【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第百九十二話  艦娘たちに呼ばれた提督の話

 

 銃声と提督の状態を見たらもう、どうでも良くなってしまいました。

こうなってしまう事を最悪のケースだと考えていましたが、まさかその通りになるとは思っても見ませんでした。一番確率が低いと思ってましたからね。

 私の眼下に映る提督の様子が最悪でした。腿に1発、足の甲に1発。そして、胸に一発。

最初は提督の額に銃口を当てていた侵入者は何故か、撃つ場所を変えて撃ったんです。頭なら望みはありませんが、胸ならと思い、立ち上がったその刹那、また1発、発砲音が聞こえました。何かと思い、ガラスを覗き込むと提督の傍らにさっきまで立っていた侵入者がぐったりと横たわっていました。私はそれを見るなり走りだし、中に入ります。

 

「ハァハァ......ングッ......てい、とくっ!......提督っ!!」

 

 提督に走りより、近づいて改めて見る提督の周りに出来た血の海に少し戸惑いながらも提督の肩を揺らしました。

ですけど反応がありません。きっと気を失っているだけだと思ってそのまま提督を呼びながら肩を揺らしますが、提督は全く起きる気配がありません。

 

「提督っ!提督っ!」

 

 何度も何度も提督を呼び続けますが、全然起きる気配を感じません。

そんな事をしていると後ろの方からよろよろと歩いてくる鈴谷さんが近づいて提督を見るなり、その場に崩れ落ちました。

 

「提督っ......。」

 

 そんな鈴谷さんの肩を支える巡田さんも提督の安否が気になっている様で、鈴谷さんが自分で姿勢を保ってられるだろうというタイミングで手を離して提督の肩を揺らしました。

 

「提督っ?しっかりして下さいッ!!」

 

「提督ッ?!」

 

 そう呼び掛けますが、全然起きる様子はありません。

その提督の肩を揺らしていた巡田さんは肩から手を離すと、『失礼します』といって項垂れている提督の頭を支えて胸に耳を当てました。巡田さんの左耳辺りに提督の血がべっとりとつきましたが、そんなのお構いなしに耳を当ててますがそんな巡田さんの顔がどんどん青くなっていたのが分かります。

 

「......心臓が止まってるっ......提督を降ろしますっ!手伝って下さいっ!」

 

「はいっ!」

 

 流れ出る血が無くなったと思ったら心臓が止まってしまっていたみたいです。

心臓が止まる事は『死』に直結します。私は提督の腕を拘束していた縄を解いてその場に寝かせました。その提督の胸の銃創にハンカチを当てて巡田さんは心臓マッサージを始めました。

提督の胸は大きく陥没し、バコンバコンと数回音を立ててその後に提督の口から空気を送り込みます。

 

「赤城さんっ!脈は測れますかッ?!」

 

 脈というのは多分ですけど手首に手を当てるとドクンドクンと動くアレです。私はすぐに提督の手を取り、手首を出すと指を当てました。今は全然動いていません。きっと動くはずです。

 何度も何度も提督の胸からバコンバコンという音が鳴り、その都度、巡田さんが人工呼吸を施します。

ですけど全然脈はありません。ただ、提督の身体が揺れているだけです。

 

「起きて、下さいっ!」

 

 そう言いながら巡田さんは心臓マッサージをします。

 

「洗脳されて、いた、私を救って下さった、提督にっ......ずっと、返したかった、この、恩っ......ずっと、言えずに、いたん、ですっ!......だからっ......ッ!!」

 

 今まで聞いたことの無かった巡田さんの心の声に少し驚きつつも、同情があります。

額から汗を流しながら提督に心臓マッサージを施しますが、全く反応がありません。ただ提督の身体が跳ねるだけ。

 

「私が、マッサージを、始めてから、何分、経ちましたッ?!」

 

「3分です......。」

 

「クソォォォ!!戻って、戻ってッ!!戻って来て下さいっ!!!」

 

 酒保の本で読んだ事があります。人間が心肺停止に陥ってから3分が経つと50%の確率で死亡すると。そしてその場合、大量出血していたらその確率はかなり上がると。。

提督の状態は最悪でした。

そんな本の中に書かれていた事を思い出しました。除細動器です。心臓に電気ショックを与えて鼓動を復活させるという機械です。

 

