七つの丘の救世者   作:TISS

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1-2. 出入口の攻防

倒れている人一人あたりに、数人の"彼ら"が群がっている。

さらにその先、モールの外の大通りでも大勢の通行人が倒れ、喰われいた。

そして、喰われた人がゆっくりと立ち上がり、他の通行人に襲いかかる。

地獄のような光景。私は呆然と立ち尽くす。

…だから、床を這いながら近づく"彼ら"に、私は気づかなかった。

 

「ガァッ!!」

「ひっ…!」

 

"彼ら"に足首をつかまれ、目が合う。

"彼ら"の目はまったく焦点が合っていなくて、皮膚のいたるところに血管が浮き上がっていた。

映画に出てくるゾンビ、そのものだと思った。

 

「圭っ、危ないっ!!」

 

至近距離から、"彼"に雷の矢が放たれた。"彼"の頭部に直撃し、轟音とともに吹き飛ぶ。

美紀の雷撃魔法――……相変わらず強力だな、と回らない思考で考えた。

美紀に肩をつかまれる。

 

「圭! しっかりしてっ! まずはアイツらを隔離しないと!」

 

ゆすられ、徐々に思考が戻ってくる。

そうだ、この現象がどの規模で起こってるのかわからないけど、結界を張れば被害の拡大は防げるはずだ。

 

「……広域結界、展開」

 

私は魔力を集中させ、結界を張ろうとする。形状はデフォルトのシャード型、大きさはモールとその周囲をカバーできる程度。

 

(――巻き込み対象、"彼ら"と美紀――除外対象、一般人――)

 

私を中心に結界の領域が拡大し、"彼ら"を飲み込む――その瞬間、結界が霧散した。

 

「…!?」

「……今のって…!? 今度は私が、obiceッ!!」

 

今度は美紀が結界を張ろうとする。

美紀の、白い魔力光をまとった結界領域が"彼ら"に触れ、やはり消滅した。

 

「まずいよ、圭、結界に巻き込めない!」

 

美紀の言うとおり、本当にまずかった。結界に巻き込めず、触れた箇所から結界が消えている。

これでは隔離どころか、防壁やシェルターとしての利用もできない。

結界による干渉で一斉に私たちに気づいたのか、十数人の"彼ら"が振り向き、じりじりと距離を詰めはじめた。

美紀が時空鞘から細剣を抜く。

 

「圭っ、迎え討とう!」

「そんなっ、あの人たちから"奈落"は感じないし、人間だよ!?」

「このままじゃ私たちがやられるよ!」

 

確かに"彼ら"に喰われたら、私たちも危険な気がした。

結界を消せるゾンビなんて聞いたことがない。奈落でなくても、何らかの神秘的存在が関わっていそうだった。

それにここで逃げたら、"彼ら"は2階にも上がってくるかもしれない。美紀の言う「私たち」は、きっとモールの上に逃げている人も指している。

私も異空間から武器――いや、ノートPCを取り出し、スタンバイから復帰させた。

即座にDTMソフトを起動、CDプレイヤーのスピーカーとワイヤレス接続。

…私は、明確に"奈落"の影響を受けていないであろう人にこれを向けるのは初めてだ。美紀は「依頼」ではぐれ魔術師と戦ったことがあるらしいけど…。

殺してしまうことを恐れた私は、初撃を美紀に任せた。

 

「美紀、なるべく胴体か足を狙って! 後から治せるかもしれないから!」

「…わかった!」

 

美紀が最初に動く。

"彼ら"の群れている数メートル手前で立ち止まり、狙いをつける。

 

「冷静に、死角から――glaciem!!」

 

美紀の左手付近から氷弾が生成、高速で発射される。"彼ら"の動きは緩慢で、氷弾は数体に命中した。

破砕された氷の煙が立ち昇る。

 

「当たった、これで…――ッ!?」

 

突然、氷煙の中から、複数の"彼ら"の手が飛び出す。

 

「美紀!!」

 

私は緊急回避用の、反射速度を増加させるマナが乗った音楽を美紀に向けて再生。

氷の煙幕があるせいで狙いは甘く、元々の回避力も相まって美紀は余裕で回避した。

氷煙が晴れ"彼ら"が姿を現す。服が凍りつき穴だらけになっているものの、その下の皮膚はまったく傷がない。

美紀がつぶやく。

 

「そんな、効いてない…!」

「なら、次は私っ!」

 

美紀の攻撃で、"彼ら"が高い魔法耐性を持っていることがわかった。手加減する必要がないと思った私は、手元のPCを操作し即興で曲を編曲する。

今日買ったじゅりあの曲をベースに、簡易魔術で魔力を補充しつつ、マナを乗せて大音量で演奏する!

音波が刺突の特性を持つマナの波長に変わり直進、避けようとしない"彼ら"にクリーンヒットする。

しかし胴体に触れたとたん、マナの波長は一瞬で掻き消えた。

 

「うそっ……!?」

 

美紀と同じく、私の演奏攻撃も効かない。

さっき私が呆然としていた時、美紀が放った雷撃を受けた"彼ら"も、今は立ち上がって平然としている。

雷撃、氷弾、刺突性のマナ……私たちの魔法攻撃がすべて弾かれている。

 

「圭! 後ろっ!」

「!?」

 

私の後ろで、床を這って近づいていた――片足がない――"彼ら"が、手を振りかざしていた。

反応できず、爪で引っかかれる。爪が防護魔法を貫き、右のふくらはぎに鋭い痛みが走る。

そのままかみつこうとする"彼ら"の頭をとっさに蹴り飛ばし、距離をとる。

 

