「お嬢様、どうなさいますか?」
念のためにと紅魔館の屋根の上からシオンとフランの姿を眺めていると、レミリアの斜め後ろにいた咲夜が尋ねてきた。
「決まっているわ。私はフランの意思を尊重する。だから、
「そう、ですか」
確かにレミリアはシオンを助けようとはするだろう。だがそれが不可能だと判断すれば、おそらくは殺すはず。
レミリアにとってシオンは恩人ではあるが、それでもフランたちに比べればやはり下になってしまうのだ。
それくらいは咲夜にもわかるが、やはり気分は悪くなってしまう。
「レミィ、対価はもらうつもりだから、それを忘れないでね?」
ジト目で睨んでくるパチェリー。元々戦闘が余り得意ではないパチェリーをわざわざ連れてきたのは、この中で最も遠距離攻撃を得意としているからだ。
ただし、一定以上の無茶をお願いすれば、いくらレミリアが親友と言えども容赦無く対価を要求してくるのだが、魔法使いであるパチェリーが等価交換を要求してくるのは当然だ。
「……今回は、シオンに対価を要求してちょうだい」
「そうするわ」
とはいえ、余り対価を渡したいとは思わない。パチェリーは、やると言ったら容赦なくやるのだ。今までにもかなり高価な物を対価として渡した苦い思い出がある。だが、そのおかげで助かったことが何度もあるのだからやりきれない。
しかし、出来る限りはやると言ったのだ。パチェリーに協力を頼んだのもその一環だ。
「まあ、やれることは全部やってやるわよ。……もしもシオンを殺したら、私はフランに嫌われるでしょうね」
自嘲するように呟きながら、スピア・ザ・グングニルを手元に出現させる。そのまま顔だけを後ろに向かせ、三人に告げた。
「さ、行くわよ。シオンを正気に戻して、フランを助けるために!」
そして、四人は屋根の上から飛び降りた。
紅魔館玄関前で、未だに二人は睨みあっていた。
(わからない……どこをどう攻めればいいのかが)
フランは戦うことはできても戦う術を知らない。そのせいでシオンを攻撃した後のことが想像できないのだ。
下手をすれば一撃で殺される。こちらが殺す事ができなかったとしても、あちらは問答無用で殺しに来るのだ。最初に戦った時とはまるで真逆。だがその時と違うのは、フランはシオンよりも弱いという点だ。その一点が、フランを攻めあぐねさせる理由となっていた。
しかし状況は一転する。息を吸い込む動作をしたシオンは、咆哮した。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!!」
叫び終えたシオンの左足が一瞬沈んだ後、そのまま突っ込んで来たのだ。
唐突に変化した状況にフランはついていけない。咄嗟にレーヴァテインを構えるが、左手を水平にし、全身を引き絞らせて一本の槍のように突っ込んでくるシオンの攻撃には耐えられないだろう。
そこで更に状況が一転した。空から本物の槍――グングニルが振って来て、フランの目の前に突き刺さったのだ。
瞬時に反応したシオンは、足の鉤爪で地面を抉りながらも停止する。そして槍が振って来た方向を睨んだ。
だがフランはそんな反応をしない。この槍の持ち主が誰なのかわかっているのだから。
「お姉様!!」
「一人でなんとかしようとするなんて、無茶な真似をするわね、フラン」
羽をはばたかせて地面に下り立つレミリア。それに続いて咲夜、美鈴、パチェリーも次々に下りてきた。
「それで、どういたしますか? お嬢様」
美鈴の言葉に、レミリアはこの場で最もやり易いだろうフォーメーションを言う。
「フランは力が強いからシオンの攻撃を受け止めて。美鈴はフランのサポートを。咲夜は時間を停止させて遊撃の役割をしてほしいのだけど……」
「私の停止能力はシオンには効果がありません」
「なら加速を使ってちょうだい。それだけでも十分役に立つわ。パチェリーは遠距離からの攻撃をして。私はパチェリーの護衛とシオンの弱点の考察をするから、皆、お願いね」
