東方狂界歴   作:シルヴィ

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二人の距離は少しだけ

 「とりあえず、シオン」

 「なんだ、永琳」

 あまりにバカらしい最後のやり取りに気持ちがクールダウンさせられたシオン。元々冷静だった永琳は、そんなシオンに一言言っておいた。

 「アリスに言っていた事を自分に当てはめなさい」

 「……あ」

 自身の血塗れの体を見て、シオンは小さく声を漏らした。

 「風呂、入ってくる」

 「そうしなさい」

 端的に告げると、シオンは永琳に背を向けて歩き出す。その背は、どこか嬉しそうに見えた。

 シオンの去った中庭。そこに珍しく輝夜が通りかかった。

 「あら、嬉しそうね永琳。何か良い事でもあったのかしら?」

 「良い事……そうね、あったわ。とても、良い事が」

 「へぇ……。それは聞いてもいい内容?」

 長年を共に過ごした輝夜には、今の永琳が、とても喜んでいるのを察した。そして、それはとても珍しい事だということも理解している。

 だからこそ聞いてもいいのか、と問うたのだ。

 「シオンとアリスが、私達みたいな関係になっただけよ」

 「二人が? ……ふふ。それはとても、良い事ね」

 「ええ、とても」

 いつになく大人びた微笑を交わす輝夜()永琳(従者)。それは、最悪の結果にならずに済んだ安堵も、少しだけ含まれていた。

 「コレがいい未来に繋がれば、それが最良ね」

 「少しは輝夜も手伝ってくれていいんじゃないかしら」

 「息抜き程度なら、ね」

 とはいえ、相変わらず面倒くさがりの主に、永琳は四苦八苦させられるのだが。

 

 

 

 

 

 シオンは永琳に言われた通り、風呂に入ろうと廊下を歩いていた。

 「あ、シオン。って、凄い血だね。今から風呂?」

 背後から声をかけられる。振り返ると、ウサ耳が目に飛び込んできた。血塗れの姿にこそ驚いてはいるが、その眼に怯えはない。

 「てゐか。そうだな、今から風呂だ。できているのか?」

 「ちょっと前に焚いたから、もうできてると思うよ。少し温いかもしれないけど」

 「少しくらいなら別に大丈夫だろう。それじゃ、入って血を落としてくる」

 「ん、わかった。鈴仙にはそう伝えておくよ。今シオンが風呂に入ってるって」

 「ありがとう。すまないな」

 「これくらいなんてことないよ。じゃね」

 軽く手を振ると、てゐはシオンを追い越して鈴仙のいるだろう台所へ向かう。

 「さて、なるべく早く出るか……」

 外に出ている鈴仙は、この暑さの中活動している。水場で戦っているシオンと違い、汗の量は段違いだ。恐らくさっさと汗を流したいところだろう。それを思っての事だ。

 今日は本当に色々あったな、とシオンは思う。永琳と殺し合って、暴走して、能力を自分が使える以上の力を強制的に引き出し、終わったらアリスに化け物と呼ばれ嫌な記憶を思いだし、永琳に慰められて彼女を尊敬するようになり、アリスに謝罪されて、こんな事が無いようにもっとお互いを知ろうという事になり……本当に。

