東方狂界歴   作:シルヴィ

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今回は本当にアドバイスしかありません。作者が言うのもなんですが、ぶっちゃけ読まなくてもよかったり……?
まあ、最後だけ伏線入れてますが。


アドバイス

 二人は実戦方式の訓練を終えると、薬や包帯が入っている箱がある部屋へと移動し、それぞれが怪我をしている場所に治療を行っていた。何故かシオンが移動していた途中で細かな傷が治っていたので、咲夜にはたいそう驚かれたが、とりあえずそれを無視しておいた。……移動中にチクチクとした視線が背中に突き刺さってはいたが。

 「それで、理解はできたのか?」

 左腕に包帯を巻き終えたシオンが、同じく体に包帯を巻いていた咲夜に聞いた。

 二人はかなり対照的だった。シオンは左腕と、服の下に隠れて見えないが胸から腹までを昨夜巻かれた包帯に覆われている。本当は胸から腹までの包帯はもう治っているのでとってしまってもいいのだが、女性である咲夜がいるので一応の遠慮をしたのだ。

 まあ、包帯をとったところで外見年齢四歳のシオンの体を見ても照れるはずがないのだが。

 咲夜は三度目の加速で無茶をしたせいで、体の外側も内側も酷い有様だった。特に服は襤褸切れと化していて、治療を終えてからすぐに着替えたほどだった。服の着替えをして来る時は時間停止でも使ったのか、わずか三分程度で戻ってきた。

 しかし、全身の至る所に包帯があるせいで、その姿はかなり痛々しい。

 ちなみに包帯を巻いている時は背を向けていたため、お互いの怪我を見てはいない。とはいえ気配で動きがわかってしまうシオンは、包帯を巻き辛そうにしていた咲夜を手伝おうとしたのだが、やはり羞恥心があるのか断られた。……当たり前といえば当たり前である。

 本来ならこの問いは勝負が終わったらすぐにしようとしていたものだが、咲夜に「治療と着替えが先です!」と有無を言わさずに半ば強制的に連れて来られたせいでできなかったのだ。それと同時に、姉にされた()育《脳》のせいで女性に逆らいにくくなったとも思ってしまった。

 この時、余りにも自身の怪我に大雑把なシオンを見た咲夜は、自らが気絶しかけていたことも、疲労していることすらも忘れてシオンに詰め寄っていたりする。

 それはともかくとして、考えるための時間は十分にあったはずなので、答えられない理由は無い。

 シオンが聞いてから少し経って、それから躊躇いがちに言った。

 「……圧倒的とも言える手数の多さ……でしょうか?」

 「そう。それであってる」

 咲夜は答えが正解だったのにホッと一息しつつも、先程の戦闘を思い返していた。そして本当に今更だが、シオンがかなり手加減してくれていたのがわかった。

 同時に、もっとマシな攻撃をしていれば勝てたことにも気付いく。暗殺者のような動きをしていたのを知っていたのに、シオンの真直ぐな生き方から暗器を使わないと思い込んだことで無理な加速をするのを強いられて負けかけ、無駄に体をボロボロにしてしまった。最後は体術を使った背負い投げをされ、そして敗北した。

 それ以前の問題として、あの時のシオンは能力を使っている時間は殆ど無かった。それどころか、重力制御と言う強大な能力すらも(フェイク)にして、本命の短剣を投げてきた。

 そしてこの瞬間に、ほんの少しだけ理解した。コレが自分とシオンの違いだと。

 能力のみに頼り、それだけで終わらせようとした咲夜と、能力を当てようとはしつつも同時に次の攻撃の布石にしようとしていたシオン。天と地ほどの差がある。

 それに漠然と思い至っていながらも、結局は能力に頼り、そして敗北した。だが、能力を使わなかったとしても負けていただろう。

 何せ、シオンはワザと手数を限定していたのだから。

 咲夜はナイフ、魔力で構成されたナイフ、身体強化、そして時を操る能力。シオンは剣と体術、そして重力制御、体外の細胞変質で作成した短剣。二人とも使っている手数は四つだ。

