何か嫌な予感がする。
箱庭に来て半月が経った今日この頃、本能的恐怖を感じ取った。
「それでさ、ほんとに勝負するの?」
とりあえずそれは後回しにして、十六夜に聞く。
「ああ。」
あっそうですかい。
いつも通り、朝の鍛錬を終えて戻ろうとしたら十六夜から喧嘩をしようぜ。と言われたので、周りに被害が出ないように世界の果てに移動したが、十六夜やる気満々だなー。全然洒落にならない。
十六夜と戦って勝てる気がしないもん。
ちなみに勝った方は負けた方に驕ることになった。
◆
世界の果てにある山の山頂。そこで対峙するのは二人の少年。片方は元々長めで半月で更に伸びた黒髪を簡単に纏めたパーカーの少年こと空。 もう片方は金髪に学ラン、ヘッドホンを着けた少年こと十六夜。
「それで? 勝負とはいっても何をする?ギフトゲーム?」
「いや。ただの喧嘩でいいんじゃねえか?」
「んー。了解。それじゃどちらかが参ったって言うか、行動不能になったら終わりで。後、命にかかわる攻撃は極力避ける。」
さらりとルールを決めた二人は数歩ずつ離れる。
「んじゃ、始めるか。」
そう言うと同時に、十六夜は第三宇宙速度に近い速さで飛び出し空に殴りかかった。
「っ! 居ねえ!」
手応えがなく、十六夜が周囲に目を向けると、
「っと。」
上からカカト落としが降ってきたのを避ける。
「やっぱ難しいか。」
距離を置きつぶやく空。
◆
予想は出来てたが、避けられた。
距離を置きつつ、次の手を考える。
致命傷は禁止だから強すぎてはダメ。だが、生半可な攻撃じゃ十六夜は満足しないな。なら……
「”砂竜”」
「おっ?」
足元の砂が渦巻き、十六夜の周囲を覆う。
「目くらましかよ。 かっ!」
すぐに吹き飛ばされた。だが
「くっ。また居ねえ!」
あくまで目くらましだ。本命は別にある。
木刀を握り、死角から近づく。
「ッ!?」
今度は上手く不意を付き、木刀が当たる、
「っと。悪い。」
直前に行く前に仕掛けておいた護符に反応があったので、手を止める。
「ちっ。邪魔かよ。」
いい所で止められ不機嫌な十六夜に申し訳ないと思いつつ、月琉に念話を飛ばす。
〈月琉。何があった?〉
〈あっ。そらー。大変だよ!〉
〈落ち着け。〉
〈海にいが来た!〉
少し思考が停止する。程なくして再起動を果たし、一言
「……マジか。」
言葉として呟いた。
◆
十六夜に緊急事態と伝え、急いで本拠に戻る。
「ッてめえはっ!連絡もよこさず!」
「いやいや、よこせなかっただ……けだ、」
会って早々、どこから出したの?と言いたくなるサイズの鉄棒を振り回す銀髪の青年に言い訳をする。
頭スレスレを避けつつ反論する。
「……チッ。まあいい。」
暴れて怒りが収まったみたいだ。良かった。
「それで? どう来たんだよ?」
被害を出さないために張っておいた結界を外しつつ、青年―――俺の兄貴分である海翔兄、海兄に言う。
「估ジジイに放り込まれた。」
ああ、師匠にか。
あの人ならさらっとやりかねないな。納得した。
「で、そこで見てる奴らは何だ?」
「俺の友人だよ。」
「へえ?お前もダチ作ったのか。」
「一応つくるからね?海兄と違ってしゃこ……」
社交的だしと言おうとし、目の前を何かが掠め、前髪が数本落ちる。
「……何か言いやがったか?」
「何でもないですハイ。」
余計な事は言わないでおこう。今度は頭にナイフを刺される。横にある木の幹に深々と刺さるナイフを眺めつつ思う。
「あ、あのー。」
「何だ、ウサギ。」
黒ウサギが手を挙げて海兄に尋ねた。
「貴方はどちら様で?」
「オレは海翔、そこのアホの兄貴分だ。」
人を指さしてアホっていうな。
「んで、手前らは?」
海兄が聞くと、十六夜達はそれぞれ自己紹介した。十六夜達がおとなしい理由は……まあアレだね。
被害出まくりなのは……これは俺の管轄外だし……。
