【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第七十四話  提督の嘆き⑥

俺は珍しく朝早くに起きた。まだ秘書艦の来ていない執務室で朝食と秘書艦が来るまでの時間を、本を読んで過ごした。執務はいつも秘書艦が取りに行くのでいつも行かなかったが、本当はどうなっているのだろう。そんな事を思い、本を閉じた。

立ち上がり、執務室を出た。執務の書類を取りに行くためだ。

 

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ーーー

 

 

「おはようございます。」

 

そう言って事務棟に入るとそこは何というか、役所みたいな内装をしていた。カウンターが並び、ソファーが置かれ、番号を知らせる電光掲示板がかかっている。

 

「提督ですか。番号札はいいのでどうぞこちらに。」

 

そう言われて俺は呼ばれたカウンターに足を運んだ。

 

「朝早くにどういった御用件でしょうか?」

 

そう聞いてきた事務員は起動したてなのだろうか、少しPCの操作をして言った。

 

「執務の書類を取りに来ました。」

 

そう言うと事務員は驚いた表情を見せた。

 

「何時も艦娘の方が来ていたので、てっきりそうなのかと!?......ゴホン、ではただいまお持ちします。」

 

そう言って事務員は立ち上がると、奥に行ってしまった。俺は内心、もうあるのかよとかツッコんでいるがそんな事はどうでもいい。すぐに事務員が帰ってきた。

 

「こちらが今日のですね。」

 

そう言って渡してきたのはいつも秘書艦が持ってくる書類と、たまに混じっている大本営からの封筒。どうやら返信が届いた様だ。

 

「ありがとうございます。」

 

俺は礼を言って立ち上がると、足早に執務室に戻った。

 

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ーーー

 

 

執務室に戻ると、既に秘書艦が来て待っていた。

 

「提督か。おはよう。」

 

そう言って出迎えたのは日向だった。

 

「おはよう。」

 

返事を返すと席に座り、書類を置いた。

 

「なんだ、取ってきてしまったのか。」

 

「暇だったからな。すまん。」

 

そう言って返事を返すと、俺は大本営から届いていた封筒を開け、中を確認する。

 

『逮捕した兵に関しては陸の管轄なので早急に返還されたし。殺して等いないだろう?それと陸が計画しているリランカ島を貿易中継地にする話だが、大本営で審議会が開かれる予定だ。結果は追って連絡する。』

 

そう書かれていた。ちなみにこれを書いたのは新瑞だ。

俺はそうだろうなとは思っていなかったのでそこまで深く考えなかったが、覗き込んでいた日向は違った。

 

「あいつ等を......返すのか?」

 

そう聞いてきた。

 

「あぁ。こればっかりは仕方ない。」

 

俺はそう答えて封筒に仕舞うと、日向は秘書艦用の机にもたれた。

 

「金剛から聴いた。何でも提督を直接侮辱した輩が居たんだろう?」

 

そう言った日向はいつもの表情だったが、どこか怒っている様だった。

 

「居たには居たが、金剛が黙らせたよ。いつもの表情何処行ったと俺はそれを見ながら思ったね。」

 

「金剛は提督が絡むと途端に怖くなるからな。赤城や鈴谷もそうだが。」

 

そう言った日向は俺が持ってきた書類の中から秘書艦がやれる書類を引き抜くと自分の机に置いた。

 

「警備棟に詰めかけた艦娘を制止させてたのは赤城たちだろう?」

 

「そうだな。」

 

「赤城は多分真っ先に牢に殴り込んで殺したかっただろうに。」

 

俺はあの時の赤城を思い出した。血走った眼、アレはそういう事だったのだ。

 

「その感情を抑えて、皆を止めた。流石だな、赤城は。」

 

そう言った日向は続けて言った。

 

「だから提督も赤城には特別に信頼しているんだろう?」

 

そう言って日向はペンを走らせる。

 

「そんなつもりはないんだが......。」

 

俺は答えた。

 

「そうなのか?てっきり『特務』とやらを任せているから、そうなのだと思っていたが。それに警備艦隊を二度も編成したがその時はどっちも赤城が指揮艦をしていた。信頼を寄せていると思われて十分だろう?」

 

そう言うと日向はペンを置いた。

 

「時間だ。朝食を食べに行こうか。」

 

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ーーー

 

 

朝食を摂り終えると俺は地下牢の兵を大本営に送るためにトラックの準備を始めた。と言っても警備棟に連絡を入れて送るだけだが。

 

「日向、艤装は絶対展開するなよ。」

 

「分かっているさ。だがコイツだけはどうしてもダメだ。」

 

そう言って日向が手をかけたのは刀だった。

 

「それも......艤装なのか?」

 

「そうだぞ。と言っても艤装を身に纏っている時にしか使えないがな。」

 

俺と日向は執務室を出て警備棟に向かった。

 

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ーーー

 

 

警備棟には察していたのか既に入り口前にトラックが2両止まっていた。

 

「提督、おはようございます。」

 

そう言って話しかけてきたのは西川だった。

 

「おはようございます。」

 

俺は挨拶を交わすと警備棟に入っていった。

警備棟に入ると近くに居た門兵に声を掛けた。

 

「武下大尉を呼んでください。地下の兵を送り出します。」

 

「了解しました。」

 

門兵は快く答えてくれ、すぐに呼びに走っていった。僅か数十秒で戻ってきたので度肝を抜かれていたが、どうやら近くに居た様だった。

 

