【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第七十六話  提督の嘆き⑧

「痛いじゃないか......。」

 

そう言って俺は鈴谷の顔を見る。

 

「あっ......ごめん。」

 

そう言っていつもの調子じゃない様子で鈴谷は謝ってきた。

一方俺と鈴谷の前で手を付いている青木ともう1人は顔を上げていた。

 

「......それで、青木さんでしたか?」

 

「......。」

 

俺が咳払いしてそう言うと頷いた。きっと自分の周囲の空気に押しつぶされているんだろう。

俺はこの時、内心葛藤していた。巡田の様に反省している様子もない、未だに僅かだが反抗的な目をしているこの2人だが、俺は何としても殺したくはなかった。

どうすれば銃殺を避けられるのか。そもそもこの2人は陸軍所属。こちらが勝手にやれないと言うのも現状だった。どうすればいいのか......そればかりが脳内を駆け巡る。

考える時間を稼ぐために俺は全く関係のない話を持ち掛けた。

 

「階級を訊いた事がありませんでしたね。階級はどれくらいでしょうか?」

 

「二等兵だ.......です。」

 

「二等兵......です。」

 

そう答えていく。

 

「所属はどこでしょうか?」

 

「陸軍 第五方面軍第三連隊です。」

 

「同じです。」

 

俺はその間も考えを巡らせた。

 

「リランカ島に占領軍として送られるという事は、工兵ですか?」

 

「いえ......特技兵ではないです。」

 

「自分は工兵です。」

 

青木は一般兵の様だが、もう1人の方は特技兵だった様だ。

 

「......観艦式の中継は見られましたか?」

 

「はい......海を駆ける艦は巨大で、あれに日本が守られていると感じ安心感があった一方、とても悔しかったです。」

 

そう青木は答えた。これが本心なのか定かではない。俺はそう感じ、掘り下げて聞くことにした。

 

「悔しかった......何がですか?」

 

「艦娘の様な存在に守られているという情けなさと、自分が何のために軍に志願したかが分からなくなったからです。」

 

そう言った青木は本当に悔しそうな顔をしていた。

 

「最後に......昨晩はよく寝れましたか?」

 

そう訊くと青木ともう1人は顔を見合わせた後、声を揃えて言った。

 

「「寝れませんでした。」」

 

そう答えたのだ。

 

「寝れなかったと言うと?」

 

「ここから連れて行かれた後、軍法会議に召集されました。その場で自分のしでかした罪状と、その罪の重さを訊きました......。あの時、言っていた『シマ』という言葉の意味、今ではよく分かります。その事を考えてると、寝れなくなりました。」

 

「同じです......。」

 

そう俺が着実に時間を伸ばしていると、鈴谷が誰かを通して話が回ってきた。

 

「提督。」

 

「なんだ?」

 

「お客さん。......私も着いて行くから。」

 

そう言われたので俺は2人に離れるから姿勢は楽にしていていいとだけ言って離れた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

警備棟の応接室に俺は連れて行かれ、中に案内されると中学生か高校生くらいの男が居た。

 

「はっ......初めまして......。」

 

そう言ってカチコチの挨拶をしてきた。

 

「初めまして。何か御用の様で。」

 

俺がそう言うと、その男は驚きの言葉を発した。

 

「僕は青木二等兵の弟です。」

 

そう男が言うと俺は座れと言って座らせ、何故来たかの理由を聴くことにした。

 

「そうですか。それで、どんな御用件ですか?」

 

そう訊くと弟は立ち上がったかと思うと姿勢を正して俺に頭を下げた。

 

「僕の兄がすみませんでしたっ!!凄く悪い事をしたと聞いたので......。」

 

そう言った弟の目には涙が溜まっていた。

 

「昨日、陸軍から通知があったんですよ......。『青木二等兵は上官に対し不敬を働いた。』とか書いてあったのですが、その上官がまさか横須賀鎮守府の提督だなんて思いもしなくて......。」

 

そう言って通知を見せてきた。この世界ではこんな風なんだと思いつつ、それを見ていたが、その紙には『銃殺』の文字が無い。

 

「これだけでしたか?」

 

そう俺が訊くと弟は頷いた。これは知らされてない様子だと言うのは一発で分かった。

 

「そうですか......。」

 

そう俺が言って椅子を座りなおすと、座った弟はまた頭を下げた。

 

「本当に申し訳ございませんでした!軍がこの程度で許すとは思えませんが、どうにか兄の刑を軽くすることは出来ませんか?」

 

