東方狂界歴   作:シルヴィ

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2万文字超えた!キャラクター設定とかとあわせると3万5000文字……
……頑張って読んでください。途中で若干ふざけたところを載せて息抜き?
的な箇所はあるので……


シオンの能力

 「多分気付いているだろうけど、俺が使ってる能力は『重力制御』と『空間制御』と後一つある」

 「やはり、そうですか」

 そう呟いたのは、咲夜だった。

 彼女は、自身に宿る能力によって、シオンが扱っている力が何なのか予測できていた。しかし、種族が持っている能力と他の能力を持っている、という場合で無い限りは、能力は一つしか持っていないのが普通なのだ。だが、シオンは当たり前のように三つの能力を使っていた。だからこそ、咲夜はそれが正解なのかどうか半信半疑だった。

 が、それでもわからないこともある。

 「しかし、シオンの能力は別のものだと言っていましたよね。まさか、お嬢様の言う通り、嘘だったということですか?」

 「いや、嘘は言ってないよ。重力制御と空間制御は、()()()()()()()()()()

 「シオンの能力では無い?」

 混乱に拍車をかけそうになった咲夜の横から、フランが身を乗り出してきた。

 「その剣の能力だから、シオンの能力じゃない。……そうなんでしょ?」

 「……よくわかったね」

 シオンの胸に煌めいている漆黒の剣を指差しながら言い切るフランに、シオンは誤魔化さずに肯定した。

 それに慌てたのは、咲夜でもフランでも無く、パチェリーだった。

 「ま、待ってちょうだい。能力を持った武器なんて、聞いたことがないわ」

 パチェリーは人生の殆どを魔法と本を読むことに費やしてきた。その知識から、そんな武器は無いとわかっている。けれど、パチェリーは自身が学んだ知識だけが全てでは無いともわかっていた。

 「……とにかく、教えてくれない?貴方の――いえ、その剣の能力を」

 右手の人差し指を額に当て、冷静さを取り戻したパチェリーがシオンに願う。その瞳には、知りたいという知的好奇心のようなものがあった。

 それに釣られてか、他の四人もシオンを凝視してきた。だが、シオンが言ったのは見当違いの言葉だった。

 「……貴女は誰?」

 五人は自分がズルッとこけるような錯覚を覚えた。しかし自己紹介をしていなかったと思ったパチェリーは、それで無理矢理自分を納得させた。

 「そういえば、貴方を見つけた時はもう意識を失っていたわね。私はパチェリー・ノーレッジ。この紅魔館に居候させてもらってる魔法使いよ。……一応、美鈴もしておいたらどう?」

 主語は抜けているが、自己紹介をしろと言われた美鈴は頷く。

 「わかりました。私は紅美鈴です。趣味は鍛錬ですね。最近は花を育てることも楽しいと思っていますよ。……まあ、全部吹き飛んでしまいましたが」

 美鈴はどこか遠い目をして言う。その原因を作った張本人のフランは、気まずそうに顔を背けた。

 「ご、ごめんなさい」

 「いえ、花はまた植え直せばいいですから」

 沈鬱して項垂れるフランに、美鈴はフォローを入れた。その顔には少しだけ冷や汗が滲んでいた。……美鈴にかなりきつい睨みを入れているレミリアのせいだろうが。

 今まで閉じ込め続けていたという負い目があるせいか、レミリアはフランに対してどこか過保護過ぎると思ったパチェリーは、とりあえずシオンに水を向ける。

 「私たちは貴方の名前を知っているけど、貴方は自己紹介をしないのかしら?」

 「え?まあ、それもそうか。俺はシオン。姓名は無い。意外だと思うけど年齢は九だ。趣味は美鈴と同じく鍛錬。といっても、俺の場合は何でもやるけどね。特技――というより、得意なものは()()だよ」

 「戦争?戦闘ではなくて?」

 一部おかしい部分があったため、パチェリーはそれが誤りではないかどうかを聞いた。けれど、これは間違いではない。

 「いや、あってるよ。俺は一対()()()()の大多数が入り混じった戦闘は得意だからね。そこまでいけば戦争と言っても過言じゃないだろ?」

 「確かにそうね。そんな戦いができる貴方は色々とおかしいことがわかったわ」

 余りにも常識の埒外過ぎるシオンに、パチェリーは「おかしい」の一言で片づけて次に進ませることにした。

 「もう一度聞くけど、その剣の能力を教えてもらえないかしら?

 「まぁ、どのみち教えるつもりだったからいいけどさ」

 「御託はいいから、速く教えなさい」

 「……それじゃ、黒陽の説明からさせてもらうよ」

 もう待てないと言わんばかりのパチェリーに無理矢理急かされたからか、シオンはどこかぶっきらぼうに言い放つ。

 「黒陽と白夜は、両方とも普段から封印されている状態になっている。これは常に完全解放状態だと俺の体がもたないからこうなっていて、本来の力の五~一〇%しか引き出せないんだよ。だから、普段封印している時は攻撃や防御の補助(ブースト)程度にしか使えない」

 「なるほど、そういうことでしたか。結構気になっていたんですよね」

 「美鈴、いきなりどうしたの?」

 いきなり納得できたと言わんばかりに笑顔を浮かべている美鈴に、そちらの方へと体を向けたレミリアが問う。

 美鈴は恥ずかしそうに頭の後ろを掻きながら答えた。

 「私が最初に侵入者と間違えて襲いかかった時のことなのですが、シオンが私の蹴りを素手で受け止めたんですよ。その時、何でシオンは吹き飛ばされないのか悩んでいたので、その理由がわかったから納得できた、というわけです」

 軽く言ってはいるが、実はかなり気にしていた。人間の子供を吹き飛ばせないほど弱くなってしまったのかと。しかし、今やっとその理由を理解できた。

 そこで美鈴が、自分が話を逸らしてしまったことに気付いた。

 「あ、すいません。話を逸らしてしまって。シオン、続きをどうぞ」

 「わかった。……それじゃ、続きを言わせてもらうけど、黒陽の能力でいまのところ理解できているのは、白夜と共通している『能力解放』。それと『重力操作』と『形態変化』の三つだ」

 「ねぇ、後の二つはともかくとして、能力解放は技の内に入るの?」

 レミリアがもっともだといえる疑問を言う。それに対して、シオンは能力解放を技と言っている理由を説明した。

 「元々黒陽と白夜は、ゼロである封印状態か、一〇〇である完全解放状態かしか選べないんだ。だからこそ、能力を半分まで解放するこのトリガーを作ったってわけ」

 「あの力で半分、ね。けどそんな物を作る必要があるのかしら?」

 「まあ、普通はそう思うだろうね。けど一つ間違いがあるよ、レミリア」

 「間違い?」

 「そう。俺は黒陽の力を完全に扱えてるわけじゃないってことを忘れてる」

 シオンはこの力を完全には扱えない。というよりも、扱えるわけがない。半分の力を扱うのですら、手を焼いているのだから。

 「それに能力解放を作った最大の理由は、黒陽を使った時の反動を抑えるためなんだ。もちろん弱点もある。半分()()解放できるだけであって、必ずしも半分の力を使えるわけじゃない」

