東方狂界歴   作:シルヴィ

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危機への伏線

 ――『鬼退治』

 シオンは確かにそう言った。呆然としている間に既に慧音の前から姿を消した彼の真意を問いただす事はできない。

 だが、何をしようとしているのか、大雑把にだがわかってしまった。

 無茶だ、とは思う。実際シオンはここに来る前からボロボロで、一体何をしていたのかと感じた程だ。聞けなかったのは、単に慌てすぎて他の事に目を向ける余裕がなかったから。

 「頼むしか、ないのか」

 このまま何もせず、里の危機を任せっきりにして。

 「いいや、そんなことはできない」

 慧音に戦闘能力はない。霊夢と比べることさえできない程だ。足元にすら及ばない。

 しかし、なお。里で生き続けたが故の人脈が、少しはある。それを使って医療準備を整える。鬼と戦ってシオンが無事で済むとは思えないからだ。

 後は医者だ。それも、信用ではなく、心の底から信頼できるほどの腕を持つ医者。

 「永琳しか――彼女しか、いない」

 彼女ほどの腕前を持つ者ならば、この世の誰よりも信じられる。

 罪悪感も、事前にどうにかできなかったのかという後悔はある。それでも慧音は歩みを止めようとは思わない。できる、できないという問題ではなくなったのだ。

 里の者には申し訳ないが、全員叩き起こさせてもらおうか――。

 

 

 

 

 

 ――『鬼退治』と聞いて思い浮かべるものは、果たして何か。

 八方塞がりになっていた慧音の思考をついたのは、反対意見を聞くつもりがなかったからだ。慧音の様子から一日程度は猶予がありそうなので、とりあえず体調を整える事を優先する。

 「でも、このあたりで休憩できる場所なんてあるの?」

 「ちょっと遠いけど、一応な。どっちかというと栄養補給したいだけなんだが」

 里の外周をグルリと回って全く別の方向へ向かっているシオン。紅魔館の外から出たことがないフランにとって外の景色は珍しく、先の件が解決した事が故に焦りから解放されたことも相まって、見る物全てが面白い、といったようにキョロキョロと周辺を見渡している。

 そんな二人の歩みは、速い。ただの人間からすればコマ送りのように見えるだろう。シオンの場合は荒地を進む事に慣れている事から。フランは身体能力にモノを言わせて強引に。両者異なってはいるが、異様な光景であるのに変わらなかった。

 時間があればもっとゆっくりでもよかったのだが、フランの動体視力をもってすれば普通に歩いているのとなんら変わりないようで、そこは助かった。

 まぁ、例え文句があったとしても、フランがそれを口にするのはありえないだろうが。

 ふいに景色が移り変わる。

 緑色、という点は変わらない。だが生えている材質が全くの別物になっていた。

 「……なにこれ?」

 恐る恐る触ってみる。硬い。が、柔らかい。力を込めると少しだけ曲がり始めた。もう少し力を込める。離す。ビーヨン、と揺れた。

 次にコンコン、と叩いてみると、反響。まるで中身が空洞のようだ。もう一度力を込めると、今度はあっさり壊れた。

 目をパチクリさせながら、フランは思わず呟く。

 「これ、植物……なの?」

 「()だな。一応色々な用途があるんだけど、今回の目的はこれじゃない」

 あくまで目的地に生えているだけの代物だ。

 そして幻想郷に竹が群生している場所など、一箇所のみ。

 『迷いの竹林』、そこがシオンの目指した場所だった。

 天然の迷路であるこの場所を、シオンは迷いなく突き進む。後ろをついてくるフランなどはもう訳がわからないといったように目を白黒させているのに、だ。

 「シオンは道が分かるの? こんな獣道より酷い道なのに」

 「多少は、まぁ。落ちてる石だとか、踏んでる土の感触と……あとは頭の中にある地図を使ってるだけ」

 「頭の――地図?」

 「迷いの竹林を上から見た図だよ。範囲はわかってるから、どこから入ったのか、がわかれば大雑把に計算して答えが出せる」

 とはいえ迷いの竹林は鈴仙が一定毎に道のりの距離をデタラメにしているため、定期的に歩き回って落ちているモノなどを逐一目印にしないとすぐにどこにいるのかわからなくなってしまう。その点今はまだいくつかアテになるモノが落ちているので助かったと言えるだろう。

