【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第八十一話  たからもの

私が演習で鎮守府を離れている間に空襲された。私は空襲後の鎮守府を見て回ったが、どの建物も全壊していて目も当てられない様な様子だった。そして運動場の真ん中にポッカリと空いた大穴を見て、取り乱したのを覚えている。私も古参組でその存在を知らなかった訳では無い。運動場の下には、嘗て鎮守府を使っていた海上自衛隊が作った地下シェルターがある。そしてそこに着くまでに見た景色。本部棟が崩れていたのを鑑みれば、この地下シェルターに提督が居たのは考えなくても分かる事だった。

私は取り乱し、その大穴を覗き込んで涙目になっていた時、心配していた提督が私の後ろから話しかけてきたのだ。

 

『どうしたんだ、赤城。』

 

そう私に言ったのは今でも覚えている。こんなに陥没しているんだ、絶対生きて等居られないと思っていたのに、心配していた提督は生きていたのだ。

感極まり提督の前で泣いてしまったのは恥ずかしかった。

だが、私は今、浮かれている。何故なら、提督がいつか私との約束で外に連れて行ってくれると言ったのだ。それにあたって、私は着て行く服を考えていた。だが箪笥を開けると、ある事を思い出した。鎮守府が空襲された際、艦娘寮も焼け落ちたのだ。酒保で買った私服ももうない。

 

「......これは、慢心でしょうか。」

 

そう思い私は今から服を買いに酒保に走るのだった。通りかかった加賀さんを連れて。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はボケーっと空を見上げていた。何故そんなことをしているかというと、理由は唯一つ。赤城を待っているのだ。

今日は欲しいものがあるので外に行くのだが、赤城の願いの事を思い出して誘っておいたのだ。赤城は着いて行くと言って張り切っていたが、俺はある事を思い出していた。先日の深海棲艦による奇襲で鎮守府施設は全部焼け落ちたのだ。艦娘寮も例外ではない。きっと赤城は誘った昨日、大慌てで準備したのだと思うと少し申し訳ない気持ちになっていた。

ちなみに今いるところは正門じゃない普段はトラックが入ってくる門だ。何故こんなところなのかというと俺の数十m離れたところで小銃を持つ門兵であった。あの門兵は西川だ。昨日の夜、ダメ元で西川に今日の配置を訊いてみたところここだった。なので赤城が出て行くのを見逃してほしいと頼み込んできたのだ。そうしたら西川は条件付きで秘密にすると言ってくれた。

 

『黙っておきますが、赤城さんにいつもの格好をさせないで下さいね?私服です。赤城さんは黒髪ですので、それくらいなら怪しまれないと思いますから。』

 

と。だから誘う時も赤城には私服でと伝えてあった。

 

「お待たせしました。」

 

突然話しかけられ、そっちを見ると赤城が居た。厳密に言えば、ここに来るのは赤城だけだから赤城だと分かったようなものだが。

何時もの袴とミニスカの格好ではなく、その辺を行き交う20代の女性の様な感じだ。上手く表現できないが、そんな感じだ。

 

「あっ、提督。今、失礼な事考えませんでした?これでも一応、酒保で雑誌を買って見てるんですからね。」

 

「考えてないぞ。んじゃ、行くか。」

 

そう言って俺は赤城を連れて歩き出した。

 

「提督。」

 

そう言って俺は門の前で呼び止められ、西川の方を向いた。

 

「......はい。これならバレないですね。......赤城さん、もう一般人の女性ですね。艦娘って言われても信じられませんよ。」

 

「あ、ありがとうございますっ。」

 

そう言って赤城は俺の後ろに隠れてしまった。

 

「じゃあ、頼んだ。鎮守府で俺が消えたとか騒ぎになったら『門兵のコスプレして門の前に立ってる』とか適当に言っておいてくれ。門の前を探しだしても数時間はかかる。」

 

「はははっ、了解しました。」

 

そう言って俺は西川に見送られて鎮守府を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺も一応、私服で出てきたが普段からあの軍装をしていたので日の高いうちにこの格好で出歩くのはとても新鮮だった。肩パット入ってないだけでこんなに違うとは......。

そう考えつつ俺と赤城は繁華街に来てウィンドウショッピングをしていた。さっきから赤城が食べ物に目移りしているのはかなり面白い光景だが、足を止める事はしなかった。だが、俺と赤城が足を止めなくても周りは足を止める。理由は明白だ。

私服姿の赤城。すっごい美人なのだ。通る男たち皆足を止める。見てて笑える光景だが俺は笑えない。何故なら『なんだあの男。美人な娘連れて......。』的な視線が痛い。

とか考えてると赤城がある店で足を止めた。

 

「ん?どした。」

 

そう言って赤城が見ているものを俺も見た。

それは檻に入れられた子犬だった。きゃんきゃん鳴いて、赤城が足を止めて見ているとそちらに走り寄り、ガラスに足を掛けている。

 

「可愛いですね......。」

 

「そうだな......。」

 

そう言って俺と赤城は子犬を眺め。満足すると再び歩き始める。

すると、赤城が話し始めた。

 

「ありがとうございます。」

 

「何が?」

 

「連れ出して下さって。......皆に黙って出てきたんですよね?」

 

「そうだな。西川二等兵は知ってるけどな。」

 

そう言って肩を並べて歩く。

 

「外ってこんなんだったんですね。」

 

