【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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前話から約1日経ってる気がする......。
途中寝てしまったり、用事で外していたりと予定していたよりも時間がかかってしまいましたすみません。


第三十六話  工作員、艦娘の怒り。⑥

格納庫に居た比叡たちは近くで発砲音がしたことにすぐ気づいた。

それを聞くや否や真っ先に夕立が駆け出し、甲板を目指す。其処に居るのは提督唯一人だ。これは護衛を任された比叡や夕立たちにとって最悪な状況だ。

空気に押しつぶされてそこまで気が回らなかったが、全員提督が格納庫から甲板に出て行くのを見ていた。何で任を忘れていたんだろうと自責に駆られながら番犬艦隊と鳳翔、そして格納庫に居た妖精たちが甲板を目指した。

 

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ーーー

 

 

一足先にたどり着いた夕立は最も恐れていた光景を目にした。

甲板で力失くして倒れている提督を発見したのだ。近くにはさっきの発砲音の元である拳銃の薬莢が1発転がっていた。そして少し離れたところに見慣れぬ人が立っている。

 

「あっ..........あぁぁ................いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 

夕立はそれを見てもうなんと叫んでいるのか分からない叫び声を上げた。

自分が任を忘れていたから敵につけ入るスキを与えてしまった。自分がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかった。

夕立は提督が遠くに行ってしまったかのように感じた。手の届かない、遥か彼方へ。

元は幸運に恵まれてついに念願の提督を呼び出す力を長門が使えるようになったのが始まりだった。

その話は瞬く間に艦隊司令部に広まり、その話は彼方此方で話されていた。

『提督が着任できるらしいよ。』『そうだよね。凄く一杯レア艦がいるものね。』『第一艦隊がソワソワしているのもそのせいかも。』いつも厳格にしている第一艦隊でさえあんなだった。提督が着任するという事はそれ程の事だった。

夕立は周り同様にすごく楽しみにしていた。提督が着任するんだ、これほどの幸せは手に入らない。みんな同じ気持ちだというのは痛いほど分かっていた。だがその気持ちを抑えて、その日は自分のレベリングの為の出撃を控えていた。高ぶる心を押え、出撃に備えた。

出撃し、海原に出てもその気持ちはどこかにはあった。帰ってきたら提督が居る。そう信じて......。だがその帰りの道中、夕立は海でポツンと浮いていた。

正確に言えば夕立の艤装だが、一緒の艦隊に居た高雄や熊野、比叡、飛鷹、祥鳳が居ない。何処へ行ったのだろうと、辺りを航行してみるがどこにも居ない。夕立はそこから一週間、鎮守府を目指して1人で航海を始めた。いつ深海棲艦に襲われるか分からない状況で夕立は妖精に24時間体制の警戒を頼み、自分は艤装の中に残っている油と弾薬を確認したり、どの海路を通るか使ったことのない海図を見て分からないながらも確認し、残りの油でどこまで行けるか計算をしていた。そんな曖昧に突然迫りくる深海棲艦と戦い、なるべく弾薬を使わずに相手をひるませて逃げる事に徹していた。戦いではどれだけ轟沈させたかも艤装の司令塔の外壁に空薬莢で引っかいて印をつけた。自分がどれだけ相手を轟沈させたかを帰ってから記録する為だ。生き残る事に全てを賭けて進んでいたが、遂に5日が経った日、弾薬が尽き、油も無くなった。道中で資源を拾ったが心持たなかった様だった。幸い艤装の中には釣竿と糸、針がったので食料には根気強くまでは大丈夫だったがもうその場から動けなくなっていた。そんな時、運悪く深海棲艦が通り、戦闘になった。と言っても夕立の側は弾薬が尽き、油もないので何もすることなくただ砲撃を食らうだけ。徐々に吹き飛ぶ艤装に夕立は涙を浮かべながらも安全な艤装の場所を転々と移動した。

砲撃が止んだころには艤装は大破していて、何時もなら損傷しない機関部にまで被害があった。

それから2日間。割と平らな艤装の甲板上に、あったペンキで『SOS』を書いてみるなどして、待ったが助けは来ないと思っていた矢先、艦娘の艦隊がこちらに向かって来ていたのを見た。それから夕立の意識は無くなり、気付いたら自分の所属する艦隊司令部の医務室に居た。そこには涙の痕を残したまま寝ている姉妹の姿。気が付いたことを近くの妖精に言うと、長門が駆けつけて状況を説明した。