 と、そこでシオンは足を止める。よそ見をしていたフランは顔を背中にぶつけてたたらを踏んだが、それを気にする事なくシオンは前を凝視していた。

 ひょこ、とシオンの肩から首の先を出してそこを視認。

 真っ先に目が向いたのは――ウサギの耳。次に黒い髪と同色の瞳。そしてピンク色の服と――背中に背負った、全く似合わぬリュックサック。

 「何やってるんだ、てゐ?」

 「え? ――って、シオン!? 出て行ったんじゃなかったの!?」

 「ああ、久しぶり。って程でも無いか。ちょっと出戻り。師匠はいるか?」

 「師匠? ……あ、そっか。永琳か。一応いるけど、用があるなら私が聞くよ?」

 ボロボロの服を纏ったシオンを見てもてゐは眉一つ動かさない。まるで見慣れたモノを見ているかのようだ。

 事実、そうなのだが。永琳との修行は、後半から最早どちらかが死に体になる――永琳はその体質上、もっぱらシオンだけが――事が多く、この程度なら軽傷、というヘンテコな認識が植えつけられていたりする。

 が、フランにはそんな事情、はっきり言ってどうでもいい。

 何より重要なのは、この外見『だけ』少女なてゐというウサギから、嫌な感じがするのだ。それも、自分にとって嫌な気配。

 相手もそう思ってるのだろう。フランに対してどこか嫌悪に近い感情を向けてくる。唯一間に挟まれた形のシオンだけが普通だった。

 「単純に栄養補給。カプセルとか粉末とか、なんでもいいからエネルギーになるモノが欲しい」

 「そういえばシオンの体って、スッゴイ燃費が――うん、わかった。ちょっと待ってね」

 言うとてゐはスルスルと竹の間を移動していく。その速さはシオンがこの竹林を歩く以上。それほどまでに彼女は竹林の形状を理解している。

 例えここが、日々移りゆく惑いの迷路なのだとしても。

 さててゐは十とかからない時間で戻ってきた。その両腕には風呂敷か何かで包んだ大きなモノを持っている。いや、この表現は正しくない。

 正しくは、大量のモノを包んだ袋を持っている、だった。

 てゐは風呂敷を地面に置くと結びを解き、広げる。中にあるのは大量の葉っぱ。

 「シオンはユーカリの葉っぱを食べるコアラじゃないよ?」

 「言われなくてもわかってる。知識がないなら黙って見ててくれない?」

 どこか険のある二人のやり取り。しかもこの二人は並の力の持ち主ではない。その気になれば周辺一体を更地にできるのだ。

 そんな二人の、危なっかしすぎる口の利き方を無視して、シオンは白夜で仮初の床を作る。

 「目には見えないけど、床を作った。立ってるのも面倒だろ? ここに座れば汚れることもないから、遠慮しないで」

 そういっていの一番に座って例を示す。二人の間に飛び交う火花などわかってないかのように。実際にわかってないのがシオンだからタチが悪い。

 毒気を抜かれて二人はため息を吐き、じゃあ、と見えない床に座る。

 座り心地は悪くない。むしろいい。どうやら二人にあった椅子のような形にしているらしく、さりげない気遣いが見て取れる、が、いつのまに()()()()を把握したのだろうか。

 結局聞けなかったが、答えは『気配で』わかったとしか言えない。視認して、気配の形からおおよその形状は予想できる。無駄な技術の一つだった。

 とりあえず座った三人。その後てゐはシオンに頼んで、ボウルのような形のモノを空中に用意してもらう。透明なため視認しづらいが、コンコンと叩くと確かにそんな形の物体がある。

