【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第八十五話  鎮守府文化祭(仮)①

俺はいつもよりもかなり早くに起き上がり、早々に準備をして執務室を出て行った。

寒い空の下、鎮守府正門前には大勢の人が集まっていた。それを整理する門兵たちは朝早いというのに、とても楽しそうに見える。

今日はというと、鎮守府文化祭(仮)の初日だ。

これまで色々と準備をしてきたこの催しを成功させる為、艦娘は勿論、門兵や事務棟の職員たちは尽力していた。物資の調達、設営、人員配置......やる事が沢山あったがどれも楽しみながらこなしていき、今日を迎えた。

 

「入口はコチラになります!」

 

そう叫ぶ門兵の声を聴きながら、遠目で見る景色は俺がこの世界に来て忘れていた記憶を蘇らすには十分だった。

ちなみに、入口では身体検査と手荷物検査がある。これは勿論、軍事施設だからという理由がある。それによって一般と特種で分けていた。と言っても宣伝の際に危険物、通信機器の持ち込みは禁止している事を知らせていたので持ってくる人なんていない様だ。殆どが検査を終えて入っていき、待機場所に集められている。

 

「待機場所からは出ないようにしてください!」

 

そう言って警備部総出で取り仕切っている様子は本当にここは軍事施設なのかと思わせるものだった。

 

「おはよう、提督。」

 

そう言って様子を眺めていた俺に突然話しかけてきたのは、新瑞だった。だが様子がいつもと違う。いつもなら俺と同じで白い学ランを着ているのに今日は私服の様だ。

 

「おはようございます、新瑞さん。」

 

「今日は楽しませてもらうぞ。今日は有休で来てるからな。」

 

そう言った新瑞の後ろから現れたのは、新瑞の奥さんなのだろうか、女性と子どもが1人出てきた。

 

「そうですか。是非、楽しんで行ってください。」

 

「無論だ。......さて、待機場所に行く。」

 

そう言って行こうとする新瑞を俺は止めた。

 

「待ってください。『特別』でご案内しますよ。」

 

「ははっ。そりゃあり難い。」

 

俺は近くの門兵を呼ぶと、特別案内だと伝えて新瑞と別れた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は新たに作った地下施設の司令部に居た。ここは前回の教訓を生かして、潰れた地下シェルターの遥か深くにまで下げた。これで爆撃で潰れる心配はない。

モニターに映されているのは、鎮守府各所にある防犯カメラだ。今は待機場所だけに人が集中している。その他の場所では、艦娘たちがせっせと露店の準備をしていた。

 

「各所、報告。」

 

そうマイクに言うと、あちこちから報告が入る。

 

「露店指揮艦 間宮。準備完了です。」

 

露店は鎮守府に張り巡らされた道路の要所に立つ食べ物屋や、遊べる射的屋、御面屋などだ。正規空母の艦娘が店番のところでは弓もできる様だ。

 

「案内係指揮艦 天龍。準備完了だぜ。」

 

案内係は数名のグループを組み、そこに艦娘が案内役として付いて鎮守府を回る係だ。

 

「アトラクション指揮艦 陸奥。準備完了よ。」

 

アトラクションと言っても、それぞれの艤装に載せて少し航海するだけのものだ。艦種によっては色々あるそうだ。ちなみにこれを思いついたのはイムヤ。

 

「警備 朝潮。既に巡回中!」

 

警備は艦娘たちがお世話になる様な輩は居ないだろうけど、念のためと言ってその班を作った。と言っても人数は少なく、それぞれの場所に居る艦娘からの通報で駆け付け、門兵に引き渡すという役割だ。

 

「よし!」

 

そう意気込んで俺はマイクを別のところに繋げてもらった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

『これより、鎮守府文化祭(仮)を開催します。』

 

そのアナウンスと共に待機場所は騒がしくなっていた。

私はその様子と艦載機から訊いていた。

 

「加賀さん。」

 

「えぇ。」

 

そう言って私は艦載機の妖精たちに言った。

 

「これからアクロバット飛行をします!皆さん、練習の成果ですよ!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「起こしの皆さん、上空をご覧ください。」

 

俺はアナウンスを続けた。

 

「余興として、我ら横須賀鎮守府所属 第一航空戦隊の空母 赤城、加賀の艦載機隊によるアクロバット飛行です。飛行するのは零式艦上戦闘機五二型、艦上爆撃機 彗星、艦上攻撃機 流星です。爆弾、弾薬は下ろしてありますので危険ではありません事をご了承ください。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

アクロバット飛行が終わり、訪れた人たちが思い思いに鎮守府の中に散って数時間が経った頃、地下司令部は束の間の休息に入っていた。

休息とは言うが、監視カメラから送られてくる映像からは目が離せない。行き交う人たちは物珍し気に施設を見て回っている。

 

「立入禁止区域はどうなってる?」

 

そう訊くと、俺の肩に乗っていた白衣の妖精は答えた。

 

「門兵と艦娘が警備中ですが、問題ない様です。」

 

そう報告された。

 

「問題は起きているか?」

 

そう訊くと、白衣の妖精は俺の肩から飛び降り、彼方此方走り回った後、俺のところに戻ってきた。

 

「問題を起こした輩を数名拘束中です。艦娘が運営する催しには問題は起きてません。」

 

「問題を起こした?」

 

そう俺が訊き返すと、白衣の妖精は俺の肩に飛び乗った。

 

「艦娘に手を出そうとした若い男性が居た様です。」

 

俺は何となくそれは想像ついていたので、聞き流した。すると白衣の妖精は続けた。

 

「処分は如何しますか?」

 