 付け加えると、二人が能力を使った回数も四回――シオンが使った回数は五回なのだが、一時休戦していたのと、実際に使った訳では無いので、実質四回だろう――だった。

 更に、シオンはワザと傷をつけて血を流すことで体力を消耗させて、ボロボロの咲夜と同じくらいの負担を自身にかけた。

 徹頭徹尾咲夜と同じ条件下で戦い続けてくれたシオンに感謝するのと同時に、自分勝手な自身を自己嫌悪した。勝手に嫉妬して、迷惑をかけて。

 そこまでしてわかったのは、強い能力に依存していた愚かな自分だった。

 「私は、自分の能力を過信し、頼り過ぎていたのですね……」

 ただの独り言。自らを自嘲するために呟いた言葉。だからこそ、シオンから声が返って来たのに驚いた。

 「別に能力に頼るなとは言ってないよ?能力を理解してないんじゃないか、とは思ったけどね」

 「え?」

 腕を組んで壁に背を預けていたシオンを見ると、やれやれと言った風に頭を振っていた。年下にしか見えない少女――鋭すぎる目を閉じていると、もう少年には全く見えないのだ――にそれをやられると少しだけカチンと来るが、とりあえずそれを抑えた。

 「私が能力を理解していないとは、どういう意味でしょうか?」

 「咲夜が時を操るのに使っているのが、『加速』と『停止』だけだったからそう思っただけだけど。時を操るのなら、他にも使い道はあるだろう?」

 「……その使い道が思いつきません。今までは停止だけがあれば十分でしたので」

 その返答は予想外だったのか、シオンは目を丸くしていた。

 目を丸くしている姿も、やはり少女にしか見えない。本人にとっては甚だ不本意だろうが。

 ……シオンが目を鋭くしているのは、少女だと勘違いされないためなのかも、と思ってしまった咲夜は悪くないだろう。

 自分がどんな反応をしたのか理解したシオンは、乱暴に頭を掻くと顔を顰めた。

 「まさか使い道が思いつかないとは……。まあいい。とりあえずおさらいだ。さっきの戦闘でわかったことを言わせてもらうよ」

 「はい、お願いします」

 「まず最初に、咲夜が加速する時は『咲夜が触れている物』も加速している。それで、コレは直感になるんだけど、加速しているのは『咲夜の存在』じゃなくて、『咲夜の体』が加速していると思う。もしも存在――あるいは概念か?――が加速しているなら、俺たちの一秒が咲夜の二秒になるから、身体強化を使う必要は無いし」

 「ちょ、ちょっと待って下さい。私が身体強化を使ったと何故わかるのですか?」

 「え?フランとの戦闘の時に妖力が集まってるのを見てたからだけど?」

 つまり、シオンは細かな魔力の流れが読めるらしい。自身に宿る魔力などを体外に排出して弾幕に形成する時の魔力や妖力ならともかくとして、体の中で自己完結する身体強化に使う魔力の流れを読めるのは流石におかしいのだが、

 ――シオンですし、もういいです。

 と、諦めてしまった。

 「で、加速していられる時間は、大体三秒から七秒前後。速さは音速の二倍から三倍ってところかな。何か間違っているところはあるか?」

 「いえ、殆ど間違っていません。今の説明に加速していられる時間に限度が無いのと、速さの上限が無いのを付け加えれば完全です。加速を使っていられる時間と速度が低いのは、単純に私が未熟なだけですので」

 「……ハ?上限が無い?」

 「はい、そうです。……ああ、言い忘れていました。私の能力は一度に一つしか効果を現せません。なので、加速と停止を同時に使用するといったことは無理ですね」

 咲夜はそう言えば、という風にあっさりと言うが、シオンは未だに固まっていた。異常に精神力が強いシオンが固まっているのを見て、どうしたのだろうと咲夜は思う。

 が、傍から見れば固まっているように見えるその実、シオンの頭の中は高速回転していた。

 (加速していられる時間と速度に上限が無い?なんだそれは!そんなの、ナイフ一本を極限まで加速させて投擲すればどれほど強力な武器になるのかわからないのか?加速させすぎれば自壊するけど、そんなのはとにかく頑丈な物を使えば関係無いだろうし。……ある意味、俺の天敵になりかねない能力だな)