「除細動器は使えませんか?!アレならッ!!」

 

「間に合いませんっ!鎮守府に戻っても往復で10分はかかりますっ!!」

 

 それでは間に合いませんね。確かに......。

何も出来ずに私はただ脈を測ってるだけで、すぐに巡田さんが呼んだのか、軍の衛生部隊が来ました。

私の目の前で担架に乗せられて運ばれていきます。勿論、侵入者もですけどね。腑に落ちませんが、侵入者はこめかみに穴が開いていたので助かる助からない以前の問題だと思います。

 運ばれていく提督を私は追いかけますが、どんどん引き離されていきます。走っても走っても提督を乗せた車はどんどん離れていって、ついに私の目では見えなくなるくらい離れてしまいました。

 

「待ってっ......提督ぅ......。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 その場に居た私と鈴谷、巡田さんとで話し、提督は怪我をして病院に連れて行かれたとすることにしました。

一応、鎮守府内の医務室でもある程度の手当は出来るのですが、それでは手に負えないほどの怪我だったとしておきます。

それなら提督は助かる前提ですけど、私たちが見た提督は心肺停止をしていました。助かるというより助からない方が確率的には上だったんです。それに病院に連れて行かれた事は事実ですからね。

ですけど、金剛さんにだけは私たちは伝えることにしました。

 

「どうしたノ?」

 

 そう少し心配そうな表情で私と鈴谷さんの方を見る金剛さんに私と鈴谷さんは口を開けずにいました。

 

「そのっ......提督の事なんですけど......。」

 

「あぁ、怪我してたって言うやつデスネ。骨折とかだったんデスカ?」

 

 そう金剛さんは言いますが、違います。

 

「ちっ......違います。」

 

「エッ?じゃあ、切り傷?」

 

「違います。」

 

 そう言う金剛さんに答えることしか出来ません。

本当のことを言えないんです。

 

「じゃあ、どうしたノ?」

 

 そう聞いてくる金剛さんに私は口が開きません。そんな時、鈴谷さんが言いました。

 

「3発......。」

 

「3発?」

 

「腿と足、それと胸にそれぞれ......。」

 

「それって......。」

 

「提督は拳銃で撃たれたんだよ。でも巡田さんの時みたいに右胸じゃない......左胸っ。それに腿を撃たれた時に鮮血が出てたし、量もっ......。」

 

 そう鈴谷さんが言った事で全てを察したんでしょう。金剛さんはその場にへたりと座り込んでしまいました。

金剛さんは勤勉です。今の話で提督の状態はすぐに分かるでしょう。

金剛さんは呆然として、口をぽかんと開けたまま瞬きしません。そのまま涙を流します。目の前で見ていた訳でもなく、銃声も聞いてない金剛さんだからでしょうか。

 皆に知らせた時に鎮守府の外で提督を見つけた事を話しました。ですけど金剛さんが作ったトンネルの存在は誰にも言わなかったんです。言わずとも金剛さんはそのトンネルが利用された事は知っていたみたいで、それだけでショックが大きかったでしょうけど、それに追い打ちを掛けるようなこの金剛さんに真実を伝えるのは酷でした。現に金剛さんの様子がおかしいんです。

 

「金剛さんは自分のせいだって思ってるかもしれないけど、それは違うよ。」

 

 そんな金剛さんに鈴谷さんは話しかけます。金剛さんはなんとか、鈴谷さんの方を見て、話を聞きますが様子は変わりません。

 

「提督が侵入者に連れてかれるのも、鎮守府の外に出ていったのも、提督が撃たれたのも......全部、全部、全部っ......鈴谷のせい。金剛さんから貰った地図、あれで知った執務室の隠し扉の裏にいたんだ、鈴谷は。そこから金剛さんたちが気絶させられたのも、ずっと見てきた。侵入者に運ばれたのも見てた、外に連れてかれたのも見てた、提督が撃たれたのも......何もかも。」

 

「鈴谷さん......。」

 

「でも、あんな状態になってしまっても鈴谷は何も出来なかったのっ!!!提督を助けるために、侵入者に立ちはだかる事もっ!」

 

「私もですっ......。侵入者が来ると分かっていたのに誰にも言いませんでした......。」

 

 鈴谷さんが言った後に私も金剛さんに言いました。

 