 「リスクが高いけれど、それでも使わなければ使いこなせないってことね」

 「そういうこと」

 シオンとレミリアの話を聞いて、フランは自分の推測が当たってるのではないかと思った。

 「シオン、能力の反動って、使ってる最中に体が押し潰されることなの?」

 フランの推察に、シオンは少し驚いてしまった。それと同時に、やはりフランは頭の回転がいい、とも思った。

 「半分正解。正確には、『使った重力の何十分の一から何分の一までの間で、体の()()に重力の負荷がかかる』ってところかな」

 「あの不可解な怪我の仕方は、そういう理由だったのね」

 「それに、体の内側にかかるってことは、ほぼガード不可能って意味でもあります」

 「美鈴、それはどういうことかしら」

 またもレミリアに質問された美鈴は、しばし考えてから言った。

 「えっと、例えばお嬢様が殴られかけたとしますよね?その時、お嬢様ならどうしますか?回避や武器で受け止める、という選択は無いと考えてください」

 そう言われて、レミリアは実際にそうなった時のシュミレーションをする。そしてシュミレーションを終え、美鈴に正解かどうかを尋ねた。

 「妖力を使って防御をあげるのと、痛みに堪えるために体を固めるってところかしら?」

 「そうです。しかし、体の内側に直接負荷がかかった場合では、それはできません」

 実際に殴られた場合にわかる。身構えて受けるのと、不意打ちでいきなり食らわされた場合では、後者の方が痛みが強い。

 更に付け加えると、黒陽の反動はそんな生易しいものでは無い。

 「――しかも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からね」

 「え……!?」

 流石にそれは予想していなかったのか、美鈴の頬が引き攣った。他の三人も似たり寄ったりの顔をしていた。唯一フランだけが理解できていないらしく、首を傾げていた。

 しかし彼女たちの反応は大げさなわけではない。それはそうだろう。人が殴られた時に仰け反るのは、そうした方が衝撃が少ないからだ。衝撃を分散させ、威力を減衰させる。だが全方向から衝撃が来るとしたら、それすらできない。いや、むしろ通常よりも遥かに高い激痛が襲ってくるはずだ。

 シオンは、そんな痛みに耐えながら重力制御を使っている。それに思い至った美鈴は、失礼だとは思いながらもシオンが正気かどうかを疑いたくなった。

 「シオン、貴方は、死ぬ気なのですか?」

 「別に死ぬ気はないんだけど……。美鈴だってわかってるだろう?痛みをこらえてでも使わなきゃ、生き残れないことくらい」

 それは事実だった。シオンはこの力を使わなければ、もうとっくの昔に死んでいる。

 「そもそも、体重が大体二十キロ以下しかない俺が、美鈴やフランの攻撃を受け止めるなんて常識的に考えれば不可能だなんてことはバカでもわかる。普通は耐え切れずに吹き飛ばされるんだから。膂力だってそっちの方が上だしね」

 「それもそうね。そしてそれを補助(アシスト)しているのが、その黒陽の力ってわけ」

 「そうしなきゃ、受け止めるなんてできないだろう?」

 例え大人の重さであろうと、妖怪の筋力から判断すればそこらの石ころと変わらない。まして四歳児と変わらない身長と体重であるシオンなど言わずもがなであろう。

 それでもシオンが美鈴やフランの攻撃を受け止められたのは、黒陽のおかげだった。

 「『重力操作』は重力を『生み出す』のではなく、元からある重力を『操る』力だ。だから受け止める時は重力を『収束』させ、本来の重力の影響の数十倍まで増やす。そうやって初めて美鈴たちの攻撃を受け止めることができる。それ相応の反動はあるけどね」

 しかし、この重力の影響を増やすのは本来自滅技に近い。自分の体重の数十倍の負担をかけて、当たり前のように行動できるはずがないからだ。赤ん坊にテーブルを持たせようとするのと似たようなものである。

 「逆に重力を『拡散』させて動きを速めたりもできる。戦闘中に加減を間違えると、逆に動きを阻害されて殺される確率が段違いに跳ね上がるけどね」

 「当たり前ですよ。というか、普通は体勢を崩してそれで終わりなんですけど……」

 「そこは慣れでできる」

 「慣れでできるのなら、誰も苦労しませんよ!」

 美鈴の当然ともいえる反論をシオンはスルーした。

 「それと重力を『消失』させて相手の攻撃のタイミングをずらして空ぶらせたりもできる。後は重力を収束させて重力球を作って攻撃したりってとこかな」

 「無視ですか」

 シオンにあっさりと無視された美鈴はガックリと項垂れた。

 「それと、この能力は周囲の重力を使うから下手に重力を変動させると、少し動いただけで重力が数十倍になったり、逆に消失したりする歪な空間ができあがる。だから使いすぎにも注意しないといけないんだ。一見便利に思えるけど、黒陽の能力って結構繊細何だよ」

 やってられないとばかりに首を振る。と、そこでフランが、シオンが()()()()()()()()()()()()を聞いてきた。

 「ねぇシオン、一つ疑問に思ったんだけど」

 「ん、何かあるのか?」

 「戦ってる時にその反動を喰らったら、どの道動きが阻害されると思うんだけど、そこはどうしてるの?」

 「――ッ!!」

 純粋に聞いたのであろうフランのその言葉に、シオンは体を強張らせる。そんなわかりやすい行動をすれば、この五人にバレないはずがなかった。

 「……シオン、隠さずに話しなさい」

 「……わかっているさ」

 苦虫を噛潰したかのように渋い表情をしながら、シオンは言った。

 「黒陽と白夜もそこらへんは考えてくれてるらしくてね……。もう一つの選択肢を用意してはいたよ」

 はっきりと明言するのを避けたからか、抽象的になってしまった。しかし、それだけで五人はその内容を理解した。

 それを聞くために、フランが恐る恐るといった風に言った。

 「まさか、後で一気に、とかじゃないよね……?」

 更に渋い顔をするシオンの反応から、それが正解だとわかってしまった。

 「そんな……!」

 もう隠しきれないと悟ったのか、シオンはかなり嫌そうに言った。

 「……もう一つのリスクは、一定時間反動を全て失くし、効果が切れるのと同時にタイムラグ無しに一瞬で来る。一回一回が少なくても、総量が大きければ大きいほどに反動が酷くなっていく。そういう狂気のような選択肢が、黒陽と白夜が提示したものだ」

 先程の『重力操作』の説明と組み合わせると、シオンが何故あんな大怪我をしたのかが完全に理解できる。そして、シオンは戦闘が長引けば長引くほどに不利になってしまうということも。

 「……本当に、狂気そのもののような選択肢ね。反吐がでそうになるわ」

 実際にシオンの体の中身を調べたパチェリーは、やっていられないといわんばかりに暴言を吐いた。マナーが悪いとしか言いようがなかったが、誰もそれを注意しなかった。

 程度の差はあれど、皆大なり小なりそう思っているからだ。

 「まあでも、ただの人間である俺が小細工無しでフランの攻撃を受け止めることなんてできないから、これはこれでありがたいとしか言えないんだけどね。技術で差を埋めるのにも限度があるし」

 気か何かがあれば話は別だが、シオンはそんなものは知らないし、使い方もわからない。どっちにしろ、シオンはそんな使えもしない物に縋るつもりもない。それ故に、今使えるもの全てを使って生き残るしかない。だからこその小細工。

