【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第八十話  勉強会

新しく出来た執務室で俺は書類処理に追われていた。被害報告書に自治体への対応に関する書類、消費資材の計算。

 

「陸上機はそもそも設計図がなかったから......妖精が開発していたジェットエンジンだけか。」

 

俺は工廠の白衣の妖精に聞いて、現状作れる装備を確認したところ、大体のものが作れた。だが備考に書かれていた『噴進動力機構の設計図は焼失』ということなので別に新たなジェット戦闘機のサンプルを請求する書類が届いていた。

 

「これは頼めるだろうか.......。」

 

俺は不安になりつつ大本営宛てにこちらで調達できないもののリストに加えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が全部の書類を書き終え、背伸びをしていると秘書艦の飛龍が話しかけてきた。

 

「今日の執務は多かったようですが......。」

 

「そうだな。復興後だし仕方ない。」

 

俺はそう言って背を戻し、頬杖をついた。

 

「それにSPYレーダーを失った今、高性能電探の代わりになるものを探さないといけない。」

 

そう言うと飛龍は袖から紙を出した。

 

「その事なんですが、じんこうえいせい?というのが使えるのではないかと門兵さんが言ってましたよ?」

 

俺はそれを聞くなり机を叩いた。

 

「それだっ!」

 

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ーーー

 

 

俺は飛龍の言った人工衛星を使うことを念頭に入れ、正門の前に来た。すっかり元に戻った鎮守府を見て回り、行き着いた先がここだった。

 

「お疲れ様ですっ!」

 

門兵が俺に向かって敬礼をする。俺はお辞儀をして返すと、門の前に立った。

 

「......メディアと自治体。いいイメージは俺たちに持たないだろうな。」

 

俺は3日前の事を思い出していた。

襲撃の騒ぎにどういうことか問いただす彼らに俺は事の顛末を説明したが、結局は妖精から伝わった現代兵器が正常に動いている事を聞いただけだった。妖精たち......艦娘にはミサイルの事を噴進砲の様なものだと説明していたのが仇となったのだ。

目標を追いかける機能がある事を説明していなかった。

だがCIWSは起動し、防空に従事した。これはきっと設置するだけで良かった事を知っていたからだろう。そしてSPYレーダーもレーダーと付いてくるから電探みたいなものだと言う事は理解できていたんだろう。

完璧に慢心だった。

 

「結局は八つ当たりだったのか?」

 

俺はあの時の対応を思い返していた。

 

「もうあんな風になるのは嫌だ。」

 

言い争い、頭に血が上った。最後には論点がズレたのは俺は反省していた。

 

「......。」

 

俺は正門に背中を向けると、執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は執務室に戻ると飛龍を連れて滑走路に来ていた。理由は勿論、隼と疾風、富嶽の生産だ。数の検討をするためである。そのために白衣の妖精も連れてきていた。

 

「格納庫は何時でも拡張可能ですが、わざわざ見に来る必要があったんですか?」

 

俺の肩に乗る白衣の妖精はそう言った。

 

「ある。それに相談もあるんだ......。」

 

そう言って俺は格納庫に入った。

格納庫はかなり広く、何も置かれていない。中では妖精たちが黒板を使って何かをしている様だった。俺はそれをマジマジと眺めた。

 

「迎撃、しかも爆撃機への戦法か......。」

 

俺は黒板に書かれた図を見て一発でそれが迎撃戦の方法を示している事が一発で分かった。

 

「提督......分かるんですか!?」

 

そう訊いてきた飛龍に俺は頷いて答えた。

 

「左から『正面攻撃法』『一撃離脱法』『ジグザグ攻撃法』。最後のは本当にそう言っていたか分からないけどな。」

 

そう言って俺は黒板を使って説明している妖精に話しかけた。

 

「ちょっといいか。」

 

「これは提督、どうされました?」

 

「この講習、今更やってどうするんだ?」

 

そう訊くと妖精は答えた。

 

「今まで我々は対戦闘機戦闘を想定した訓練を積んできました。ですが、先の戦闘で爆撃機の迎撃が我々の主任務なのではないかと感じ、こうして迎撃戦闘を想定した戦法を教えています。」

