【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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最近暗い話が多いですね。まぁ進行上仕方ないですが......。


第四十四話  母港拡張と侵入者の反省

俺は今日は早々に起きて準備をしていた。今日は母港の拡張工事が終わる日なのだ。

大本営に観艦式の報酬として要求していた工事だが、思いのほか早く終わった。想定していた期間の1/10くらいだったが。

ちなみにこの鎮守府で増えた施設は、棟が大きくなった事。酒保が巨大化。ニュータウンに建設されるのではないかというレベルの大きさになっていた。そして門兵詰所と事務所の建物も巨大化。独房が設置されたり、鎮守府の端に監視塔が立ったり、人員補充があった。これまで20人くらいだったらしいが今では100人以上。大所帯になった。しかもその任に就く門兵は全員エリート揃い。しかも艦娘の存在を心から感謝し、上官と任務に忠実な人間のみが集められた。大本営の警備部もこれくらいだとか新瑞は笑い飛ばしていたがどうなんだろうか。

 

「司令。執務はこれだけなのでしょうか?」

 

俺の横で首を傾げているのは不知火。今日の秘書艦だ。

 

「いつもこれくらいだ。朝には終わるんだよ。」

 

そう言って俺は背中を伸ばす。

 

「海軍部の新瑞さんでしたか?いくら観艦式の報酬とはいえここまでするとは思いませんでした。」

 

そう言って執務室の向かいの廊下から望む新しい風景に息を飲んだ。

そこからは酒保が見えている。そして交代だろうか門兵が交代をしていた。

 

「俺もだ。俺はただ『母港の拡張』を頼んだだけなのにな。」

 

そう。俺は母港の拡張だけを頼んだのだ。そうしたらこの様。

艦娘たちも目を輝かせていたが、酒保で働く従業員と新しく異動された門兵に対しては敵対心丸出しでいた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「提督。完成した酒保と新しく門兵の任に就く人間だ。」

 

そう新瑞が言うと、俺の前に100人以上の人が並び、俺に向かって敬礼していた。

 

「ここからここまでが酒保の従業員だ。」

 

「酒保責任者の三河ですっ!」

 

そう新瑞に紹介されたのは見るからに30代の女性。その後ろに並んでいる酒保の従業員も全員女性だ。

 

「よろしくお願いします。」

 

俺はそう言って答礼した。

 

「残りは新たに門兵に配置された陸軍の士官・下士官たちだ。」

 

「「「「「よろしくお願いしますっ!!」」」」」

 

「よろしくお願いします。」

 

そちらにも答礼をした。

 

「提督は母港の拡張をこちらに要求してきたので、一応倉庫や工廠、入渠施設の拡大はしたが艦娘たちの為の施設をつくらせてもらった。これは我々からのせめてもの罪滅ぼしと思って欲しい。」

 

そう言って新瑞が見た目線の先には、艤装を身に纏った艦娘。ウチの艦隊司令部傘下の艦娘たちだった。新瑞の言葉は聞こえている様だったが、明らかに酒保の従業員と新たに加わった門兵に対して威嚇というか警戒をしている。今にも何かすれば砲撃しかねない。

 

「海軍部の新瑞さん。これは何の真似です?」

 

そう言ったのは赤城だった。

 

「これは海軍部からの罪滅ぼしだ。非人道的に扱ってきた配下の組織の。」

 

「そうですか。ですがこれ程に人間が居ると提督にもしもの事が起きたら、こちらは大本営を消し炭にすることだってできますよ?」

 

そう言うと酒保の従業員と新たに入った門兵たちが身震いした。俺の位置から見えないが赤城が何やらすごい顔をしたらしい。

 

「何か艦娘たちの気に触れる事をすれば殺してしまっても俺は何も言わん。こいつ等はそれも承知で来ているからな。それにここ横須賀鎮守府は提督のシマなのだろう?ここでのルールは全て提督にある。」

 

「そうですね。」

 

そう言って赤城は話した。

 

「長門さん、お願いします。」

 