「事情聴取した後、今後一切しないように言い聞かせて解放だ。ここで拘束したままにしてしまっては良くない。」

 

「了解しました。門兵に事情聴取を頼んでみます。」

 

そう言って白衣の妖精は俺の肩からまた飛び降りた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼時になり、露店が賑わって来た頃、俺に白衣の妖精が『提督も私服に変装して楽しんでみてはいかがですか?』と何か含みのある顔で言われたので乗って私服に着替えた俺は鎮守府内を歩いていた。

行き交う人は皆、『鎮守府とかいう軍事施設なのに何か学校みたいだね。』とか『艦娘、皆優しくて元気ね。』とか言いながら歩いているのを見ると俺は何だか嬉しく思えた。広いところでは、艦娘数人で即興のイベント何かを開いたりしているのを見ると何だか本当に文化祭をしている様な気分になっていた。即興イベントの許可は出した覚えが無いので3日後にあの艦娘たちは呼び出しだな。

そんな中、俺はある一角に来ていた。埠頭だ。そこでは艦娘の艤装に乗る事ができるアトラクションみたいなものがやっており、多分一番人気なのだろう。凄い人数が列を成していた。最後尾では巡回中の門兵が艦娘に捕まって頼まれたのか、『2時間待ち』と書かれた看板を持って立っている。

 

「お疲れ様です。」

 

そう俺は癖で唐突に声を掛けてしまった。

 

「お疲れさ......提督じゃないですか。」

 

お疲れを普通のトーンで言ったかと思うと、すぐに小声になってそう門兵は言った。

 

「提督ですよ?」

 

「どうされたんですか?私服着て......誰かと思いましたよ。」

 

そう言った門兵はヘルメットにバラクラバは外さないでそう言った。この門兵には見覚えがある。どんな時でもバラクラバを取らない門兵だ。結構有名だったりする。長政伍長と呼ばれていたので俺も長政さんと呼んでいる。

 

「妖精に私服で見て回ってきたらどうだと言われましてね。」

 

そう言うとなんとなく察しがついたのか、長政は近くで同様に捕まって看板持ちをしていた門兵に声を掛けた。

 

「特別案内だ。ここの列で通して。」

 

「はぁ?了解しました。」

 

呼ばれた門兵は何か分かっていなかったようだが俺に『どうぞ。』と言って先導を始めた。

 

「では、お楽しみくださいね。」

そう言われて俺は会釈をして先導する門兵に付いて行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

付いて行った先では、陸奥が立っており、どうやら艤装に乗る事が出来る様だ。

 

「陸奥さん。」

 

そう声を掛けた門兵に陸奥はすぐに反応した。

 

「あら、門兵さん。どうかしたの?」

 

「特別案内です。」

 

「了解したわ。」

 

そう言って陸奥はコチラを向いた。

 

「戦艦 陸奥よ。よろしくね。」

 

そう言った陸奥が俺に気付いてないのか、俺は少し声を変えて返事をした。

 

「よろしくお願いします。」

 

「はーい。」

 

陸奥が全く気付く様子がなかったので、結構おかしく思っている。

そうしていると規定人数が乗ったようなので、入り口を封鎖して陸奥が話し出した。

 

「皆さん、こんにちわ!私は戦艦 陸奥よ!よろしくね!!」

 

そう言うと返事が返ってくる。主に子どもだが。

 

「これから鎮守府から出航して1時間航行するわ。楽しんで行ってね。」

 

陸奥が挨拶をすると、全員で艤装を探検して回った。と言っても中には入らずに、外だけだったが。それでも戦艦にはいろいろな装備があるので、かなりの時間つぶしになった。特に41cm連装砲の時にはその大きさに圧倒され、動く様子も観察した。そして陸奥の艤装には九一式徹甲弾が積んである。それの実弾模型が置かれていたので、それを見た観客は皆驚いていた。ちなみに稼働してない武装は説明があったが、適当に見繕った言い訳を言っていたのは結構笑えた。

こうして流れる戦艦の上で潮風を浴びながらゆったりとした時間は結構いいものだった。時間差で出航した駆逐艦 夕立とすれ違ったが、その時は観客は皆手を振っていた。夕立が手を振っていたからだが。

 

「これから鎮守府に帰投するわ。面舵いっぱい!」

 

そう陸奥が叫ぶと、陸奥の艤装は加速して右に回頭を始めた。

艤装が右に傾くのを感じで歓声を上げる客に陸奥はニコニコとしていた。

 

「そう言えば私の2つ後が潜水艦の艦娘だったわ。皆さん、左手をご覧ください。」

 

そう言われて皆が左の海面を見た。

 

「潜望鏡が見えますね。アレは伊号潜水艦です。まぁ彼女はイムヤと読んでほしいらしいけどね。」

 

そう言った瞬間、潜望鏡が沈み、潜水艦が姿を現した。

 

「あら、出てきちゃったみたいね。」

 

そう言って陸奥は手を振った。

俺はそんな光景を眺めながらある事を思った。結構セリフが作られている様だったのだ。きっと決めた当初からそう決まっていたのだろう。

イムヤの艤装を通り過ぎ、ゆっくりと鎮守府に戻ってきて、俺は陸奥の艤装から降りた。

大きい艤装なので安定しているかと思ったが、そうでもなかった。波に船体が揺らされていたので、そこそこ揺れていたのだ。

俺は少し上ってきた胃液を必死に飲み込み、次の場所に移動した。

 




はじまりましたねー。後半は提督が私服に着替えての巡回でしたが、結構気付かないものです。あと結構提督も悪ガキなところもありますね。あえて黙って乗る辺りとかw

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