東方狂界歴   作:シルヴィ

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気付いたら12時を過ぎていた!
1か月ぶりなので時間を見ていなかった・・・・

前半部分はいきなりすぎますがご了承くださいw


それぞれの出会い
Side???/もう一人のイレギュラー Sideシオン/道中で


 シオンが紅魔館を去ると同時に、別の世界でもとある出来事が起こっていた。

 絢爛豪華な装飾品で彩られている廊下を、豪奢なドレスを纏う少女が歩く。

 少女の年齢は九歳ほど、と言ったところか。だが幼い少女にも関わらずその身には張りつめられた雰囲気を纏っている。だが別に少女の外見や性格が尖っているわけではない。むしろ全く正反対だった。

 外見としては流麗な黄金の髪を背中に流している。余程丁寧に扱われているのだろう、枝毛などは一切無い。表情は険しくなっているが、それでも可憐な花を連想させるものだ。瞳の色はこちらの思惑を見抜くかのような翡翠だった。

 性格は完璧、というのが周囲の評価だ。少女の身分であればどんな事をしようと大抵の事は許される。だが少女は他者を思いやる優しさを持ち、争いを好まない。些細な事でも気にしてしまうため兄弟姉妹の間でも喧嘩をしない、要は自己主張を余りしない点を除けば完璧だろう。

 しかしそれらの評価を全て打ち消してしまうほどに、少女には欠点があった。他の国、文化であれば欠点とすら言えない欠点。いやむしろ、少女が生まれた国であってもこのような扱いを受けるのは筋違いだ。

 少女の周囲にいる身近な人々は少女を思っている。どんな事をしても届かない思いを。

 廊下を歩いていた少女は、遂に頭を振る。頭につけられていたアクセサリーが落ち、髪がバラバラに乱れてしまうが、気にもならなかった。

 (どうして、なんで私は上手くならないの!? これだけ練習してるのに! こんなにも頑張っているのに!)

 少女はその欠点を知ると、自らの身分故に受けさせられる教育をきちんとこなしながら、その欠点を改善しようと努力した。努力し続けた。それこそ、四歳の時から毎日かかさず、だ。

 それでもその想いは届かない。そもそもとしてその練習方法が合っているのかどうかもわからないのだ。だが流石におかしいのはわかる。初歩の初歩、基礎の基礎すらできないのだから。

 (私には……才能が、無――ううん、そんなはずない! もしそれを認めてしまったら、私はもう、この場所にはいられなくなる……!)

 そんな事は無いと皆が口々に言うが、少女にはもう何が正しくて、何が正しくないのかがわからなくなっていた。

 「普通でもいい……普通だったら、こんな事思わなくてすんだのに」

 「何が普通だったらよかったのでしょうか?」

 「え!?」

 焦りながら振り返った少女の眼に映ったのは、自身とそう変わらない背丈をもつ少女だった。

 「メリー、ね」

 「ええ、そうですが」

 メリーと呼ばれた少女は端的に言う。このクールな少女を一言で言い表すならば、生真面目、だろうか。

 名はアルメリア・フィレス・サンチェルトと言う。メリーは少女や近しい人々が言う愛称のようなものだ。

 髪と瞳は濃い藍色をしていて、髪を三つ編みにしている。可愛いというより凛々しい顔をしているため、もしメガネを付ければ、それだけでもう取りつく島も無い、という感覚を与えてくる。

 ベクトルは違うが、少女とほぼ同等の美少女だった。

 「それで、ここで何を?」

 メリーは敬語を使っているが、身分的には少女の一段下程度の差しかない。単に彼女が外見通りに生真面目なだけだ。

 「……敬語はいらないのに」

 「どこで誰が聞いているのかもわからないのに、そんな事はできません」

 笑顔すら浮かべないメリーに、少女は諦めたように溜息を吐く。何時もの事だ。メリーは何を言おうと、二人っきりだとわからなければ敬語を外さない。まあ、最近は敬語を外す事自体が稀になってしまっているのだが。

