【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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今回は最近の単発から脱して、シリーズに入ります。
あと、本話を読めばわかりますが、雪風の開発日記の内容が少し変わりますのでよろしくお願いします。


第三十一話  工作員、艦娘の怒り。①

はぁ~。」

 

俺は執務を終えると、疲れた様な声を出して背伸びをした。

まぁ、いつも通りの午前終わりだったが、書類はいつも通りの数しかなかった。

 

「お疲れ様です。」

 

俺の横に立っていたのは、今日の秘書官の加賀だ。

毎日の秘書艦ローテーションで秘書艦になったのは初めてだ。いつも赤城と一緒に来て、仕事を覚えていたからか執務の手伝いをしてくれた。

前から思っていたが、俺の中での加賀のイメージは無表情・無反応・冷たい態度的なのを想像していたが、そうでもなかった。

面白ければ笑うし、ちゃんと反応も返してくれる。態度もフランクって言ってもいいだろう。俺の中でのイメージが出来上がった原因はきっと、雰囲気だと感じていた。

 

「では、提出に行ってきますね。」

 

そう言って加賀は俺の机に乗っていた片付いた書類を手に取ると、鎮守府にある事務所に向かった。そこは、鎮守府の行う行動全ての報告書が集約されて、軍の本部に送られる場所だ。

 

「いってらっしゃい。」

 

俺はそう返すと、外を眺めた。

外は青空が広がり、埠頭に停泊している艤装が見えた。長門、陸奥、赤城、加賀、高雄、愛宕、摩耶、鳥海、川内、神通、那珂、五十鈴、夕張、吹雪、白雪、時雨、雪風、島風、綾波、敷波。改造が施されて、かなりの頻度で出撃する艤装が停泊し、残りは倉庫の方にあるらしい。

今日の出撃は無く、演習と遠征だけだ。朝食を済ませて数十分後に、埠頭から遠征艦隊が遠征に向かうのを眺めていたのを覚えている。眺めている俺に仕事をして欲しいと加賀に怒られて仕事を始めたのも記憶にあった。

 

 

「そう言えば、工廠からのアレがあったような。」

 

俺は提出しない書類の中から、工廠から届いた書類を引き抜いた。

それにはこの前、発見された新たな艦載機である雷電改に関する書類だ。それと雷電改以外にもイレギュラーが工廠で起きている様で、建造は分からないが、開発に関しては狙った装備を開発できるようになっていたらしい。これまで気付かなかったと食堂であった時に白衣の妖精から聞いていた。

そのため、開発を雪風に任せはしているが、物の指定ができるので、実質雪風に頼っているのは建造だけだった。

白衣の妖精曰く『建造に関しては完全自動化されているので、指定が出来ません。運だよりですね。』とのことだった。

俺が工廠からの書類を眺めていると、ある一枚の書類に目が行った。

門番詰所の、しかも隊長からの書類だった。門番詰所から届く書類はこれまでなかったので何事かと思い、見てみた。

 

『提督殿。ここ数日、外周塀付近に不審な人を門兵がよく見かけております。目撃した門兵曰く、全員男で身体つきは兵士そのものだとか。その事に関して話がありますので、詰所までお越し頂けませんか?』

 

というものだった。

俺は加賀への置手紙を書くとすぐに執務室を出た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

詰所には隊長とこの前の休暇で護衛に就いてくれた二等兵が居た。

 

「すみません。お呼び出ししてしまって。」

 

「いえ、大丈夫ですよ。執務も終わっていましたし。」

 

俺は用意されていた椅子に座ると、隊長もその正面に座り、二等兵はその横に立った。

 

「そう言えば先日、自己紹介を忘れていました。私は門兵、警備部隊長の武下大尉です。」

 

俺はそう言った武下大尉の自己紹介を訊いて、この世界に来てまともな自己紹介をしたなと思いつつ、よろしくお願いしますとだけ言って話題を切り出した。

 

「それで、どういったご用件でしょうか。不審人物に関してだという事は分かってますが。」

 

