呉第一鎮守府
そこの提督である三嶋隼人(みしまはやと)は秘書艦である龍驤から現在の鎮守府の状況を聞いていた。
「とまぁこんなところやねぇ。」
「ふむ、赤城と加賀が来客用の羊羹食べちゃった以外は特に問題なしか、」
隼人はそういうと机に深く腰掛け、背伸びをする。
「あの二人も懲りないねぇ。」
「ホンマやで、ウチの教育が足りんのかねぇ。」
「いやぁ、充分きついと思うよ?」
そう言って隼人は窓から外を見る、
そこから見える鎮守府の運動場ではオモリをつけた赤城と加賀が涙めになりながら走っていた。
「朝飯抜きの上に運動場を重りつけて十周は流石にきつくない?
特にあの二人にはキツいっしょ。」
「あんだけやっても無理やったら三日間の断食やけどな。」
「やめたげてよ・・・」
隼人が苦笑いすると、龍驤が思い出したように言う
「あ、せや。
もう一つ報告があったんやった。」
「ん?なに?」
隼人が聞くと龍驤は手元の資料を見て話し出した。
「本部からの通達、
この間横須賀鎮守府の提督が憲兵にしょっぴかれてんけど、そこに所属しとった艦娘、
睦月型5番艦の皐月を本部で預かってるから引き取って欲しいやと。」
「なに?またぁ?」
隼人は椅子にもたれかかりながらボヤく。
「勘弁してよぉ、ウチは児童養護施設じゃないんだよぉ。
毎回毎回ブラ鎮出身の子押し付けてくんのは
やめてほしいよぉ。」
そんな隼人に龍驤はニヤニヤしながら聞く。
「そんならほっとく?」
隼人は少し黙ったあと
「・・・そういうわけにも行かないっしょ」
そう言って椅子から立ち上がった。
「龍驤、本部に要請受理の連絡入れて。」
「了解、鎮守府の案内は誰にさせる?」
「夕立と卯月かな、夕立なら無理矢理にでもすぐ仲良くなるだろうし、
姉妹艦がいた方が安心するだろうしね。」
「ん、わかった。」
隼人は窓から空を見上げて
「今日もいい天気だねぇ。」
そう呟いた。
########
鎮守府の正門の前で隼人、龍驤、夕立、卯月は皐月を乗せた車を待っていた。
夕立は目を爛々と輝かせて皐月の到着を待っている。
その夕立に隼人は注意するようにいう。
「夕立、新しい家族が増えるのが楽しみなのは分かるけどいきなり飛びついちゃだめだよ?
びっくりしちゃうから。」
「大丈夫っぽい!いきなりは飛びかからないっぽい!」
「飛びかかる気は満々なんだねぇ。」
一方卯月は緊張した面持ちで龍驤の隣に立っていた。
「卯月、そんなガチガチにならんでも大丈夫やって。」
龍驤はそう言って卯月の頭を撫でる。
「だ・・・だってうーちゃんにとっては初めての姉妹艦なんだもん・・・なんだぴょん!
緊張しないわけないよ・・・ないぴょん!」
「緊張しすぎて語尾とびとびやがな、
そんなにガチガチやと皐月も緊張するやろ?