 少女は思い返す。昔は身分の差も無く、平民の娘のように遊んでいたのを。それを寂しく思いながら、少女は言う。

 「私は自分の部屋に戻るところなんだけど、メリーも来る?」

 「お供させていただきます」

 「ハァ……」

 本当に、昔が懐かしい、そう思う少女だが、幼馴染だからこそわかってしまう。メリーは見た目通りに頑固さは筋金入りだということが。

 「……何か、失礼な事を思ってはおりませんか?」

 「気のせいだと思うけど」

 勘の良さも筋金入りだった。

 二人は少女の部屋へと入る。その部屋には、少女の身分には不相応に物が少なかった。

 「相変わらず物が少ないですね」

 「私としては、なんで偉い人間ほど自分を着飾ろうとするのがわからないわね。実用性が高い方が結果として時間を食わずにすむのよ?」

 「偉い人間は身分の良さを示すために自身を着飾って……」

 「その説明は何度も聞いたから、言わなくてもいいわ。要は自分の浅ましさを隠して、自分を大きくみせるための虚飾でしょ」

 「……まあ、間違ってはいませんが、決して人目に付くところでは言わないでくださいね。余計な敵を作りたくは無いでしょう?」

 「……今更敵が増えても、気にもならないわよ」

 少女の言う通り、少女には敵が多かった。

 二年程前、少女は愚かにも人目に付き易い場所でいつもの練習をしてしまった。そして、バレてしまったのだ。あの欠点を。

 それからは今までとは一転して周囲の反応が変わった。蔑まれ、見下されるだけならばまだマシな方。同年代の少年少女は、その欠点だけを理由に仲間外れにし、いじめと言うには度が過ぎている事をやったのだ。

 しかし少女は諦めなかった。どれだけみじめであろうと、ただ努力し続けた。

 だがその努力に、結果は出なかった。

 「王女様……」

 顔を歪ませるメリー。

 そう、少女はこの世界にある一つの国の王族だった。

 そしてこの世界には、少女が蔑まれてしまう特殊な事情がある。

 この世界は、その国によってそれぞれ特化したモノがあるのだ。

 ある国は圧倒的な身体能力。ある国は四肢の欠損などでなければどんな傷をも癒す回復魔法。またある国ではどんな物でも作り上げる稀代の天才。それぞれに特化してはいるが、ある一つの共通点が存在する。

 それが『王族やそれに近しい者ほどその才能が突出している』事だ。もちろん例外的に一般市民からも突き抜けた才能を持つが、王族は『絶対に』その才能を持って生まれる。

 少女はそんな王族に生まれた。致命的な欠陥を持って。

 「私は、どれだけ練習しても魔法が使えない」

 そう、王族であるのにも関わらず、この国特有の『攻撃魔法に特化している者が多い』というモノから外れてしまっている。

 魔法にはいくつかの区分が存在する。

 大別して自然、神聖、精霊の三つの魔法だ。

 自然魔法は以て字の如く自然の中に存在する現象をある程度操作するものだ。例えば火の類の魔法が使いたい時は、火種が無ければ扱えない。端的に言えば、火種を増大させるためのガソリンが魔力だと考えればそれでいいだろう。

 神聖魔法は回復の力を司る。コレを使うためには神を信仰している者ほど強力になっていく。つまりその宗教の中で最も信仰しているだろう教皇などがその力を最も引き出せる。

 最後に精霊魔法。コレは自然魔法とあまり差は無いのだが、精霊の力を使う事で媒介となる物が必要無くなり、更に魔法の威力が増すなどといったものがある。もちろん精霊に好かれなければ精霊魔法は使えない。だが精霊に好かれる人間など滅多にいない。希少性で言えばどの魔法使いよりも圧倒的に上だ。

 そしてこれらの魔法だが、『全ての魔法を使う事は不可能』である。

 自然魔法は、神が作り上げた世界を魔力でもって無理矢理改変するものである。故に神聖魔法は使えないと思われている。

 神聖魔法はあくまで『その現象の効果を限界まで引き上げる』だけであって、それ以上の効果は生み出さない。例えば神聖魔法の一つである回復魔法の類は細胞を活性化させて傷口を塞いでいく速度を速めるだけであって、失った手足を治すほどの効力は生み出せない。

