東方狂界歴   作:シルヴィ

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 シオンと別れた後、永琳は黙考を重ねながら古びた廊下を歩いていた。置いてある絵画や装飾を一顧だにせず、頭に浮かぶは彼らの能力のこと。

 使用条件。その効果。弱点。応用範囲。できることとできないことを少しずつ想定し、可能性の高いことを頭の片隅に、低いものは切り捨てつつも断片だけは残しておく。

 永琳は天才だ。だがそれは、彼女があらゆる事柄に対しての想定を済ませているから。誰もが行っている情報収集からの予想図を、微かな断片さえも記憶し積み重ね形と成しているからだ。後はただ、思考の積み重ねと長く生きた経験から結果を導き出す。

 その結果。永琳は、あの真っ黒な青年の能力を()()()()

 少なくとも条件と効果はわかった。弱点と応用は情報が少なすぎてわからない。

 シオンの能力も大体わかった。そして、シオンがどうして人を見抜くことに長けているのかも。

 廊下を歩く音が止まる。真横にあった襖を開け、中にいた二人の姿を視界におさめる。

 「目を覚ましたわ。体調も、少し休めば万全に戻るでしょう」

 「まさか数日も眠り続けるとは思っていなかったけれど。『魂』とは、繊細なものね」

 「さしずめ『眠り姫』でしょうか? 外見は少女そのものですし」

 クスクスと笑う藍。が、帰ってきたのは呆れを多分に含んだ眼差し。な、何ですかと怖気つつ問い返してみれば、殺し合ったにしては随分気を許しているとのこと。

 と、言われても、藍からしてみれば彼と殺し合ったのは彼が主に対して敵対的であったからでしかなく、むしろ心情的には同情の余地がある。無理矢理拉致されてその目的がとある人物の殺害だと言われれば、藍なら憎む。というかキレる。

 このような事を言ってみたところ、紫は若干落ち込み、永琳は苦笑い。慌てた藍はお茶を淹れに行くと言って、逃げた。

 「――それで、勝ち目は?」

 「十二分に。……と、言いたいけれど。いくつか不安な点があるわ」

 「対処できるものなら対処しましょう」

 それを聞いて、永琳は内心安堵。できないのなら諦めるが、折角の優秀な弟子だ。できるのであれば最大限の譲歩を引き出したかった。

 ――シオンが持つ薬の耐性。それを使って実験できなくなる――なんて思考は無い。一切ない。

 「まず一つ。あの遠隔の魔法陣を使って存在がいる。一人か二人かはわからない。でも、後方支援者がいるだけで戦況は大分不利になるわ」

 「そう……なら、誰かを派遣するわ。とはいえ、簡単に行かせられるのは霊夢くらいね。他には何か?」

 「確証がないのが。まあ、これはシオンになんとかさせるから、いいわ」

 「随分と信頼しているのね。そこまでの関係を?」

 「いいえ? むしろあっさり死んでしまいそうな気がするわ」

 鎖が無くなればあっさり死ににいきそうな人間をどう信用しろというのか。それでも永琳が何とかできると言ったのは、単純な話。

 「予想が正しければ、今回の戦いはシオンが最も得意とするモノだからよ」

 

 

 

 

 

 燦々と降り注ぐ太陽の下で、本来いるはずのない吸血鬼と、外にすら出ない引きこもりの魔法使いが里の中を歩いていた。

 日傘を差し、優雅に歩くお嬢様と、傍から見ると寝巻きそのものの服装を身に纏って歩く魔法使いの二人組は相応に目立ち、注目を浴びている。しかしお嬢様の方は慣れたように、魔法使いの方は気にもとめずに自然体のまま。

 大勢の人間に見られながらも里の中心を目指していく。途中あった甘味処でジュースを買って喉を潤し、目的の寺子屋にたどり着いた。そこに立っていたのは、どこか疲れた様子を見せる慧音。

 見られたことに気づいたのか、慧音はレミリア達へ視線をよこす。

 「……シオンならばここにはいない。用があるのなら紫の家へ向かうといい」

 「まだ用件は言ってないのだけれど」

 「この幻想郷に吸血鬼などという種族はそういない。ならば、あの少女かシオンか、どちらかだろう」

 それ以外の可能性もあるが――今は置いておこう。そもそも慧音がここに突っ立っているのは、待ち人がいるからだ。

 「中へ入っているといい。無駄足を踏むのは嫌だろう?」

 「理由は? 説明がないと納得できないわ」

 「シオンは鬼との戦闘後、何者かに襲われたらしい。その時負った怪我の後遺症のせいで、未だ眠ったままのようだ。起きたら使者をよこす。……そう言われて、既に三日目だがな」