いつも通りの元気な卯月の方が安心すると思うで?」
「・・・分かったピョン」
しばらくすると、高級そうな車が四人の前に止まった。
運転席の扉が開き中から男性が出てきた。
「お待たせして申し訳ありません、隼人君。」
その男、海軍中将、鬼灯隆志(ほおずきりゅうじ)は隼人達にいう。
「いや、大丈夫ですよ鬼灯さん。」
隼人がそういうと鬼灯は後部座席の扉を開き中にいる人物に話しかける。
「さぁ、降りなさい。」
すると、中から静かに一人の少女が出てきた。
「・・・」
金髪金眼に可愛らしい顔をしている活発そうな少女は隼人の方をチラチラと見ている。
睦月型駆逐艦、5番艦の皐月である。
隼人は皐月の目線に合わせるようにしゃがむ。
「はじめまして、皐月ちゃん。
俺はここの提督の三嶋隼人、よろしくね。」
そう言って撫でようと皐月の頭に手を伸ばす。
「っ!」
皐月は怯えるようにその手を避け、後ろに下がる。
そして隼人を睨みつける。
「・・・」
その様子を隼人が見ていると。
「ぽいーっ!」
夕立が皐月に飛びつき押し倒す。
「な、何!?」
突然の事に皐月が驚いていると夕立は押し倒したままの体勢で自己紹介をはじめる。
「夕立っぽい!これからよろしくっぽい!」
「え!?・・・う、うん。
よろしく・・・」
龍驤は夕立の襟首を引っ掴み、皐月から引きはがす。
「こーら夕立、いきなり飛び掛ったらあかんって言われたやろ?」
「ごめんなさいっぽい~ 」
龍驤は夕立を離すと自己紹介をする。
「ごめんな皐月、いきなり驚かせて。
ウチはここの秘書艦の龍驤や、
よろしゅうな。」
皐月は龍驤に軽く会釈をする。
「で、あっちのピンクなのはひょっとしたら
分かるんとちゃうか?」
そういって、目線を卯月に映す。
皐月も卯月のほうを見る。
「えっと・・・もしかして卯月?」
名前を呼ばれると卯月は裏しそうに皐月に近寄り手を握る。
「そうだぴょん!久しぶりだぴょん!皐月!」
「うん、久しぶり。」
皐月も嬉しそうに微笑む。
「提督さん!夕立達、皐月に鎮守府を案内してくるっぽい!」
「はしゃぎすぎて怪我しないようにね。」
「わかったぴょん!」
そう言うと夕立と卯月は皐月の腕を引いて走っていく。
「まずは食堂に行くっぽい!」
「レッツゴー!だぴょん!」
「ちょ・・・ちょっと待って!そんなに引っ張らないで!」
その元気な背中を隼人は見送ると呟く。
「ああいう反応は何度見てもなれないねぇ。」
そういう隼人に鬼灯は申し訳なさそうに言う。
「隼人君、いつもこんな役目を押し付けてしまって申し訳ありません。」
「いや、これくらい大丈夫ですよ、鬼灯さん」
「よう言うわ、さっきはめっちゃ愚痴ってたくせに。」
「余計なこと言わないの龍驤。」
鬼灯はふっと笑って言う。
「隠す必要はありませんよ、実際頼りすぎているのは事実です」
「いや、でも本当に大丈夫ですよ。
俺たちも出来る限りのことはしますし。
それに・・・」
隼人は三人の走り去った方向に目をやると微笑んで言う。
「あの子達もいますしね。」
「みんなええ子達やからね。」
隼人と龍驤の言葉に、鬼灯は言う。
「まるで親のようですね。」
「親といえば鬼灯さんの方が大変じゃないですか。」
隼人が思い出したようにいう。
「娘さん、士官学校で頑張ってるそうじゃないですか、狼牙(ろうが)さんからいろいろ聞いてますよ?」
「・・・全くあのひとは、おしゃべりが過ぎますね。
えぇ、確かに今年士官学校に入りました。
・・・提督になるためにね。」
暗い表情の鬼灯に龍驤が聞く。
「なんや、えらい嫌そうやなぁ。」
「当然です、娘を軍人にしたい親がどこにいますか?」
「そんな事言うたかてしゃあないやろ、
生まれが生まれなんやから。
アンタかてそれは分かっとるはずやろ?」
「・・・えぇ、理解しているつもりです。」
鬼灯は溜息を吐く。
「艦娘と人間の子供、
通称『艦娘チルドレン』
人間でありながら艦娘の力を持つ彼女達は、
生まれながらにして軍人になることを強いられる。
それは分かっていますし、覚悟していました
それでも、親としてはやはり心配なのですよ」
「大変ですねぇ父親も。」
「貴方達もいずれは他人事ではなくなるのですよ?」
鬼灯は粒状と隼人を見ていう。