そう弟は俺に訊いてきた。それに答えようとすると、横で立っていた鈴谷が口を挟んできた。

 

「刑を軽くするも何も、ここでやった事だよ?それに何やったか教えてあげようか?」

 

そう言った鈴谷に弟は黙って頷いた。

 

「じゃあ言うよ。......君のお兄ちゃんはね、『上官への不敬』『命令違反』で逮捕されたんだ。」

 

そう言った鈴谷の表情は少し怖かった。というより薄気味悪かった。ニヤニヤしていたのだ。

それにうって変わって、弟の方は信じられないとでもいいたいのだろう表情をしている。

 

「そっ......それって、禁固刑ですが?......。」

 

「そうだねぇ......そうだったらいいのかも。」

 

そう言った鈴谷の顔を見て弟は言った。

 

「じゃあ、不名誉除隊とかですか?」

 

「それでもないなぁ......。」

 

そう言うと弟は思いつめたような表情をした。もう思いつく刑が無いのだろう。

 

「銃殺だよ。」

 

そう鈴谷はポツリと言った。だが弟はそれを聞き逃さなかった。

 

「じゅう......さつ......。それって死刑じゃないですか!?何故ですか!?『上官への不敬』と『命令違反』なら重くても不名誉除隊ですよね!?」

 

そう言うと鈴谷は首を振った。

 

「ううん、銃殺刑なの。」

 

「何でっ?!」

 

「提督にやったからね。」

 

そう言うと弟は俺の方を向いた。

 

「そうなんですか?!」

 

「まぁ......そうですね。」

 

そう言って俺は顔を伏せた。

 

「そんな......。なんとか、何とかなりませんか?」

 

そう弟は俺の方を見るが、鈴谷が俺の口が開く前に言った。

 

「何ともならないよ。君は海軍本部の軍法会議のやつは知ってる?」

 

「はい......。見てました。」

 

「そこで、海軍部の偉い人は何て言ってた?」

 

「......。」

 

そう言うと弟は黙ってしまった。もう何もかも察したのだろう。自分の兄がしでかした事を。だが、諦めていない様だった。

 

「ですけど、銃殺は流石に......。」

 

「当たり前だよ。何て言ったって提督の事をね......死刑は当然じゃん?」

 

そう言って鈴谷は腕を組んだ。

 

「こればっかりはダメなんだ......。こうしなきゃダメ。」

 

そう言って鈴谷は部屋の前で待っている門兵に声を掛けて、弟の事を頼んだ様だ。

 

「提督、そろそろ戻ろう。」

 

俺はどうする事も出来ずにただ、弟の視線を背中に感じたまま部屋を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今、非常に不味い事になってます。提督が鈴谷さんに呼ばれてどっかに行ってしまったのをいいことに、どう2人を殺めようかと艦娘たちが段々と血を滾らせているのが見えてます。

横に居る北上さんも例外ではないみたいで、艤装は出せないからどう殺すかをぶつぶつと呟いてる。こんな北上さんを私は見たことが無かった。

 

「北上さん?大丈夫ですか?」

 

「んぁ?......そうねぇ......大丈夫じゃないかも......。」

 

そう言って答えてはくれるけど、視線はずっとあの2人に向いたまま。他の艦娘も同様にそうだった。そんな時、誰かが声を挙げた。

 

「ダメですっ!ここで殺すのはっ!!皆さん、頭を冷やして下さい!」

 

そう叫んでいるのは多分、雪風ちゃんだろう。提督が何ていうのか分かっているかのようだった。ここで殺してはいけない。

私の買被りかもしれないけど、提督はこの2人の銃殺を何とかしようとしてるんじゃないかって思う。だけど声が出ない。皆を止める為に挙げる声が出ない。

皆からあふれ出る憎悪のオーラが私のその行動を阻害している様に感じた。

 

「ここで殺しちゃったら提督は喜ばないっぽい!皆、頭を冷やそうよ!!」

 

今度は夕立ちゃんが言い始めた。あの娘は離れた海域で置き去りにされて1人生き残ったって言われている猛者らしい。他の鎮守府の夕立と違ってすごく大人しく、静かだという印象だ。だが、提督の事を一番に考えているところは同じらしい。

駆逐艦の艦娘が2人も声を挙げたんだ。私だって.......。

 

「ここで殺めてしまってはいけません!そもそもここで殺すのではないのでしょう?!」

 

どうだ、効果はあったか?...................無かったようだ。さっきと変わらない。

さっきので吹っ切れたので、続いて叫んでみた。

 