 それから慧音は三日間、用事や飯、風呂などの所用を除いてずっとここに立っている。そうでもしていないと、緊張感から胃がやられる。

 なんて説明をできるわけもなく、慧音は無言で扉を開ける。レミリアはその態度に若干の疑問を抱いたものの、吸血鬼たる彼女がずっと太陽が日照りを晒す中で立っていられるワケもなく、その中へと入っていき――後悔した。

 ――空気が、重い。

 そこにいたのは霊夢と、魔理沙、そして見覚えのない河童と慧音のように疲れた様子を見せている鴉。

 そうは見えないが服の下には完全武装の霊夢は黙して瞑想。魔理沙は河童の少女と話しているがピリピリとした空気を隠していない。なるほど慧音が外にいるのも頷ける。中にいるよりは何倍もマシだろう。

 「少し寝るわ。お休みなさい」

 マイペースにそう告げると、目の下にクマを作ったパチュリーは毛布すら用意せずにゴロリと横になる。

 そんな彼女に毛布をかけたのは、くたびれた様子の鴉の少女。

 「わざわざありがとう」

 「いえ、これくらいのことでお礼なんて。もしやあなた方も?」

 こういうのであれば、彼女達の目的も。

 「シオンに会うことが、主目的ね」

 「ですか。私の場合はそこにいるにとりの付き添い――単に拉致されただけなんですが――になります。彼女を送ったら帰るつもりですよ。……私の目的は、無意味だったようですし」

 無意味? と聞いてみると、どうやら彼女はシオンに鬼が来るから逃げろと警告しに里に来たらしい。だが当のシオンが何らかの手段で鬼を撃退。だから来たことが無意味になったようだ。

 にとりは里に行こうとした文を無理矢理引っ張って着いてきたらしい。

 「『足の速さなら幻想郷一なんだから、荷物があっても大丈夫だよね?』とかなんとか言って無理矢理……カメラの作成者が彼女なので、脅さ(ゆすら)れると逆らえないんですよねぇ」

 彼女が使うカメラは幻想郷にあるにしては超高性能。が、反面メンテナンスできるのが作成者のにとり以外おらず、その為これを脅しの材料に使われることがしばしば。それでも手放さないのはこのカメラが便利すぎる故だ。悪循環である。

 そんなことがあってにとりの傍にある大荷物を持ってフラフラ揺れながら里にまでたどり着いた次第である。

 「……私も寝ますね。精神的に限界です」

 肉体的に、でないところが涙を誘う。哀れ文。

 毛布を被って横になる文を何とはなしに眺め、ふいにアクビが出てくる。元々昼間は寝る時間なのだ。その上ここ数日まともに寝ていない。手で小さなそれを隠し、レミリアもまだ置いてあった毛布を膝に敷いて壁によりかかる。

 体勢的に辛いと思ったが、意外と早く眠りに陥った。

 「――……ろ。ほら、起――いか」

 「う、ん……?」

 肩を揺すられ、朦朧とする頭を我慢して目を開ける。視界に入るのは銀色の女性。

 「今、何時かしら……?」

 「十七時頃だ。すまない、余り寝られていないだろうが、使者が来たんだ。シオン達のところへ行きたいのなら起こすしかなくてな」

 「いえ、わざわざありがとう」

 寝起きと寝不足が同居したとき特有のダルい感覚を押し殺し、立ち上がる。まわりを見れば頭を振っている文に、焦点の合っていないパチュリーなどなど、寝不足だらけの面々が目立つ。霊夢は黙想したまま、魔理沙とにとりは――言うまでもない。

 毛布を綺麗に畳み――パチュリーの分もついでにやっておく――横に置いておく。それから外に出ると、尻尾をテロンと垂らす少女のような化猫が。

 「――私が皆様を、紫様の元へご案内いたします」

 ペコリと頭を下げた彼女の頂点には、妙に視線を惹きつけられる猫耳が動いていた。

 

 

 

 

 