 シオンは妖怪ではない。だから、頭や喉、心臓を貫かれれば即死してしまう。

 遠距離からただ攻撃されるだけならば問題は無い。シオンの空間認識能力は、彼自身の五感と白夜の空間制御能力の補正のような物でかなりの広さを誇る。本気でやっていれば、常に数百から数千キロ先は見通せるほどだ。

 とはいえ、常時そんな無茶なことをやるのは不可能なので、通常は数キロ先までしか把握しようとは思わないが。

 それでも限界は存在する。シオンの弱点の二つは『彼の空間認識能力の遥か先からの遠距離狙撃』あるいは『認識はしていても躱せないほどの超速での攻撃』だ。

 元いた世界では余り警戒する必要は無かった。

 狙撃手(スナイパー)が狙える距離は、余程の天才でも二キロ、シオンでも三キロが限界だ。シオンの場合は目視でその途中にある様々な要因を即座に計算することで命中させることができるのだが、ライフルで狙える距離の限界があるため、三キロが限界になっている。

 試したことは無いが、目視で把握できる距離ならば恐らくどこまでも狙えるだろう。

 しかし、()()()()()()()()()()()

 この世界は自分が居た世界の常識などドブに捨てなければ生きて行けないような場所だ。つまり、たった数キロなどという距離を無視して攻撃してくる相手など腐るほどいると言っていいだろう。

 いや、シオン自身その気になれば数キロ先からの攻撃はできるのだ。他者ができない道理はない。

 (何で今の今まで思いつかなかった?俺はバカか!)

 しかし、ここでシオンは我に返った。そして、最初に考えたことを思い出して、自己嫌悪した。

 (何で咲夜が敵になった場合のことを考えてるんだ?本当に、俺は……!)

 そう、シオンは咲夜が敵になり、狙われた時のことを考えた。それはつまり、シオンは未だに()()()()()()()()()()()()()()、ということだ。

 (……ダメだね、コレは。もう、他人を信用する、ということができなくなってきてる)

 姉と一緒に居た時を除き、殆ど独りで生きてきた弊害だろうか。それとも、他者からの悪意を受け過ぎた結果だろうか。それはシオンにもわからなかった。

 「あの、シオン?もう一つ言い忘れていました。加速はなっている時間の長さと速度の上限が高ければ高いほど、停止は止める範囲が広いほどに魔力と集中力を使います。なので、今シオンが考えていることは恐らく不可能かと」

 「そうなのか?……というより、何で俺の考えが分かったんだ?」

 「はい、そうです。……わかった理由は、昔お嬢様にも似たような反応をされたことがあるから、でしょうか」

 苦笑しながら言う咲夜。その時の光景でも思い出しているのだろうか。しかし納得できることでもある。

 「まあ、普通に考えればズルすぎるからな」

 「お嬢様にもそう言われました。私が人間で助かった、と」

 確かに咲夜が妖怪だったら、わざわざ身体能力を強化する必要もなく加速を使え、その分を他のことにまわせるだろう。

 いや、そもそも人間と妖怪では素のスペックが違い過ぎるのだから、もっと凶悪なことになっていたに違いない。

 「俺もそう思うんだから、レミリアは相当焦っただろうね……」

 「シオンも思うのですか?私としてはそこそこ使い勝手が悪いと思っているのですが」

 「重力制御とか空間制御に比べれば楽だよ。俺の場合は比べること自体が間違っていると思うけどね」

 両者揃って苦笑しながら答える。二人はひとしきり笑った後――あくまで苦笑いなのだが――元の話に戻した。

 「とりあえず、俺の思いつく範囲で適当に言うから、できるかどうかはそっちで判断してくれ」

 「わかりました」

 「まず、時を操ってできると思えるのは大まかにわけて四つ。それは『加速』、『減速』、『停止』、『逆行』かな。多分逆行だけは無理だと思うけど。逆行は言い換えれば過去をやり直すって意味だし……。概念の低い物、そうだね、ナイフとかを手元に戻したりとかならできるんじゃないか?やってみてよ」

