風紀を守らない風紀委員の日常   作:ポンメルン

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朝の風景1

ピピッ、ピピッ、ピピッ!

 

目覚まし時計の無機質な音が部屋に響く。

 

「うるさい…………」

 

アラームを止める。ようやく静かになった。これで…………まだ………

 

ピリリリリリリ!ピリリリリリリ!

 

と思ったら今度はケータイからの着信音。どうにも神様は僕に二度寝を許してくれないらしい。

 

諦めてベッドから這いずり出し未だに騒音を吐き出し続けているケータイを手に取って画面を見ると「伊藤飛鳥」の文字。

 

「うげっ……そう言えば今日は早めに教室に行くようにって飛鳥が言ってたんだった…………」

 

これは出たくない、出来ればこのまま着信が止むのを待ちたい………が、出なければ出なければで後がめんどくさいし………

 

仕方ないか……

 

「もしもし……」

「あ、やっと出た!!湊ちゃんまだ家なの!?」

 

途端に耳をつんざく様な大きな声が通話口から聞こえてくる。どうやら相当ご立腹の様子……

 

「あ、あぁまだ家かもしれないしそうじゃないかもしれないぞ?」

「意味わかんないこと言ってないで、早く来てよ!!もう!!」

 

適当なことを言って誤魔化そうと思ったがダメだった。これは諦めてさっさと行くしかないかなぁ……

 

「わかったよ飛鳥。すぐ行くから」

「うむ、分かればよろしい。とりあえず私と草君におごりね」

「うぇぇ…………」

 

ちゃっかりおごりを請求してくるあたりがホントにムカつく、がまあ今回は僕が悪いしな………

 

とりあえず早く学校に行こう、これ以上文句を垂らされるのは御免だし。

 

ささっと制服に着替えて菓子パンを鞄に放り込み靴を履く。

 

「じゃあいってきます、って誰もいないんだったな」

 

誰もいないアパートの部屋に向かって挨拶。まだ1人暮らしに慣れてないせいかちょくちょくやってしまう。別にホームシックってわけでもないと思うんだけど。

 

 

学校までの道のりは約束の時間には遅れているとは言えまだ比較的早い時間帯だからか他の生徒はあまり見かけなかった。

 

もう4月も終わりが近づき桜はすっかり散って葉桜になっていて中庭もすっかり緑色に染まっている。

 

この慶立高校は今年で創立10周年のまだ新しい学校だが近年ではスポーツや進学両方の面で注目されつつあるらしい。

それに母体が大きな財閥のようで敷地も広く設備も整っていてこの辺の学生はたいていここにに通ってくる。

 

そんな広い慶立高校の中でもこの校門から校舎までの間に広がる中庭とそれに併設された庭園は僕のお気に入りの場所で、暇があるとよく来ている。

 

少し前までは桜がとても綺麗に咲いていたんだけど、この葉桜の風景も中々いい。

 

なんて思いながら少し周りを見て歩いていると

 

「きゃっ」「うわっ」

 

前から歩いて来ていた女子生徒にぶつかってしまった。

 

「ごめん、前を見てなくって………ってお前北只か」

 

慌てて謝罪してその女子生徒を見てみるとそこにいたのは僕と同じ風紀委員でさらに同じクラスの1年生、北只真弓だった。

 

周りから若干押し付けられた形で風紀委員になってしまったやる気のない僕と違い、自ら立候補して風紀委員に入った真面目女子で、やる気のない僕とは犬猿の仲、と言ってもいい。

 

とは言ってもここは僕が悪いわけだし、と思って手を差し出すと

 

「結構です。自分で立てます。あなたこそ、大丈夫なんですか」

「ん、あぁ、たいしたことないよ」

「そうですか。あなたがこんな早い時間に登校とは珍しいですね。いつもはギリギリの時間に登校しているのに。風紀委員としての自覚が足りてない証拠ですが」

 

あっさり断られてしまった、のだが僕のことを心配し返してくれるあたりやっぱり北只は優しい女生徒だ(もう少し僕に優しかったら)。

 

「あ、あはは………今日は用事があってな」

「そうですか、では私は"やる気のないあなた"と違い、風紀委員としての見回りを続けますので」

「あ、あぁ……お疲れ様」

「そう思うなら手伝っては如何ですか?」

「え、遠慮しとくよ………ほら、用事あるし」

「そうですか、まあもとより期待していませんが。では」

 

そう言い残して去って行く北只。

 

………やっぱり北只が優しいってのは撤回。あからさまに皮肉ってくるしなんか睨まれてるし。

 

「あ、やっべ、教室行かないと」

 

北只のせいで無駄に時間を食ってしまった。もう約束の時間の7時を30分もオーバーしてしまっている。

 

「絶対に飛鳥山大噴火確定じゃん………」

 

 

1年生の教室は4階にある上に一つ一つの教室が無駄にでかいおかげで1年2組のドアの前まで来るのにダッシュしても3分もかかってしまった。

 

恐る恐るドアを開けると

 

「湊ちゃん遅い!!!」

 

飛鳥が真ん前に仁王立ちで待っていた。

 

「悪かったって、これでも急いで来たんだから許してくれよ」

「その割には北只さんと仲良く話してたみたいだけど?」

「見てたのか………って北只とは仲良くない、全くもって、断じて」

 

