Звезда 1965.   作:Exar Kun

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以前記載した"ある動画"で使用されていた同人音楽サークル凋叶棕様の東方ヴォーカル曲、"Cruel CRuEL"が本作のメインテーマみたいなものだと思ってください(笑)

とても良い曲ですのでご視聴をオススメします


始まりの一歩

 

 

 

 

 

 寒波の靡く北の大地を闇が覆う中、着々と準備が進行する。目の前に添えられた20㎝四方の小さな強化窓より伺い知れる作業員達はその身に体感しているだろう寒気を無意識に感じていないと思える程の煩忙による焦燥や疲労が見られる。その様に外部を観察していると彼等の多数が自身の視界より遠ざかるのが確認出来た。現在位置が彼等より高所にある為かまるで自分を恐れるが故に逃亡する人間達を蹂躙せんとする怪物の如く錯覚を思う。

 

《液体酸素タンク加圧終了、発射3分前。各員最終確認へ入られたし》

 

 頭部を広く覆うヘルメットに内蔵された通信機より管制塔からの無線が流れる。それと共に作業員等が怯えを見せつつ距離を取った理由が確信的に明瞭と化す―――高熱と勢いで身体を焼失させるなど望む者などいないだろう。自身を締め付け固定するベルトを感取確認する度にこの"ファーストクラス"の座席の単語の意味に相反する硬質が感じられる。全て確認を終了させ、残り50秒程の来たる時を待つ。

 

《発射30秒前》

 

 PUSHUUUUUUUUUUUU!!―――

 

 微かに耳を流れる先行機の噴射音と視覚化された白煙が神経を鋭利にする。確率的に考察するならば事故により機体ごと爆散する結果も想像するに難易は無い。

 

《発射10秒前、9、8、7、6、―――》

 

 背面に締め付けられた身体が至る部位より震えを生じさせる。唯でさえ頭ですら納得していないというのに経験上、類推的に確信に欠如する行為に身を任せるという事実が恐怖を邁進させる。

 

《―――5、4、3、2、1、点火!》

 

 GUWAAAAAAAAAAAAA!!―――

 

 目前に拡がる世界を揺らしているかの如く振動と轟音が反響する。浮遊感の増す感覚が徐々に感取され、自身が正に今飛び立とうとしているという状況を否応にも享受する。反射的に閉じた目を開眼し、小さな窓より外界を覗き込む。拡がりゆくのは暗黒の世界。画家の言う綺麗な景色などと称するには程遠いだろうが、小説家であれば如何にも純文学的な心理的表現を表するのだろうかと心に思う。灰色に渦巻く雲群を突貫するのを目撃しながらも機体の高度は上昇を留まる事を知らない。

 

 ZUUUUUUUUUUUUUUN!!―――

 

 数秒、数分、将又数時間後―――時間感覚が消失しゆく中突如震える機体。視覚器官を破壊しそうな強烈な光が視界を支配し、再度目を閉じる。閉眼しつつも見て取れる光の消失に気付いた脳が器官と心理に影響し、自己の欲望(外を見たい)を果たすべく緩徐に目を開けた先には

 

「・・・」

 

 この世の物とは思えない想像を超越した美の化身がその小さな窓より姿を表した

 

 

 

 

 バラクラヴァ宇宙基地よりН1-6号機が発射され十五分

 

 

 

 

 

 

 

 1973年

 

 

 

 

 

 

 

ZUGAAAAAAAAAAAAAN!!―――

 

発射時に被った浮遊感に異を唱える地面に叩きつけられる様な圧力が身体全体を駆け抜ける。反射的に衝撃に対する耐久に努める自分の内心を支配していたのは大抵の人間が目にした経験の無いだろう母なる大地ーーー地球の信じられぬ程の美しさとあった。暗黒を突き抜け広がり行く青色の世界が自分の生きる場所であるという認識は、以前より常識であったにも関わらず感慨を覚える。人類史上初の宇宙飛行士ガガーリン少佐の供述は事実である―――地球は青かった、だが神はいなかった。宗教的関心の希薄な自身にとって後者は特に述べる事は無いが、言うならば群青の世界の客観的感想、そして何より自己顕示欲から形成される自分が実際に見たという事実の人々への伝達が不可能である点が上り詰めた高揚感に微かな穴を開ける。