 精霊魔法も自然魔法と似たようなモノであるが、精霊の力のみ、つまりは単一の属性だけを使っているのであれば例外として神聖魔法を使える。自然そのものではなく、精霊という媒介を用いているから可能なのだろう。

 もちろんその精霊に備わっていない、別属性の自然魔法を使えば神聖魔法は使えなくなる。

 厳密的に言えばもっと理由があるのだが、民間人にも理解されている範囲ではこのような感じだった。

 だが王女は王族であるのにも関わらず自然魔法は使えず、自然魔法を扱う一族なのだから当然神聖魔法は使えず、精霊に好かれているわけでも無いから精霊魔法は使えない。

 つまり少女は、どう足掻いても魔法が使えない。

 何かしらの……そう、基礎の基礎の魔法でも使えれば話は別だろう。発動できあるのであれば何故魔法が使えないのか、それを調べるための足掛かりにできる。だがそれすら何度やっても発動できない。

 発動できないからその過程が見られず、過程が無いから結果など出るはずもない。

 基礎しか使えないものでも『魔法は使える』。つまり最底辺であっても、スタートラインには立てているのだ。しかし少女は、『スタートラインに立つ事すらできない』。

 膨大な魔力を持っているのは、親や兄、姉から聞いてわかっているのだが、使えなければ宝の持ち腐れだ。

 「私は……できそこないなのよ」

 俯き、手を握り締めるその姿から、どれだけ苦悩しているのかがわかる。

 どれだけ努力しても意味が無い。手を伸ばしても届かない。四歳の時からはじめて、既に五年もの歳月が経っていた。普通であれば、周囲の反応と努力の無意味さから投げ出していてもおかしくはない。

 それでも少女は、努力し続けた。

 「魔法が使えなかったら……私は、ここにいる意味さえ無くなってしまうの」

 それが恐ろしかった。このまま魔法が使えずに生きていって、いずれは『存在していない』ように扱われるのが、何よりも怖かった。

 その言葉に慌てたのはメリーだ。どれだけクールを装っていても、幼い時からの親友をこのままにしているはずがない。中身は意外と情に溢れているのだ。

 「そんな事ありません! 他の方々がどのような扱いをしようと、私と王女様が親友であるのには変わりな――」

 「だったらどうしてそんな言葉遣いなのよ! 二人っきりになってもそう! 昔は王族公爵の差なんて関係なしに私を外に連れてって泥だらけになるまで遊んでたのに!」

 メリーは公爵の娘だった。だが公爵が王族付の侍女になる例は、この世界には余り無い。娘の教育のため、と言った理由でも無い限り、当時六歳の子供を侍女に出すはずが無いのだ。

 他の王族ならいざ知らず、同い年の親友の侍女であればメリーは嫌がるはずも無く、即座に決定された。

 だが王族とその侍女。外聞を気にするのであれば、やはり言葉遣いや仕草は相応のモノにしなければならない。それこそが、王女とメリー、二人の溝を広げる事になったのだが。

 「どうせメリーも皆と同じなのよ! 魔法が使えないと知って、私から離れたくなったのでしょう!? ならさっさとどこかに行っちゃえばいい! 貴方を、私の侍女から解任するわ!」

 「そ、そんな……! どうか考え直してください!」

 「うるさい! 貴方の話なんて何も聞きたくない!」

 「待って下さい! 私の話を聞いて、ア――」

 「出て行って!」

 「え!?」

 メリーの後ろにある扉を指差し、すぐにここから退出しろと命じる王女。王女の侍女であるメリーは本来それに従うべきなのだろうが、今の王女を放っておけるはずが無かった。

 「落ち着いてください! 今の貴方は興奮して――」

 「黙りなさい! 貴方なんかに私の気持ちがわかるはずがない! お父様とお母様、お兄様とお姉様方王族を除けば、この国一番の魔法の使い手である貴方なんかに!」

 「…………………………」

 そう、『王族やそれに近しい者ほど才能が突出している』のであれば、王族の次に権力を持っている公爵家の人間も、相応の才能を持っている。九歳という年で、この国で最高の魔法の使い手になれるほどには。

