不穏な気配
ズキン、と体の内側から痛みが走る。その苦痛を慣れたものだと内側に追いやり、意識を目の前に集中する。
拘束されたレミリア。不思議な事に、彼女は逃げようとはしない。蝙蝠に変身すればこの拘束から抜け出せる。まぁみすみす逃す気はないが、隙くらいはできるはずなのだ。
(一部前言撤回したいところだ。あの時の俺は本当に視野狭窄になっていたな)
確かに死ぬ気になれば何とかなる時もある。だが、その前に死ぬ。それだけ妖怪は強い。かつての自分はそれさえ気づかぬほど、復讐に染まっていた。
だからこそ気になるのは、先程まで怒りと憎悪に染まっていた顔が、今では納得の色になっていること。そんな簡単におさまるような、生易しい感情ではないはずなのに。
「なんで」
レミリアの肩を押さえていた左手を放す。無理矢理繋げていた空間を閉じ、ズクズクと脳を突き刺す痛みから解放される。
「なんで、最後の鬼翼――手加減、したんだ?」
あの一撃、耐えれたのはシオンが何かをしたからではない。
レミリアが殺す気で放たなかったから、シオンは何もしなかったのだ。殺す気で来たのなら、黒陽で防御するつもりだったのに。
「さぁ、何故かしらね。それより解放してくれないかしら? もうこちらからあなたに手を出さないと誓うわ」
本気で言っている、とシオンは感じた。なぜ、と問うまでもない。眼を見れば、わかってしまうから。
シオンは左手の指を手繰り、レミリアを縛る鎖を回収する。一瞬の後に鎖は剣となり、小さなアクセサリーとなってシオンの手の中に現れる。驚きの早業だった。いつの間にか白夜も消え失せている。
レミリアは体の調子を確かめるようにゴキゴキと体を慣らす。無論、スカーレット家当主として見苦しく動かさない。あくまでこの程度なら、というくらいにだ。
「シオン、お姉様! 二人共無事!?」
「フラン……ええ、私は無事よ。シオンは手加減してくれてたから」
「こっちも同じだ」
骨が折れている件は黙っておく。
「だけど、どうして? いつものお姉様に戻ってるような気がするけど……」
頭上に疑問符を浮かべるフランに、レミリアは朗らかな笑みを浮かべながらその頭を撫でる。
「フランがあなたを頼った理由。そしてあなたがフランを助けた訳。全部わかった。だから私は殺意を向ける先を見失った、それだけの話よ」
あっけらかんと言ってのけるレミリア。
「それはつまり、記憶が戻ったのか?」
「え、本当!?」
二人の剣幕を諌めるようにレミリアは肩を竦める。その対応にフランは傾いていた体を戻し、レミリアの言葉を待つ。
「おー、終わったのか。音が止んだから気になってたんだよな」
「……戦闘中だったらどうするつもりだったのよ。死にたいの?」
「まぁまぁ、その時はまた別の対応をしていたと思いますから……」
レミリアの背後、シオンの正面からぞろぞろと魔理沙、パチュリー、小悪魔が現れる。確かに一息ついていたからよかったものの、魔理沙は流れ弾の一つでも直撃すれば死んでしまう。かなりの賭けであるのは間違いなかった。
パチュリー、小悪魔だけどころか、それを理解したシオンとフラン、果てはレミリアまで『コイツは、全く……』と言いたげな目を向ける。
「お、お前ら……おいシオンッ、そんな態度するんなら伝言伝えてやんねーぞ」
「伝言? 誰からのだ?」
プイッ、とそっぽを向く魔理沙。シオンの問いに答えるつもりはないようだ。が、それも数秒。ガシガシと頭を掻くと、言った。
「……慧音からだ。そっくりそのまま言うぜ。『月が太陽に食われる』。一体どういう意味だ? なんかの言葉遊び――」
「魔理沙」