 フランのお願いは、不可解なものだった。簡単そうでいて、簡単には頷けない、そんなよくわからないお願い。

 ――シオンはそれを、了承できなかった。

 フランは仕方ないと言い、だが悲しそうに笑っていた。その真意はわからない。今なお思う。

 彼女は一体、何を想ってあんなことを言ったのだろう――と。

 時刻は既に六時を過ぎた。この時期ではまだ陽が沈まないけれど、念の為に子供達は家へ帰っている時間だろう。そんな時間に、シオンはお米を炊いていた。本当はほかのこともしたかったのだが、藍に止められた。今は自分の体調を考えてくださいと。

 そう言われたらシオンとしても黙るしかない。未だ体調は万全に程遠く、今もふらついているのだから。それが理由でシオンは飯盒(はんごう)炊きをしているのである。

 機を見て火を止める。流石に火を見ている状態で視覚を上げると失明するので通常のままだが、そこそこいい方ではなかろうか。

 結局無難なデキではあったが、失敗して焦がすよりはいいだろう。元々下準備自体は藍がやってくれたので、寝落ちでもしない限り問題はないのだが。

 ほかほかと仄かな甘い匂いと暖かい湯気を感じつつ蓋を閉じ、飯盒を移動。食べる量がわからないので各人でよそった方がマシだとの判断だ。

 藍の料理の腕は如何程か――顔には出さず内心期待しながら待っていたのだが、生憎シオンはそれの相伴(しょうばん)には預かれなかった。

 「八雲――……紫」

 「話があるの。あなたのお時間、私に下さらない?」

 「拒否権無いのに聞いてくるのは意地が悪いぞ。――いいよ。俺も少し、話があるんだ」

 気配で藍が近くにいるのを察し、飯盒をわかりやすいところに置いておく。この季節だ。よっぽど長時間放置でもしない限りは大丈夫だろう。

 移動した場所は紫の私室。机の上に置いてある用紙は何かの書類か。シオンとしては興味の欠片も湧かない。文字は書けるし読めるが、管理者のやる仕事なぞわからない。現状関わるつもりもなかった。

 紫は二人分の座布団を敷くと、片方に正座で座る。シオンも紫の正面に座った。

 「話をするのに茶の一つも無しか?」

 「なら出しましょう」

 境界を手繰り即座にお茶を出す紫。皮肉が通じなかったシオンは内心舌打ち。紫の方も能力でシオンの感情の揺らぎを感じ取ったが、敢えて無視。

 殺意も敵意も憎悪も憤怒も、何もかもを了承した上でこの世界に叩き落とした。その程度で気圧されるほど、幻想郷の主(八 雲 紫)(あま)くない。

 「用件はわかっているかしら」

 「どうせ俺を殺そうとしたあの男を殺せとかだろ。わかってるよ」

 「話が早くて助かるわ」

 無駄な時間を使わなくて済むから。

 「あの男は三年前唐突に現れた。でも私がその存在を察知したのは余りに遅すぎて――この箱庭を散々に荒らされた後のこと。……察知した後も、恐らくあの男の有している能力の関係上、私はどうしても手が出せなかった」