 てゐは先ほどの風呂敷に置いてあった葉のほぼ全てをボウルの中に放り込むと、リュックサックの中に入れてあったのだろう棒のようなモノで磨り潰し始める。人間ならば無理だろう量を、一気に、ゴリゴリと。

 と、その間フランはてゐの動作を見ていたが、シオンは風呂敷に残った残りカスを何とはなしに眺め、一枚を手に取る。

 「なぁてゐ。これってさ、一枚だけでも効果はあるのか?」

 「あるよ? というか、用途次第じゃそれ一枚だけで作るときもある。もちろん、組み合わせた方が効果は高いけどね」

 「ふーん。ならま、いいか」

 「いいって、何を――……!?」

 振り向くてゐが見たのは、パクリと()()()()()()()シオンの姿。シオンの突飛な行動に慣れているはずのフランも目を丸くしている。

 そんな二人を無視してシオンはムシャムシャと音を立てて葉を食い千切る。顔をしかめ、かなり不味そうに。

 「え、っと……確かにそっちの方が効能はいいかもしれないけど、美味しくない、よ?」

 「食べられないほどじゃない。木の根っ子よりは食べやすいし、土の味も混ざってないから、うん……イケる」

 何が!? と言いたかったが、シオンは先と打って変わって無表情になって食べる。その顔を見て、ふと気づいた。

 シオンにとって、急を要するほどに焦っていることがあるのだと。

 必要があるのなら待つ。急かさない。急かしてデキの悪いモノやコトにならないように。シオンはそれができる人間だ。

 そして急を要することがあっても、他者にまでそれを強要しない。あくまで自分のみ。それでどれだけ迷惑を被ろうと、許容する、できてしまう。

 だから余計心配になると、シオンはわかっていない。

 てゐは諦めの境地に達すると、急いで葉を磨り潰しにかかる。フランも無言で手伝い始めた。てゐはともかくフランは吸血鬼。腕力なら相当な彼女の力もあって、すぐに潰し終える。

 次はてゐが永琳に言われて取っていた様々な葉を使う。

 「もしかしてこれ、薬?」

 「気が遠くなるほど永琳と一緒に暮らしてると、なんとなく学んでみようかな、と思った時期があってね。にわかだけど」

 とはいえ、暇つぶし程度に習った事といえど、数年あるいは数十年仕込み。多少なら自分一人で作れるくらいの知識はあるし、難しいモノでも永琳の助手の真似事くらいはできる。あまり興味が無くてそんな事は一切してこなかったのだが。

 「……いいなぁ」

 ふと、フランの口からそんな言葉がこぼれる。

 「何がいいの? 言っておくけど、私は才能がない方なんだからね」

 「あ、そういうんじゃなくて。色々学べる環境にあったのが、羨ましいなって」

 「あんた、何言って」

 言葉を止める。

 (……なんて、顔を)

 本当に、心底から。

 羨ましいと、滲み出したような笑みを浮かべるのは、やめてほしい。

 まるで目の前にいる吸血鬼は、サイテイサイアクな人生を歩んできたのかと、そう思ってしまうから。

 てゐにとってシオンは憧れに近い。その憧れの形すら漠然としたものに過ぎないが、だからこそわかる。

 ああ、この娘はシオンに恋してるんだな――と。

 未だ想いが定まらないてゐがシオンに向ける想いは執着に近い。だから、ここは譲ってあげることにした。

 「これ作ったら、渡すのはあんたがやって。私は永琳に言われた薬草とか集め直さないといけないから」

 「……嘘だよね? 手渡すくらいの時間はあるはずだもん」

 鋭い。

 てゐは苦笑し、コツンとフランの額を叩く。

 「年長者の好意は素直に受け取りなさいな」

 ついでどこから取り出したのか、何かが入ったコップを手渡される。

 「ジロジロ見なくても、単なるジュースよ。手伝ってくれたからそのお礼にね」

 好意として渡したものだと、てゐは言う。

 天然一〇〇パーセントジュースだからきっと美味しい、と。

 いくつかの材料を適当に放り込み、混ぜる。本来ならば加熱したり仕分けしなければならないモノも混ざって――そうしなければ毒が残っていたり、余分な効果が入ってしまったり――いるのだが、シオンの体質を知っているてゐは気にしない。

