東方狂界歴   作:シルヴィ

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予想外の参戦者

 「悪いけど――消えて?」

 一方的に宣告した紫苑は停止状態から一気に最速にまで加速する。両者の間にあった距離は瞬く間に縮まり、目と鼻の先に紫苑の姿が現れる。

 永琳はすぐに反応、背中に隠し持っていた剣を取り出し迎撃行動に移った。

 「え……!?」

 だがそんな彼女の目に映ったのは紫苑の姿ではなく、どこまでも先のない『闇』だ。自らを飲み込まんとする闇が襲いかかる。

 流石の永琳も闇そのものを相手にしたことなどない。斬る、防ぐ、避ける、そのどれを選択するかを悩み――その刹那が、隙となった。

 永琳の『影』、そこから現れた紫苑が彼女の顔へ手を回し、固定。まるで抱きしめるかのような体勢だが、今から紫苑が行うのはそんな生易しいものではない。

 そして闇に覆われた右手が蠢き出し、

 「バイバイ」

 永琳の首を、切断した。

 ゴトンと、永琳の頭が地面に落ちる。冷徹にそれを見た紫苑は、その頭を闇で飲み込み消滅させる。

 行動を途切れさせず、黒陽を抜いて肥大化。

 形作るのは、十字架。イエスを縛り付けたような、巨大な十字架だ。

 勝負は一瞬。永琳の再生は本当にすぐ終わってしまう。彼女が頭を治し状況を把握する前に、全てを終わらせる。

 彼女の体を十字架へ叩きつける。重力の向きを変更して磔状態を維持。首、腰部分を拘束する。そこまでやって、永琳の頭の再生が終わった。

 この間数秒。紫でさえ見ているしかできない、一瞬の出来事。

 我を取り戻した永琳は、すぐに自分が拘束されてると気づく。

 「でも、私にこんなのは無意、味……?」

 ふと、気づく。

 重力で磔にさせられているにしては、全く手足が動かせない。いやそもそも、何故か『一部の感覚が存在しない』状態だ。

 「まさか!?」

 ――()()()遮断された!??