 だがそれを除いても、シオンの言い方には疑問が残る。『ただの人間』という部分をやけに強調していたからだ。――まるで、自分は人間だと信じ込もうとしているみたいに。

 けれどシオンはその場の空気を感じ取ろうとすらせずに、言った。

 「また話が逸れた。最後に『形状変化』だけど……これは実際に見せた方が早いな」

 首に掛けた黒陽に触れると、小さく「能力解放」と呟いた。そして半分だけ枷が外れた黒陽は、何かを集めているかのようにうごめき始める。

 それを気にせず、シオンは右手に持った黒陽の形を剣に変え、更に()()()()()()()()()()()

 「これ、は……」

 「キレイ……」

 「それは一体?」

 「凄いですね……」

 「興味深いわね。後でもっとよく観察させてちょうだい」

 レミリア、フラン、咲夜、美鈴、パチェリーの順で()()を見た。

 黒陽を持っていたはずのシオンの右手の掌には、何の不純物も混ざっていない黒い塊があった。その塊の先は一切見えず、まるで終わりの見えない闇そのもののようだった。その危うさに反して、大きさは小さい。シオンの掌で覆い隠せると思えるほどだ。

 「これが『形状変化』と言ったわけ。本来の形が小さな重力の塊である黒陽は、決まった形が無いんだよ。だから、俺がその気になればどんな形にでも変えられる。こんな風にね」

 重力の塊をレミリアの『グングニル』と似たような形状に変える。

 「私のグングニルと同じ形……?」

 「本物よりも創りが荒いよ。一瞬しか見えなかったし、全体を見た訳じゃ無いから」

 それでも異常なまでに似通っている。そう思ったレミリアを余所に、シオンは枝のような形をしている剣に変えた。

 「今度は『レーヴァテイン』……」

 燃えているわけではないが、グングニルよりも正確で精巧な形をしたレーヴァテインがあった。

 全員がそれを見終えたと確認したシオンは、再度グングニルの形に戻すと、バトンのように片手でクルクルと回し始めた。

 「まあ、こんなとこかな。ああ、それと黒陽を変えられる大きさに限度は無いから、その気になれば大陸を真っ二つにするような巨大な剣の形にもできるよ。重さはその物体の大きさに比例するし、重さ自体は変えられないから、押し潰されるのがオチだけど。理由は不明」

 「けど、かなり便利な能力に変わりないわ。持ち運びは簡単で、得物は自由自在。正直羨ましいわね」

 「……妖力で武器を出現させられるくせに、欲張りだな」

 「何か言ったかしら?」

 「いや、特に何も」

 ニッコリと満面の笑みを浮かべるレミリアを見て、シオンは触らぬ神に祟りなしとばかりに肩を竦めて恍ける。そして黒陽をアクセサリーに戻して首に掛ける。

 「弱点は重力が存在しない場所だと剣の形すら保てない……んだけど、無重力空間なんて殆ど無いから、弱点は無いに等しいね」

 「リスクにさえ目を瞑れば、かなり強力なのにね……」

 「俺も本気でそう思うよ。……じゃ、次は白夜の能力の説明に入るかな」

 「シオン、その前に教えてください。白夜のリスクとは?」

 白夜を取り出そうとしたシオンに、咲夜は手を出して遮る。シオンは手を下ろしてから言った。

 「黒陽の反動の内容を『捩じ切られる』に置き換えればそれがリスクになるよ」

 「……そう、ですか」

 予想できていたのか、咲夜の反応は小さかった。

 「もういいか?」

 「はい。ありがとうございました」

 「別にいいよ。それじゃ――」

 空間に左手を入れて白夜を引き摺り出す。

 「白夜の能力は、『能力解放』と『空間操作』。そして『空間固定化』と『空間断絶』の四つだ。能力解放は黒陽と同じだから、飛ばさせてもらうよ」

 そして黒陽と同じように「能力解放」と言う。そして、白夜を上へと投げた。しかし、天井に当たる前に白夜の姿を見失う。

 「……消えた?」

 「消えたんじゃない。目の前にあるよ」

 シオンは投げた白夜をレミリアの真下から出現させる。元々上へと投げられていた白夜は、その勢いに従ってレミリアの目の前を通過し、また消えた。そして、シオンは自身の傍に移動させた白夜を左手で掴みとる。

 「これが空間操作による空間転移。本当は空間切断とかもあるんだけど、一番わかりやすいのはこっちだからね」

 「ちょっと待ってください。確か、シオンは空間転移をする時は切る動作をしていませんでしたか?」

 咲夜の言う通り、シオンは空間転移をする場合は空間を切らなければいけない。が、今回は少し勝手が違った。

 「それは俺自身が移動する場合であって、空間その物を凝縮させてできてる白夜を転移させるだけなら、わざわざ切る必要はないんだよね」

 「空間そのものを凝縮させた……?」

 「うん、そう。白夜は黒陽と違って形すら存在しない。だからこんな風にもできる」

 そしてシオンは白夜を『ほどいた』。すると、白夜はリボンがほどけるようにスルリと消え去った。しかしすぐに先程の光景を逆再生するかのように元の剣に戻る。

 「これが空間を凝縮させたって言った理由。元々の形が存在しない白夜は、こうやらないと剣の形にもならない。そのくせ、何故か剣以外の形にならない」

 「理由は?」

 「謎」

 「……は?」

 レミリアは簡潔に一言でわからないと言い切るシオンに対して、しばし呆然とする。すぐに我を取り戻すと、すぐにシオンに詰め寄った。

 「わからないって、これ、貴方の能力なんでしょ?」

 「違う」

 「……違う?」

 再度簡潔に答えたシオンは、この場にいる全員に衝撃的な言葉を言った。

 「この能力は――いや、黒陽と白夜は()()()()()()()

 『は……?』

 余りにも予想外過ぎる発言に空気が凍りつき、全員が一瞬だけ固まる。しかしすぐに元に戻ると、レミリアがシオンに向かって言った。

 「シオン、貴方はその剣をどこで手に入れたの?」

 「……場所はわからない。そもそもあの場所が何のためにあったのかもわからないんだ」

 「どういうこと?」

 「この二つの剣は、多分どこかの異空間にあったものだと思う。俺はそこで、これを貸してもらった――というより、無理矢理渡せられたという方が正しいのか?」

 その内容を咀嚼したパチェリーは、信じられないものを見るような目で言った。

 「それじゃ貴方は、どこで手に入れたのかも、何で渡されたのかも知らず、そしてどんな力を持っていてどんなリスクがあるのかもわからずにソレを使っていた……ということ?」