 そうして数時間かける作業を数十分で終わらせたてゐは、それをフランに任せた。

 「――ほら、これ。大量にあるから容器に移したりして運ぶのは無理かな。あ、そうだ。そこで葉っぱムシャムシャ食ってるシオンに()()()()()()って言っておいてね~」

 口直しさせにまた後で来るけど、ニシシ、とイタズラ気な笑みは何を思ってのコトなのか。フランには察せられず、彼女が去るのを見ているしかなかった。

 残ったフランは、てゐの言いつけ通りにシオンを呼ぶ。

 「薬、できたよ。でも移動させられないし容器とかに移せないからそのままなんだけど、どうしよう?」

 「ん、大丈夫。うまく形を変えれば……」

 ある意味凄まじいまでに毒々しい緑色の液体を前にしても顔色一つ変えず、冷静にボウルの上に細長い管を作成。ストローのような形にし、口に含む。

 飲む。透明故に緑色の『ナニカ』が移動していく様は見ていてとても痛々しい。

 フランは視線を逸らす。信じられない音が聞こえてきた。

 ゴキュバキュベキガリュジュク――およそ液体を飲んでいるとは思えないその音。フランはその光景から必死に目を逸らし耳を塞ぎうずくまる。

 数分後。ゆっくりと振り向き、ボウルが空になっているのを確認。

 「シオン――大丈、夫?」

 全くもって大丈夫だとは思えなかったが、シオンの肩に触れて揺する。

 「え、シ」

 オン、と名前を呼ぶ前に、グラリと体が揺れてフランのいる方に倒れこむ。

 「きゃぁ!?」

 唐突過ぎたのと、驚きで身を硬直させていたフランは支えることすらできずに押し倒される。それすら気に留めずすぐにシオンの顔色を見るが――悪い。凄まじく悪い。

 体質的に薬物毒物問わず一切効かないのを考えるに、その線は薄い。

 ――渡されたジュース。

 ――口直し。

 ――良薬は口に苦し。

 と、いうことは。

 「もしかして、スッゴイ不味い……?」

 それこそ、シオンが耐え切れない程に不味すぎるのなら。少量なら耐えられても、アレだけの量を摂取すれば。

 不意にてゐのイタズラ気な笑顔を思い出す。何かを狙った、あの表情。

 そして、『無理しないで』という言葉。

 「もしかしてシオンって、疲れてるの?」

 だからこそシオンでさえ耐え切れない程の『味』でもって無理矢理気絶させ、眠らせる。その時の無防備なお姫様(シオン)を守る騎士(フラン)もいる。お節介だとわかっていても多少の無理を通したかった。

 本来ならその役割はてゐが担うはずで――だがそれを、フランに譲った。普段のてゐをよく知る人物なら、相当驚くだろう。

 勝てないなぁ、と思わされた。シオンが疲れていることなど一切気づかない自分に呆れ、気づいたてゐに嫉妬する。譲ってくれたのは何故だろう。そんな事にも気づかないのかと叱咤しなかったのはどうしてなのか。