 

そう答えた妖精に俺は満足した。もし意味もなく教えていたのなら、少し考え物だったからだ。

 

「......そういえば提督、何故あの図を見ただけで分かったんですか?」

 

そう妖精が訊いてきた。

 

「そうだな......。俺がこの世界に呼び出される前、俺の居た世界で俺は疾風や隼が登場するゲームをやっていたんだ。」

 

「ゲームですか......。」

 

「そうだ。と言っても唯のゲームじゃない。航空機の特性を反映させたゲームだ。だから他の国のに比べて零戦は良く回るし良く燃える。」

 

そう言って俺はある事を思い出した。

 

「白衣の。」

 

「何でしょうか?」

 

「雷電改、アレは元は何だ?」

 

「雷電三二型です。」

 

「着艦フックが付いてるだけか?」

 

「はい。」

 

俺はすぐに飛龍の方を向いた。

 

「飛龍。」

 

「はいっ!なんでしょうか?」

 

「雷電改の運用法を教えてくれないか?」

 

そう訊くと飛龍は考え出した。そしてすぐに答えが出た様だ。

 

「そうですねー。零戦隊に混じって出してますね。」

 

俺は深い溜息を吐いてしまった。

 

「他の使い方をしている艦娘は居るか?」

 

そう訊くと俺は大体誰が答えるだろうな、というのを想像して聞いた。そしたら見事、ビンゴ。

 

「鳳翔さんと隼鷹さんですね。」

 

「運用法は?」

 

「零戦隊とは分けて、発艦してからすぐに上空に出しますね。」

 

俺はまた深い溜息を吐いた。

 

「あの......どういうことでしょうか?」

 

そう訊かれたので俺は答えた。

 

「雷電は零戦と違って旋回戦が得意じゃないんだ。どちらかと言うと一撃離脱戦闘を得意とする戦闘機。雷電改を出していて、妙に雷電改の被撃墜数が多いと思ったことはないか?」

 

「言われてみれば......多いですね。」

 

そう答えた飛龍に対して俺は一言だけ言った。

 

「至急、雷電改の運用方法説明会を開く。」

 

そう言って俺は滑走路に来た本当の用を忘れて執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は執務室でホワイトボードを引っ張り出していた。

理由は明白。空母の艦娘たちに正しい雷電改の運用法を教えるためだ。そして飛龍に頼んで、空母の艦娘全員を集めてもらった。

 

「あのー、どういった御用件でしょうか?」

 

そう訊いてきた赤城に俺は答えた。

 

「勉強会だ。」

 

そう言うと隼鷹は立ち上がった。

 

「えぇ!勉強会とか、嫌だぁー!」

 

そう言った隼鷹を座らせ、俺は説明を始める。

 

「んじゃあ、始めるにあたって先ず質問するから。......雷電改を艦載機使うのはどれくらいいる?」

 

そう訊くと全員が手を挙げた。

 

「そうか。......さっき発覚したんだが加賀。」

 

「はい。」

 

「加賀の雷電改の運用法を教えてくれないか?」

 

そう言うと俺は加賀にペンを渡した。ホワイトボードに書けと言う意味だ。

それを受け取った加賀は立ち上がり、ホワイトボードに箇条書きをした。『・戦闘機なので零戦隊と交える。・制空戦に参加させる。』そう書いて俺にペンを返してきた。

 

「やりました。」

 

そう言ってドヤ顔で座る加賀の箇条書きに俺は赤いペンでバツをうった。流石にこれには驚いたのか大半の空母の艦娘たちは驚いている。

 

「違うし......。じゃあ次の質問。この中で、雷電改......雷電についての性能やらを資料室で調べた者は?」

 

そう訊くとやはり鳳翔と隼鷹が手を挙げた。

 

「手を挙げなかった他のは、どうして調べなかった?はい、瑞鶴。」

 

そういって俺は瑞鶴に調べなかった理由を説明させた。

 

