ULTRA-LIVE!!   作:零零機工斗

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3: 音ノ木坂、入学

舞い落ちた幾千もの桜の花びらを見つめながら、重い足取りで桜並木を歩く一人の少年がいた。

周囲には仲の良さそうな女子のグループが幾つもあり、どれも明るい雰囲気を纏い、笑顔や機体に満ちた顔で、雑談をしながら歩いている。これだけなら、よくあるかどうかは定かではないが何の異常もない、登校する高校生達の図だ。

 

だが、異常は一つあった。

それはその少年、隼田太一が、周りと違い独りで歩いていることだ。

 

それも当然だろう。

彼が向かう先は、今まで名前すら聞いたこともなく、しかも今年から共学化したばかりで今まで女子校だった高校であり、今日はその入学式なのだから。

 

先日の事件をきっかけに唐突に入学させられた隼田太一からすれば堪ったものではない。

女子に免疫もなければ、この学校に知り合いや友達などいる訳ないのだから。

見渡す限り、男子生徒は見当たらない。

 

夢見た高校生活がこれから始まろうとしているのに、いきなり交友関係が詰んでいた。

 

中学の友達も、今頃は自分が行こうとしていた高校に他の友達と雑談しながら登校していることだろう。

その輪の中に、自分はいないことに、彼らは気づいてくれるのだろうか。

 

いや、もしかしたらいないことに誰も気づかないかもしれない。

 

そこまで思考が進んだところで、太一は考えるのを止めた。

その先は何の得にもならないマイナスな思考しか無いからだ。

 

「憂鬱だなあ……」

 

楽しそうに雑談をする周りの女子達の声を聴きながら、彼はため息を吐いた。

今まで女子校だった故か、男子がいることを珍しがり遠目から観察する様な視線に、太一は既に気づいていた。

周りの雑談の中には自分が話題になっているものもあることにも、既に気づいていた。

 

だが気づく素振りは見せず、せめて共学の高校に入れたことには感謝しようと気持ちを保ちながら重い足を運び続けた。

 

 

***

 

「クラスは……A組か…って、クラス二つしか無いのか?」

 

校舎の前で張り出されたクラス分けの紙を見て、独り言を呟く。

今もなお、男子生徒は1、2人ほどしか見当たらない。

 

張り紙から教室の位置を把握し、見慣れぬ校舎へ足を踏み入れたが、特に話し相手もいないので周囲を観察する太一。

校舎はごく普通のもので、所々古くなっているように思える個所はあったが割と綺麗なものだった。

確か歴史のある学校なのだと思い出し、清掃員も良い仕事をするな、と思いつつ太一は張り紙で見た建物の図の記憶を頼りに教室へ向かっていた。

 

結局誰とも話すこともなく、『A組』と書かれた板のある扉から教室へ入った。

 

席はまだ決まっていない、故に今は一先ず皆自由に席を決めて座る。

未だ誰とも会話していない太一からすれば自由に座れても決まった席に座ってもその孤独な状況は変わらないのだが。

 

太一は、中学時代気に入っていたからか、窓際の席を選ぶことにした。

端っこの列で唯一座られていない、黒板からほどよく遠く一番後ろでもない窓際の席を選び、ぼすっと脱力気味に座った。

 

が、その瞬間、オレンジ色の髪の女子が太一に向けて悲痛の声を上げた。

 

「あー!そこ凛が座ろうと思ったのに!」

「仕方ないよ凛ちゃん、その人が先に座っちゃったんだから。それに、今座る席は今だけだから……」

「でも窓際の席に座りたかったのにゃー!」

 

凛と自称したオレンジ色の女子と、もう一人茶髪気味の眼鏡の女子のやり取りに太一は少し驚きつつも、スッと席を立った。

 

「あの、どうぞ」

「え、いいの!?ありがとうにゃー!」

「ありがとうございます……親切な人で良かったね凛ちゃん」

 

お礼を言い、喜々として譲られた席に座る凛。

そして何故か凛と共にお礼を言う眼鏡の女子。

 

感謝されて悪い気はしないが、なんとも歯がゆく感じた太一はそそくさと離れる様に後ろの方で残っている席に座った。

 

「今朝寝坊しなければ譲ってもらわなくても窓際の席に座れたかもしれないにゃー。早起き、大事!」

「昨日言ってくれれば起こしに言ったのに...」

 

二人の会話を聞く限り、どうやらこの二人は幼馴染、あるいはそれに近い、とても親しい関係の様子だった。

新入生だからか、他の生徒ほど男子生徒を珍しがっていない様子でもあった。

こういう人達となら、友達になれるのではないだろうか。

 

そんな僅かな期待を胸に、太一は頬杖を付いて窓から見える空を眺めていた。

 

数分後、彼らは担当HRの先生に軽く挨拶され、講堂へ行くことになった。

 

 

***

 

 

「新入生の皆さん、本校への御入学おめでとうございます」

 

髪の一部のみをまとめ、トサカの様に反対側にかけ、残りの髪は普通に下ろしている変わった髪型をした理事長が挨拶を始めた。

 