 そんな疑問も、目の前にグッタリと力なく横たわるシオンを眺めていたら消え去った。代わりに頭に浮かんだのは、本で見た文章。

 「いい、よね。うん。誰も見てないし、それにこんな体勢で寝ると体を痛めちゃうし」

 シオンはこの後鬼と戦うのだ。少しでもリスクは減らすべきだろう、うん。

 なるべく石や葉っぱが少ない場所にシオンの体を横たえさせる。白夜の力で作った床はシオンが気絶した時点で消えている。多少汚れるのは仕方が無かった。

 最後にフランはシオンの頭の上に移動し、正座を作る。その上にシオンの頭を乗せた。

「………………………………………………………………………………………………………………」

 なんとなく、気恥ずかしい。

 そう思っていても手が勝手にシオンの頬や髪を撫でてしまう。傷がついた頬の血をそっと拭い、バラバラに崩れた髪を整える。そうやって遊んでいると、ふいにフランの手にシオンの手が重なった。

 「――ね……え――さ……」

 その呟きが示すのは、きっと自分(フラン)ではない。もっと大切で、シオンという人間を形成する上で欠かせない人物が、その言葉に宿る意味。

 「私はまだ、シオンにとってそこまでの人じゃないんだろうね」

 でも、いつか。

 「いつかきっと、私はシオンにとっての『それ』になってみせるから――」

 それが叶わない夢だと知らぬまま、フランはこの眠れるお姫様に誓った。

 

 

 

 

 

 咲夜と美鈴を部屋に運び治療を終え、一息吐いたレミリアと霊夢。

 「言っておくけど、ただ働きじゃないわよ? ちゃんと報酬は貰うからね」

 「わ、わかっているわ。でも――あなたが言う食材がある場所なんて、私は知らないのよ」

 お嬢様らしいセリフに、霊夢は知らずため息を吐き出す。

 さっきもそうだった。運ぶのは手伝ってもらえたが、治療を施したのは全て霊夢。レミリアはただ見ているだけだった。

 いや、手伝ってもらおうとはした。ただその度に色々なモノをブチ撒け、それを掃除しようと何かを倒し、それを戻そうとしたら――とエンドレスで色々やらかしてくれた。

 結局部屋を移し替えて後始末は咲夜に任せようと全てを丸投げし、残りは全て霊夢がやった。普段はここまで酷くはないらしいが、全く信用できなかった。

 とはいえわからなくもない。つい先程までレミリアは戦闘していたのだし、その内容も察して余りあるものだ。だからこそ愚痴を言いつつ手伝っている。

 「で、私はそろそろ帰るわけだけど。あんたはこれからどうするわけ?」

 「そうね。ちょっとパチェに頼み事、かしら」

 「なら魔理沙に伝言頼めるかしら。一度里に顔を出せって。――多分、危険な事が起こる。それもかなりの」

 どんどん勢いを増していく警鐘。それは未だかつてない程の予感。当たって欲しくないほどのそれは、霊夢の知る最悪よりも更に下回る。

 解決できる目安はある。それだけが救いだが、何故だろう。

 (よくわからない。でも、その()()()があるような気がする)

 だから先に行動しておく。ジッとしているのは性に合わないのだ。

 「伝えておくわ。……私も後で顔を出すから。きっとね」

 「そうしてちょうだい。力を集めておくのは、無駄じゃないだろうから」

 玄関から出るのも惜しいとばかりに窓を押し開き、外へ飛び出す。

 今から行って神社へ寄り、そこから里に行くまで、何時間かかる事か――。

 

 

 

 

 