気づけば、シオンが目と鼻の先にいた。視界の端にフランが狼狽えているのが見えたが、魔理沙は逃げられない。両方をキツく押さえられているからだ。
赤く、紅いその瞳。それがジッと魔理沙を見つめている。だがそこに不純な色はなく、どこか焦っているようにも見えた。
「その伝言、一字一句間違いがないんだな?」
「あ? あ、ああ……確かにこう伝えてくれよ言われたけど」
そう言うだけが精一杯だった。シオンは魔理沙に一言すまないと言うと、顎に手を当てて考え込んでいる。
……もしかしたら、事態は魔理沙が思うより深刻なのかもしれない。
そう思わせられるほど、今のシオンは真剣だった。
「レミリア、行くところができた。――また来る」
「あなたの用件は済んだのでしょう? 私は構わないけど――」
チラ、とフランの方を見る。オロオロとしているフランは、このまま紅魔館に残るか、それともシオンについて行くかで迷っているようだ。
レミリアは少し考え、翼をはためかせながら移動する。そして玄関横に置いてある傘――紅魔館周辺の散歩用であり、外に出るようのモノではないのだが――を、フランに渡す。
「お姉様、これは……?」
この傘がレミリアのお気に入りだとフランは知っている。散歩に使うのみで外にさしていかないのは、これがに傷がつくのを厭んでいるからなのも。
「ついて行きたいのでしょう? そろそろ夜も明ける。これを日傘に使いなさい。太陽を直に浴びては辛いわよ?」
もう六月に入る。四季がはっきりと現れる幻想郷では、もう間もなく日が出るだろう。そうなれば吸血鬼たる自分達は辛い。
辛い、で済む時点でスカーレットが特別たる所以なのだが、そこには目を瞑る。
「ありがとう、お姉様!」
「ええ。ごめんなさいねシオン。あなたに断りもせず決めたけれど」
「別にいいよ。待たされる訳でもないし、付いてくる来ないはそちらの勝手だ」
連れて行くのはシオンだが、決めるのはフランだ。あくまでシオンは彼女の意思を尊重する。
消し去ったはずの白夜を握り締め、目の前の空間を斬り捨てる。
「レミリア、魔理沙。後始末は――」
「わかってるわ。こちらでやっておくから、あなたはあなたのやるべきことをしなさい」
「正直何をすればいいのかなんてわからないけど、霊夢の事は任せてくれ」
頷き、裂け目へ飛び込む――寸前で躊躇し、一度だけレミリアを見る。しかし続いて飛び込むフランと衝突しないよう、その背を消した。
――やっぱり、気づかれてしまったかしら。
ふぅ、と一つ息を吐き出す。
とりあえず咲夜と美鈴を回収するべく足を運び、扉を開ける。そこで彼女の足が止まった。
「……驚いたわ。まさか動けるまで回復するなんて」
「初対面の人間に言う第一声がそれ?」
吸血鬼用の麻痺毒、人間では即死級の猛毒を受けてなお生きていた霊夢。
(――フランに当たっていなかったから、外していたのかと思っていたけれど……)
まさかこの人間に当てていたとは。
レミリアがわかったのは、単に霊夢の体調と、この独特な臭いから把握しただけだ。並外れた五感だからこそわかったのだろう。
気絶している二人を肩に担ぐ霊夢の顔色は、悪い。まだ完治していないところを、無理を通して来たのだ。正直今にもぶっ倒れそうだった。
霊夢から二人を受け取り、うまく重心を移動させると、懐からポイッ、と何かを投げる。
それを掴んで見てみると、小さな容器に入った錠剤が。霊夢はそれを見て――速攻で取り出し飲み込んだ。
あまりの速度に呆気に取られるレミリア。説明すらせずに飲み込むとは思わなかったのだ。
「毒薬とか、疑わないの?」
「少なくとも私に害があるとは思わなかったし。多分、解毒剤でしょ? これ」
ひらひらと空のカプセルを振る霊夢。勘と言うには凄まじい。最早未来予知に近いのではないだろうか。