「結婚してもう一年でしたっけ、そろそろ子供が欲しいのではないですか?。」
鬼灯がニヤニヤしながら言うと隼人と龍驤は平然と答える。
「まぁそのへんはまだ先かなぁって」
「もうちょっと落ち着いたらって話はしとるけどねぇ」
「全く・・・貴方達はからかいがいがありませんね。」
鬼灯はそういうと車に向かって歩いていった。
「お帰りですか?」
「ええ、いろいろと仕事が溜まっていますので。
それでは隼人君、あの子のことをよろしくお願いします。」
そう言って鬼灯は車に乗って去っていった。
「そんじゃあ俺たちも行こうか。」
「うん、今夜はご馳走やね。」
二人はそんな会話をしながら鎮守府に入っていった。
#####
一方夕立と卯月は皐月を連れて
「ここが食堂っぽい!」
「間宮さんの作る料理はすっごく美味しいぴょん!」
「そ・・・そう。」
少し戸惑っている皐月をよそに夕立はある人物に駆け寄っていく。
「間宮さーん!」
夕立は、割烹着の女性、補給艦間宮に声をかける。
「あら、こんにちは夕立ちゃん。」
間宮は優しい笑顔で夕立の頭を撫でながら言う。
「何をしてたんですか?」
「夕立と卯月で皐月に鎮守府を案内してたっぽい!」
「皐月?」
「ついさっき着任したうーちゃんの妹だピョン!」
「さ・・・皐月です。
よろしくお願いします。」
皐月がそう言うと間宮は微笑みながら自己紹介をする。
「給糧艦の間宮です、主にみなさんの食事を
担当しています。
こちらこそ宜しくお願いします。」
「間宮さんは何してたっぽい?」
夕立の質問に間宮は笑顔で答える。
「提督さんにこの間のオムレツのレシピを頂いたので、作っていたんですよ。」
「司令官が料理を?」
思わず質問した皐月に卯月が答える。
「提督はすごく料理上手なんだぴょん。」
「たまに間宮さんの代わりに料理作ってくれるっぽい。」
「そうなんだ・・・」
「でも間宮さん、さすがに作りすぎっぽい。」
そこには皿に乗ったオムレツが大量にあった。
「あぁ、これはですね、」
間宮が言葉を続けようとすると後ろのドアが勢い良く開き二人の人物が床に倒れ込んだ。
(ビクッ!)
突然の事に皐月が驚いていると倒れている二人が呻くように声を出す。
「ま・・・間宮さぁん・・・」
「お腹が・・・空きました・・・」
#####
目の前の皿にあった大量のオムレツがものすごい速さで減っていく。
先程の二人、赤城と加賀は最早噛んでいるのかわからないほどの速さでオムレツを頬張り、
皿はあっという間に空になった。
そして二人はお茶を飲むと皐月の方に目をやる。
「なるほど、今日着任してきた新しい子ですか。
お見苦しいところをお見せしました。
私は一航戦、正規空母の赤城です。」
「同じく加賀よ、よろしく。」
二人に続き、皐月が自己紹介をする。
「睦月型駆逐艦5番艦の皐月です。
それで・・・二人はなんであんなに疲れてたの?」
そういった皐月の手を赤城はすがるように握ると涙目で訴える。
「聞いてくださいよ皐月ちゃん!
ここの秘書艦の龍驤さんったらひどいんですよ!?」
「運動場を重りつけて十周走りきるまでご飯抜き・・・死ぬかと思いました。」
そう言って遇垂れる二人に卯月がいう。
「それは二人がお客さん用の羊羹を勝手に食べちゃったのが悪いぴょん、
しかも今回で五回目。」
「それは流石に龍驤さんじゃなくても怒るっぽい。」
「何を言ってるんですか!美味しそうな物があったらつい食べちゃうのは本能でしょ!」
「そうよ、赤城さんの言う通り。」
言い争う四人に割り込むように皐月が言う。
「二人が悪いかどうかはともかくとして、
なんで言われるがままなの?
二人は正規空母なんだし、その気になれば抵抗できるんじゃない?
相手は軽空母なんだし。」
その言葉に赤城は机に突っ伏す。
「それが出来ないんですよぉ〜。
何と言うかあの人でたらめに強いんですよ。」
「一度私と赤城さん、そして五航戦の二人で喧嘩を売ったことがあるんですか・・・」
「・・・どうなったんですか?」
皐月が唾を飲んで聞く。
「えっと・・・その・・・」
赤城が言いにくそうにしていると。
「4人ともフルボッコにされたっぽい。」
「・・・え」
皐月が驚愕の顔を赤城と加賀に向ける。
「だってしょうがないじゃないですかぁー!