艤装は大破、修理に時間がかかる事と、夕立自身には過労と睡眠不足、栄養失調があったとの事だった。それだけを言うと長門は夕立を抱きしめた。

『こんな事は無かった。奇跡だ!』

それからは練度が爆発的に上昇していたのを鑑みて改造を2回繰り返し、十分に休みを取ってくれと夕立は鎮守府で休んでいた。そうして一週間が過ぎた時、食堂で第一艦隊のメンツが何かを発表するらしく、夕立もそれに耳を傾けていた。その知らせは連絡の遅れた提督の着任だ。長門から説明があり、その後に提督らしき人が現れたこう言った。『三週間前に提督として着任した。皆、よろしく。』

待ちに待っていた提督の着任に皆は喜び、夕立自身も喜んでいたがその裏腹、自分がしたヘマが原因で提督に嫌われてないかが心配でならなかった。

そんな事を考えていると時雨が『提督のところに行こう。』といって夕立に手を引いて提督のところまで連れて言ってくれた。

提督は第一艦隊のメンバーに囲まれていて近寄り難い雰囲気を出していたが、本人はそのつもりはないらしく笑ってくれた。そして夕立を撫でてくれた。

それからだろう。夕立の心は戦闘なんかよりも提督の方に向いていた。ただ提督の役に立ちたい、提督に褒めてほしい、その一心でこれまで読んでこなかった戦術指南書を読み始めたり執務の練習もした。

そうやって過ごしてきたある日に、提督の口から暗殺されることが告げられ恐怖した。その時にはもう夕立の心は提督だけになっていた。そんな提督が消されてしまう。そんな事を考えただけで鳥肌が立ち、ガクガクと足が震えてきた。

その後に告げられた赤城指揮の下の警備艦隊を立ち上げての警戒。夕立は特別に『番犬艦隊』に入れられた。これは提督のすぐ横で提督を守る護衛だ。夕立はその役を全うしようと心に決めて一週間を過ごした。片時も離れず、常に警戒した一週間は決して楽しいものではなかったが提督のそばに居られるだけで満足していた。だが侵入者の知らせですぐに決まっていた鳳翔の艤装に向かって乗り込んだ。だが鳳翔は何を思ったのか提督に何かを愚痴っている。その内容は遠まわしな提督への侮辱。提督の指揮に難癖をつけている様にしか聞こえなかったが、鳳翔の言う事には一理あった。だが今はそんなことを言ってる場合ではないので自分でその場を納めようと割って入ったが悪化させてしまい、提督は甲板に行ってしまった。それは見ていたが自分はそれどころではなかった。自分が原因で提督をさらに悪く言われるかもしれない、そう考えてしまって出る足も出なかった。そうしてると格納庫に轟く銃声に意識が戻されて、すぐに提督のところへ行けともう一人の自分に言われたかのように駆け出した。

甲板に出ると提督は倒れていた。そして辺りには硝煙の匂い。そして見知らぬ男が立っていた。その瞬間、夕立の視界はブラックアウトした。

 

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夕立が一足先に甲板に向かっている最中、時雨は与えられた任を全う出来てない自分を悔やんだ。

あの状況でも自分は提督を止めるべきだった、そう考えていたのだ。

だが、もう遅いかもしれない。自分が聞いたあの音は確かに銃声だ。口径の小さいものだというのも分かっている。そんなものを発砲するのは提督でもなければ艦娘でもない、門兵でもないと考えると最後に残る可能性としては1つだった。

侵入者によって提督は撃たれてしまった。そう考えるのが妥当だろう。冷静に考えている自分とは別に、何故ここまで冷静でいられるのだろうと考える自分。2人の時雨が存在していた。

だが、そんな事を考えている場合ではない。一刻も早く、銃声が何を意味していたのかを確かめなくてはならなかった。

走る階段に息を切らせながら、次第に飛行甲板に近づいてく。

紅い光が差し込むところまで出ると、もう飛行甲板だ。

そう思って飛び出すと、一足先に着いていた夕立が茫然とその場で立ち尽くしていた。その先には白い服。あの服を着ているのは時雨は1人しか知らない。その瞬間、夕立は叫んだ。声になってない声だった。

時雨も叫びたかったが、かえって夕立の叫びで自分が冷静でいられた。

 

「比叡さんっ!!水上機発艦っ!!!赤城さんに知らせて!朝潮っ!医療妖精を呼んで、あと担架持ってきてっ!!」

 

