シオンとフランの二人の喧嘩――と言うには生易しいほどの戦いだが――を見ていた三人は、それぞれの想いを零した。
「……まさか、ここまで上手くいくとは思わなかったわ」
「フフッ、私はシオンを信じていましたよ?」
「あの、すみません。あの二人って、多分侵入者さんとフラン様ですよね?何で二人は抱き合って……? というか、この状況は……?」
一人混乱している美鈴を横に、レミリアは難しい顔で呟いた。
「けれど、ただの人間がフランとほぼ互角――終始フランに押されていたとはいえ――に戦えているなんてありえない。博麗神社の巫女みたいに、強大な力を使った様子も無かったのだし。……美鈴は何かわかったのかしら?」
実を言うと、レミリアが美鈴をここに連れて来たのは、先程の戦闘の解説を頼むためだった。
問われた美鈴は、さっきまでのオロオロとしていた表情から一変し、戦士の顔になる。そして、そのまま真剣な顔で言った。
「まず身体能力ですが、彼は人間の枠内で言えば驚異的です。しかし、大妖怪であるフラン様には到底及ばないでしょう。私見ですが、彼の力は精々中級妖怪、よくて大妖怪の一歩手前程度かと。それに、フラン様がその妖力の大きさに物を言わせた力技で、無理矢理身体強化を使っていました。通常よりも出力が下がっていましたが、それでも彼の筋力の数倍以上はあると思います」
「フランにそんなことを教えた覚えは無いのだけれど……」
「恐らくは感情の爆発による無意識の発動かと思われます。それよりも驚くべきところは――」
「身体能力の差を埋める、シオンの技術?」
「いえ、それも十分に凄いと思っています。しかし私が驚いたのは、彼――シオンと言いましたか? シオンはその気になれば、いつでもフラン様を殺せたのに、それをしなかった、ということです。フラン様は殆ど怪我をしていませんし……彼は本気を出していても、全力ではなかったでしょうね」
静かに言っている美鈴だが、その言葉には自信が溢れていた。しかし、内心では別の想いもあった。
(何よりも凄いのは、卓越した――いえ、卓越し過ぎている戦闘経験と、それを支える精神力。差異魚に羽を貫いたのは、空から一方的に嬲り殺しにされないため。そして能力を使わせたのは、フラン様の不安を消すため。しかしそれをなすための過程であれ程の怪我を負いながら、それを一切表に出さない……本当に、彼は何なんでしょうか? それに――)
あの事実に美鈴が気付けたのは本当に偶然だった。シオンのあの剣の振り方。あれは、まさしく異常過ぎる。
(――あの剣は、ただ殺すための剣だった。まるで暗殺者のような戦い方。ただただ人を殺すための、それだけしかない剣。殺すことに特化し過ぎている剣。九歳という子供が振るうにはおかしすぎる。もしも彼が少しでもまともな戦い方を知っていれば、あそこまでの怪我は負っていなかったでしょうに……)
美鈴が気付いたのは、それだった。シオンは常にフランの首や心臓の反対、右胸――おそらく間違って心臓を貫かないようにしたのだろう――や鳩尾といった、人体の急所ばかりを狙っていた。正確には、そこしか狙えていなかった。実際に当ててはいなかったが、もしも当たっていれば即死している可能性すらある。
更に、彼にはもう一つ驚くべきところがあった。
「更に付け加えれば、見たところシオンは
「つまり、シオンはあれ以上に強くなれる、と?」
「はい。もしもシオンが一定以上の魔力及び霊力があって、それを身体強化に使えるのであれば……彼は博麗神社の巫女を超えるとかと思われます」
「……そう。説明ありがとう」
「いえ、これくらいは」
美鈴は謙遜しているが、他の妖怪が先程の戦闘を見てもここまでの考察はできないだろう。精々、あの攻撃はどうやったんだ?と疑問に思うくらいだ。
何せ、妖怪たちはその力の大きさ故に技術を磨く必要が無く、殆ど力技でしか戦わないからだ。
技術は弱者が強者と渡り合うために作れらたもの。妖怪でありながら
だからこそ、レミリアは美鈴の説明を素直に受け入れる。なにせ、先程の戦闘のどこが評価できるのか、レミリアにはわからないからだ。
とはいえ、
(まさかあの巫女を超えるかもしれないなんて……)
ここまでとは思っていなかったのだが。そこでレミリアは首を振り、小さく笑った。
「とりあえず、二人のところへ行きましょう」
『かしこまりました』
そして三人は、シオン達にいる場所へと歩き出した。
一方、未だにシオンに抱き着いていたフランは、ようやく泣き終えてシオンから離れた。
「その……ありがとう」
「どういたしまして」
顔を赤くして恥ずかしがっているフランに、シオンは苦笑を返す。そこで、シオンの聴覚が三人分の足音を捉えた。
「これは……レミリアと咲夜。後は誰だ?」
「え? ……あ、美鈴だ」
シオンが向いている方向を見ると、三人がこちらに向かって歩いていた。しかし、その三人がいる場所と二人がいる場所は、かなりの距離がある。
「どうして聞こえたの?」
「俺は聴覚が……と言うより、五感がちょっとおかしいからね」
少しだけ悲しそうに笑ったシオンは、レミリアたちへと歩き出す。フランは先程の言葉に疑問を覚えながらも、彼の背中について行こうと歩き出した。それと同時に、あの声が聞こえてきた。
(うまくいったようね)
(……どうして、私をシオンと戦わせたの?)
