東方狂界歴   作:シルヴィ

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2話投稿です。前話を見忘れないようお気を付けください。

※数日したら消します


戦人、暗殺者

 「フラン、後ろ! 右に動いてッ」

 「ッ!!」

 東南東から来たナイフを避けた瞬間後方から来るナイフを、霊夢の指示に従い避ける。その後気配探知に反応が出た場所からどこに向かうか判断してまた動く。

 アレから一体何分経ったのか。ただ避け続けるフランは、霊夢のおかげで回復できた精神的な疲弊をまた感じ始めていた。

 終わりが見えない――それがどれほど辛いのか、知っていたはずなのに。ただ深く暗い牢獄の中に囚われているのと、こうして動いているのでは感じる内容が違う。

 動けないのがジワジワと真綿で締め上げられるようなら、動けるのは一瞬先の死が体を掠めていく恐怖。

 全く違う。そんな中で、フランは何故か笑みを浮かべていた。

 「ちょっと、笑っている場合なの!?」

 「え――」

 それに気づいた霊夢は、汗を拭い、針を投げ、そして木々に御札を置いておく。――御札は流石にわかりやすいくらいの罠だった。

 「笑って、るの? 私?」

 「ええそうですとも! どっからどう見て、も――」

 フランではなく霊夢を狙った攻撃。一瞬反応が遅れたフランの代わりに霊夢が自分で避けた。

 「笑顔よ、それ! ちょっと引き攣ってるけどねッ」

 傷口は――開いていない。そろそろ大丈夫そうだと判断した霊夢はフランから飛び降りる。これで多少は狙いが分散するし、会話もできるようになるだろう。

 笑ってた――その理由を考える。だが、すぐに理解した。単純な思考。

 (シオンと似たような事が経験できる……それだけで嬉しいなんて。本当、私も大概狂ってるんだなぁ)

 自覚した狂気だが、その底は中々らしい。フランは内心苦笑するが、霊夢の言葉で我を取り戻した。

 「で、教えて欲しいんだけど。相手の能力は何なの? さっきから不思議でしょうがないんだけど、これ」

 いくらなんでもナイフが来る方向がバラバラすぎる。分身とか、設置した罠だとか、そう考えてもナイフの量がおかしすぎる。魔力か何かで作っている線もあるが――それにしたって限度があるだろう。加えてナイフの速度が変わっているのも意味がわからない。しかも自身の勘が『速度は全部同じ』なんていうおかしな判断を下しているのがさっぱりだった。

 「相手の――咲夜の能力は『時を操る程度の能力』だから、時を『停め』て移動してナイフを投げておいて、『加速』と『減速』でナイフの速度を変えてるんだよ」

 「何それチートじゃないの。ナイフ自体はどうしてるの?」

 「……『停止』中に自分で回収しつつ魔力で作ったナイフも併用してる、って言ってた」

 「……なんかそこだけ聞くと、ちょっと……なんていうか、ダサ――」

 瞬間霊夢の全方位からナイフが飛んでくる。数本を避け、数本を両手で挟み受け止め、更に数本を足で蹴っ飛ばす。

 「殺す気!? 今の完全に私狙いだったわよね!? 殺す気なの!?」

 「多分、気に障ったんじゃないかなぁ」

 「それでも暗殺者なの咲夜ッ」

 「まぁ暗殺者よりメイドが本業だし――」

 言い訳無用、と霊夢もお返しに針を投げまくる。ムキになって返してきたと思われるように、顔に怒気を宿らせて。

 (そろそろ、完成しそうなんだけど……これなら)