 それを聞いたシオンは、罰が悪そうに後頭を掻きながら目を逸らした。

 「……一応、どんな力があるかは知ってたよ」

 「……つまりそれ以外は知らなかった、と」

 腰に手を当てて呆れたとジト目を向けてくるパチェリーに苦笑いする。

 「使わないと生き残れないような状況にいたしね」

 「本当に、貴方はどんな人生を送って来たのだか……。一度頭の中身を覗いてみたいわ」

 「流石にそれは嫌だ」

 即答するシオンに、パチェリーは「冗談よ」と告げると、自らを落ち着かせるように壁によりかかった。

 それを何となく眺めていたシオンに、横から声が聞こえた。

 「あの、空間固定化と空間断絶の二つの説明をお願いできませんか?」

 そう言ったのは意外にも咲夜だった。厚かましいと思いながらも片手を挙げてお願いしているのは、何か理由があるのだろうか。

 「それはいいけど、意外だね。まさか咲夜が言うとは思わなかった」

 「少し、気になりますので……」

 「まあいいけど。とりあえず空間固定化に関しては見せた方が早いかな……。美鈴、合図したら手加減無しに殴ってくれないか?」

 「はい?」

 素っ頓狂な声を出す美鈴を無視して、シオンは白夜の能力を使う。そして自身の目の前に右手を置くと、合図をした。

 「んじゃ、お願い」

 「はぁ……」

 何をするのかと訝しみながらも、美鈴はシオンの前に出ると、腰を落として態勢整える。そして――一切の手加減無しに、思いっきり殴った。

 「ふっ!」

 それがシオンの手に衝突する寸前、途轍もなく硬い物を殴りつけたような音がした。

 「え?」

 しかし、何も起こらなかったわけではなかった。シオンの目の前の空間に、大きなヒビが入っていたのだ。それに美鈴が驚いたのだが、シオン自身も驚いていた。

 「結構本気で固定させたんだけどな。まさか、ここまでヒビが入るとはね」

 手を下ろしながらボヤく。それと同時にヒビの入った空間が元に戻り始める。薄気味の悪い光景に、美鈴は冷や汗を掻いた。

 「これは?」

 「これが空間固定化。空間そのものを壁あるいは盾などを参考にして作ったある意味最強の盾」

 「ある意味とは何でしょうか」

 「持ち運ぶ必要が無いから余計な体力を使わない。咄嗟の判断でも作れるし、長い時間をかければ白夜よりも一段劣るけれどそれでも十分に堅い盾にもできる。空中にいる時は足場にもできたりする。それと――」

 そこで一旦区切ると、右手で白夜とよく似た剣を作る。だがそれは、白夜よりも数段劣りる光を放っているが、どことなく透明な剣だった。

 「――こんな感じで、剣にもできる。まぁ白夜よりは数段劣るけど、それでもそこらの剣よりは鋭さも何もかも上だよ」

 それだけ言って贋物の白夜を放り捨てる。地面に落ちる前にほどけて消えた。

 「で、次は空間断絶なんだけど……。これは、何て言えばいいのかな」

 「何か表現しにくいところでもあるの?」

 「そういうわけじゃ無いんだけど――」

 シオンは困ったように眉を寄せる。しかしすぐに白夜を逆手に持って、切っ先を地面に向けた。

 「やっぱ実演した方が早いか」

 そして切っ先を地面に突き刺す。先程の固定化と違い、目に見える壁が見えた。無色透明、それなのに見えるという矛盾でありながら、その壁は当たり前のようにそこにあった。

 「レミリア、弾幕使ってもいいから攻撃してみて。()()()()()()()()

 「……それだと、その壁が壊れちゃうんじゃないかしら?」

 念のために確認するレミリアに、シオンは自信たっぷりに言った。

 「平気だよ。絶対に壊れないから」

 「そう。なら遠慮はしないで行かせてもらうわ――」

 レミリアはグングニルを召喚すると、自身の妖力の四分の一を集める。膨大な妖力が槍の先に集まる途中で突風が吹き荒れ、フランたちは慌てて距離をとった。

 「ハァ!」

 槍を突く前に身体強化を使って更に速度を速めておく。音速を当たり前のように越えたその突きは、当たれば全てを消し去りそうな威力が秘められていた。しかし実際は――あまりにもあっさりと受け止められていた。

 何の音も立てず、美鈴のようにヒビすら入らないという事実にレミリアは硬直し、動きが止まる。もしもこれが戦闘ならばこれで終わりだが、あくまでもわかりやすく説明するために見せただけである今は余り問題は無かった。

 が、どうしてこんなにも軽々と受け止められたのかがわからないレミリアは、軽く落ち込んでしまっていた。

 「……少し、自信を無くしそう」

 「いや、これがこの結界の効果だから、余り気にしない方がいいと思うよ」

 今にも溜息を吐きそうなレミリアにフォローを入れてから白夜を抜き、断絶を解除したシオンは、この結界の効果を説明し始める。

 「この結界は、空間と空間を断絶させている。原理的な説明は面倒だから省くけど、白夜とほぼ同じか、それ以上の強度を持っていると思うよ。この結界の中にいる時は、相手の攻撃を全て弾く最強の盾になる。空間断絶は簡易的な異世界の作成って感じかな」

 「何よソレ……。もうズルいとかそんな領域じゃないわよ」

 実際にその堅固さを見せつけられたレミリアは、笑えないとばかりに首を横に振る。だが、この能力はそこまで扱いやすいわけではない。というより、黒陽と白夜の能力は意外と弱点が多いのだ。

 「いや、結構弱点は多いよ?空間転移は距離ゼロにするんじゃなくて、移動にかかる時間をゼロにするだけだから、転移した距離に応じて疲労する。俺は常人よりも体力が多いけど、一回の転移は二十――いや、三十キロが限界だ。何より一度言った場所に対しての移動でしか使えない。それに固定化を使う状況になるのは瞬間的な防御が多い。こうなると強度に不安がでる。歩きながら使えばいいと思うだろうけど、固定化は止まった状態でしか使えないから、移動しながら固定化はできないんだよ。断絶は相手の攻撃を必ず弾くけど、逆に自分も攻撃できないし移動できなくなる。更には同じ空間制御を持ってる相手や、『世界そのものを渡れる』相手にはほぼ無意味。しかも白夜が地面から抜けたら結界が止まるっていうわかりやすい弱点もある」

 「確かに、かなり弱点が多いわね」

 「ですが、それを差し引いても強大な能力には変わりありません」

 「そうだよ。というより、こんな便利な能力持っててそれでも不満があるの?」

 レミリア、咲夜、フランが口々に言うが、シオンは沈黙を返すだけだった。そこで、あの戦闘を見ていた美鈴が口をはさむ。

 「そういえば、シオンはほとんどの能力を、剣を始点にして発動してますよね。その理由、は……」

 そこで声が尻すぼみになる。シオンがわかりやすく驚いて、目を丸くしていたからだ。

 「あの、私は何か変なことを言ったのでしょうか……?」

 「ああいや、違う。まさか一回見られただけで悟られるとは思わなかったから、驚いただけだよ」

 「そうでしょうか?私の他にも気付いている人は――」

 美鈴は周囲を見渡すが、フラン以外の全員がさっと素早く目を逸らす。どうやらわかっていなかったらしい。

 とりあえずそれを見なかったことにした美鈴は、唯一目を逸らさなかったフランに聞いた。

 「フラン様は気付いておられたのですか?」

 「え、何で?シオンの話を聞いてればわかるでしょ?」

 フランは何をおかしなことを聞いてくるんだ、と目で語っていた。それを聞いてしまった三人は、心にグサリと棘が刺さった。

 レミリアは余りに不条理なシオンの能力に目を奪われ、咲夜は()()()()()()()()()()()()()()()()、パチェリーは自身の知的好奇心を優先させた結果だが、純粋なフランの言葉故に心にかかるダメージは甚大だった。

