東方狂界歴   作:シルヴィ

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15日もの間空けてすいません!

親からパソコン禁止令出されて一切触れませんでした……
この話も親がいない間にちょこちょこと書いてたものです。

ゲームもWeb小説も読めないのが辛い……


Sideアリス/甘え、頼る事

 永琳にあの薬を塗られてから実に数日間、アリスはずっと苦痛と戦っていた。

 両腕に走る熱。それが常に火で炙られている錯覚を与えているのを、アリスはずっと耐え続けていた。

 子供とは思えぬ精神力。しかしそれがアリスをアリスたらんとしているもの。

 英才教育を受けたお蔭で並みの子供よりは賢いアリス。だがそんなものは同じ内容の教育を受ければ大なり小なり似たようなものになる。

 つまりアリスは、並みよりは上だが突出した才能を持っている訳では無い。

 その唯一の例外がそこらの大人を超える強靭な心。コレがあったからこそ、アリスはずっと他者から害され続けられたのに耐えられた。

 だからこそ、今回の試練にも耐えきったのは、いわゆる必然というものなのかもしれない。

 しかし、それでも痛みが引いた時には意識が途切れて、数時間ほど気絶してしまった。

 数日間ほぼ付きっきりで看病してくれていた鈴仙を慌てさせてしまったのは、今回の中で最大の失態だった。

 「……ん……。アレ、ここ……」

 目を覚ました時に見たのは、見慣れない天上だった。

 「アリス、起きましたか!?」

 「……鈴仙? じゃあ、ここは、鈴仙の部屋?」

 「はい。師匠の部屋でもよかったのですが、今は師匠と一緒にいたいとは思わないので……」

 その言葉に疑問を覚えたアリスだが、ふと思い出す。

 朦朧としていた意識の中で、隣の部屋から怒鳴り声が聞こえたのを。

 「もしかして、永琳様と喧嘩を?」

 「う……」

 気まずそうに目を逸らす鈴仙。

 どうやら図星らしい。一言物申そうかと思ったが……やめた。

 (自惚れじゃなければ……鈴仙は多分、私のために怒ってくれたのだから)

 鈴仙は優しい。だからこそ、アリスはニッコリと笑った。

 「ありがとう、鈴仙」

 「な、何がですか? 私は特に何もしておりませんよ」

 「……なら、そういう事にしておくね」

 アリスは知っているのだ。

 鈴仙がずっと、アリスのために永遠亭を駆けまわっていた事に。

 その証拠に、ずっと寝込んでいたのにも関わらず、アリスの体は汗でべたついたような不快感が無い。服だって寝間着に変わっている。

 クスクスと笑っているアリス。

 居心地が悪くなったのか、鈴仙は少しだけ赤くなった顔を誤魔化すように立ち上がると、襖に手をかけた。

 「ア、アリス、小腹が空いていませんか? お粥を作って来るので、少々待っていてください」

 鈴仙はアリスの返事を聞かずにその場から退出していった。

 (ちょっと悪い事しちゃったかな……四日間ほとんど寝ずに看病してくれてたのに……)

 あまり目立たないようにと化粧で隠していたようだが、逆にそのせいでアリスは気付く事ができた。基本的に弱みを見せてはならない王族や貴族は自身を着飾るのが常。だから化粧に関する事は幼い時から叩き込まれていた、それが理由だ。