「どうしてそう思ったの?」
「えーと、ちょっと待ちなさい。纏めるから」
それから十を数えてから、霊夢は言う。
「吸血鬼にも効く麻痺毒を部下に持たせるなんて、普通は正気じゃない。反逆されるかもしれないし、そうでなくとも敵対している誰かに奪われればそれだけで危険。……保険用?」
「大正解。元々は別の用途だったのだけれど……」
チラリとパチュリーを見る。その横に立つ魔理沙は、霊夢の体調が戻ったと察し、安堵の息を吐いていた。
「彼女が作ったの?」
「ええ。解毒薬もね」
「なるほど……流石は『
「パチェを知っているの?」
「シオンが言ってたから」
『彼女が持つ知識は膨大だ。それを扱えるかは別として。パチュリー・ノーレッジという名は誰よりも彼女を表しているよ』
「へぇ、そんな事を……」
面白そうな笑みを浮かべる横顔を見ながら、パチュリーはため息を吐いた。
「結局、彼とは話せなかったわね」
「すまない。私のせいで」
「別にいいわ。まだまだ時間はあるもの。またいつか、話せればそれでいいわ」
そんな会話の末に、パチュリーと魔理沙は図書館へ戻る。パチュリーはせめて魔理沙の持つ二つの道具を解析できればいいと思ったし、魔理沙は未だ見たことのない大量の本を読みたいが為だ。
そんな二人を見送り、レミリアは二人を運ぼうと霊夢に背を向ける。
「――で、
ピクリ、とレミリアは一瞬動きを止める。反応してしまった以上、もう誤魔化せないだろう。
「もう……どうしてわかっちゃうのかしらね」
苦笑するレミリア。その顔には、どうしようもない寂しさがあった。
「シオンも気づいているはずよ。きっとね」
霊夢が気づいたのは、単に今までの話を統合した結果だ。霊夢ができることをシオンができないはずがない。少なくとも、既にある結果から新たな事実を発見する事くらいは。
「十六夜咲夜という人間を利用した誰かは、きっとこうなることを予期していたのでしょうね」
そうでもなければ、今のこの状況を説明できない。いや――本当は、フランを脱走させることすら、本来の予定には無かっただろう。そこだけが想定外、と言ったところだろうか。
「三ヶ月という期間は、咲夜の力の限度。でも同時に、『安全に』繰り返しを行うための時間でもあった」
強制的に繰り返しを行おうとすれば、どこかでボロが出る。だからこその三ヶ月。物の配置などの小さな事柄から始め、本人すら気づかぬ程度の記憶を忘却させていく。違和感を失くし、この繰り返しを続けるために。そして一定期間が過ぎれば――始点に戻る。
誰も気づかない。気づけない。
唯一気づけたのは、全てを破壊してしまうフランのみ。シオンが渡した制御石も、『本人に危険が及べば』勝手にその力を解放するため、やはり影響は出ない。
(いえ、そもそも――)
本当に、
そんな思考が過ぎったが、余計な事だと切り捨てる。
「その通りね。私は思い出していない。というより、思い出せるような生易しい物じゃない、と言うべきかしら」
確かに咲夜の能力で行われたのは記憶の忘却だ。しかしそれは、削除と同時に
喪失ではなく、強制的な破壊。
だからレミリアがシオンと、あの可愛らしい笑顔を浮かべるようになった直後のフランと過ごした日々を思い出せることは、もうない。二度と。
「だから気になるのよ。何故穏やかでいられるのか。あの二人の間にあった出来事を、まるでわかっているかのように振る舞えるのか」
「わかっているかのよう、ではなく、実際にわかっているだけよ」
「――……その理由は?」
答えは、わからない、としか言えなかった。
ただ、心当たりはあった。
「シオンの、能力、かしらね」