 レミリアは地下へと足を向ける。元からパチュリーの元へ行くつもりだったので、魔理沙への伝言はそのついで。

 途中の通路の壊れっぷりに唖然とし、開きっぱなしの図書館への扉に呆れ、次いで魔理沙とパチュリーの魔法使い特有の話に頭を抱える。

 「あ、レミリア様。パチュリー様に何か御用で?」

 最初に気づいたのは本の整理をしていたのは小悪魔。あの二人の周りに散乱している本を考えるに、必要な本を集め、いらぬものを片付けていたのだろうか。

 「大変ね、あなたも」

 「ええ、まぁ。ですが使い魔として主に必要とされるのは、嬉しいですから」

 にっこりと満面の笑み。本当に喜びに溢れている小悪魔。従者としての面目躍如といったところか。眩しい限りである。

 「それで、レミリア様。主に何かご入り用で?」

 「ついでにそこの金髪の魔法使いにもね」

 ピシッ、と魔理沙を指差す。

 「んぁ? あー、確かレミリアっつったっけ。私になんか用か?」

 「用っていう程でもないわ。霊夢からの伝言をそのまま伝えるわよ。『一度里に顔を出せ。――多分、危険な事が起こる。それもかなりの』と。ちゃんと伝えたからね?」

 刹那、魔理沙の視線が鋭く尖る。それも一瞬のこと、すぐにいつものヘラヘラとした笑みを浮かべ直した。

 「おう、伝えてくれてありがとな。すまんパチュリー、行かなきゃいけないとこができたから、今日はここまでだ」

 「わかったわ。この話の続きはまた後日にしましょう。楽しみにしているから」

 「お前の魔法理論は興味深いからな。私も楽しみだ」

 「あなたの知識も中々面白かったわ。またね」

 ひらひらと手を振って背を向け去りゆく魔理沙を見送る。

 「珍しいわね。あなたがそこまでするだなんて」

 「彼女は一人前の魔法使いよ。礼儀知らずはともかく、相応の魔法使いには相応の礼儀でもって話すべき。それだけのこと」

 レミリアが言いたいのは『パチュリーが一人前と認めた』という事実なのだが、この眠気(まなこ)の親友は気づかないだろう。

 「それで、私に何か用があるのでしょう? 魔理沙との話を本にまとめておきたいから、なるべく手短にお願い」

 ……それでいてこういった事には鋭いのだから、本当に。

 「前にフランの能力を抑える術式を頼んだでしょう? アレの取り下げにね」

 「でしょうね。彼女にはもう()()()()わ。それだけかしら?」

 「いいえ。後一つ、お願いがあるのだけれど――」

 優しき姉は、愛する妹と、その想い人のために行動する。

 

 

 

 

 

 「で、(サク)。ホントにあんたを簡単に退けた人間なんているのかい?」

 「ええ、います。少なくとも私はあの時油断しておりませんでした」

 「ふ~ん。ま、あんたの基準と私の基準は全然違うから、期待せずにいようか」

 朔と呼ばれた、角の生えた若い男の眉がピクリと動く。

 わかりやすい反応だった。自分が認めた人間が貶されていると感じたのだろう。本当は、期待しすぎてそれが外れた時落胆しないようにという予防線だったのだが、伝わらなかったらしい。

 その若さに内心でクククと笑っていると、後ろから最早聞き慣れた声が飛んできた。

 「言っておくけど、期待通りの相手だったら一人占めになんてさせないからな?」

 「萃香」

 鬼の中でも最強に近い自らと同格の力を持つ鬼の名前を呼ぶ。

 どこから現れたのか。一瞬前まではいなかったはずの場所に、小さな女子(おなご)が立っていた。

 どことなく薄みの茶色いロングヘアー。その長い髪の先っぽを一つにまとめている。その手には伊吹瓢――と、本人が言っている――という紫の瓢箪が握られている。

 中身は当然酒。今もんくっ、と一呑みし、顔を赤く火照らせている。それよりも赤い真紅の瞳は酔いが回ってか潤んでいる。不釣合いに長くねじれた二本の角も少しだけ緩くなっているような気がした。

