【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第四十三話  提督への執着

観艦式から翌日。横須賀鎮守府の正面は人で溢れていた。主にメディア。

何故いるかというと、軍法会議と観艦式の話題が相まって国民は皆、横須賀鎮守府の話題で持ちきりらしい(※朝食時のニュース番組にて)。

そこで多くの情報を手に入れようと、メディアが動いた様だった。

 

「中へは入れてもらえないのですか?!」

 

「艦娘に関しての情報の速報とかは無いのですか?!」

 

「今日も出撃するのですか?!」

 

その取材陣波に必死に向かうのは横須賀鎮守府警備部だった。今日はこんな状態なのでいつも小銃だけ持っているが、防弾アクリル盾を持っている。通せんぼには最適だ。

 

「何もお答えする事は出来ません!」

 

そう叫んでいるのは門兵の列に入っていた武下大尉だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はその様子を執務室の前の廊下にある窓から見て苦悩していた。

あんな状態じゃ、他の入り口付近にも張られていて物資の搬入が出来ないのだ。

 

「こうもメディアはどこ行っても同じなんだな......。」

 

と溜息をもらしていると今日の秘書官である叢雲が俺の横に立った。

 

「あそこまでやると門兵の人たちが威嚇射撃するかもしれないわね。業務妨害だとか言って。」

 

そう言ってニヤニヤしていた。

 

「確かに騒ぎが執務室まで来て集中できないが、やっぱり小銃撃つのか?」

 

「撃つんじゃない?」

 

そう言って叢雲は門兵の壁の後ろにいる門兵に指を指した。その門兵は何か武下大尉から指示を受けたのか小銃を上に構えている。

その瞬間、撃鉄を落としたのか発砲音が聞こえた。

 

『提督は今の執務に追われている!国民に安全に暮らして頂く為に働いていらっしゃるんだ!!静かにしたまえっ!!』

 

そう叫んでいるのがここから聞こえた。

 

「ほら、撃ったでしょ?」

 

そう言って叢雲は鼻を鳴らした。

だが撃ったのも甲斐なしにまだ取材陣が『提督から一言だけでもいただけないでしょうか!』とか『外国との交易は出来る状態に何時になるのでしょうか?』とか叫んでいる。

 

「あぁ......撃った甲斐無しね。そう言えば警備部に与えた逮捕権はまだ凍結してないの?」

 

俺は叢雲に言われて思い出したが、俺が暗殺される云々の時にそんな権限を与えたのを思い出した。

 

「まだしてないな。」

 

「これは公務執行妨害で本当に逮捕されかねないわね。」

 

そう言って叢雲は溜息を吐いた。

黙って外を見ていてもまだ取材陣の騒ぎは収まらず、俺はしびれを切らした。

 

「叢雲。」

 

「何?」

 

「赤城と加賀に偵察機発艦。鎮守府内外を哨戒を伝えてくれ。」

 

「まさか?!」

 

そう言って俺はその場を離れた。

 

「仕方ないわね......。」

 

そう言って叢雲は走り出した。赤城と加賀が居る場所に向かって。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「大本営に取材許可を取り付けたんです!中に入れてもらえませんか?!」

 

「観艦式に参加した艦には全部に艦娘が存在しているのでしょうか?!」

 

そんな騒ぎが段々近くなってくる。

俺は棟を出て正面の門に向かっていた。

 

「赤城さんと加賀さんに偵察機発艦を知らせてきたわ。もう飛んでると思うけど。」

 

そう言って俺の横を叢雲が歩いている。

結局やってくれるのは俺の想像通りだった。

 

「本当に行くの?」

 

そう言う叢雲に俺は行くとだけ伝えると、叢雲は唐突に艤装を身に纏った。

 

「......アンタにあいつ等が詰め寄ったら殺してしまうかもしれないわ。」

 

そう言って槍みたいな艤装で地面をタンと叩いた。

 

「そう言えばそんなんだったな。すまん。」

 

「いいわ。あいつ等に近寄らせなければいいもの。」

 

そう言って歩いて行くと、取材陣がこちらが近づくのに気付いたのかこちらに色々投げかけてき始めた。

 

「提督!日本周辺の海域はどこまで解放できましたか?!」

 

「大本営に取材許可を取り付けたので中に入れては貰えませんか?!」

 

そう叫ぶ取材陣の壁になっていた門兵はこちらをチラッと見るとすぐに慌てた様に声を挙げた。

 

「皆さま!提督に近づかれてはダメです!!!もしも何かあればこちらは一切責任が取れません!!」

 

壁になって押さえている門兵が尋常じゃない声でそう言うのに対して取材陣はそれに聞く耳持たず叫んでいる。

そして既に上空では赤城と加賀の彩雲が飛んでいた。

 

「落ち着いて下さい!!提督に近づかないで!!」

 