 「正解。いやほんと、師匠相手だと手札が少なくなるから困るよ」

 永琳は確かに超速の再生能力を持つ。バラバラの肉片にしようが、心臓を射抜こうが、頭を吹き飛ばそうが、意味がない。

 彼女を挫けるとしたら、果てしない苦痛を与え続けて、その強靭にすぎる精神を叩きおった、その時だけだ。そして今の紫苑にそんな事をしている余裕はない。

 あらゆる知識を持ち、それを活かす技術があり、どこで使えばいいと判断できる経験を兼ね備えていて、しかも不死身。そもそも殺す事さえ容易ではない。

 だから、彼女を拘束できる手段を用意した。

 誰も彼もが永琳に対して拘束できないと考えているかもしれないが、その実そうではなかったりする。

 ピッチリと隙間なく彼女を覆って動けない状況を作り出せばそれでいいし――通常の技術ではそれは不可能だが――永琳を気絶したままにできればそれもまた一つの拘束方法だ。

 が、紫苑はそういった不完全な状態を嫌った。

 だから黒陽を利用して、彼女の手足を貫いているのだ。

 とてもとても小さな、極薄の針で。

 「手足の主要箇所は大体貫いてるから、まず動かせないと思うよ。自重で位置がズレるのも嫌だから、黒陽で重力方向も変えてるし。師匠は、そこで見ていればいい」

 かつて見た彼女のカルテ。そこに記載されていた内容通りにねじ込んだから、もう動けることはないはず。

 「俺が全てを終わらせるまで、邪魔しないでいてくれれば」

 「待ちなさい紫苑。あなたの本当の目的は、もしかして」

 紫苑の目を見た瞬間そんな事を言った永琳に、

 「はい永琳のアドバイスはここでおしまい!」

 白夜を突き立て空間を歪ませ強固な結界を作り上げる。実のところ、永琳を真っ先に捉えたのは彼女の戦闘力より、その賢さ故だ。

 ――だーから怖いんだよねぇ。相手にしたくないよ。

 「さて、と。ところで、紫はどうしてそこから一歩も動いていないのかな?」

 紫苑は、今の今まで厳しい視線を送るだけだった紫に向き直る。ひとまず永琳の事は置いておけばいい。彼女はもう、動けないのだから。

 「自分の師匠に、容赦ないのね」

 「殺せない相手に躊躇したら死ぬのはこっちだよ。そもそも紫は、俺が異変を起こした事くらいわかってるだろう? そんな相手が、情けなんてかけると思うのかな」

 「……ッ。幻想郷を救ってくれたあなたが、どうしてこんなことを」

 「どーでもよくなったからさ」

 口調が、違う。

 何かに影響されたのか、先程から今までずっと言葉が軽い。ともすればニヤニヤと、相手を嘲るように口元が歪む。

 「で、来るの? 来ないの? 邪魔しないんだったら返してあげるから、お家に帰ってこの異変が終わるまで眠っていればいいさ」

 ――その後幻想郷がどうなってるかは、知らないけどね。

 そんな言葉を、幻聴した。

 「私は、あなたを止めるわよ、紫苑!」

 「宣告なんてしないで不意打ちでもすればいいのに」

 闘志を燃やす紫とは対照的に、紫苑は冷たくそう告げる。

 背中に展開される弾幕。だが正直、紫苑としてはもう慣れた。ただ飛ばしてくるだけなら適当に相殺すれば後はどうとでもなるレベルの物でしかない。

 斬って、弾いて、防御して、躱す。それをひたすらに繰り返せば、それでいい。ミスなどするはずもない。

 紫がどのような行動に出るか。そう思って彼女を注視していると、ふと背中に小さな揺らぎを感じた。

 ――防ぐ? 避ける?