そう叫んで夕立の方を見ると、夕立はいつの間にか移動していた。夕立の視線の先には見慣れない人。時雨は直感した。あの人間が提督を撃ったのだと。

憎悪が心の中で渦巻き、今にもあの人間を撃ちそうになったが何故か引き金を引けなかった。ここで引いてしまっては時雨の想像もできない未来があるように思えたからだ。

そうすると夕立がその人に声を掛けた。

 

「ねぇ、貴方が殺ったの?」

 

「そうだ。コイツは我が国にとって不穏分子だ。」

 

「提督さんの指揮で短期決戦の編成と海域解放が進んでいる事を知っていても殺すの?」

 

「そうだ。そもそも我々は他の世界から指揮を受けさせることには反対だったのだ。だが、艦娘たちはそれだけを欲しがった。それでも我々はこの存在を具現化してはいけないのだ。」

 

「そう......なら、貴方も同じ目に会っても文句はないわね?私たちにとって貴方は不穏分子。私たちに生存と戦略を与えてくれるたった1つの司令塔。それを殺した......。貴方の様な人間はイラナイ............。」

 

そう言って夕立は右手に持っていた砲を向けた。

その瞬間、上空を彩雲が3機飛んでいった。機体にあるマーキング、それは赤城のものだった。そして妖精がハッチを開けて叫んだ。

 

「赤城さんより伝言っ!!!その人間は逮捕せよっ!!その人間は逮捕せよっ!!」

 

そう言って彩雲は飛び去り、代わりに加賀の艦載機が夕立と人の頭上を飛び始めた。

 

「......命拾いしたわね。」

 

そう言って夕立は侵入者の腕に結束バンドを巻き付けて、そのうえから鎖を巻いた。これで結束バンドを切られても腕は封じられたままだ。

その間に担架が運ばれてきて医療妖精が到着した様で、提督の容態を確認して運び出しが始まっていた。

時雨は夕立に駆け寄ってみると、夕立の紅色の目に光が無くなっていた。

 

「夕立、この人間を連行しよう。訊きたい事、いっぱいあるでしょ?」

 

そう言って時雨は侵入者の拳銃が甲板に転がっていたのを拾い上げて海に投げた。

 

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ーーー

 

 

赤城と番犬艦隊のメンバーは医務室前の廊下に居た。

医務室では今、提督の容態を見ている。

赤城はあの時、比叡の水上機が飛んできてから、頭が真っ白になった。番犬艦隊との決まりに比叡の水上機が赤城の元に来たときそれ即ち『提督が銃撃された』という事だった。

赤城は即、その時上空に哨戒を飛ばしていた加賀を経由して彩雲に状況確認に向かわせた。そして加賀さんに残っていた零戦隊を出すように指示してその場に座り込んだ。それからは覚えていない。唯一覚えているのは提督が胸を撃たれたという事だけだ。

赤城は祈るように提督の無事を願った。

程なくして医務室の扉は開かれた。中から出てくる医療妖精から提督の容態を伝えられた。

右胸部に放たれた銃弾は肺を貫通。そして体外に出たとの事。出血はまだ撃たれて時間が経っていなかったのでそこまでしておらず、今はただ傷口を塞いだだけだと。

それを聞いてその場にいた全員が崩れ落ちた。

皆、撃たれたら死ぬものだとばかり思っていた。だが、胸を撃たれた場合、動脈や心臓に当たらない限りよっぽど死ぬことはないとのことだった。

安堵したのも束の間、赤城は思い立ったかのように立ち上がり、医務室の提督の事は夕立に任せてその場を立ち去った。

 

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地下にある何もない密室。そこに侵入者である人間と第一艦隊である長門、扶桑、山城、日向、赤城、加賀の他に金剛、比叡、榛名、霧島、伊勢、蒼龍、飛龍、瑞鶴が全員、艤装を身に纏ったままその場にいた。

 

「貴様、誰に言われてやった。」

 

長門はそう強く言うと侵入者はべらべらと話し出した。

 

「海軍本部の意向だ。提督は居てはならない、それによって引き起こる反逆を抑えるためだ。お前ら艦娘の欲しがった提督は俺らにとって都合の悪い存在だ。だから命令で消した。」

 

そう言った侵入者に赤城は睨みを利かせて見下すと、ここに来る前に医療妖精からもらっていた診断書を見せた。

 

「コレ、何だかわかりますよね?」

 