 メリーでは、彼女の力になれない。それを痛感させられた。

 「……それでは、失礼します」

 背を向けてしまった親友に向けて礼をしたメリーは、静かに部屋を出て行った。

 王女はパタンと扉が閉まる音を聞く。それからフラフラと移動し、自らが眠るベッドの上に俯せで倒れ込んだ。

 受け身すら取らなかったため、少しだけ顔が痛かった。

 「……ッ」

 同時に、両腕に激痛が走る。

 その痛みを我慢して、服の袖をめくる。そこには、少女の清らかな肌には似合わぬ、大小様々な切り傷ができていた。

 先程まで必死に我慢していたが、この少女は『魔法を扱うため』に、自身の血などを媒介にして魔法を発動させようとしていたのだ。結局、無駄だったが。

 「でも……」

 だけど何より、心が痛かった。

 思わず、乾いた笑い声が漏れる。無機質な、何の感情も籠っていないような笑い声。

 「……私の、バカ。たった一人の親友に、あんな言葉をかけるなんて。こんなんじゃ、王族以前に人として失格ね」

 王族の娘と言っても、やはり人間。わかっているのだ。自分がメリーにしたのは、筋違いもいいろところの、ただの『八つ当たり』だということは。

 だけど我慢できなかった。誰かから心配され、同情される。時と場合によるだろうが、それはつまり『見下されている』のと同義なのだ。自分よりも力が無いから心配だし、どれだけ努力しようと自分と同じ才能が無いからと同情される。それが耐えられなかった。

 もちろんメリーにそんなつもりが無い事などわかっている。だが、本当にそうなのだろうか。心の中では自分を嘲笑っているのでは、見下しているのではと一度でも思ってしまうと……不安が抑えきれなかった。

 「だからメリーを怒鳴ってしまった。……まるで、子供の癇癪ね」

 こう言ってはいるが、王女もメリーも九歳の子供なのだ。むしろ当然だ。しかし王族と公爵に連なる者としてかなり高度な英才教育を受けてきた二人は、そこらの大人顔負けの知識と精神を有している。

 しかし、大人であろうと人間関係には敏感な者は多いし、不安になる事だってある。

 そもそもこの少女は何年もの間、様々な人間から害されてきたのだ。ここまで我慢し続けて来れた事、それこそが少女の強さを何よりも物語っている。

 「……メリーに、謝りに行きましょう」

 少女はベッドから下りて、足を床に着ける。目元が赤くなっていたが、少しだけ泣いていたのだろう。

 それでも少女は一歩前に踏み出し――その足が、地面にめりこんだ。

 「な――!?」

 もし少女が魔法を使えたのであれば脱出できたかもしれない。しかしそれは『もし』の可能性である。魔法が使えない少女は、突如出現した穴の中に落ちるしかない。

 「待って、私はまだ、メリーに謝って――!」

 無機物の穴が言葉を聞いてくれるはずがない。だが無駄とわかっていても、少女は叫ぶ。

 そして、少女の体は完全に穴の中に落ちた。

 「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッ!!!」

 どこから絞り出したのか全くわからない叫び声をあげる少女。落下する恐怖の中、徐々に冷静になってきた頭で思考する。

 (私の、たった一人の親友に、もう会えないかもしれないなんて――)