 そう思った霊夢の表情が、凍る。フランも似たようなモノだった。

 二人は、知らない。全力全開、後先考えずただやろうと思えば、咲夜はもっとナイフを作れるという事を。

 霊夢だけを狙ったのは意地になったからではなく、未だに戻ってこない美鈴を心配した彼女がそろそろ終わらせようと思って、だが終わらせられなかったため。

 そして――終わらなかったから、もう後の事を考えるのをやめた。

 「聞いてないわよ。これ」

 「私も――知らなかったから、なぁ」

 何百――いや何千あるのか。視界を覆い尽くすほどのナイフ、ナイフ、ナイフ、ナイフの群れ。これだけの数を作り、操るのにどれだけの魔力と集中力を要するか。

 「えっと、一つ聞きたいんだけど」

 「なにかな?」

 「これをどうにかする方法――ある?」

 「と思う? 霊夢は?」

 「あったらわざわざ聞かないわよ」

 「だよねー……」

 結論、無理。あっさりと言い切った二人。霊夢の案は未だ未完成な上に、こういった全方位攻撃は『とにかく避ける!』くらいしか思いつかない。

 対してフランは吸血鬼としての再生能力があれば生き残れるだろうが、霊夢が無理だとわかっているため無茶ができない。能力を使うのも却下だ。アレは一度に一つの対象しか壊せない。こんな風に大群を対処するのには向かないのだ。性質上の問題として。

 諦めるつもりはサラサラないが。

 「――アレ?」

 「どうしたのよ?」

 「あっ、うん……あの光、何かなーって」

 「光……?」

 吸血鬼の視力が捉えた閃光。かなりの距離があったが、視覚を強化した霊夢はそれを見た。

 「ねぇフラン。私の勘が正しければ、あの光、こっちに来てるんだけど……」

 「……それって、まさか――」

 どんどん大きくなる光。そして次の瞬間、もう目の前にあった。

 『えええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!??』

 ――そして二人と、ついでにナイフの群れが光に飲まれた。

 

 

 

 

 

 (折れた、じゃない。粉砕されたのか!?)

 痛みには慣れている――などと嘯けたら、どれだけよかったか。とにかく痛い。複雑骨折はしたような記憶があるが、粉砕されたのはこれが初めてだ。

 痛みに堪えるシオンを、美鈴は見逃してくれない。右足を下ろすと地面を踏みしめ一歩前に飛び出してくる。この形は――ラリアット。

 (まず――このままじゃ、首の骨を――)

 美鈴の筋力と自身の耐久力を考えれば、一撃で折れる。最悪千切れる。そうなれば、前者ならともかく後者では能力を使っても治せない。

 判断は一瞬。腕を粉砕された時に前のめりになっていた体は止まった。それなら体を動かせる。

 シオンは足を前に、腰を起点に上半身を後ろに倒す。ほんの少しだけ倒れたと言っても、どう足掻いても回避は間に合わない。美鈴の腕の方が先に当たる。それを理解していた美鈴はほんの少し眉をひそめ――そして瞠目した。

 「いっ、ッ……」

 わざわざ上半身を倒して位置をズラしたのはこの為か! と驚きつつも相手を賞賛する。

 首に当たれば即死する。だが回避は絶対に間に合わない。だからこそシオンは当たる位置を変えた。丁度――『口』に当たるように。

 そしてタイミングを合わせた。速くても遅くても死ぬ。だから刹那の時間を見なければならなかった。

 ギリギリでシオンは口を開け、そして閉じた。思いっきり歯を突き立て腕に噛み付き、即座に放す。受け止め続ければ歯が折れる。

 衝撃を受け止め威力を減衰させ、しかも少しでも後の展開を有利にするために怪我をさせる。咄嗟の機転だった。

 吹き飛ばされたシオンは、最後に追撃をされないように美鈴の足に自身の足を引っ掛けて転ばせた。それでどうにかなるはずもないが、追撃されなければそれでいい。

 (心臓に悪……しかも歯がグラついてるし。タイミングは完璧だったのに、それでもダメだったのか)

 体勢を直し立ち直したシオンは歯をガチガチと噛み合わせる。だが何本かは耐え切れなかったのか今にも抜けそうだ。

 とはいえシオンの歯はほとんど使わなかった影響で一本たりとも大人の歯になっていない。そもそも大人の歯に生え変われるだけの栄養素が無かった、というべきだが。今回はそれに感謝するべきなのだろうか。