 「色々ありすぎたな……」

 思い返している間に全ての服を脱ぎ終え、タオルを片手に風呂場の扉を開いて――

 『――え?』

 ……全裸のアリスと鈴仙の二人の姿を視界に収めた。

 「えっと……シオンは、どうしてここに?」

 「血を洗い流そうと。そっちは?」

 「私は汗を……アリスも同じで、後泥や葉っぱもですね」

 「つまりダブルブッキングになったと」

 「そうなりますね」

 一周回って冷静になった鈴仙と、元から冷静なシオンのやり取り。だがそれはどこか緊迫感を纏っていて――それが、嵐の前の静けさを予想させた。

 「…………………………」

 「…………………………」

 無言になるシオンと鈴仙。そしてその間いる、今までフリーズしていたアリスが遂に我を取り返し――

 「い、いやあああああああああああああああああああァァァァァッッッ!?」

 本日二度目の、悲鳴をあげた。

 「とりあえず、すまなかった」

 大声を前に冷静に扉を閉めると、何事も無かったように服を着直し、もう少し待とうと、外へ出て行ったシオンと。

 真赤な顔で体を抱きしめるアリスに、苦笑いしながら落ち着いてと頭を撫でる鈴仙。

 後からこの話を聞いて、あまりにも差がありすぎる対比に、本当に同年齢なのかを疑問に感じてしまった輝夜達だった。

 

 

 

 

 

 「本当に、どうして気付かなかったのシオン! シオンの感覚の良さなら事前に気付いてもよかったのに」

 「だから考え事してたからって言ってるだろう。それ以外に理由は無い」

 「だーかーらー、その考え事の内容を言ってって言ってるの!」

 食事時、いまだ裸を見られた事に動揺しているアリスは、シオンの隣に座って詰め寄っていた。

 「……言ってもいいけど、アリスが絶対に気にするだろうから、嫌なんだよなぁ」

 何度も問われ、遂にシオンの口からボソリと独り言が漏れた。そして、隣に座っているアリスがそれを聞き逃すはずがない。

 「言ってもいいんだ? ならいいでしょ」

 「痛いところを突くな。……今日の出来事を思い返してたんだよ」

 「ッ。そ、う……なんだ」

 「ああ」

 一気に頭を冷やされ、どころか落ち込みだしたアリスと、どこか罰が悪そうに、言葉少なに答えるシオン。

 「ま、まぁまぁ二人とも、落ち着いて下さい」

 「俺は元から落ち着いているが」

 「……アリス、落ち着いて下さい」

 流石に二人のやり取りを看過できなくなったのか、どうどうと手を出す鈴仙。が、あっさり反論されて言い直すハメになった。

 「それにしても、二人の裸を見て何とも思わないって相当よね。二人とも綺麗なのに。あ、もしかしてシオンって男色の気があったり?」

 「おい待て輝夜。何勝手に人を男好きみたいに言ってやがる」

 傍からとても楽しそうに見ていた輝夜が、ついに場を引っ掻き回しに口をはさむ。しかしその内容は決して見過ごせるものではない。

 「でも男だったら、少しは照れたりしてもおかしくはないでしょう?」

 「俺の年齢を考えろ、年齢を」

 「シオン、男性が異性を意識し始めるのは、六歳くらいの子でもおかしくはないのよ。単に性的知識が無いから性欲はわかないだけで、本能から多少反応するくらいはあるのだから」

 輝夜のからかいに反論したシオンを、横合いから永琳が封殺する。とうとう言い逃れできなくなったシオンに、てゐが呟いた。

 「……もしかしてシオンって、本当は女なんじゃ?」

 ザワリと空気が動いた気がした。

 誰もが薄々感じていたことだ。シオンって実は、女なんじゃ? と。顔はどこからどう見ても女顔。肌はそこらの女性より綺麗で、手足はスラリと長く、美しい。声も、変声期が来てないからかもしれないが、女のソレだと見ていい。男の要素がほとんどなかった。

 「あ、それはないですね。シオンは男ですよ?」

 が、その疑念も、鈴仙のその言葉で晴れることとなる。

 「それって何か根拠でもあるの?」

 「ええ、まぁ。さっき風呂場で会った、と言いましたよね。私達はほとんど見られましたが、言い換えれば私もシオンを見れた、ということです。タオルを持っていましたので、少しだけでしたが」