あの人こっちの作戦を先の先まで読んで潰してくるんですからァ!」
「やけくそになって殴りかかった瑞鶴が天高く投げ飛ばされて空中で艦載機に蜂の巣にされたのは流石に引きました。」
「そんな目にあっていながらなんで怒られるようなことするの?」
そういう皐月をぽかんと言う顔で眺め赤城。
「そういえばなぜでしょう。」
「考えたこともなかったわ。」
そう言って考え込む一航戦二人。
「ひっとして、圧倒的な力に対するレジスタンス的なやつっぽい?」
その言葉に赤城がガタッと立ち上がる。
「それです・・・それですよ加賀さん!」
「ええそうね赤城さん、これは強大な力に対するクーデターなのよ。」
「えぇ、だから私たちはこれからもつまみ食いをし続けます!
たとえ何度咎められようとも!」
「なんや楽しそうな話しとるなぁ。」
その声に一航戦二人はハッとなりゆっくり振り向く、
そこには威圧感のある笑顔を放つ龍驤がいた。
「ウチも混ぜて♡」
赤城と加賀は青ざめた顔でひきつった笑顔を作る。
「龍驤さん・・・」
「あの・・・えっと・・・」
その二人を見て皐月が夕立と卯月に聞く。
「ねぇ、あの二人ってちょっと馬鹿だったりする?」
「ちょっとどころか・・・」
「かなり馬鹿っぽい。」
龍驤は腕を組んで二回うなづくと赤城と加賀に言う。
「そうかそうか、二人はええ子達と思っとったけどそんな風に思っとったんか。」
そして二人の襟首を掴むと。
「ちょっとこっちで話しよか。」
ズルズルと引きずっていく。
「いやぁ!龍驤さん!ごめんなさい!」
「お仕置きは勘弁です!」
龍驤は扉の前で止まり皐月の方へ振り返る。
「皐月、今夜あんたの歓迎会やるから楽しみにしときや。」
その笑顔は先程のものとは違い、優しいものだった。
龍驤は二人を引きずって食堂から出ていく。
「たすけて!たすけてぇ!」
「死にたくない!死にたくなぁぁい!」
二人の叫びは虚しく扉は閉められる。
「・・・それじゃあそろそろ次の場所に行くぴょん」
「え・・・ほっといていいの?」
「いつものことっぽい。」
「・・・そうなんだ」
3人は間宮に別れの挨拶をすると食堂を出て次の場所へ向かう。
#####
「ここが運動場っぽい!」
皐月は夕立と卯月に連れられて運動場に来ていた。
「ここでみんなで運動したり遊んだりするぴょん。」
「へぇ・・・」
「提督さんが良く遊んでくれるっぽい。」
「司令官が?」
皐月が聞くと、二人は楽しそうに話す。
「司令官は卯月たちとサッカーしたり、野球したりして遊んでくれるぴょん。」
「この間なんて、みんなで鬼ごっこしたっぽい!」
「・・・二人とも司令官のことが大好きなんだね。」
皐月の言葉に二人は、
「大好きぴょん!」
「大好きっぽい!」
笑顔で声を揃えてそう言った。
「・・・でも本当に大丈夫なのかな。」
「「え?」」
皐月は自らの肩を抱いて語り出す。
「ボクの前にいた鎮守府の司令官は、少しでも逆らったら殴るし、艦娘を捨て駒に使ったりして・・・それで僕も死にかけて。
だからその・・・信用できないっていうか。」
皐月の言葉に卯月は言う。
「それなら大丈夫だぴょん。」
「・・・なんで?」
「卯月たちもそうだったぴょん。」
その言葉に皐月は驚いた顔をする。
「卯月たちも昔、別の鎮守府で酷い目にあってたぴょん。」
「だからここに初めて来た時は提督さんを避けてたっぽい。」
「夕立なんて最初、犬みたいに司令官に噛み付いたりしてたぴょん。」
「も・・・もう!それは黒歴史っぽい!」
卯月はなおも笑顔で続ける。
「それでも司令官は、卯月たちのことを見捨てずにそばにいてくれたぴょん。」
「だから夕立たちは提督さんが大好きっぽい」
「それに司令官だけじゃないぴょん!
