【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 作:しゅーがく
今回はウチの鎮守府で忘れられていた新造艦の話です。
俺は今日も執務を早々に終わらせて、ぐーたらしながら本を読んでいた。最近娯楽の為にと言って大量に本を買ってきたが、そのついでに興味を惹かれた目ぼしい本を大量に買っていた。
テレビの件はどうやら納得されて、駆逐艦の艦娘なんかは楽しみにしてるらしい。らしいというか、金剛が勝手に点けた件以来、よく遊びに来るようになった夕立と時雨から訊いた事だった。
あと娯楽を増やしたのと同時に、秘書艦を色々な艦娘にやらせてみる事にした。初回はそれぞれの艦種から秘書艦の経験がある艦娘を補佐に付けてだが。
因みに今日はテレビが設置された日から一週間が経っている。
「うーん、やっぱりSFはいいね。」
俺はそう呟いて本を閉じた。
俺の買った小説や漫画は基本的にSF系が多い。単純にロマンを感じるからという理由だったが、この世界の小説は見たことのない内容ばかりだった。
今読んでいたのは『Tomb Darshing』とかいうロボット物。妙に現実感のあるロボットで、主人公が異世界からの転生者だということ。俺の境遇と同じ設定だ。そして敵の設定がエグイ。何だよ、人を喰うって!
そう思いながら表表紙を眺めた。表紙にはロボットの絵と主人公の絵、そしてヒロインの絵が書き込まれている。ラノベ的な何かじゃないかとも思ったが、そんなことは無いらしい。
「......。」
そんな俺の姿をじっと観察してたのは、よく遊びに来る夕立だった。だが今日は遊びに来た訳では無く、秘書艦として来ている。初回なのだが、吹雪の補佐は要らないと言い張り、譲らなかったので試しにやらせてみたら、長門並みに執務が出来たのだ。
俺はてっきり『提督さんー。あそぼー。』とか言うのかと思って、買い物の時にコッソリ買っていたトランプを懐に隠していたのに......少し残念だった。
仕舞には『提督さん、執務終わったっぽい?ならキス島攻略に向けての艦隊編成を考えましょ?』とか言い出した。流石に俺もそれには驚きを隠せなかったが、取りあえず編成を考える事に。
結局、ものの20分で艦娘の選抜と改装を色々とやりくりして、出撃する際に使う書類を作ってしまった。何という夕立の有能さ。びっくりした。
それで話を戻すが、夕立はさっきから俺の手が持っている本に目線が釘付けにされていた。
本を見るのは初めてなのかと俺は思い、訊いてみる事にした。
「なぁ、夕立。」
「なぁに提督さん?」
「本が珍しいのか?」
俺がそう言うと夕立は首を横に振った。
「ううん。ここ一ヵ月はほぼ毎日資料室で戦術指南書を見ていたっぽい。だから本は見慣れてるっぽいよ。」
夕立はそう言ったが、目線は本を刺していた。
「なら、物語の書かれた本が珍しいとか?」
「そうよ。資料室には童話集しかなかったから......。少し気になるっぽい。」
そう言う夕立は未だに視線は動いていない。
「なら俺が私用で買ってきた本、読ましてあげようか?と言ってもSFしかないけど。」
そう言うと夕立は首をコクンと縦に振った。
俺は正直、この様子の夕立に戸惑っている。俺のイメージはさっき言った様に『提督さんー。あそぼー。』とか元気いっぱい言ってくるのだとばかり思っていたし、執務には不真面目だとも思っていた。それに、戦闘狂だとも言われているが、さっき考えたキス島攻略の編成では艦隊の安全を第一に考えていた。
そして、不用意に飛びついたりもすると思っていたが、してこない。だけど犬耳っぽい髪はピョコピョコとする。俺の艦隊の夕立は特に変な個体なのかと思っている。
だから、活発で元気な夕立でなく、大人しい夕立に戸惑っているんだ(※作者の夕立に対するイメージがかなり私的です)。
「提督さんのおすすめをお願いね。自分で見ても分からないから。」
そう言われて偶に『ぽい』の入らない夕立の言葉を訊いて、席を立ちあがった時、執務室の扉がノックされた。
そしてゾロゾロと艦娘が入ってくる。
俺は何事かと思って、視線をそっちに移したら、これまで見たことのない艦娘が3人いた。そしてその3人は半べそをかいてる。
「んぉ?!」
俺はその様子に驚き、変な声を挙げてしまった。
「あっ、陽炎ちゃん!」
そう言って夕立は座っていた椅子から立ち上がると、陽炎のところへ駆け寄った。
「夕立......。私たち、先週まで提督の存在を知らなかったの......。」
そう言った陽炎に俺は戸惑った。知らなかったという意味が判らないのだ。建造されたのなら俺の部屋まで案内されるし、ドロップでも俺のところまで必ず連れてこられるはずなのに知らなかったと言われた。
「ひーん。夕立ちゃーん。」
そう言って夕立に抱き着いたのはセーラー服にスク水。はたから見たら唯の変態だが、鎮守府に居る時点で察しが付く。
「赤城さんがよそよそしいと思ったら...ウゥ......。」
こっちは長い袖で涙を拭いていた。
「えっ......どういう事?」
俺がそう言うと、3人の中で比較的落ち着いてる、陽炎が俺に近づいてきた。
「私は陽炎。私たちは二週間前に進水した新造艦よ?先週進水した新造艦のお祝いラッシュがあったのに、私たちの時は無かったし、提督が着任してる鎮守府だっていう事も聞いてなかったのよ。」
そう言った陽炎は、幸運なのか不幸なのか分からないわと言って続けた。
「そこで夕立に半べそで泣きついてるのが伊168。潜水艦の艦娘よ?それとそこで袖で涙を拭いてるのが蒼龍さん。赤城さん加賀さんに次ぐ二航戦よ。」
そう言った陽炎の言葉は俺の疑っていた疑問を晴らした。やっぱりそこの夕立に抱き着いてるのは潜水艦の艦娘だったのだ!