そう必死に叫ぶ門兵たちは知っているのだ。提督に危害を加えたらどう艦娘が豹変するか。

観艦式で説明はされたのか定かではないが、軍法会議での場では一応説明がされているのだ(※作中にはその場面はありません)。新瑞が『艦娘は提督という存在を欲し、それを海軍本部から抑制されてきた。提督が欲しいのなら強い艦を初期に集めておけと言われ、強い艦は初期には手に入らない鎮守府では提督という存在は居ない。唯一横須賀鎮守府ではそれに成功し、提督がいるのだ。彼女らがあまりにも提督を欲するので『提督への執着』とその欲を名付けましたが、この提督への執着が今回の暗殺を止めるカギとなったのです。艦娘は事前に手に入った情報を提督から訊き激怒。人柄が変わる程に豹変したのだ。それ程、提督への執着があるのだ。』(※抜粋)そう説明があって尚、全国放送だったのにも関わらずその放送に関与していたマスコミ取材陣はより一層門兵を押していた。

 

「提督!一言お願いしますっ!!」

 

そう叫ぶ取材陣。それを血相を変えて抑える門兵たち。凄い光景だった。

門兵たちは鎮守府警備の時に怒り狂った艦娘を目の当たりにしているのだ。俺が撃たれて気を失っている時、医務室に運んでいる最中はすごかったとそのあとに武下大尉から聞いていた。

撃たれてぐったりした俺の姿を見た艦娘たちは同時に夕立と時雨が連行する侵入者に対して罵声と砲撃、脅し、脅迫、なんでもやったそうだ。想像しただけで怖い。

 

「提督!!一言だけでも!!」

 

「落ち着いて!!!そんなに提督に近づいたらダメだ!!!!」

 

もう門兵も切羽詰まって敬語が無くなっている。

 

「静かにっ......」

 

俺がそう言いかけた時、一際大きな砲声がしたかと思えば俺の前に金剛と鈴谷が立っていた。いつの間に来たんだと思ったのも束の間、金剛が話し出した。

 

「ヘーイ、皆さーん。提督に詰め寄ったらノー!ヨ。これ以上は提督に危害が加わると判断してもいいデスカ?」

 

「鈴谷もこれはちょっとね。」

 

そう言って金剛と鈴谷は艤装を身に纏った。

 

「金剛さん!大本営から許可が下りたので提督に取材させていただけないですか?!」

 

そう言って身を乗り出した取材陣の中に居たニュースキャスターの腕を金剛が掴んだ。

それを見ていた門兵一同、顔面蒼白。

 

「貴女!今からでも遅くない!!金剛さんに謝って手を引っ込めるんだ!!!」

 

そう叫ぶ門兵。だが金剛はそのニュースキャスターが持っていたマイクを取ると眺めた。

 

「オーウ。これは何デスカ?」

 

「それはマイクです!音を取る機械です!!提督!それに何か一言!!!」

 

そう言うと金剛はマイクを折った。ニコニコしながら。

 

「えっ?」

 

そう言ったニュースキャスターに金剛は言った。

 

「ギルティデース。門兵さん、この人逮捕デスヨ?」

 

そう言った金剛の横で鈴谷は艤装の20.3cm連装砲をニュースキャスターに向かって構えた。

 

「何を言ってるのでしょうか?」

 

「提督がどうしてここに来たかは知りませんガ、それまでは貴女たちの声が棟まで響いてマシタ。棟には出撃して身体を癒してる艦娘や仕事をしている提督が居マシタ。それに軍法会議で私たちの事、訊きませんでしたカ?」

 

そう言った金剛はニュースキャスターを引き寄せた。

 

「私たちは『異常に提督に執着』するのデース。提督に降りかかる火の粉、飛沫、風、何でも『害』と見なしマース。だからギルティデース。」

 

「どういう事でしょう?」

 

「要するに逮捕デース。アハッ、良かったデスネー。提督の門前なので私たちはここまでしか出来まセンガ、無断で進入若しくは門兵さんの壁を突破して提督に近づこうものナラ、燃えカスデス。」

 

すっごい良い笑顔で金剛は言ってるが内容が笑顔になれない。

 

「他の人達も提督に取材したいナラ、大本営と提督の許可を得て、私たちの監視の下で取材して下サーイ。門兵さん、この人を拘束するデース。」

 

そういった金剛は武下提督の下にニュースキャスターを引っ張っていき、手錠を掛けさせた。

俺はこれまで黙ってきたのには理由があった。頭上に飛んでいたのは彩雲だったはずなのに、今は零戦52型と彗星だからだ。

 

「何故私たちがこうなのかは大本営に問い合わせてみるといいデース。それと今上空を飛んでる艦載機たちが、さっきまでは偵察機でしたガ、今は戦闘機と爆撃機デス。相当怒ってるみたいデスヨ?......それと大本営から許可を取っていると言ってた人、こっちに来てくださいネー。」