 「じゃあ……」

 「ええ、しっかりと『男性のアレ』がありましたよ」

 ――ある意味最悪な証明の仕方だった。

 「ひ、卑猥すぎるわ鈴仙!」

 折角冷静に戻ったアリスとか。

 「私も見てみたいわね、『ソレ』を」

 好奇心丸出しの輝夜とか。

 「私は身体構造でわかっていたから、特に興味ないわね」

 あくまで冷静な永琳とか。

 「そっか、男なんだ……」

 なぜかウンウンと頷いているてゐとか。

 「なんだろう、最後が締まらなさすぎる」

 ゲンナリとしているシオンが、そこにいた。

 少しして、飯時にする会話では無いとバッサリ永琳が話をぶった切った事で、何とか元の空気に戻ってくれた。

 もっと早く言ってくれても、とどこかの誰かが思ったが、詮無い事なのでスルーされる。

 「でも男でしたら、やっぱり照れないのはおかしいですよね?」

 「鈴仙はどうしてそんなに冷静なの……?」

 疑問を浮かべる鈴仙に、どこか胡乱げな目でアリスがたずねる。

 「いえ、子供に見られても、特に何かを思いませんし……アリスの方がおかしいんですよ? 普通は」

 至極当然の理由だった。むしろアリスの反応が過激すぎるだけだ。

 「でも、私は王族として清い体でいなければならないから……」

 「当然でしょうね。現在でも婚約して結婚するまで、お互い顔を知らない、なんて事もあるくらいだもの。それなのに他の男と一夜を共にしていた、なんて、家名を落とす事になるのだから仕方がないわ。特に女性の場合は、ね」

 ついでに、避妊どうこうできないでしょうし、とは付け加えなかった。完全な蛇足だからだ。永琳の賢明な判断が功を奏し、アリスは思いきり頷いた。

 「物心ついた頃からずっとそう言われてたから、男の人に裸を見られるのは、恥ずかしくて……どうしても反応しちゃうの」

 「私も昔似たような教育をさせられたから、よくわかるわ」

 同意するのは輝夜。

 永琳という『天才』を教育者として任命させられるほど、輝夜の地位は高い。しかしその分柵も多くあり、その一つがソレだった、というわけだ。

 が、それはこの二人だからであり、シオンの話には繋がらない。そして、ここにいる全員がそれを見逃してくれるはずもなかった。

 視線が一気に集中する中で、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべるシオン。だが、それだけで許してくれるはずもない。