フランは『ナニカ』に対してあまりいい感情を抱いていない。が、嫌いと言う訳でも無い。それは、何百年か前にいきなり聞こえてきたこの声がいたからこそ、フランは狂ってしまう一歩手前で止まっていられたからだ。だからこそ、フランの内心は複雑だった。自分を殺したいのか、助けたいのかがわからないのだ。
(彼なら、貴女を止められると思ったから、よ)
(止められる?)
(そうよ。両者の意見が対立したら、喧嘩をするのが普通でしょう?それで、彼なら貴女を説得できると思ったの)
(……喧嘩ってレベルの話じゃないと思うんだけど、コレ)
フランが周囲を見渡すと、そこにはボロボロになった中庭があった。
(……お姉さまたちに怒られるかなぁ)
今更ながらやり過ぎたと後悔するが、後の祭りだ。どうにもならない。内心で頭を抱えてしまったが、また声が聞こえてきた。その感じからして、どうやら苦笑しているらしい。
(まあ、彼女たちなら許してくれるわよ)
(そうだと、いいんだけど)
(なら、シオンに頼りなさい。……それと、私から一つ
(忠、告?)
今までにないほどの真剣な声を帯びている『ナニカ』の言葉に、フランは動揺する。『ナニカ』はふざけていることはあっても、ここまで真剣な声を出したことは無かったからだ。
その動揺を無視して、『ナニカ』は言った。
(私が言いたいのは一言だけ。それだけ言ったらすぐに消えるわ)
(消えるって、どういうこと!?)
(言葉通りの意味よ。……話が逸れたわね。よく聞いて、覚えておいて。彼は、
その一言に、フランの心はとてつもなく揺れる。――危ういと言う言葉は、フランにとってそれほどまでに危険なものなのだ。先程までの自分がそうだったように。そして『ナニカ』は、シオンも似たようなものだと言ったのだ。その言葉が意味するものはわからないが、それでもフランの心に不安をもたらそうとする。
(それってどういう意味なの?危ういって何!?そもそも何で貴女はそれを知っているの?貴女は一体『何』なの!!?)
けれど『ナニカ』は一切答えない。そもそも聞いている反応すら無い。先程言った通りに、もう消えてしまったのだろう。
結局答えを教えてもらえなかったフランは、レミリアたちと合流するまで、悶々と頭を抱える羽目になった。
五人が集まると、いきなりレミリアが頭を下げてきた。
「フランを救ってくれて、ありがとう」
「別にいいよ。気にするな」
嬉しそうに言ったレミリアに、シオンはどこか居心地悪そうに返した。その間に、咲夜と美鈴も頭を下げたせいで、シオンはますます困ってしまった。
「もう一度言うが、感謝する必要なんてない」
ぶっきらぼうに返すシオンの反応がおかしく感じたレミリアは、小さく笑いながら頭を上げた。
「クスッ、そう……とりあえず、フランを助けられたのだから、賭けは貴方の勝ち。貴女は私たち――いえ、私に何を願うの?」
「――バッ――!?」
シオンはレミリアの不用意な発言を止めようと声を出そうとしたが、手遅れだった。
「え……? お姉さま、賭けって、どういう意味なの……?」
『ッ!』
フランの言葉に、美鈴を除いた三人は一瞬硬直する。レミリアはしまった、という顔をし、シオンは、もう俺は戦えないぞ、と身振りで表現し、咲夜はお嬢様はバカですか!? という顔をしていた。
ちなみに美鈴は三人が何を考えているのかを理解できていない。そもそも無理矢理連れて来られただけなのだから、当然なのだが。
そんな美鈴を置いて、三人は咄嗟のアイコンタクトをした。……レミリアと咲夜はともかくとして、シオンまでもができたのは、三人の想いがほとんど同じだったからだろうか。
――レミリア、お前はバカなのか!? いやバカなんだろう!? 賭けの対象にされたと聞いて、フランが良い感情を抱くわけないだろう!!