 そう思って反省していたアリスだったが、ふと寝間着の袖を捲ってみた。

 「……治ってる」

 自身に傷をつけるという凶行を致す前の、健康な両腕だ。

 いつも迸っていた鈍い痛みも消えている。クリームのようなモノを塗っていた時の強烈な痛みは正直もう遠慮したいが、それでも腕が綺麗になったのは、とても嬉しかった。

 アリスは知らず知らずのうちに、小さな微笑みを浮かべていた。

 それから数分後、ふと我に返ったアリスは、横にあった服……というより、着物を手に取った。

 だが、どう着ればいいのかがわからない。困惑していたアリスは、しばらくの間その場で待つことにした。

 そう思った瞬間、後ろの襖が開いた。

 「アリス、お待たせしました――って、ああ、着替えるのは待って下さい。お粥を食べ終わったら私が手伝いますので。まあ、その前にお風呂に入るのをお勧めしますが」

 その後の言葉に、「数日風呂に入ってないので汗臭いと思いますし」と思ってしまったのは、アリスも幼いとはいえ女だからだろうか。

 若干顔を引き攣らせてしまったアリスだが、鈴仙からお粥を受け取ると、布団から少し離れたところにあったテーブルの上に乗せ、スプーンを取る。

 そして一口。

 「……美味しい」

 思わず漏れた賛辞に、鈴仙の耳がピョコ、と動いた。鈴仙自身の表情は変わっていないところを見るに、おそらく耳が本心、顔は冷静さを取り繕っているのだろう。

 それによくよく見れば、鈴仙の顔はニヤけそうになるのを堪えているかのようにヒクヒクと動いている。そっちの方が逆に怖い。

 遂に耐え切れずに笑ってしまったアリスに鈴仙が顔を真赤にする。

 「わ、笑わないでください!」

 「だって……フフフッ」

 どう見ても変な表情なのだ。むしろこちらを笑わせてきているとしか思えない。

 真赤になった鈴仙を弄りつつ、アリスはお粥を食べ終えた。

 「ねえ鈴仙、機嫌なおして。ね?」

 「ふーんですよ」

 弄り過ぎて機嫌を損ね、拗ねてしまった鈴仙はプイッと顔を背けている。その姿はどこか愛嬌があって可愛らしいのに気付いていないのだろうか。

 「どうしたら機嫌なおしてくれる?」

 「私は拗ねてませんよ」

 「……そのセリフを言っている時点で拗ねていますと認めているようなものじゃ……」

 「……へえ。そんな事言うんですか」

 低い声でボソリと呟く鈴仙。

 アリスは思った。……あ、地雷踏んぢゃった、と。

 

 

 

 

 

 「さあ、早く()()を渡してください。マナー違反です」

 「鈴仙が私から離れてくれれば取るから、ちょっと離れてくれない?」

 「アリス、そんな事をしても無駄ですよ? 妖怪である私はアリスの身体能力を遥かに上回っています。無駄な抵抗はやめて早く渡してください。それとも……実力行使をお望みですか?」

 「く!」

 渋々と、本当に渋々といった様子でアリスは()()を鈴仙に渡す。

 「はじめからそうすればいいのですよ。お風呂の中にタオルを入れるのは厳禁です」

 そう、二人は風呂に入っていた。

 先程どうすれば機嫌をなおすのかという発言に対する鈴仙の要求がコレだったのだ。

 が、ならば何故こうなっているのか。それは二人が服を脱いでから現在に至るまで、それぞれの差に原因がある。

 鈴仙は誰が見てもスタイルがいい。手足はスラリと長く、指先までもが美しいだと思う。爪も手入れされているのか、汚れなど一切ない。

 ある程度運動しているのか、はたまた別の要因か、お腹も引き締まっていて、しかし硬そうには見えない。

 (胸だって……)

