【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第八十二話  隠されていた真実

俺は朝からある事に悩まされていた。

現状の防衛体制では問題がある事に先の奇襲で思い知らされたからだ。思い付きで仕入れた対空対艦兵器もほとんどが使用できずに鉄くずになってしまった。

これからどうすればいいのか......そう考えだしたのだ。

 

「そもそも、何であんなに余っていたんだ?」

 

俺は考えている時、ふとそんなことを考えた。

陸軍の装備なら退役まで使われるものだろうが、どう考えてもどれも最新式とは言えないが使える年代のもの。それに置いて行ったジェット戦闘機の件もある。

そんなことを思い、俺は執務を始める前に武下のところに行くことにした。武下なら教えてくれると思ったからだ。

 

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ーーー

 

 

「それで私のところに来たと。」

 

そう言った武下は顎を抑えている。

 

「そうです。何故ああも簡単に装備品をこちらに流したのか......不思議に思ったんですよ。」

 

そう言うと武下はある事を口走った。

 

「そうですか......国連が機能しているか怪しいって話はしましたっけ?」

 

「いや......どうでしたっけ?」

 

そう言うと武下は説明を始めた。

 

「日本がドイツとだけ国交がつながってるのはご存知ですよね?」

 

「はい。」

 

「この意味、分かりますよね?」

 

そう言われ俺は身体に電流が走ったのを感じた。それは裏を返せば、『ドイツ以外と連絡が取れない。』という意味も含んでいる。

 

「現在、そのような状況の中だったのにも関わらず、深海棲艦出現してからも連絡は取れないが存在が確認されていた国があったんです。」

 

そう言うと武下は大きく息を飲んだ。

 

「ロシア、アメリカ、中国です。」

 

「その三ヵ国は隣国でありアメリカは日本に駐屯地を持っていました。ですので、確認が取れていたんです。ロシアと中国は成層圏から日本領空に戦闘機を急降下させて存在を知らせ、アメリカは軍のホットラインがあったので直接確認は取れていたんです。」

 

そう言うと武下はふぅと溜息を吐いた。

 

「話を戻しましょう......。三国の存在が知れていたその時は対空兵器は必要でした。当時はまだスクランブルがありましたからね。ですが次第になくなっていったんです。最後に確認されたのはロシア空軍 MiG-21。朝鮮戦争からベトナム戦争時の骨とう品ですよ。そんな骨とう品が飛んでいたのを知った政府の誰かが言ったんです。『あんなものを出してくるとは......そうとう数を減らされたか。』と。それ以来飛んできてません。アメリカは多分聞いてるだろうとは思いますが......。」

 

「海上自衛隊と戦って日本に居たアメリカ海軍の艦隊は全滅......。」

 

「そうです。ですので対空兵器も必要なくなったんです。当時は深海棲艦の艦載機に対して撃っても当たりませんでしたから。対艦兵器は深海棲艦発現直後に使っても効果が無い事が分かったので、お蔵入りしたんです。」

 

そう言った武下の話を考え、俺はある事を聞いた。

 

「てことは、ここに来たあのミサイルらは......蔵で眠ってた骨とう品......。」

 

「そうです。使えない事が分かっていた兵器たちですね。」

 

そう言われて俺は納得がいった。それならあれだけの数をすぐに回せる理由も付く。

 

「結局のところ、余り物です。それと戦闘機の件ですが、あれに関しても多分......。」

 

「お蔵入りした戦闘機たちですか。」

 

「はい。......ですが、使えないと分かっていて回してきたということは何か考えのあっての事......。」

 

そう言った武下にジェット機がどう使われたを言った。

 

「あれは使えないと分かった後、工廠で解析されたんですけど......妖精があれを元にジェットエンジンを作るとか......。」

 

「それが目的ですかね?」

 

そう言って武下は立ち上がった。

 

「このことはなるべく話さない方がいいでしょう。特に事務棟の連中には。」

 

「はい。」

 

そう言って俺は警備棟を出て行った。

 

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ーーー

 

 

「どこ行ってたんですか、司令。」

 

そう言って執務室で仁王立ちしていたのは比叡だった。どうやらこの時間に居るということは、秘書艦らしい。

 

「ちょっと野暮用。さて、朝食でも行くか。」

 