「おはようございます、提督。」

 

「おはようございます。武下大尉。」

 

「それで、兵を大本営に?」

 

「えぇ。今朝、届いたので。」

 

「分かりました。準備は出来ているので、すぐにでも。」

 

そう言って武下は門兵から自動小銃を借りた。

 

「今からトラックまで連行します。」

 

そう言って離れて行った武下を俺は追いかけなかった。

 

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ーーー

 

 

手錠を付けられて歩かされる兵を俺は遠目から見ていた。

誰も項垂れ、生気のない表情をしていた。そんな中、1人は違っていた。それは青木だ。金剛に突っかかっていた兵だ。辺りをキョロキョロし、何かを探している様だった。

そんなのを眺めていると、その青木が叫んだ。

 

「どっかで見てるんだろ?!ガキ司令官!!」

 

そう叫んだのだ。それを聞いていた日向は刀に手を掛けたが、留まっている。

 

「どうせ釈放されて俺は兵役に戻されるんだ!てめぇに何言おうがいいんだよ!」

 

そう叫んでいる。俺は駆け出そうとしていた日向を制止した。

 

「後方で座ってなっ!!!」

 

そう叫ぶ青木を連れていた門兵が自動小銃のストックで押した。

 

「ここで見たこと全部外で喋ってやるからな!!どうなるだろうな、ここはよぉ!?きっと解体だ!鎮守府は消えるだろうな!!」

 

俺は苦虫を食いつぶしたような気分だった。昨日、金剛に散々言われてあまつさえ助けを乞うた奴がまたもそんなことを言っているのだ。そんなことをしていたら嗅ぎ付けた艦娘に何されるか分からない。今ここで日向を落ち着かせているが、他に行ってると日向が行きかねない。俺が動けずにいると、門兵の1人が自動小銃を構えた。

俺の居るところからは何を言っているのか分からないが、この後何をするかは想像がついていた。

炸裂音が当たりに響き、青木は腕を抑えている。

そしてそのままトラックに放り込まれた。

 

「落ち着けよ、日向。」

 

「あぁ、私は至って冷静だ。今の銃声で正気に戻れたよ。」

 

そう言った日向は刀から手を放した。

 

「門兵があいつを撃ったんだろ?」

 

「あぁ。腕だけどな。」

 

そう言って日向は近くのベンチに腰を下ろした。

 

「こんなことで我を忘れる様では古参組が笑われるな。」

 

そう言って腰を伸ばしている。

そんな日向の姿に、特に腰から下げている刀に俺は目が行っていた。さっきまでは気にしてはいなかったが、日向は刀を『艤装だ。』と答えた。艤装を身に纏っていない状態でありながら、刀だけを出すことができるとは、部分展開的な奴なのかと思った。

 

「日向。さっきから気になっていたんだが。」

 

「ん、何だ?」

 

「その腰の刀。艤装なんだよな?」

 

「そうだが?」

 

あたかも当然かの様に日向は答えた。

 

「艤装は特定の装備を身に纏う事ができるのか?」

 

そう俺が訊くと日向は手を顎にやった。

 

「うーん......。こういった艤装を纏ったときに近接戦闘武器が出るのは例外的にいるんだ。だが理由は分からない。」

 

そう言ったのだ。確かに艤装を身に纏った状態で近接武器を持つ艦娘は居る。日向もそうだとしたら姉妹艦の伊勢もそうだろう。そして叢雲や天龍、龍田もそうだ。

 

「そんなものなのか?」

 

「そんなものだ。さて、執務をしに戻ろうか。」

 

そう言って日向は立ち上がった。

 

「そうだな。」

 

俺はそんな日向の横を歩き、執務室に戻って行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

3時ごろに日向が書類を出しに行くと引き換えに大本営から手紙が届いていた様だった。

 

「状況から察するに......あいつ等の処遇についてだろうな。」

 

そう言われて俺は封筒を開けた。

 

『鎮守府よりトラック2両に分けられた兵をこちらに引き取った。そちらで拘束され、裁かれる事なく送られてきた様なのでこちらで軍法会議を開かせてもらった。そちらの証人に西川二等兵を借りたがすまん。結果を先に言うと青木ともう1人以外は降格処分を下した。青木ともう1人は銃殺だ。彼らは巡田の時の様にはいかず、自分らのしでかした事を理解していない。私らは軍法会議の場で艦娘と鎮守府の事を事細かに伝えたが反省の色無しと判断し、一度そちらに向かわせた後、処刑する。』

 

そう書かれていた。それをのぞき込んでいた日向は鼻を鳴らした。

 

「当然だな。」

 

そう言ったのだ。俺はその手紙を仕舞うと机に突っ伏し、ある事を考えだした。巡田の事だ。

巡田は洗脳されていた。だから洗脳を解かれたのち、状況を理解し、罪を償う事を決めていた。誰に謝るわけでもなく泣き、後悔したのち、何をされるか分からない鎮守府に怯えながら来て、頭を下げた。

だが今回の青木らは違う。洗脳なんかされていない。上辺だけの知識で舐めてかかり、痛い目に会ったのにもかかわらず今朝のアレだ。ここに連れてきても巡田の様にはいかない。その場で艦娘の怒りを買い、殺されるのは明白だった。

 

「くそっ......。」

 

俺はそう呟き、天井を仰いだ。

 




予想はされていたと思いますが、刑が決まりました。ですがまだ執行はされてません。この先何が起こるか分かりませんよ?(ゲス顔)

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