 ――避ける。

 即座に展開される思考に命じられるがまま体を動かし『背中から』飛来した弾丸が脇を通っていくのを横目に捉える。

 遠目に紫が驚いているのを感じた。その後焦ったように周囲が揺らぎ、そこから弾幕が飛び交ってくる。この時点で、察した。

 『境界を操る程度の能力』で、弾幕を周囲に飛ばしている。紫苑が反応できたのは、彼女のこの能力は『空間』に作用しているからだ。

 空間を繋げる時に生じつ小さな『揺らぎ』を直感的に悟り、避ける。これは大きなアドバンテージだ。

 少しだけ、弾幕が途切れた。

 そこを見逃さず縮地で移動。闇が蠢く右手を伸ばし掴みかかる。

 潜在的な恐怖を刺激され、紫の顔が小さく歪む。それでも咄嗟に傘を盾にしたのは褒めるべきなのか。

 顔は諦め傘を掴み、そのまま闇で飲み込みバキンと叩き壊す。少しだけ感じた反発は、多分この傘が特別性だからだろう。

 それでもその隙をついて紫は足元に『境界』を作り出し、落下。顔を掴みそこねた手が空を切った。

 紫は更に他方で展開、前後左右上下から、弾丸を、矢を、巨大な剣を射出する。大小様々なそれらによって、遠近感を狂わせ避けにくくするために。

 だけど、

 「本命は、別物よ……!」

 紫苑の、上空。そこに一際大きな揺らぎが生じる。

 現れたのは――爆発寸前の、バス。

 「……はッ!?」

 ここでようやく、紫苑の顔が動く。予想外すぎる物体が降ってくるのに、周囲から襲いかかる弾幕がその場から離れることを許してくれない。

 落ちてくるまで、後五秒。

 闇を周囲に展開し、自分を覆う巨大な盾を作り上げる。

 バスから発生された熱が紫苑へと伝わってきた。

 弾幕が盾にぶつかり微かな振動を紫苑に伝わせてくる。

 パラパラと、砕けたバスの破片が紫苑の肌に触れ、焦がす。

 盾となっている闇を維持し、その中心点から、槍を解き放つ。

 放たれた槍がバスを貫き、その動きを食い止める。

 その瞬間、紫がバスの中から、動力部分だけを紫苑の横へと移動させる。

 「しまッ――」

 炎が引火し、大爆破。

 闇で自身の周囲を覆っていた紫苑に避ける隙間など無く。

 ――その衝撃を、全て受け止めた。

 熱と音から身を隠すように目を閉じ耳を塞ぎ丸くなっていた紫は、もう大丈夫かと立ち上がる。少し土埃に塗れたが、許容範囲かと割り切った。

 あたりを見渡し、それを数度繰り返して、見つけた。

 黒い黒い世界の中で横たわる、灰のような少年の姿を。

 闇で塗りつぶされた右半身は、大きな火傷を負っていない。けれど逆に、左半身はボロボロの炭のようになってしまっている。

 それは、紫の胸に小さな痛みを感じさせた。

 こんな事を、したかった訳じゃないのに。

 何故、こんな事になったのだろうか。自分のせいだとはわかっているけれど、やりきれない思いが胸中に広がる。

 「素直に諦めてくれれば、ここまでするつもりはなかったのに……」

 「この程度で諦めるくらいの軽い想いなら、はじめからやってないよ」

 トン、と。

 紫の腹から、小さく鋭い、刃が出てきた。

 痛みと驚愕で思考が鈍る中で、後ろを恐る恐る振り向く。

 そこにいたのは、無傷の紫苑。

 「どう、して……確かにあなたは、そこに……!?」

 「あの盾が、俺の姿を一瞬隠すためだって気付かなかったのが敗因かなー」

 ハッと死に体のような体を見下ろせば、ずぶずぶと闇の中へ消えていく途中だった。

 「闇を使った、分身をッ!?」

 「相手が勝利を確信した瞬間が、大きな隙を生むのは経験則でわかってたからね。あの攻撃、利用させてもらったよ」

 紫を油断させるための、大きな演出。それを理解して、紫は唇を噛んだ。

 「――私を、離しなさい!」

 近接戦闘などまるでできない紫だが、この至近距離で、肘打ちをするくらいならわけはない。もちろん躱されるなどわかっていたが、

 「ほいっ」

 ぐりゅ、と。バックステップで遠のく間際、手首を捻って腹を掻き混ぜられた。ぐふ、と口から血が滴り落ちる。

 ナイフを引き抜き境界を操って出血を食い止める。長時間やりすぎると塞き止められた血液が血管を圧迫するが、血を失って貧血になるのはもっとまずい。

 「藍が、来てくれれば」

 心底から、そう思う。

 紫はあくまで後衛に位置するタイプだ。前でもタメをはれるが、前衛特化型の紫苑とは、相性が悪すぎる。同じ前衛型の藍が来なければ勝負にもならない。

 「悪いんだけどさ」

 だから、紫苑はその希望をへし折りに行く。

 「藍は、ここにはこれないよ? ……絶対に」

 「何が言いたいの。藍に、一体何をしたの!」

 「ちょっと、拘束してるだけ。いいよ、少しだけ、許してあげる」

 一度指を鳴らし、紫苑から漏れ出る闇が動き、少しだけ戻っていく。そのすぐ後の事だ。

 『紫、様……申し訳御座いません』

 「藍? 一体何が起こってるの? 藍!?」

 今まで何の反応もなかった藍から、式を通して念話が飛んでくる。だがその声も途切れ途切れであり、今にも潰れそうだと、そう察してあまりある声音だった。

