(ホノカ…かなり遠くに行ったんデショウか…?)
代り映えしない、曲がりくねった通路を進みながら、そんなことを思いマス。
奇狼丸たちは、少し速足で進む私に、後ろからついてきていマス。バケネズミの足が短かったので、ついてこれるか心配デシタが、見た目より素早く動けるみたいデス。
「九条様。松原様について、教えて頂きたいのですが。」
「ホノカのこと、デスか?」
そういえば、ホノカのことは"一緒に来たパートナー"としか話していませんデシタ。
私は、奇狼丸にホノカの説明を始めマス。
「ホノカは、私の恋人デス!」
「はあ、恋人……?」
「見た目は、私より背が高い、生粋の日本人デス。髪はロングで、全体的に私よりナイスバディデス。ホノカと私の出会いは、もえぎ高校に転入した時デシタ。転入してすぐ、ホノカが誘拐される事件があったんデスが、色々あってホノカがクエスターになって、私とも親友になりマシタ。恋人になったのはもっと後デス――大事件があって、一か月くらい二人きりで過ごした時期があったんデスが、その時にホノカから告白されマシタ。ホノカは、時々大胆デス。」
「………。」
「あと、ホノカは家がレストランなので、料理が得意デス。よくお菓子を作ってプレゼントしてくれマスが、そのままお店に出せるレベルデス。奇狼丸にも、後で食べてほしいデス!」
「…九条様、お気遣いありがとうございます。松原様と九条様の関係については、よくわかったのですが――私が聞きたかったのは、別の事なのです。」
別の事――なんデショウ。ホノカのプライベートな事は話せマセンし、私とホノカだけの秘密も結構ありマス。
「えっと、なんデショウか?」
「松原様の戦い方、強さについてです。私は、後方から飛び道具で援護をする戦い方だと予想していますが。」
「……!」
当たってマス、ホノカは射撃が得意デスが――どうしてわかったんデショウ?
奇狼丸に聞いてみると、私の戦闘スタイルから予想したようデス。
「九条様が"影"と戦っている時、攻撃と攻撃に妙な"間"があったのです。あれは、後衛を意識した動きに見えました。他にも、九条様の攻めに特化した戦い方は、私どもバケネズミの、前衛の兵とも似通った部分がありますが――これらの兵は、弓兵と一緒に運用するのが常道です。この二つから、松原様は九条様の援護をする方だと予想しました。」
「全部当たってマス。奇狼丸、とても頭がいいんデスね!」
「司令官が相手の戦力を見破れなければ、コロニー同士の戦争で生き残れませんから。」
(…戦争、デスか…)
そう考えていた時、後ろを歩いている奇狼丸が、何かに気付いたようデス。
「九条様、この先で何かが起こったようです。先ほどもお話しした通り、この先の崩れた建物の階段を通って、私どもは地下に入ってきたのですが――階段から地下に吹き込む空気の匂いが、感じられなくなりました。」
「出入り口が塞がったってことデス?」
「…壁や天井が崩落したかもしれません。松原様は、崩落を止めるような力を持っているのでしょうか?」
「ホノカは、大岩でも受け止められるバリアを使えマスし、私より体が頑丈デス。大丈夫なはずデスが――」
どうして、出口が塞がれたのかが気になりマス。…なにか、大変なことが起きているのかもしれマセン。
「この先って、一本道デスか!?」
「はい、天井に開いている横穴を除けば、分かれ道はありません。」
「…私、先に出口まで行ってマス! 奇狼丸たちは、後から追いついてくだサイ!」
そう言って、通路の先へ走り出しマス。後ろから、「九条様、お気を付けください!」と奇狼丸が叫んでいマスが、出入り口までの通路には大きな危険はないはずデス。
(ホノカ――無事でいてくだサイ!)
* * *
[射撃開始。]
そう言うと同時に始まる、ガトリングガンによる掃射を、障壁でひたすら防ぐ。
[自動詠唱完了。"アイス・ブリット"]
射撃がやむと同時に、アーカイブの前面の空中に魔力を帯びた氷の弾丸がいくつも生成され――私に向けて放たれる。
弾速はかなり遅い。避けられる氷弾は避けつつ、
"簡易魔法詠唱プログラム"、初級魔法を自動生成するシステムらしい。
魔法攻撃に対処している間に、アーカイブは私に接近して、白兵戦を仕掛けてくる。
[ブレード駆動。]
迫るチェーンソーの刃を、手元に呼び戻していた浮遊盾で防ぐ。高速回転するブレードが、金属製の盾を削って火花が散る。
接近したままだと念動銃を撃てない――浮遊盾と私の間に斥力を働かせて、距離を取る。
(そこっ!)
