Звезда 1965.   作:Exar Kun

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議場は踊る

 

 

 

 

 

GOOOOOOOOOOOOOOOOOOM ―――

 

 

 視界に浸透を為す真っ赤な光―――目に映る空間は濃赤に暗転し、喩えればこれまで生を享受してきた"世界"が一瞬にして別の"何か"に変化したという事実の錯覚を想起する。"主観に依る私の世界は贋物、其の実目前に広がる客観視が真成の物ではないのか"―――決してあり得ないと自覚しているにも関わらず、唐突にその様な思考を形成した。

 

 

 光の源―――光の直下では何が起き、何が作られ、若しくは破壊され、如何な結果が誘発されたのか・・・外的環境に左右されず見事な多層を構築する雲の如き"何か"が拡散する光景がどこか人の怠惰を吹き飛ばす様な感覚を抱きつつ、私は感じる筈のない精神的・・・いや、肉体的な熱でその身を震わせた。

 

 

 そして思い遣る―――"ああ神よ、この形而上学的且つこの身に触れる光は何故これ程にも

 

 

 ―――――美しいのだ

 

 

 

 

 

 

 

 地上より核弾頭の弾着を受け数分

 

 

 

 

 

 

 1973年

 

 

 

 

 

 

 

 

 バシィッ!!―――

 

 

 目を閉じ、客観的に聞けば何処か心地良い効果音が私の耳に響く。だが実際に受領する者としては肉体を通じた直接的な鈍い痛み、そして何より感じられるのがそれを行った当事者の悲痛な憤怒が心と身体に槍の如く突き刺さる。"何するんだ"―――痛みが引くのを微かに感じながら内心にて反抗の意が形成される。しかし、その感情を発言するという手段を利用して相手に伝達しようとする意思は現れない・・・いや、中和されたと表するが的を得ているかもしれない。それは現状の誘発が自身の過失であるという規範的、客観的正当性に対する抗戦意思の欠如のみならず、私自身が包容する臆病心という心理的欠陥の総合が導いた当然の結果である。

 

「自分が何をしたか分かってるのか、レイセン少尉・・・」

 

 同様に目前に広がる光景に圧倒されていると考えていた当事者―――中隊長は多大な失望や嫌悪感、そしてごく小さな安堵を示しながら私を睨み付ける。失態ごと私を貫こうとするその視線に私は目を逸らしてしまいたいという気持ちに駆られる。だがそんな意思を無視するかのように視覚器官は只々正対する対象の瞳を覗く行為を継続する。 憤懣が目に現れるという非現実的、空想的な―――劇画で見ることが可能な描写は実現した・・・恐らく、彼女の輪郭や肌を室内に未だ蔓延る濃赤と外より浸透する光の肯定的に捉えれば幻想的なコントラストで塗りつぶすとしても私はその怒りを体感出来るに疑問は無い。

 

 ・・・何よ、あれ ―――

 

 ・・・知らないわよ ―――

 

 地上人の・・・兵器?―――

 

 居室より多くの兵士達が飛び出し、爆発の瞬間を直接視界に入れることはなかった光を見つめる。居室待機の命令が下されていたが、突然の出来事への追求心、心理的恐怖より生じた脅威を確認しようとする安心を求める感情等に軍隊に於いて最重視すべきと称しても過言でない規律命令は敗北した。恐怖や驚愕から自身の内心を吐露するかの様反射的に声に出す者もいたが大半が只々その世界の変化に注視せざるをえなかった。

 

「小隊長・・・」

 

 他の兵士へ関心の移行した中隊長を尻目に、それでもその威圧に依るか過剰に見渡すのではなく周辺視を開始した私の耳に聞き慣れた部下達の不安げな声が響く。正対に立つ状況を忘れ、彼女に顔を向ける。感ぜられるは自身の現状を判断する事が不可能であるという焦りや恐怖、そして何故私が居室より失踪したかという部隊長への疑心と興味。その視線に私は困惑へと落とされる。この状況下で如何にして弁解を為せばよいのだろうか。奥底より生じた客体への執着が何故か身体を駆り立て、その強制とも認識すべき内心の支配に抵抗心が破壊された―――とでも言えばよいのか・・・

 

「・・・レイセン少尉には緊急時の観測に任命していた。」

 