そう言って赤城は下がった。その代りに長門が出てきて大きな声で言った。

 

「まだ我々は貴様等を信用した訳では無い!いつぞやとバカな侵入者の様に提督の命を狙うというのなら何時、どこに居ても私たちに殺されると思え!信用を得たくば、まず提督から信用されてみせろ!」

 

そう言って長門は下がった。

 

「それにしても提督。これでは彼らがビビってしまう。」

 

そう言って新瑞の視線の先には俺と新瑞、酒保の従業員と新たな門兵の間に艤装を身に纏って並ぶ艦娘たち。砲門は全て酒保の従業員と新たな門兵の方を向いていた。そして上空では偵察機と爆撃機、戦闘機が空を埋め尽くす数飛んでいた。

 

「長門と赤城が聞く耳持ってくれませんでしたので......。」

 

そう言って俺は溜息を吐いた。

 

「まぁ仕方ないだろうな。そう言えば地下に提督を暗殺に来て失敗した海軍本部の諜報員が捕らえられているそうじゃないか。」

 

「そうですね。『提督への執着』があるというのに私は何故艦娘たちに殺されなかったのか不思議です。」

 

そう言うと横に居た不知火は答えた。

 

「私たちは司令を守るために警備艦隊を結成し門兵さんと共に鎮守府の警備を務めていました。それ以前に提督は門兵さんに『逮捕権』を与えて逮捕する事を頼んでいたんです。門兵さんと警備をする私たちにもそれが有効になっているだろうと思い、手を出しませんでした。」

 

そう言った不知火はすごい眼力で新瑞の目を見て言った。

 

「では不知火たちはその命令が有効になっているという事で殺さなかったという事か?」

 

「はい。本当は憎くて憎くて仕方が無くかったですが。」

 

そう言った不知火は変わらずに新瑞を見て言った。

 

「そいつはまだ生きてるか?こちらで裁きたい。」

 

そう新瑞が言うと不知火は俺の顔を見た。俺が答えろという事らしい。

 

「分かりました。ではこれが解散した後にでも。」

 

俺はそう言って酒保の従業員と新たな門兵への挨拶を終わらせると執務室に戻った。

新瑞はここに既に居た武下大尉率いる門兵たちにここでのルールを酒保の従業員と新たな門兵に聞かせる為にここに残ると言った。終われば向かうとのことだったので、俺はそのまま執務を片づけようと棟に戻ったのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「まだやってますね。」

 

そう言った不知火は窓から武下大尉の注意を聞く新しい鎮守府の人間を見ていた。

 

「そうだな。そう言えば何で不知火たちは武下大尉たちを信用しているんだ?」

 

「それは提督の身を第一に考え、所属を問わずに我々に協力し、私たち艦娘を普通の人間の女性の様に扱ったからです。」

 

そう言った不知火は表情を変えずに続けた。

 

「私たちはずっと『兵器』『化け物』などと呼ばれて迫害され、しかも戦争を肩代わりしてきました。そんな私たちはずっと『人間の様に扱って欲しい』と考えていたのです。彼らは私たちを怖がらずに人間の様に接して下さいました。だから信じる事にしたんです。私たちを本当の仲間の様に思ってくれる人間ですから。」

 

そう言ったのだ。

 

「そうか。だから武下大尉たちを。」

 

「はい。」

 

そう返事をした不知火が視線を戻すとどうやら終わった様だった。

解散の号令をしたようだが腰を抜かしていたり、小便を漏らしたりしてしまったみたいで1/3が動けない様だった。

 

「新瑞さんが来る。案内してくれるか?」

 

「はい。」

 

俺と不知火は侵入者の引き渡しの為に拘束されている地下に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と不知火、新瑞とその士官は鎮守府の棟の地下にある牢に向かっていた。

地下はひんやりとしていて少し肌寒かったが、耐えられない程ではなかったので気にせず歩き進んだ。

地下牢に到着するとそこには監視なのか艤装を身に纏った朝潮が居た。

 

「司令官!どうされました?」

 