 そう言われた咲夜は、とりあえず自室に置いてあるナイフの一本を『逆行』させた。すると咲夜の手の中にナイフが現れた。

 「確かにできますね。ですが、これ以上は無理だと感覚でわかります」

 言いながらもナイフを懐にしまう。

 「ところで、逆行は今役に立つとわかりましたが、減速は役に立つのでしょうか?」

 訝しみながら言う咲夜に頷き返す。

 「そう思うのも無理は無い、か。けど、速さだけが凄かったとしても余り意味は無いよ」

 「速さだけが凄かったとしても意味は無い?」

 「ああ、そうだ。まぁ言ってもわかりにくいし、俺としては習うより慣れろが当たり前だったから、玄関ホールに戻ろうか。実際に見ればわかるだろうし」

 「えっ、あ、はい」

 強引に咲夜を連れて行ったシオンは、玄関ホールへと戻った。

 「ナイフ借りるよ」

 「わかりました」

 許可をとったシオンは、床に突き刺さったまま放置されていたナイフを回収すると、咲夜から離れる。ある程度の距離を作ると、その場所の足元に持てなかったナイフを落とし、持てるナイフを指と指の間に持つ。合計八本のナイフを持ったシオンは、何の構えもせずに立つ。

 「シオン、前も思ったのですが、その構えは?」

 「え、気付いていないのか?……ああ、そうか。咲夜は戦闘経験が少ないし、何かの戦闘技術を修めている訳でも無かったっけ」

 咲夜はその言葉に、いあっまで訓練ばかりで実戦をしたのは初めてだと言えなくなってしまった。

 幸いというべきか、シオンはそれに気付かなかった。

 「俺が勝手にそう呼んでるだけだけど、コレは千変万化の意味を持った構え、とでも言えばいいのかな。どんな攻撃にも対応できる構えを追求していったら、最終的にこうなった」

 シオンは気付いていないが、この領域に至ることができる人間はとてつもない鬼才でなければならない。それこそ、その才能以外の全てを捨て去るようなものでなければ。

 確かにこの構えはどんな攻撃にも対応できるかもしれない。だが同時に、その攻撃に対応できなかった場合は無防備な体に重い一撃をもらってしまう。

 超一流と呼ばれるようになるための才能以上を持つのは最低条件として、膨大な戦闘経験を持っていなければまず扱えない構えだ。

 元々構えというものは、自身が習い覚えた技を効率よく繰り出すために存在する。構えをすれば相手次第ではどんな攻撃をしてくるのか悟られる可能性が高いが、それでも構えをするしないでは大きな差がでる。

 それすら知らないシオンは、自身がどれだけの鬼才を持ち、どれだけの実力を持っているのかを理解していない。いや、そもそもシオンは、自身を化け物という括りに縛り付けて、見ようともしていない。

 「とは言え、構えをしようとしなかろうとすることは変わらない。繰り出される攻撃を回避し、反撃する。俺の戦い方は、技術を持たない人間の喧嘩と似たようなものだ」

 「そう言われてみると……確かにそうですね」

 技術を持たない人間の、戦いとすら呼べない喧嘩は、大抵のケースは相手の攻撃をできるだけ躱して、自身の攻撃を入れる。必ずしもそれだけというわけではないが、大体はそうなってしまうだろう。

 シオンの場合は、それら全てを昇華させたものだ。全ての攻撃を回避し、致命的な一撃を与える。確かに似ていた。

 「今はそんなのどうでもいいか。そろそろ見せるぞ。そこから一歩も動くなよ、いいか?」

 「よろしくお願いします」

 それを合図に、シオンは一斉にナイフを投げだした。両手に持ったナイフを全て投げ終えると、すぐに足元に置いたナイフを足で蹴飛ばしてそれを投げる。まるで手品のように投げて投げて投げ続ける。が、一つおかしな点があった。