 疑問をその目で投げ掛ける部下に対し言葉を無くす私の代替を務めたのは、誠に意外ながらも先程修正を施した中隊長であった。"現状の危機から私を救出して下さった"―――先の否定的な感情を発生させた相手故に自信に対する肯定的評価の表れを見ると彼女への過大な謝意と尊敬が主観的要素に則り構築されるが、あくまで小隊長たる士官が突然命令違反を起こし、事故を発生させたという事実に対する兵の疑念と士気の低下を考慮した隠蔽に過ぎないと推察し、それが徒然の処置と理解するにも関わらず、無念という単語が衛星軌道上の人工衛星の如く脳内を周回する。それに対する疑問の提示者たる私の部下は納得の表情。いや、更には、唯偽証を真に受けたのみならず、緊急時において躊躇いを見せず任務を全うする理想の士官という過剰評価に覆われた理想像の投射を感じているようにも見える―――寧ろその行動は虚弱な心理から生じた恐怖により導かれた可能性があるにも関わらず。通常、人は信頼を損なう様な人物を除いては、相手方の発言を信用する傾向が高いと言う。今回のケースでは部下への責任と信頼を担保するに値する中隊長が相手方に相当―――信用しない筈がない。

 

「全隊員、速やかに居室へ戻り、小隊長は人数を掌握―――かかれ!」

 

 声高な指揮官の命令が付近一帯に反響する。多数の小隊長が直ちに部下たる兵達を連れて居室へと戻る。今まさに夢を見る様に外の光景を凝視し続ける兵は"まだ見ていたい"とでも言わんばかりに上官の指令を公然と無視する。煮を切らした下士官二人が両腕を荒々しく掴み、引き摺り、無理矢理居室へ押し込む。部下達に指示し、自身も戻ろうとする横を中隊長は何もなかった様に―――"お前のことなどどうでもいい"と示すかの様に通り過ぎて行く。その背中から感じられるは目に見えた脅威に対する微かな怯弱な気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは明らかに地上人からの攻撃の意思の表れだ!奴等は我等に挑戦状を叩き付けたのだ!!」

 

 高級感溢れ煌びやかな材質で構築された建物、それは外より招かれざる者に対しての絶対的優位性といったものを公示し、中へ招かれたる者には最上級の謙譲と歓迎を感取させる。その尊厳な施設の一室にて、一人の男性が隣人の聴覚器官を破壊する旨の意思を持つのではないかと想起させる程の大きく、荒々しい声を発する。その態度と声量に反比例し、外観上の恰好は当施設の流用を得たような気品溢れる―――視界に入るだけで所謂一般人ではないと想像させる豪華絢爛な衣装を身に纏う彼は、自身の試案が正当であるという事実を確認する様に周りの同意を得るべく集まる人々の表情を一瞥する。

 

「しかし、まだ我々に対するものと断定するには早過ぎは致しませんか?恐らく、彼等は未だ我々の存在に気付いてはおりませぬ。事実、境目に近い物もあったとは言え、その全ては表の月に対する攻撃。実際は攻撃と言うよりも、月面における実験の一環に過ぎぬかもしれません」

 

 思案するかの如く、或いはその迫力に呆然とする者が占める中、長身痩躯な一人の男性が好戦的な意見に対し反論を紡ぐ。かの者に比較しては遠慮深いような、しかしやはり気品の知れる恰好を為す彼の発言は他の者に対する意思表示の起爆剤ともなり得る様にも感ざられる。

 

「世迷言を・・・4年前、奴等が無礼にも月面にあの忌々しい旗を立てたのを忘れたか!あの時から侵略は始まっていたのだ!表だから関係ない?なら次にあの兵器が領内に、都に撃ち込まれたらどう責任を取るつもりだ!」

 

 だが好戦的な男は爆発寸前の起爆剤を即座に解除するに至った。それが先の彼の発言の後押しとなったか、周りの人物も一転してより活発に攻撃的な意思の表明をもたらす。だが一方で、反論の役を得た男性の意見に勇気と同調を得たのか、将又、暴力的な感情に取り込まれた者達に対し憤りを発揮したか、平和的案を支持する者達も徐々に声を挙げていく。

 

 そもそも、先に地上へ干渉を始めたのは我々ではないか!―――

 

 あれは必要な処置であった!事実、奴等の侵攻は大幅に遅れた!―――

 

 これで誤解ならばどうする?それこそ戦争が始まるぞ!―――

 

 それはそれで結構、穢れをもたらす地上の民に鉄槌を下すだけだ!―――

 

 それでは我々は殺人者だ!確証もないと言うのに!―――

 

 奴等の手に掛かるを避ける為の行動だ!先制攻撃を取ればこちらの勝利は間違いない!だからこそあの時も我々が先手を打ったのだ!―――

 

 それまでの閑静な邸内は、今まさに危機が迫ると言うにも関わらず内乱が勃発したかの如き争議状態へと一転した。互いに暴力的手段を用いた意思了承の強制を行わない所は、流石月人と称すべきか、将又、危機への直感的脅威感(この様な事を為す場合ではない)は本能にて反応していると賞賛すべきか。けれども、互いの主張のぶつけ合いは沈静する気配を見せず、寧ろ激烈化に発展するという結果になりつつある。

 

 "これでは無意味な議論の螺旋に過ぎない"―――事態の回復の必要性を傷に染みる様感じるは月の使者が一人―――綿月豊姫

 