四人はそれぞれの言葉で了解と示すと、フランと美鈴は飛び出し、咲夜は周囲の風景に気配を紛れ込ませて消え去る。
「とりあえず、最初はこんなところかしら」
パチェリーは魔法を詠唱すると、シオンの足元の地面に亀裂を作って体勢を崩させる。その間に近づいていたフランがレーヴァテインを叩き込み、その後から美鈴が追撃を入れる。
シオンは左手でレーヴァテインを掴み、美鈴の打撃を強固な鱗で受け止めた。左手は燃えること無くレーヴァテインを掴み続け、拳を受け止めたシオンではなく、殴った方の美鈴の手が傷ついた。
「どうして燃えないの!?」
「硬すぎます!!」
フランはレーヴァテインを消して後ろに移動し、美鈴は足払いをかける。しかし右足はともかく左足はびくともしなかった。どうやら体重そのものが増加しているらしく、足を払うのは殆ど不可能そうだった。
左手で地面を掴み、亀裂から無理矢理左足を引き摺り出す。本来の人間の足ならばズタズタになるであろう行動でも、鱗に覆われた足には傷一つもつかない。
「一体どうなってるの、あの体は!?」
「おそらく、アレは重力をそのまま身に纏っているのかと。だから私たちの攻撃が一切効かないのでしょう」
驚愕するフランと冷静に状況を観察する美鈴。その間にも目まぐるしく変化する攻防をパチェリーのサポートがあるとはいえそんな中でやれているのだから凄まじい。
「あーもう! きりがないよ!」
「愚痴を言う暇があるのなら手を動かしてください!」
後ろに回ろうとした瞬間に突如一本の尻尾が反応し、鞭のようにフランに襲い掛かる。すぐに躱したが、尻尾があるせいで後ろに回り込みながら前後での迎撃ができないことがわかってしまい、憂鬱になる。
前からの攻撃にも体の大きさのせいで限界がある。これでは数の利が活かせない。それにパチェリーのサポートも余り頼ることができない。これ以上サポートをし続けてもらえば、喘息が再発する可能性があるからだ。
同じくレミリアも動けない。パチェリーがいるからこそ満身創痍のフランを庇いながらでも美鈴がシオンとまともに戦えるのだから。もし仮にレミリアが前に出ればそこを狙われるのは必然だ。つまり、レミリアは動けない。精々が軽い弾幕を作って攻撃するくらいだ。それもフランと美鈴に当てないように注意しなければならないため、やはりきつかった。
だが二人は驚きによって顔を歪めることとなった。シオンの腕が、いきなり
「「えぇ!?」」
真横から薙ぎ払われる腕を美鈴は片膝をついてしゃがみながら、フランは羽をはばたかせて上空へと飛んで逃げる。しかし、そこで更なる変化が起きる。シオンの腕が直角に曲がり、上空を飛んでいたフランの元へと突っ込んで来たのだ。
「ちょ、それありなの!?」
流石に反則だと思いながらも、空を飛んで迫りくる腕から逃れる。その間に美鈴が突進し、シオンの鱗に覆われていない右半身に打撃を捻じ込む。そこで腕を捻ってフランに追撃を入れるのと同時に体を捻じ曲げて美鈴の攻撃を鱗で受け止める。
無茶な真似をしたせいか、腕の制御が外れてしまった。見当違いの方向へ向かった腕を見送り、そのまま余裕を持って回避したフランは地上へと降り立つ。そこで見たのは、片腕を長くしたせいで不利になっているシオンが、今まさに顔面を殴られるところだった。
しかし、シオンが足を投げ出してその場に倒れこんだことで、その拳は回避された。だが体勢を崩したことで無防備になったシオンに追撃を入れようとする。そこで異変が起こった。シオンの体が前触れもなく大きく動きだしたのだ。
何が起こったのかと視線をずらした美鈴の視線に、
「尻尾を!?」
そう、シオンは尻尾を地面に突き刺して体勢を整え直したのだ。そこに追撃を入れようとした美鈴にカウンターを入れる。体を捩じると、一気に左足を振りぬいた。
「ぐ、ぁ、ふ!!?」
斜めに振りぬかれた左足の鉤爪によって腹を切り裂かれ、そのまま蹴り飛ばされたことによる鈍痛が走る。鋭い痛みと鈍い痛み、両方の痛みに耐えなければならなくなった美鈴は膝をついて片手で傷口を抑えた。