 「師匠命令よ、話しなさい」

 そしてついに、永琳から指令が下った。

 もう知らない、とシオンは心の中で思い、無表情で告げた。

 「――女の肌なんて腐る程見た事があるだけだ」

 その問いに、アリスと鈴仙、そして何よりてゐが反応しかける。

 しかし永琳の眼力に負け、実際は何も言う事は無かった。

 「俺の居た場所が最低最悪な場所だったのは、察していると思う。あそこに治安、なんてものは無い。つまり、無法地帯。そんな場所に女が居ればどうなるか、わかるか?」

 刹那、全員が一気に顔を顰めた。その光景が鮮明に浮かんで来たのだろう。

 「……だから言いたくなかったんだ。この話を食事時に、しかも女性が居る前で話すのが最悪なんて事は、俺にだってわかる」

 「確かに、進んで聞きたい内容では無いわね。でも、一つ付け加えさせなさい」

 「何を付け加えるんだ、師匠」

 「いえ、ずっと気になっていた事があったのよ。シオン、あなた――実は性欲が無いに等しいでしょう?」

 なんて事を聞くんだ、とシオンは思ったが、しかしコレはシオン自身よくわからない。

 「そんなの俺が知るか」

 「でしょうね」

 だったら聞いた意味は? と誰もが思ったが、永琳の話には続きがある。

 「どうにもシオンの体は女性に対して一切反応しないのよね。で、私個人で色々調べてみたのだけれど」

 いつの間に、なんて思考は意味を成さない。医療関係において最高峰の知識を持つ彼女は、相手の体調を把握するくらいわけないのだ。

 「まずシオンの体が通常とは違うのが一つ。そしてもう一つが、人は死に瀕した際自分の血を残そうとする本能が働く。それを刺激され続けた結果でしょうね」

 敢えて確定的な言葉を避ける。人体実験や『そっち』方面、そしてシオンが何度死にかけたのかの話をしても良い事なんて全くないのだから。

 永琳が言いたいのは、シオンは性的なことに関してある意味枯れている、という事だ。その理由の正確な部分は彼女にしかわからないだろう。

 「で、今回の件で確定的になりそうってわけ。私の知識欲を満たしてくれてありがとう」

 そう言って、今までの微妙な空気を、全て永琳への脱力でリセットする。例え途中で話しをぶった切っても、それは些細なしこりとなって残る。それを危惧しての事だ。

 「……あ、でも羞恥心はあるみたいだから、やり方次第みたいだけれど」

 そんな爆弾発言を、残しながら。

 

 

 

 

 

 永遠亭に来て最も最悪な食事を終え、解散する。

 今シオンは、勉強会をしに永琳の部屋へ向かう途中だった。

 「あ、シオン。一緒に行きましょう?」

 「いいよ。……それと、さっきは悪かった」

 「ううん。私も、反応しすぎたし……」

 永琳のフォロー――とも言えないような杜撰なモノだが――で、多少の気まずい雰囲気はどこかに行っている。

 ある意味、コレくらいがちょうどいいのかもしれない。仲直りしたとはいえ、アリスの中にある負い目は消えない。それを考えれば、シオンはタイミング良くそれを打ち消す口実を与えた事になる。

 「とりあえず、今日の分を頑張るか」

 「うん。わからないところは、教えてね?」

 「俺に期待しないでくれ。話せても文字を読むのはまた別問題だ」

 「たった数日で数学の分野を覚えきったシオンが言えるセリフじゃないと思うんだけど」

 「ズルしただけだ。それが無ければ覚えられなかったよ」

 「ズル……?」

 疑問符を浮かべながらアリスが反問する。

 「ああ、そういえばアリスには教えてなかったっけ。俺は『一度見た事、聞いた事、感じた事を絶対に忘れない』能力……いわゆる完全記憶能力を持っていてね。それを使って流し読みした本の内容を空いた時間で吟味できる」

 「じゃあこんなに物覚えが早いのは……」

 「そ。単に寝る前とかに色々思い返しているだけ。ズルいだろう?」

 ハー、と感嘆の息を漏らすアリスだが、シオンの言葉には頷けなかった。

 「でも、それってシオンが覚えようと思わなきゃ無理なんだよね?」

 「え……。ああまぁ、確かにそうしないと『頭の中に理解されていない知識があるだけ』の状態が維持されて、それを利用するとかはできないな。要は数字を知っていてもそれがなんなのかわからないって覚えてくれれば、それで大体あってると思う」

 「ふ~ん……だったら、シオンはズルなんてしてないよ」

 「どうしてそう思うんだ?」

 「確かに人より覚えるのは早いと私も思うよ? でもね、少しでもできた時間に、頑張ってモノを覚えようとするのは、シオンの努力。ズルなんてしてない、シオンの頑張り。だから、ズルなんてしてないの」

 アリスの声は透き通っていて、そこに悪意など存在しない。そしてそんな言葉を言われた事が無いシオンは、ただただ嬉しかった。

 「なんというか……アリスって、意外と大きいんだな」

 「意外とって何、意外とって!? 後何が大きいの!?」

 「心の広さ? 人としての器、とか?」

 「……私はそんな事を言われる人間じゃないよ」

 シオンの言葉は嬉しい。嬉しいが、アリスにはそれを受け取れない。思い返すのは友達に言った罵倒と、シオンに言った『化け物』という単語。

 気分が沈んでいくのを、アリスは感じた。

 「別にいいんじゃないか?」

 「……え?」

 「どんな聖人君子にだって、気落ちする時もある。俺は別に化け物って言われた事をもう気にしてないし、アリスの友達だってアリスを気にしてるんじゃないのか?」

 「その話、いつ知って」

 「さっき料理を作るのを手伝う時に、鈴仙から話を聞いた。あっちは不承不承って感じだったけど……理由は知らない」

 あ、とアリスは自分の口から音を漏れるのを聞いた。思い返せばシオンは鈴仙と二人で料理を作っていた――ただし、シオンはあくまでサポート程度だったらしい――し、鈴仙がアリスに黙って話をしたのも、一緒に風呂に入った時の悩み相談をしたからだろう、と。