 

そういった金剛に取材陣の1グループ。ニュースキャスター1人とカメラマン1人、音声1人が金剛の前に来た。

 

「叢雲。大本営に確認を取ってきてくれませんカ?」

 

「分かったわ。」

 

そう言って叢雲は走って行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

数分後叢雲は帰ってきた。どうやら本当に許可は取っていたらしい。あとは俺が許可を出すかどうかだという事だ。

 

「提督はどうしますカ?」

 

そう訪ねてきた金剛に俺は即答した。

 

「受ける。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

あの後、移動し門兵詰所で取材を受ける事になった。騒ぎを聞いた艦娘が詰所に来て俺の護衛と取材陣の監視役として同席することになった。叢雲と金剛、鈴谷。他は外で待機。

 

「すみません。門前で騒いでしまって。」

 

ニュースキャスターの第一声はそれだった。

 

「いいえ。」

 

「では。私たちはテレビ横須賀の者です。取材に応じていただきありがとうございます。」

 

そう言って始まった取材だがどうやらカメラと音声が仕事を始めたので始まっている様だった。

 

「軍法会議でありました、艦娘たちの『提督への執着』とはどういうものなのでしょうか?」

 

そう聞かれ俺は答えた。

 

「艦娘たちには三大欲求以外の欲求がその『提督への執着』だけしかないと言われてます。」

 

「三大欲求以外の欲求がそれだけしかないのですか?」

 

「そういう訳ではありませんが、大きく心身ともに影響を与えるモノとしてという意味です。各地に点在する艦隊司令部にはそれぞれ提督という存在はありませすが、存在はしません。艦娘の受ける指示は全て電文として届き、各地の艦隊司令部の艦娘はそれに従って戦闘をしてます。軍法会議で大本営海軍部の者が説明していました通りです。」

 

「では先ほど金剛さんが言っておられた『提督の前では......』って言うのはもし提督の前でなければどうなりますか?」

 

俺ははっきりと言った。これを言わなければもしかしたら本当に艦娘たちの怒りを買う事になるからだ。

 

「鈴谷が構えていた20.3cm連装砲の餌食か、私が殺してましたネ。」

 

そう金剛は答えた。

言葉を失うニュースキャスターに金剛は続けた。

 

「それで済めばいいですガ、最悪、本土に向けて横須賀鎮守府艦隊司令部傘下の艦娘全員が砲爆撃しマス。先ず貴女方のテレビ横須賀本社は更地になってますネ。」

 

そう金剛はニコニコしながら言った。一方ニュースキャスターはすごい汗を掻いている。

 

「こ、こういったことは全て知らせておいた方がいいと思うので少し先ほどの門の前での状況から艦娘の皆さまがとったであろう対応を全てお教え下さいませんか?」

 

そう言ったニュースキャスターはどれだけチャレンジャーなのかと俺は思った。それには鈴谷が答えた。

 

「門を突破すれば鈴谷が手あたり次第20.3cm連装砲を撃ってたよ。提督に近寄れば叢雲が全員斬ってたし、いつまででもあそこに溜まってたのなら門兵さんを退避させて機銃掃射と爆撃されてたね。万が一提督に詰め寄って気分を害してたなら大本営と洋上プラント、資源保管所と資源の採れる施設とそこで働く作業員の家以外は更地だったね~。」

 

そう鈴谷は顎に手をあてて言うが、取材陣はガクガク震えている。

 

「それとニュースキャスターさんがあのまま門兵さんに逮捕されていたならここから生きては出られなかったね。骨も出られないかも。」

 

俺もこれには流石にビビった。恐ろしすぎる艦娘たちの提督への執着。

 

「分かりました......。帰り次第、各マスコミにそう伝えます。では、色々と取材をさせて下さい。」

 

そう言って気を取り直したニュースキャスターは取材を始めた。普段の執務は何をしているか。艦娘たちはどんなふうに戦っているか。印象に残っている事。いろいろ訊かれた。

結局取材は30分ほどで終わり、取材陣は艦娘たち監視の下、入ってきた正面の門に送られた。

 

「ありがとうございました。」

 

そう言って取材陣は帰って行ったが、まだ門の前に他の取材陣がいた。

 

「こちらにもお願いします!」

 

「どうか一言お願いします!!」

 

そう叫ぶ取材陣だったが俺は背を向けた。相手をしていたら日が暮れてしまう。俺は武下大尉を呼び出すと10分以内に立ち退かなければ逮捕してくれとだけ伝えてその場を離れた。

 

「10分以内に立ち退かなければ私たちは貴方がたを逮捕する権限を持ってます!!速やかに立ち去りなさい!」

 

そう叫ぶ武下大尉の声に俺は安心して棟に戻って行った。

 




今回はマスコミの話でしたね。艦娘が提督の為ならどこまでするかが見れたと思います。これぞ提督への執着ですね。

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