「もし、そんなことをしてしまったらって考えないんですか!?提督に嫌われてしまうのではないんですか?!」

 

..................効果は絶大だ。どうやら『提督に嫌われる』という言葉がいいブレーキになったみたいだ。皆、にじり寄りつつあった距離を置き、最初に居た場所に戻って行く。

 

「大井っちありがとう。正気に戻れたよ......。」

 

そう言って北上さんがこっちを向いて笑ってくれた。

その後も続々と声が挙がり、結果的に全員が待機位置に戻った。私には『提督への執着』なるものがあまり感じられないそうだが、ここで殺してしまっては提督に嫌われるのは目に見えていた。私自身、提督に嫌われるのは嫌だからって理由で止めたのもあったが、止めて良かったと思える。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と鈴谷が戻ってくると、全員が微動だにせず、ただ青木ら2人を見ている様子だった。どうとも表現し難い情景で少しおかしかったが俺は前に進み、今日も来ていた新瑞に声を掛けた。

 

「新瑞さん。」

 

「何だ?」

 

俺は意を決してその言葉を言った。

 

「この2人の刑を軽くは出来ませんか?」

 

「ほう?」

 

そう言うと鈴谷が咄嗟に俺の袖を掴んだ。

 

「ねぇ、どうして?」

 

そう言った鈴谷の目には少し光が消えかけていた。

 

「ここでは殺されないが、俺に関わった人間が殺されるのは嫌なんだ。それにこの2人はちゃんと教えられてなかった。俺は、的池にも過失があると考える。それに......。」

 

「それに?」

 

新瑞がそう訊き返した。

 

「それに、青木二等兵の弟が直訴に来たんです。兄の刑をどうか軽くしてくれと言って。」

 

そう言うと新瑞は腕を組んだ。

 

「だがどうするのだね?刑を軽くすると言っても元は陸の人間。」

 

「元なんですよね?」

 

「あぁ。」

 

「なら......。」

 

俺はそう言って歩き出すと2人の前に立った。

 

「死ぬのと生きるの、どちらがいいですか?」

 

そう訊くと答えた。

 

「もちろん、生きたいです。」

 

「生きたいです。」

 

そう言ったのを確認すると俺はまた新瑞のところに戻った。

 

「禁固3年。その後は海軍に奉仕する、でいいでしょうか?」

 

そう訊くと新瑞は頭を掻いた。

 

「あぁ、分かったよ。禁固3年。その後海軍に奉仕な。つまり海軍に入るという事か?」

 

「そうです。」

 

俺はそう言ってその場を立ち去ろうとした。だがそれは日向の言っていた例のメンバーに停められた。

 

「何で銃殺を辞めさせたんデスカ?」

 

金剛がそう訊いてくる。

俺はそれに答えたかったが、場所が場所だ。答えれなかった。

 

「ここを離れて話そう。」

 

そう言って俺は歩き出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

集まっていた場所から大分離れ、埠頭の近くまでくると俺は振り向いた。其処には金剛、鈴谷、神通、叢雲の他に十数人の艦娘が来ていた。

 

「古参組は知っているだろうが、俺は別の世界から長門の得た『提督を呼ぶ力』によってここに現れた、そうだろう?」

 

「はい。そうです。」

 

神通は答えた。

 

「俺の居た世界の事を知っているのはどれくらいだ?」

 

そう言うと皆顔を見合わせて首を振った。

 

「なら教えよう。......俺の居た世界では日本は戦争なんかしちゃいない、平和な世界だった。それに日本の治安も良かった。だから俺は今までに人の死やなかんかにかかわってきたことが無い。俺はそんな世界の住人なんだ。」

 

そう俺が話していても誰も口を挟まない。

 

「そんな世界の住人だったからこそ、俺は人を俺の直接の理由で殺されるなんて嫌なんだ。軍法会議が決めたことでも嫌なんだ。だから、変えさせてもらった。納得しろなんて言わない。これが俺のやり方だ。」

 

そう言うと皆黙って頭を下げた。どうやら納得した様だ。

俺は一息つくと、元の集団に戻り、今後の話を新瑞と交わした。

これから2人を刑務所に連れて行き、禁固刑を執行するとのことだった。俺はこれで全て終わったと思っていたが、これではまだ終わらない。俺の心の片隅に残っていた伊勢の懸念があるのだ。

 




いやぁ......まだまだですよ?
続きます。

最近眠気に襲われる時間が早くなってきて困ってます。10時半には確実に眠くなってます。この時間にいつも書いているので、本当にどうしようもないんですよね......。

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