【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話   作:しゅーがく

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第九十話  提督と金剛とドイツ艦

 

文化祭が終わり、余韻に包まれたまま打ち上げに入っていた。

食堂では艦娘たちがあれこれとワイワイしていて、とても楽しそうな雰囲気を醸し出していた。これを見ると、やってよかったと思えてくる。

俺の背後で緊張した様子のドイツ艦勢は曰く『日本艦も所属している司令部に居たけど、日本艦とは挨拶はおろか、見たこともない。ここに来てからも足柄としか話してないし、露店にいた艦娘らしき姿も分からなかった。』ということなので、今から入る食堂には艦娘しかいないと考えると緊張するとのことだった。レーベとマックス、ユー、プリンツは結構緊張している様子だ。ちなみにグラーフとの話の後に、自分たちのも好きな風に呼んでいいと言われたのでこう呼んでいた。ビスマルクは略しようがない。

 

「入るか?」

 

そう訊くと、皆頷いたので俺は扉を開いた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

案外あっさりと溶け込んだようなので、俺は榛名と熊野を呼んで話をしていた。

 

「なぁ、榛名。」

 

「はい。」

 

俺はそう切り出した。

 

「『近衛艦隊』の事だが......。」

 

榛名は『近衛艦隊』と聞いた瞬間、肩を跳ね上がらせた。

 

「あるつてで詳細を聞いた。榛名が金剛と鈴谷の監視をしているそうだな。」

 

「はい......他に空いてる人が居ないので。」

 

そう言った榛名はしょんぼりしてしまった。

 

「俺はこっちに来た金剛と鈴谷しか知らないが、何かを察知した時、どんな変化があるんだ?」

 

「......金剛お姉様は普段、とても優しく元気な方ですが、察知した瞬間に表情が変わるんです。冷たい、張り付いた様な表情。比叡お姉様もあの金剛お姉様には甘えようとしません。私はやらなければいけない役を果たすために引き留めるのですが、いつも振り切られてしまいます......。」

 

「鈴谷は?」

 

そう訊くと榛名は首を傾げた。

 

「鈴谷さんはいつもと変わらない様子ですよ?金剛お姉様が怒っていても鈴谷さんは平気そうな顔をしてます。ですけど、忽然と姿を消すんです。」

 

俺は榛名の言ってる意味が判らなかった。忽然と姿を消す。よく聞く表現だが、それを会話で言う人を俺は初めて見た。

 

「どういう意味だ?」

 

「そのままの意味です。榛名が視線を落としたり、ずらしたりして戻した瞬間にはもう居ないんです。音も立てずにいなくなってしまうんです。」

 

俺はなんとなく理解が出来た。つまり金剛はあからさまに怒って強引に行き、鈴谷は怒ってないように見せかけて姿を消す。

 

「そうか......。」

 

俺はそう言って切り上げると、今度は熊野に話しかけた。

 

「熊野から見て鈴谷はどうなんだ?」

 

「私は『親衛艦隊』ですので、監視という名目で鈴谷の横にはいますが、概ね榛名さんの言う通りですわ。忽然と姿を消す......こんな表現を口にするのはこれかもしれませんが。」

 

そう熊野も言ったのだ。

 

「引き留めることは?」

 

「出来ませんわ。彼女らが動くということは、一時的に提督の身の危険を回避できるということ。私たちにとっても利が発生するんですの。」

 

そう言って球磨のは腕を組んだ。

 

「というより提督。私たちの仕事を勘違いしてませんこと?」

 

そう言って来た。

 

「どういう意味だ?」

 

「私たちの仕事は、彼女たちが怒ってどこかに行くのを止めるのではなく、彼女たちが手を下そうとするのを止める事ですの。提督の身の危険を察知するのが私たちよりも格段に敏感ですので、そのあたりは彼女たちを頼ってますの。ですけど、その後の行動に問題がありますの。」

 

そう言って熊野は水を飲んだ。

 

「私たちは本当なら殺してやりたいと思ってますわ。これは『近衛艦隊』と変わりませんわ。ですけど理性の方が優勢なんですの。『もし殺してしまったらどうなるのか。』『責任を追及されたらこの鎮守府は、提督はどうなってしまうのか。』そんな事が先に頭を支配します。ですけど彼女たちは『殺してやる。』『提督に手を下した罰、私がこの手で払ってやろう。』という様な感情が支配するんですの。つまり彼女たちは『提督への執着』が発動している期間は『獣』ですの。」

 

そう言って一息つくと再び始めた。

 