 とそこまで思ったところで、何となく自分の体を見ていた様をニコニコと眺めていた鈴仙は、ジロジロとアリスを見た。

 「ふふ、やはりまだ子供ですね」

 「ど、どこを見て言っているの!?」

 「おや、言ってもかまわないのですか?」

 「……言わないでくれると、ありがたい、です」

 真赤になって俯くアリス。先程とは全く真逆の光景だ。

 そんな状況で、アリスはチラチラと鈴仙を見ていた。

 むろん、その視線に気付かない鈴仙ではない。

 「どこを見ているのですか、アリス? 気にする事でも無いでしょうに」

 「それは嫌味? 嫌味なの!? わかってるくせに!」

 「わかってると言われましても……主語が無ければ伝わりませんよ?」

 ニコニコと笑って(アリスには意地悪く笑っているように見えて)いる鈴仙。

 が、そこでアリスが反撃に出た。

 「それ!」

 「え、きゃっ!?」

 バシャリという音とともに、顔に水をかけられる。

 咄嗟に顔の前に腕を交差させて目に入らないようにしたが、それこそがアリスの狙いだった。

 「こんなもの! こんなもの!」

 「ちょ、アリス、やめてください! って、そんなに強く掴まないで……! 地味に痛いんですから!」

 上半身についてある『モノ』を無理矢理グニグニと掴まれているせいで、微妙な苦痛を与えられる鈴仙。

 しかしそんな鈴仙の苦情はあっさりとスルーされた。

 「何がお子ちゃまなのよ! 言ってみなさいよ!」

 「アリスがお子様なのは年齢的に考えて当然――ってああすいません! そろそろやめてください本当に!」

 反論した鈴仙の言葉に、遂にアリスが容赦なくなりはじめた。

 どんどんヒートアップしていく二人の絡み合いに――

 「……何を、しているの?」

 「「……え?」」

 扉の前に立ち、ヒクヒクと頬を引き攣らせている永琳を見てアリスは、

 ――……あ、マズい事になった。

 と、思った。

 どうやっても言い訳できない。鈴仙は痛みのせいか涙目になっていて、アリスはどこか嗜虐的な笑みを浮かべている状態だ。

 鈴仙は被害者的立ち位置だが、アリスだけはどんな観点から見ても自分と同じ女性を襲っている加害者(ヘンタイ)にしか見えなかった。

 瞬時にそう判断したアリスは、鈴仙のアレから手を離してワタワタと弁明する。

 「こ、これはちょっと気になっただけで! 私にはまだないから!」

 「……それにしては、悲鳴が聞こえてきたのだけれど」

 「それはそれはえーと少し強く掴んじゃったから!」

 どんなに弁明しても永琳のジト目というなの疑いの視線は晴れない。

 「だから私は女の人が好きなわけじゃなくて……」

 「……ええ、大丈夫よ。私は貴方がどんな性癖を持ってても気にしないから」

 「私はちょっと不安ですけど……大丈夫ですよ? アリスは友達ですから」

 「全然わかってない!」

 遂には怒鳴ったアリスは、二人の視線がどんなモノに変わっているのかすら気付かずに叫んでしまった。

 「ああもう! 私は普通に男の子が好きな普通の女の子です!」

 「……へえ」

 「……ほお」

 「……あ」

 永琳と鈴仙の視線が全く別の、ニヤニヤとしたからかっているものに変わっているのにやっと気付いた。

 カアァァッ――と顔が真赤になっていくのを自覚するアリス。

 つまりコレは、最初から最後までからかわれていた、という事だ。

 「……いじわる」

 「すいませんアリス。でも、最初に私をからかったのはアリスですよ?」

 「私はその現場を見てはいないけど、面白そうだからつい、ね。でもまあ、赤くなって恥じらっている貴方は可愛いと素直に思うわよ」

 肩を竦めた永琳は、それだけ言い残して出て行った。

 風呂に浸かっている鈴仙はまだ出ない。なので、まだ少しだけ顔の赤いアリスの相手をする事にした。

 「アリス、コレでお相子……というつもりはありませんが、代わりに、私が軽いお願いなら聞くという条件で機嫌をなおしてください」

 「……だったら」

 アリスが言ったお願いは、鈴仙ですら拍子抜けする簡単なものだった。

 

 

 

 

 

 「では、眼を閉じてくださいね」

 「うん」

 鈴仙はアリスの頭にお湯をかけ、泡を落とす。

 アリスのお願いは、自分の頭を洗って欲しいというものだった。

 ザバァーとお湯をかけ、丁寧に、綺麗にしていく。

 タオルなどでしか軽く拭けていなかったアリスの体と髪は、もう艶やかになっている。元々のケアがよかったからだろう。

 「はい、終わりましたよ」

 「ありがとう鈴仙」

 「でも、コレでよかったのですか? もう少し難しいお願いでもよかったんですよ?」

 「ううん、私はコレがいいの」

 少しだけ、アリスの声音が沈んだようになった気がした。

 そしてそれは、気のせいでもなんでもなかった。

 「私は王族だって言ったでしょ? だから私は、お父様にも、お母様にも……兄様や上の姉様、下の姉様にも甘えるなんてことは、許されなかった。ううん、そもそも、この人たちは、私の『家族』なんだ! って、胸を張って言えるのかもわからないの」

