箱庭に来て、一ヶ月経ったけど、海兄の乱入以外は大きな事は(ギフトゲームで勝ち過ぎて出禁になったけど些細なことだ。)起きなかった。平和ってのはいいものだね。
年寄りくさい思考になりながら、自室で作業することにした。弓が欲しくなった。
「となれば、手頃な木を見つけて……後は弦か。」矢は”道具作成”でどうにかするか。使い捨てする予定だし。
あっ。そもそも弓の作り方知らないや。そういえば、地下に書庫があるんだったけな?そこで調べるか。
クールダウンを終えながら、方針を決めて九尾形態から戻る。体が軽すぎるから慣らす目的で鍛練を九尾でやっているが、だいぶ慣れてきたな。
ついでに御札補充のプランを練りつつ、本拠の方へ帰る。元々持ち込んだ量も大して無かったから、そろそろ手持ちが尽きそうだ。
◆
部屋で寝てる月琉を起こしてから書庫にむかう。何で起こしたかって?これから問答無用に遠くに行く気がしたからだ。
書庫に入ると十六夜とジンがいた。ジンは寝落ちしてたけど。二人の邪魔をしないように静かに奥で調べ物をする。
目的の書物はすぐに見つかった。ついでにまさかと思いながら探したら、陰陽術関連の本も数冊見つけた。ラッキー♪
それらを読みつつ、気になる部分はメモをする。
「でも急にどうしたの?弓が欲しいなんて。」
「御札以外の遠距離攻撃が欲しくなった。御札が尽きそうって理由でな。」
海兄みたいな接近特化でも無いから、多少の遠距離攻撃の手段は必要だ。師匠からもそう鍛えるように言われてたし。
「そのくせ作り方知らないからって慌てて調べに来たの?」
「……返す言葉もありません。」
月琉と会話しながら、調べていると階段を慌ただしく下る足音が聞こえてきた。
その後を簡単に言うと、
飛鳥と耀がリリを連れて書庫に入ってきて、眠りかけてた十六夜にシャイニングウィザード―――つまりは飛び膝蹴りをかまし、盾にされたジンが綺麗に三回転半しながら吹き飛んだ。ビックリした。人ってあんなに綺麗に吹き飛べるんだね。
とりあえずジンの安否を確認するために参加する。
「飛び膝はやめた方がいい。十六夜や俺ならまだしも、ジンなら命に関わる。」
リリと月琉と共にジンを本の山から救出して介抱しつつ、飛鳥へ言う。まあもっとも俺がされたなら寝ぼけた状態だったら本能的にかわした上で反撃しかねないから、やめた方がいいけどね。一番の被害者は海兄。
「大丈夫よ。だって、生きてるじゃない。」
「デットオアアライブ!?というか生きていても致命です!!飛鳥さんはもう少しオブラートにと黒ウサギからも散々」
意外と平気みたいだ。
「御チビも五月蝿い。」
あっ、十六夜の投げた本の角が当たったらさっきよりも吹っ飛んだ。
再び失神したジンにリリがあたふたし、月琉は若干苦笑いしていた。
保護者(黒ウサギと海兄)がいないと収拾つかないメンツだからね。俺らは。誰も止める気なんてない。
「……それで?人の快眠を邪魔したんだから、相応のプレゼンがあるんだよな?」
壮絶に不機嫌そうな声で十六夜は聞く。その声に込められた殺気はこっちに向けられてないんだけど、怖い。月琉は即座に俺の背後に避難したし。
「空君もいるなら丁度いいわ。コレを読みなさい。絶対に喜ぶから。」
飛鳥は構いもせず、持っていた手紙を十六夜に渡した。
それを横から見てみる。
「双女神……ってことは白夜叉からか?えーと?北と東の”
つまりは祭りの招待状を白夜叉がくれたのか。
「そう。よく分からないけど、きっと凄いお祭りだわ。二人ともワクワクするでしょう?」
その質問の答えは、愚問だな。
面白そうなのは明らかだ。よし行こう。
全員行く気満々でいると、リリから呼び止められた。
「ま、ままま、待ってください!北側に行くとしてもせめて黒ウサギのお姉ちゃんに相談してから……ほ、ほら!ジン君も起きて!皆さんが北側に行っちゃうよ!?」
「……北……北側!?」
飛び起きたジンが慌てて問い詰めてくる。
「ちょ、ちょっと待ってください皆さん!北側に行くって、本気ですか!?」
「ああ、そうだが?」
「何処にそんな蓄えがあるというのですか!?此処から境界璧までどれだけの距離があると思っているんです!?リリも、大祭の事は秘密にと―――」
ん? それは聞き捨てならないな。
「あっ。これはダメだね。」
「「「「秘密?」」」」
四人で言うと、ジンは体を硬直させた。