 「だから欲したのか。力があって、そいつに対抗できるだけの手駒を」

 「そうよ。今更隠しも誤魔化しもしない。私が動けるのならそうなかった。でも動けなかったから必要とした。事実はそれだけ」

 「……不意打ちとは言えあっさりと殺された人間を頼るしかないなんて、よっぽど相性が悪いのか?」

 「最悪ね。私一人『だけ』なら特に問題はなかったのだけれど」

 「何かしら足枷でもあるのか」

 「この世界全て」

 紫の回答は、簡潔だった。そして、だからこそシオンも理解した。

 「もしかして――維持が、できない?」

 「本当、察しがよくて助かるわ」

 それが答え。

 幻想郷を脅かす(どく)を退治したい。でも自分はその敵に対抗するための手段(くすり)がない。だからもうひとつの毒を持ってきた。

 ――毒を持って毒を制す。

 その言葉の通りに。

 「私が直接出向いて戦闘になれば、それだけで終わってしまう。今までは藍とかが護衛になっていたから、彼らも直接襲いに来なかったのでしょうけれど」

 「完全にバレたとなればその限りではない、か」

 付け加えれば、あるいは形振り構わなくなって来る可能性も。

 「で――師匠の見解はどうなんだ?」

 「――やっぱりバレてたのね」

 永琳は驚かず。逆に紫が驚愕を表すように眉を動かしていた。

 「一応、境界を揺らがせて気配どころか存在を隠していたのだけれど」

 「何か――視えるんだ」

 一瞬。シオンの瞳が、幻惑的な蒼になった。

 「文字が視える。数字が視える。揺らぎが視える。幾重にも重なってほとんど表面だけしか見えないけど。でも、その人の事を少しだけ識られる」

 文字はその人の想いと記憶と人格と。数字は生きた年月と、他はまだわからない。揺らぎはその人の魂の輝き。今の紫の魂は、少しだけ輝いて見える。

 「だから能力を使っているのがわかって、この屋敷にいる存在の全てを探り直していない人間が誰かわかった。それだけ」

 「『魂を識別する程度の能力』、といったところかしら?」

 「……あなたが信頼する信頼しないといった分別は、そこから来ていたのかもね」

 永琳が言い、紫が相槌を打つ。シオンには答えようがない。曖昧な顔で頷くだけだ。

 魂を変質させるには、別種の魂の形を覚える必要がある。結果として生まれた副次的な能力なのだが、そうと自覚していなかったためシオンにも変化はなかった。

 ちなみにかつてフランの魂を覚えたとき、細胞を見た――見ていたのは魂だが――り血を舐めたのは、肉体情報から魂魄を探るためなので、強ち間違いでもなかったりする。

 「強力な能力ではあるけれど、今回は使えなさそうね」

 「自滅したいのなら話は別でしょうけど。あなたはそうじゃないでしょう」

 永琳は残念そうに、紫はどこか揶揄するように。対応が全く違う。まぁ紫に対してはシオンの対応が対応なので仕方ない。

 とはいえバックアップを受けられないのはキツい。最低でも相手の情報くらいは知っておきたかった。

 「さっきから何か『会えば終わる』とか『使えば自滅』とか遠回しな事を言っているが。アイツの能力はチカラを暴走させる系統なのか?」

 「私はそうなんじゃないかと睨んでいるけど――永琳、あなたは?」

 紫は永琳に問う。確かに答えていないのは永琳のみ。だが、シオンは少しだけ別だ。まだ答えていないことがある。

 「シオン、あなたは直接能力の影響を受けたでしょう。そこから察せられない?」

 「考えてはみるけど。いきなり魂がバラバラに砕けただけだしな……強いて言えば、いきなり能力の制御が手元から離れた感じか」

 「それ、暴走と何か違うのかしら」

 「だよなぁ」

 シオンも紫も、考えることは似たり寄ったり。余り参考にはならないだろう。それでも答えてほしいことはまだある。

 「ちゃんと思い出して。どういうふうに制御が離れたのか。そのことを」

 何故、ここまで気にするのか。シオンにはわからない。それでもシオンは、永琳を、自らの師を信じて、その時の事を思い出すのに務める。

 「そう、だな。よくよく思い出してみると、なんといえばいいか……制御が離れる寸前、思ったんだ。『なんでこんなことができなかったんだろう』って」

 「できなかった――何が?」

 「さっぱりだ。今までは無理だったのに、ふいにできるようになった。そうとしか言えない」

 次の瞬間暴走したので、これ以上は何も言えない。紫は不満そうに腕を組んだ。

 「ありがとう。参考になったわ。これで大体だけどわかったから」

 は? と異口同音の声をあげる二人。そんなデキの悪い生徒二人に優しく諭す永琳。

 「まずはわかりやすい使用条件から。これはシオンが能力を発動させるまでは出てこなかったことから、恐らくその対象が能力を使ってないと意味がないと思われる。ただ、その効果範囲――影響を与えられる距離はわからないわ」