 しかしフランはそれに気付かずに言った。

 「それに私は暴走してたとはいえ実際にシオンと戦ってたんだから、気付かない方がおかしいよ。その経験と今の話を組み合わせれば、答えには辿り着けるからね」

 「やはりフラン様は頭の回転が速いですね」

 美鈴は感嘆の息を吐く。だが、フランは頭を振ってそれを否定した。

 「確かに頭の回転が速いとは思うけど、美鈴の方が凄いよ。私みたいに戦ったわけじゃないのに、気付けたんだから」

 「私の場合は実戦経験が豊富なだけですよ」

 笑って否定する美鈴だが、実戦経験が皆無に等しいフランはそれだけでも十分だった。

 「やっぱり美鈴の方が凄いよ」

 「……なら、私は実戦に対して、フラン様はこういった頭を使う方が凄いということにしておきましょう」

 終わりが無いと思いはじめた美鈴は、そう言って纏める。フランも素直に頷いてそれを受け入れた。

 未だ心に甚大なダメージを負っている三人を無視して、美鈴はシオンに言った。

 「それで、何故剣を始点にしているのですか?」

 「それは――」

 「シオンの重力制御と空間制御能力は、あくまでも剣の能力であって、シオン自身の能力じゃないから。そういうことでしょ?」

 答えようとしたシオンの言葉を遮って、フランが言う。またも正解に辿り着かれたシオンは驚きながらも頷いた。

 「……やっぱりフランは頭の回転が速いな。レミリアよりも才能あるんじゃないか?」

 「グッッ!!」

 「さっきも言ったけど、シオンの説明と美鈴の考察を聞けばわかることだよ?」

 シオンに遠まわしとはいえ「妹よりも劣っている」と言われ、更にフランにその事実を認識させられたレミリアは、少しだけこの世の全てに絶望したかのような顔をする。

 しかし誰もフォローを入れずに無視して、シオンは話を進めた。

 「とりあえず、フランの答えで正解だ。これで黒陽と白夜の能力で俺が扱えるものは全部説明したよ」

 「他にはないの?」

 「俺が黒陽を預けさせられたのは三年前で、白夜は眠っていた時も含めると()()()だからなあ。流石にこれ以上は――」

 「ちょっと待ちなさい」

 絶望していたはずのレミリアが復活し、シオンの言葉を遮った。

 「……何だ?」

 若干不機嫌そうに言葉を返すシオンに怯みながらも、レミリアは言った。

 「さっき、白夜を手に入れたのが『四日前』と聞こえたのだけど……それは本当?」

 「嘘を言ってどうなるんだ?俺はここに来てから――いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「は……?それ本当なの――って、そんなことを聞いても仕方がないわね」

 レミリアは更なる衝撃の事実に固まりかけるが、あっさりとスルーした。余りにもあっさりしすぎているレミリアに訝しみながらも、シオンは続きを聞いた。

 「おそらく、四日前にその剣を手に入れたのも嘘ではないのでしょう。そもそもたった九歳の人間が大妖怪と対等に渡り合える時点でおかしいのだから。……まあ、()()()()という例外はいるけれど、例外は一人とは限らないのだし」

 「あの巫女?」

 「気にしないでいいわ。貴方がこの世界を旅するというのなら、その内会えるでしょう」

 レミリアは手をヒラヒラと振ってはぐらかす。シオンはまあいいかといったふうに頷いた。そこでフランが割って入って来た。

 「ねえ、そろそろ剣の能力じゃなくて、シオンの能力を教えてよ!」

 そこでやっとシオンが自分の能力を説明していないことを思い出したレミリアたちは、シオンに言い寄った。

 「ここまで話したのだから、早く説明してちょうだい」

 「そうですね。今更止められても困りますし。それに――」

 「――シオンの能力が何なのか気になって、何も手につかなくなりそうです。というわけでシオン」

 「気絶する前に『全部話す』と言ったのだから、一切誤魔化さずに、きちんと教えなさい」

 フランが偶然とはいえ本来の目的を思い出させ、パチェリーが催促し、美鈴と咲夜が追い打ちをかけ、レミリアが止めを刺す。見事なコンビネーションだった。

 けれどシオンは無言で窓へと歩み寄ると、夜空に浮かぶ少しだけ欠けた満月を眺めるだけだった。その背中には、どこか悲しさと憎しみが滲んでいるのが見えた。

 やがて体の左半身だけをレミリアたちの方に向ける。レミリアやフランと同じ赤色の瞳は、まるで無機物のような錯覚を五人に肌で感じさせた。

 そして、唐突にシオンは話し始める。

 「俺の能力は『体細胞変質能力』。幻想郷風に言うなら『自身の体の細胞をあらゆる物質に作り変える程度の能力』かな」

 「体に……ではなく細胞を別の物質に作り変える?それに差なんてあるのかしら?」

 レミリアの疑問に、シオンは自嘲するような笑みを浮かべた。それからこの化け物としか呼べないような力を言った。

 「この力は、その存在の記憶や体に染み付いた癖、何らかの経験といった絶対にコピーできない物以外の全てをコピーできる。ちなみに変えられる物質に限度は無い」

 それを聞いたパチェリーは息を呑んだ。だが、パチェリーほどの知識を持ち合わせていないレミリアにはそれが理解できなかった。

 「だから、それがわからないの」

 苛立ち始めたレミリアに、シオンは何の感情も見えない声をぶつける。

 「この能力は、体の外見じゃなく中身を作り変えるものだ。端折って言うと、例えばフランの細胞をコピーした場合は、フランの力や五感、吸血鬼の特徴と能力、そして()()()()()までほぼ全てを自身に反映できる」

 「「「「――ッ!」」」」

 「……その能力に、制限はあるのかしら?そこまで強大な能力なら、何かありそうなのだけれど」

 ある意味では黒陽や白夜よりも強力な能力に四人は絶句したが、唯一先に理解できていたパチェリーは冷静に訊ねた。

 シオンの持っている能力はどれもリスクが高い。それに思い至ったパチェリーは、この兄弟過ぎる能力にも何らかの制限があると思ったのだ。というより、そう思わなきゃやっていられないと思っていた。

 「制限というよりは弱点がある。これは実際になってみてわかったんだが――植物とか鉱石なら問題ないんだけど――大妖怪レベルの細胞になると俺の細胞が耐え切れない。比率にすると俺の細胞が三、妖怪の細胞が七ってところかな。これ以上やると俺の体が自壊する。それにその物質の特徴を映すってことは、その物質の弱点すら映し取ってしまう。何故か特徴とかそういったものは完全に映してしまうから、フランの細胞をコピーした状態で日の当たるところに出れば焼けるよ」

 「弱点と呼べるような物とは言い難いわね。他には?」

 更に急かすパチェリーに訝しみながらも、シオンは続きを言う。人と接したことが無いというシオンの経験不足が如実に表れていた。もしもまともな人生を歩んでいたなら、パチェリーが焦っていた理由もわかっただろう。

 しかし今のシオンにはそれがわからない。だから急かされるままに答えた。

 「他には妖怪の細胞に変える時、人間の細胞が残ってしまっているから、あくまでも『劣化コピー』程度にしかならない。それと俺の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だからわかる奴にはコピーした相手が誰かわかっちゃうんだよね。まあ、大雑把な予測くらいしかできないだろうけどね。これの超簡易版のようなものがレミリアと咲夜に説明した『あらゆる体に作り変える程度の能力』ってわけ。それぞれをかけあわせると――こんな感じになる」