 「今ので終わらせるつもりだったのですが。まさか、歯で回避されるとは思いませんでした。体術もやれるみたいですね。凄いです」

 「いやいや、こっちも少し油断してた。そっちもやるねぇ」

 素直な賞賛。だがシオンは、冷静に彼我の差を理解していた。

 (こっちは腕の粉砕に、力を籠めるときに噛み締める歯を持ってかれた。で、あっちは多少違和感はあるだろうけど五体満足……んでもって、こっちは殺しに行けなくてあっちは殺しに来る。どんな無茶ぶりだよ、おい)

 美鈴の腕についた歯型はシオンのもの。本当ならこっちも腕を折るくらいはしたかったのだが、そんな余裕を与えてはくれなかった。

 シオンはダラリと垂れ下がった左腕から右手に黒陽を持ち変える。

 「そちらの腕でも使えるので?」

 「一応両利き。どっちでもイケるよ」

 「……首狙いではな、く両腕狙いにしておいたほうがよかったようですね」

 容赦ねー……と呆れながら呟き、シオンは駆けた。

 腕は治さない。治せると判断されれば美鈴はもっと容赦無く腕を、足を全てを持っていく。あくまで『腕は使えないし治せない』と思ってくれていたほうがありがたかった。

 シオンは逆手に持ち直した剣で美鈴の腹を斬りにかかる。当然のように右手で受け止められ、左手の掌底を返される。意趣返しかこちらも腹狙い。シオンはグッ、と左手を握り締めると腕の力だけで体を反転させ、逆さまになる。

 背中を向ける形だが、今の美鈴は両手を使っている。剣を掴んでいる右手を放せばそのまま斬り払いに移行するだけだし、そうでないならこのまま足を落として踵落としを叩き込むだけだ。

 それでも狙い通りに行くほど甘くはなく、美鈴は剣で手を傷つけないよう気をつけつつシオンごとぶん投げた。

 うまく受身を取りつつ美鈴を見ると、既にそこにはいない。

 気配探知――だが、見つけられない。

 「え――ッ!?」

 咄嗟に前転。粉砕された右腕に激痛。だが死ぬよりはマシだと割り切りつつ、回っていく視界の中で美鈴を捉えた。

 追撃を仕掛けようとする美鈴に弾幕をあげる。最初気功波を貰ったように、コチラも気で作ったもので。

 美鈴はそれを回避するでも防御するでもなく、()()()()()消滅させる。

 「うっわぁ、どんなパワーファイター……」

 「いえいえ、そちらも中々狡賢いようで。まさかあんな新体操のような動きをするとは」

 「そっちだって、まさか()()()()()()()()()()なんて思いもしなかった。しかも格闘家の貴女は足音とか衣擦れの音も消せるし――そっちも中々狡いだろう」

 初撃、砲弾のように突っ込んできた美鈴を察知できなかったのはそのせいだろう。

 吹き飛ばされながら感じたもう一つの気配――多分、咲夜のだ――は、きっちりと感じたというのに。そのタネがこれなら、そうなのだろう。

 ついでに自分にそれを破る術が思いつかない。

 タラリと伝った汗は、一体何によるものだったのか――。

 

 

 

 

 

 カラ、カラランとした音が響く。それはナイフが壊れ地に落ち散乱とした様相を示す証。その中央に、フランと霊夢は大の字になっていた。

 「ギリッ、ギリで――間に合ったぁぁぁ……霊夢は大丈夫?」

 「流石に今のは、死ぬかと思ったわよ……何とかね」

 フランの『レーヴァテイン』で受け止め威力を分散し、霊夢がフランが受け止めきれなくなった瞬間身体強化でフランを担いで移動、そして光が地面にぶち当たった衝撃でゴロゴロと吹き飛び、そして大の字で止まった。