――ご、ごめんなさい! 嬉しくて、つい言葉が漏れてしまって――!
――今回は一〇〇%お嬢様が悪いと思われます。言い訳をしてはいけません。それ以前に、ついでこんなことをされてしまっては、こちらの身が持ちません。
シオンが罵倒し、咲夜は一切のフォローをしないどころか更に追い打ちをかけてくるが、レミリアには否定できない。自分でもそう思ったからだ。
レミリアがあてにならないと判断したシオンは、アイコンタクトで叫ぶ。
――~~クソッ! こうなったら俺が何とかする!! レミリア、貸し一だからな!!
――本っ当にごめんなさい! この借りはいつか必ず返すから!
二人が言い合っている間に、フランがポツリと呟いた。
「ねぇ、シオン。もしかして私を助けてくれたのは、お姉さまに言われたからなの……?」
レミリアが何も言わなかったからか、フランはシオンに聞いてきた。どうやらフランは閉じ込められていた割に相当頭の回転がいいらしい。姉の言葉から、どんな賭けをしていたのかを察したようだ。レミリアは心に痛みがはしって来たのを感じた。しかし、今はシオンが何とかするのを信じるしかない。
(どうする……? その場凌ぎの嘘は思い付いてはいるが……)
嘘を吐けば、その場凌ぎをすることはできるだろう。しかし嘘は吐かないと決めていたシオンには、それを否定することができなかった。
「……ああ、そうだよ」
「! やっぱり、そうなんだ」
悲しそうに俯くフランを見て、レミリアは焦る。何をする気なのかとシオンを見たが、シオンはただ俯くフランを見ていた。
「確かに最初は、レミリアに言われたからフランに会っただけだった。けどフランに会ってからは、レミリアに頼まれたからじゃない。俺の意思でフランを助けたいと思った。例えそれが、独り善がりの感情であっても」
シオンの本音だとわかるその言葉に、フランはどこか呆けているように言った。
「それって、つまり――」
「賭けなんてなくても、俺はお前を助けた。それだけ理解してくれればいい」
「嘘じゃないよね?」
確認するように言う彼女の姿に、レミリアは己がどれほど愚かな行動をしていたのかを理解した。
四百九十五年という膨大な月日は、フランの思考を後ろ向きにするには十分過ぎた。だから何度も確認するような行動をするのだろう。
そしてそれを理解していたシオンは、強く頷いた。
「本当だ。大体、そうでも思わなければ、こんな大怪我をしてまで戦うはずないだろう」
茶化すように言われてフランはシオンの体を見た。細かな裂傷と軽い火傷があり、弾があたった場所は大きな痣になっている。髪も一部焼け焦げている。それに何より、左の脇腹と左足の腿に大きな火傷があった。一目見てわかるほどの重症だ。
自身が巻き込まれるのを恐れて、弾幕が爆発しないようにしていたのを考えれば、まだましだったと言えるだろう。それでも普通に立っていられるのがおかしいほどの大怪我であるのに変わりはない。
フランは少しでもシオンを疑った自分を恨み、恥じた。
「……ごめんなさい、私のせいで」
「気にするな。
本当に、心の底から自分の傷がどうでもいいと言っているような気がするシオンに訝しみながらも、フランは肩の力を抜いた。
二人の様子を眺めていた三人も安心したのか、緊張を解いた。
そして、レミリアはフランに謝った。
「その、私はともかくとして、シオンは何も悪くないの。紛らわしい言い方をしてごめんなさい、フラン」
「気にしてないよ。私も勘違いしちゃったし……」
レミリアの謝罪に対して、フランはすまなそうに言う。二人の間に何とも言えない雰囲気が流れる。そこでシオンがその雰囲気を払拭しようと割り込んだ。
「とりあえず、フランの能力を抑えようか。折角ここまで上手くいっているのに、暴走したら笑えないし――」
と、そこまで言った瞬間、フランの足元からピシッ!っと何かが割れる音がした。
『……………………』
その音に、全員が顔を見合わせた。
「……そういえば、シオンの能力は『あらゆる体に作り変える程度の能力』じゃなかったかしら? それなのに空間転移をしたり、重力を操ったりできたのは、どういうわけ? まさか、嘘を吐いた……とかじゃないわよね?」
どうやら、今のを無かったことにするつもりらしい。レミリアの言葉に、フランもついでとばかりに聞いてきた。
「それに私の能力も効かなかったし。結局シオンの能力って何なの?」