 おそらく、この穴を通り抜ければ、最悪の出来事が待っているかもしれない。底辺にまで落ち切った少女は、もう楽観論を考えられるような余裕は無かった。

 「……喧嘩別れしたままなんて、嫌……」

 この高さから頭を下にして落ちている今、最悪頭が地面に落ちたザクロのような状態になっても不思議ではない。つまり、少女に待っているのは、死、だけだ。

 「ごめんなさい、メリー。ごめんなさい、お父様、お母様、お兄様、お姉様……」

 ずっと自分を、本気で心配してくれていた大切な人に謝る。もう会えないからこそ、ようやく少女は素直になれた。

 閉じた瞼から、小さな雫が漏れ、少女が落ちた後の軌跡として残っていく。

 それから数十秒も経たず、少女はどこか木々? に囲まれた場所に落ちた。どうやらその木に似た何かはそこそこの長さらしく、落ちるまでは数秒かかりそうだ。

 と、その時。真下から声が聞こえた。

 「空から人!? ど、どうすれば――」

 少女が顔を上に向けると、慌てたように荷物を置く少女? の姿が見えた。

 「何をやって――! 避けてください! このままではぶつかってしまいます!!」

 しかし荷物を置いた少女は、なんと両手を大きく広げていた。まるで、これから落ちてくる少女を受け止めるかのように。

 少女はもう一度叫ぼうとしたが、もう間に合わない。ぶつかる――!

 そう思ってきつく目を閉じたが、しかし予想に反してぶつかった痛みは少なかった。だがすぐにドサリ、という音が耳に入り、恐る恐る目を開けると、そこにはイタタ……と呟く、自らを受け止めたのであろう少女? がいた。

 「一体何が……」

 訳が分からず呆然と呟く少女。あの高所から落ちてきた人一人の人間を受け止めきるなど、正気の沙汰では無い。けれど事実、少女はほぼ無傷で受け止めていた。

 未だ痛みが治まらないのか、受け止めた少女は顔を顰めていた。

 しばらくして薄く目を開けた少女は、開口一番でこう言った。

 「あの……申し訳ありませんが、そろそろ降りてくれないでしょうか」

 その言葉を聞いた少女はハッとする。いくら自身が九歳とはいえ、いつまでも上に乗っかり続けていれば負担は大きいだろう。

 いそいそと上から退いて立ち上がった少女の姿を確認すると、少女? は立ち上がる。

 真正面から少女? の姿を見るが、少々おかしな恰好をしている。

 別にブサイクな訳ではない。むしろかなりの美少女だ。足元にまで届きそうな薄紫色の髪をしていて、紅の瞳を持っている。服装は少女が見た事が一度も無いものだ。少女は知らないが、少女? が着ているのはブレザーと呼ばれる、学校から指定された制服的な衣装だ。

 しかし何より目を引くのは、頭の上にある『モノ』だ。少女が目の前の人を少女? だと思っているのも、それが原因だった。

 少女? の頭の上にあったのは、なんと『うさみみ』だった。多少よれてはいるが、少女? が動かしているのか、時折ピコピコと動いている。

 紅い瞳と合わせると、本物のウサギを連想させる。

 わからない。目の前の少女? が何なのか、さっぱりわからない。

 「あの、貴女の名前は……?」

 何をするにしても、まずは名前を知らなければ始まらない。それは目の前の少女? も思った事なのか、あっさりと答えてくれた。

 「私の名前は鈴仙。鈴仙・優曇華院・イナバです。長いので鈴仙で構いません」

 言い終えると、今度は鈴仙と言う少女が、貴女の名前は? と問い返してきた。

 「私は――」

 コレは、少女の人生を決定的に変える出来事の始まりだった。

 

 

 

 

 

 シオンは、目を覚ます。

 同時にヌチャリと、いつも感じる嫌な感触を自覚する。

 それを気にせず、背を預けていた木から離れ、周囲を確認した。

 そこには、化け物がいた。しかも一体や二体ではない。()()()()()も含めて、おそらくは数十体ほど。

 だが化け物は動かない。手足を切り落とされ動けない、あるいは絶命し、血を撒き散らしたモノがだけが、そこにあった。

 「………………………………」

 その惨状に、しかしシオンは眉一つ動かさない。

 「また、か」

 そう、シオンにとってこの風景は、至極当たり前の事だった。いつもそうだったせいだ。周りに人がいて、そこで自分が眠ると、何故かいつも狙われる。だから、自分が殺されないように即座に跳ね起き、相手を殺すしかなかった。

 おそらくは自身の外見のせいだ。あの圧倒的なパワーをどこから出すのか想像もできない細く小さな体躯。少女のような美しい外見。どれをとっても、他者から見ればいい鴨でしかない。