 『闇が、私の体を拘束して……そちらには、行けそうにありません。この念話も、勢いが少しだけ衰えた隙を、狙って……うッ!!』

 「わかったから、無理をしないで。この異変はこちらでなんとか解決するから。だから、もう念話をしないで、藍!」

 『お言葉に、甘えて……』

 それを最後に、藍との繋がりがプツンと途切れた。

 「貴女の傍で、ずっと二人の事を見続けていた俺が、貴女達二人が揃うのをただ待っているだけだと思った? 危険は迫る前に排除する。それだけで、こんなに有利に戦える」

 片手を振りかぶり、上段に構える。その手で掲げられたのは、闇色の剣。そこから噴出する黒が渦を巻き、膨大な力を宿し始める。

 ――どうすれば。

 これを避けてもジリ貧だ。怪我を負った紫と、未だ無傷の紫苑。後衛型と、前衛型。そもそもの戦闘経験。いくつも積み重なった差が、紫と紫苑の間に越えられない溝を生む。

 ――私、一人じゃ。

 勝てない……。

 「さよなら、紫」

 そして、剣が振り下ろされる。

 闇が迫り、紫という存在をこの世から消し去ろうと、空から落ちてくる。比喩抜きで、途中にあるもの全てを叩き割って。

 ――死。

 その光景を、幻視した。

 寸前、紫苑の腕に何かが絡まる。

 「――え?」

 呆然と漏れた音は、誰から聞こえたものだったか。

 グンと引っ張られ、振り下ろされた腕が真上にはね上がる。紫へと向かっていった闇が、まるで逆再生するかのようにまた元の位置へと戻っていく。

 「え、あ、って、うわわ!?」

 前へと移った重心を無理矢理戻され、バランスを崩した紫苑が尻もちをつく。闇の統制が一気に崩れ、怒涛の勢いで紫苑の右半身へと戻っていく。

 「い、ったた……」

 「い、一体何が?」

 反射的に呟いた紫苑と紫。その目の先にあるのは、一本の『蔦』。それは、植物から生える、それだった。

 そして、幻想郷に植物を――否。花を操る存在は、たった一人しか存在しない。

 「おいおいマジか」

 緑の髪を靡かせ、血と泥と焦げ臭い戦場の中に、彼女は現れる。

 かつて大敗を喫した、最悪の相手。未だ再戦したこともなければ、戦おうとさえ思わなかった、その相手が。

 風見幽香が、戦いの真っ只中へと、舞い降りた。

 「流石にそれは予想外すぎる。どうしてここに来たんだ幽香」

 「そうね。あなたは基本、こういった事には無頓着なはずよ」

 ここだけは息の合う、不可解だと全身で表現する二人の紫の名を持つ者が問う。

 紫苑としては、ここで幽香と戦うのは得策ではないとわかっているから。例え闇を用いようと、近接戦闘という一点において、恐らくまだ勝てないと、理解しているが故に。

 逆に紫は、ここに来て現れた彼女の不自然さに、疑問を持ったから。変に介入されてしっちゃかめっちゃかにされるのだけは、困る。

 二人に詰問された幽香は、けれど悪戯っ子の笑みで返す。

 「ふふふ、二人が困っている様を見るのはちょっとおもし……楽しいわ」

 『……』

 ドSだった。そういえばこの人はこんな感じだったよなぁと、妙にシンクロする二人が頭痛を抱える。

 しばしその様子をおもし……楽しんでから、幽香は答える。

 「昔世話になった友人から、借りを返してほしいと頼まれただけよ」

 「友人……?」

 紫苑は未だ疑問に思った様子だが、紫は気づいた。

 『一人だけ……それなら、アテがある。もちろん絶対に連れて行けるとは言えないが、可能性はあるはずだ』

 紫と永琳にそう告げた、一人の女性。彼女が幽香を遣わしたというのなら、この段階で現れた理由も納得できる。

 ――そういえば、居場所を教えていなかったものね……。

 だから、先ほど紫が使った動力の大爆発で、このあたりだと検討をつけるまで、来れなかったのだろう。

 「ま、報酬はきっちりと貰うつもりだから、ギブアンドテイクだけど。私はレアよ? 報酬は安くないわ」

 ――せめて少しくらいは遠慮してくれるとありがたいものよ……!

 心底から楽しそうだと笑う幽香に、紫は今からこの異変後の事に頭を悩ませるハメになるのだった。

 ――さてどうするか。

 紫苑は幽香の一挙手一投足を見る。紫に対する警戒心も忘れておかない。まさかの二対一という展開に、内心焦っていた。

 ――こんなことなら。

 ぬかったとしか言えない。ここに来る前の紫苑なら、ダラダラとくっちゃべらずに紫を戦闘不能にしていただろうに。

 甘くなったといえば、それまでだ。

 勝ち筋が見えづらくなった以上、勝ちを狙いつつ時間稼ぎに専念するのが得策か。元々時間さえあれば自分の目的は達成できる。

 ――頼むぞ、ルーミア。

 ――ま、少しくらいなら手伝ってあげる。

 内から微睡むような声。フランとは違いルーミアは紫苑の中で、紫苑の内にある闇の揺り籠に包まれている。

 紫苑の焦りに反応して、少しだけ意識をこちらに向けてくれたに過ぎないのだ。この機会を逃すわけには、いかない。

 紫は幽香の発言に対して動揺し、動けていない。

 ――やるなら、紫だ!

