発砲したみたい。ここから鈴谷は目をよく凝らして提督を見てみると、どうやら太ももを撃たれたみたいでかなり血が出てる。今すぐ止血して治療しないと......って思ってもやっぱり侵入者はそこから離れようとせずにまた提督に話しかけているの。どういう神経しているんだろうって疑っちゃったけど、その後また侵入者は銃を撃った。今度こそはよく見えないんだけど、足のどこかだと思う。

ここで鈴谷の我慢が限界になっていたんだ。

提督の痛みに悶える叫びが鈴谷の耳を劈いたけど、どうしても身体が動かない。提督が目の前で苦しんでいるというのに......。

今出て行ってしまえばあの侵入者が提督の頭を撃ち抜くのは必至だもん。そんな危険、鈴谷には決断出来ない。勿論、巡田さんも同じみたい。巡田さんが握っている拳銃がミシミシと音を立てているの。

 

「巡田さん。」

 

「何ですか?」

 

「巡田さんって提督のこと、どこまで知ってる?」

 

 鈴谷は気を紛らわす為、チャンスが来るその時までの時間繋ぎのために話しかけた。

 

「連れてこられたって事と、本当は学生だという事。殺しは絶対にしない事......。」

 

「鎮守府に勤めていたらやっぱりそれくらいだよね。」

 

「ん?まだあるんですか?」

 

 そう巡田さんが訊いてきた。

 

「うん。提督、ここに連れてこられた時に家族も友達も積み上げてきた事も将来も無くしたんだって。」

 

「え?」

 

 巡田さんはそう訊いてきたけど、目線は提督の方を捉えたままだった。

 

「結果的には提督自ら捨ててきたってことになってるけど、もう提督は家族にも会えないしこれまで作ってきた友達全員失ったし、将来も......。」

 

「そうなんですか......。」

 

「何もかも失ってここに留まるって決めてくれたんだってさ。でも理由が変でね、『俺の居た世界と干渉が出来るこの世界を知った俺が監視する。』だってさ。」

 

「システムはそうみたいですね。私もよく知らないんですけどね。」

 

「鈴谷もだよ。......でもやっぱり提督は寂しがってたんだ。家族や友達が周りにいなくなってただ1人で知らない世界に生きて、戦って、重い責任を負って、死に直面して......。」

 

「最後のは完璧に私ですね。」

 

「うん。だけど、今はその提督のために働いてくれてる。それだけで十分だよ。」

 

 鈴谷も提督の方を見てる。

 

「そんなんになっても鈴谷たちの前から消えずにずっと居てくれたその提督がさ......無抵抗で訳の分からない理由で撃たれて、あんなに血を流してさっ......。」

 

 視界がぼやけ始めちゃった。多分涙でも出てるんだろうなぁ。

 

「提督、死んじゃうのかなっ......。鈴谷が一番近くにいるのに助けに行けないんだよ?見える距離にいるのに、提督の苦しむ叫び声が聞こえるのにっ......。」

 

 鈴谷たちはガラス一枚向こうにいる提督を見ているだけなんだ。ここまでが入れる精一杯だったの。

 

「鈴谷さんっ!!」

 

 そんな時、巡田さんじゃない声で鈴谷を呼ぶ声が聞こえた。

現れたのは赤城さんだった。

 

「金剛さんのトンネルの入口が開いていたものですからっ......提督は?」

 

 そう訊いてきた鈴谷は提督のいる方向に指を指す。

それを目で追った赤城さんはそれを見るなり立ち上がった。

 

「血がっ!!撃たれたんですかッ?!」

 

「うん。さっきねっ......。」

 

「巡田さん、奪還は?!」

 

「無理です。近くに侵入者がいるので入った途端に提督の頭を撃たれてしまいますっ......。」

 

 下唇を血が滲むくらいに噛み締めた赤城さんは鈴谷たちと同じように座ってガラス越しに見始めた。

 

「提督っ......。」

 

 ここから入ったらもしかしたらって思ったけど、多分辿り着くまでに提督が撃たれちゃうから出来ないんだ。

でもこうしている間にも刻一刻とその提督が衰弱していってしまったらもう助ける助けないじゃない。

 

「どうすれば......。」

 

 そんな事を頭の中を駆け巡る。

本当にどうすればいいんだろう。

そんな時、また銃声が響き、鈴谷や巡田さん、赤城さんは提督の方を見た。

そしたら、提督が......。

 もう何も見えない。どうすればいいんだろうとかそんな事、考えられない。結局鈴谷は何も出来なかった。

ガラス越しに見える提督の姿は縛り付けられて、腿と足の甲から血を出していて、更に新しく風穴が開けられてた。

そんなこと、誰が望んだんだろう。少なくとも鈴谷やこの場にいる赤城さんだって望んでなんてない。

 





 あとがきに色々書いてしまいそうな作者です(オイ)
 どこかで200話までと言ってましたが、195話までに終わらせます。今はもうクライマックスですよ。
この後、どう物語が終焉するのか......。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

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