 家族として過ごした記憶なんて数えるほどもない。贅沢な話だが、平民の子供の方が羨ましいと思った事だってあった。

 例え不自由であっても、『籠の鳥』ではないのだから。

 今思えば、『家族』との幸せな記憶など持っていないから、アリスは誰も信じられなかったのかもしれない。

 今となっては、どうしようもない事だが。

 「……だから、なのかな。私は鈴仙に甘えて……『お姉ちゃん』がどんな感じなのか、知りたかったの」

 「アリス……」

 権力を持つ者には、相応の義務を果たさなければならない。むろん欲望に塗れた人間は、権力を笠に腐ったような真似をする奴だっている。

 しかし、アリスは違う。誰かに甘える事も、頼る事さえしなかった。

 その結果が、この、寂しそうな小さな背中だった。

 「……大丈夫ですよ」

 「え?」

 鈴仙は、アリスを抱きしめた。

 小さい体躯。鈴仙が全力を出せば、すぐに死んでしまう儚い命だ。そんな事をするつもりはないが、それでも、放っておくことなどできなかった。

 「何が、大丈夫なの?」

 「そうですね……。では、こういう事にしましょう。私はアリスの『友達』……兼、『お姉ちゃん』です」

 「鈴仙が……『お姉ちゃん』?」

 「はい。普段は『友達』として、アリスが甘えたい時は『お姉ちゃん』になります。だから、いつでも私を頼ってください!」

 だが、難しいだろう。甘える事も頼る事もしたことが無い人間にいきなりそう言っても、ただ戸惑うだけだ。

 今はそれでもいい。手探りでも少しずつ頼って、甘えてくれれば。弱音を吐けるようになってくれれば、それだけでいいのだ。

 ほんのはじめだけは、鈴仙が導けばいいのだから。

 「なので、まず最初のアリスの『甘え』を『お姉ちゃん』に言ってください!」

 こちらを振り向き、呆然としているアリスに、鈴仙は任せなさいという意味を込めてドンと腕で胸を叩く。

 少しして表情を変えるアリス。恥ずかしそうで、困惑しているようで、泣きそうで……そして、嬉しそうに。

 「それじゃあ、私と遊んで? 『お姉ちゃん』」

 そう、言った。

 

 

 

 

 

 「……また負けた」

 「仕方ありませんよ。でも、どんどん強くなっていますので、そろそろ私では辛くなってきましたね」

 風呂から上がった二人は、体を拭くのもそこそこに――髪だけはしっかりと拭いた。髪は女の命なのだ――鈴仙が取り出した将棋で遊んでいた。

 理由は単純、二人でやるならば将棋かチェスなどといった二人用ゲームの方が楽しいからだ。トランプなどのカードゲームもあるが、アレは多人数用。二人だけでやるには適さない。

 外で遊ぶのは論外だ。そろそろ暗くなってきているし、何より身体能力に差がありすぎて話にならない。

 そして通算十五戦目が終わる。最初の何回かはほぼ一方的に終わっていたが、十を超える頃には何度か鈴仙をヒヤリとさせる場面があった。

 とはいえやはり素人、そのチャンスをモノにできず負けたが。

 しかしうまくやれば鈴仙に勝っていたのも事実。元の頭のデキが違うのだろう。

 「もう一回やろ、鈴仙!」

 「私もそうしたいのですが……そろそろご飯を作りませんと。その他にも洗濯などの家事もありますし。続きは、それが終わってからですね」

 「……はーい」

 ダダをこねても意味が無いのはわかっているのか、不服そうに頬を膨らませつつも頷いてくれるアリス。

 今ここに至るまであった、全身に張り付いていた緊張感が消えている。リラックスしている、ということなのだろう。だからこそ、大人びたような雰囲気を消し、ただの子供として甘えてくれている。