 そう言ってシオンは能力を発動させる。そして――服装以外の外見がフランとよく似た少女が目の前に現れた。

 「……私にそっくり」

 フランはその余りのクオリティに感嘆の息を漏らした。

 「まあ、こんなところかな」

 「流石に声は変えられないのね」

 レミリアの言う通り、声だけは変わっていなかった。だが驚異的な能力であるのには変わりがない。服装さえ整えれば、騙し討ちがし放題だからだ。

 「ああ、ちょっと待ってて」

 レミリアの言葉に少し考えたシオンは、それだけ言って顔を上げると、喉に手を当てて調子を整える。

 「あ、あーあー。……うん、できるかな」

 「……?何ができるの?」

 シオンはその説明には答えず、()()()()()()()()()()()()()()()

 「――一緒に遊ぼうよ、お姉さま!」

 「……は?」

 フランそっくりの笑顔で、フランと同じ声で自身に寄って来る()()()に、レミリアは呆けた声を出す。他の四人――特にフラン――も驚いていた。

 「何で遊ぶ?トランプ、チェス、何でもいいよ!」

 「ちょ、ちょっと待って。貴方はシオン……よね?」

 「ほぇ?何の話しをしてるの?私は私だよ?」

 首を傾げて演技をするシオンに、わかっているのに騙されそうになるレミリアは手を前に出して言った。

 「もういいわ。よくわかったから」

 「終わらせていいのか?なら終わりで」

 シオンは浮かべていた笑みをあっさりと消した。その態度はいつものシオンと全く同じであり、フランの外見をしている今は凄まじい違和感があった。

 シオンもそう思ったのだろう。フランの外見から自身の外見へと元に戻した。

 「今のは一体何だったのよ……」

 「声帯模写とフランと接してた時に見た一部をここで演じただけだよ」

 「声帯模写?それも能力なのかしら」

 「いや、声を真似したのは能力(アビリティ)じゃなくて技術(スキル)だよ」

 元々シオンの声はそこらの女性よりも高い。というより、変声期前の子供――特に六歳になっていない子供の声は男女の声に差はあまりない。それを自身の器用さを利用してあらゆる人の声に変えている。話し方やその人物特有の癖などは真似できないが、それでも驚異的だ。

 変声期が来たら使えなくなる可能性もあるのだが、シオンの場合は変声期が来ても中性的な声になる可能性が高い。まあシオンは変装や演技程度にしか使えないのだから、別に使えなくなっても構わないと思っているのだが。

 「技術……人間って、案外凄いのかしら?」

 「良い部分もあれば悪い部分もある、とだけ言っておくよ。けどまあ、この技術は結構役に立つんだよね。外見と中身を能力で入れ替えれば『完全な劣化コピー』ができあがるから」

 レミリアは先程のシオンの演技を思い出す。

 「確かにそっくりだったのは否定しないけれど……嘘は言わないんじゃなかったの?」

 「嘘は言ってないだろう?演技は能力と声帯模写を使っただけ。話した内容は遊ばないかどうかと、シオンと聞かれた時に主語が抜けていたから何の話?と返して俺は俺と言っただけ。だから()()()()()()()()

 「……嘘ではないけど、そんなのは詭弁でしかないでしょう」

 「まあね。けど嘘を言わないで生きていけるなんて温い言葉は吐けないからね。嘘を言わずに相手を騙すにはこうするしかないんだよ。嘘は言わず、けれど本当のことは言わない。これが一番ちょうどいいんだ」

 「……まあ、嘘ではないならそれでいいわ」

 とりあえずそれで納得したレミリアは素直に引き下がる。

 「続きを説明してちょうだい」

 「この能力で他にできることは『体外の細胞変質』かな。俺の能力はあくまでも自分自身の細胞を作り変えるもの。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。フランのブレスレットもこの応用」

 そこまで聞いたフランは、左手に輝いているブレスレットを掲げた。

 「そういえば、このブレスレットって結局何でできてるの?」

 「壊れない理由が白夜と同じ強度の空間固定化。大きさを変えられるのは黒陽の形状変化。この二つは普通なら細胞変質でも無理なんだけど、実際に剣という『物質』があるから何故か使える。相手のステータス察知については言っても理解できないだろうから言わないでおくよ。能力の発動を阻害しているのはフランの破壊の能力の応用ってところかな」

 「便利ねぇ……。そういえば、私のあの暴発を防いだのは、どうやったのかしら?」

 レミリアはあの時の光景を思い出す。シオンの左手は焼け爛れてはいたが、それだけだった。シオンもその時のことを思い出し、そして説明した。

 「ああ、あれか。あれは黒陽の重力操作で威力の減衰をさせ固定化で衝撃の緩和。最後に用心として手をロンズデーライトに変えて防いだ。結局威力の全てを相殺できたわけじゃなかったけどね」

 「なら、また別の細胞を銜えればよかったんじゃないの?」

 レミリアは何故そうしなかったのか聞いたが、シオンはしなかったのではなくできなかったのだ。

 「こんなふうに色々と後付できるのは体から切り離された物だけなんだよ。俺の体で実際にやろうとしたら、複数の細胞が拒絶反応を起こして体が自壊する。それに、その物質を構成しているものを『完全に』理解していないと、全く別の物になって二度と戻れない可能性があるよ。例えば、もう言葉では言い表せないような形容しがたいモノになったりとか?」

 茶化すように言ってはいるが、本当にそうなってしまったら笑えないことになる。おいそれとは使えない能力だ――そこまで思ったレミリアは、ふと気づいたことがあった。

 「シオン、貴方の能力は『完全な』理解をしていないと使えないのよね?」

 「え?ああ、まあそうだけど、それがどうかしたのか?」

 「……私は知らないけど、物質を構成しているのはかなり複雑なのよね?それなのに、それらをどうやって覚えているのかしら?」

 「――!へぇ……」

 レミリアの推測を聞いたシオンは、面白そうに笑った。

 「それに関しては秘密だ。手札を晒し過ぎるのは得策じゃないからね」

 「そう。まあ、無理強いはできないのだから諦めるしかないわね。それで、他の制限は?貴方の口ぶりから判断すると、まだあるのでしょう?」

 レミリアは確認するように言う。シオンは素直に頷き返した。

 「もちろんあるよ。かなり話が戻るけど、劣化コピーした相手の能力を使う場合、本人が能力を使う時の代償ともう一つが追加される。フランの破壊を使った時は、体の一部が消失するらしいね」

 「ああ、だから左腕の骨がところどころ無くなってたのね」

 「そういうこと。動かすだけなら支障は無いんだけど、腕そのものが無くなるとしたら困るかな」

 「困るとかそういった問題じゃないと思うんですけど……」

 近接戦闘を最も得意とする美鈴が腕を無くしたら、困るというレベルを超えるだろう。しかしシオンは別だ。

 「俺は体細胞変質能力を使って髪を代替品に使えば平気だからね。一部が無くなっても余り困らないんだよ。自分の細胞は何もしてなくても普通に理解できるしね」

 「やっぱり貴方の能力ってズルすぎないかしら?私たちは妖力で再生できるけど、それでもかなりの量を使うのよ?」

 「問題もあるよ?副作用として癌細胞ができるし」

 「……癌?」

 そう呟いたのはパチェリーだった。この場で最も知識を蓄えているパチェリーが知らないのだ。他の四人が知っているわけが――フランは絶対に知るはずが無いのだが――ない。

 「ああ、そういえばこの世界って中途半端に技術が進んでるんだっけ。簡潔にわかりやすく言うと、度合いによっては簡単に人を殺してしまう病のようなもの――とでも考えてくれればいいかな。俺は苦痛はあるが平気だけどな。限度はあるけど」