そう言って俺は比叡を引き連れて食堂に向かった。

食堂に向かっている最中、俺は一昨日飛龍が勧めた人工衛星を使った監視をどうするか脳内で検討していた。俺は武下との話を踏まえて、決断を下した。人工衛星を使った監視はしない。そう決めたのだ。

俺の居た世界では一応、日本は軍事衛星は持っていない。そう言った情報を仕入れるならばアメリカに頼むしかなかった。

この世界ではどうなのだろうか。日本が軍事衛星を持っている。それの確証を裏付ける事象が無い。そもそも日本が日本皇国を名乗りだしたときにはすでに深海棲艦が居た。そのことには既に外部との連絡は途絶えていただろう。よって、日本は独自の軍事衛星を持っていないと結論付けたのだ。

 

「いただきます!」

 

俺がそんな考え事をしながら席に着くと、横で比叡ががつがつとご飯を食べ始めた。がつがつという表現が正しいかは、分からないがそういう勢いで食べているということだ。

 

「......ムグムグ......司令は食べないんですか?」

 

そう訊いてきた比叡のお蔭でこちらに戻ってきた俺は、少し冷めかけた朝食に手をつけた。

 

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ーーー

 

 

朝食を食べ終わった時には、別の防衛システムを思いついていた。それは、前時代的な方法。偵察機を常に出す事だ。

色々考えているうちに思い出したことがあった。1つは、現状で開発は欲しいものを作れるということ。2つは、滑走路があり、空母の艦娘がわざわざ発艦させなくてもいつでも出すことができるということ。それが、思いついた警戒方法に繋がったのだ。

空母の艦載機が近代化が進むにつれて、九七艦攻、九九艦爆、零戦21型が順次、倉庫に居れらている現状、これらを再利用できるのではないかという考えに思い至ったのだ。

艦攻と艦爆は投下機を外して増槽を付け、長距離飛行できるように改装すればいい。零戦21型は初期迎撃に使えればいいのだ。

思い立ったら即行動、俺は執務を速攻で終わらせ、比叡を連れて工廠に向かった。

 

「成る程......おおよそ理解出来ました。」

 

そう言った白衣の妖精は首を捻りながら言った。

 

「使えるか?」

 

そう訊くと白衣の妖精は俺の肩に飛び乗り、今製造中の航空機のところに行けと催促した。

 

「提督......絶対忘れてましたよね?」

 

そう言って白衣の妖精が指差したのは富嶽だった。だが、形状が違う。

 

「偵察型。作ったじゃないですか。高高度長距離偵察に向いてるのは富嶽です。提督が提案して下さった件は短距離偵察に適しています。そちらで採用しましょう。こちらでも随時改装を始めますが、数十機はいじらないで保管しておきますね。」

 

そう言って白衣の妖精は俺の肩から飛び降りた。

 

「いじらないのは、念のためのものです。全部改装してしまったら問題ですからね。」

 

そう言って俺と比叡の前から白衣の妖精は立ち去った。

 

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ーーー

 

 

「今朝はいきなりどうしたんですか?」

 

俺と比叡が執務室に戻ると、唐突に比叡がそう訊いてきた。

 

「これまでの防衛体制の見直しをしたからソレの為の準備。」

 

そう言うと比叡は首を傾げた。

 

「ですがSPYレーダーなる高性能電探があるって聞きましたが?」

 

「それはこの前の奇襲で壊れた。」

 

そう俺は答えて椅子に座った。

 

「そうなんですか......それにしても、初めて工廠であんな奥まで行きました!」

 

そう話を切り替えた比叡はあれがすごかった、これがすごかったと話しはじめ、結局終わったのが昼食が始まるまでだった。

 

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ーーー

 

 

俺が執務室でくつろいでいると、秘書艦の比叡が唐突に話しかけてきた。

 

「司令......。」

 

「ん?」

 

俺は体勢を戻し、比叡を見ると不安そうな表情をしていた。

 

「相談があるのですが......。」

 

そう言って比叡は袖から紙を出した。

そこには『近衛艦隊 艦娘募集! 皆で共に提督を守りましょう!』そう書かれていた。

 

「『近衛艦隊』とは何でしょうか?どうやらその艦隊の旗艦を金剛お姉様がやっている様なのですが......。」

 