 紫苑の影がゆらめき、すぐにおさまる。

 ――いまっ。

 「避けなさい紫」

 ――え?

 殺気を抑え、ルーミアに託した一撃は、あっさりと幽香に看破された。幽香の声で反射的に身を逸らした紫は、地面から生えたその攻撃に目を剥く。

 避け、られた。

 殺意も敵意も戦意も、何一つとして持ってはいなかったのに。

 「私の能力は、『花を操る程度の能力』だけれど」

 彼女は傘を閉じ、トン、と地面を叩く。

 「その過程で、花から()()()()()()()()ことだって、できるのよ」

 その言葉が示すのは、つまり。

 (彼女に地面からの奇襲は通用しない。奇策が、奇策として成り立たない。正攻法で彼女に勝てって、正気かよ!?)

 まさかの得意技が封じられる。ギリ、と歯を噛み締めるが、だからといって何かが変わる訳でもなく。

 このまま二対一で戦われれば、勝目なんて、本当に無い。

 前衛を得た後衛は、水を得た魚のようにその本領を増すだろう。ルーミアがいるとはいえ実質的に一人の紫苑では、数の差で押し負ける。

 本格的に焦り出す紫苑の前で、しかし幽香は、彼女はこういった。

 「紫、あなたは下がっていなさい」

 『!??』

 驚愕と、不可解。二人の感情が幽香に集まるが、彼女が視線を向けたのは、紫のみ。そしてその意図を理解したのも、紫だけだった。

 「……わかったわ」

 紫は腹に手を回し、その治療に専念し始める。

 「二人でかかればすぐ勝てるだろうに、なんでそうしない?」

 「お腹に傷を抱えた後衛なんていう不確定要素、必要ないだけよ」

 「容赦ないな」

 「自他共に認める加虐趣味者ですから」

 それはもう、語尾に音符かハートのマークでも付きそうなくらいの笑顔で答える幽香。とはいえ紫が戦線から離れたところで、幽香という脅威が目の前にいるという現実は変わらない。

 どうでる、と様子を見ていたのが悪かったのか。

 気づけば頭に、掌底が迫っていた。

 ――はや、いっ!

 紫苑の動体視力はあれから上がっている。それでもなお捉えきれない、その速さ。紫苑の脳裏に恐ろしい想像が湧き上がる。

 ――前の戦いは、手加減してアレだったのかよ!?

 単純とさえ言えるくらい、幽香の身体能力はズバ抜けている。ただそれだけの、とても単純な理屈。鬼の四天王にさえ、負けないくらいの。

 ――さりげなく、縮地使ってるしさあ……!

 眼で捉えきれなかったのは、そのせいだ。いつ覚えたのか、なんて野暮な問いはできない。使えるから、使っているだけに過ぎないのだから。

 加速した脳が、そこまでの処理を一瞬で終え、幽香への対応策へと移行する。

 この掌底を喰らえば、多分、死ぬ。そのくらいの握力が、その手には宿っている。

 一歩横に動き、避けようとする。もちろん幽香は逃さじと腕の軌道を変え、追いすがる。だけどどうしても、その合間には隠し様のない淀みがでる。

 それだけあれば、小細工はできる。

 紫苑の前から数本の針が突き出る。地中からではない、紫苑の体から漏れ出る闇から出現したそれは、例え幽香でも察知しきれない。

 「邪魔よ!」

 紫苑を狙った魔手はその矛先を変え、針の全てを鎧袖一触で破壊する。傷をつけることさえ叶わないのも予測済み。取り回しの簡単な短剣を持ち、幽香に迫った。

 「ハァ!」

 「フッ!」

 拳と剣が、火花を散らす。お互いに膨大な魔力と妖力をそれぞれの得手に纏わせ、情けのない一撃を加えていく。

 紫苑は繊細な技術をもって、間断のない連撃をお見舞いし。

 幽香はその身に宿した力任せの大技を、一撃に乗せていく。

 掠ればそれだけで致命傷になりかねない拳を躱し、ひたすらに小さな傷を積み重ねる。その小さな傷も、妖怪故にすぐに消えていくため、常人ならまず心が折れるだろう。

 だが、紫苑は折れない。傷は与えられる。殺すことは可能なのだ。ならば、相手の傷が回復しない段階まで、攻撃し続ければいい。

 そうやって――今まで、生き残ってきたのだから。

 必死になる紫苑を見て、幽香はうまくやれたと、内心で嘆息しているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 幽香と紫苑が、超々至近距離で殺し合っている頃。