 「ぇっと……よくわからないけど、それぞれの能力の反動は黒陽と白夜は即座に回復可能な傷で、体細胞変質能力は長期の間残る病、ってことでいいの?」

 逸早く正解に辿り着いたフランが問う。

 「そんなところ。俺の能力はこんなところかな」

 シオンは長い説明を締めくくる。全てを聞き終えたレミリアは、ボソリと呟いた。

 「そんな強い能力があるのなら、もう少し楽にフランに勝てたんじゃないのかしら?」

 「……お嬢様、それは本気で言っているのですか?」

 レミリアの呟きに答えたのは、シオンではなく美鈴だった。何故美鈴が答えたのか疑問に思いながらも、レミリアは躊躇いながら頷いた。

 「え、ええ。そうだけど」

 「……質問を変えます。お嬢様は、本当の意味での命を懸けた殺し合いをしたことがありますか?」

 「……そんなの、あるに決まって――」

 「いいえ、ありません」

 言葉の途中で遮った美鈴は、断定した声音で言い切る。その鬼気迫るような美鈴に気圧されてしまい、誰も口を挿めなかった。唯一シオンだけが、美鈴とレミリアを見つめていた。

 「フラン様は一生の殆どを地下で過ごし、パチェリー様は持病の喘息をお持ちで、戦いをするのも苦労するでしょう。咲夜も戦闘訓練は行っていますが、実戦での命の奪い合いはしたことがありません。この三人はしかたがないですが、お嬢様は別です。お嬢様のアレは――」

 美鈴は何かを思い出すように言葉を区切る。そして美鈴は、自信の想いを吐き出し始めた。

 「――一方的な虐殺でした。お嬢様はなまじ力が強大過ぎるせいで、自らの命を懸けるような戦いが無かったのです。しかし私たちは弱者です、だから戦いの場にある物全てを利用して、目潰しなどの卑怯と呼ばれるような使わなければならないんですよ。……大事なものを守るためには、そうするしかないのですから」

 歯を噛みしめて絞り出すように言い終える。

 美鈴は自分の弱さを受け入れている。それくらいの強さはある。それでも胸の内に燻っていた思いがあった。それは従者である自分よりも主の方が強いというものだった。自身が弱いのは理解出来ていても、本来守るべき主に守られる。それが美鈴の従者としての誇りに微かな棘となって突き刺さっていたのだ。

 しかし今、その棘が抜けてしまった。人間だと油断してシオンに負けたのもその原因なのかもしれないが、それは美鈴だけが知ることだった。そしてその棘から溢れ出す感情の赴くままに、美鈴の口から苛烈な言葉という形になった。

 「お嬢様には、命を賭してでも守りたいと思うものはありますか?そしてそれがあったとして、フラン様を助けたシオンのようにボロボロになってでも、命を懸けられますか?」

 「美、鈴?」

 いつもこちらを笑顔にさせてくれるような陽気な笑顔を浮かべていた美鈴が、何かに耐えるように体を震わせていた。それでレミリアは悟ってしまった。美鈴はずっと心の奥底で激怒していたのかもしれない。レミリアと――弱い自分自身に。

 だからこそレミリアは、ただ黙ったまま美鈴の話を聞こうとした。それが美鈴の心に火に油を注いでいるとも知らずに。

 「私は紅魔館の門番として、様々な敵と戦ってきました。追い返したことも、負けて侵入を許してしまったこともあります。それでもお嬢様は私が負けた相手をあっさりと殺してしまいます。それを聞いて、私は何度もこう思いました。『私がこの御方を御守りする必要があるのだろうか?』と。私がどれだけ体を鍛え、経験を積んでもお嬢様の足元にも及ばない。お嬢様には決してわからないでしょう。弱者である私の気持ちは、()()()()()()()()()()()理解できるはずがありません!」

 「「――ッ!!」」

 何でもできる、という言葉に、レミリアは怒りの感情が湧き出てくるのを感じた。それを必死に抑え込もうとするが、元来気の長い方では無いレミリアがそれをするのは困難どころか不可能に近かった。体の震えを抑えながら、少しずつ美鈴に近づいていく。

 この時、フラン、咲夜、パチェリーは美鈴とレミリアの言い合いに注目していたせいで気付かなかった。何でもできる、という言葉に反応したのはもう一人いたことに。

 だが彼女たちがそれを知るのは、もっと後になってからだった。

 「……し…だ…て………い…と……い……わ」

 「え?」

 レミリアの異変を感じ取った美鈴は、自分が何を言ったのかを理解した。してしまった。そして同時に、自分がレミリアの地雷を踏んでしまったことも悟った。

 「私にだって!できないことくらいあるわ!」

 怒声とほぼ同時に濃密な妖力と殺気がレミリアから溢れ出す。

 それは、先程シオンの空間断絶によって作られた結界を攻撃した時よりも、遥かに大きな力だった。

 それを不意打ちに近い形で至近距離から浴びた美鈴は、恐怖によって後ずさってしまう。

 しかし美鈴も然る者。すぐに冷静さを取り戻した。だがそうなっても、この状況が改善するわけではなかった。

 「私が本当に何でもできるのなら、あの時あの瞬間、フランを閉じ込められるのをただ黙って見ている必要など無かったわよ!フランが狂ってしまったと思って、彼女の力が暴走してしまうのを恐れて、四百九十五年もの間閉じ込めなくてもよかった!それなのに、勝手なことを言わないで!――来なさい『グング――」

 「そこまでだ、レミリア」

 今にも美鈴を殺してしまいかねないレミリアを止めるために、落ち着けという意味を込めてシオンは声をかける。だが、この話しは彼女にとってかなりデリケートな問題だった。簡単に落ちつけられるほど生易しいものではない。

 その結果、美鈴にぶつけられていた妖力と殺気がシオンに向けられた。

 「……邪魔をするというのなら、貴方から先に殺すわよ?」

 「貴女は俺に貸しが一つあっただろう。あの貸しを返してもらう、ということで矛を収めてくれないか?」

 あれほどの妖力と殺気をぶつけられながらも平然としているシオンに、パチェリーはシオンの評価を上げる。その理由は、あそこまでキレているレミリアのアレをもしも自分が浴びたとしたら平然としていられるかどうかパチェリーにはわからないからだ。

 パチェリーからさり気なく評価が上がっているのに気付かないまま――というより、気付けるわけがない――レミリアと目を合わせる。レミリアはその瞳から「もし抑えないなら、フランにあることないこと教えるぞ」と読み取れた。実際にそうされた場合はシオンにはメリットだけが、レミリアにはデメリットしかないこともわかった。

 今のフランは正気に戻っているが――元々狂っていないのだが、レミリアたちはそれを知らない――情緒不安定であるのに変わりは無い。そんな状況でそんなことをされたなら、フランはレミリアを一切信用しなくなる可能性が高い。

 そしてその信用は全てシオンにいってしまうだろう。自身を閉じ込めたのを黙ったまま見ていた――結果的にそうなってしまったのだから、否定はできない――家族と、『命を懸けてでもフランを助けたかった』と言ったシオン。どちらを選ぶかなどバカでもわかる。事実、あの言葉でフランはシオンを全面的に信頼し始めている。

 この脅しは、フランがレミリアから離れたくないと思うようになるまで続くだろう。もし仮にフランがレミリアを信頼したとしても、結局最後に頼るのはシオンであるのには変わりないだろうが――そこまでをほぼ一瞬で考え終えたレミリアは妖力と殺気を抑え始める。