レミリアの頭の中にある能力の説明と、今ある現状は全く結びつかない。それでも、何となく思うところはある。
「多分だけれど、私と同じでシオンは、自身の能力を
レミリアが二人の事を思い出したのは、『シオンの血を飲んで』から。つまり、シオンと直接的な接触を果たしたからだ。
詳しい条件はわからないが、少なくともその直後に、『シオンから見た』フラン達の姿が見えたのだ。強ち間違いではないはず。
瞳を閉じる。脳裏に浮かぶは紅魔館に来てからの彼。
『――いない。どこにも『アイツ』がいない』
霧を歩いた幼子は、求める人を見失った。
『――異世界? あ、はは……なんだよ、それ。それじゃ、殺せないじゃないか』
人は、感情が許容量を超えたとき、その場に合わぬ行動を取る。
『――ごめんなさい。まだ見ぬ貴女を種に笑うことを、どうか許して』
そして、彼は笑った。全く似合わぬ二つ名を付けられた少女を。
『――もう、どうでもいい。だからこの命を、その子のために使おう』
だから受け入れた。自らが死ぬかもしれぬ運命を。
『――あともう一回だけ、頑張ってみよう』
彼が紅魔館を去る時に思った、淡い想い。
レミリアの中にある記憶。それは、
あの不敵な笑顔の裏にあった、絶望を。レミリアは見てしまった。
瞼を開ける。そのレミリアの瞳には、心配の色だけがあった。
だから、祈る。
「いつかそれで決定的な間違いを犯さなければいいのだけれど――」
元々『月』と『太陽』の話は、慧音とのふざけたやり取りから生まれたモノだ。
そして太陽とは、人に恵みを与えると同時に、日照りで作物を奪う『脅威』となる。だから『太陽』が示すモノは『危機』になった。
遊びで作った言葉が暗号となり、それは二人の間に暗黙の了解を作った。
即ち、里に危機が迫った時、それを誰にも知らせずお互いに悟らせることに使おう、と――。
夜の帳が降りる里に足を着ける。
今はまだ誰も活動していない時間帯だ。そもそも夜は妖怪が活発になる時間。よっぽどの愚か者でもない限り、里の外どころか家の外にすら出る者は稀だった。
「静か、だね……」
死んだような、と形容できる里の有り様に、フランは無意識に呟く。この光景が、かつて地下牢にいた時の静けさを思い出させるから。
と、ふいに感じる手の暖かさ。見ると自分の手に重ねられた、シオンの手。
「慧音は寺子屋にはいない。居場所はわかったから着いてきてくれ」
手を握ってくれたのは偶然らしい。でもそれなら手を握る必要性はない。一度声をかければわかるはずなのだ。
だけど、フランは聞けなかった。
聞かなくてもいいと思ったし、何よりこの手の温もりを放したくなかったから。
二人の歩く速度は速い。足の長さの関係もあるが、それでも大の大人が歩くよりは速かった。走ればもっと速くなるが、レミリアとの戦いで消費した体力を取り戻したいと思ったシオンが、歩くのに止めた。
途中途中家の間にある僅かな隙間。そこから出来た迷路のような通路を通ってショートカットしていく。この隙間は里の住人であっても迷う程入り乱れているのだが、シオンはほんの少しの迷いも見せなかった。
時々倒れそうになるフランを手で引っ張り、フォローしてくれる。たまに勢い余って抱きついてしまったのはご愛嬌だろう。
「ご、ごめんね! なんか色々迷惑かけて」
「いいよ別に。それにフランの力を借りる時があるかもしれないから、その時頑張ってくれ」
ぶっきらぼうに答えるシオンは、どこか焦っているようにも見える。
その理由は、慧音と出会ってからわかった。
「――一体何が起こったんだ? 慧音」
「シオンか。流石に背後から、気配を消して言われると驚かされる」
そういう慧音の顔には非難の色はなく。むしろシオンが来たことに安堵していた。