「えぇ、その不審人物に関してです。」

 

そう言うと武下大尉はどこかから本を出してきて、俺の目の前に置いた。そこには組織図が書かれている。

 

「提督の素性は我々も分かっておりますので、その話をする前に我々の組織に関して説明されていただきます。」

 

そう言って武下大尉は話し出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「艦娘が現れた後、自衛隊は解体されて軍となりました。艦娘の言う『人間』とは軍所属の人間の事を指してます。」

 

「陸海空と構成された軍は、深海棲艦との闘いで海軍のみ力を失っていました。艦艇は悉く沈められましたから。」

 

「軍に関してはここまでです。ここからは鎮守府に関連のある組織についてです。」

 

「鎮守府に常駐している人間は全員海軍の人間です。そして出入りする人間は全員陸軍の人間です。具体的には海軍は、海軍人事部、海軍拠点常駐部。陸軍は、陸軍兵站部です。」

 

「以上が関連のある組織です。ここからは本題に入らせていただきます。」

 

「門兵が目撃した不審人物に関しては具体的な組織と目的まで分かりました。というか、それ以外の組織・目的がないんですよ。」

 

「不審人物は海軍諜報部。目的は提督の暗殺です。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

武下大尉から発せられた言葉に俺は理解出来なかった。

俺が暗殺される。

理由が分からなかった。

 

「......どうして自分が暗殺されるんですか?」

 

そう俺が訊くと、武下大尉が俺に訊いてきた。

 

「海軍上層部は提督の着任はありえないと目論んでいたんですよ。ですが、提督が着任されました。この世界の鎮守府で提督が着任されているところはこの鎮守府の他はありません。これまで海軍は提督のいらした世界から送られてくる指令書を無機質に処理して深海棲艦を駆逐していくシステムに満足していたんですよ。ですが、面と面の指示が出ている鎮守府が出来てしまった。海軍はそのイレギュラーの排除に乗り出したんです。」

 

「そのイレギュラーが自分という事ですか。」

 

「そうです。提督の着任は夢物語だと思っていた艦娘の中である鎮守府に提督が着任したらしいという噂が流れたらどうなるのでしょうね。」

 

そう言って武下大尉は溜息を吐いた。

 

「......システムに発生したバグを消すんですよね。」

 

「えぇ。無機質になるべく艦娘に関わらずに深海棲艦を殲滅することが海軍上層部の意向です。そのための、バグの消去。提督の暗殺という事なんです。」

 

「では不審人物というのが諜報員だと分かったという訳ですね。」

 

そう言うと武下大尉は頷いた。

 

「私はこちらの世界の事情で別の世界の人間である提督が暗殺されてしまうのは許せないのです。ですので、提督の耳に入れていただこうとお呼び出ししました。」

 

そう言った武下大尉は何かを覚悟したかのような表情をしている。

 

「提督を護衛出来ればよいのですが、艦娘には我々は結構嫌われているようですので直接は何もできません。」

 

そう言った武下大尉の言葉に続くかのように二等兵が割って入ってきた。

 

「ですがっ!その護衛を艦娘に頼むのはどうでしょうか?!自分は風のうわさで艦娘は『提督という存在にかなり執着する。』と聞いてます!我々のような人間よりも遥かに高度な護衛ができると思うのですが?!」

 

そう言った二等兵は言い切ると武下大尉の拳が飛んできてそれが腹部を直撃した。

 

「......この二等兵が言った通り、我々がやらねばいけない仕事を艦娘に頼んでは貰えないでしょうか?我々は周辺警備を強化いたします。」

 

そう言って武下大尉は何かの書類を懐から出した。

 

「これは提督権限でこの鎮守府の組織の制限を解除する書類です。」

 

そう言って武下大尉は続けて言った。

 

「この鎮守府は言うなれば一つの国家としてとらえる事も出来ます。ですので、鎮守府の最高司令官である提督が権限で鎮守府に存在する組織の権限を制限開放ができるんです。どうか、これをお使いください。」

 