そして、二航戦の蒼龍。ウチの艦隊の航空戦力の増強を意味していた。つい最近瑞鶴が進水したと言うのに、それよりも前に進水していたなんて知らなかった。
だが、同時に疑問が再び生まれた。どうして連絡が無かったのか。
「夕立。」
「はいっ。」
「雪風を連行。それと、赤城もだ。今すぐに。」
「了解。」
俺は淡々と夕立に命令をすると、さっきまでイムヤに抱き着かれていたはずなのに姿を消した。目に見えないスピードで執務室を出て行ったみたいだった。
そしてその場に俺と3人が残される。
「済まない。こちらの不手際だ。俺はここの鎮守府の提督だ。よろしくな。」
そう言うと3人は敬礼をした。最も、陽炎以外の2人はボロボロと泣きながらだったが。
そしてそれを言った数秒後に夕立は帰ってきた。脇には雪風と赤城。2人とも目を点にしている。
因みに赤城を呼んだ理由はすぐわかる。
「雪風、ここ二週間で俺が頼んだ以外に無断で建造をしたか?」
「いえっ!していないですっ!!!」
俺は雪風の前に立ち、頭を撫でて、そのまま視線を赤城に向けた。
「赤城、『特務』で何をした。」
赤城は冷や汗をダラダラと垂らしている。
「ほっ、報告の不手際でしてませんでしたっ。建造を間違えて3回してしまったんです......。」
ショボーンとする赤城を尻目に俺は雪風の頭から手を放し、3人の前に立った。
「済まない。ウチの妖怪食っちゃ寝が......。」
そう言って俺は深々と頭を下げた。
「俺も気付いてやれなくて済まなかった。」
俺がそう言うと赤城が酷いっ!とか言ってるがそれを無視して陽炎は返事をした。
「いいのよ。でも、提督の着任している鎮守府だなんて今まで思ってもなかったわ。まぁ、最初の出会いはアレだったけど、よろしくね。」
そう言ってくれて俺は少し罪悪感があった心を濯いでくれた。
そしてそのまま視線を赤城に戻す。
「それで、赤城。不手際起こしたのにもかかわらずに報告を怠り、進水したばかりの艦娘に案内もやらずに投げ出したのか?」
「いっ、いえ。案内はしました。ですがっ......。」
「この二週間、来てただろうが!その時に言えばよかったのにっ!わざわざ探してここに来たんだろう!?」
と少し怒鳴ってしまった。
赤城は古参で戦闘でもほとんど損傷を受けずに帰還するし、皆のお姉さん的な立ち位置にいるのにも関わらず結構お茶目で子供っぽいところがあるのがいいところなのだが、流石に今回のは怒らなければならなかった。
「すみません......。」
「俺に謝ってどうするよ......。」
「すみませんでした......。」
赤城に3人に謝らせた後、俺はふぅと一息吐いて全員に声を掛けた。
「今から食堂に行くか、着いて来い。赤城も怒鳴って悪かった。」
俺はそう言って夕立と陽炎、イムヤ、蒼龍、赤城を連れて食堂に向かった。
確かご飯時以外にお菓子を出しているというのを食堂で訊いたからだ。勿論連れて行くのは3人の歓迎会のつもり、案内したというのならほかの艦娘とも顔を合わしているだろう。歓迎会を開いてやれなかったのは少し心残りだが、せめて俺が今いるだけでやってやろうと思った。
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食堂で間宮に少しお菓子を頼んで、ささやかな歓迎会を開いた。
後々、加賀と長門が来て赤城に追い打ちのお叱りをしたのは流石に俺は止めなかった。
その後もちらほらと艦娘たちが集まり、20人くらいでの歓迎会になって、結局時間が経つと遠征艦隊が俺を探して合流したりを繰り返し、いつもの歓迎会みたいになってしまったのは俺も正直驚いた。
冒頭の夕立の下りはなんとなく入れてみました。深い意味は無いですw
それと赤城のキャラですが、他にあってないところを色々ブッコんでます。違和感あると思いますが。特にお茶目なところとか......意外と怒られるのが嫌で隠しちゃうところとか、数日で忘れているところとかw
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