東方狂界歴   作:シルヴィ

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吸血鬼の真価

 「で、終わったんだったらさっさと放してくれないか? いつまでもこの体勢はちょっと息苦しいんだが」

 「あら。私は負けを認めはしたけど、それはあくまでさっきの勝負の話。あなたを放すかどうかはまた別の話よ」

 ついイラッときた魔理沙は先程までの微笑みが嘘のように表情を消しているパチュリーを睨みつける。

 いっそ破裂させたろかと思っていると、パチュリーは両手を上げて降参の意を示した。

 「――それは短絡的すぎよ。別の話とは言ったけど、単にこっちの条件を呑んで欲しいだけ」

 「条件による、とだけ答えさせてもらうぜ。私の目的は足止めだからな。苦しい体勢ではあっても我慢できない程じゃない。最悪ずっとこの状況を維持させてもらう」

 「ハァ……そこまで言わせるほどの相手なのか、あるいは別の理由か。ま、どっちでもいいわ」

 と、パチュリーは片手を魔理沙の方へ向ける。ピクリと体を震わせる魔理沙だが、その手の向きが魔理沙から少し下を向いていた。

 「『この手に』」

 短い詠唱。一節だけのわかりやすい単語は、しかし何を目的としているのか悟らせない。

 次の一瞬。魔理沙の足元から一枚の紙が飛び出し、パチュリーの手元に置かれる。その何も書かれていない真っ白な紙に、魔力を使って文字を刻み込んでいく。最後に親指を噛み切って血の文字を書くと、今度はその紙を魔理沙の目の前に浮かせた。

 文字は大きい。恐らくパチュリーが不意打つ可能性を危惧した魔理沙が文字だけに集中しないようにして、結局内容が頭に入らないという迂闊な事にならないようにしたのだろう。

 内容は簡潔に三つ。

 一つ。魔理沙が使った道具の魔法陣の解析。その許可。

 二つ。あの魔法陣の製作者は誰か。魔理沙ではないのならその名前を。

 三つ。その人物の紹介。及び橋渡し。

 以上を対価に、パチュリー・ノーレッジは魔理沙が許可を出さない限り、一度に限ってその場を絶対に動けない。

 ――この条件は、魔理沙が死んだ後も適用される。そのため、魔理沙を殺してその場から離れる事はできない。仮にしたらその場から二度と動けなくなる。

 更にその条件下のみパチュリーと縁があるものも魔理沙には手出しできない。

 そして最後に、血で塗られたパチュリーの名前の誓約(サイン)があった。

 「随分と簡潔だな」

 「不必要にダラダラと書いたところで、不信感を持たれても仕方がないでしょう? だったらこれくらいがちょうどいいわ。正式な場でも無いしね」

 それには同意する。にしても、と思う。ここまでバカ正直に書くとは思わなかった。黙っていれば自分を殺して、あるいは拷問にでもかけて無理矢理許可を出せるというのに。

 が、悩む。そもそも何故パチュリーがあそこまで魔法陣にこだわるのかが不透明なのだ。そこが知りたかった。

 「じゃあ、こっちも一つ条件を付け加えさせてくれよ」

 「まぁ、いいわ。それくらいは譲歩しましょう。ただし――内容次第、だけれど」

 先ほどの魔理沙の回答と同じことを口にし、それに魔理沙は笑った。

 「別にそこまでの事でもないけどな。単に、なんでパチュリーはそこまで『魔法陣』ってモノに執着するのか、教えて欲しいだけだ。悪用されても困るしな」

 軽い気持ちで言い放ったその条件。それくらいは別にいいだろう、と思っていたのだが。

 ――パチュリーは瞑目していた。それも、どこか悔しそうに。

 「おい……?」

 「なんでもないわ。ちょっと、昔を思い出しただけだから」

 ふぅ、とパチュリーは小さく息を吐くと、いいわよ、と答えた。

 「話してあげる。私がどうしてそんな事を願ったのか」

 あれはもう、いつの事だったか。パチュリーはいつも引きこもっていて、自身の年齢さえ既に忘れている。毎日毎日本を読み、魔法の練習をする日々。身の回りの世話は全て小悪魔に一任していて、ともすれば自堕落とも言える日常。