「分かっていたのに以前と変わらない警戒態勢を取らせてしまいました......せめて金剛さんと鈴谷さんには言っておくべきでした......。」

 

 そんな時、私の後ろから声が聞こえました。

巡田さんです。

 

「私もです......。提督に手を掛けた身でありますが、洗脳を解いて下さった事に感謝しています。命を助けていただいた事も......。」

 

 鎮守府のある一角、私たちは自らの力の無さや決断力を呪いました。

 結局、私たちは提督に何も返す事無く、深海棲艦との戦いの最中でなく身内によって提督を殺されてしまったのです。

私たちのために家族や友人と決別し、大きな責任や期待を背負い、戦争に身を投じた提督はもう......。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 日本皇国内にこれまでにない衝撃が走りました。深海棲艦との戦いよりも、更に大きくて深い......。

提督が国内の暗殺者に手を掛けられ、心肺停止状態から時間が経ってから緊急搬送された。と。その先の報道はありませんが、分かる人には分かるんですよ。心肺停止から時間が経った状態ならもう死んだも同然だと。

 それによって日本皇国は深海棲艦に抗う術を失ったんです。深海棲艦に唯一抗う存在を唯一指揮する提督、日本皇国の海を数ヶ月で取り戻した提督による指揮が無くなってしまったんです。

 その報道がなされてから数週間が経ちました。鎮守府の機能は最低限稼働しており、出撃はありません。唯一出ているのは秋津洲さんの哨戒任務だけ。他の艦娘たちは提督の無事を祈りながら毎日、毎日、鶴を折ってます。これをやろうと言い出したのは最初に提督の状態を私たちから正しく伝えられなかった艦娘たち、夕立です。

最初、提督に関する報道を聞いた艦娘たちは私たちを糾弾しましたが、それが不毛だと分かり糾弾を止めたんです。糾弾している自分たちが一番罪だったと言って。それ以来、横須賀鎮守府艦隊司令部の艦娘は皆、『提督への執着』が強まり、"気付いた"んです。と言ってももう既に遅いんですけどね。

 最初の3日間は鎮守府内はあちこちで泣き声や叫び声、誰かが命を絶とうとしているのを止める声が後を絶たず、門兵さんや色んな鎮守府で働いている人間たちに止められて過ごしてました。それからは平静ですけどね。

 報道の1週間後、鎮守府に大本営の高官と護衛が非武装の状態で私たちの目の間に現れました。『海軍本部』の不始末、力及ばなかった事を謝罪に来たんです。あの総督も帽を脱いで私たちに頭を下げたんです。

私たちは何事にもやる気が起きてない時でしたので、適当に話をして帰ってもらいました。総督が帰り際に『大本営を攻撃してもらっても構わない。それだけの事をしたのだ。』と言ってました。ですけど"気付いた"私たちはそんなことはしません。なぜなら提督なら、そんなことをやらないからです。

 皆、無心になって折り鶴を作ってますがもう少しでそれも終わるでしょう。

それぞれの艦種ごとに千羽鶴を折ってますので、ほんの1日、2日で終わるんです。

 私たちの心に空いた大きな穴。そして横須賀鎮守府艦隊司令部に空いた大きな穴、日本皇国に空いた大きな穴は埋まることはありません。

 そういえば忘れてましたが、提督を失ってから各海域に残っていた深海棲艦が前線を押し上げて、今はもう日本皇国の海は海岸線から50km程度しかありません。近海にまで深海棲艦に攻められてしまったんです。

迎撃に出る訳でもない、海を取り戻すという事を私たちは考えられなくなってました。

 

 心肺停止で運ばれた提督がどうなってるかは報道以降、私たちに知らされてません。死んだのかも、一命を取り留めたのかも分かりません。それにテレビでも提督の報道はずっと同じ内容ばかりでした。

これが私たちが提督を求めた結果だったんです。

私たち、艦娘たちに呼ばれた提督は、艦娘たちに大きなモノを遺していきました。

 

 

 

 

 





 先日までの流れ的に引っ張れませんでした。
多く謎を遺してしまいましたが、これにて『艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話』は終わりです。
 これまで付いてきてくださった皆様、ありがとうございました。
それと同時にアフターストーリーを用意することをお知らせします。
 約7ヶ月間ありがとうございました!

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