「......っ!?アイツ、生きてるのか?!」

 

「えぇ。私たちの提督はご存命ですよ。残念でしたね、作戦失敗です。」

 

そう言って赤城は笑った。

 

「クッソ......。」

 

「貴方、所属は諜報部ですか?それとも工兵部ですか?はたまた偵察部ですか?」

 

「諜報部だ。」

 

そう侵入者が言うと、その場にいた艦娘全員が大声で笑った。

 

「今の諜報部は仕事してないんですかね?弾、肺を貫通してましたよ?最も、私たちだったら心臓を狙いますけどね。」

 

そう言って赤城は侵入者の心臓の位置に矢じりを立てた。

 

「貴方をここで拘束します。こちらから人間側にあなたを捕縛したと言う報告はしませんので。」

 

そう言って赤城は矢を仕舞うと地下から出て行った。

そのあと地下に捕らえた侵入者の管理を決め、全体への報告を食堂で行う事になった。

 

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ーーー

 

 

食堂は妙にざわざわしている。

この一週間にわたる警備が終わり、提督を暗殺しようとする不埒物を逮捕した事は全員に知れ渡っていたことだった。

赤城はいつもの様に前に立ち、報告を始めた。

 

「今日夕暮れ頃、私たちは侵入者を捕獲しましたっ!!」

 

そう言うと食堂は歓声に包まれた。一部を除いて。

 

「だが、知っている者もいるでしょうが提督は撃たれてしまいました。私のミスです。」

 

そう言うと食堂はまたざわつき始めた。

 

「ですが、提督の容態は大丈夫です。医療妖精によると重症ではあるが命に別状はないとのことでした。」

 

そう言うと集まっていた艦娘はおぉーと叫んだ。

だがそれを遮るように赤城は続けた。

 

「そして私は皆に提案します!この事件を海軍本部に訴え、軍法会議にかけること。そして、私たちは国民に姿を見せ、海軍の実態を国の実態を公開すべきです!!そしてゆくゆくは各地で死闘を繰り広げる私たちの仲間の為にも私たち艦娘の扱いの見直しを訴えます!!......ですがこのことは提督に言っておりません。全ては提督の許可が下りてからになるでしょう。」

 

そう言うと赤城は下がっていった。

その後、長門から今後の簡易的な予定が連絡され、最後に皆で侵入者の今後の扱いに関して意見を出し合った。

第一艦隊はこのまま拘束を提案した。それに皆は賛同し、そのような流れになる事が決まった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

提督が目を覚ましたのは撃たれてから1日後だった。

重い瞼を開けると、胸に痛みを感じて見てみると包帯が巻かれていた。どうやらあの銃撃で死ぬことはなかったらしい。

そして、交代で看ていたのかベッドを枕に眠る金剛が居た。

 

「おい、金剛。」

 

そう言うと金剛はハッと起き上がり、目じりに涙を浮かべながらも状況を説明しだした。

俺が撃たれた後、夕立と時雨によって侵入者は捕獲。地下に幽閉中とのこと。尋問したところあっさり今回の経緯について吐いたそうだ。

 

「でもよかったデス......。撃たれたと聞いた私は倒れたそうデース。それくらいショックだったんデスヨ?」

 

「済まなかった。」

 

そう言うと金剛は報告に行くと言って部屋を出て行ってしまった。こんな姿を見ていると俺の中の金剛像がアレなんですが(※東大寺のアレではありません)。

そして窓から見える外の景色を眺めた。

透き通った空は今の空気を現しているのだろう。そう感じてそのまままたベッドに入った。

 




結局提督は生きてました。物語的には生きていてもらわないと困るんですがねw
どなたさんかが早とちりして評価に0をいれてご丁寧にバッドエンドお疲れ的なのを入れられたので自分は怒ってます。完結ならタグに居れますし、後書きで完結を知らせてますし。と、珍しく作者は怒っております。

それはさておき、提督が生きていた理由ですが、撃たれた弾丸は右胸に当たり貫通との事。作中にも説明がありましたが、この外傷は本当に高確率で助かるそうです。分かる方には分かるでしょうがwww
途中、夕立と時雨の心理描写が三人称視点でかかれていて違和感を持った方も居たと思いますが気にしないで下さいwww
それと前話の最上のもw

ご意見ご感想お待ちしてます。

追記
確認していたところ、夕立の心理描写辺り読みにくいですね。すみません。
改善できればいいのですが、治せなかった......。

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