 あまりにも本の収集をしすぎていて、家中が本で埋め尽くされるようになった頃の事。パチュリーは、ある少女と出会った。

 一目見て悟った。この少女には敵わない、と。戦闘にすらならないだろうとわかる程の彼我の差に、パチュリーは抗う事無く生きるのを諦めた。だがパチュリーは運が良かった。少女の機嫌はその日は良く、パチュリーの話を聞いてくれたのだ。

 魔法使いを生業としている、と答えると、少女は『能力の制御』に関する話題を降ってきた。よくわからないと思いつつも、パチュリーは知る限りでそれに答える。相手は真剣なのだから、専門職ではないにしても、わからないなりに。

 ――気づけばパチュリーは、巨大な屋敷の地下室を気軽に渡されていた。

 そして知った。少女が――レミリアが何故あそこまであの話題にのみ執着したのか。それはたった一人の妹のため。

 彼女の事を話す時のレミリアは、レミィは、とても楽しそうで、嬉しそうで、そして……とても悲しそうだった。

 勝手ながら、その時既にパチュリーは彼女のことをはじめてできた親友だと思っていた。だからこそパチュリーは、その親友を悲しませないよう、ありとあらゆる可能性を探った。

 「具現化魔法はその一つ。でもあれは任意発動であって常時発動ではないし、何よりこめた魔力が尽きれば霧散する。それじゃ意味がないの」

 次に目を向けたのが魔法陣だった。魔法陣は具現化魔法とは違いそれ単体では意味を成さないと言われている。だが、パチュリーはその発送を逆転させた。

 術者が魔力をこめるのではない。魔法陣そのものが魔力を集めればいい、と。

 しかしそんな高度なモノ、今の今まで魔法陣を学ぼうともしなかった人間がそう簡単に作れるはずもなく。専門外もいいところだった。

 それでも何とか親友の妹の能力、その影響を少なくする魔法陣は開発できたが、それも定期的にパチュリーが魔力をこめなければならない不完全なモノ。

 「時間をかければ、できなくはない。でもその前に――あの子が、死ぬ。肉体的なモノではなくて、精神的な。見ていてわかるのよ。限界だって」

 だから知りたい。あの魔法陣の作成者を。そして請うのだ。どうか教えてください、と。

 「私はレミィが好きよ。もちろん親友として、という意味だけれど、だからこそ何とかしてあげたいと思うの」

 「そうか。……なら、いいか」

 魔理沙は小悪魔を見やる。その意図を察し、片腕の拘束を解く。

 ガリ、と強く親指を噛む。痛い。強くやりすぎたようだ。八つ当たりするように力強く紙に指を押し付け、不格好な文字で『魔理沙』と書き込む。

 「これで契約成立だ。……にしても、契約に関する魔法も使えたんだな」

 「一応ね。でもそこまで強力なモノは使えないわ」

 「私からすれば十分羨ましいけどな。で、まずは道具か。持ってくるよ」

 小悪魔から手を離してもらい、箒と八卦炉、石を取りに行く。少し埃がついていたが、問題はないだろう。

 パチュリーのところに戻ると、そのまま机の上に置いておいた。パチュリーは体が弱い。彼女に持たせるよりは、あらかじめ机の上に置いたほうがいいだろうと慮ってのことだ。

 そして次は誰が作成したかについて、なのだが。

 「どうしてなの? あなたにとって、それの根幹を作った人に相当の恩義を感じているはず。なのにこんな売るような真似をしたのは、何故?」

 「あー、まぁそうなるよな。でもさ、多分あいつなら『それくらいは別にいいけど』とか言って気にも留めないと思うんだ」

 確証はないが、そんな気がする。カラカラと快活な笑みを浮かべ、パチュリーに言う。

 「仮に何か言われてもそん時はそん時だ。で、肝心の『誰か』についてだが、お察しの通り、作成者は私じゃない」

 「そうでしょうね。その魔法陣は、どこか歪だもの」

 「やっぱそう思うか。魔法に一部科学技術が入ってるもんな」

 話が逸れた、と魔理沙は独り言を言うと、簡潔に言う。

 「シオンだ。ただのシオン。それがこの魔法陣の作成者。私を一応は魔法使いの見習いにしてくれた奴の名前。……本人は知らないだろうが」

 あるいは気づいていても言わないのか。どちらでもいいが。

 「……シオン、シオン……。ダメね。聞いたことがないわ」

 「――そう、か」

 パチュリーには隠したが、魔理沙の顔は複雑そうだった。

 ――やっぱ、忘れられてるんだな……。

 「それで、その、彼? 彼女? は、どこにいるの?」

 「あぁ、シオンは男だから彼でいいぜ。で、どこにいるかだが――」

 パチュリーにわかりやすく告げるため、指を紅魔館の玄関あたりに向ける。

 「今、レミリア・スカーレットとドンパチやってる真っ最中だぜ?」

 「……――は?」

 

