【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第六十六話  雪風の開発日記⑧

「と、まぁ、久々の建造だな。」

 

「誰に言ってるんですか?」

 

俺は執務室の椅子に座りながらそう言った。

 

「これまでは建造に関しては雪風が頻繁に出撃していたからやってないんだ。」

 

そう俺が言うと今日の秘書艦である愛宕が首を傾げた。

 

「確かにかなりの頻度でいませんでしたね。私も結構出撃してましたし。」

 

「そうだな。という事で、雪風。レア軽巡レア駆逐レシピを頼んだ。」

 

「はいっ!」

 

ずっと俺と愛宕のやりとりを黙って聞いていた雪風は元気よく執務室を出て行った。

建造を最後にやった日から今日まで数えて約二週間(※実際は結構頻繁にやってます)、為に溜まった資材は結構限界量に達していた。連続出撃もなんでもござれという勢い。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

執務をしながら俺はある事を考えていた。それは、この世界に数多とある鎮守府があるのに何故海域の解放がウチの鎮守府基準なのかという事だ。

他の艦隊司令部だったらもうかなり深部まで攻略が完了しているところだってあるはずだ。なのに何故、ウチのが基準なのか。俺は考えた。そこで俺は愛宕にある事を訊いてみた。

 

「愛宕。」

 

「何ですか?」

 

ニコッと笑って答えてくれた愛宕に俺は聞いてみた。

 

「日本各地に鎮守府は何万個とあると思うんだが、何故海域が解放されてるところがウチの鎮守府基準なんだ?」

 

そう言うと愛宕はすぐに答えてくれた。

 

「それが分かってないんですよね。私たちは着実に海域を攻略していると言えます。ですが、他の艦隊司令部は出撃しているのにも関わらず海域を解放していない......。ですけど、損傷して帰ってくるんですよ。『深海棲艦と交戦した。』と言ってね。」

 

俺には理解できなかった。

出撃しているのにも関わらず、攻略が出来ていない。意味が判らなかった。そして、何故ウチ基準なのかも。

 

「ウチ基準なのは判りかねますが、他の鎮守府はあってないような存在と言えると私は思いますよ?」

 

そう言って愛宕は自分の仕事に戻っていった。

愛宕から教えてもらったこの謎は、解決法の見当もつかない様なものだった。

何故、こちらの開放状況に合わせてあるのか......。

 

「さっぱり分からない。」

 

俺はそう呟くと、執務に戻る為、思考を切り替えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

執務が終わり、球磨が秘書艦だった時から考えている計画書を見ていると執務室の扉が開かれた。

 

「司令ぇ!新しい仲間です!!」

 

そう言って雪風は入ってきた。

 

「えっ?司令?......提督っ!?」

 

そして雪風の背後に居た新しい仲間は驚いていた。何かわたわたとたどたどしくすると俺の前に出てきた。

 

「軽巡洋艦 大井です。よろしくお願いします。......如何して椅子の後ろに隠れているんですか?」

 

俺は大井を見るなり、椅子から立ち上がり椅子の後ろに隠れた。その間、1秒。

 

「如何してって......魚雷がっ......いや何でもない。」

 

俺はそう言って椅子の後ろから出ると、雪風に指示を出した。

 

「雪風、北上を連れてこい。」

 

「はいっ!」

 

「北上さん!?」

 

ここまで予想通りに反応をしてくれるのは俺的には良くもなく悪くもなかった。

 

「提督、北上さんはいるんですね!」

 

「居るぞ。最近はずっと第一艦隊だが、今日は休みだから。」

 

そう俺が答えると大井はそわそわし始めた。

 

「北上さん......ふふっ......。」

 

「こっ......これがあの......アレ......うん。」

 

俺は言いかけた言葉を飲み込み、雪風が来るのを待った。

雪風はそれ程北上を見つけるのに時間が掛からなかったようですぐに執務室に帰ってきた。

 

「雪風ぇー。何なのさ......。」

 

そう言って執務室の扉から北上が入ってくると、大井はおずおずとしながら北上に挨拶をした。

 

「北上さん。私は大井ですっ。」

 

「んぁ?大井っち?......おぉ、大井っちね!」

 

そう言うと北上は手を差し出した。

 

「よろしくね、大井っち!」

 

「はいっ!北上さんっ!」

 

俺の目の前で熱い友情、もとい熱い視線が一方的に飛ばされている様は何だか本当に予想通り過ぎて拍子抜けしてしまった。

 

「あー、悪いんだけど、大井。雪風から鎮守府を案内してもらって。」

 

「はい?今、北上さんと話しているんですが?」

 