 「……?シオン、コレはどうたしたいのですか?」

 咲夜が疑問に思うのは当然だった。シオンが投げるとしたら最低でも音速は超えると思っていたのに、何故か普通の人間が投げるのと大差ない。いや、それよりも若干遅いくらいだったのだ。

 「見てればわかるよ」

 「はぁ……そう、ですか」

 疑問に思いながらもシオンは無意味なことはしないかと納得し、そのまま見続けた。そしてその速さに慣れてきたころ、いきなり咲夜の頬を何かが掠めていった。

 「……え?」

 弛緩していた体が強張る。しかし、シオンは先程と何ら変わりない速度で投げていた。一体何が起こったのかと、今度はきちんと投げているナイフの軌道を見詰める。

 そうして投げ続けること数十秒、最後の一本を手に取って投げる瞬間、コレまでとは比べ物にならない速度でナイフが飛んで来た。

 またも首スレスレに飛んで来たナイフだが、やはり咲夜は反応できなかった。

 「……コレでわかったか?」

 「……はい。身に染みてよくわかりました」

 シオンは何も不思議なことをしているわけではない。一度目はワザと遅く投げてその速度に目を慣らさせたせいで唐突に速めたナイフに反応できなくさせ、二度目は一度目よりも更に速く投げただけ。ただそれだけなのだ。

 緩急に異常な差があるからこそできることだが、ここまでの差はつける必要は無い。単に、これ以上の速度は出せないと相手に誤認させればいいだけの話だからだ。

 それでも有効な手段ではある。いや、咲夜にとってはかなり使える手段だ。

 「なるほど、コレなら私でもできますね。かなりの練習が必要とは思いますが」

 「当たり前だ。そんなあっさりできるのなら誰も苦労はしないよ」

 「……確かに、圧倒的な手数を用意するにはそれ相応の時間がかかります。それに、その方面での才能があるかどうかもわからない。だから今以上に強くはなれるが、必ずしも強くなれるとは限らない、ですか」

 「そういうこと。本当なら今のをやってから速くしたり遅くしたりを繰り返して相手のテンポをズラすっていうことをやるんだけどね。まあ、咲夜なら加速と減速を使って更に緩急が激しい投げ方ができるはずだよ。虚実入り混じった攻撃はかなり有効なのは、今のでわかっただろうし」

 「……本当に、シオンの言うことはためになりますね。私にはいないのでわかりませんが、まるで御婆ちゃんの知恵袋のようです」

 年齢に反して知識の多いシオンに、もうわけがわからなくなる。というより、どちらかというと戦闘面の知識に特化しているせいで、その他の部分が置いてけぼりになっている感じがする。……まあ、他にもわけのわからない知識を持っていそうだが。

 「とりあえず、減速を試してみますね」

 「了解。最初は自分の体で試してみて」

 シオンの言葉通り、咲夜は自身の体に減速をかける。しばらくの間シオンは何も言わず見ていたが、やがて何かに気付いて声をかけた。

 「咲夜、もっと遅くしてくれないか?」

 減速しているせいなのか、どこか間延びしたように聞こえる声に頷き返しつつ、更に時間を減速させる。そのままでいること数分、シオンがもういいと手振りで示してきた。

 咲夜は減速していたため数分に感じていたが、シオンの場合はまだ数十秒も経っていない。 例え美鈴でも気付くのはもう少し遅れてしまうだろう。が、異常な五感を持っているシオンは、数十秒もあれば十分だった。

 「……やっぱり、その減速はかなり特殊だね」

 「特殊、ですか?」

 かなり微妙な――そしてどこか面白そうな顔をしているシオンに、何が特殊なのかさっぱりわからない咲夜。とはいえ、本人は何も特別なことをしていたわけではないのだから、当然と言えば当然だった。

