【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第八十九話  鎮守府文化祭(仮)⑤

文化祭(仮)の最終日ももう日が傾いていた。本来ならばこの時間、帰っていく人たちの見送りをする筈だった。だが今は警備棟、尋問室に居た。

目の前には挑戦的な目つきをした男。そしてその両脇には短機関銃を持った部下。

 

「陸軍第五方面軍第三連隊だそうですね。」

 

そう言うと目の前の男は嗤った。

 

「君のいろんな同僚に会ってきましたが、ここまで素行の悪い輩はいませんでしたよ。」

 

そう言って男の階級章を見た。伍長。下士官だ。

 

「ここで言える事は唯一つ。......提督に手を挙げた罰は軍法会議で耳の穴をかっぽじってよく聞いて下さい。」

 

「ハァ?!どういうことっすか!?」

 

男は自分の階級章を見たのか、敬語にはなっていたが咄嗟に出た言葉はなってない。

 

「君が犯したのは『上官への不敬』。普通ならその場で刑が執行されますが、ここは違います。特殊な軍事施設だということをお忘れなく。」

 

「特殊な軍事施設だということは分かってますが、違うって......。」

 

「相手が悪かったんですよ。よりにもよって提督に......。あの場で殺されなかった事が奇跡ですね。初めて野次馬に感謝する時です。」

 

そう言うと目の前の男は顔を真っ青にした。

捕まって、きっと暴行とかで逮捕されたんだろうとばかり思っていたが、まさかあの状況で殺されていたかもしれないだなんて聞かされたら青くなるのも当然か。

 

「じゃああの私服を着てたガキが提督ってことっすか?」

 

「そうですね。」

 

そう言うと男は事を理解したのか、ガクッとなってしまった。

 

「俺は、どうすればいいっすかね?」

 

「そうですね......。死ぬ覚悟で提督の前に出て行って頭を下げて来ればどうにかなるかもしれません。」

 

そう言うと男は顔を上げた。

 

「今からでもいいっすかね?」

 

「どうでしょうね。今頃、見送りとかしてるでしょうからその後なら。」

 

そう言うと男は覚悟を決めた様だ。さっき言った事をちゃんと頭の片隅に残しているのだろうか。『死ぬ覚悟』、こういった若者がよく使う言葉だが、自分の言った言葉には若者がよく使う意味ではない。言葉通りの意味だ。

 

「......大尉。」

 

「何ですか?」

 

男は立ち上がろうとした自分を止めた。

 

「俺が手を出した艦娘、名前分かりますか?」

 

「戦艦 榛名です。とても優しくて気配りが上手で、いつも皆の心配をしてくれる娘です。」

 

「そうっすか......。」

 

自分は再び立ち上がった。

これから提督を呼ぶにあたっての覚悟が居る。あの怒れる金剛をどう収めるかだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

見送りを終えた俺は武下に呼ばれて警備棟に来ていた。

理由は呼ばれた時点で明白だった。榛名の腕を掴んでいた男の事だろう。俺は一応、足柄に伝えて警備棟に足を運んでいた。

 

「お待ちしてました、提督。」

 

そう言って迎えてくれた武下はいつも通りだった。

 

「奴ですかね?」

 

「そうですね。」

 

俺はそれだけ聞いて、武下の後ろを付いて行った。

着いた先は、尋問室というプレートの掲げられた部屋だった。前に来ると、ドアの前に立っていた短機関銃を持った門兵が扉を開けた。

 

「ありがとうございます。」

 

礼を言って入ると、榛名の腕を掴んでいた男が地べたに座り、土下座をしていた。

 

「はぇ?」

 

俺はあの時、粋がっていた姿しか見てないのでこの格好には衝撃を受けた。

そしてその男は声を挙げた。

 

「すみませんでしたっ!」

 

出る精いっぱいの声だったんだろう。かなり室内に響いた。

そしてその言葉に俺は驚いていた。

 

「俺、あの時入ってきたのが提督だと分からなくて、汚い言葉と暴力をしてしまいましたっ!!大尉から聞いた話だと自分はすぐに軍法会議ということ。ここを離れる前にせめてっ!!」

