【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第六十三話  時雨の願い

 

俺が起きて執務室に入るともう、今日の秘書艦の時雨が居た。何だか、表情がおぼつかない。

 

「おはよう......どうした?」

 

俺がそう言うと急に動き出したかと思うと、時雨は俺の来ている服の裾を掴んで離れなくなってしまった。

 

「どうしたんだ?」

 

そう聞いても答えてくれない。これは何か訳アリなんだろうと、直感で感じ取ると、最初に思い付いたのは俺ならではの事だった。

 

「......いじわるされたのか?」

 

そう俺が訊くと、時雨の裾を掴む力が強くなった。どうやら違う様だ。

 

「じゃあ......体調悪いとか?」

 

今度も違った様だ。

 

「何だよ......何も言わなかったら分からないだろう?」

 

そう言うと時雨は言い出した。

 

「夢を......見たんだ。」

 

俺にはそう聞こえた。

夢を見た。それだけでこうなってしまう程のものだったのかと、考えを巡らせていると、時雨は話し出した。

 

「おかしい世界だったよ。山城たちと最上、満潮と一緒にクリアしたはずの任務を受けてオリョールに行ったんだ。その先で僕たちは深海棲艦の大群と遭遇して、僕以外が沈んだ。」

 

そう力なく言う時雨に俺は何も声を掛けてやることが出来なかった。

 

「僕が単艦で航行しているのを遠征帰りの名取の艦隊に拾われた。そのあと、気を失っていた僕の代わりに航行をしていた妖精に変わって長良に曳航してもらって鎮守府に帰って来たんだ。」

 

段々鼻声になっているのが分かる。

 

「目を覚ましたのは医務室のベッドの上で、横に提督が居たんだ。そして提督は自分の判断ミスだ、俺を責めろと言って僕を抱きしめてたんだ......。でも、扶桑たちを沈めてしまった原因は僕で、皆僕を生かすために沈んでいった......。僕が見捨てたんだ......。」

 

そう言って泣き始めてしまった時雨を俺は背中に手を回した。

 

「大丈夫、大丈夫だ。」

 

俺はそう言って時雨の背中を撫でた。

 

「それは夢だったんだ。悪い夢。」

 

そう続けて言った。

 

「扶桑たちは居るし、最上や満潮だっている。心配するな。」

 

そう言って俺は時雨の頭を撫でた。

 

「夢......だもんね。......うん、僕は大丈夫。」

 

そう言って時雨は俺の腕の中から出て行った。

 

「時間だよ。朝ご飯食べに行こう?」

 

そう言ってそれで涙の痕を拭いた時雨は執務室の扉に手をかけていた。俺はそれに続くかのように扉に歩みを進める。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

前にも経験しているが、時雨は執務ができる。やった後は基本的に戦術指南書を読んでいるが、最近は物語を読んでいるようだ。

俺はそれを横目に見ながら、現在の鎮守府にある装備を確認していた。砲に関しては申し分ない。副砲も通常艦隊分はある。その他の兵装も電探以外は揃っている。それに目を通した後、滑走路の格納庫に入れられた陸上機の記録があった。

隼と疾風の用途はやはり戦闘機だ。だが、富嶽には色々な可能性が秘められている様だった。富嶽は改装することができ、爆弾庫を全て取り外し、電子機器を詰め込んだ偵察機と爆弾庫を外してコンテナを入れれるようにした輸送機があるようだ。その他にも改装できそうなところがあったみたいだった。

 

「うーん。偵察機は正直欲しい......。輸送機はどうなんだ?」

 

俺はそう考えて結局500機ある富嶽を更に増産することを決定。偵察機型を5機と輸送機型を10機、新たに工廠に要請する書類を書き留めた。

 

「増産するのはいいが、いざ使う時ってあるのか?」

 

そんな事を思いながら提出に行く書類の束に紛れ込ませた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼を過ぎた辺り。俺がとても暇になる時間だ。許されるのならば昼寝がしたいが、そうはいかない。いつ、緊急の話が舞い込んでくるか分からないからだ。

俺は欠伸を手で押さえつつ、本を読んでいた。すると、時雨が唐突に話しかけてきた。

 

「提督。」

 

「ん、なんだ?」

 

「僕のお願い、聞いてくれるかい?」

 

唐突に時雨は運動会の景品を使うと言い出した。

 

「聞いてやるとも。......言ってくれ。」

 

そう言うと時雨は意を決したかのように口を開いた。

 

「僕の願いは......みんなの艤装に付いている無線機の性能の向上かな?」

 

そう言った時雨は暗い顔をした。

 

「そうか......。」

 

俺はその顔を見て察し、理由なんかは聞かない事にした。

きっと、それは今日時雨が見たと言っていた夢からなんだろう、そう思った。それとも、前々から思っていたのを聞いてくれたのかもしれない。俺は少なくともそう感じた。

 

「手配しよう。......飛び切り良い奴だ。」

 

そう言うと静かに時雨は笑った。

 





前回があれだけの文字数だったのに、今回と来たら......。
取りあえず、簡潔に終わらせてしまった。

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