 

《異常がある者はいるか?》

 

 ノイズを混合させた無線越しの分隊長の声が薄れていた現状認識へと意識を働かせ、事後の行動に対する集中が誘発される。

 

《全員生きてるな?手順通り下船し、横隊で集合しろ》

 

 驚愕や興味と言った観念が見えることのない冷静な声質より奏でられた指示が下されるとほぼ同時にシートベルトを外し、地上環境下では不可能な程軽やかに立ち上がる。一刻も早く外部へと赴きたいという自己欲的志向か、或いは命令遵守という慣習的無意識か―――着陸船中央より落下する舷梯に首尾一貫して取り付き、降下すべく足を掛ける。舷梯の隙間より伺い知れる漆黒の宇宙空間と灰色の地面に待望を誘発させながらゆっくりと、一歩ずつ足を降ろしていく。そして遂に地球より遠く離れた大地―――月面へとその一歩が踏み出された。

 

「・・・」

 

 その目で焼き付けた青き地球の光景とはまた風靡を異とする灰色の砂漠地帯。森羅万象を無へと帰す様に見える一方、無数の星々の輝きに照らされる一面の黒き宇宙との対照はまるで小説に登場する別世界の様な・・・いや、正に人類が長きに渡り到達し得ずにいた異世界と称せる。地上の六分の一に限定される重力下、次々と降りゆく仲間達が、ある者は祈りの言葉を囁き、ある者は物騒な言葉で自己の驚愕を代替し、ある者は言葉を失う。本来であれば至急統制を取るべき分隊長も指示に不服従な部下に混じり"異世界"の環境と雰囲気に呑まれている。しかし突然、右耳周囲を手で押さえ明後日の方向へ転身する。予想するに他分隊若しくは上級指揮官より通達された命令を捕捉しているのだろう。

 

《全員聞け。たった今、中隊長より指令が下った。これより司令部へと前進する。船に偽装網を掛け、外部出力を停止させろ》

 

 下された命令に従うべく各員が行動を開始する。だがその鈍重な動きは月面という環境への尽きる事にない関心を示唆している様にも思えた

 

 

 

 

 

 ZUUUUUUUUUUUUUUN!!―――

 

 周囲の至る地点より発生する後行機着陸の衝撃と爆音が鳴り響く中行軍する。同一拠点を目標に進軍する各隊は自然と距離幅を隣接させ、最終的には荒野に於ける大規模哨戒を行動している様にも思える。歩行を開始してより未だ数十分経過したに過ぎないが、地上での断絶の無い無重力状態下訓練の経験と異常等発生の前に基地へと到達したいという恐怖に対する意思の賜物か、既に多数の人員は現環境に初歩的な身体機能慣用が見て取れる。緊張を走らせながら周囲を見渡す中で確認出来るのは誰も入植などしているとは想像つかない灰色一色の世界。例え如何に科学的、現実的立証を為されようとも、この砂の世界にヒトが生を共にしているとは確信は得られない。事前情報によれば彼等が居住する空間は我々が今踏みしめる表の月ではなくその奥に控える裏の月であるそうだ。科学アカデミーの教授がそういった"妄想"を語り始めた当初は我々を馬鹿にしているのではないかと思わずにいられなかった。例え彼等が無数の長距離ロケットや宇宙空間に於ける居住施設の開発に関与した著名技術者だとしてもだ。数か月前に直面した隠された諸技術に対する驚きを回顧しながらもその様な感想を思う。公表されてきた最新技術が真の科学力の氷山の一角であるに過ぎないという事実は存在すら希薄な宇宙人の存否に対する興味を優越した。