 これが先に起こった出来事を纏めた全てだ。

 吸血鬼のフランはともかく人間の霊夢は色々厳しい。というか怪我した脇腹が開きかけた。というか地味に開いている。血が滲んでるし。

 光が飛んできた方向をキッ、と睨む。あんな攻撃をする『奴』を、霊夢は一人だけ心当たりがあった。

 「さっさと降りてきなさいよ。――魔理沙ああああああああああああああ!!」

 ビリビリと木々が揺れる。ついでにフランの脳も揺れる。

 数十秒後、空から箒に跨り、だがかなり気まずそうに魔法使い然とした少女が降りてきた。彼女が魔理沙なのだろう。初対面のフランはそう思うしかない。

 「あんたねぇ、私を殺す気ッ? 威力調整くらいしなさいよッ」

 「い、いや、殺すつもりなんて無かったんだけどさ……箒に上手く乗る練習ばっかりしてて、八卦炉を使ったのは初めてなんだよ、実は。威力調整とか知らなくてさ……アハハハ。ま、まぁ危なかったんだしどうにかなったんだから、結果オーライだろ!」

 まるでシオンのような魔理沙。だが、シオンが成功したのに対して魔理沙は失敗。加えてこの阿呆みたいな笑い声が、とても、とっても癪に障った。

 オロオロとするフランを横目に、二人のやり取りは続く。

 「あ、ん、た、ねぇ……!」

 「ヒィ――!?」

 ゴキゴキと手を鳴らす霊夢に怯える魔理沙。だが二人は横合いから飛んできたナイフを弾き、躱す。

 「――で、何でここに来たのよ?」

 「ちょぃと用事があってな。つっても霊夢にじゃない、シオンにだ。んで、適当に探し回ってたら、白夜……だったか? アレの力が遠目に見えてな、ここに来たわけだ」

 会話をしつつも飛んでくるナイフに対処する。先程までの険悪な雰囲気はどこへやら、息の合った――合いすぎた二人は、まるで一つの生き物のよう。

 「あっそ。それは今すぐじゃないとダメな用事?」

 「いんや、一日二日なら問題ない程度の用事だ。だからまぁ、ここでの件が終わらせるの、手伝うぜ?」

 「――頼んだわよ」

 「応、任された!」

 用事が何なのかは知らない。大丈夫だというのなら霊夢は魔理沙を信じる。そして魔理沙は当然のように霊夢を手伝うだけだ。

 「だからフラン」

 「え、な、何?」

 「ここは私達が終わらせるから、あんたはシオンの手伝いに行きなさい」

 え、と息を呑むフランに、霊夢は力強い笑みを見せる。

 「行きたいんでしょう? 心配でしょうがないって感じよ。――行きなさい」

 「ッ……ありがとう霊夢。本当にありがとう!」

 今まで隠していた宝石の付いた翼。それをはためかせてフランは飛ぶ。

 「綺麗だなーあの翼。……いくらで売れんのかね?」

 「その言葉、シオンに聞かせたら首が飛ぶわよ?」

 「じょ、冗談だっつーの」

 「だといいけどね」

 冗句を交えつつ、フランへ飛ぶナイフを落とし、霊夢は勘頼りで、魔理沙は適当に弾幕を飛ばしていく。

 「余計な事はしないでよ?」

 「メインはお前だ。私はそれを手伝うだけだよ」

 魔理沙は初めての共闘に高揚する気持ちを落ち着かせる。自分は戦いの『た』の字も知らない。だが足手まといなど死んでもゴメンだ。

 そうでなければ――ここに来た意味が、手伝うと言った意味が無いのだから。

 そうして二人は動き出す。

 それからまた数分。もういくつ避けいくつ壊したのかもわからないナイフの群れ。回避し壊すたびに反撃の針と弾幕を飛ばしたが、一発も当たる気配は無い。