 まあ、妖怪にとっては『人間かそうじゃないか』が判断基準なのだろうが。

 とにもかくにも、そんな事ばかりあったせいか、シオンは眠る時にはいつも黒陽を剣の形にして肩から足元にかけて、つまりは斜めにしておき、体育座りのような体勢で眠るようになっていた。しかも第三者のせいで眠りから覚めないように、眠ったまま戦える事ができるようにもなってしまった。

 本来であればシオンの体勢は即座に動けるようにしたものだ。知る人が見れば、昔日本に存在していた武士が寝る時のような姿勢だと言うだろう。そんな体勢だった。

 シオンが周囲を見渡すと、動かせない体を無理矢理動かそうとする化け物――理性すらもたない妖怪が目に見える。

 更に奥には、こちらの様子を窺う妖怪たちも見える。シオンはそいつらに見せつけるように腕をあげ、魔法で槍を作って手足を切り落とされてもまだ生きていた妖怪たちを全員殺す。

 今度こそ絶命した妖怪たちは、跡形も無く消え去った。シオン顔や髪、のローブに付着していた血すらも。

 それを確認した妖怪たちは、この場から去って行った。

 「妖怪は噂によって作られる……か」

 妖怪が消え去る光景を見たシオンは、なんとなく呟いた。

 妖怪は噂によってその存在を作られる、コレを聞いたのは、咲夜からだった。

 咲夜曰く、「妖怪は死ぬとき、その存在の痕跡すら残さずに消える」のだそうだ。

 (……もしフランやレミリア、美鈴が死んだら……こうなるのか?)

 その考えにゾクリと背筋が泡立った。

 「……ッ!」

 怖ろしい、そう思った。だが、とシオンは思う。

 (フランたちは強い。そう簡単には死なない)

 けれど、この世界には絶対などという言葉は存在しない。そしてシオンは――パン、と一度頬を叩いた。

 「弱気になってもどうにもならない。それに人の心配をしている場合でも無い」

 そう、シオンが紅魔館を出てから、既に両手で数えられる以上に襲われていた。

 コレにはいくつか理由がある。まずシオンの足ならば本来は一日もあれば辿り着けるであろう里に着いていなかった事だ。

 何故シオンが一日で着けなかったのかというと、単に歩いて移動していたからだ。

 シオンは、見てみたかったのだ。あの場所の廃りきった自然ではなく、この幻想郷にある美しい景色を。

 そのおかげで、色々な光景が見れた。

 鮮やかな木々から香る緑の匂いを。枝から生えた葉の間から射す木漏れ日を。小さいながらも綺麗な川から聞こえる水のせせらぎを。そして上を見上げれば今も見える、青い空を。

 どれもこれも、シオンが居た場所では見れなかったものだ。だから歩きたかった。歩いて、里に行きたかった。

 だが、十回以上も命を狙われれば、流石のシオンもヤバイとは思う。

 一つ溜息を吐いたシオンは、咲夜からもらったお弁当を食べる。

 本来ならば一日分の食糧なのだが、そこは節約した。

 もう冷めているし、味も劣化している。それに少し硬くなっている。それでもシオンは、それを美味しいと思いながら、全て食べ尽くした。

 立ち上がり、一つ伸びをする。

 そして一歩進もうとして、目を見開いた。

 「――なッ!?」

 咄嗟にしゃがんだシオンの頭の上を、黒い球体が飛び越した。もししゃがまなければ、シオンの頭が吹き飛ばされていただろう。

 「なんだアレは……!?」

 黒い球体が飛んで行った方向を見ながらバックステップする。いつまた飛んできても、すぐに反応できるように。

 だがそれは徒労に終わる。今度は闇が周囲を浸食し始めたからだ。

 全ての感覚が、消える。

 見えない、聞こえない、においもしない。地面を踏みしめる感触すらない。

 まるで――この闇に、全てを飲み込まれたかのようだ。

 「……クソッ。まず確認できるのは――」

 それでもなんとか冷静さを保ったシオンは、まず横に手を伸ばす。

 「触った感触は無し。でもそこにはある、か」

 闇が浸食する前、シオンの横には木があった。もし手を伸ばして木があれば、感覚が無くなっただけだと判断できる。無ければ、ここは先程いた場所とは別の空間だとわかる。

 結果は前者。それなら、まだできる事はある!