 

 歩みを進める中、傾斜ある低山地帯へと突入した。クレーターの外壁部に相当する箇所と言うが進軍用の経路を選択したためか比較的緩やかな傾斜が存在するに限られる。丁重に足を進める先で、先行した友軍兵達が歩みを止め、横隊に類似した隊形に移行しているのが確認出来る。間に割り入り除く先に広がるは円形盆地に敷設された無数の施設群―――月面基地。一ヶ月前に工兵部隊が建造に着手したに過ぎないが既に完成と称しても良い程の状態を我々に誇示している。これに使用された技術が地球上で公に晒されれば人類の科学文化の発展に大きく寄与する事は明白であろう。

 

 中隊規模の人員を飲み込む怪物の如きエントランスが閉鎖されると同時に多少の重みと圧力が感じられる。ある程度の強重力が存在するのだろうか。更に施錠された扉の先には各自の名前が記載された宇宙服更衣場隣接している。自身の名札を発見し、額部にСССРと誇張されたヘルメットを取り去る。数秒にも満たぬ微かな耳鳴りが発生すると共に抑圧された顔面が自然へと舞い戻った。地上で掛かるよりは遥かに軽量に感じるヘルメットを置きつつ脱衣する。半分離した下半身部より脚部を取り出す事で総重量100㎏以上の小型宇宙船より解放された安堵を生じさせつつ、多数の兵士達が次々と細長い通路へと進むのを眼に入れる。高品質なフィールドグレーの野戦服に身を包むその姿は自分と変わりは無い。しかし複数の相違点の存在が自分が彼等とは差異にある関係だと提示する。金色に輝くСА()を記した真紅の肩章に金縁された襟章、双葉に包まれた鎌と槌を彩る袖章、頭部に被る舟形略帽(Пилотка)や野戦官帽―――一般的なソビエト連邦軍兵士の証明である。対を為す自身の肩章と襟章は同じく金に塗られた所属を提示しつつも背景は青空色、双葉でなく落下傘と輸送機に飾られた袖章、青白横縞の水兵シャツ(Тельняшка)、そして何よりも異を唱える脇より吊るされた空色のベレー帽―――空挺部隊(ВДВ)の証。地上軍傘下に位置しながらも半ば独立の指揮系統を有し、国土のあらゆる地域に展開可能な即応軍団。砲兵部隊や戦車部隊も通常と異なる漆黒の肩章等を刺繍するが、横縞とベレー帽は精鋭に限られた我等にのみ許される―――単に軍人であるという誇りの範囲内に於ける唯一の自尊。この証拠を得るべく邁進した過去の努力を回想しつつ被り、自身も先へと進む。

 

《第446宇宙狙撃大隊各員へ通告。十分後、16:00より全体説明を指揮棟広間にて開始する。装備の点検を終了した者は直ちに移動せよ。繰り返す―――》

 

 居室にて装備の確認をしている最中、スピーカーより伝達が下る。地球上と変わることの無い人口重力に空いて間もないにも関わらず感じられる懐旧と低重力に対する希望を思いながらも指揮棟へと移動を開始する。地上に敷設された軍施設のどれよりも清潔で最新の室内環境と見慣れた施設設計はここが月面であるという事実を忘却させるが、特に移動経路に設置された緊急用の与圧シェルターの存在が人類の適用した環境下であるという錯誤を否定する。広間内には我々339中隊に先行して他二個中隊が集合していた。存在を強調する青ベレーの兵員に対して目線を交わしながらも整列する。舞台上中央の時計の秒針が四時を指すと同時に一人の将校が姿を現した。皺一つ視認する事の無い野戦外套に野戦官帽を被る30代と推測される士官。襟章から窺うに階級は外見年齢に見合わぬ高位の大佐。190あろう身長と隠れた目元は舞台上という演出も援護して威圧的に見える。