 「霊夢、針は後何本だ?」

 「んーと……二十本、かしら。魔理沙は?」

 「元々魔力がすくねーからなぁ。半分切った」

 「まずまず、ってところね」

 後数本。それで準備は整う。そうしたらタイミングを見るだけだ。

 「魔理沙、頭上から咲夜を狙いなさい」

 「あ? それは弾幕でか? それとも八卦炉を使ってか?」

 「後者で」

 「あいよ」

 箒に跨る魔理沙を狙って来たナイフを弾き、針を飛ばす。

 「いよっし。そんじゃ遠慮なくいくぜ、霊夢」

 高々度から下を見下ろす魔理沙は、八卦炉に魔力を籠める。運がいいのかあるいは努力の結果なのか、ナイフを壊したことで発生した魔力がかなりある。

 「道具だよりってのが情けないが、使わせてもらうぜ」

 数秒の溜め。そして放つ。霊夢の事すら気にせず、ただ全力で

 「『マスタースパーク』!!」

 最初に撃った光。アレよりも遥かに強大で巨大な閃光。

 それが霊夢に当たり――弾けた。

 「注文通りやったが……死んじゃいねぇよな?」

 モクモクと揺れる煙。それを眺めつつ――お、と魔理沙は呟いた。

 「なーるほど。こりゃ私も予想外だぜ、霊夢」

 眼下に見える、歪な形をした結界。その中に、先ほどのマスタースパークで消し飛んだ森に隠れ潜んでいた人間が見えた。メイド服を纏った彼女、十六夜咲夜を。

 そして結界の中心、どこに隠していたのかと疑問に思うような巨大な針を突き刺していた。

 「霊夢、私の魔力はスッカラカンだ。後は任せたぜ」

 届くはずもない距離。だが、霊夢は返した。

 「わかってるわよ、それくらい」

 これが奥の手。相手が暗殺者なら、隠す場所を無くし、炙り出せばいいと考えた結果だ。

 本当なら自分で発動させるつもりだったのだが、それだと霊力がほとんど無くなる。それは勘弁したかった。

 そして魔理沙が来たことで出来た次善の策として魔力を利用した結界。魔理沙の魔力がネックだったが、それも八卦炉を利用したマスタースパークのお陰で解決した。

 「魔力利用するために一々針の位置変えたり御札貼って予想できる反発抑えたり――得意分野じゃない事させたんだから、ちょっと殴るくらいじゃ許さないわよ」

 付け加えるなら。

 (――『マスタースパーク』のせいで吹っ飛んだ針を打ち直した労力もあんたにぶつける!)

 完全な八つ当たりである。

 「……ッ」

 白兵戦は分が悪い。そう理解していてなお咲夜は諦めるつもりなどなかった。

 だが――『博麗の巫女』に、情けなどなかった。

 「あ、足元気をつけなさいよ」

 「え? ――――――――――――――――――――アアアアアアァァァァァァァァァァアアアアアア!???」

 時既に遅く、真後ろにあった御札を踏んだ咲夜の体に電撃が迸る。

 「あーもう、だから言ったのに。時を操れるあんたに油断なんてするわけないでしょう?」

 効果が切れ、プスプスと黒炎が立ち昇るのを見る。

 「ここら一体罠だらけ。歩くとトラップ踏んで、今みたいになるわよ? さて、ここであなたに問題です」

 ニッコリ。霊夢は輝くような笑顔で言う。

 「私はここに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 その笑顔が、咲夜にとって悪魔にしか見えない。

 が、霊夢は毒を吐きたくて仕方が無かった。散々()()()()()()()のだ。少しくらいは――吐き出してもいいでしょう?