ここにいるみんな大切な家族だぴょん!」
「・・・家族?」
今度は夕立が答える。
「みんなと一緒なら怖いものもないし、
嫌なこと全部忘れられるっぽい!」
「家族・・・ボクもなれるかな」
「絶対なれる!大丈夫だぴょん!」
そんな会話をしていると。
「何が大丈夫だって?」
声がした方に振り向くとそこには隼人がたっていた。
「あ!司令官!」
卯月と夕立が隼人に駆け寄る。
「司令官!なにかして遊ぶぴょん!」
「遊ぶっぽい!」
「うーんそうだねぇ、それじゃあサッカーでもしようか。」
「するぴょん!」
「するっぽい!」
夕立と卯月は嬉しそうに隼人についていく。
(サッカー・・・もしかしたらあの司令官がどういう人か分かるかもしれない。)
皐月も3人のあとを追って走っていく。
#####
卯月と夕立は隼人が足でドリブルするボールを奪い取ろうとするが巧みに避けられなかなか取れずにいた。
そして最終的には肩で息をして隼人を恨めしそうに見る。
その様子を皐月は少し離れた位置から体育座りで眺めていた。
「二人ともまだまだだねぇ。」
「うー、なかなか取れないぴょん・・・」
「提督強すぎっぽい・・・」
隼人は皐月に声をかける。
「皐月ー、見てるだけじゃつまんないでしょ?
君もおいでよ」
「・・・いいの?」
「誰がいつダメって言ったの?」
隼人の言葉に皐月は立ち上がると、隼人の目の前まで来る。
「皐月!頑張ってぴょん!」
「夕立たちの敵を取るっぽい!」
「・・・」
皐月は隼人を観察する。
整った顔立ちで笑顔を崩さず足でボールを転がしている。
表情からは何も読み取ることが出来ない。
・・・それならば。
皐月は隼人に向かって全力で走っていく。
(全力でぶつかるしかない!)
皐月は隼人からボールを奪おうと奮闘する。
「おぉ、なかなかやるねぇ。」
だがギリギリのところで避けられる。
(なんだろうこれ・・・)
そんなことをしばらく続け皐月は、
(すごく楽しい!)
気がつけば笑顔になっていた。
そして
「おおっと!」
一瞬の隙をつき隼人からボールを奪った。
「やった・・・やったよ!卯月!夕立!」
卯月と夕立は皐月に飛びついた。
「皐月すごいぴょん!」
「提督さんに勝ったっぽい!」
はしゃいでいる三人に隼人が頭を掻きながら近づいていく。
「いやぁ、まいったまいったぁ。
まさかやられちゃうなんてね。」
隼人はそう言って皐月の頭を撫でる。
「楽しかった?皐月。」
「ボクは・・・」
皐月は少し考えたあと。
「すごく・・・すごく楽しかった!」
満面の笑みで答えた。
「そっか、そりゃよかった。」
隼人も嬉しそうに微笑む。
「それじゃあ次は鬼ごっこするぴょん!」
「提督さんが、鬼っぽい!」
「え、ちょっと待ってよ、そういうのって普通ジャンケンで決めるんじゃ・・・」
「だってさっき負けたぴょん。」
「・・・よぉし分かった、全員捕まえてヒゲでジョリジョリしてやる!」
そう言って隼人は三人向かって走っていく。
「きたぴょん!」
「逃げるっぽい!」
「うん!」
皐月は、卯月と夕立と一緒に走り出す。
その時の皐月はとても楽しそうな笑顔だった。
#####
執務室
「で、遊びまくって泥だらけになって帰ってきたと。」
泥だらけの隼人の目の前には、腕を組んで仁王立ちの龍驤がいる。
「・・・はい」
「・・・隼人、キミ歳いくつや、言うてみ」
「・・・21です」
「21の男が子供といっしょに何やってんねん。」
「いやぁ、楽しくなっちゃってつい。
許してよ母さん。」
「誰があんたのおかんやねん。」
そう言って龍驤は隼人の額にチョップを食らわす。
「で?皐月たちは?」
「今シャワー浴びてるよ、あまりにも泥だらけの汗だくだったからね。」
「そっか、そんならキミもシャワー浴びてき。
汗くそうてしゃあないわ。」
「はいよ。」
隼人はそう言って執務室を出ていく。
そして数分後、ジーパンにワイシャツ姿の隼人が肩にタオルをかけて戻ってくる。
「ふぅ、サッパリした。」