いくら理性を無くし、獣となっているシオンでも、弱った相手を見逃すはずがない。そのまま美鈴の元へと突っ込もうとしたシオンだが――突如後ろから飛来してきたナイフを直感で悟り、尻尾の一つで受け止めた。
地面に突き刺してある尻尾を動かして体を後ろへ向けると、そこには銀色の髪をした可憐なるメイド――咲夜が、苦い表情で立っていた。おそらく、完璧な不意打ちを防がれたのを悔しく思っているのだろう。
「咲夜、何時の間にそこに!?」
レミリアでさえ気が付かないほどの隠行。咲夜がいつの間にそんなものを体得していたのかと驚いたが、すぐにマズいことに気付いた。
「今すぐそこから逃げなさい。シオンが――」
言い切る前にシオンは尻尾にかけていた力を緩めて地面に下り立ち、そのまま咲夜に向かって跳びだした。
コレはこの場にいる存在の力の強さに関係している。フランと美鈴は手負いだが、フランは純粋な強さが、美鈴は怪我を負っていても、その膨大な戦闘経験で傷をカバーできる可能性が高く、倒せない訳では無いと思うが、相手にするとなると倒すのに時間がかかる。
パチェリーは近接格闘は弱いが、それを補う前衛がいれば後衛としての火力を存分に活かせられる。そしてその前衛をやっているは、フランよりも純粋な強さが上であり、尚且つ戦闘経験も何もかもが上であるレミリアだ。適当に突っ込んで行けば、下手をすると殺される。
だからこそ咲夜の元へ行くのだ。咲夜は人間であり、この場にいる誰よりも弱い。それ故に何の策を弄さずとも勝てる。
そしてそれは――咲夜にもわかっていることだ。
「ですが、それがわかっていれば、対策も立てられるのですよ」
そのままただ突っ立ってシオンが攻撃して来るのを待つ。余りにも落ち着き払っている咲夜に苛立つレミリアだが、何か策があるのだろうと、一旦の落ち着きを取り戻した。
「そのまま死んだら許さないわよ、咲夜……」
ポツリと呟いたレミリア。
遂にシオンが咲夜の目の前へと辿り着き、爪を振りかぶった。それを目の前に突き出し、咲夜の顔を貫く――その寸前、強固な壁を貫いたかのような轟音を立てて、その場所に突き刺さった。
「グゥ!!?」
どちらかというと獣のような声を出すシオン。とにかくこれを抜こうと壁に刺さった爪に力を込めるが、全く抜ける気配が無い。
その様子をレミリアたちが見ていた。
「アレは、一体……?」
呆然とした顔で言うレミリアの横で、顎に手を当てて考えていたパチェリーが、あぁ、と呟いた。
「なるほど……よく考えたわね」
「何か気付いたの?」
「それは……。まあ、見てればわかるわよ。ほら、あっちを見て」
そう言ってパチェリーが指差した方向――シオンのいる場所の斜め上、空を見る。
そこには、空気を踏みしめて立っているかのような恰好をした咲夜がいた。
「どういうこと……? 咲夜は確かにあの場所にいるのに……」
「私がその説明をする必要は無いから、言わないわ。多分、咲夜が言うでしょうから。妖怪であるレミィなら、この程度の距離なら聞こえるでしょう?」
パチェリーが言いきったその瞬間、今まで静止していた咲夜がナイフを投げ始める。
「シオン、貴方に理性が残っていたのなら、そこにいる私が私では無いことに気付いていたでしょう」
速く、遅く、遅く、速くと、何度も何度も投げる速度を変える。
片腕が突き刺さって抜けないシオンは、弱点である右半身を晒している。そのため、本来ならば全く役に立たないナイフでも攻撃できるのだ。
「シオンは私が時間減速を使えることを知っているはず! そして、それを使えば
何も咲夜は特別なことをしたわけではない。まず時間減速を使って、その場にいる誰にも気付かれないように移動した。そしてフランと美鈴が戦っている場所よりもある程度離れたところに小細工をし始めたのだ。
