【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第八十六話  鎮守府文化祭(仮)②

 

陸奥の艤装から降りた俺は、露店が並ぶ一角に足を運んでいた。ここらでは色々な艦娘が露店を企画してやっている。流し見している時、丁度目に留まったのは北上と大井が仕切っている看板にはたい焼きと書いてあるのをわざわざバツ書いて『魚雷焼き』と書いて売っていた。眺めてみると、たい焼きを作っている様にしか見えないが型は完璧に魚雷の形をしている。中身はというと、つぶあんとこしあん、カスタードらしい。

 

「あら、いらっしゃい。どれにしますか?」

 

俺が見ているとそう大井が声を掛けてきた。話しかけ方から察するに、猫被っておられるご様子。

 

「こしあん1つ。」

 

「はーい。80円ですねー。」

 

「中途半端っ!?」

 

俺は思わずツッコんでしまったが、どうやら聞こえていなかった様だ。大井は魚雷焼きを紙に包むと渡してきた。

 

「どうぞ。」

 

「ありがとう。」

 

俺は魚雷焼きを受け取ると、80円きっかり置いて、ベンチに座る事にした。

ベンチに座ると、露店の並ぶ向かい側が良く見え、さっき買った魚雷焼きの両脇では、長良と名取、五十鈴が仕切るりんご飴と球磨と多摩、木曾が仕切る外洋遠征体験の話をするところなどがある。以外にも外洋遠征の話のところは人気があり、北上と大井のところか長良と名取たちのところでりんご飴を買って食べながらその話を聞くと言うなんとも考えられた配置になっていた。

今俺がいる通りでは他にも露店が出ている。俺が珍しいと感じたのは、夕張と島風が仕切る蕎麦屋だ。よりにもよって蕎麦かよ、とツッコみたくなるのと夕張と島風というコンビが面白い。島風が蕎麦を茹で、夕張が提供する。何とも変な露店だ。

他には時雨が他の駆逐艦の艦娘と募って、戦術指南書を元にした講義をしていた。何故、講義しているのかさて置き、その内容には結構珍しいのか観客が結構集まっている。

 

「魚雷焼き......味はたい焼きだけど、たい焼きより食べやすい。」

 

眺めながら食べる魚雷焼きはそう感じさせた。縦長の魚雷焼きは口に入りやすかったのだ。

 

「うっし。じゃあ移動だな。」

 

俺は立ち上がり、ゴミをゴミ箱に入れると移動を始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

鎮守府内を歩き回っていると、案内役とそのグループとすれ違った。

 

「ここは格納庫と呼ばれていて、あのキス島守備隊救出任務に赴いた艦隊と共に飛んでいた大型機が格納されています。」

 

そう説明していたのは龍田だ。なんとも言い難い違和感を持ったのは俺だけだろう。説明を訊いているグループの人たちは『おぉー』とか言ってる。

 

「そう言えば、他の海域にある島を攻めた時の話なんですけどねぇ~。」

 

そう切り出し始めた龍田は話し出した。

 

「その島を空襲するからって赤城さんと加賀さんを艦隊に加えて出撃させたんですけどね、不安だからってキス島守備隊の人たちを救出した時に使った大型機で爆撃させたんですよ~。」

 

そう龍田が言うと、グループの誰かが龍田に質問した。

 

「龍田さん。キス島のことなんですけど。」

 

「あら、どうぞ。」

 

「キス島救出に行った艦隊と飛行機の数が尋常じゃなかったって聞いたんですけど、どうだったんですか?」

 

そう訊かれた龍田は少し考えた後、小声で言った。

 

「秘密なんですけど、22隻編成の大艦隊と大型機230機が出撃してましたね~。」

 

そう言うとさっきと同じように『おぉー』と歓声が出た。

 

「まぁ私は資源回収任務でそっちに行ってませんでしたけどね~。」

 

そう言って龍田は次に行くと言って歩き出した。

後で案内役を集めて、回るところと話していい内容に制限を掛けようと決めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