「本日は来賓各位、および、保護者の皆様のご出席を賜り、此度の入学式を挙行出来ますことを、教職員一同を代表して、お礼申し上げます」

 

ここまでは定文通り、と言ったところだろうか。

憂鬱な気持ちを表情に出さない様に胸に押し込み、無表情のまま理事長の言葉をぼんやりと聞く太一。

 

「本校は去年まで、入学する生徒の人数が実に少なく、遂に今年から共学の高校にすることを決定致しました。おかげで多少は人数も増え、こうして今年も無事入学式を迎えることができました」

 

その言葉に太一はチラッと講堂を見渡した。

が、一列せいぜい10人程度だというのに新入生の座る席は4列と少しほどしか埋まってない。

 

本当に大丈夫かこの学校、くらいの感想しか太一は持てなかったが。

そうして思ったほど長く続かなかった理事長の話を軽く聞き流し、理事長がステージから降りた。

そして、金髪青眼といういかにも外国人風の容姿の女子生徒が階段を登り、マイクの元へ上がった。

 

その珍しい容姿に新入生達も少しざわめいたが、マイクを通した咳払いでざわめきはすぐに止んだ。

 

「本校の生徒会長、絢瀬絵里(あやせ えり)です。新入生の皆さん、御入学おめでとうございます」

 

絢瀬絵里と名乗ったその女子生徒は、キリッとした目つきで講堂を見渡しながらそう言った。

皆、期待や不安に満ちた、新入生らしく初々しい表情を浮かべていた。

去年とは違い、共学化した影響でちらほらと見慣れない男子生徒もいた。

 

が、その中に一人だけ、表情の見えない生徒がいた。

こくり、こくりと船を漕ぐその様子は、明らかに意識を失っている。

 

居眠りだった。

 

あろうことか、この生徒は新入生への挨拶の真っ最中に寝ていたのだ。

 

青筋をピキピキと浮かべる絵里だったが、太一はそれに気づくこともなく船を漕ぎ続けた。

だからといって、演説を中断してまで居眠り生徒を一喝する訳にもいかない。

結局、残りの演説は度々太一を睨みながらのシュールな図で終わった。

 

完全に、太一に目が付けられた。

近くでその様子を見ていた生徒たちは、そう確信した。

 

因みに、隣で座っていた、凛の幼馴染らしい眼鏡の女子生徒は、生徒会長の太一を目の敵にする様な視線に気づき、起こそうとしたが、太一が起きたのは演説が終わった後だった。

 

「んお、終わった……?」

「終わった、じゃないですよぅ!あなた、生徒会長さんにずっと睨まれてたんですよ!?後で謝った方が…」

「え、まじ……?あ、ありがとう、後で謝っとこう……」

 

今もなお受けている恐ろしく敵意の籠った視線に気づいた太一は、起こしてくれた女子生徒に感謝しつつ面倒事に巻き込まれないように祈るだけだった。

といっても、既に面倒事に巻き込まれている身なのだが。

 

 

***

 

 

なんとか何事もなく、講堂から教室に戻った太一。

席も決められた席に皆座ったのだが、何の偶然か太一と先ほどの眼鏡の女子が隣同士の席だった。

凛という女子生徒は、眼鏡の女子の後ろの席。

 

「じゃあ、自己紹介をしてもらおうか」

 

そんな先生の言葉をぼんやり聞きながら、視界に映る教室を見渡す太一。

この分析は最早今日一日で恒例となった。

 

このクラスには24人ほどしかいない、もう一つのクラスも大体同じ規模だから合計50人程度の新入生が集まったのだろうと推測する。

 

共学化の影響で多少マシになったとは先ほどの理事長の挨拶で聞いたが、それにしては男子が少なかった。総合数だって少ないのに、これで「多少増えた」と言うのならば去年どれほど新入生が少なかったのか想像がつく。

 

このクラスにいる男子は数えたところ、自分を含め5人。

どの男子も違った表情が伺える。

 

女子に囲まれ幸せそうな、下心のある表情を浮かべた者。

知り合いがいなく、はぐれた小鹿の様な表情を浮かべた者。

既に知り合いがいるのか、あるいは状況に慣れたのか、余計な心情を出さず素直に自己紹介に耳を傾ける者。

そして、特に困惑も不安もなく退屈そうに欠伸を欠く者。

 

「次、隼田」

「え、あ……」

 

先生に名前を呼ばれ、自分の番になったと気づく太一。

まずい、何も考えていない、と焦り出した彼はまず周りを見た。

 

期待や興味に満ちた視線しかなかった。

その中には、先ほどの二人組の女子生徒も含まれている。

 

手を握り締めると、汗で指が滑る。

例え人見知りじゃなくても、こんな男子が隔離された様な状況で緊張するなという方が難しいだろう。

そして、特に目立った物じゃない方がいいだろう。何かおかしいと指摘されれば今度こそ交友関係は積む。

 

そう覚悟を決め、太一は平常心を装って頭の中で書いた定文を読み上げた。

 