「そしてその場所で、時を操る程度の能力の応用、『空間歪曲』を使って空間の連続を操作して連なりを断ち、透明な壁を作って風景だけが見えるようにした!」
そこでやったのは、まず風景のみをそのままに、そして透明な壁――いわゆるマジックミラーのようなモノ――を作り上げる。大量の時間をかけて捻じ曲げた空間は、シオンの『空間固定化』よりも更に堅固なものとなる。
「そして歪曲させた空間から空に移動し、そこでサポートできる時が来るのを待った」
そして咲夜はそこから再度移動をし、空に空間歪曲を使って足場を作る。こうしたのは、不安定な空に浮き続けるよりも、足場を使った方がナイフを投げやすいからだ。
だが移動した咲夜は空にいるせいで、壁を作ったその奥には咲夜の姿は存在しない。だからこそ、咲夜は
「そこにいる私は空間歪曲を使って姿の身を映したモノ。例えその透明な壁が無かったとして、それを攻撃しても無意味なのですよ!」
簡単に言うと、咲夜はある場所に――A地点にマジックミラーを置き、自身はB地点、空に移動する。そしてC地点に鏡――あくまでも比喩的な考え方――に自分の姿を映したのだ。
それに気付かなかったシオンはB地点に突っ込んで腕を振るってしまった。しかしそれで貫いたのは、極限にまで凝縮された空間。
本来ならば弾かれるのが普通なのだが、シオンの攻撃力が高すぎたせいで貫通したのだ。更に最悪なことに、凝固な壁を貫いたせいで抜けなくなり、隙を晒すことになった。何時ものシオンならしない失態である。
「――貴方らしくもない失敗です! 貴方はもっと理知的で、合理的な考えをしていたはずなのに!」
叫びながらも咲夜は投げ続ける。高速で飛来する大量のナイフ。最早数えることすら億劫になる量だ。それでもシオンはそれぞれの尻尾を異様に伸ばしながらも巧みに操り、壁の代わりにしてナイフを弾いていく。
しかしそのやり方はシオン本来の、ナイフとナイフをぶつけて隙間を作り、その間に反撃するという手法を取っておらず、ただ強固な鱗に覆われた尻尾を頼りに、力任せで叩き落としているだけだった。
「正気に戻ってください、シオン!」
そして咲夜は、今の今まで使わなかった能力を発動する。
「コレで――!!」
投げたナイフを、それが壊れないギリギリの速度まで『加速』させる。
フランの高速移動よりも、美鈴の縮地よりも更に上の速度となったナイフがシオンの元へと向かっていく。誰も――投げた本人でさえ視認できない速度で放たれたナイフは、一瞬でシオンのいる場所へと飛んで行った。
しかし――それでもシオンには届かない。
「な……!」
高速で飛んで行ったナイフは、シオンの尻尾の一つにあっさりと掴まれていた。途中に何があったのか、それすら理解できない咲夜は硬直してしまう。
ナイフの弾幕が途切れたことを瞬時に悟り――あるいは本能的に――理解したシオンは、未だに突き刺さったままの腕をミシミシという何かが軋むような音を立てながらも無理矢理引き抜く。
その途中で、尻尾で持っていたナイフを砕いた。
腕を引き抜いたシオンは、野生の獣として当然の反応をした。――即ち、自身に攻撃してきた相手を叩きのめす、という当たり前の事を。
「! 咲夜、逃げてください!!」
それを即座に理解したのは美鈴だった。咲夜は美鈴の叫びにハッとした表情を見せた後、すぐに『加速』を開始して――いつの間にか近づいていたシオンの爪が、右腕を引き裂いた。
「――!!」
腕を切り裂かれる痛みに耐えながらもその場から離れる。何とかレミリアの元へと辿り着いた咲夜は、左手で右腕を押さえて血が流れないようにした。
「大丈夫、咲夜?」
「平気です、お嬢様。何とかかすり傷に収まる範囲内ですので」
どう見ても強がりだが、確かに傷は浅い。ただし、流れる血は尋常ではないのだが。
「……そのままだと、どの道出血死するわよ。パチェリー、咲夜を治してちょうだい」
「いいの? 私が抜けると、あの