 月の都の防衛と地上の監視を任とする使者の一人で中心に位置する人物であり、それは即ち、最終的な判断の中枢である所を意味する。国家防衛の指揮を受任する者として、そして何より月の民としては劣等たる地上人に譲歩するような思案と判断は下すべきではない。だが、自身を選ばれし者共と認知し、選民的思想を固く保持する保守的民族である月の民の中で彼女は彼等の倫理的欠落に該当するとは言えなかった。地上人を同胞と捉えるなどといった思考を持つ訳ではない。けれども、例え穢れの中に生活する生命と言えど同じ人である―――彼女の純粋な性格と生活環境からは想像難い良心がその様な念を持つに至らせた。それ故に個人的に言うならば、今は行動に移すべきではないという旨の所論が彼女の意欲的判断であった。

 

 しかし現状を見るに中枢たる私が主張すれども、案が正当化され施行される可能性は極めて低い。一度発言すればその立場故、苦肉を惜しみながらも一応の了承と彼等の主張の変化に基因するかもしれない。だが、我々月人が漫然たる脅威と評価する危機が既に為されたという現実問題が発言に至る旨意を押しとどめている。"こんな時、八意様ならば・・・"―――嘗て、否、今も尊敬し慕う師を思い浮かべ現状から逃避する様に心の平静を求める。だがその彼女はもう既に私の傍に居ない。恐らく私が求めてもそれに応じることはないだろう。現況で感ずべきではない感情の流出を一蹴し、先ずは最優先すべき"内乱"の鎮静へと移行しようと意を決する。

 

 

 その時ではない ―――

 

 

 彼女が慣れぬ大声を吐き出そうとする寸前、後方より声が聞こえた。決して声量が高い訳ではない。しかしその声は、人の注意心を抉り、客体の意思を包容するのではないかという錯覚を想起させ、何より自身を耳に深く反響させる。事実、過剰に展開した―――まるで炎上する家屋の様に"盛り上がっていた"議論は、目前の危機―――地上からの長距離攻撃がまさに今ここに落下したかの様に完全に沈静していた。発言主は自身の一言で状況を圧したにも関わらず、それが自然と変化したと主張するように、驕りを見せず、脚を進める。

 

 私達と共に名を連ねる月の使者が一人

 

 

「く、菊理姫様・・・!」

 

 

 柊菊理姫(ひいらぎのくりりひめ)

 

 

「今は行動に移す好機ではない。今、我等がすべきは彼等の監視と待機に過ぎない」

 

「お言葉だが菊理姫様、現に奴らは攻撃と取れる下劣な行為を我々へと行使したのですぞ!我等への危険をも含むかもしれぬのにただ黙って見ていろと?」

 

 好戦派の主導と化したかの男性が予期せぬ言葉への憤りを隠す様、可能な限りの冷静に努め反論を行う。しかしその冷静の裏側から滲み出る反感は調理人の用意した可憐な食事の如き"匂い"を我々に被せる。

 

「此方から仕掛ければどの様な自己辯護を並べても全て戯言と化する。我等がその力を召すのは直接的な侵略を受けてからが相応。それにあのミサイルの性能では我々の領域に達する事はない・・・11年前、我々は月への侵攻手段を絶つべく"下劣な行為(暗殺)"を行い、最終的には失敗した(アポロ計画の始動)。そしてその上で、彼等が我々の直接的な脅威と認識されるまでは様子を見ると決した筈だ」

 

 彼女の主張は必ずしも全員の同意に価する程の正当性を有している訳ではない。しかし、その現実的な対応案と彼女自身の気迫が同調を半ば強制に命じていた。既に議論は終了したと想像させる閑静な邸内にて、好戦派、平和派共に声を失ったかの様に唯発言者たる彼女を見つめる。その目には信頼を付託する安堵と彼女自身に対する畏怖の念が見て取れた。

 

「豊姫様、貴女と妹君、そして私とで今件の対応をするよう通達があった。私としては"お遊戯会"は閉会して、直ちに作戦会議を開く事を具申する」

 

 正対する彼女が私の瞳を覗きながら命令と意見の二つを伝達する。その表情はまるで現況が発生したのは当然であると感じているが如き非常な程の冷静さを主張していた。その眼光に一時の不気味さを感じながらも、思考の平衡を保つ。議論は強制的に終了したと言っても過言ではない。今、我等がすべきなのはこれからの対応。自身に出来なかった行動と結果をもたらしたという事実に嫉妬に類似した感情を軽く抱きつつ、使者として私がすべき行動へと移ろうとする。

 

「わかりました・・・臨時対策会議は以上で閉会、今後は作戦会議へと移行します!」

 

 閉会の意を示し、各々解散状態へと移る。"上"への報告をの為、菊理姫様の後を追うように付いていくが

 

 

 地上帰りの女が・・・―――

 

 

 議場の誰かが発した独り言が私の耳に突き刺さった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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