 「となると、今この瞬間も安全ではないかもしれない、と?」

 「逆に近距離までいかなければダメな可能性もあるわね。永琳、そこは?」

 「謎としか言えないわ。ただ、無作為に使おうとはしていなかったわね」

 「確かに『オレ』に連発するどころか一度も使ってなかったな……デメリットでもあるのか」

 「暴走ならうまく使えば手足を千切るような動作もさせられるはずよね。つまり、あの男の能力はそれじゃない……?」

 少しの言葉で思考誘導させる永琳。そうと気づかず頭を働かせる二人。

 「かと言って単なる強化じゃ制御を手放すなんてありえないはずだが」

 「あなたがそう思い込んでるだけの可能性は?」

 「黒陽白夜自分の能力。この三つを並行して使えるのに傷を癒すだけの事で制御できなくなるならそんなの無理だろ」

 「それじゃ、特別な能力――その個体特有の能力を暴走させる、とかは?」

 「そうなるとアイツの身体能力の異常さが説明できない。身体強化は使っていたけどそれで強化できる範囲なんてタカが知れてる。俺についてこれるわけがないんだ」

 暴走、強化、そのどちらでもない。となると何か前提が間違っているのか――頭を悩ませるが、わからないものはわからない。

 頭を突き合わせて悩む二人に、永琳はパンパン、と手を叩いて正気に戻す。そして仕方なしと苦笑いにしては幾分柔らかい表情で言った。

 「どちらも合っているけど、どちらも間違っている。それが答えなのよ」

 「どちらも?」

 「それが答え?」

 「ええ。彼は確かに強化している。でもそれは当人も把握不可能な部分――即ち。相手の『潜在的能力』、言ってしまえば『未覚醒』状態を強制的に覚醒させる能力」

 能力名とするのなら、『潜在能力を強制覚醒させる程度の能力』になるだろうか。だが、何故こんな答えになるのか。

 永琳の中には、既に答えとして出ている。

 「普通の強化なら『できる限界値が増えた』と表現するだろうし、暴走なら『能力が制御できなくなった』って感想しか出ないのよ。でも、シオンはなんと答えたかしら?」

 「『なんでこんな事ができなかったんだろう』って……そうか。そういうことか!」

 ここまでヒントを貰って、ようやっとシオンは悟る。逆にウンウン唸っている紫はわからなかったようだ。

 「私には、わからないわ。勿体ぶらずに教えてくださらない?」

 「例えばなんだけどさ。今までそれ一辺倒しかできなかったのが、ふとした拍子についできちゃった、なんて経験は無いか?」

 「――あるわね。何度か」

 「それが永琳の言う『潜在能力』なんだ。できないことはどうやったってできない。でも、できることは切っ掛けひとつでできるようになる」

 「ねぇ、でも彼の能力は『強制開放』……なのよね? その切っ掛け無しにそんな事をしたら、大変なことになるんじゃないの?」

 「だから暴走するんだろうね。只人の身で他者にその人の十全を与える能力。もし効果を限定できるのだとしたら、人類は多分、もっと極端になる」

 その内容を、シオンは言わなかった。永琳も言わず、察した紫も問わない。

 自ずと話は対策へと切り替わっていく。

 「少なくとも彼の能力は範囲が限定されていて、しかも認識発動の可能性が高いから、至近距離以外なら問題ないはずよ」

 「事前準備は今の内、と。でもあっちも数年前の『オレ』にやられたことはわかってるはずだ。きっと何か罠をしかけてるだろうし、生身のままじゃ厳しい。せめて万全の状態じゃないと、多分勝てない」

 「それなら私かあなたの力で直接転移は?」

 「相手の仲間に古今東西の術式を操る術式使いがいるわ。その誰かが罠を設置している可能性が高いから、やめておいた方がいいわね」

 「事前情報が無いから何の罠があるかもわからないし、現実的ではないな。隠密行動は得意だから、足で近づければ罠の位置もわかるんだが」

 「そんな事をすれば視認されて狙い撃ちね。いい的だわ。シオン、あなたは死ににでもいくつもりなのかしら」

 「んな訳ないだろこんな時も皮肉か紫。――ハァ。音と気配は誤魔化せても見られちゃ意味無いし、やっぱり罠無視の突貫しか――」

 「ハイハーイ! そんなあなたにオススメの一品ッ。河童のにとりの参上だよ!!」

 ………………。

 「――あれが誰だか、わかるかしら?」

 「私は知らないわ。シオンは?」

 「ああうん、一応、知り合い、です……」

 テンションマックス状態な知り合いが犬猿の相手に師匠の前にいると妙に気恥ずかしいと初めて知った。知りたくなかった事実である。

 「あれ、あれれー? いいのかなぁ、そんなこと言っちゃって」

 にとりは唐突に笑みを消し、腹黒い顔を浮かべると、

 「敵にバレずに近づく方法、教えてあげよっか♪」

 手で丸いマークを作りつつ、そんな事を宣った。

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