 レミリアは自身が目の前の少年の掌の上にあるのがわかったが、何故かそれを不安に感じることがなかった。

 そして、それは当たっていた。

 (貸し一つを返せ、と取り繕ってはいるが、実質脅しているのに代わりは無い。やりたくもないのに、やる時は一切躊躇しないというのがまた何とも言えないし。……最低だな、俺は)

 態度にこそ表していなかったが、シオンは内心で自らを貶しきっていた。だが別の展開にならなかったことに安堵もしていた。その別の展開とは、『逆上したレミリアがシオンを殺そうとする』というものだ。

 シオンは冷静そうに見えて、実のところかなり焦っていた。もしも今の体でレミリアと戦った場合、十中八九負ける。能力を出し惜しみせずに全開まで使ってギリギリ逃げ切れるかどうかといったところだろうか。

 その理由は、シオンの体が完全に治ったわけではないというものだった。いくら細胞を変質させられるといっても、余りに違い過ぎる物質変換は時間がかかる。一瞬ならば問題無いが、今のように長く定着させるものは時間がかかる。それ故に、今のシオンは万全とは言い難かった。

 だからこそ、レミリアが力を抑えたのを見た時は、内心で安堵の溜息を吐いた。フランたちも緊迫した空気を霧散させたところを見るに、どうやら三人は目の前で戦い始めるのでは、と心配していたらしい。

 シオンはレミリアが元に戻ったのを確認してから、美鈴へと話しかけようとした。しかし、その途中で、()()()()が湧き出てくるのを感じた。

 ――………………え!

 それを無理矢理抑えて、今度こそ美鈴へと話しかける。

 「美鈴、貴女は本当にレミリアは何でもできると思っているのなら、今すぐ従者を辞めた方がいい。いや、辞めろ」

 「……え?」

 ざっくりと容赦なく言われた美鈴は、一瞬だけ固まってしまった。しかしすぐに我を取り戻すと、それを身振りと叫びで拒否した。

 「い、嫌です!私はこの仕事に誇りを持っています。それなのに辞めるなんて――!」

 「なら一つだけ言っておく。わかりきっているとは思うけど、何でも完璧のこなせる存在なんて絶対にいないんだ」

 それを聞いた美鈴は、私は何てバカなことをしたのだろうと再認識する。レミリアがフランのために何度も心を砕いて来たのを知っていたはずなのに、それを忘れてしまった。

 そして、やっと美鈴はまだレミリアに謝っていないのを思い出した。

 「その……お嬢様、すみませんでした。私は、お嬢様がフラン様の件で心を痛めていたのを知っていたのに……」

 「……私も、貴女がどんな思いをしていたのか知らなかった。それに加えて攻撃しようとしたのだから、それでお相子。気にしないでいいわ」

 ギクシャクしながらも、何とか仲直りした二人を見て、シオンを除いて苦笑してしまった。 フランは横目でシオンを眺め、そして気付いた。シオンの様子がおかしいことに。

 「あの、シオン。どうかしたの?」

 「え?」

 「何か様子がおかしいような……。どこか悪いの?」

 フランはかなり躊躇いがちに尋ねる。けれどシオンは自身の感情を抑えるのに必死でそれに答える余裕が無かった。

(やっぱり、俺は普通の人生を歩むことなんてできないのかな)

何も答えないシオンにどんどん不安そうになっていくフランを見て、シオンは最終手段をとることにした。それは、後少しの間だけでもまともでいられるように感情を極限まで排除するというものだった。

 「特に何も問題は無いよ」

 何時もと同じ口調、同じ声。それなのにその声には感情と呼べるものが宿っていなかった。流石にここまでくるとフラン以外の四人も異変に気付いてのか、シオンの様子を見た。

 そして、絶句した。

 例え感情が無かったとしても、その顔は無機物のような印象を与えるだけのはず。それなのにシオンの顔は、どんな人間よりも人間らしかった。その瞳の中に、闇よりも暗い絶望が宿っていなければだが。もしも別の正の感情が浮かんでいたなら、フランたちも素直に喜べたのだろう。しかし、現実は無情だった。

 本来ならシオンは、こんなふうに悠長に話していられるほどの余裕は無かったのだ。しかしこの世界に来て、シオンは自分と同じ化け物の類と出会い、久しぶりに、本当に久しぶりに喜んでしまった。

 シオンが自分の能力の詳細を説明したのも、これが理由かもしれない。力の詳細な情報を放してしまえば、対策をたてられるうえに、それが無くとも警戒はできる。

 いくら命を懸けて助けた相手がいるとはいえ、あっさりと自分を殺せる相手がいるような状態で話すものではない。ここで殺されても文句は言えないだろう。つまり、シオンは言外にこう告げているのだ。――もう、死んでしまってもいい、と。

 唯一フランだけはそのメッセージに気付かなかったが、シオンの瞳を見て、何故初めて会った時にシオンがあれほどまでの意思を持っていたのかを理解した。

 (私と、同じ眼をしてる……)

 深い悲しみと絶望を宿した光。シオンの『意志』が抜け落ちたその瞳は、まるで死人のように生気が感じられなかった。

 そう思ってしまったフランは、自らの決意と願いを見つけた。

 (今度は私がシオンを助ける。ううん、助けてみせる!それで……それからは、ずっと一緒に……)

 今までのフランは、自分を助けてくれたシオンの傍にただいたいだけだった。シオンに依存して、埋まらなかった寂しさを埋めようとしたのかもしれない。けれど、シオンのフランとよく似た色を湛えた光を宿した目を見て、フランの心の『何か』が変わり始めた。

 それがフランの心にどのような変化を与えるのかは、フラン自身にもわからなかった。

 フランにほんの少しの変化が起こっている途中で、シオンが言った。

 「とりあえず、俺は外で剣でも振ってるよ。三日も寝てると、体が鈍るし」

 返事も聞かずに外へと歩き始めるシオンに、誰も声をかけられなかった。シオンが扉の外へ出ると、今度はパチェリーが言った。

 「……私も、図書館に戻って魔法の研究を続けるわ」

 そしてパチェリーも地下へと戻って行った。

 「私は紅魔館の見回りを」

 今度は美鈴が扉を出て見回りをしに行く。

 「私も行くわ。フラン、紅魔館の案内をしてあげる。ずっとシオンの看病をしていたから、まだここの構図を知らないでしょう?迷うといけないから、ついてきて」

 「うん、わかった!」

 仲良く手を繋いで、姉妹も扉から出て行った。

 残された咲夜は、シオンが結界を作る時にできた床の傷を見て、ボソリと呟いた。

 「……これを直すのは、私なんでしょうね」

 どこか疲れたように溜息を吐いて、咲夜は修理道具を取りに部屋を出て




途中に載せたレミリアと美鈴の言い合いは、美鈴は自身の仕事に自信を無くしかけ、レミリアはフランの件を最終的にシオンに任せるしかなかった自分に苛立ったため起こったことです。まあ遅かれ早かれ起こったことということにしておいてくださいw
で、咲夜さんは少し……というよりもかなり苦労人ですが、まあ彼女も不満をかかえています。
そして最後にシオンとフランの心の移り変わり……ここをどうやって表現するかが試されますね!シオンの心の闇の部分を速く書きたいんですが、中々大変です!
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