そう言って武下大尉が俺に差し出した書類には『警備部に逮捕権を与える。』とだけ書かれた紙だった。その下に俺の書くであろうサイン欄がある。

俺は黙ってそのサイン欄にサインをした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は内心イライラしていた。

この世界に振り回されて、さらに殺されると来たものだ。自分勝手な軍に対しての怒りだった。

その姿を執務室に帰ってきた加賀が見ていた。

 

「てっ......提督?どうされたの?」

 

俺は声を掛けてくれた加賀にある事を言った。

 

「赤城を呼んでくれ。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「提督、どうされました?」

 

加賀に連れられた赤城が執務室に入ってきた。俺がどうして赤城を呼んだかと言うと、門兵詰所に行ったことのあると言うのを訊いたからだ(※第二十五話参照)。

それに、一番理解が早いのではないかと俺の勝手な赤城への想像だった。

 

「すまんが、加賀。少し席を外しては貰えないか?」

 

「えっ......えぇ。」

 

俺は加賀に訊かれたら不味いと思い、執務室から出てもらう事にした。執務室には俺と赤城の2人だけになった。

 

「えっと......どういった御用で......。」

 

そう戸惑いながら言った赤城に順を追って説明をし始めた。門兵からの報告、呼び出し、会話内容、俺の暗殺に関して、全て話した。

最後に俺の暗殺される理由を言った瞬間、赤城からただならぬオーラが出たのを感じた。怒り、憎悪、それを皮膚を直接刺激するくらいのオーラだ。

赤城はいつものニコニコとした温かい表情から一転し、オーラにあう表情をしている。ゾクゾクとする寒気がするくらいだ。

 

「それは、許せませんね......。私たちの提督に愚かにも手を掛けようとするなど......。」

 

「あぁ。俺もこんな理由で殺されるのは嫌だ。だから先ず手始めに赤城に頼む。......護衛を頼めるか?」

 

そう言うと赤城は頷き、その瞬間、赤城の身体が光で覆われた。

その光に覆われて数秒後、赤城の周りの光は無くなり、赤城は見慣れぬものを持っていた。

甲板のような模様の板。和弓。矢を収める矢筒。手にはグローブのようなものを付けている。この姿に俺は記憶があった。この姿は俺の居た世界での艦これでのキャラのしていた艤装だ。

 

「これならば何処でも艦載機を発艦させる事が出来ます。提督、ご安心下さい。」

 

そう言って赤城は微笑んだ。そして顎に手をやって考え始めると、何かを思いついたのか、部屋の外で待っているだろう加賀を呼んだ。

 

「加賀さん、戻ってきてください。」

 

そう赤城が言ったのが聞こえたのか、加賀は執務室に入ってくるが、赤城の様子を見て驚いていた。

 

「加賀さん。人間が奪いに来ます。」

 

その俺には分からない抽象的な言葉だけで分かったのか、加賀も赤城同様に光に包まれて俺の見たことのある格好になった。そして加賀の顔がとてつもなく怖い顔をしていた。

 

「提督。開発をしてもいいですか?」

 

そう言った赤城は加賀に目配せをして俺の方に向きなおるとハッキリと言った。

 

「偵察機が欲しいです。確か、彩雲が開発できたと思うので。」

 

俺はそれに黙って頷くと加賀は光に包まれていつもの格好に戻ると執務室を飛び出していった。

 

「この件を艦娘全員に知れるのは時間の問題ですので、昼に集まる際に連絡しましょう。」

 

そう言った赤城に俺は黙って従う事にした。

これまでに見たことのない赤城の姿。いつもはおっちょこちょいで結構お茶目な赤城だが、今の赤城にはそれが微塵もない。厳格な軍人の様に見えるのだ。

 




いやぁ、赤城の別の一面と新しい設定の追加です。
これまでは軍艦の指揮をする艦長的な役目をはたしていた艦娘が艤装を変化されて体と直接つなげるというw

これ、本当に大丈夫かと思う作者です。

ご意見ご感想お待ちしてます。

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