「まだ仕事中やろ、なんちゅう格好してんの。」
「別にいいじゃない、今日はこれと言った仕事もないんだし。」
「せやねぇ、だからこそ駆逐艦達と遊び呆けられるんやしね。」
「そゆこと。」
龍驤がソファーに座ると隼人は彼女の膝を枕にしてソファーに仰向けになる。
「重いんやけど。」
「いいじゃない、偶には嫁に甘えたいことだってあんのよ。」
「あっそ、もう好きにし。」
龍驤は優しく微笑むと隼人に聞く。
「で、どうなん?」
「なにが?」
「皐月のこと。」
「あー、まぁ大丈夫かな。
と言っても実際俺のやることなんてほとんど無かったけどね。
夕立と卯月がうまい事やってくれたよ。」
「ええ子達に育ってくれてよかったなぁ。
親代わりとしては嬉しいやろ?」
「他人事みたいに言ってるけど龍驤、
お前さんだって親代わりなんだよ?」
「分かっとるよ、だってうちが嬉しいからキミにも聞いてるんやもん。」
「・・・そうかい。」
そう言って隼人は立ち上がる。
「さて、それじゃあ今日の総仕上げだ。」
「はいよ、ほな行こか。」
そう言って二人は執務室を出て食堂に向かった。
#####
「わー!」
皐月が夕立達と食堂へ行くとそこにはたくさんの料理が並んでいた。
肉料理、魚料理、その他様々な料理が机の上に並べられている。
「御馳走っぽい!」
「美味しそうぴょん!。」
卯月と夕立がそう言うと、厨房から声が上がった。
「卯月ー、夕立ー、つまみ食いしちゃダメだよぉ。」
そこでは隼人が頭にタオルを結び、料理をしていた。
隣では龍驤も料理をしていた。
間宮は机に皿を並べていっている。
「提督さん達、何作ってるっぽい?」
「んー、餃子だよー」
「ウチは焼売(シュウマイ)。」
隼人はフライパンの中の餃子を皿に移す
龍驤も焼売を皿に移す
焼きたての餃子と焼売の匂いが食欲を刺激する。
「そんじゃあコレ誰か運んでー、餃子も焼売も一番右上の机ねー。」
「うーちゃんが持っていくぴょん!」
「夕立も持っていくっぽい!」
そう言うと卯月は餃子、夕立は焼売の乗った皿を運んでいった。
「あ・・・あの司令官!ボクも何か手伝ってもいい?」
皐月が隼人に言う。
「いや、皐月は今日の主役なんだしゆっくりしといてよ」
「で・・・でも!ボクも鎮守府の一員として
なんかしたいし!
・・・それに司令官に最初、酷いことしちゃったし。」
そういう皐月の頭に隼人はポンと手を置く。
「別に気にしてないから、大丈夫だよ。」
「でも・・・」
「ええんやない?」
皐月と隼人は龍驤の方を見る。
「龍驤・・・」
「本人がそこまで言うてんねんから、やらせたればええやん。」
「・・・」
隼人は皐月の顔を見る。
皐月は真っ直ぐ隼人の目を見つめていた。
「・・・はぁ、わかったよ。
それじゃあそこにある皿、間宮さんと一緒に
机に並べてってくれる?」
「うん!」
皐月は満面の笑みで答えると積んであった皿を運んでいった。
その様子を見て、隼人がつぶやく。
「思ったより、いい傾向かな。」
「よかったなぁ、ええ子で。」
「そうだねぇ。」
そうして歓迎会の準備は着々と進んで行った。
#####
夕食時。
鎮守府の艦娘達が集まりそれぞれ席に座っていく。
その中で皐月は隼人と龍驤の真ん中に座っている。
隼人は全員が座ったのを見て大声で言う。
「みんな、もう知っているかも知れないけど
今日、鎮守府に新たな仲間・・・いや、家族が加わることになった
ほら皐月、挨拶して。」
「う・・・うん」
皐月は隼人に促されるまま立ち上がる。
自らに集まる視線に緊張しなかなか声を出せずにいると。
「皐月」
隼人が小声で皐月に声をかける。
「大丈夫だよ。」
その言葉は不思議と皐月の緊張を解いた。
皐月は深呼吸して今日一日のことを思い出す。
今日は色んなことがあった。
怯えながら車で鎮守府まで送られ、到着したかと思えば卯月と夕立に引っ張られ鎮守府中を連れ回され、最終的に隼人と一緒に泥だらけになるまで遊ぶハメになった。
だが、その全てが。
(すごく・・・楽しかった!)