 「ま、私も鬼じゃないわ。ほい、と」

 「な、何を――!?」

 札を五枚利用して作る『五角形(ペンダゴン)』を使い、咲夜の首、両腕、両足、中心である胴体を拘束する。

 「私、これでも『博麗大結界』を維持するために、多少結界術を習っているの。これはその応用の簡易結界(動くな殴れない)よ。名前でこれから何するのかわかるでしょう?」

 霊夢の前にある五角形が輝きを放つ。それはまるで、魔理沙の『マスタースパーク』の前兆のようで――それが咲夜を凍らせた。

 「じゃ、バイバイ」

 魔理沙よりも小さく、だが威力は相応にある光。

 ボロボロになって、しかし予想外に傷の少ない気絶している咲夜に、聞こえないとわかっていてポツリと呟く。

 「ま――手加減しといてあげるわよ。感謝なさい?」

 その様子を見ていた魔理沙は思う。

 (容赦ねー……と思ったけど、案外優しい、のか?)

 「シオンとフランに殺すなって言われてなかったら死ぬ一歩手前までいじめてあげたのに」

 (あ、前言撤回。やっぱ容赦ねーわ)

 霊夢は結界と罠を解く。そしてふぅと息を吐いて――

 「後は、任せたわよ。シオン、フラン」

 ドサリ、と倒れ伏した。

 「れ、いむ?」

 未だ空中漂う魔理沙は、目の前の光景が信じられず――だが、信じるしかなかった。

 「霊夢―――――――――――――――!??」

 

 

 

 

 

 ボタリ、と何かの塊のような粘ついた液体が地面に落ちた。それは赤色。そして落ちた場所にいるのは白い影。

 「……まさかここまで長引かせられるとは思いませんでした」

 「アッハハ……生き延びるのは、得意中の得意、でね。まだまだやれるよ」

 腕の歯型、そして多少破れた服以外は傷と呼べる傷が無い美鈴。

 対してシオンは右腕粉砕、左足が一度折られて無理矢理元に戻し、腹部を手刀で裂かれた。先ほど垂れた血はそこからだ。後は大小の切り傷と殴打による打撲、無茶をしたせいで折れた数本の歯に骨――と、いったところか。

 美鈴が格闘の達人なのは知っていた。だがまさか、当たり前のように手刀を使った抜き手で腹を貫こうとしたのには怖気が走った。腹の傷はそのせいだ。

 そこらの鈍らよりも遥かに鋭い手、というのも恐ろしい。剣と違ってリーチは短いが、その分慣性に引きずられにくいし連続で攻撃しやすい。

 と、シオンの言葉を聴いて顔を歪ませる美鈴。

 「ん、どうした。もしかしてフラン達の方が気になるのか?」

 「いえ、そういう訳では……ですが、一つ教えてください」

 「内容による。それでよければ応えよう」

 「それで構いませんよ。――なぜフラン様があなたと行動しているのか、それだけ教えてくださいませんか」

 真摯な表情。本当に、心底から気になるのだろう。

 わからなくもない、とシオンは思う。フランは五〇〇年もの長い間あの牢屋に囚われ続けていたのだし、見知った顔も紅魔館の住人のみだ。――少なくとも、彼女達の認識では。

 そうであるのなら、何故当然のように外にいて、しかも他人の――会ったこともない人物を頼るのか、わからないだろう。

 「まぁ、それくらいなら。――フランが俺を頼ってくれたから。そして俺は、フランのために、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から」

 「……?」

 理解できないのだろう。

 美鈴の様子にシオンはどこか寂しそうに笑うと、剣を向ける。

 「言葉で言ってもわからないだろうし、今からそれを教えてあげる」

 「そう、ですね。あなたの言葉が正しいのかなんてわかりません。でしたら、こちらの方が嘘か本当かわかります」

 「……ホンット、変わんないなぁ」

 面白そうに、楽しそうに笑っている美鈴。武人として、強者と競い合うのを喜ぶ顔。と、そこで轟音。

 『――!?』

 お互いの顔を見る。だが驚いているのはシオンと美鈴、どちらも同じ。

 「音がしたのは――」

 「――あっちだな」

 遠い。メートルではなくキロ単位で離れている。だが無意味に狙う理由は無いはずだ。となれば一つくらいしか理由が思いつかない。

 「ふぅ。どうやらお互い、のんびりとしている暇は無くなったようですね」

 「そうか?」

 「……そちらには無いのかもしれませんが。こちらにはあるのですよ」

 どうやら美鈴もわかっているらしい。

 (そりゃそうだろうな……そっちに()()()()()んだし)