「えぇと......戦闘機な訳だから、空対空戦闘をするんでしょ?」

 

そう言った瑞鶴に重ねて質問をした。

 

「それはどういう意味でだ?制空戦闘機としてか、要撃機としてか。」

 

「制空戦闘機としてだけど......。」

 

そう言った瑞鶴に俺はある紙を渡した。

 

「これは?」

 

「それは雷電改の基本性能を書き留めたものだ。他にも配布するから後ろに回せ。」

 

そう言って最前列に座る艦娘に手渡した。

そしてそれを見た艦娘たちは驚きの声を挙げている。ちなみに鳳翔はそれを眺めた後すぐに机に置いてこっちを見ている。隼鷹は見る間もなくホワイトボードのを見て何かを思い出しては笑っていた。

 

「いいか?雷電改は制空戦闘機じゃない。要撃機だ。加賀たちに分かりやすい言葉で言うと局地戦闘機。持っている上昇力と速力を生かしてはるか上空に上がり、敵の頭をド突く。そんな戦闘機だ。」

 

そう言って俺は隼鷹を呼んだ。

 

「隼鷹。」

 

「ん?何だい?」

 

こっちに来た隼鷹に俺はペンを渡した。

 

「零戦と雷電改での動きの違いについて説明、よろしく。」

 

そう俺は言って離れると、隼鷹はホワイトボードに線を書いたりしだした。そしてそれが終わると皆の方を向いた。

 

「じゃあ説明するよ。零戦隊は基本的にこうやって敵と接敵させるだろう?だけど雷電改は違う。雷電改はこうやって接敵させるんだ。」

 

そう言って隼鷹は零戦と書いた丸は真横に線を引いて、雷電改と書いた丸は山なりに線を描いた。

 

「雷電改は上空から敵を見下ろした状態から急降下か緩降下で敵の頭を取って潰すんだ。敵編隊を抜けたら頭を上に向けて急上昇。降下によって得たエネルギーをそのまま上昇するエネルギーに変換するんだ。」

 

そう言って線を付け加えた。

 

「これを一撃離脱法っていうんだ。提督、あってる?」

 

「あってるぞー。」

 

何やら満足したのか隼鷹は俺にペンを渡して自分の席に戻って行った。

 

「さっき隼鷹が説明した通りだ。正しい雷電改でする戦闘はこれだ。旋回戦は出来なくはないが、零戦みたく回らない。おすすめはしないよ。」

 

そう言って俺は書かれた文字やらを消して『一撃離脱法』とでっかく書くとホワイトボードを叩いた。

 

「これを使えば、制空戦が有利になるどころか、艦隊にまで侵入する爆撃機・雷撃機をこれまで以上に減らすことができる!今後はこの戦法を使ってくれ。」

 

そう言って俺は解散を伝えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

日が傾きつつある時間。俺は執務室から外を眺めていた。さっき俺のところに空母の艦娘全員が訓練願を出してきた。理由は明白だ。

 

「うわっ......3機小隊で急降下とか。」

 

全員が雷電改での一撃離脱法の習得をするということだった。さっき小隊で急降下させていたのは瑞鶴の雷電改だろう。随分と無茶な事をしている。

俺はそれを眺めつつ、外に足を延ばした。近くで見る為だ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夕食の時間になると艦娘たちはテレビそっちのけで何やら話をしている様だった。俺の横で食べる飛龍がその理由を『これまでの戦術の見直しをしている。』とだけ言って黙々とご飯を食べるので俺は不思議に思っていた。

そして何故か駆逐艦の集まりで夕立と時雨が囲まれているのが目についた。俺が見ているのに気が付いたのか、夕立と時雨は俺に助けを求めたが仲間の為だと言って助けはしなかった。最終的には諦めた様で、あとでみんなで資料室に行くと言っていた。

 




今回は鎮守府復興一発目だと言うのに、余り関係のない内容でした。話が少しずつ逸れたんです。すみません。
雷電改が今まで正しい使い方で無かったというのに驚きでしょうが、仕方ないです。ちゃんと調べなかった人たちが悪いんですから......。

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