皐月は真っ直ぐに正面を見ると。
「皐月だよ!よろしくな!」
満面の笑みでそう言った。
その場にいる艦娘全員が皐月に拍手を送る。
その様子を見て、龍驤が隼人に小声で話しかける。
「これから賑やかになりそうやねぇ」
「・・・そうだねぇ」
隼人は照れくさそうにする皐月を笑顔で見つめていた。
#####
夜
皐月は隼人を探して走り回っていた。
「何処にいるんだろう」
皐月が探し回っていると。
「いた!」
鎮守府の港から海を眺めている隼人を見つけた。
「司令官!」
皐月が駆け寄りながら呼ぶと、隼人は振り返る。
「どうしたの皐月。」
「昼間のこと、ちゃんと謝っておきたくて。」
「それは気にしてないってさっき言ったっしょ。」
「そっちは気にしてなくてもこっちは気にしてるの!
だから・・・ごめんなさい!」
皐月は頭を深々と下げる。
隼人が何か言おうとすると。
「でさ、謝ったあとにこんなこと言うのはどうかと思うけど・・・」
「・・・なに?」
皐月は頭を上げると笑顔で言う。
「これから司令官のこと、ハヤにぃって呼んでもいい!?」
「は・・・ハヤにぃ!?」
隼人は突然のことに驚いた。
「・・・だめ?」
皐月は隼人の目をじーっと見つめている。
「はぁ、いいよハヤにぃで。
好きにしな。」
「やったぁ!」
皐月は嬉そうに飛び跳ねる。
「それじゃあ帰ろっか、皐月。」
「うん!あ、そうだハヤにぃ。
今度ボクにサッカー教えてよ。」
「皐月の方がうまいでしょう。
人からボール奪っといて何言ってんの。」
「あんなのまぐれだよまぐれ。
ねぇ、いいでしょハヤにぃ!」
「はいはい、とことん付き合いますよ。」
「やったぁ!」
隼人と皐月は賑やかに話しながら鎮守婦に戻っていった。
#####
四年後ー現在
隼人と龍驤の寝室
龍驤は先に起きて艦娘達を起こして回っているため、ベッドには隼人一人である。
その部屋に扉を静かに開けて入ってきたのは、
皐月、夕立(改ニ)、卯月、そして時津風の四人である。
皐月はほかの三人に静かにするようにジェスチャーするとゆっくりと眠っている隼人に近寄っていく。
そして近くまでよると大声で号令をかける。
「とっつげきー!」
その声と共に皐月たち四人は隼人の上にダイブする。
「ぐっ!」
腹部に走った衝撃に隼人は声にならない悲鳴を上げる。
「ハヤにぃ!朝だよ!おーきーてー!」
「早く起きて今日もお仕事ぴょん!」
「早く起きないと遅刻するっぽい!」
「しれー!朝だよぉ!朝ったらあーさー!」
ぬ
駆逐艦四人は隼人の上で元気に飛び跳ねながら叫ぶ。
「ちょっ!まっ!わかった!