「そうは言いますけど、私たちも彼女たちの理性を働かせる努力はしてますわ。大体、大本営が鎮守府で起きた事件をそのまま軍法会議に持っていくのかという事自体が私たちが手を下さなくても相応の罰を相手に与える事が出来ますし、提督次第で私たちがこの手で殺すことだってできますからね。」

 

「榛名たちは提督の一声で人を殺せるんですよ?今ここで皇居を攻撃しろと言われれまきっと榛名たちは艤装に走っていき攻撃を始めるでしょうね。」

 

そう言ってきた。

俺は最後に言ったことを黙って流し、答えた。

 

「理性を働かせる......効果は?」

 

「『執行役』つまり金剛さんと鈴谷たちの事ですが、効果はあります。先日、暁と雷が理性を戻しましたわ。これで私たち『監視役』側ですわ。他にも名取と羽黒、加賀さんもこっち側になったわ。」

 

そう訊き俺は少し安心したが一方で、金剛と鈴谷、那智、神通、叢雲はダメなのかと思った。

 

「言い忘れていたわ。叢雲は『執行役』側でありながら割と理性はありますわ。だけど何故『執行役』側なのか理解できませんわ。」

 

「それは榛名も同感です。」

 

そう口を揃えて言った2人の間で俺は腕を組んだ。

 

「そうか......。だけど理性のある叢雲は『監視役』側に戻すことは容易だと思うんだが?」

 

「そうですわね......。」

 

俺の言ったことに同意した熊野に反して、榛名はどうやら違うようだ。

 

「榛名は叢雲が『わざと監視役』側に居るように思えて仕方がないのですが......。」

 

そう言った榛名も腕を組んだ。

 

「難しいな......。」

 

同じ格好で3人が唸っていると、ビスマルクとグラーフが来た。

 

「提督、なに辛気臭い空気出してるの?」

 

「アトミラール、ここだけ妙に浮いているぞ。」

そう言われて俺は組んでいた腕を解いた。

 

「すまんな。それでどうした?」

 

「一通り挨拶が終わったのよ。」

 

「だからアトミラールの元に戻ってきた。」

 

そう言って2人は俺の両脇に座った。その瞬間、榛名と熊野が少し不機嫌になったような気がした。

 

「それにしても提督は若いのね。」

 

「あぁ、18だ。」

 

「そうか、私と同い年じゃないか。」

 

そう言って絡んでくるビスマルクとグラーフに俺はシドロモドロし始めた。

 

「そいえばな、あれから考えたんだが、『フェルト』と言うのはどうだ?略で女性名詞っぽいだろう?」

 

グラーフがそう言って来た。

 

「そうだな......。だが。」

 

「私は自己紹介でもう言って来たぞ?」

 

俺の逃げ道が封鎖されてしまった。

 

「アトミラールだけグラーフ呼びだと皆、不思議がるのではないか?」

 

「......そうだな。」

 

俺がそう言って諦めた時、後ろから声がした。

 

「提督が困ってマース。離してあげて下サイ。」

 

金剛だった。後ろを振り返ってみたが、いつもの様子だった。

 

「離すも何も捕まえてないわよ?」

 

そう反論するビスマルクだが、確かに捕まって等居ない。会話の中では八方ふさがりだったが。

 

「ビスマルクに入ってマセン。グラーフ・ツェッペリンに言ってるんデス。」

 

「私も捕まえている等と思ってないが。」

 

そう言ったフェルトに金剛は言った。

 

「昨日今日でいきなり鎮守府に『移籍』してきた新参者をそうやすやすと信用できまセーン。そんなのが2人で提督の両脇に座っていたら何してるのか不審に思われマス。」

 

そう言った金剛は続けた。

 

「それにグラーフ・ツェッペリンの方は目つきが悪くて怖いデース。」

 

そう言い放った金剛に反してビスマルクは必死に笑いを堪え、フェルトは少し目に涙を浮かべていた。

 

「クフッ.......ツェッペリンが目つきが悪い......確かにその通り......フフッ。」

 

そう言いながらビスマルクは悶えていた。

 

「結構私、気にしてるんだがな......。」

 

そう言って落ち込むフェルトだった。

 

「ほら、だから私にそこを変わるのデース!!」

 

そう言って飛びかかる金剛に俺とビスマルク、榛名、熊野は口を揃えて言った。

 

「「「「そっちが本音っ!?」」」」

 





最初のシリアスな感じから一気に落とす......楽しい(真顔)
ということで、今回は打ち上げ兼歓迎会の一部でした。金剛がグラーフ・ツェッペリンと絡む辺り、結構面白そうですね。
それとグラーフ・ツェッペリンの愛称ですが感想に頂きました『フェルト』を採用させていただきました。しっくりきたものですから......。

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