 

「同志諸君―――Звезда基地へようこそ。私が第931旅団指揮官にして基地司令、デミトリ・アンドロポフだ」

 

 その外観特徴に比例する様な無機質な声質に一種の緊張が誘発する。

 

「諸君は十分とは言えぬ説明を受けやって来た。突然だが、訓示代わりにこの場で私が現状を説明する。まず諸君等知ってもらいたい情報としては月面に於ける"敵"についてだ」

 

 敵という単語に先とは異なる緊張が発生する。敵とは一体如何なる勢力なのか。アメリカ人か、将又・・・

 

「我々の敵は、時を同じくして月面へと上陸した米軍部隊ではない。月面に於ける真の敵は―――月の住人達だ」

 

 月の住人―――地上での説明に於いて登場した月の裏側に居住する生命体、科学アカデミーの妄想。その言葉をさも当然の如く語る指揮官。この指揮官も虚偽の申告をしているのではないか、未だその存在を視覚化しない現状では不敬な考察が脳内を過ぎる。そして何より、存否の確定についての脳内議論を優越した―――敵という認識。

 

「信じるのに確証が存在し得ない事は認めるがこれは事実だ。この月面には表の月と裏の月という二つの空間が存在する。我々が今いるこの場所は表の月と呼ばれる空間だ。灰に塗れた軽度の重力と真空に満たされた危険な環境である。一方で、ある境界を境に地球上と同等の重力や気圧、そして呼吸が可能な程の酸素が存在する空間が現れる―――それが裏の月だ」

 

 此方の困惑を無視するかの如く進行する説明。周囲の兵士達も声を挙げはせずとも驚愕の表情が半数を占める。

 

「この裏の月には月の都なる月面に於ける唯一の国家が存在する。そしてそれを構成する人種が月の住人だ。詳細な背景や歴史は不明であるが、我々人類の先を行く科学力と文化をもつと考えられる高度文明だ。我々の月での使命は彼等の調査及び技術の奪取・・・或いは殲滅だ。彼等は人類ひいては地球という存在に対して攻撃的意思を有するとされる。63年の米大統領暗殺を思い返して欲しい。公には元海兵隊員による狙撃と公表されているが実際はアポロ計画による月の侵攻を危惧した月の住人による暗殺が真相だ」

 

 1963年の米大統領暗殺事件。アメリカ人とは異なる感取を我々ソ連人も享受した歴史的出来事。"敵国"アメリカの政治指導者死亡にソ連人国内に於いてもある者は歓喜し、反共主義者と対立していた米ソの架け橋にある者は悲痛を覚えた。個人的にもКГБ(国家保安委員会)による犯行とも推察していたが淡々と説明をする将校によれば我々の新たな敵がその真相に該当するらしい。

 

「諸君等を正面に三時方向、約10㎞先に境界線が存在する。現在、境界を跨いだ地点に新たな前線基地を構築しつつあるが、既に小規模な銃撃戦が工兵部隊との間にしており、未だ大規模な敵対行動は確認されていないとは言え、重傷者も生じているのが現状だ。何時如何なる行動が敵より為されるか不明な現況に於いては常時万全の体勢を維持しなければならない。此方の核攻撃に対する報復も考えられる・・・気を抜く暇は無いと思え」

 

 内心を支配する驚愕と困惑に説明への理解が遅滞する。如何にして彼等は生存し得るのか、裏の月とは何であるのか、その国家体制は、何故先制核攻撃や基地建設に対して明確な攻撃意思を見せないのか、対話の可能性は考慮されないのか―――様々な疑問が分裂し、自己議論のスパイラルが脳内を支配する。そんな我々を前に指揮官が発した言葉は自分の耳に入る事は無かった

 

 

「諸君―――月面へようこそ」

 

 

 

 1973年―ソビエト連邦軍空挺部隊アレクセイ・アントーノフ二等兵、月面へ降り立つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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