念動銃で3連射――すべてヒット。アーカイブが衝撃で後ずさって、すぐにガトリングガンで反撃してくる。
障壁で弾丸を防ぐ。
(これで、3周目……)
さっきから、このパターンを3回は繰り返している。
アーカイブの追加内部装甲のせいか、射撃を当てても表面がへこむだけ。効果が薄くて、何十回当てれば装甲を破れるのかわからない。
精神力の消耗は早くなるけど、別の手を使うことにした。
「
加速魔法を併用して、ダッシュでガトリングの射線から抜け出す。
障壁を解除して、手元に意識を集中。
「シャイン・エンハンス!」
金色の光に包まれるイメージ――それを、念動銃に反映させる。
黄金色に輝きだした銃身を構えて――
「
光を纏った鉄球が、レーザーのようにアーカイブへ突き刺さった。
アーカイブの動きが止まって、ノイズ混じりのビープ音を出し始める。
[内部回路破損。弾丸に付与された光エネルギーにより、物理装甲が溶損。修復の開始と同時に、愧死機構誘発映像により対象の行動を抑制。]
突然、アーカイブと私の間の空間に、
きれいな女の人が助けを求めるように、こちらに手を伸ばす映像。
立体映像だと知らなければ、攻撃をためらうかもしれないけど……わかっていれば、目くらましにもならない。
立体映像ごと、アーカイブを撃ちまくる。
2射目、3射目――4つ目の光球は、アーカイブが素早く動いて回避される。同時に、立体映像も掻き消えた。
[対象に愧死機構、および攻撃抑制の発動兆候なし。先史時代の能力者と断定。内部損傷、さらに拡大――加護再現システムによる反撃を開始。]
* * *
奇狼丸より先に通路を進んでいた私は、"壁"に行く手を阻まれていマシタ。
通路全体を塞ぐ、透明な"壁"。ガラスかと思いマシタが、叩いても蹴ってもびくともしマセン。
雷切の光量を目いっぱい上げても、透明な壁の向こうへ続く通路は暗いままデス。……何かがおかしいデス。
「セイッ!」
私は、雷切で壁に斬りかかりマス。粘土を切り裂いたような重い感触と同時に、壁に白い切れ込みが入りマスが、切れ込みはすぐに消えていきマス。
(これは……)
「九条様、今のはいったい――?」
後ろから大勢の足音。奇狼丸たちが追いついてきて、私が抜刀したところも見ていたようデス。
「"結界"デス。誰かが張ったものみたいデスが、かなり頑丈デス。」
奇狼丸も、透明な壁の感触を確かめ始めマス。
「これは、どういったものなのでしょうか?」
「結界は、簡単に言うとすごく頑丈な檻デス。檻と違うのは魔法で作るのと、空間ごと閉じ込めるところデス。私もホノカも、結界を作る魔法は使えるんデスが……この世界用に
壁……結界へ、雷切を構えなおしマス。
私はアヤヤやみーくんみたいに
奇狼丸は、結界の表面に耳を当てていマス。
「私どもは、嗅覚や聴覚は優れているのですが……振動も、匂いも感じられません。」
「結界の中は小さな
奇狼丸たちが下がってから、大技の構えを取りマス。一発目――
「草薙流、弐の型――"時雨"!」
手数を重視した連撃で結界を切り裂きマスが、片っ端から修復されていきマス。
――次デス!
「伍の型、"山颪"!」
雷切を背中まで振りかぶって、垂直に叩きつけマス。一撃の威力特化のこの技は、とても当てにくい技デス。…が、相手は動かない結界。透明な壁が大きく切り裂かれて、壁全面にヒビが走りマス。
あと一押しデス…!
「奇狼丸、目を塞いでくだサイ!」
後ろに叫んでから、雷切へ魔力を注ぎ込んで構えマス。
「"稲妻・改"!」
雷切を結界に突き立てて、一気に放電――真っ白な雷光と轟音が数秒続いて、何かが砕けたような感覚がしマシタ。
●キーワード
・ライブスフィア
穂乃花と可憐の出身世界。ブルースフィアのリーフワールドで、表向きは平和な世界だった。しかし、ある日突然起こったパンデミックによって、全世界のほとんどの人間がゾンビ――"かれら"へと変貌。インフラ・ライフラインは崩壊、世界規模のマナの乱れや電波障害も起こっていて、生き残った人間は分断された状態にある。
・
男土神社に設置されていた世界間ゲートが自壊し異世界に飛び散ったため、その欠片を回収するために結成されたクエスターのグループ。ゲート修復後の移住先世界を探すのも目的の一つ。隊長は祠堂 圭、副隊長は天々座 理世。結成時は4人だったが、巡ヶ丘市周辺の探索が進むにつれ、生き残りのクエスターが次々と加入している。