 「ここで戦っても勝ち目は薄い。なら、逃げる!」

 闇の中心部から逃げ出そうと、シオンは全速力で逃げる。途中にあった木々を右に左にステップして避ける。まるでどこに何があるのかが全てわかっているかのような走り方だが、事実全てわかっていた。

 シオンにはかなりの距離を見渡せる視力の良さと完全記憶能力がある。それを使って幻想郷の地形を覚えようと適当に飛んでいた時があったのだ。だから細かな配置すら覚えられた。

 「備えあれば憂いなしって言葉を紅魔館の本で見たけど、本当だな」

 このままなら逃げられそうだ――そう思ったシオンだが、一つ失念していた事がある。

 それは『この世界の常識はシオンの常識とはかけ離れている』事だ。

 だから最後まで気付けなかった。この闇によって混乱してしまった妖精たちによって、『木々と地面の配置が微妙にズラされていた』事に。

 そのせいでシオンは、レミリアから『絶対に行ってはいけないと言われた場所』に、辿り着いてしまった。

 そしてシオンは闇から抜け、そして――『幻想』のような光景を見た。

 

 

 

 

 

 一方、あの黒い球体の中にいた一人の妖怪が、アタタ、と頭を押さえていた。

 「あ~もう、あの速度で飛ぶのはいいけど、まさか封印が解けるとは……それに、結局あの人間には逃げられちゃったし」

 本末転倒にもほどがあるわ、と一つこぼし、横に落ちていた。赤いリボンを手に取った。

 少女の外見は、十代中盤くらいだった。肩にかかるかどうかという髪は黄色。瞳はシオンやレミリアと同じく赤い。服装は周囲の闇に紛れるかのような黒色だ。

 だがどこか近寄りがたい雰囲気を纏っている。不用意に近付けば、食われる。そんな感覚を与えてくる。

 「久しぶりに面白そうな人間と会えたんだけどなぁ。私の闇の中でも普通に動けてたし」

 少女の闇は、彼女の気分によって力の大きさを変える。通常ならば松明の火すら消す程度の魔法の闇だが、強力なモノになると周囲全てを遮断する闇となる。

 そんな状況では、闇の力を持つこの少女以外は動けないはずなのだが……あの人間は、当然のように動いていた。

 「いつか会ったら、殺し合いましょう?」

 聞こえるはずは無いのだが、少女は勝手にそう約束した。

 手に持ったリボンを、髪に巻き付けながら、少女は思う。

 (バカになった私じゃ貴方には勝てない。だから、バカで幼いルーミアじゃなく、少女のルーミアで貴方と戦ってあげるわ)

 そうして、闇を纏った少女、ルーミアは幼い童の姿となり、その場から消えた。




えぇ、前半読んで「は? なにコレ?」と疑問に思った方はいると思います。
なぜこうなったかというと……
私、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
本来であれば世界観もキャラクターも何もかも自分で考えたオリジナル作品を作ろうとしてたんですよ。
で、実際に書いてたのが中三の夏。そしてそれなりの話数を書いた所で……

PCぶっ壊れ→HDのデータ消滅

……モチベが一気に無くなりました。
一応思い出せる所は書いたんですが、まあ、そこで終わりました。
小説書いてる方ならわかると思います! 一生懸命書いたのに全部無意味と化したあの悲しさが!!
けどまあしばらくして「やっぱり何か書きたいなぁ」とか思いまして。
それで「なら主人公はそのままに、何かの二次創作に組み込んでみよう!」とか考えて、その結果東方の二次創作にしよう、となったのです。
ちなみに前半部分の少女はそのオリジナル作品のヒロインです。
彼女がこの世界に来た理由もちゃんと思いついております。偶然だけど必然なのですw

ルーミアに関しては二次設定を使わせていただきました。
理由としては、彼女の能力で無いとシオンを『あの場所』に連れて行く理由が思いつかなかったからです……
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