 

 

 

 

 自身の腹を突き破ろうとする突きを半身になって躱し、続く薙ぎを肘と膝をぶつけて瞬間的に受け止め、もう片方の足で横へ飛ぶ。槍の薙ぎ払いと同じ速度で移動したシオンは、今度は前に出てレミリアに袈裟斬り、それを妖力で作り上げた爆弾を斬らせることで瞬間的な目晦ましに利用させる。

 突発的に目を使えなくなったシオンは、だが目以外の感覚でレミリアの姿を捉える。驚いたことにレミリアは後ろに下がっているが、先程までいた場所に炎の壁が出来上がったのだから、その判断は正しい。

 その間にもう一度シオンが前に出ると同時に炎が消える。本当に便利な炎だ、と思う。炎を自由自在に動かし、消すのも思いのまま。明確な弱点は自分自身も炎の影響を受ける事と、炎自体を出現させるのに数秒必要とする事だが、それもフランならカバーできる。

 レミリアはどこか苛立だしげに表情を歪めると、槍を一度回転させて構える。バカ正直に突貫するところをカウンターするつもりなのかもしれない。

 「はッ? 武器を投げ――!?」

 それを黒陽を放り投げる事で無理矢理体勢を崩す。敢えて武器を手放す選択肢に驚くレミリアの隙をついて懐に急接近。白夜は使わず掌底を鳩尾に入れ、怯んだところで体を捻って両足で蹴り上げる。反射的に槍をはさんで受けたのは流石だろう。

 翼を広げて急停止し、すぐさまその場から離れる。少しでもシオンから離れれば襲い来る炎に怒りを感じながらも、それを放つ主に攻撃はできない。

 シオンもそのことはわかっている。フランに怒りをぶつかるわけにもいかず、だからこそ『妹をたぶらかした悪い男』であるシオンに対して憎悪を倍増させているのも。ある意味最悪な状況ではあるが、別にいい。悪感情を向けられるのには慣れている。

 問題は自分達の布陣だ。別に自分が前衛であることに不満はない。むしろ不必要にフランが傷つくよりは万倍マシだ。が、戦術的な面で見れば完全に間違いである。

 身体能力によりゴリ押しよりも技術的な攻撃が得意なシオンは、二人で共闘する場合、相方の隙を埋める補助役(サポート)の方がよくなる。

 逆に身体能力によるゴリ押しが得意――というか、それしかできないフランは支援(サポート)には全く向かず、だからこそシオンの代わりに前衛となって思い切り戦う方がいい、のだが。レミリアはフランを傷つけたくないがため、シオンしか狙わない。狙えない。よって前衛は強制的にシオンとなるため、大雑把な火力支援(カノンサポート)しかフランにはできない。

 「……さない。絶対に絶対に絶対にぜ……――」

 あぁ、やばい、とシオンは思う。あれでは勝ったとしても負けを認めてくれないどころか、死んでも認めないかもしれない。それくらい頭に血が上っている。

 「――殺すッッ!」

 叫び、レミリアは高空から一気に下りる。もうシオンしか目に入っていない。

 (ああ、これは多分――)

 レミリアを止めようとフランは『レーヴァテイン』の炎を最大出力で叩き込む。人間なら容易に消し炭になるだろうそれを、レミリアは()()()()()()

 「え……?」

 フランの呆けた声が聞こえる。それを聞きつつも炎から飛び出してきたレミリアを見る。よくよく見るとレミリアにはあまり炎が付着していない。寸前で留まっている――風か。突風を生み出すことで炎を吹き飛ばしているのだ。