一通り自己紹介が終わるまでの間、修復用の札を用いて、出来るだけ地面を修復する。
「海兄。直しといたよ。」
「ああ。わりぃな。」
◆
十六夜との決闘は有耶無耶となった。
場所は変わって本拠の談話室。
「へえ。それがここが抱えてる問題か。」
黒ウサギとジンから”ノーネーム”が抱えてる問題を聞いた海兄は一言、そう言うとコーヒーの入ったカップを机に置いた。。
「帰るすべも無さそうだし……。あのクソジジイが……!!」
師匠にたいしての怒りを途中で再燃しないでよ。
「……ふう。まあ、こいつも何かの縁だしよ。オレもそれに乗らせてもらうか。」
「本当ですかッ!?」
「海兄が手を貸してくれるなら、心強いけど……。物壊さないでよ?」
「わーったよ。善処する。」
そう答え、思い出したように、懐から出したものをこっちに投げてきた。
それを受け止めずに躱す。
「よけんなよ!」
「海兄が投げたものを取ろうとしたら、腕折れるからムリ。」
パブロフの犬なみの反射で体が動いた。
「そんなあぶねぇもんじゃねえよ。」
「いや、海兄? 薄っぺらい御札が
そう返すと無言で顔を逸らした。
「……わりぃ。後で直しとく。」
「あっはい。」
黒ウサギに謝っていた。うんまあ、海兄は(一応)社会人だし、俺らよりも遥かに常識的だから。
「っと。」
刺さった御札を破れないように取り、それを眺めつつ、談話室から出る。
「しかし、色の濃いやつが来たな。」
十六夜の言葉に耀達が頷くが……、(俺も含め)お前らも人のこと言えないだろ?唯一の救いは、海兄が保護者としての自覚があるから黒ウサギの心労が増えないことぐらいだ。
「ところで空くん。それは?」
「んー、なんと言えばいいか。プレゼント?」
師匠からの餞別っぽい。
◆
〜海翔side〜
空たちが退室したのを見送り、海翔は口を開いた。
「黒ウサギ……それとジンだったか?」
「はい!何でしょう?」
「ここに、ガキ以外のメンバーはいんのか?」
「いますが、今は”サウザントアイズ”というコミュニティへ行っております。」
「そうか。そいつへの挨拶はまだ先になる訳か。」
そう言うと、海翔は何かを考え込む仕草をした。
(……まっ、今んとこは何も心配もねえようだ。強いて言えば、空以上にアクの強い連中がいる事ぐらいか。空で慣れてるとはいえそれが後三人とかキツイな。)
そこでふと、常識人そうな黒ウサギとジンがそいつらに振り回されていると察して、哀れみの目線を送る。
〜sideエンド〜
◆
レティシアが戻ってきて、海兄との挨拶も問題なく済んだ。
その後海兄と話す。
「で、空。」
「何?」
「一応、親父さんやジジイから聞いてたが、九尾は……」
「力は使えるけど、多分全部ではないね。」海兄が知ってるのは初耳だけど。ってか、師匠たちも知ってたのか。
「やっぱか。ある意味予定内って言ったら予定内だけどよ。」
予定内……ね。師匠たちはどこまで予測してたんだろうね?
「その上で観察されてたわけか。」
「いじけるな。九尾は大国すら滅ぼしかねねえし、ジジイたちが慎重にもなる。」
いじけてないし。ただ実験動物みたいでやだなぁって思っただけだし。
「いちおう自分なりに調べたけど、口先だけで人を操れるんだっけ?」
「人心掌握に長けてんだよ。……思えば、昔から口うまかったよな。」
そうだっけ?という顔をしたら呆れた目を向けられた。
「容易く心に入り込み、自分の思うとおりに操る。タチわりいなお前。」
「俺は悪くないと思うんだけど!?」
「いや、九尾とお前は一心同体みてえなもんだろ。」
いや……ああうんそうかもしれない。
「ほかの奴らには……言わねえ方が良いな。お前が1人で片付けるべきだしな。」
何を?と思ったが、帰ってくる答えが予想付いた。
『自分で考えろ。』そう言われるだろうしなぁ。