七つの丘の救世者   作:TISS

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モール編
1-1. 二人のクエスター


「美紀、早くー!」

 

私――祠堂 圭は、後ろを歩く親友を急かす。

 

「うん!」

 

スマートフォンをいじりながら歩いていた親友――直樹 美紀が答える。

今日はなぜか早めに授業が終わって、私たちはショッピングモール"リバーシティ・トロン"に向かっていた。

空は快晴。「依頼」も入っていないし、少しくらい寄り道してもいいと思った。

 

「美紀はどこに行く?」

「私、ほしい本があるんだ。」

 

美紀は読書家だ。図書室で、一人で黙々と本を読んでるのを見ると、もっと外に出て青春しようよ!って思う。

でもその本の知識が実際に役立ってるから、私はあまり大きなことは言えない。

 

「え、それモールじゃダメじゃん!フォーチュンは逆だよ!」

 

私がUターンしようとするのを美紀が止める。

 

「違うよ、今日ほしいのは普通の本。新刊の発売日なの。」

「なーんだ、じゃあ本屋ね。その後でゲーセン寄ってもいい?」

「もちろん。」

 

モールの一角が近づき、すぐ隣にある電気店の前を通り過ぎる。

今朝、天気予報で紫外線が強いと言っていた。

私たちは影響を受けないはずだけど、やっぱり女の子としては気になる。少し早足になる。

 

「またプリクラ撮ろうよ! サジッタの、新しい機能付きのやつ!」

 

サジッタは世界進出もしている、有名な玩具メーカーだ。

ゲームの筐体も開発していて、これから行くゲーセンの筐体も4割くらいはサジッタ製だ。

……美紀の返事がない。後ろを振り返ると、美紀は電気店のショールームにあるテレビを見つめていた。

 

「美紀ーー?」

「あ… ごめん、今行く!」

 

美紀は私に追いつき、私たちはそのまま冷房の効いたモールに入った。

 

 

 

「なんでだよ、いいから親父に代われよ!!!」

 

モールに入った私たちは、いきなり誰かに怒鳴られたのかと思った。

びっくりして声がしたほうを見るとエントランスのベンチで、学校の制服だろうか、ブレザー姿のツインテールの女の子が大声で携帯電話で話していた。

その隣には一回り身長が低い、やはり見覚えのないセーラー服を着たロングヘアの少女が座っていた。なぜか頭に毛玉?のようなものをのせている。

ツインテールの少女がベンチから立ち上がる。

 

「―――国家機密? 家族宛てのメールを検閲するのが機密だっていうのか!?」

「―――ごまかすな!! アナグラム文に返事がない時点で、駐屯地がでっちあげてるのはバレてるんだよ!!」

「り、理世さん、落ち着いてください…!」

 

激高するツインテールの少女――りぜ?を、ロングヘアの少女が必死に止めている。

エントランスにいる、私たちも含めた客から見られていることに気付いたのだろう、りぜ?は声のトーンを落として、ベンチに座りなおした。

私たちから少し距離があるので、その後の会話は聞き取れない。

 

「圭、今のなんだったのかな?」

「…わからないけど、関わらないほうがいいんじゃないかな?」

 

厄介事の臭いがしたので、美紀にそう返す。

周りの客たちも見なかったことにして買い物に戻っていくようで、私たちもそうすることにした。

最初の目的地は、私が欲しいCDのあるトミーレコードだ。

 

 

 

目当てのCDを買えた私は美紀と一緒に、モール内のベンチで休憩していた。

私は買ったCDを、さっそくポータブルCDプレイヤーにかける。

 

「んー、やっぱり羽生じゅりあの曲はいいねー!」

 

ひたすら明るいポップ調のミュージック。たまによくわからない歌詞も混じる。

羽生じゅりあは同じ県のО町にいるご当地アイドルで、最近はCD発売もしている。

電波的な歌詞に惚れたコアなファンも全国にいて、私もその1人だ。

 

「私、ここまで派手な曲調は、ちょっと…」

 

イヤホンを片耳だけ貸して美紀にも聞かせているけど、不評のようだ。

 

「えーっ、このノリがいいのに! 私、じゅりあの全国デビューもアリだと思ってるんだけどなー!」

 

ちょっと不機嫌になりながら、じゅりあの良さを力説しようとする私。

 

「ワンッ、ワンッ!!」

 