 黒陽は手元に無い。白夜を握り締めて応戦の意思を見せると、レミリアは槍を振り絞る。

 「鬼攻閃(キコウセン)!」

 それは長大な突きだった。本来なら槍本体と腕の長さでのみ決まるそれを、レミリアは妖力でもって強制的に飛距離を伸ばしている。

 瞬時に防御の構えを取るシオン。弾き飛ばしてもう一度掌底を叩き込もうと考えて。

 そしてその考えが甘かったと、すぐに知る事になる。

 五メートル、六メートルと伸びる閃光。凄まじい勢いのそれを、機を狙いただ冷徹に反撃する。剣と腕を水平に。顔の横に構えて。両足を前後に開く。基本的に構えないシオンの、ただ『突き』だけに特化したその行動。

 後ろ足に力を込めて瞬発力を生み出し、足から腰、肩肘手と連動させて余すことなく勢いを乗せていく。そして前足を踏みしめ、そして剣を、ただ前に。前に。

 剣の切先が槍の切先と拮抗する。そしてシオンは悟った。

 ――押し負ける。

 腕がたわみ、弾ける。後ろに倒れ込もうとする体を全力で傾けて横に転び、鬼攻閃を回避。後ろは見ない。見る暇がない。レミリアがもう一弾用意しようとしているからだ。

 そして放つ。早い。速い。疾い。先ほどよりも遥かに。辛うじて見えるだけのそれを、また全力で横っ飛びして避ける。それでも避け損ない、数本髪が飛び散った。

 (――違う)

 それを、シオンの五感が否定した。

 (飛び散ったんじゃない、これは)

 横目で鬼攻閃が受けた方を見る。だがそこに、求めたモノはなかった。

 (――()()()()()

 跡形もなく。廃すら残さず。つまりあの攻撃は、フランの炎よりも遥かに――。

 「考え事をしている余裕でもあるのかしらッ!!」

 もう一度来る。今度は連続で三突き。シオンから見て後ろと左右にそれぞれだ。つまりレミリアの狙いは、わかりやすいくらいに明白だった。

 だけど、選択肢はなかった。前に行くしか、生き残る道はない。

 トン、トン、トン、と三回方向転換して槍の残像を躱す。レミリアは敢えてわかりやすい隙を作っただけであって、上手く移動しなければそのまま死ぬ。今のレミリアに、甘さはないのだ。

 躱しきった先には当然レミリア。驚いたことに、彼女は槍を背中に背負っている。一体何を――と思ったが、彼女はその思考ごと粉砕してきた。

 無造作な正拳。それでも美鈴の鍛錬を見てきたからだろう、その形は美しい。避けられない。後方と左右から来る爆風のせいで、体のバランスを強制的に崩される。

 片手で持つ剣を今は両手で握る。先の攻撃で、生半可な攻撃では押し負けると悟ったからだ。それでも――

 「グ、ァ――!?」

 叫び声すらあげられない。剣を押しのけ、力任せにシオンの鳩尾に拳を叩き込む。まるで先ほどのシオンの行動を鏡合わせのように真似て、体を捻り蹴りをねじ込む。わかっている。これを受ければ洒落にならないと。剣をはさみ、レミリアの蹴りを受ける。

 本当に鏡合わせ。だがシオンとレミリアの違いは、お互いの攻撃を受け止められたか、否か。レミリアの蹴りを受けたシオンは、剣を通して胸に伝わる衝撃で体を揺らす。カハッ、と漏れた声は吐血と共に。