起きる!起きるってば・・・起きるっつってんでしょう!」
隼人は勢い良く上半身を起こすと皐月と卯月を捕まえて自分のヒゲを擦り付ける。
「ほぉら、どうだ悪餓鬼どもォ。
地味にチクチクするだろぉ。」
「はははは!やめてよハヤにぃ!」
「すごくくすぐったいぴょん!」
隼人達がはしゃいでいると龍驤が腰に手を当てながら既に開いているドアの扉をノックして入ってきた。
「ほれほれ、はしゃいどらんと支度しいや。
もう朝ご飯の時間やで」
「「「「はーい!」」」」
龍驤の言葉に駆逐艦四人は元気に返事をする。
#####
鎮守府の艦娘達が大広間に集められていた。
艦娘の目の前には、資料を持った隼人とそのとなりに立つ龍驤がいた。
隼人が全員に聞こえるように言う。
「えぇ、今日みんなを集めたのは他でもない。鎮守府の今後についてだ。」
「鎮守府の今後?」
艦娘の一人、木曾(改ニ)が首を傾げる。
「ひょっ・・・ひょっとして提督さん、異動しちゃうっぽい!?」
夕立の一言に艦娘達に動揺が広がる。
「みんな落ち着き、別にそんなんちゃうって。」
「うん、龍驤の言う通り俺が居なくなるとかそんな話じゃない。」
「なんだ、よかったぁ・・・」
隼人の言葉に弥生が言葉を漏らす。
「だったら報告ってなんだよ提督。」
天龍が隼人に聞く。
「この鎮守府が稼働して7年、所属する艦娘も多くなった。
そこでそろそろ第一~第四部隊の編成を固定しようと思う。」
その言葉に木曾が反応する。
「つまり、これまでのように時と場合に応じて編成するのはやめるということか」
「そう言う事や。
そんで今日は昨日隼人と話し合って第一部隊の編成を決めたからそれを発表しようおもてな。」
隼人が溜息を吐いた。
「・・・正直奇面の大変だったよ。
何回か龍驤と喧嘩したし。」
「喧嘩って・・・なにしてんのハヤにぃ。」
「だって皐月、第一艦隊ってことは鎮守府の主力になる訳で・・・」
「その重荷を背負わすってなったらそら喧嘩なるわ。
そんでウチも隼人も若干寝不足や。」
そういうと隼人と龍驤は欠伸をした。
その様子に艦娘達から笑いが起きる。
「という訳でまず旗艦から発表するよ。
旗艦は・・・龍驤。 」
龍驤は溜息を吐く。
「あーあ、これまではちょいちょい休めとったのになぁ。」
「そんなこと言わないの。
期待してるよ龍驤。」
隼人がそういうと龍驤はニッと笑う。
「了解、こうなったらとことんやったるよ、旦那様。」
そう言って龍驤は隼人に微笑む。
「そして二人目は・・・天龍。」
「ほう、俺を選ぶたぁ・・・わかってんじゃねぇか提督。」
「まぁちょっと素行に問題はあるけど実力は確かだからね君は。
で・・・三人目は摩耶。」
摩耶は驚いて言う。
「あたしか・・・」
「摩耶は砲撃戦が得意だからね。
戦力としては申し分無い。
そして四人目は・・・金剛。」
「イェーイ!任せてくだサーイ!
・・・って天龍!摩耶!露骨に嫌な顔はしないで下サイ!」
「「いや、だってお前うっさいし。」」
「声を合わせてそんなこと言わないでくだサイ!!」
その様子を見て夕立は笑いながら言う。
「見事にやかましトリオが揃ったっぽい。」
「「トリオ言うな。」」
「いやぁ////」
「「お前も照れんな。」」
天龍と摩耶が金剛にツッコミを入れる。
「その調子で仲良くね。
そして五人目は・・・夕立。」
「え?夕立っぽい?」
「あぁ、ちょっと荒っぽいところもあるけど戦力としては十分すぎるくらいだよ。
特に接近戦は龍驤も褒めてたよ。」
「ホントっぽい!?」
夕立は笑顔で龍驤の方を見る。
「まぁ、まだ危なっかしいけどな。
期待しとるで。」
「分かったっぽい!」
「分かったのか分かってへんのかどっちやねん!」
隼人はその会話を聞いて笑うと再び艦娘達の方を見る。
「最後、六人目は・・・皐月。」
「・・・え?」
皐月は驚いてつい声が出る。
「し・・・司令官、ボクでいいの?」
「あぁ、皐月に関しては話し合う前から二人で決めてたことだよ。」
「実力もあるし、第一艦隊に必要や思ってな。」
「まぁ、皐月が嫌なら話は別だけど・・・どうする?」
皐月は少し考えたあと。
「まかせてよ!司令官!」
満面の笑みで答えた。
三嶋隼人(25)
呉第一鎮守府の提督にして呉の統括責任者。
軽い口調で話し、ちゃらい雰囲気だが艦娘達に兄のように慕われている。
特に駆逐艦からは懐かれている。
秘書艦兼嫁艦の龍驤とは今年でケッコン(ガチ)5年目