恐る恐る振り返るジンに全員で、いっぱいの邪悪な笑みと怒りのオーラを放つ。示し合わさずにこの連携である。
その後は、まあ言うまでもないが、ジンを拉致って、リリに手紙を渡し、海兄への伝言の簡易式神を飛ばした後東と北の境界璧を目指して出発した。
◆
〜海翔side〜
「信じらんねえ程荒れてんな。 」
足元に広がるのは石と砂利のみ。
「土まるごと入れ替え……や、地脈ごとイカレてたら意味ねえな。」
手を地面に当て、舌打ちをした。
(崩壊の仕方が不自然だな。まるで数千年以上も経ったみてえだな。)
タバコを咥え、考え込む。
「たった三年でなるにはおかし過ぎるな……。ん?」
背後から声が聞こえた。
「……どいな。ここがあの農園区とは、にわかに信じ難い。石と砂利しかないじゃないか。」
「申し訳ありません。せめて水の都合が付けば子どもたちでも手を入れる事が出来たのですが」
記憶に新しい声に振り向くと金髪に特注のリボンを付けたメイドのレティシアとミニスカートにガータソックスという服装の黒ウサギの姿があった。
「え? あ、いや、黒ウサギ達を責めてる訳じゃないんだ。それにコレは人間の手でどうにか出来る物じゃないからな。……と、先客だな。」
海翔に気付いたレティシアはそう言う。それに軽く手を挙げて応じる。
「え? あ、」
レティシアの言葉で気付いた黒ウサギは小走りに近づいてきた。
「海翔さん!おはようございます。」
「ああ。」
挨拶に応じた海翔は咥えていたタバコをしまい直す。
「海翔は何故此処に?」
「散歩ついでに見て回ってた途中だ。」
一度言葉を切り、見回してから続ける。
「ここら辺の土地は死んでるな。どうやりゃこんな事が出来んのか……。人がどうこう出来るレベルじゃねえぞ。」
「海翔も分かるのか。その通りだ。此処はいくら水があろうと、生き物が巣食う余地がない。土壌を復活させるには膨大な時間がかかるだろう。」
「……はい。」
黒ウサギとレティシアは同時にため息をつく。
「そういや、さっきふと聞こえたんだが、ここって農園だったのか?」
「はい。かつてはとても緑豊かで、山吹色の穂波が揺れ、色彩鮮やかな果実を実らせ、コミュニティの支えとなっていました。」
懐かしむような黒ウサギ。
海翔は黒ウサギの言葉でその光景を幻視しながら言う。
「たった短期間でここまで荒廃させるなんて可能なのか?」
「時間操作による土地の自壊……これほどまでに大規模な事が可能な種は”星霊” 級以上、それも星の運行を支配する類なら可能です。」
「星の運行を司る星霊となれば、最強のフロアマスター・白夜叉か……もしくはかの黄金の魔王、”クイーン・ハロウィン”と同クラスの怪物という事になる。」
前者については海翔は話では聞いていた。このコミュニティが世話になっている人物だということを主に。同時に空からは「海兄と同じくらいに敵に回したくない。」と言われていたことも。
(星霊……確か、箱庭の三大最強種の一角とかいうヤツか。他には、神霊とか、龍種の”純血”……だったか。どいつもこいつも厄介揃いだな。)
海翔が考え込んでいると、ヒラヒラと何かが落ちてきた。拾い上げてみると、伝言用の式神だった。
「空からか。」鶴のように折られたそれを広げ、海翔の表情が固まった。
黒ウサギとレティシアにも伝えようと顔を上げると、本拠の方から誰か―――年長組の一人、リリが泣きそうな顔で走ってくるのが見えた。
「リリ!?どうしたのですか!?」
「じ、実は飛鳥様が十六夜様と耀様、空様を連れて……あ、こ、これ、手紙!」
忙しなく二本の尾を動かしながら、リリは黒ウサギへ持っていた手紙を渡した。
(……ああ。何となく読めた。)既に式神で内容を知った海翔はため息をつき、書かれた伝言の内容をもう一度見る。
『海兄へ。
北側の四〇〇〇〇〇〇外門と東側の三九九九九九九外門でやる祭りに行ってくる。
黒ウサギとかレティシアも連れて後で来なよ。
PS.黒ウサギには急いで来るように言った方がいいよ?』
「な、―――……何を言っちゃってんですかあの問題児様方あああああ―――!!!」
三十秒ほど黙り込んだ黒ウサギは手紙を読み終え、辺り一帯に響き渡る絶叫をした。
「……まあ空が面白いイベントを見逃すわけないか。」苦笑い気味に呟き、他の問題児と混ぜるとどんな驚異になるか、しっかりと再確認した。
「……とりあえず、あいつらは仕置きだ。」
〜sideエンド〜