敢えてシオンを獣と呼ぶパチェリー。ムッとした顔をするフランだが、実際今のシオンはそれ以外の言葉で表現することはできない。無理矢理自分を納得させ、シオンが四つん這いで佇んでいる空を見据えた。
「しかたがないわ。私は今回の戦いで、誰一人欠けること無くきりぬけたいの」
その言葉にパチェリーは、それはシオンも含まれているのかどうかを反射的に聞こうとしたが、すぐにやめた。恐らくレミリアは頷かないとわかったからだろう。
「……わかったわ」
個人的な理由を含めてもシオンを殺したくは無いのだが、命を懸けるほどの事でも無いと思ったパチェリーは頷き返す。
そして咲夜に近づくと言った。
「手を放して。患部が見れないから」
「わかりました」
「……触るわよ」
言うと同時に、容赦なく傷口に触れる。咲夜の口から小さく呻き声が漏れたが、それを無視して詠唱をし、魔法を唱える。
その間にもシオンは空間歪曲を使ってできた足場から跳び降りていた。すぐに移動をし始める三人。
フランは思いっきり体を捻り、左半身に当てることを考えることすらせずにレーヴァテインを叩き込む。元々レーヴァテインは物を斬ることを想定していない。コレは、炎を使って全てを跡形も無く燃やし尽くすモノなのだから。
左手で握り締めて受け止めたシオンだが、炎が蛇のように腕を這っているのを見てレーヴァテインを振り上げ振り下ろす。それに引きずられるように地面に叩きつけられたフランに向けて爪を振り下ろそうとするが、左側から閃光が煌めいたことで振り下ろしていた腕を強引に向きを変える。
人の腕ならばかなりの負担がかかる技であろうと、重力の鎧を身に纏っているシオンには関係が無い。そして腕を槍にぶつけて穂先を逸らすのと平行して尻尾の一つをフランに、もう一本を槍が跳ね除けられたことで体が泳いでいるレミリアに向けて突き出す。
そして二人の体に突き刺さる――寸前で、シオンから少し離れた場所に立っていた美鈴がいきなり跳び出し、まずフランの方に向かっていた尻尾を蹴り飛ばし、そのまま蹴った勢いを利用してレミリアの方に向かった尻尾を蹴り飛ばす。しかしその結果若干だが隙ができてしまった美鈴の横合いから最後の尻尾を飛ばす。
美鈴は腕を真上に伸ばして、先程の攻防で逸らされたグングニルを掴み、腕の力だけで体をグルリと回転させて避ける。
そして体を捻りながら回転の勢いを加えて蹴りを入れるが、やはり不安定過ぎたのか、後ろに下がられてあっさりと避けられる。
「美鈴、ありがとう」
「いえ、大丈夫ですよ、フラン様」
戦闘中にも関わらず感謝の言葉を言うフランに、油断はせずにシオンを睨んだままの美鈴が返す。
そこでレミリアが割って入って来た。
「美鈴、何故貴方はあの尻尾を蹴り飛ばせたの?」
「え?」
「シオンの体は今、とてつもなく重いでしょう? 下手をすれば、紅魔館の重さよりも上かもしれないのだし。そんなシオンの尻尾を吹き飛ばせたのがどうしてなのか、少し気になったのよ」
「ああ……そういうことですか」
理由を知り、納得する美鈴。
「言われてみると簡単な話、尻尾はシオンの体ほど重くは無いのですよ?」
「――そんなわけないでしょう? 殴られても斬りかかってもビクともしないのよ? そんな体についてるモノが、軽いわけが……」
そこで何かを思い出したのか、レミリアは苦虫を噛潰したかのような顔をする。
「……体と同じくらい重いモノを持ちながら速く動かせるわけがない……」
「そういうことです」
コレを他の動物に当て嵌まれば分かり易いだろう。猫や犬といった動物がもしも自分と同じ体重の尻尾をつけていたとしたら、その重さのせいで満足に動けないだろう。船でいうところの錨を外すこと無く、常につけて歩いているようなものだ。まあ、シオンの尻尾は猫や犬のような生易しいものではなく、猛毒を持つサソリのように危険なものだが。
「それにシオンの体があそこまで重いのは、地面に両足をつけているからこそ踏ん張ることができるのです。しかし尻尾は常に空中を漂っているため、