あからさまな話題変換。それがシオンの琴線に触れたのか、二人に対して怒鳴った。
「そういった話は後にしろ! 説明は後でするからとにかく今は俺の言うことを聞け。咲夜、ナイフを貸してくれ」
それだけ言ってから、咲夜の方を振り向く。微かに頷いた咲夜は、スカートのどこからかナイフを取り出すと、それをシオンに渡した。
「それを何に使うのですか?」
「こうする」
端的に答えてから髪を掴むと、焼け焦げた部分を中心にある程度の量を切り落とす。それに四人は驚いた。
髪を伸ばしているのなら、それ相応の理由があるのだろうと思っていたのだ。それなのにあっさりと切り落とした。なのに簡単に切り落としてしまった理由がわからない。
そして、代表としてレミリアが聞いた。
「シオン、何故髪を?」
「見てればわかる」
答えになっていない答えを返して、シオンはどうしようかと考える。
(う~ん……ペンダントにするか? いや、それだと失くしそうだからなぁ。手を使った能力なんだから、指輪……だと変な勘違いをされる可能性があるかもしれないし――自意識過剰過ぎるか? まあいい。一応念には念を入れておく――腕輪にするか)
何の形にするかを決めたシオンは、切り落とした髪に自身のイメージを反映させ、変化を起こす。
すると、髪が一瞬だけ光り輝いた。その輝きに四人は反射的に目を閉じた。
次に四人が目を開けた時には、シオンの手の中に白銀色に輝くブレスレットがあった。
どこから取り出したのかもわからない。考えられる理由としては、
シオンはフランの左手をとって、それを着けさせた。
「これでよし」
ブレスレットを着けると、フランから微かに漏れ出ていた破壊の能力が止まる。
「シオン、このブレスレットは……?」
「いいから、能力を使ってみて。多分発動しないはずだから」
フランの疑問を一蹴して能力を使わせようとする。フランは半信半疑の表情をするが、やがて能力を発動させようと集中し始めた。
しかしどれだけ集中しても、能力を使うことができなかった。
「使えない……」
「少し不安があったけど、成功してよかった」
どこかほっとしているシオンは、呆然としていたフランに気付いて微かに笑った。
「俺を信じてよかっただろ?」
「うん!」
シオンの言葉に嬉しそうに、心の底から嬉しそうにフランは笑う。何百年もの間ずっと纏わりついていた不安と恐怖が消えたからだろうか。フランの目の端には涙が滲んでいた。
四人は気付かなかったが、フランが涙を流していた理由はもう一つあった。
(これで何かを壊すこともない! 壊すことに怯える必要もなくお姉さまたちと一緒にくらせる、けど――)
と、そこでフランの思考が脇に逸れた。
(――なんでシオンは、指輪じゃなくてブレスレットを渡したんだろう? 私としては指輪の方がよかったんだけどな……持ちやすいし、かさばらないから。でも初めて貰ったアクセサリーだから、やっぱり嬉しい)
フランがそんなことを考えているとは知らないシオンは、ブレスレットの効果の説明を始めた。
「そのブレスレットの主な効果は、フランの『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』の発動を阻害する、いわゆる能力制限を宿したモノだ。どうやってやってるのかは後で説明するから、今は聞かないでくれ」
効果は理解できても、意味を理解できなかったフランたちが聞いてくる前に牽制する。慌てて口を噤んだフランを見ながら、続きを説明した。
「他の効果は、フランの身に危険が迫った時に、その敵の強さに応じて能力の制限が解放されていく。それに加えて敵がフランよりも強い場合は、ブレスレットが微かに振動する。振動にしたのは、相手にバレないようにするためだ。後はそのブレスレットの大きさが変えられるってくらいだな。この効果は、アクセサリーをつけてはいけない場所でも持てるようにするためにつけた。変化させる方法は、念じれば変えられる。……一応言っておくが、小さくし過ぎて失くすなよ?」
シオンの説明を聞いてさっそく大きさを変えようとするフランに釘を刺す。
「う……わかった」
注意されたフランは、苦虫を噛潰したように顔を歪めると、外したブレスレットを着け直した。
「シオン、このブレスレットを綺麗にするには、どうすればいいのですか?」
咲夜がシオンにブレスレットの清掃方法を聞く。どうやら咲夜がブレスレットの管理をするつもりらしい。