 「憤るとは思うけど、鈴仙を責めるのはやめてほしいな。俺自身、戻ってきたアリスの表情がどうにも気になったから無理に聞いただけだし」

 「私の……表情?」

 何となく顔を手でペタペタと触るアリス。

 「ああ。よくわからないんだが……なんとなく、アリスは自分を責めていたからな。それもかなり。俺に対して言ったのを反省しているにしては責め方が異様だったから、多分前にも似たような事をやってしまったんじゃないか、と思って。で、それを知っているアテが鈴仙だったって話だ」

 「よく、わかったね。うん、あたってる。私はここに来る前、たった一人の友達に、ヒドイ事を言っちゃったんだ。それなのに、シオンにもヒドイ事を言って……変われてないって、自己嫌悪してたの」

 「なるほど、な。そこまで深くつっこむつもりは無い。その内容は話さなくてもいいが……とりあえず、戻ったらなるべく早く謝った方が良い」

 「……戻れるの、かな。私」

 「どういう意味だ?」

 訝しげにアリスを見つめてくるシオンに、話そうかと悩む。だが話したとしても、シオンにはどうする事もできないだろう。

 「私ね、幻想郷の人間でも、幻想郷の外の世界の人間でも無い。――異世界の人間なの」

 それでも、シオンにも聞いてほしかった。理由など無い。ただ、自分の事を知って欲しかっただけだ。

 シオンの驚きに対し苦笑いを浮かべながら、アリスは続ける。

 「幻想郷よりも――ううん、永遠亭よりもかなり古い科学技術しかない、代わりに『魔導科学』とかそういった技術がある世界。後はこことはまた違う法則性を持った『魔法』に――外敵である『魔物』あるいは『魔獣』とかもいるの。お伽噺の中には『魔王』なんていう、強い力を持った存在もあるかな」

 「いわゆる『剣と魔法の世界』か?」

 「大雑把に言えばそうなるの、かな? それとやっぱり色んな国があって、それぞれ信奉している神様にも違いがあるんだ」

 「神様、ねぇ」

 「あ、シオンってもしかして神様を信じてない人?」

 「俺は基本、見たモノしか信じない性質(タチ)の人間でね。正直本当にいようがいまいが興味無いんだよ」

 「ふぅん。あ、それでね。私達の国で崇めてるのは」

 アリスは面白そうに一拍おいて、告げる。

 「――魔神」

 「魔神?」

 怪訝そうに歪んだ眉。だがアリスとしては予想に反した反応だったため、ツマらなさそうに答えた。

 「そ、魔神。あ、でも『魔の神様』で『魔神』じゃないよ? 『魔法を極めた神様』で『魔神』なんだって」

 「魔法を極めた――か。そんなに凄いのか?」

 「神話上の話だと凄いよ? なんでも『海から大地を創造した』なんて話もあるくらいだし。私の居た国はその大地の上にあるらしくて。……確証されてない話なんだけど」

 「それは――」

 「面白そうな話ね」

 「ッ! 師匠か」

 後ろを振り返ると、どこか変な笑みを浮かべた永琳がいた。

 何が変、と問われると困るが、強いて言えば――ニヤニヤ、している? そんなふうに感じたシオン。が、そのシオンを置いて永琳は考察し始めた。

 「大地を創造した――これは火山活動にでも干渉したのかしら? でもそれだとそんな事をした場所に国を作るのは危険すぎる――。火山を鎮める必要がありそうね。なんにしろ、その神様はかなりの魔法使いなのね」