 

そう言って男は顔を上げた。

 

「せめて自分の仕出かした罪を認め、提督に頭を下げるべきだと思いました!」

 

あの威勢はどこへ行ったのやらと考えていると、後ろから声がした。

 

「あのっ......どうして榛名が尋問室にっ......。何か悪い事でもしてしまったんでしょうか?」

 

そう言って入ってきたのは榛名だった。どうやら武下は榛名も呼んでいた様だ。

 

「あっ......。」

 

榛名が俺の背中を見てこっちに来ると、地べたに榛名の腕を掴んでいた男が居たのに声を挙げてしまった様だ。

その瞬間、男は再び頭を下げた。どうやら思いっきり頭を下げたらしく、鈍い音がした。

 

「すみませんでした!強引に腕を引っ張ってしまって!」

 

そう言った男に榛名は慌てた。多分、俺と同じことを考えたのだろう。

その瞬間、俺の背後にまた気配を察知した。寒いと思ったのは多分俺だけかもしれない。恐る恐る後ろを振り返ると、金剛が居た。どうやってここまで気配を消していたのか。そして、よくよく考えてみたら足柄から訊いた金剛のストッパー役が今ここに居る時点で野放しになっていたのは明白だ。

 

「フーン。コイツが私の妹と『提督』に手を挙げたファ○ンガイデスカ。」

 

金剛の目が据わっている。そして何故か艤装を身に纏っていた。不味い状況だ。もしかしたら勝手に機銃に改装しているかもしれないからだ。

 

「こっ、金剛。」

 

「ハイ!」

 

金剛はニコッとしてこっちを見た。

 

「何故ここに......。」

 

そう言うと金剛はニコッと笑って、男を見た。

 

「コイツの処理デスガ、遅れたみたいデスネ。提督の判断に任せマース。」

 

そう言って榛名の横に立った。

俺は金剛から視線を外すと、男を見た。

 

「分かりました......。俺は気にしないので、処分は引き渡した後に訊いて下さい。」

 

俺はそう言って部屋を出た。俺が出て行けば金剛が付いてくるはずだから取りあえず金剛を離すことができる。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が執務室に戻ると、今日移籍してきたドイツ艦勢が居た。

 

「おう......そろってどうしたんだ?」

 

そう言うと腕を組んでいたビスマルクが口を開いた。

 

「足柄からここの案内などされたから報告よ。それと......『近衛艦隊』と『親衛艦隊』の事よ。」

 

そう言うとビスマルクは帽子を脱いだ。

 

「何のことか話を聞いたわ。......ここの鎮守府が特殊なのも知っているし、他の鎮守府がどういう状況かも知ってる。でもどうにかならないのかしら?いつか仲間同士で撃ち合いになるんでなくて?」

 

そう言われ俺は考えた。

今日来たばかりのビスマルクが分かって、俺が分からなかったのは何かがマヒしていたのかもしれない。確かに、『近衛艦隊』と『親衛艦隊』の存在はやがては同士討ちに発展する可能性がある。きっとどちらが俺にとって最良の選択かということだろう。理性的に働く『親衛艦隊』と何でも攻撃的になる『近衛艦隊』。きっとどちらも正しいと思い、行動するのだろうが、その意見が衝突する時が何れやって来る筈だ。それをビスマルクはたった数時間で懸念したのだろう。

 

「そうだな......。」

 

俺はそれだけしか答えれなかった。

何故なら改善もできない状況だからだ。『近衛艦隊』の勢力が小さいのはせめてもの救いだが、実際その存在に助けられた事がある。

 

「だが、なくすことは出来ない。『近衛艦隊』は非公式であり、『組織的行動はしない』んだ。俺から言ってもどうしようもない。彼女たちが止めなければな。」

 

そう言って俺はビスマルクの横を通り、自分の椅子に座った。

 

「それより今日で文化祭(仮)が最終日だったんだ。こんな話をしていても仕方ない。打ち上げ兼ビスマルクたちの歓迎会をやるから、是非出てくれ。」

 