案外バレないもので、結構艦娘ともすれ違ってはいるが誰もこっちに気付かない。少し楽しくなってきた俺は、色々と他にも回った。他の露店や違う艦娘が担当している案内役を見たりして時間を潰していった。

そして結構楽しくなって来た頃、丁度露店の前を通った時、榛名が変な男に絡まれているのを見た。

 

「やめて下さいっ!」

 

「いいじゃん!ちょっとお話ししようよー。」

 

「榛名ちゃんって言うんだー。俺、船詳しくないから分からなーい。」

 

そう言ってる2人に絡まれている榛名は腕を振りほどこうとブンブンと振り回すが、振りほどけない様だ。いつもなら構わず艤装を出しているところだろうが、文化祭を開くにあたって決め事をしていた。それは『開催中は艤装を装着してはいけない。装着する際は有事の時のみとする。』だ。

一緒に店番をしていた比叡はアワアワして、霧島はどうやら通信機で警備の艦娘と門兵に連絡している様だった。

 

「やめて下さいったら!」

 

そう言って引きはがそうと振り回すが、全然離してくれない様だ。

 

「休憩は何時はいるの?」

 

そうニヤニヤしながら聞く男はズリズリと引きずっていく。

 

「霧島!まだなの!?」

 

「結構遠いところに居る様で到着が遅れるそうです。」

 

「門兵さんは!?」

 

「これまでに捕まった人の事情聴取で人手が不足している様で......こっちも到着が。」

 

そう言ってどうしようどうしようと慌てふためく比叡と霧島は口を揃えて『こっちに逮捕権があれば。』って言っている。逮捕権は門兵が居ないと艦娘にも効力を出さない決まりらしい。そう以前、聞いたのだ。

周りにも野次が溜まりはじめ、段々と見えなくなっていく。

俺が動かないのには理由があった。俺がもし突っ込んでいって相手に怪我をさせてしまった時の事。その逆もまた然りだ。特に逆に関しては怖い。艦娘が決め事を簡単に破るとは思えないが、豹変する事間違いなしだ。もしそうなってしまったら、初日にしてこの催しの意味を失くしてしまう。

俺は葛藤した。どうするべきか......。そんな時、聞こえた榛名の声で俺は決めた。

 

「提督っ!」

 

そう榛名が監視カメラの方を向いて叫んだのだ。

 

「殴り込みはダメだ......。落ち着いて懐柔だ。」

 

俺はそう自分に言い聞かせて、野次馬の波に入った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が人を掻き分けている間も榛名と男どもの争いは激しさを増していた。比叡も我慢がならなかったのか、離すように言っているが聞く耳を持たない様だ。

 

「ちょっと通して下さい。」

 

そう言って掻き分けて行く事、1分くらいで榛名たちの前に出る事が出来た。

 

「その辺にしてくれませんか?」

 

そう俺は切り出した。

 

「あん?んだよ。」

 

「その辺にして離してあげて下さい。」

 

そう言うと男たちはこっちを見た。

 

「お前には関係ないだろ。」

 

そう言って榛名の腕をグイグイと引っ張る。

 

「穏便に済ませたいのならその辺にしてください。さっき門兵と警備に連絡が行ってこっちに来るそうですから。」

 

「んだとっ!そんな事知るか!ここの門兵はもやしみたいなのばったじゃねぇか!俺みたいに強くないとな!」

 

そう言って男はムキッして見せた。結構身体には自慢があるらしい。門兵をもやしというくらいだ。

そうやって見せてきた時、その男が首からドッグタグをぶら下げているのが見えた。ドッグタグを付けているのは軍人だ。ということは、ある手が使える。俺はそう思い、もういい慣れた文句を言い始めた。

 

「仕方ないですね......所属はどこですか?」

 

「は?」

 

俺がそう聞いた瞬間、男共と周りに野次馬は何言ってんだコイツみたいな空気を出した。俺は丁度メモとペンがあったから取り出した。

 

「だから、所属はどこですか?」

 

「所属ってどういう意味だよ。」

 