 「えっと……永琳様は、信じるのですか? この話を」

 「十割全部信じられる話では無いでしょうけれど、不可能では無い話ね。実際――」

 と、永琳が視線を移す。

 「――今ここに、それができそうな人間が居そうだから」

 「ん? なんだ師匠」

 白髪を揺らす少年に、アリスも苦笑を浮かべる。

 「確かに……できそうですよね」

 「……何の話だ?」

 いきなり話が飛んで理解できないシオン。だがそれを説明せず、二人はようやっと辿り着いた部屋の扉を開ける。

 「あ、そういえば」

 「どうしたのかしら?」

 「いえ、この魔神なんですけど」

 蛇足ではありますが、とアリスが続けた。

 「――なんでも、人から神様になったみたいですよ?」

 

 

 

 

 

 今日も今日とて勉強会をやり始め、そしていつも通りに終えた。ただ違ったのは、アリスがシオンにわからないところを聞いていた点だろう。シオンもわからないなりに色々と自分で調べながら答えていた。

 今まではただ同じ場所でそれぞれの課題をこなしているだけ。それが、たった一日で親密すぎるほど親密なやり取りをする。どうにも永琳の笑みは止まりそうにない。それをシオンに不気味がられたりもしたが。

 「あ、シオン。どこに行くの?」

 「ん? ああいや、その……」

 と、アリスがどこかへ行こうとしたシオンに声をかける。だが、どうにもシオンの反応は芳しくない。

 「んー……。――来るか? 一緒に」

 「いいの?」

 「そっちのが多分早い」

 よくわからない言葉ではあったが、アリスは勢いよく頷いた。

 「うん、行く! 行かせて!」

 「わかった。……見ても驚くなよ?」

 やはり要領を得ない言葉ではあったが、それでもアリスはシオンの後ろを着いて行った。

 

 

 

 

 

 シオンとどこかに行く道中、アリスは鈴仙と出会った。

 鈴仙の手は少し湿っている。皿洗いか何かでもしていたのだろうか。

 「鈴仙は今から何を?」

 「また少し汗を掻いたので、風呂にでも行こうかと。それが終わったら眠るつもりです」

 基本、鈴仙には家事以外にやることがない。趣味も、趣味と言えるほどに興味を持ってやる事はない。強いて言えば料理の研究、くらいのものだろうか。

 必然、やる事が無い鈴仙は夜更かしをすることはあまりない。

 「アリス、まだ話すなら俺は先に行くぞ。面倒なことになるから」

 「あ、うん。わかった」

 シオンが鈴仙の横を通り、先に行く。鈴仙はどこか表情を歪めているが、それが何なのか、アリスにはわからない。

 先に鈴仙が質問をしてきたので、それを聞く暇も無かった。

 「アリスは何をするつもりで?」

 「あ、うん。私はシオンとちょっとやることがあるから、先に寝てて」

 「はぁ。まぁ構いませんが、一体何を?」

 「私にもわからない、かな」

 「……?」

 鈴仙は首を傾げるが、こればっかりはアリスにもどうしようもない。なんせ、彼女自身シオンがどこに行くのかわかっていないのだ。答えようがない。

 結局別れた意味が無い程簡潔なやり取りの末、二人はその場を離れた。

 

 

 

 

 

 今更だが、アリスはシオンがどこに行ったのかを知らない。だが、シオンと途中まで歩いていたことで、なんとなく予想はできていた。

 「多分……ここ?」

 呟きつつ、()()()部屋の前に立つアリス。しかし動く事は無く、間違っていたらどうしよう、と思い悩む。時間が時間だ。間違っていたら、眠っているところを起こしたら、相手がどう思うのかは想像に難くない。