 それが嬉しいと、素直に思う。あの大人びたアリスもいいとは思うが、やはり自分自身を出してくれる相手と一緒に居るのは気持ちがいい。適度な気遣いもできるので、疲れもない。

 「今夜は、いつもより美味しい物を作れそうです」

 小さく鼻歌をしながら、鈴仙は料理の準備を始める。

 その日の料理は、全員が賞賛するほどのものとなった。

 

 

 

 

 

 同日の夜。アリスは自身があてがわれた部屋にいたが、布団を敷くことも無く、その場でグルグルと歩きながら迷っていた。

 既に寝間着に着替えていた。しかしそれでも歩いているのは、ただ悩んでいたからだ。

 「……ても、いいのかな」

 「何がいいのかしら?」

 「ふえッ!?」

 驚きながら振り返ると、そこには永琳がいた。

 「驚かさないでください!」

 「一応、声をかけていたのだけれど……余程悩んでいたのね。可愛らしい声だったわよ」

 「――……~~~~何の用ですか!?」

 話しを逸らすようにアリスが叫ぶ。

 「もう夜も更けるわ。少し声を落としてちょうだい。……少し、話しをしようと思って、ね」

 「……話し、ですか?」

 「ええ。と言ってももう夜だから、端的に言うけれど……貴方、私に魔法の使い方を習ってみる気は無い?」

 「え……魔法の、使い方?」

 眼を見開き硬直するアリスに、永琳は軽く頷いた。

 「む、無理ですよ! 私はずっと魔法を使おうとしてきましたが、結局は今に至るまで、魔法の発動すらできませんでした、から……」

 「そうね。でも、私は貴方『たち』とは違うわ。まあ、するかどうかは明日、私のところに聞きに来なさい。確実とは言えないけれど、貴方が魔法を使えない原因ぐらいは探れるから。……それじゃ、お休みなさい」

 そんな爆弾を残して、永琳は部屋を去って行く。

 アリスは、その場にズルズルと座り込んだ。

 「……今更ここで、魔法を学んでも……」

 意味なんて、ない。そう言おうとした。だけど、そんなのは違う事に気付いた。

 この世界は、自分が居た世界となんら変わらない。人は殺し殺される。妖怪という存在に。もしも身を守りたいなら、どんな方法であろうと強くなるしかない。

 「でも……」

 もしも原因がわかって、魔法が絶対に使えないとわかったら。今までの努力が全て何の意味も無いモノだと言われたら。その時自分は、どうなるのだろうか?

 そんな思いが、拭えなかった。

 「どうすれば、いいの?」

 自分一人では答えすら出せない臆病者。

 そんな時、ふと鈴仙の言葉を思い出した。

 『私はアリスの『友達』……兼、『お姉ちゃん』です』

 「……頼っても、いいのかな」

 迷惑がられたら、怖い。

 『普段は『友達』として、アリスが甘えたい時は『お姉ちゃん』になります。だから、いつでも私を頼ってください!』

 「……でも」

 『アリスの『甘え』を『お姉ちゃん』に言ってください!』

 アリスは、どうするのかを決めた。

 

 

 

 

 