 白のノースリーブに紫のロングスカート。そしてなぜか腰から鎖で繋げている三角錐、球、立方体の分銅を吊るしている。

 酒を呑んで気分がいいのか、口元は弧を描いている。しかし潤んだ瞳の奥に見える真意を、自分が見逃すはずがなかった。

 「約束はできないねぇ。私達の『ルール』を忘れたかい?」

 「む。なら条件だ。その人間とやらが指定した場合無条件で相手に譲る。それでどう?」

 少し考える。『ルール』から考えて、早い者勝ちというのが普通なのだが――。

 「別に構わないよ。あんたと私の仲だしね」

 確かに愉しみは欲しいが、こうしてバカをやっているのも楽しい。それに、このフラストレーションが溜まりに溜まっている友人に譲るのもやぶさかではなかった。

 「そういや契約期限まで後何日だっけ?」

 「酒の呑み過ぎじゃないか? 後二日、というところだよ」

 ベベれけになっている萃香に呆れてしまう。千鳥足気味の萃香を放って足を前に向ける。

 この二人が一足先にここに来たのは、迷いの竹林でとある人間と出会ったという朔の話を聞いたためだ。

 曰く、『強い』と。

 それだけで十分だった。どんな人間で、どんな戦い方をするかなんて関係無い。強いか弱いか、その単純すぎる真理のみが重要で、それ以外は瑣末。

 とはいえ少し早すぎたかもしれない。上役が勝手に結んだ契約とは言え、強い者に従うのが鬼のルール。契約とは約束だ。嘘を吐かない鬼にとって、約束とは絶対に破ってはいけないモノ。特に萃香などはそれが顕著だ。

 契約内容が内容のため、ある程度近づいたらそこで期限が切れるまで待つつもりだ。そのためにわざわざ荷物持ちとして鬼の大群を引き連れてきた。

 それが保つかどうかは別として。

 「――ん?」

 ふと、視界の先に仄かに青く光る何かを見つけた。

 「萃香、アレが何かわかるかい?」

 いつの間にか肩に引っ捕まってふよふよ浮いている萃香に聞く。体重はほとんど感じなかった事から、恐らく能力で体重を散らしでもしたのだろう。

 萃香は酒を呑むのを中断し、自らが指差した方向を視る。

 「単なる結界っぽいねー。ぶん殴って力尽くで破壊すれば?」

 「へぇ。そりゃあいい。わかりやすくて」

 そう。それくらい単純なくらいがちょうどいい。

 凄絶な笑みを浮かべ、結界へ近づく。試しに触ってみるが、固くは無く、かといって柔らかすぎるほどでもない。所謂()()()()とやらでも触っているかのようだ。

 が、そんな事はどうでもよかった。

 これをぶち破る程度、余興に過ぎない。もう目的地に辿り着いたも同然と、腰に吊るしてあった瓢箪を取り出し呑む。

 そして適当に――裏拳を放つ。

 恐らくかなり複雑に作ったであろう結界が、一撃で粉々になる。が、破壊した本人はどこか拳に違和感があった。

 ――壊した実感が薄いねぇ。細工でもしてあったのか?

 見ると、ほとんど地面が抉れていない。いつもの調子で殴ったから、ある程度の被害が出ていなければおかしいのだが。

 「こりゃ、遠距離での打ち合いに期待できそうだ」

 魔導には詳しくないが、これだけの術式を使える人間がいるのなら、多少やりあえるだろう。近接戦闘よりは楽しくないが、久しぶりの鬼同士以外での戦い。楽しんでなんぼだった。

 「今から二日間、休憩に入るよ! 各々好き勝手に遊んどきなッ!」

 言うが早いが、近場にあった木を背に酒を呑む。

 ここから始まる『遊び』に、無意識で心躍らせながら。




誠に申し訳ありません!
書き始めたらなんか異様に長くなりすぎて1万文字超え出しても終わらなくて。で、それなら一週間休んでうまく分割した後2話構成にしようか――とか思ったのにそれでも終わらなくて2万文字超えそうになってでも終わらなくて。

次回は今度こそ2話構成にできるようにして一気に投稿できるといいなぁ……(遠い目

適当ですいません。

で、でも今までより深く考えて――知人から色々東方の設定聞いてみたりして――いるので少しだけマシになっている、はず!

低クオリティな上にちょこちょこ休んだりしてますが頑張りますので、何卒応援をよろしくお願いします。
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