 たっぷり数秒、あるいはもっと悩みつつ、そーっと襖を開ける。

 そんな彼女の眼に飛び込んできたのは――

 「シオン、もっとうまくやりなさい! あ、そのアイテムは必須よ! 取り忘れたら絶対許さないんだからね!」

 「ちょ、無茶言うな! ていうかアイテムって言われてもどれかわからないんだが!?」

 「ああもう、いいから貸しなさい!」

 「うわやめ死ぬ! 死んじまうから覆いかぶさってくるな!」

 ぎゃいぎゃいと叫びつつ、シオンは必死に『なにか』を操作し、そのシオンに後ろから抱き着き無理矢理その『なにか』をシオンの手の上から操作しようとする。

 「ちょっと、暴れないで! 操作が狂うでしょ!?」

 「だったら抱きしめるな! 貴女に恥じらいは無いのか!?」

 「何子供(ガキ)がいっちょ前にナマイキ言ってるのよ!」

 アリスが襖を開けたのにすら気付かず、二人は喧嘩腰で叫び合う。そうしながらも一切手元を狂わさないのだから凄まじい。

 「ああクソ、面倒クセェな! だったら手伝え! 俺が合わせる!」

 「最初からそうすればいいのよ!」

 もう普段の言葉遣いすらかなぐり捨てて、シオンは輝夜に背中を預ける。傍目から見るとかなり仲良く見えるが、和気藹々とした雰囲気とは程遠い。二人とも、かつてないほど真剣だ。

 シオンは輝夜の指の動きを先読みして自身の指を動かす。結果輝夜が「ここからどう操作しどうすればクリアできるのか」を教え、シオンがそれを一二〇%以上の精度でこなす。ある意味息が抜群に合っている。

 何かを倒した音が鳴ると同時に、二人は姿勢を楽にした。

 「ふぅ、何とかなったな」

 「当然。私とシオンの二人がかりよ? こんなの誇ることじゃないわ」

 ようやく一息ついたのか、シオンがコントローラーを手放す、と。

 「ん? あぁ、アリスか、いらっしゃい。つってもここは俺の部屋じゃないんだが」

 そこでようやく未だ呆然と突っ立っているアリスを見つけたシオンが声をかける。

 「あら、珍しい――というか初めてよね? どういう風の吹き回し?」

 「俺がいつも勉強会の後にどこ行っているのかが気になったらしい。そういえば後から来るって言い忘れてたな」

 「別にそれくらいいいけど……アリスにわかるのかしら、()()?」

 「別に知識が無くても問題は無いだろう。俺だって()()が何なのか知らなかったからな」

 またもアリスほったらかしで、()()とやらを示す二人。

 「ふ、二人は何をやっているの……?」

 当然の疑問。二人は特に慌てることなく。

 「ゲーム、だな」

 「ゲーム、よね」

 『コントローラー』を手にし、『ゲーム画面』を眺めるシオンと。

 そのシオンを抱きしめつつ、アドバイスをしながら共にゲームをする輝夜。

 「……げぇむ?」

 疑問符を浮かべながら、アリスは呟く。

 「そう。まぁ聞くよりは実際に見たりやった方がわかりやすい、かもな」

 「でしょうね。とりあえず横に来なさい」

 「あ、はい」

 おずおずと輝夜の横に座り、正座するアリスに。

 「そんな姿勢じゃ疲れるわよ。ほら、楽にしなさい」

 「え、きゃ!?」

 強制的に輝夜が足を崩させた。

 「無茶苦茶だな、おい」

 「別にいいでしょう。遊ぶときくらいは気持ち楽にしておいた方が良いわ。かたっくるしいことはその時その時考えればいいのよ」

 「なんつー型破りなお姫様」

 「私はよくある物語に出てくる、騎士サマに守られるだけのお姫様なんて真っ平よ」

 「外面は綺麗でどう見てもおしとやかって感じなのに、中身は……なぁ」

 「あら、シオンは外見通りがいいのかしら?」

 「いいや? むしろ素の輝夜の方が輝夜らしい……なんて言うつもりは無いよ。結局のところそんなのは押しつけだからな。どんな風に振る舞いたいのか、そんなのは本人次第だ。俺が『どれがいいのか』って答えたら、もうその時点で、それは押し付けになるだけだよ」