 空中に打ち上げられながら、シオンは視界の端に瞳を滲ませるフランを見た。笑おうとしたが、胸に鈍痛。どこかは知らないが、骨が数本イったらしい。

 レミリアの追い打ちが、飛んできた。

 「これで終わり。――鬼攻閃ッ」

 撃たれれば、彼女の言う通りシオンは終わる。フランは無理だ。さり気なく弾幕を撃って動きを牽制している。

 だからシオンは、自分の手で撃たせないようにしなければならない。

 グルンと体を回す。目的は足を回すために。一回転した瞬間、バチリと音が鳴り響く。刹那、本当の意味での閃光が周囲を照らした。

 目を灼かれ、生理的反応で目を閉じ両腕で体を庇う。何故そうしたのかはわからない。それでもこうしなければ、もしかするとレミリアは死んでいたかもしれない。

 光が止んでから数十秒。とりあえず骨だけ繋げたシオンは、まだ目を瞬かせているフランに近づく。……微かに漂う、()()()()()()()に、顔をしかめながら。

 レミリアの姿はない。どこを焼かれたのかはわからないが、回復に専念するためだろう。

 「シオン、今のって魔法、だよね……? でも、シオンは――」

 「しっ。そういうのは言うな。敵に長所と短所を教えるのはバカのすることだ」

 「あ、ご、ごめんなさい」

 謝るフランに、シオンもこれ以上強く言えない。そもそも人のことは言えないのだ。

 ……かつてシオンは、彼女達に自分の力のほぼ全てを教えた。あの時の自分よりも強くなったとは言えるが、根幹部分は変わらない。

 それは愚かだったと、今なら思う。バカ正直に敵か味方かはっきりしていない相手にする行動ではない。投げやりになっていた、という言い訳もあるが、何よりシオンは知らなかった。

 『再選する』、という事の意味を。

 何故か。それはシオンが、今まで生きてきた中でただ一度たりとも『再戦をした事がない』からだ。生きるか、死ぬか。それだけしかしなかったし、他の選択肢を選ぶ理由がなかったから、そうしただけ。

 今は違う。相手の事を知って、その対策を取れればかなり有利になると知った。だから慎重に行動する。

 とはいえ、フランにだけは教えたいと思ったのも事実だ。

 (――無理だ。口頭で教えなきゃ危険は伝えられない)

 あの魔法は、実のところ魔法とは言えない。単に極小規模な雷を生み出しただけだが、原理としては簡単だ。単に科学の論理を当てはめただけである。

 魔力を使って雷になる前の分子に干渉し、強制的に起こさせる技。即ち『現象』を引き起こす魔法。

 利点はシオンのように属性に適正が無くともきちんとした理論と周囲の状況からその現象を引き起こせるだけの数学を行えること。

 欠点は単純。この魔法、あくまで『現象』を引き起こすだけなのだ。つまり、術者自身制御()()()()。撃ったら後は勝手に吹っ飛んでいくだけだ。

 下手すれば撃った瞬間術者含めてそのまま死ぬ。シオンはそれを白夜の力で強制的に壁を作り上げて遮断したが、もしフランに当たっていたらと思うとゾッとする。

 なるべく使いたくはない。だが使わなければ生き残れないかもしれない。フランにどうにかして伝えられないかと想っていると。

 「――()()()()()()! ()()()()()()()使()()()()()()()()()()()!」

 (――え?)

 まるで、シオンがそれを伝えたかのようにフランは言う。

 (なんで? 俺は言ってない……よな? なら、フランがわかってるように言ってる訳は?)

 理由がわからない。混乱と困惑で思考を埋め尽くされている状態故に、シオンは気付くのが遅れた。

 「――グッ!?」

 ガブリ、と首筋に歯を突き立てられる。首にある『何か』を叩く

 「コウモリ……?」

 流れる血を抑え、小さなコウモリを見る。

 「マ、マズい!」

 顔を青ざめたフランがシオンを押し倒すのと同時、シオンの前髪を衝撃波が切り取った。驚きに目を丸くするシオンの前で、小さなコウモリの姿が大きくなる。

 それはよく見知った姿――レミリアとなる。頭を抑え、顔をしかめるレミリア。少しだけ残った両腕の焼け跡が、白い肌にクッキリと残っている。

 「ふぅ、血をありがとう。お陰で両腕を多少治せたわ」

 「飲まなくても何とかなるだろうに。物好きだな」

 「飲まないのと飲んでいるのとじゃ、大分違うのよ? 再生速度がね」

 チッ、と小さく舌打ちする。油断した自分が悪いとは言え、むざむざ血を渡すのは悪手だ。バックステップでレミリアと距離を取るが、何故か追撃はない。

 しかしそれも数秒のことで、レミリアは構える。

 「鬼牙(キガ)

 右に一線、返す刀でもう一線。シオンは空いた真ん中から避けようとしたが、直感に従って大きく上に跳んだ。次の瞬間、その行動が正しかったとわかる。二本並行に並んだ線がたわんだかと思うと、いきなり重なりあったのだ。

 (だから『牙』なのか……!)