俺はこめかみを抑えた。

 

「あぁ......。聞いた話によると、『近衛艦隊』は非常時に俺の周りにいち早く展開する艦隊だと。だが俺はそんな艦隊の結成は許可を出した覚えもなければ、申請も受けていない。だから非公式の艦隊故に組織的な行動はしてないそうだ。あくまでも非常時のみに結成される艦隊だ。」

 

そう言うと比叡は腑に落ちてない表情をしている。

 

「本当に......それだけなのでしょうか?」

 

そう訊いてきた比叡に俺は答えた。

 

「はぁ............。比叡は『提督への執着』ってのは知ってるか?」

 

「はい。私も金剛お姉様と同じくらい司令は大切ですからね。」

 

そうさも平然な表情で言われて少し俺は照れたが、説明を続けた。

 

「『近衛艦隊』はその『提督への執着』が強いもので構成されているらしい。だから『近衛艦隊』の本質は提督の害となるものへの無差別に攻撃を実行する艦隊。金剛がときより怖く感じる時があるだろう?」

 

「はい......。」

 

「その時は金剛の中で俺への害を見つけて攻撃的になっている証拠だ。」

 

そう言うと比叡はしょんぼりしてしまった。

 

「金剛お姉様はそんなことを......私たちだけじゃ足りないのかな。」

 

俺は比叡が言ったことが耳に引っかかった。

 

「それはどういうことだ?『私たちだけじゃ足りない』ってのは。」

 

そう言うといかにもやってしまった様な表情をした比叡が渋々語りだした。

 

「『近衛艦隊』が無くても同じ機能を持つ非公式艦隊があるんですよ。」

 

そう言って比叡は艦娘の名前を挙げだした。

 

「赤城、長門、陸奥、扶桑、山城、霧島、高雄、愛宕、鳥海、青葉、衣笠、古鷹、加古、球磨、多摩、北上、木曾、天龍、龍田、吹雪、白雪、雪風、白露、時雨、村雨、夕立、綾波、敷波、朝潮、そして私が立ち上げた古参組中心の非公式艦隊『親衛艦隊』。有事の際、司令の為に動く、司令に手を出させない為の艦隊です。ですが、先ほど聞いた『近衛艦隊』ほど攻撃的じゃないです。制約の下で行動を起こすものです。」

 

そう言った比叡は俺の右胸を指でつついた。

 

「ここを撃たれる原因になった事件、思い出してください。」

 

そう言われて俺は思い出した。巡田に撃たれた事を。そして俺の近くに四六時中いた比叡たちを。

 

「あの時『番犬艦隊』と言われていた私や夕立、時雨、朝潮はメンバーです。司令の話によれば『近衛艦隊』だったなら、あの人をその場で殺してますよね?多分。」

 

「そうだな。」

 

「ですけど、私たちは警備艦隊として逮捕権の与えられた門兵さんと一緒に警備をしていました。ですので、殺さずに拘束したんです。これが『親衛艦隊』の制約の下で行動するという意味です。」

 

そう言って比叡は話を変えた。

 

「それに『近衛艦隊』は組織的な行動はしてないと言ってたじゃないですか?」

 

「そうだな。」

 

「一応、2日に一度集まる事があるそうです。それを私は覗いた事がありますが、あちらはメンバーがあまり増える様子がありません。小規模な組織です。」

 

そう言って比叡は秘書艦の椅子に座った。

 

「一方こちらは、発足以来かなり人数が膨らみました。最近だと、大井ですね。」

 

そう言った比叡の言葉に少し驚いたが、俺は黙って聞く。

 

「最近はやり過ぎる『近衛艦隊』の監視の仕事が増えたんですけどね。......まぁ、安心して下さい。」

 

そう言って比叡は笑った。

だが俺は笑えなかった。自分の艦隊内部でそんなことになっていたとは思いもしなかったからだ。

俺の居た世界では比叡は割と提督を好む性格でないというのがテンプレだったが、こっちのはそうではないのかもしれない。

俺は溜息を吐いて茫然と向かいの壁を眺めた。

 




比叡から語られた新たな非公式艦隊が分かりましたね。前回、赤城の回想で赤城が言っていたものですね。
いやぁ......これ下手したら艦隊司令部所属の艦娘を二分する事になるのかも......。

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