「とりあえず簡単な状況説明を頼む。あの暗号はあくまで知らせるだけで、内容はわからないんだから」
「それは構わないんだが、その後ろにいる子は? どう見ても人間ではないのだが」
「わ、私はフランドール・スカーレット。吸血鬼、です。シオンについてきたんだけど……」
「……吸血『鬼』?」
慧音がどういう事なのかと、シオンを見る。
「フランは敵じゃない。少なくとも敵対する理由はないな。――それにしても『鬼』か。まさかとは思うけど」
「予想通りだ。山から奴らが来た。それも大軍勢と言っていい程のな」
苦々しく顔を歪める慧音。同時にシオンも顰めっ面を作る。
「待ってくれ慧音。山から里に降りて来たってことは、まさか」
「いるぞ。目と鼻の先にな」
「―――――――――――――――クソッ」
握った拳が震える。ついフランを握る手にも力を入れてしまい、後ろから痛ッ、という声がして冷静になった。
「悪い、フラン。痛かったか?」
「大丈夫だけど、一体何が起こったの?」
「妖怪達が住む山から、来たんだよ。そこを支配する最強種が」
それ即ち。
「『鬼』が、来た」
シオンの脳裏に、かつて退けた鬼の顔が蘇る。才能は凡庸だった。突出した部分も、恐らくないだろう。それでも驚異的だった。その身体能力と、圧倒的な耐久力という、ただその二点だけで彼らはありえない強さを誇る。
「最悪な報せだ、シオン。私が見た限り、鬼の中でもほぼ天辺に位置するだろう『鬼の四天王』の内二人、里に来た。彼女達の強さならば、一人で里を数分以内に殲滅できるだろうな……」
絶句する。慧音が言う『数分』とは、ただの数分ではない。
この里は伊達ではない。妖怪が跋扈する幻想郷で未だ無事でいられるのは、それだけの強さを持つ者がいるからだ。それらを相手にして尚数分で終わらせるという宣言。
「どちらにしろ、鬼が相手では分が悪いどころではない。彼らが大軍勢を引き連れてきたその時点で、私達は終わりなのだ」
絶望するしかない。今まで築き上げてきたもの全てが奪われ、終わる。
それでも、と慧音は強がりで浮かべた笑みを作る。
「彼らは無類の宴会好きだ。酒を用意し、上手い飯でも作れば、一度くらいは何とかなるさ」
逆に言えば、一度だけしか無理なのだ。
「どうして一度だけしか無理だって言うの?」
「ん、ああ、そうか。君は里に来るのは初めてか」
慧音にはフランの姿を見た記憶がない。これだけ美しい少女だ。一度見れば、忘れたくとも忘れられないだろう。
まるで生徒に教える先生のように慧音は答える。
「里にある備蓄の問題だ。鬼はただでさえ大食らい。それの大軍勢。里にある食料全てを出しても足りるのか、想像できない。そしてそれだけの備蓄全てを使ってしまえば……」
生き残れたとしても、明日をも知れない大量の浮浪者を出すだけだ。
明日を捨てて今日を生きるか。全てを捨てて明日を生きるか。どちらを選ぼうと、意味はない。いずれ鬼はまた来る。ただの延命措置に、一体何の希望を持てばいい。
「すまないな、シオン。せっかく作ったあの家も、全て無駄になってしまった」
そう、あの家は里と山の間にある。宴の用意に最低半日かかるとして、鬼達はその時間余興とでも称して殴り合いというなの殺し合いでもしているだろう。その余波で壊れるはずだ。
「もし全てが上手く終われば、また作り直そう。里の皆で」
浮かべた笑顔は、全てを諦めたそれだった。
その顔を見て、シオンが言うのは激励か慰めか、それとも同意か――。
「無理だな」
拒絶、だった。
「……どうしてだ」
裏切られた、というように顔を無に染める慧音に、
「
「――――――」
カネ。……金?