それを、犬の鳴き声が遮った。隣のベンチを見ると、カートに入った子犬が私を見つめていた。

私の意見に賛成してくれているみたいで、思わず子犬に駆け寄って、頭をなでた。

 

「可愛いー! キミもじゅりあファンかなー!?」

「ワンッ!」

「ほらー、ファンだって!」

「えー…?」

 

美紀が苦笑する。そのとき、着物姿のおばあさんが話しかけてきた。

 

「あら太郎丸、遊んでもらったの?」

 

この子犬――太郎丸?の飼い主みたいだ。勝手に触ったのはまずかったかもしれない。

 

「すみません、可愛くて。」

「いいのよ、こちらこそありがとう。ほら、お姉ちゃんにさよならって。」

「ワンッ!」

 

温和なおばあさんで、お礼を言われてしまった。

太郎丸も人間の言葉を理解したみたいに、私にほえる。

 

「じゃーねー!」

「またね。」

 

おばあさんは太郎丸の乗ったカートを押して、次の買い物へ向かう。

私は美紀に振り返る。

 

「じゃあ次、本屋行こっか?」

「うん。…あ、ちょっとその前に、電話かけさせて。」

 

 

 

美紀は電話先がつながらなかったようで、あきらめて私と本屋へ向かった。

どこに電話をかけていたかは教えてくれなかった。

しばらく漫画コーナーで立ち読みした私は、美紀のいる洋書コーナーに戻る。

美紀はまだ本を選んでいるみたいで、ドイツ語で書かれた単行本を読んでいた。

 

「ええっ、これ読むの?」

「ラテン語とドイツ語、文法が似てるから。なんとか読めるかなって。」

「ふーん…」

 

私は楽譜記号でドイツ語表記を見るくらいだから、いまいちピンとこない。

役に立つかもしれないし、今度少し教えてもらおうかな…。

そんな私の思考は、

 

「キャーッ!!!」

 

――突然の悲鳴に遮られた。

 

 

 

悲鳴はモールの吹き抜けから聞こえてきた。

美紀は本を放り出し、吹き抜けの手すりに駆け寄る。私もあわてて続く。

 

「キャーー!!」

「逃げろ、早く逃げろーー!!」

 

吹き抜けの下、1階の広間で大勢の人が逃げ惑っている。

とてつもなく嫌な予感がした。"奈落"と真正面から対峙したときのような…いや、それ以上の嫌な予感が。

館内放送がかかる。

 

「ご来店のお客様にお伝えします。ただいま店内にて、傷害事件が発生しました!現在事態の収拾に当たっておりますので、皆様におかれましてはあわ…ずに店員…指…に従…て……ガガ…ガガガガーーー」

 

ノイズで館内放送が途切れる。同時に火災報知器も鳴りはじめた。

 

「やべえんじゃねえか?」

「これ、火災じゃ…」

「マジ、マジ? 逃げよ?」

 

周りの人が一斉に逃げはじめる。私と美紀は顔を見合わせる。

 

「圭、行こう!」

「…うん!」

 

私たちも動き出す。安全な場所へ?

――違う、私達が行くのは原因の場所だ。

私と美紀は手すりを乗り越え、周りの客が止めようとするのを気にせず、1階に飛び降りた。

 

 

 

3F相当の高さから飛び降りれば、普通は大ケガをする。でも私たちは"普通"じゃなかった。

着地直前に私が数メートル規模の結界を展開、私と美紀は浮遊し衝撃をゼロにする。

結界を即時解除。周りの客には、私たちが一瞬消えて再出現したように見えているだろう。

でも周りの客は逃げ惑っていて、それどころではないらしかった。

 

「美紀、たぶんこっち!」

「うん!」

 

人波に逆らって、モールの出入口に走る。途中、血を流して逃げる客とすれ違う。

美紀からシャード通話が入る。息が切れてるからありがたい。

 

◇――圭、回復使えない!?――◇

◇――走りながらじゃ無理!――◇

◇――わかった、あとから治療しよう!――◇

 

私1人が治療に回る手もあったが、敵が強かったら美紀が危ない。

心の中で謝りつつ、無視して走った。

出入口にたどり着く。そこには、十数人の人が血を流し倒れていた。

 

「………」

 

さらにその上にのしかかる人影、…彼らは、……倒れている人を"喰って"いた。




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