 パチュリーはよっぽどの事がなければ動けず、レミリアは紅魔館から出る気はないだろう。ならば可能性は大まかに分けて三つ。

 単なる偶然か、シオン達の援軍か、それとも――第三者による介入か。どちらにしても咲夜を心配する美鈴が焦る理由にはなるだろう。

 ふぅ、とシオンは一つ息を吐き出す。

 「どっちにしろ全力で相手するしかないっぽいし。こっちから行かせてもらうよ!」

 「縮地……」

 美鈴直伝、神速移動。

 彼女からしてみれば、まるで自身の技を奪われたようにも見えるだろう。蹴りを繰り出し、ついでに弾幕を左右後方から出す。

 追い打ちをかけようとしたところで美鈴が二つの弾丸を掴み、

 「――返しますよ!」

 そのまま受け流し反射する。シオンは剣でもって切り裂き、後退する。美鈴は前へ駆け肘で一撃を、剣の腹で受け止められたのを見てもう片方の手を前に出す。だが、そこでは距離的に当たらない。攻撃を受け止めたシオンは少し後ろに移動したからだ。

 が、美鈴は拳でも掌底でもなく、単純な()()()()をシオンの額にぶち当てる。

 「イッ!?」

 たかがデコピンと侮るなかれ。美鈴の鍛えに鍛えられた身体能力と超速が合わさった人差し指が額に直撃したのだ。脳震盪を引き起こしかけ、続いて視覚がグラグラと揺れる。

 それを地面を踏みしめ剣の柄頭を頭の横にぶち当てて無理矢理脳震盪を止める。片眉をあげた美鈴は、しかし気にせず一歩踏み込むと、今までと違う、きちんとした構えを出す。

 (ま、ず――)

 逃げろ逃げろ逃げろと体が叫んでも、それを受け止める脳が機能してくれない。そして腰だめに構えられた拳が、シオンの腹をぶち抜いた。

 「ッ、ァ――」

 息が止まる。

 吹き飛び木々にぶち当たり、数本を薙ぎ倒してようやく止まる。

 ピクリとも動かないシオンの体。倒れた木々の重なった合間から、シオンの手と足が見えた。それなのに、美鈴は立ち去らず、シオンを見続ける。

 「――……ァー」

 と、剣を持つ左手が動くと、そのまま、通常の人間の身体能力なら絶対にどうにもできない木をどかす。

 汚れた、しかし何故か破損が裂かれた腹部以外ほとんど無い服と、それに反してボロボロになったシオンが出てくる。

 「行ってくれたら背中から奇襲できたんだけどなぁ。どうしてわかったんだ?」

 「……衝撃で。何か硬い――鋼鉄のようなモノに当たったような気がしたので。咄嗟に『徹し』に変えましたが、あなたを殺せる程のモノではなかったでしょう」

 「あ、ぁー、そういやそうだった」

 ボケてんのかな、と首を回す。それでもシオンの眼光が鋭く、美鈴は下手に手を出せない。

 (死にかけた。誇張抜きでガチで死にかけた)

 脳震盪を引き起こしかけた脳で、それでもギリギリ白夜による空間固定で壁に近い鎧を作れた。それでも徹しのせいで多少の衝撃を貰ったが。

 (()()()()も、もういいかな)