 鬼の牙。その名に恥じぬ威力なのは容易に想像できる。

 「鬼攻閃」

 空を飛ぶシオンを撃ち落とさんと飛んでくる突き。それを避ければまた鬼牙が襲いかかる。

 「鬼爪(キソウ)

 しかし予想に反して槍を縦に構えたかと思うと、今度はひと振りで五重の閃光を生み出す。それは天井を破壊する程の射程と威力を持ってシオンを斬り裂く。

 それでも白夜を間に挟むことで致命傷だけは避ける。追撃を避けるためにフランが炎を出してくれるが、最早レミリアは躱しもしない。

 (白夜は折れなくても、俺のほうが限界か……! フランも無理だ)

 武器はいい。だがそれを扱うシオンの方が耐えられない。そしてフランも、レミリアを殺すだけの覚悟がない彼女では、もうこれ以上は期待できない。

 点の鬼攻閃。追い詰めるための鬼牙。逃さないための鬼爪。ならまだあるはず。もう一つ、トドメを刺すための必殺がッ。

 予想は正しい。そしてそれは、今までのように生易しくはなかった。

 「鬼翼(キヨク)

 およそ攻撃に相応しくないと思えるその言葉は、名前に反して絶大だった。

 あまりにも大きすぎる程槍を振りかぶり、二度袈裟斬り。凄まじい軌跡を残して飛翔。そしてそのまま、まるで技を放ったレミリアから巨大な翼が生えたかのように羽ばたくと、シオンの後方を埋めつくす。

 その様は、まるで彼女の翼によって抱きしめられているよう。そのままレミリアの翼はゆっくりとシオンを飲み込み、全てを消し去った。

 「――ハァ、ハァ、クッ」

 少しだけ息を荒げるレミリア。いつもの余裕がない。態々シオンの真似をしたりと、余裕を見せたりしていたのが嘘のようだ。

 だが、終わったとは言わない。油断なく前を睨み、奇襲に備える。

 フランは動けない。ガタガタと体を震わせるだけだ。

 ……嫌だった。これ以上大好きな姉と、恋している異性が戦うのが。わかっていたのに。こうなるかもしれないとわかっていたのに。

 何故こうしたのかと、あの時の自分を殴りたい。

 なのに。どうして、感じるのだろう。さっきもそうだった。シオンの考えていることが頭ではなく心に伝わってきて、だからわかった。

 シオンはきっと、気にしていない。仕方がないと、笑ってくれる。自分が傷つくことに頓着しない彼は、ただ許してくれる。

 そして、立ち上がる。

 「――……まだ、やれる」

 ボロボロになって、フラフラの体で、立つ。血染めの体。服を見て悲しそうにしていても、それでもレミリアを見ている。

 「流石、としか言えないわ。アレを受けても生きているなんて」

 グルグルと槍を回転させて、今一度構え。

 「でも、この殺し合いもそろそろ終わり。あなたもそのつもりでしょう?」

 「ああ。こっちもこんな無駄な事は終わらせたい。――次で、終わるだろうな」

 言葉は終わり。後は駆けるだけ。一瞬だ。それで全てに決着が着く。

 シオンは白夜を構えると一足飛びに、レミリアはグングニルを構えたまま、翼で飛翔する。

 二人の影が近づき、そして交差――しない。

 「……!?」

 「悪いとは思うよ。でもさ」

 ()()()()槍を持つ手を握る、シオンの片手。白夜でレミリアを傷つけないように、わざわざ持ち方まで変えている。

 「これが、人間なんだ」

 苦笑し、左手の指を手繰る。

 次々と地面から現れる黒い鎖。それが何なのか、レミリアにはわからない。

 「でもさ、こっちの目的はあくまで『レミリアの無力化』。端っから殺す気なんて無いんだ。許してくれ」

 この言葉で、理解した。

 自分は、目の前の男に負けたのだと。




11分オーバーすいません。でも頭ガンガンになるまで頑張りました。正直二度目の戦闘とか辛すぎです。
そもそも原作知らず(というか未プレイ)のにわかなんで。ぶっちゃけキャラクターに惚れて書いただけのある意味適当な作品なので、技とか考えるのが辛いんですよね。
そして前回の魔法使い戦に反してこちらは6000弱とかしか書けてない時点でお察し。流石に二週間休みは嫌だったので書きましたが、クオリティは……orz

0時半までに読み返しましたが、いくつもの誤字と表現不足発見。修正しました。
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