 シオンの答えに、輝夜は眼を瞬かせた。

 「なんというか、シオンは今まで見て来たどんな人間よりも誠実よね」

 「そうなのかね?」

 「そうよ」

 「そんなもんか」

 それはそれとして、とシオンは続ける。

 「俺は気楽に付き合える今の方が好きだが。おしとやかなんて言ったって、結局自分の言いたいことすら言ってくれない人が多いだろう? そんなのはゴメンだね。どうせだったら我儘を言ってくれた方が、一緒に居て嬉しいと俺は思うよ。言いたい事を言い合える関係は、人間関係を長く続けるための一つの方法だろう? それはとても、素敵だろうからな」

 アリスは思う。これは、なんというか。

 「……告白、あるいはプロポーズ紛いなセリフだよね。っていうか、シオンって結構ロマンチスト?」

 紛い、ではないような気もするが。後後半は完全に余計な一言だ。

 「そう聞こえるか?」

 「少なくとも、勘違いされそうな言葉なのは間違いなしでしょうね」

 どこか困ったように後頭部を掻きつつ、シオンは苦笑する。

 「まぁ平気だろう。俺を好きになる人間は、早々いないだろうからな」

 瞬間、二人の脳裏に浮かんだ言葉は、鈍感、その一言に尽きる。

 「んじゃ、やろうか。といっても、そう難しくはないんだけど」

 アリスにいくつかあるコントローラーの内の一つを放り投げ、今さっきまでやっていたゲームのデータをセーブし、電源を落とす。それからゲームのカセットを入れ替え、起動。

 「あら、これをやるの?」

 「たまには対戦もいいだろう?」

 「それもそうね。多少はアリスにも練習させてあげなさいよ?」

 「それくらいはするさ」

 え? え? と戸惑うアリスに笑みを浮かべつつ、三人は夜遅くまでゲームをし続けた。

 結局、三人が解散する時には三時を過ぎていた。完全に夜更かしである。

 「ど、どうしよう……明日寝坊するかも」

 「完全にハマってたよな……アリス」

 頭を抱えるアリスに、シオンは苦笑させられる。

 「だってあんなに面白いのよ! あんなに楽しいことは初めてなんだから!」

 「……ま、それには同感だ。とはいえ睡眠時間を削るのはいただけないが」

 ――たまには、こんなのもいいだろう?

 そう言って笑うシオンに、

 「……うん」

 アリスも、微笑を返した。

 「あ、ここでお別れだね」

 「そうだな。――お休み」

 「うん。――お休みなさい」

 手を振りながら、二人は各々の部屋へと戻る。アリスがどこか緊張していたのは、鈴仙に怒られないか心配だったからだろう。

 思えば今日でアリスとの距離が近づいた気がする。今までは、ただ『なんとなく』なんて理由で『近い』と感じていたが、今ではそれは単なる幻想のようなものだと思う。

 笑みを苦笑に変えつつ、シオンは自身の部屋――の、隣にある、永琳の部屋へと入った。

 「来たわね。要件が何か、わかっているかしら?」

 「ああ。まぁ予想くらいは」

 「そう。――それじゃ、一切の虚偽なく話しなさい。あなたの持つ剣、その能力の全てを」

 知らないままではいられない。それほどシオンの能力は危険なのだ。そして、それを皆の前で話せるわけも無い。だからこそこんな遅くに会っているのだ、二人は。

 夜の闇は、未だ深い。




――無理だ。

前回、前々回とあまりにシリアスすぎたので少しふざけてみましたが、どうにもコメディにはなりきれない。私にはそっちの才能ありませんね。
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