 トン、と黒陽を地面に突き刺す。身を硬直させる美鈴に、だが無駄だとシオンは言った。

 「――黒剣技」

 瞬間、美鈴の背後から、チャイナドレスを破り股を抜けて剣が突き刺さる。拘束とも呼べないそれを、シオンは縮地で美鈴の前に移動し、剣で突き抜く。

 最初からずっと用意していた罠。それをやっと使えた。

 たかがスカートとはいえ破こうとすれば一秒にも満たぬ数瞬隙ができる。諦めて顔を傾けて避ける。と、驚いたことにシオンは剣を手放した。

 手放したことで剣を戻す動作を無くしたシオンは、何故か右腕を腰だめに構える。

 その構えは、先ほど美鈴の出した構えと寸分違わず――

 「ど、っせい!」

 だがそれでも、驚きに硬直した美鈴の体は動く。一瞬遅れて、なのにシオンと同じ速度で放たれた拳と拳。

 ビキリ、と腕が鳴った。粉砕された腕を、木々に埋もれている間、美鈴にバレないよう少しずつ治した。そうしてもなお粉砕が複雑骨折に変わっただけの腕。その結果、複雑骨折のせいで骨が腕を突き破ったが――別に構わない。

 拳の衝突のせいで動きが止まった美鈴の腕を左手で掴み、()()()()()()()()()グイッと引っ張りこむ。ついでとばかりに足を引っ掛けるのも忘れない。

 まるで美鈴が押し倒したかのような格好。だが美鈴に浮かぶのは疑問だけだ。

 「何故……」

 「ん、何か疑問でも?」

 「疑問しか、ありませんよ。この体勢で有利なのはどう見ても私です。あなたは片腕を使えず、もう片方は私が押さえているんですから」

 そして、残った腕でシオンの首を押さえれば、もう生殺与奪権は美鈴のものだ。

 「あの黒剣技で私を直接狙えばそれで終わったはずです。何故そうしなかったのですか?」

 生半可な理由なら美鈴は容赦なく首の骨を折ってくる。そう悟ったが、納得出来るだけの理由を生憎と持ち合わせていない。

 「赤の他人ならまだしも、一応先生みたいな人を殺すのはちょっと、ねぇ」

 「先生みたいな、人……」

 思い出すのは先ほどの型。確かに似通っていたが、それだけなら美鈴は驚かない。彼女があそこまで驚いたのは――どう見ても、自分が教えたような構えだったからだ。

 同じ流派でも、極めようとすれば各々が最適となる型になる。シオンはそれを、美鈴の形を基盤として自らの型に最適化していた。

 見覚えのない弟子のような人間。それが理解できなかった。

 「ですが」

 「ア、ガッ!?」

 ミシリ、とシオンの首が音を立てる。

 「私はあなたを殺す必要があります。お嬢様のため――フラン様のため。私に情けをかけたこと、後悔してください」

 「ハ、ハ……そう、かい。な、らこっち、も。あと、もう一つ。生、殺与奪権を、持っている、って、考え……大間違い、だぞ?」

 首を絞められ息も絶え絶えに、それでもなお嘯くシオンに、美鈴は凍てついた眼で答える。

 「ここから逆転できるとでも?」

 「いやー……無理、だね。うん、だから、さ」

 シオンは苦しげな顔を唐突に変え、小さく笑った。

 「す、まない。頭上注意、だ」

 「え――んな!?」

 いきなり気配探知に反応が出た。場所は――自身の頭上。

 「来て」

 「いつの間に――ッ!?」

 動かさない、とばかりに片手と歯で動きを止めてくる。足はスカートの拘束のせいで動けない。素直に悟った。間に合わない、と。

 「『レーヴァテイン』!!」

 そして炎を纏った枝、その柄頭が、美鈴の後頭部を殴打した。




えー本日は2話投稿ですが、なんてことありません。

先週予約投稿したと思ってしていなかった、それだけです。

……ま、まぁちょうど良く先週と今週で戦闘回繋がってるんで許してくださいすいません(土下座

来週は今回の戦闘の意味を軽く説明&おさらいしたら次に進めます。(実はレミリアとの戦闘シーンが全く出来て無いどころか想像すらしてないなんて言えない……言えない。ハハハ……)
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