そう言って赤城は繁華街を流し見て言った。

 

「あぁ。」

 

「ご飯を食べるお店や、服のお店、装飾品のお店、大きなお店......。私たちが知らない世界......。」

 

そう言って赤城は寂しそうに呟いた。

 

「そして、私たちに与えられなかった世界......。」

 

俺は黙って聞いた。

 

「行き交う人たちは皆、幸せそうで楽しそうですね。」

 

「そうだな。」

 

そう俺は返事をすると、赤城は続けた。

 

「皆さんは海の事を知ってるんですよね?」

 

そう言うと赤城はさらに寂しそうな表情をした。

 

「私たちもああやって、生きて行きたいです。」

 

そう言って赤城はふぅと言ってある建物を指差した。

 

「......あれ行きましょう!」

 

そう言って赤城が指差したのはゲームセンターだった。赤城は俺の手を取り、ぐいぐいと引っ張る。

ゲームセンターの後も服屋やスイーツの店、本屋、百貨店を回り楽しんだ。その間、赤城が戦いを忘れたかのような今までに見たこともない笑みを見せてくれた。

そして帰る時、両手に荷物を下げることになるだろうと思って気合入れてきたが赤城は食べ物は買って食べていたが、何も物は買わなかった。何も言わずに歩いているとどうやら、同室の加賀への配慮だそうだ。私服も燃えてしまったから新しく買い、途中でトイレに入って着替えたらしい。それも事務棟の近くのだ。

満足そうに歩く赤城の横を歩く俺は声を掛けた。

 

「何も物は買わなかったみたいだが、良かったのか?」

 

そう訊くと赤城はニコッと笑った。

 

「えぇ。買ってしまってもどうしようもないと思いまして。」

 

そう言った赤城に俺はあるものを手渡した。

 

「これは?」

 

そう訊く赤城に封を開ける様言った。

封を開けた赤城は驚いた様だった。俺があげたのは小さい懐中時計だった。

 

「わぁ......ありがとうございます!......ですが、良かったんですか?」

 

そう訊いてきた赤城に俺は答えた。

 

「何も買わないのは見ていたからな。百貨店で赤城が貴金属のコーナーでケースに入ったものをまじまじと見てる間にな。」

 

そう言って俺は照れ臭くなってそっぽ向いた。

 

「それなら持ってても何ら不思議じゃないだろう?」

 

そう言って俺は歩く速度を速めた。

 

「そうですね......。」

 

俺と赤城は歩いて時に鎮守府の話、時に仲間の話をしながら帰った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は夜中、相部屋の加賀さんが寝たのを確認すると起きて月を眺めていた。

今日、提督に連れられて鎮守府近くの繁華街を訪れた時のことを思い出していた。率直にとても面白かった。色々な店を見て回って、美味しいものを食べた。本屋に入った時は良さそうな本を見つけたけど、買って行ったらバレてしまうし、提督にも迷惑をかけてしまうと思って我慢した。

......だけど、私の本来のこの願いの目的は達成された。その目的とは、今私の手に握られている懐中時計だ。

本当ならば、私が記念にと言ってペアの何かを買って渡す予定だったが、あまりに外のが珍しすぎて買えなった。大きな誤算だ。だけど、提督から買ってもらえた。

少し話は逸れるけど金剛さんが『近衛艦隊』なるものを結成している様だ。私はそれには参加していない。何故なら、既に作らずともあるのだ。それに私が居る方には『近衛艦隊』程の過激な行動は慎む制約がある。全て提督に迷惑を掛けない為であり、提督の身を案じての事だ。こっちが好き勝手やったら提督が連れて行かれる事も懸念しての処置だ。

と前置きはこれくらいにして、提督からもらったこの懐中時計は私の宝物です。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

何処から嗅ぎ付けたのか、沸いたように俺の前に金剛と鈴谷が現れた。

 

「今日はどこに居たんですカー!探してたんですヨ!」

 

「そうだしー!マジ疲れたんですけど!」

 

そう言ってくる2人に俺はあの事を言った。

 

「何だ。気分転換に門兵の服を借りて門で立ってたよ。」

 

そう言うと2人はポカーンと口を開けた。

 

「門兵さんのところなら何度も行ったノニ......。」

 

「鈴谷たちの負けだねぇ。」

 

そう言う2人に俺は時計を見て行った。

 

「つかこんな時間に来ないでくれ。何時だと思ってんだ。」

 

俺の見た時計の時刻は午前1時すぎだ。俺が気持ちよく寝てたら起こしてきたのだ。

 

「オゥ......ごめんなサーイ。」

 

「ごめんねー。」

 

俺はそれを聞くと毛布を頭まで被った。寒いからだ。

 

「はーい、おやすみー。」

 

そう言って目を閉じたが、ギシッという音と暖かいものが触っている事に気付き、俺は飛び起きた。

 

「ぬわっ!入って来るなよ。」

 

「「エェー(えぇー)」」

 

「えぇーじゃない!」

 

そんな感じに夜は更けて行った。

 




かなり間を置いきましたが、やっと赤城の願いが叶いましたね。ですが赤城が何を企んでいたかが少し分かりづらいような気もしなくもないです。そして突然明かされた『近衛艦隊』と相対する赤城の言った別の集まり。いつ明かされるのやら......。ちなみに提督が赤城にあげた懐中時計に深い意味はありません

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