「そのままの意味です。」

 

そう言うと男は自慢気に言い出した。

 

「陸軍 第五方面軍第三連隊だ!俺は深海棲艦が現れて以来初の奪還した島の占領軍として派遣される兵だ!」

 

俺は溜息が出た。この男の言った第五方面軍第三連隊には聞き覚えがあった。強襲揚陸艦『天照』が最初にこの鎮守府を訪れた時の乗組員だ。

 

「あーはいはい。」

 

俺はメモを取って、容姿の特徴を書き留めた。

 

「深海棲艦共に奪われていた島をまた人間が使えるようにするんだ。」

 

「そうですか。」

 

そう言いながら俺はメモを取っていく。

 

「それで、てめぇは何だってんだ。」

 

そう言った男に俺は近づいて周りに聞こえない程度の音量で言った。

 

「俺は横須賀鎮守府艦隊司令部司令官です。」

 

そう言うと俺は離れたが、男は信じず、果てには笑い飛ばしていた。

 

「はははっ!傑作だわ!お前がぁ?」

 

そう言って榛名を引っ張った。

 

「そうですけど?」

 

そう言うと男は俺の胸倉を掴んだ。

 

「だったらなんだって言うんだ?ここでお前を殴ったら俺が機銃掃射でも食らうとでも?こんな人集まる中でか?」

 

そう言って小声で言いながら顔を寄せてきた。

 

「それは無いです。」

 

そう言うと男は掴んだ胸倉を放さずに持ち上げた。

 

「だったら大丈夫だろう?」

 

そう言った瞬間、野次馬が退き始めた。そしてその退いた道を艦娘と門兵がこちらに進んでくる。

そしてその場の空気は一瞬にして凍り付いた。

コチラにしか見えないが、警備の艦娘である不知火が凄い形相で男を睨んでいた。そしてその両脇を歩く門兵は短機関銃を持っている。

 

「そこの貴方。何をしているのですか?」

 

そう訊いた不知火は一歩近づいてきた。そう訊かれた男は何も答えない。一方で門兵は野次馬を追いやり、男の両側に立った。

 

「もう一度訊きます。貴方は何をしているのですか?」

 

「......。」

 

「貴方は何をしているのですか?」

 

黙りこくった男は不知火を見た。

 

「へっ、チビが何できるってんだ。」

 

そう言って男は俺を離すと、不知火に詰め寄った。

 

「お前が何かは知らねぇがお前こそ何をしているんだ。」

 

そう言った男に不知火が一瞬俺の方を見ると、同じことを訊き返した。

 

「貴方は、何をしているのですか?......アナタハ何ヲシテイルノデスカ?」

 

そう言った不知火の顔が般若みたいになっている。

 

「逮捕権を執行します。この男を拘束して下さい。」

 

そう言った不知火に合わせて応援で増えた6人の門兵は榛名を掴んでいる男ともう一人を拘束した。

 

「では司令、失礼します。」

 

そう言って不知火は拘束された男たちを連れてどっかに行ってしまった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

榛名を俺が立たせると比叡と霧島が駆け寄ってきた。

 

「ひえぇぇ!ビックリしましたよ!」

 

「司令がこんな事をするなんて......。」

 

そう言った2人を置いて榛名が俺に言った。

 

「ありがとうございます。提督。提督が来なかったら、不知火ちゃんが来る前にどっかに引きずられていました。」

 

そう言って榛名は潤ませた目を拭いた。よほど怖かったのだろう。

 

「いいさ......。」

 

そう言って俺は座ったままの榛名を立たせた。

 

「そう言えば提督。何で提督はいつもの服じゃないのですか?」

 

そう訊いてきた榛名に俺は答えた。

 

「隠れて俺の居ない時の艦娘の実態調査だ。他の奴には秘密にしておいてくれよ。」

 

そう言って俺は笑ってその場を立ち去った。

 





何だかこういう感じの問題って置きますよね。リアルでも自分は体験してますw
第五方面軍第三連隊は問題児ばかりですねー(白目)

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