 「ああ。どうやら減速している最中は気配とかそういったものが限りなく薄まってるらしくてね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな状態だった」

 「目の前にいるのに……感じられない。ですが、それは通常のように気配を消すのと何か変わりがあるのでしょうか?」

 「ん~。というより、咲夜の場合気配を消すというより、()()()()()()()()()()()、って言う方が正しいのかな?何て言えばいいのか今一わからないな」

 自身なさげに答えるシオン。が、そこまで言われて何となくわかった。生きている気配がしない、ということは、そこらにある物体や死んだ人間と似たような反応がするということだろう。つまり、咲夜はうまくやれれば誰に対しても奇襲をすることができるということだ。

 咲夜もそうだが、幻想郷の住人たちは大抵魔力や妖力の反応を探して気配を探索する。生きていないものには宿っていないそれらがないということは、人の形をした何かか、あるいは死んでいるかのどちらかだ。そんなものには警戒しないだろう。

 逆にシオンのように物や死んだ何かだろうと、とにかく周辺にあるものを探るような人間では気付けてしまう。とはいえ、そんなのは常に動き続ける景色を眺めているようなものだ。これでは常に集中力を持って行かれてしまう。

 そんなことをし続けていられるのはそうしているのが当たり前になった人物か、余程高い警戒心を持っているか、あるいはかなりの人間不信くらいだろう。だからこそ、大抵の場合奇襲ができる。

 二人は互いに気付いたこをを話しあった。が、やはりというべきか、かなり看過しにくい問題はある。

 「……いくら奇襲し放題とは言っても、減速しているせいで動きが遅いですし、目視は可能ですからね」

 「そこがネックなんだよね。……どうにもならない、か」

 いくら気配を消せようと、普通に見られればその時点でアウトだ。咲夜自身も減速しているせいで周囲の気配を探り難いし、それを何とかしようするのは難しい。かといって減速を解こうとしても、解いた瞬間にバレてしまうのだから意味が無い。

 時と場合で使い分けなければ、全く役に立たない能力だ。

 「まあ、コレで理解できただろう?」

 「え?」

 「妖怪相手には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だってことだよ。元々人間と妖怪じゃやり方が違うんだ。さっきまでの咲夜みたいな力押しじゃなくて、一撃必殺の不意打ちこそが人間の持ち味。あるいは人間らしく数の暴力とかか?」

 どこかふざけたように言ってはいるが、その眼は真剣だった。

 「……ええ、わかっています。私はシオンと違って、技術も、そして経験も何もかもが不足しています。ならば、それを補うだけの知識を覚えてみせます。それこそが、今の私にできる何よりの戦闘技術であり、将来の糧になります」

  それが今回咲夜が学べたことだった。シオンのように、もっと自らのことを学び、自らができることを知り、そしてレミリアの役に立つ。()()としてできないことは割り捨てて、()()として勝つ。

 咲夜のその言葉を聞いて、シオンはお節介だとは思いながらも、一つの助言をすることにした。

 「……まあ、それでもいいんだけど、知識を学ぶだけじゃ意味が無い。こういったのに必要なのは『発想力』と『想像力』、それと『応用力』だから」

 「発想力と想像力、それに応用力……ですか?」

 「そう。その言葉から何が思い浮かぶか。またはその思い浮かんだものから何が連想できるか。そしてその連想したものからどんな効果が及ぶのか。そういった方面を鍛えなきゃ、戦闘に関しては余り役に立たない。いくら知識があろうと、それを使える頭が無いと意味が無いよ」

 「……それも、そうですね。わかりました。しかし、今の私にはそれらが余りありません。ですので、パチェリー様に頼んでためになることを学んでみようかと思います。それからその三つを鍛えても、遅くは無いと思いますので」