そう言うと俺は机に置かれていた紙を見た。そこには足柄からのメッセージがあった。

 

『彼女たちに近衛艦隊と親衛艦隊の事を話しちゃったけど問題ないわよね?それと彼女たち、近衛艦隊の素質があるわ。注意ね。』

 

そう書かれていた。

俺はその紙を書類に紛れ込ませて立ち上がった。

 

「あーそうそう。」

 

俺は執務室を見渡すビスマルクたちに声を掛けた。

 

「何か?」

 

答えたのはグラーフ・ツェッペリンだった。

 

「何故一気に増えたのか聞かれたら、『提督の引き抜きだ。』って答えてくれ。『頼み込んで移籍させて貰った。』なんて言ったらなにされるか分からないぞ?」

 

「それは『近衛艦隊』の奴らにか?」

 

「そうだ。」

 

俺がそう言うと全員が頷いた。

 

「じゃあ打ち上げ兼歓迎会までここに居るといい。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

さっきから俺は本を読んでいるが、ビスマルクとグラーフ・ツェッペリンがこちらをマジマジとみている。プリンツ・オイゲンはまだ執務室をキョロキョロと見渡して、レーベレヒト・マースとマックス・シュルツは何かを話している様だ。それよりもU-511が上の空になっているのが少し気になる。

というかさっきからマジマジとみられて本に集中できない。

 

「なんだ?」

 

そう訊くとグラーフ・ツェッペリンが訪ねてきた。

 

「執務はやらないのか?」

 

そう訊かれて俺は机の上にある書類に目を落とした。

 

「......今日は資材を建造と開発はしてないし、出撃も哨戒しか出てないから少ないんだ。」

 

そう言って俺は書類を見せた。置いてあった書類は2枚。哨戒に出ていた艦隊の報告書と消費資材報告書だけだった。

 

「成る程な......。だがそれは今日の分なのだろう?アトミラール。」

 

そうグラーフ・ツェッペリンは言ってきた。

 

「そうだな。」

 

俺がそう答えるとグラーフ・ツェッペリンは俺の手から書類を持って行った。

 

「アトミラール。なら私がやっておこう。秘書艦の机とパソコンを借りるぞ。」

 

そう言ってグラーフ・ツェッペリンは椅子に座った。

 

「あぁ......ありがとう。グラーフ・ツェッペリン。」

 

「問題ない。それとグラーフ・ツェッペリンでは呼びにくいだろう?」

 

そう言われて咄嗟に出た名前を言った。

 

「ならグラーフ。」

 

「それはドイツ語で伯爵だ。アトミラールが私を敬ってどうする。」

 

そう言われ再び考えだしたが、いいものが思いつかなかった。

 

「うーん、思いつかないなぁ。」

 

「なら私の名前にもなっているグラーフ・ツェッペリン、つまりツェッペリン伯爵のフルネーム『フェルディナント・フォン・ツェッペリン』から何処かを略せばいいだろう。」

 

「どこも訳せないからな......それ。」

 

そう言うとグラーフ・ツェッペリンは『そうか?』とだけ答えて溜息を吐いた。

 

「......ならグラーフと呼んでくれ。私も言ってなんだが思いつかなかった。」

 

そう言ってグラーフは俺の代わりに書類を片づけ始めた。

この後、すぐに打ち上げの準備が整い、打ち上げに向かったのだが相変わらずの騒ぎだった。

そしてビスマルクたちの紹介もし、皆で交流を深めるといって一層うるさくなったのは言うまでもないだろう。その時俺は間宮のところに避難していた。最近、こういった宴会みたいなものになると最初に食べてるだけ食べておいて間宮のところに避難するのが常になっていた。

 




結構話が飛びました(汗)
というか金剛がまた出てきましたね。神出鬼没ですね本当に。まぁ提督のいうことは素直に聞くだけ良いですがね。
それよりグラーフ・ツェッペリンの良いあだ名が思いつかなかった。最初は『フェル』とか考えてたけど無理があるwww
巷ではグラ子とか呼ばれてるみたいですが、できれば使いたくないですね。

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