そう言った大井は俺に向けて結構怖い表情を向けた。これがクレ○ジーサ○コレ○な訳かと内心痛めていると、いきなり執務室の空気が悪くなった。というか、豹変したと言った方が差し支えなかった。

 

「大井っち。」

 

「何ですか、北上さん?」

 

北上に呼ばれて振り向いた大井は絶句した。何故なら、さっきまで笑顔でいた北上はいつの間に出したのか艤装を身に纏っている。

そして周りでも愛宕と雪風も艤装を身に纏っていた。

 

「えっ?どうして艤装を......。」

 

そう大井が言葉を失った一方、俺は動けなかった。執務室に張り詰めた空気が俺の動きを抑制していたのだ。

そして北上と雪風、愛宕の砲が全て大井を捉えた。

 

「提督?これ、何なんですか?北上さんが私に向けて砲を......。」

 

そう言って俺の方を再び見た大井はさっきとはまるで違う表情をしていた。

 

「......北上。」

 

尋ねてきた大井をそっちのけで俺が北上に声をかけた。

 

「なーに?」

 

「大井には無いのか?」

 

「いやー、あるはずなんだけどね......。」

 

そう言った北上は魚雷発射管に魚雷を装填した様だ。

 

「私にあるとか何言ってるんですか?」

 

困惑した表情で大井は俺を見ている。

そんな大井に俺は一言だけ言った。

 

「大井、これは俺ではどうしようもできないからどうすればいいか考えるんだ。」

 

そう言って俺は立ち上がって窓の外を眺めた。

 

「ちょっと!説明して下さいよ!!」

 

そう大井が言った刹那、空の銃声が鳴り響いた。撃ったのは雪風だ。たまたま余っていた7.7mm機銃を操作した様だ。

 

「大井さん、ダメですよ。」

 

そう言った雪風の声はいつもの明るい声でなく、冷たく凍てつく様な声だった。

 

「ヒッ......撃たれたっ!?何でっ!?」

 

そう言ってガクガク震える大井に北上は冷めた声で言った。

 

「本当に分からないの?」

 

「えっ......えぇ。」

 

「本当に本当?」

 

「はい......。」

 

そう言った北上は魚雷発射管と砲を大井に向けた。

 

「じゃあここで藻屑となりなよ......。」

 

そう言った北上は生気のない目で大井を捉えた。

 

「いっ......いやっ......。何でっ?......何でっ.......。」

 

ガクガク震えながら涙目になる大井に魚雷発射管から今にも魚雷を撃ちだそうとする北上の手を俺は掴んだ。

 

「もういいだろう北上。大井は俺たちの仲間だろ?」

 

そう言うと北上は構えていたものを全て下に下げて艤装を消した。愛宕や雪風も同様に消した。

そんな状況を見ていた大井はぺたりと座り込み、青い顔をしている。

 

「あのな大井。」

 

「はい......。」

 

俺は座り込んだ大井に視線の高さを合われる為に座り込んだ。

 

「北上たちには『提督への執着』というものがあるんだ。俺の身に危険が降りかかる、そう判断すると艦娘たちは皆艤装を身に纏ったりその危険を排除しようとする。さらに俺の気を害したと判断したら同様にするんだ。」

 

「つまり私は......。」

 

「北上たちに俺の気分が大井によって害されたと判断されたんだろうな。」

 

そう言って俺は大井に手を差し伸べた。

 

「あんまり座ってても汚いだろう?ほら。」

 

「ありがとう......ございます。」

 

大井は俺の手のひらに恐る恐る手を載せた。俺はその手を引いて立ち上がらせ、俺も立った。

 

「いいの、提督?」

 

「いいさ。」

 

そう言って俺は椅子に座った。

それを見ていた大井は俺の前に立った。

 

「ごめんなさい......。提督。」

 

そう謝ってきた大井に俺は笑った。

 

「北上たちはいつも早とちりするから、大丈夫だ。」

 

「ありがとうございます。」

 

そう俺が言うと大井は笑ってそう言った。

 

「ほら、鎮守府見てこい。結構広いぞ?」

 

「はい。では、行ってきます。」

 

大井は雪風と北上に連れられて執務室を出て行った。

その姿を見送ると不意に愛宕が俺に話しかけてきた。

 

「本当に気分は害さなかったのですか?」

 

「あぁ。」

 

俺はそうぶっきらぼうに答えて、大井が来る前まで見ていた計画書に目を落とした。

 




久々のこれですね。
そしてついにウチにも大井が来ました。念願のハイパーズができるようになります。
大井の性格に関してですが、多分一番手をこませるところだと思います。頑張っていきます。

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