「隼田太一です。趣味はもふもふ。好きなものはもふもふ。特技はもふもふです。以後よろしくお願いします」

 

しん……と静まり返ったクラスを見て、しまったと気づく太一。

だが思い浮かぶ問題点は「声が小さかったか?」「同じ単語を繰り返しすぎたか?」などという的外れなものだった。

 

「……すまん、よく聞こえなかったかもしれん、もう一度言ってくれないか」

 

先生も流石に驚いた様子だった。

 

「え、あああ、やっぱり声が小さかったんですかね。隼田太一です。趣味はもふもふ。好きなものはもふもふ―――」

「いや、もういい、ありがとう。次、斎藤」

「え……」

 

やっぱり何かまずかっただろうか、と思うも何もおかしなところが思い当たらない太一であった。

先生だけでなく、クラス全員が若干引いている。

 

唯一引いていない人物といえば、「凛ももふもふな動物は大好きだにゃー」と呟く凛と名乗った少女くらいだった。

 

結局何故皆静まり返ったのか、理由を見つけることができなかった太一は考えるのをやめて机に突っ伏した。

 

 

 

幾つかの自己紹介を経て、隣から緊張で上ずった様な声がした時にふと頭を上げた。

先程居眠りから起こしてくれた、眼鏡の女子生徒が立っていた。

恐らく彼女が自己紹介する番なのだろう。

 

「こ、こ、小泉花陽(こいずみ はなよ)です、好きな物はお米とアイドルです、よろしくお願いしますぅ…」

 

ほぼ涙目で自己紹介する花陽と名乗った少女。

最早途中から声も途切れて座り込んだが大丈夫なのか、と自分のことを棚に上げる太一。

実際彼の緊張はあまり表に出なかったのだが、彼女の緊張は並のものじゃなさそうだった。

 

その後ろの席に座っていた凛が、花陽の頭をよしよしと撫でた。

 

「かよちん頑張ったにゃー」

 

いや今ので頑張ったのか、と突っ込みたくなる太一。

 

「次、星空」

「はい!星空凛(ほしぞら りん)!特技は運動、好きな食べ物はラーメンにゃ!皆よろしくにゃー!」

 

こちらは花陽と正反対の、緊張感の全く無い元気な自己紹介だった。

語尾の「にゃ」が気になったが、触れない方がいいのだろうか、と太一は思いつつ再び机に頭を突っ伏した。

 

「次、河野!」

「は、はい!」

 

次は花陽ほどではないが、緊張してそうな、震えた声だった。

今までの自己紹介と違うのは、その声が高めではあるが男子のものとわかることだろうか。

 

後ろの方をちらりと見ると、眼鏡をかけた黒髪黒目の、ごく平凡そうな大人しい男子生徒が腕と背中を真っ直ぐにして直立していた。

 

「こ、河野優(こうの ゆう)です!絶対に叶えたい夢があります!特技は暗算とプログラミング、趣味は特撮鑑賞です!よろしくお願いします!」

 

思わず顔を上げるくらい、太一にとってその言葉は力があった。

「叶えたい夢がある」。

 

かつて、太一もそうだった様に―――。

 

 

だが、太一は再び顔を突っ伏し、以降自己紹介は聞き流して眠りに落ちた。

今日もまた、夢を見ることはなかった。

 

 

***

 

 

放課後となり、一日を無難に過ごした太一は帰り支度をした。

この後科特機関の日本支部基地に来る様、村松に言われていたので、多少は急いでいる。

 

「ねえ、そこの君」

「ん?」

 

校舎を出る一歩前に、後ろから呼び止められた。

この声は、どこかで聞き覚えがあった。

そう、今朝の―――

 

「せ、生徒、会長」

 

金髪青眼の、鋭い目つきの生徒会長が太一を睨んでいた。

 

「ええ、生徒会長、絢瀬絵里よ。貴方、今朝の講堂の挨拶で居眠りしてたわよね?」

「す、すいませんでした!反省してます!ちょっと急ぎの用があるので今日はこの辺で!!」

「あ、ちょっと!待ちなさいよ!!」

 

これ以上遅れるのはまずい、というのが建前。

この人の目が怖い、というのが本音。

故に、太一は脱兎のごとく逃げ去った。

 

「すごい怯え様だったやんね、エリチ」

「別に、取って食おうって訳でもないのに……男の癖にビビりね、全く」

「まあまあ、エリチも割と怖い目しとったんよ?」

 

物凄いスピードで逃げていく太一を見届ける生徒会長に少しおかしな関西弁で声をかけたのは、長い髪を二つの束にまとめタロットカードを手に持った女子生徒だった。

 

手に持つタロットカードの絵に描かれた文字は、『The Magician』。

絵は、ローブを着て、杖を頭上に掲げる男。その上には、『∞』のマークが描かれている。

 

 

 

「魔術師、ねえ……」

「何の話よ」

「別にー?」

 

他愛の無いやり取りと共に、少女二人は校舎に戻って行った。

 

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