それなりの、という部分を少しだけ強調する。大妖怪であり吸血鬼でもある二人ならば大丈夫だが、咲夜とパチェリーにはできない、と言いたいのだろう。
「ようは、やりかた次第、ということね」
「まあ、三本もあるので、一対一では絶対とは言えませんが、やりにくいでしょう」
そこで美鈴が手で腹から胸にかけて軽く撫でるような動作をする。苦渋に染まった顔から判断するに、痛みを堪えているのだろう。そう、レミリアとフランはともかくとして、美鈴の傷はまだ完全に癒えていないのだ。
「コレからの私は、余り攻撃に参加はできないと思われます」
その言葉に頷くと同時に、シオンの危険性を把握しなおす。
何故かシオンに攻撃――というよりは、黒陽で斬られると、回復速度が格段に下がってしまうのだ。美鈴の場合、妖力と氣の併用での回復を使ったおかげで傷は塞がったが、無理に動けばまた開いてしまうに違いない。
必然、美鈴はサポートに回ることになる。レミリアのグングニルでの攻撃やフランのレーヴァテインは、技術が伴っていない分どうしても大振りになる。その隙を埋めるのが美鈴の仕事になるだろう。
だがそのサポートのお蔭で二人は躊躇うこと無く攻撃に踏み込める。レミリアは、シオンに攻撃されたフランの傷が全く癒えなかったことと、本来ならば吸血鬼よりは数段劣るが、それでも傷が治るのが速いはずの美鈴の回復速度が下がっているのが目に見えてわかることから、シオンに攻撃されて傷を負えば、看過しえない隙が生まれるのを理解していた。
フランはそこまで思い至らない。というより、病み上がりの身で戦っていたツケが今更やって来たのか、ところどころで集中力が切れてきていた。それを無理矢理繋げているせいで、他の部分に意識が回りにくいのだ。
結果として余計なことに意識が向かなくなった分、戦闘に集中できることとなっているのだが、フランすら気付かない内に刻々と限界は訪れ始めていた。
レミリアとフランが再度シオンの元へ飛び出し、今度は上空から攻撃する。シオンが飛べないからこそ高度からの攻撃は有効な手段となる。ただし、鞭のようにしなる尻尾が超速で迫ってくるため、刹那の油断もできないのだが。
弾幕を形成し、それを放ちながら近づいて攻撃、即座に離脱。空を飛んでいられる二人だからこそ取れる、一番安全なヒットアンドアウェイ。
しばらくはそれでやれていた。しかし、今まで一本ずつ、あるいは二本ずつしか動かしていなかった尻尾を、シオンは同時に操り始める。
今までシオンは、一本ならともかくとして、複数の尻尾を上手く操れていなかったのだ。精々がその場所に予め置いたり、二本の尻尾に一つの動きだけを命令させたりといったものだ。しかしここにきて慣れ始めてきたのか、段々と三本の尻尾を同時に、そして巧みに繰り始める。
一本の尻尾でレミリアのグングニルを、もう一本でレーヴァテインを掴みとり、最後の一本でレミリアの顔を貫こうとして、またも美鈴に邪魔をされる。鱗を使ってガードしているので怪我に関しては余り気にしなくてもいいのだが、美鈴の拳法はかなりのレベルだ。気を抜けば弱点である左半身を狙われ、一瞬で命を刈り取られる。
しかし二人の武器を掴んでいた尻尾を放さなければ回避が難しい。そのため二人の武器にグルグルに巻いていた尻尾を解かなければならず、それがシオンを苛立たせる。
「グゥァアアアアアアアァァァァァッッッ!!!!」
シオンは苛立っているように吼える。遂にシオンの逆鱗に触れてしまった美鈴の元へと跳び出していく。その途中でレミリアとフランが邪魔をするが、無制限に伸び続ける三本の尾を上手く使って近寄らせない。余りにも長くし過ぎれば逆に危険だが、そこは勘で補う。
そして左足を斜めに蹴り上げて回転、そのまま連続で蹴り続ける。回転した体に吊られてグニャグニャと不規則に動き始める尻尾。レミリアとフランは必死に回避するが、一番被害にあったのはシオンの最も近くにいる美鈴だった。
「回避が、難しい上に、掴んだら手が傷つくなんて、なんて酷いルールなんですか!」