 とある部屋の前で、アリスは少しだけ迷っていた。

 それでも、と。襖を開けて、部屋の中に入った。

 「鈴仙、まだ起きてる?」

 「……起きてますよ。いつ中に入って来るのかと思ってました」

 「気付いてたの?」

 「兎ですから」

 少しだけ恥ずかしそうに答える鈴仙。

 この様子を考えるに、アリスが迷っていたのもバレていそうだ。

 「それで、どうしました? もしかして、私と一緒に寝たいとか?」

 だが、アリスが『何に』迷っていたのかはわからなかったらしい。

 アリスが胸に枕を持っていたのも理由だろうが。

 「うん……それと、相談してもいい? 『お姉ちゃん』」

 「! はい、もちろんです」

 少しだけ兎の耳を跳ねさせた鈴仙だが、優しげな微笑みを浮かべると、腕を腹にかけていた布団の端に寄せてそこを掴み、上にあげた。

 「ですが、流石に五月では夜は寒いでしょう。せめてお腹には布団をかけてください」

 「わかった」

 いそいそと枕を鈴仙の横に並べ、体を横たわらせる。

 そうしてゴロリと体を鈴仙の方に向ける。鈴仙もアリスの方に体を向けていた。

 「それで、相談とは?」

 「えっと……さっき、私の部屋に永琳様が来たの」

 「師匠が?」

 「うん。それでね、私が『魔法を使えない理由』を解明するくらいはできるって言われて……明日、自分のところに来るかどうかを決めなさいって」

 「それで迷っている、と?」

 「……うん」

 鈴仙は悩む。下手な事など言えるはずがない。が、肝心な事を忘れていた。

 「そういえば、アリスは魔法が使えないのですか?」

 アリスの身体の中にはかなりの魔力が眠っている。それだけの量が合って使えないのは、恐らく稀だと思う。魔法を使った事が無いという線も、アリスの様子からしてありえない。

 「そう言えば、誰にも言ってなかったわ。……あれ? だったら、どうして永琳様は私が魔法を使えない事を知って……?」

 「それは師匠ですし」

 本当に、どこから情報を持ってきているのか気になってしまう。

 一つの事象を知れば連鎖的に他の事象を探れると言っているが、そんな事ができるのは人間の歴史を見ても――他の世界を含めても――皆無と言ってもいいだろう。

 ついつい苦笑してしまう鈴仙に、アリスも釣られて笑ってしまった。

 だが、その小さな笑顔も、すぐに消える。

 「それでね、思っちゃったの。永琳様はただ解明できると言っただけで、私が魔法を使えるようにするとは一言も口にしてないって事に」

 「……だから、不安だと?」

 「それもあるけど、もう一つある、かな。実を言うと、多分こっちの方が理由としては大きいと思う」

 「魔法が使えないよりも大きな不安とは、一体……」

 アリスはそれに答えず、仰向けとなった。

 どこか躊躇っている様子。鈴仙は急かさず、アリスが言いたい時に言わせる事にした。

 やがて、アリスは滔々と自身の思いを口にする。

 「……私はここに来るその寸前まで……大体、五年くらいの間、日々魔法を使うための努力をしてきたの。それが明日、たったの数時間程度で、私が魔法を使えるのか、使えないのかがわかっちゃう。だから私は、私が今までしてきた事が意味の無いものになってしまうのを恐れてる。私がずっと努力してきた事は、何の意味も無い、ただの悪あがきだったんじゃないかって事に……」

 五年。その歳月は、妖怪にとっては短くとも、人間にとっては膨大な時間だ。特に、遊びたい盛りの子供ならば、なおの事。

 それら全てが一瞬で無に帰すとしたら……確かに、恐ろしい。今まで歩いて来た道、その足場が崩れ去るような気分だろう。

 鈴仙も、似たような思いを感じた事があったから、よくわかる。

 あの絶望感は、生半可なものではない、と。

 だからこそ、気休めなど言えない。本当に、鈴仙が心の底から思った事を、そのまま口に出すべきだ。

 「……本当に、全てが無駄だったのでしょうか?」

 「それは……でも結局目的が果たせなかったら、この五年間の意味なんて……」

 「確かに、アリスの目的は魔法を使う事だったのでしょう。それが使えないとわかれば、魔法を使うための練習は、無駄となります」

 「…………………………」

 「ですがアリス、貴方がその時必死に努力したという事実は残ります」

 「え?」

 「努力し続けた時に、貴方はきっと、周りから何かを言われたでしょう。それがどんなものかはわかりませんが……きっと、もう全部投げ出したいと、そう思った事があったはずです。それでもアリスは諦めなかった。それはとても凄い事です。その不屈の心は、これから先の人生で役に立つはずですよ。『あの時の辛さに比べれば』と。……こんなものは、結果論にすぎませんがね」