「この人を大本営に引き渡す事になったからな。」

 

そう言って視線を牢に移すと衝撃が走った。

牢の鉄格子は拉げ、ぐにゃぐにゃに曲がり、周辺のコンクリートの壁は彼方此方凹んで崩れていた。

 

「なんだ......これは。」

 

そう俺が言うと朝潮が説明した。

 

「これは食事を持ってくる艦娘たちがやったんです。ここに来る度に司令官が血まみれで運ばれる様子を思い出すって言いまして。でもこの人を殺せないからこうするしかないって言って殴って帰るんです。」

 

そう言った朝潮も怒っているのだろうか、握りこぶしに血が滲んでいた。

 

「そうか。だがもう面倒を見る事はしなくていい。新瑞さんが連れて行くからな。」

 

そう言うと朝潮が笑顔になった。

 

「そうですか!!正直今すぐにでも殺したいですが、提督の前です。やれないですが、連れて行くという事は処刑ですよね?」

 

そう朝潮は無垢な笑顔でそう新瑞に訊いた。

 

「もちろんだ。」

 

そう新瑞は答えた。

それに気付いたのか牢の中に居た侵入者はげっそりした表情でこっちに来て言った。

 

「提督......撃ってしまい申し訳御座いませんでしたっ......。私は海軍本部に所属していた際に先輩から『提督が着任したお蔭で鎮守府が反乱するかもしれない。あんな不穏分子、殺してしまうべきだ。』とずっと聞かされ続けてきました。それはこの手で提督を撃った時に消えましたよ......。直後に来た艦娘に言われました。『そう......なら、貴方も同じ目に会っても文句はないわね?私たちにとって貴方は不穏分子。私たちに生存と戦略を与えてくれるたった1つの司令塔。それを殺した......。貴方の様な人間はイラナイ............。』と。捕まってここに連れてこられる最中に艦娘たちに浴びせられた罵声には『私たちの司令官を返せっ!司令官をっ!!』が混じって聞こえました......。それには記憶があったんです。まだ海軍の軍艦があった時代、私が小学生だった頃、帰ってこなかった護衛艦の乗組員の父を持つ友人がそう父を返せと叫んでいたんです。唯一返ってきた満身創痍の護衛艦の艦長に噛み付いてそう何度も......。それから私なりに考えてみたんです。......艦娘にとって貴方という存在は何よりも無くてはならない存在。あの頃の私にとっての父の様なものだったんですね......。急所を外したので提督は生きていらっしゃいますが、私は軍人として恥ずべき事をしました......。」

 

そう言った侵入者の目には力が無い。

 

「違いますよ。」

 

そう割って入ったのは朝潮だった。

 

「司令官は父という存在ではないです。司令官は私たちにとって命より、本来守るべき祖国の島よりも大切な方です。貴方にこの際教えましょう。艦娘の『提督への執着』を。」

 

そう言って朝潮はつらつらと休むことなく提督への執着を説明した。

 

「ははっ......私はなんてバカなのだろう......。知りもしないでこんな事をしてしまった......。」

 

そう言って力のない目を俺に向けた。

 

「私は海軍本部の様に染まってしまったのですね......。」

 

そう言うと新瑞は侵入者の腕を掴むと立たせてそのまま連れて行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

後で新瑞から書類と共に送られてきた封筒の手紙に書かれていたことだが、侵入者は軍法会議に掛けられた。結果は有罪。横須賀鎮守府艦隊司令部傘下の艦娘の怒りを鎮める為に謝罪に出向きその後に射殺されることが決定したそうだ。

 

「後味が悪いな......。」

 

今日の秘書艦であった不知火を寮に帰して1人になった執務室で読んだそれは俺の気分を沈ませた。

侵入者は海軍本部の意向に染められた人間だった。いわば被害者と言ってもいいのだろう。そんな人も裁き、殺す事になった事。俺の心に靄を残していった彼は今どうしているのだろうか。

 

 




侵入者の語る真実はどうでしょうか?

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