けれど、それは無用な気遣いだった。
「それに関しては大丈夫。それ、絶対に壊れないしし、錆びないし、傷もつかなければ埃もかからないから。
「え……?」
そんな異常な物質など聞いたことがない。そもそも、この世界に劣化しない物質など存在しない。それなのに、シオンはあっさりと言い切った。
「そういう物だと考えてくれ」
「はあ……わかりました」
やはり答えないシオンに呆れたのか、咲夜はすぐに引き下がった。
ちなみにレミリアたちは何の話をしているのかすらわかっていないらしい。自分たちで掃除をしたことがないのだろうか。
そう思ったシオンだが、今は時間が無い。疑問に対する説明も、自分が聞きたいと思ったことも後回しにして、今すぐ終わらせようと思ったことを片付ける。
「えっと、確か美鈴、だったよね?」
「え? あ、はい。そうですけど」
いきなり話しかけられ、動揺する美鈴に、シオンは頭を下げる。
「壁に叩き付けたり、腹を殴ったりしてごめん」
「……いえ、元々は私がよく確認しなかったのが悪かったのです。それに、もっと修練しなければならないと感じましたので、こちらの方こそ感謝したいと思っています」
「そう、か。ありがと」
軽い言葉で気にしていないと返してくれた美鈴に、シオンは安堵する。
その姿を見てしまった美鈴は、シオンの人物評を修正する。
(あんな剣を振るっているのだから、どこか狂っていると思っていたのですが……いえ、殺人剣を使っている以前に、あれだけの力を有していながら、その力に溺れている様子が見えない。むしろ、探ってみて感じたのは純粋な海のように穏やかな気配。けれどこの年齢の子供なら、大抵の場合は増長して調子に乗っていてもおかしくない。そしてそれが油断を誘ってしまうのが普通なのに……しかし、この子は――)
まるで、歴戦の猛者だと思ってしまう。何故そう思うのかはわからない。けれど、自身の本能が、何故かはわからないが油断をするなと叫んでいる。
門で戦った時は全力では無かった。次は一切の手加減をせずに戦い、勝ってみせると決めてはいるが、下手をすれば負けてしまう。そう思ってしまうのだ。
美鈴がそんな考察をしているとは知らないシオンは、次に咲夜に話しかけた。
「咲夜に関しては、特に言うことは無いね。だけど、主が言われたくない事を言ったのは減点だよ。従者がそんなことをしたらダメだろう。……そのせいで殺されかけたし」
「ぅ……すみません、お嬢様、シオン」
シオンの言葉を聞いて慌てて謝罪する。そうなったのはシオンのせいなのは完全に棚上げされている。けれど、二人は肩を竦めるだけだった。
「で、レミリアの場合だけど」
「え゛っ、私もあるの?」
「当たり前だ。レミリアはもう少し我慢することを覚えた方がいい。まさか、笑われたという理由だけで頭を潰されるとは思わなかったぞ」
「あ、あれは……!」
バカらしいと言わんばかりに頭を振っているシオン。対するレミリアは、顔を赤くしてあたふたしていた。
しかし、すぐにおかしなことに気付いた。それは、他の三人も薄々感じていたことだ。
先程から急いでいるかのような早口。時間が無いという言葉。この対応の仕方は、まるで人が死ぬ時に言う――
「遺言……」
その呟きが聞こえたのか、シオンは少しだけ体を揺らした。
「……やっぱり、バレるか」
あっさりと言ったシオンに、レミリアは詰問した。
「シオン、それはどう――」
「どういう意味なの、シオン!」
だが、レミリアの声はフランの叫びによって掻き消された。驚いたレミリアがフランを見ると、その瞳は不安で揺れていた。
その姿を見たシオンは、二歩下がりながら、どこか悲しそうに言った。
「……すぐにわかるよ。
「時間?それって――」
詰め寄ろうとしたフランの前に手をかざして、シオンは更に後ろに下がる。と、いきなりシオンが膝を着いた。そして膝をついたシオンは、押し殺した呻き声を上げた。
「うっ……ぐ、っ……!あ、がっ」
シオンの体から、バキ、ベキ、ベチャ、と何か潰されているかのような嫌な音が響いてくる。しかし外見には何の変化も起こっていない。
それでもシオンの顔は苦痛にゆがんでいてる。そして、いきなり大量の血を吐き出した。
「ガハ! グ、ゲホッ、ガハッ、ッ――!」
何度か咳をしたあと、再度血を吐き出したシオンは、自らが吐いた血の中に倒れた。