 『人間として強くなってみせる』という覚悟の滲んだ咲夜の瞳と姿を見て、シオンは少しだけ微笑んだ。

 「…………そう、か。ならいい」

 かけた言葉は少ない。しかし、咲夜にはそれが何よりの応援の言葉だった。

 「はい」

 シオンに感謝の言葉は言わなかった。彼ならば、この一言で自身がどれだけ感謝しているかを理解してくれるとわかっていたから。

 ただ、この一言だけでは少し寂しいので、微笑みだけは返しておいたが。

 「――ところで、シオンは何故停止の効果が無かったのでしょうか?」

 「……え?」

 どうやらそこは突かれたくなかった箇所らしく、かなり顔を歪めていた。

 「……企業秘密、だ」

 「今更教えてくれないんですか?体細胞変質能力の詳細な説明もしてくれてませんでしたのに」

 「詳細な説明をするとは言っていないよ」

 「ですが――」

 「……それと今思ったんだが、時間は大丈夫か?メイドとしての仕事を忘れて――」

 「――え」

 もう一度問い詰めようとする前に、 シオンは話を逸らすため、全く別のことを咲夜に言った。しかしそれは効果覿面だったらしく、咲夜の表情が一瞬固まった。今の今まで忘れていた事実を呟かれ、急いで時計を見て時間を確認した咲夜は顔を真青にすると、かなり焦ったように言った。

 「すいません、私はこれで失礼します!」

 一礼した後、脇目も振らずに走り出す。その様子を見ていたシオンは、とても可笑しそうに笑っていながら、一つのことを思っていた。

 (ごめん、咲夜。どうして停止が効かなかったのか、それは答えられない。だって()()()()()()()()()()()()()()

 そう、シオンにもどうして効かないのかが全くわからない。一応一つの仮説は思い付いているが、確証は無いし説明しろと言われても難しいのだ。

 ひとしきり笑ったシオンは、聞こえないとはわかっていても咲夜を応援する言葉を言った。

 「ハハッ、頑張れ咲、夜――ッ!?」

 その言葉を呟いてる途中で、シオンは頭を抑えてうずくまる。そして、あの声が、あの想いが頭に響き始める。

  ――…ろ……し…え!

 もう抑えきれなくなってきている。今にも暴走してしまいそうなほどに。

 「……うる、さい。うるさい、うるさい、うるさい!まだ、まだダメだ。()()()()()!!」

 昨夜にも感じた()()()()。何故かはわからないが、自分自身にも抑えきれないモノ。それが暴走するのを、とにかく声を出すことで抑え込む。

 「……何、で。どうして、こんな、モノが、俺の中、に……あ、ぐ、ぅ。……ッ!!?」

 無意識に振り上げた拳を叩き付ける寸前でそれを抑え込む。そんな愚かな行動をして床にクレーターか何かを作ってしまえは、恐らくここの修理に来るであろう咲夜の目に入るのは明らかだ。

 そうなったら咲夜は必ず何があったのかを聞いてくる。それでは今まで我慢してきた意味が無い。

 余り長い距離を移動できないとわかっていたため、咲夜に見つからない場所に移動する。その時シオンは一つのことを決めた。夜になったらすぐにレミリアに言おうと思いながらも、今はコレを抑え込むことだけに集中し始める。

 頭の中で響く声を抑えるために、シオンは頭を抱えてうずくまり、再度感情を雁字搦めに封じ込んでいるしかなかった。




咲夜に言った『圧倒的な手数』はどこぞの正義の味方(赤い外套)と似たようなもんです。あの人は殆どの武術が二流止まりですが、膨大な戦闘経験や様々な武器、罠などを扱って(様々な武器はともかく罠を使ってるかどうかは知りませんが)超一流の相手と競っています。いくら固有結界のお蔭であらゆる宝具が使えると言っても元々の魔力が少ないので完璧に扱えるとは言い切れない赤い外套が戦えるのは、まぁそれらに支えられているからでしょうね。
 とこんな感じに、弱い人間でも手数を増やせば自分より強い相手に勝てる、というのはここをヒントにしました。実際、手数の多さで勝つというのは結構多いですからね。

あと少しである程度の伏線一気に消化できるんですけどねー……後五話くらいで……。
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