 そして、更に鈴仙は言い告げる。

 「もちろん強制はできません。結局使えないとわかって、それでもなお何か別の方法を見つけるのか。それとも別の事を目標にするか。あるいは……全てを投げ出して、何もせずに過ごすか。私はどれでも構いません。他者が何か言っても、それは本人にとって煩わしい、ただの戯言にすぎないのですから」

 ですが、と。鈴仙は、顔だけをアリスに向ける。アリスも、鈴仙の方に顔を向けていた。

 「もしも何かをしたいのなら、例えそれが辛い事を忘れるための逃避でも。……もしできるのであれば、私と一緒に料理などの家事をやり、それを学んでみませんか? 魔法を使う事だけが、人生の全てでは無いのですから」

 鈴仙は眼を閉じる。これ以上言う事は無い。後は全て、アリスが決める事だ。体もアリスのいる方とは反対方向にし、言葉ではなく、態度で理解させておいた。

 アリスは鈴仙が動いた事にも気付かず、ただ考え事をしていた。

 (私がしてきた事は無駄じゃない、それはとても凄い事……か)

 それだけでも十分な気がした。

 仮に鈴仙から全てを否定されたなら、アリスはきっと、泣いていた。鈴仙の目すら気にせず、大声で。

 それに、鈴仙はもう一つの『道』をくれた。

 魔法という概念に雁字搦めに縛り付けられていたアリスの心を解く、素敵な道を。

 (……鈴仙と一緒に料理を作ったりする。とても楽しそう……)

 もうアリスは、魔法を使えなくてもいいと思い始めていた。

 心が軽い。なんとなくだが、体も軽くなった気がした。

 魔法だけが全てでは無いと、鈴仙が教えてくれたから。

 「……ありがとう、鈴仙」

 それに応えるように、鈴仙の耳が少しだけ跳ねた。

 

 

 

 

 

 次の日の五時頃。起きるのには早い時間だが、何となくアリスは、永琳はもう起きているだろうと思っていた。

 アリスは鈴仙を起こさないように布団を出ると、部屋に戻って着替えようと襖を開けた。

 「……うまくいくのを祈っていますよ、アリス」

 部屋へと戻ったアリスは寝間着を脱ぎ、なぜか置いてあった、ここに来る時に来ていたドレスを手に取った。

 昨夜、この部屋にこんなものは無かった。つまり、誰かがここに置いて行ったのだ。

 そんな事ができる人物は、おそらく一人だけ。

 アリスは手早く着替えると、廊下を歩き、一旦玄関へ行って靴を取り、それからまた廊下を渡って庭へと出た。

 そこにはやはり、あの人がいた。

 背を向けて佇んでいる永琳は、アリスを見ずに言った。

 「……それで、返答は?」

 アリスは答える前に、まず永琳の前に出た。

 コレは相手から申し込まれたとはいえ、アリスの考えられる限りでは、相手にメリットなどほとんど無い。なのに永琳の顔は真剣だ。ふざけた雰囲気など欠片も無い。

 いつもならば気圧されるだろうそれに、アリスは微塵も怯えなかった。

 だからこそアリスは、相応の礼を尽くす。

 「このような早朝、にも関わらず待っていて下さった貴女様の好意、とても嬉しく思います」

 王族として躾けられたが故に優雅さを持った礼。永琳は小さく頬を緩めると、すぐに顔を引き締めた。

 「それで、貴方はどうするのかしら? 受ける? それとも受けない?」

 「……それは昨晩、とても悩みました。ですが、私は決めたのです。私は――」




シオンは言うに及ばず、アリスも九歳の子供とはとても思えませんね。
というかなぜ私は『子供らしい子供』を書けないのでしょうか。若干悩みます。
少しだけ子供っぽい箇所はありましたが……アリスの悩みも年不相応……

いつか子供らしい子供の姿を書きたいものです。

次回はシオンSideに戻ります。
あの二人の戦闘の行方は一体どうなったのか!?
……まあ、その次回が何時投稿できるのかが不安なんですけど……
一応5日区切りではあるのでたまに覗いて下さると大変うれしいです。
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