中庭が見えるのは廊下からのはずなんだけど。もしかして監視されてたのか……

 

「そんなのどうでもいいの!!」

 

どうでもいいって、言い出したの飛鳥さんじゃないですか…………

なんて理不尽な……

 

「まあまあ、カナデもわざと遅れたわけじゃねぇしイアちゃんも許してやりなよ。それに今日はカナデをしかるために朝早く集まったんじゃねぇだろ?」

 

とそこに教室の真ん中の机の上に座りスマホをいじっていたクサヤがフォローをいれてくれた。

 

さすがクサヤ、ナイスタイミングだ。

 

「そうだけどさ、湊ちゃんは危機感とかが足りてないんだよ、だから2年生の………………ふぅ、まあ今日はいいよ!むしろ今日は湊ちゃんを祝うために集まったんだしね!!」

 

クサヤのおかげでどうやら飛鳥は矛を収めてくれたようだ。これで一件落着っと………

 

「って、え?今僕を祝うためにって?」

 

聞き流しそうになったが、飛鳥は確かにそう言った。けどそんな祝われるような事したっけ…………?

 

と僕が困惑していると、2人ともが同時に「「はぁ……」」、とため息をついた。

 

「な、なんだよ。なんで僕が悪いみたいになるわけさ」

「いやぁ、カナデよ。今日は4月24日だぜ?」

「寝坊するぐらいだからまさか、とは思ってたけど………」

 

………確かに今日は4月24日だし、寝坊したけど………………

 

「あ、もしかして僕の誕生日?」

「ハハハッ、こいつホントに忘れてやがった!!」

 

そう言えばそうだった。1人暮らしをはじめてから間もないし、最近いそがしかったせいで完全に忘れてた。しかしこいつらがコッソリ祝ってくれる準備をしてくれてたとは…………少し感動したかも。

 

「と言うわけでイアちゃん、この賭けは俺の勝ちだな!」

「くぅ………仕方ない…………確か野球部のマネージャー手伝い一週間、だったっけ?」

「おう、イアちゃんがいたら俺もやる気上がるってもんよ」

「分かった、明日からでいい?今日はジャージ無いの」

「おうよ、よろしく頼むぜ」

 

………今少しでも感動した僕は馬鹿だったのかな?

 

僕の目と耳に狂いがなければどうやらこの2人は僕が誕生日を覚えているかどうかで何やら賭けをしていたようですけど…………?

 

「あの………もしかしてだけどさ、教室に入って来てからのアレももしかして演技だったりする?」

「ん?あぁモチロンだぜ、お前がホントに誕生日を忘れてるのかどうか試すためのな。イアちゃんの演技、中々だっただろ?」

「まあ湊ちゃんに危機感が足りてないのは事実だけどね」

「ハハッ、違いねぇ」

 

なんだろうね、この胸の中に湧いて来る、言うなれば黒い感情とでも形容すべきやり切れない気持ちは。とりあえず一発ずつ殴っても僕怒られないと思うんだ。

 

「あ、でも湊ちゃん、遅刻したから私と草君へのおごりはなくならないからね?♪」

 

僕の方を振り返り、満面の笑みで飛鳥がそう言った瞬間僕の中で何かが切れた。もうそれはプッツン、と。

 

「ふざけるのも………大概にしろよ2人ともォ!!!」

「うぉ、カナデがキレたぞ!逃げろイアちゃん!!」

「あはっ、逃げろ逃げろ!♪」

 

こっちは真剣に怒ってるってのに笑いながら教室の中を逃げ回る2人。

 

僕も本気でキレてるわけじゃない、けど流石に平常心ではいられない。

 

そして、3人ともが机や椅子をぐちゃぐちゃにしながら教室の中で暴れまわっていると、

 

「誰ですか!?こんな時間から教室でサルみたいに暴れまわっているのは!!」

 

っと凄い剣幕で北只がドアを開けて教室に入ってきた。そしてこの教室の惨状を見るやいなやワナワナと震えだし

 

「またあなたですか柊湊也!!!!どこへ行っても私の邪魔ばかり!!!!今日と言う今日はもう許せません、風紀委員会室まで来てもらいます!!!!」

 

そう叫び、僕の襟をむんずと掴み引きずって行きはじめた。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ北只!!なんで僕だけじゃないだろ!?あの2人も同罪だろ!?」

 

そう必死に訴えるが北只ら聞く耳を持たず

 

「武さん、伊藤さん。その机と椅子、しっかりと、元に戻しておいてくださいね」

「「あ、はい……」」

 

と2人にそう告げて僕を再び引きずって行く。

 

「あの、北只?自分で歩くからさ、離してくれないかな?」

 

僕は観念して北只にそう告げるが

 

「離しません、どうせ逃げ出すでしょう?」

 

と余計に強く僕の襟元を握りしめる。

 

どうしてこんなに僕が危険人物みたいな扱いになっているのか…………

さっきから徐々に登校しはじめてきた生徒の視線が痛いし…………

 

あぁもうこうなったのも全部クサヤと飛鳥のせいだ…………

 

そうして僕は心の中で涙を流しながら風紀委員会室へと引きずられて行くのだった。

 

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