 紫は傷を癒し切り、けれど戦線には参加せず、永琳の元へと移動していた。結局のところ、紫にも幽香にも、紫苑の目的はわからない。

 ならば、それがわかる相手のところへ行くのが、道理というものだろう。

 このまま闇雲に戦ったところで、どちらかが死ぬまで終わらないなんて、嫌だから。

 紫の動きに、永琳は目だけでそれを追う。すぐさまその本意を悟ったのか、彼女の邪魔をすることなく、また黒陽の拘束で体を不自然に動かさないよう、振舞った。

 紫は永琳を覆うように展開されている結界に触れる。だが術式も何もなく、ただ強力な武器によって作られたそれは、通常の力で解除できるような易しいものではない。

 ――結局、能力(これ)に頼らないとダメってわけね。

 スッと静かにその結界に触れる。特に反発することもなく触れたが、

 ――紫苑は気づいていない。

 使用者が違和感を覚えた様子はない。あるいは、気づいていてもそれどころではないのか。遠くから見ている紫でも、幽香の攻撃には怖気を覚えるのだから。

 とはいえ、だ。下手に壊そうとすれば、今度こそ気づかれるだろう。そもそも紫の能力では、この結界を破れない。

 かつて紫苑が言っていた事だ。

 応用範囲の広い紫は、だからこそ特定分野の単一能力においてのみ、劣ってしまうと。空間に直接作用できる紫苑と、境界を操り限定的に干渉できる紫では、その分野での影響範囲も、干渉速度も、何もかも劣る。

 だから紫は、この結界を打ち破るのを、諦めた。

 ――私にできるのは、あくまで『境界』を操ることだけ……。

 違えるな。この結界も、所詮は数多ある『境界』を形作る、一つなのだと。紫苑という人間が作った一つの『世界』ではあるけれど、ならば、解析できない理由は存在しない。

 紫が藍にのみ告げたもうひとつの弱点。それは『理解できない事柄には干渉できない』というそれを、今だけは撤回させてみせる。

 ――さあ、やりきってみせるわよ、私!

 全てを壊す必要はない。

 ただ一点のみ、突破できれば、それでいいのだから。

 頭を回せ、思考を絶やすな、今まで蓄えた知識を使え、そして――『境界』を操ってきた、その経験で、不可能を可能にしろ!

 そして、紫は、

 「できた……!」

 ほんの小さな、穴を開けた。

 これでは永琳を連れ出す事はできないだろう。だが、音は、声は届く。永琳の(こた)えを、聞くことができる。

 「永琳、教えて。紫苑は一体、何がしたいの。本当に彼は幻想郷を壊したいの!?」

 焦って、今自分が何を言っているのか、何を教えて欲しいのかさえ纏まらないまま、彼女は悲鳴のような声で叫んだ。

 それを受けた永琳は、まるで信徒に神託を授けるかのような、静かな声で、

 「紫苑の目的は、恐らく――」




受験で忙しくなると言いつつ新しい二次創作を書いてしまった私を許してください。

え、許してくれない? お願いします何でもしますから(ry

とりあえず息抜き程度の友達から借りた小説を読んでいたらドハマリした結果があの二次創作です。無駄にモチベダダ上がりした結果、気づいたら小説色々読み直して設定やらなんやらを逐一調べて書き連ねていた。

2日で3万文字まで書いてしまった。このやる気をこっちに回せば今頃この作品終わってたんじゃないのかな……?

私の性で無駄に詳しく書いていたりするので、もし興味があればそちらもご参照してくださると狂喜乱舞します。

あ、あっちでも書きましたがあくまでこちらメインなので大丈夫です。あちらに引きずられる形でこっちのやる気も出る……といいなあ(願望)。
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