思考が停止する。逆にフランはああ、と納得していた。多少レミリアの元で学んでいた時に、お金の大切さを学んでいたからだ。
「忘れたか、慧音。あの家を作るために支払われた金は――全部、俺の自腹だってことを」
より正確には、シオンが幻想郷に危機に陥ったとき、それを解決する、という条件で請け負った依頼の報酬、だが。それも無限ではない。
霊夢に生活費としての資金を一括で渡したあと、残った全てを家を作るためにあてた。要するに残金など残っていない。
そもそも何故あそこまで里の人達が協力的になっていたか。それは、とても単純な事だった。
「――この里の浮浪者。それがどうやってできたのか、慧音はよく知っているだろう?」
わかっている。彼らは全て、『奪われた』人間なのだと。
里の外縁にいる人達は、かなりの危機を孕んだ生活を送っている。当たり前だ。内と違い外は妖怪に襲われる可能性が段違い。
だから彼らは、失った。住む家を。家族を。今までの生活にあった全てを。
里で当たり前の生活をしている彼らが浮浪者に対してイヤそうにしていても決して追い出したりしない理由が、それだ。
いつか自分も――そんな未来が、見えてしまうから。だからしないし、できない。そうした結果自分も同じ目にあったら、きっと彼らは受け入れてくれない。
呉越同舟、という言葉がある。大きな目的の前になら、多少の悪意や隔意を超えて協力するということ。あれだけ恐れていたシオンの提案を呑んだのもそれで、目的は受け皿を作るため。
里の外にある、というだけでかなり危険だが、人並みの生活を送れるならと目を瞑った。職人を頼って頑丈な家を作り、里の外故に有り余った土地を利用して田んぼや畑を作り、里で店を営む人に差し入れをしてくれるよう頼み。少しずつ少しずつ生活の基盤を作った。
どれだけの金が消えたか。シオンが木材を用意したりしたのも、彼らを雇う期間をそう多く取れないがためだ。
だから、できない。金が足りない。雇いなおすなど不可能。慧音の言葉は叶えられない。
――と、言うのは
慧音には言わなかったが、里の人達が持つ恐怖感は相当な物だ。恐らく彼らの危機に対する敏感さの裏返しなのだろうが、だからこそ絶対にできない。
慧音の案は、大前提として里にいる人間全員の協力が必須だ。そして、そこにいる人間が大勢いればいるほど、全員の意思を固めるのは不可能になっていく。
土台無理な話なのだ。里の人間だけで『鬼』に挑むなど。
「勝つどころか一時的に追い払うことさえできない。その前に里が割れる。そして終わるだろうさ。――自分達で殺し合って」
「だったら――だったら、どうすればいいッ!」
遂に慧音がキれた。ストレスで。自身の願いを否定されて。
「私にできるのはそれくらいしかないんだッ、力もなく彼らを退かせるための案すら出せない、その程度の――弱虫に。……どうしろと、言うんだ……」
彼女は里が好きだ。そこに住む人達が大好きだ。ずっと一緒に生きてきた。老夫婦も店を開いた男女を幼き子供を生まれたばかりの赤子を、傍で。
血の繋がりはなくとも、大切な人達。それが全て奪われる。これ程の恐怖なんて、ない。
(私は『先生』なんだ。助けたい。絶対に、何があっても。だから、だから)
「何があっても、助けたいんだな?」
「え……?」
涙で滲む視界の中で、シオンが笑っているような気がした。
「フラン、行くぞ」
「はいはーい。……ほんと、優しいよね、シオンって」
「慧音があそこまで言うんだから、そのためだ。誰かの為に優しくなれる人くらいは、助けたいからな」
「ふふ、なら私はそんなシオンを助けてあげる。何でも言って? 手伝うから」
「少なくとも今はいらないな。その内頼むよ」
行ってしまう。二人共。
「ま、待ってくれ! 一体何をするつもりなんだ!?」
「んー?」
シオンは一度振り返り、ヒラヒラと手を振りながら、言った。
「ちょっと、
もーしわけありませんでしたッッッ
テスト一週間前→テスト→文化祭準備→文化祭→片付けとハードスケジュールで、月曜日に書こうと思ったら疲労ピークでダウン。
かといってこれ以上放置は嫌なので、仕方なく今日投稿に。
それにしてもやーっとこさ書けました。
即ち! シオンの本当の能力は全くの別物だったのだ――!
……と言う伏線。
この時点でわかったら正直バケモンです。黒陽と白夜使える理由とかもわかったら脱帽です。
能力については――まぁ、次の次の次辺り、でしょうか?
なるべく早く出せるよう頑張ります。