暴風雨のように荒れ狂うシオンの猛攻を紙一重で躱しながらも愚痴を言う。レミリアとフランの方が攻撃は軽いのにも関わらず、愚痴を言う余裕すらないのに、だ。戦闘経験の差が如実に表れている。
そこでシオンが拳も交えて攻撃してくるようになった。右手は弾けるが、鱗に覆われた左手はビクともしない。
だが、攻撃を必死に避けている美鈴は、シオンの攻撃に違和感を覚えた。
(……? まさか、シオンは……)
そこで余計な事を考えてしまった美鈴は動きが鈍る。それをついたシオンは尻尾の一つを前に突き出す。美鈴は顔を背けて尻尾の突きを回避した。しかし完全には回避しきれず、その綺麗な頬を深く抉った。
仕方がないと美鈴は足でシオンの胴体を蹴る。シオンの体を吹き飛ばすのではなく、その体の重さを利用して自身を後ろに飛ばしたのだ。いわゆる、作用反作用の利用である。
そのまま体を捻って追撃にきた尻尾を蹴り飛ばし、足場にし、そこから離脱する。
「パチェリー様、シオンを地面に
「は!?」
咲夜の治療を終えて立ち上がったパチェリーは、いきなりの無茶なお願いに目を白黒させてしまった。
しかしすぐにその意味を理解した。
「……時間がかかるわ。少し稼いでちょうだい」
「了解です!」
即座に詠唱を開始する。今まで使っていた小規模な物とは違い、長い詠唱と大量の魔力を使うため、それなりの時間がかかる。
それでもパチェリーの実力ならば一分あればできる。他の未熟な魔法使いなら、魔法陣などの援助があって始めてできることを。一般的な魔法使いでも、一分では不可能だ。
美鈴はパチェリーの言う通りに時間を稼ぎ始める。付かせず離れずの距離を保ち、シオンの攻撃を回避する。はなから攻撃することなど考えない。理性を失っているシオン相手に時間稼ぎをするのなら、無意味に攻撃するよりも回避した方が有効的だからだ。下手に攻撃をして大怪我を負ってしまうのを考えれば、美鈴の判断は賢明だろう。
それはレミリア、フラン、咲夜にもわかることだ。美鈴がシオンの攻撃を全て引き受けているのは、体力を回復させる意味合いが強い。レミリアは余り疲れていないが、病み上がりのフランと、この場で多量の血を流した咲夜は少々辛いからだ。
そのまま一定の距離を保っていた二人だが、パチェリーが準備ができたのを伝えるために一瞬魔力を増大させたのを感知した美鈴が、シオンにわざと大振りな攻撃をするように誘導して離れたことでその攻防は終わる。
「全員、離れてちょうだい!」
いつでもフォローできるように、美鈴とシオンを中心に三角形の形でそれぞれの居場所にいた三人が跳ぶ。
美鈴だけはまだ完全に離れてはいないが、あいにくと時間が無い。どうせ大丈夫だからと思いながらも、パチェリーはシオンを標準として、半径五〇メートルの地面を変化させる。だがいくら魔法といえども、一瞬で変化するわけではない。
その場を離れようとしたシオン。しかし上から振って来た長大な槍と巨大な炎、そして大量のナイフを周囲に放たれ、それをガードするために全身を丸めて防ぐしかなかった。
それでもその攻撃が終わった瞬間、
シオンの体を足で蹴り飛ばす『何か』。シオンが落ちるのを確認したパチェリーは、地面を操作して穴を埋める。まるで逆再生をしているかのような光景。
落とされたシオンが最後に見たのは、銀色に光る輝きだった。
咲夜が仕掛けた罠の図解?のようなもの 正直書いた作者自身でもわかりにくいと思っちゃったんですよね。
B地点
咲夜(本)
 ̄ ̄ シ|A |咲 C
レミ オ|地 |夜 地
リア ン 点 (偽)点
たち
簡単にやると、こんな感じですかね?
Aがマジックミラー、Bが空間歪曲で作った足場、Cが咲夜の姿を映す鏡。
……うん、どのみちわかり辛いですね。
まあ余り気にしないでください。(面倒なので)
何時もは二話分ストックためてるんですけど、いつの間にか無くなった。
マズい、速く書き溜めないと……