「圭っ、大丈夫!?」

「大丈夫、ちょっとかすっただけ! でもどうしよう、攻撃が効いてない…」

 

 

 

その後も私たちは"彼ら"から距離をとりつつ、雷撃・氷弾・刺突の三種の魔法攻撃を、軌道を変える・同時当てするなど試行錯誤を繰り返した。

そのすべてが足止め程度の効果しかないとわかり始めた時、私の少し前方で魔法を撃っていた美紀が駆け出して"彼ら"に接近しだした。

 

「美紀、どうするの!?」

「近づいて剣を使う!」

「危ないよ!」

「大丈夫、避けるのは自信あるから!圭はサポートお願い!」

 

私の制止を聞かず、"彼ら"の一体に手が届くか届かないかの距離まで近づいた美紀は、両手で腰だめに細剣を構える。

 

「――ッ!!」

 

美紀が勢いよく突き出した細剣が、その"彼ら"の腰付近を貫いた。

すぐに細剣を引き抜いた美紀の前で、その"彼ら"は血を流しながらゆっくり前のめりに倒れた。

美紀が動きを止める。そこに3体の他の"彼ら"が近づき、手を振り上げる。

 

「美紀!!」

「……!」

 

私の声で近づく"彼ら"に気づいたのか、美紀は2体の引っ掻き攻撃から身をかわし、回避しきれない1体の腕を細剣で弾いた。

美紀が弾いた勢いで後退したところで、私が演奏魔法でその"彼ら"に攻撃し、足止め。その隙に、美紀はさらに距離をとった。

 

「ちょっとボーっとしてた。圭、ありがとう」

「……美紀」

 

私の隣に戻ってきた美紀の顔色は少し悪い。右手の細剣の刀身から、血がしたたり落ちている。

たぶん美紀は、武器で「人」を傷つけたのは初めてなんだと思う。今の様子からすると、前に話していたはぐれ魔術師との戦闘も、おそらくは長射程魔術の撃ち合いだ。

"彼ら"が物理的な攻撃には弱いことははっきりしたが、この戦法を続けて、美紀一人に負担をかけ続けるのはまずい気がした。

でも私は近接武器がないし、"彼ら"の攻撃をかわすのも難しい……。

そう思っている間にも、足止めしていた3体の"彼ら"が動き出し、美紀が私の前に飛び出す。

襲いかかる"彼ら"の腕を連続で剣で弾いて、隙をついて刺突を行った。

 

 

 

「圭、奥2体足止めお願い!」

「う、うん!」

 

それからしばらく、私が演奏魔法による足止めと補助、美紀が"彼ら"の攻撃をかわしつつ迎撃、という流れを繰り返した。

美紀の剣はすでに6体ほど"彼ら"の足を貫いて、動けなくしている。今も攻撃を回避し続ける美紀の制服は、かなりの量の返り血がついていた。

 

(あと1、2、……7体!)

 

ここにいる"彼ら"を倒して、店外の"彼ら"が入れないように出入り口を塞ぐ。

私の魔力はまだ半分以上は残っている感覚がある。美紀の体力が続いてくれれば、きっとできる――

そう思っていたとき時、ガラスの割れる音が広間に響いた。

 

「なに…?」

 

私は一旦PCを操作する手を休め、あたりを見回す。

すると、モールの角の部分、交差点に面した全面張りの窓ガラスが大きく割れているのが見えた。

そして、割れた箇所から大勢の"彼ら"が侵入してきていた。少なく見積もっても20人以上はいる。

あわてて、前線で"彼ら"の攻撃を回避し続ける美紀に声をかける。

 

「美紀、大変! アイツら、窓からも入ってきてる!」

「えっ…!」

 

美紀も弱っている"彼ら"を氷弾で牽制しつつ、後退して周囲を見回す。

そして新たな"彼ら"が侵入している箇所を見て、顔色を変えた。

 

「圭、一旦逃げよう!」

「えっ、でも、ここから逃げたら…!」

「うん、わかってる。でもあの人数と戦える体力と魔力がない!」

 

私たちは普段魔法メインで戦ってるだけあって、保有マナの総量は高い。

でも"彼ら"に魔法攻撃が通らないせいで非効率な戦いを強いられていて、あの数だと魔法が効いたとしても厳しいものがある。

 

「わかった、一旦どこかに逃げよう!」

 

"彼ら"が美紀の魔法攻撃から立ち直り、私たちに迫る。

美紀が氷弾を発射し、再度動きを止める。逃げるにしても、長時間足止めできるなにかが欲しい。

あたりに役立つものがないか探す。

パラソルつきのテーブルベンチ、鳴り続ける火災報知器、梁や鋼板が交差する天窓、……これだ!

即座に刺突性を持たせた演奏を、真上、天窓の梁の根本部分を狙って2連発。

 

「美紀、こっち!」

 

当たるか確認する前に美紀の手を引き、その場から走って離れる。

うまく当たったみたいで、6階相当の天窓付近から私たちが元いた場所に、梁や鋼板、割れたガラスが降り注ぐ。

追ってくる"彼ら"は、梁や鋼板に足を取られ、次々転倒した。

私たちはそのまま、止まっているエスカレーター――なぜかさっきまでいた避難客がいない――を一足飛びに駆け上がった。

 

 

 

2階に上がってすぐの通路で、私たちと反対を向く1人の人影を見つける。

私はその人に近づいて話しかける。

 

「すみません、みんなが避難した場所ってどこですか? 私たち、少し逃げ遅れちゃって」

 

その人がゆっくり振り返る。そして、

 

「…グァァッ!!」

「!!」

 

私にとびかかる。

とっさに横に避けようと身をひねるが、爪が左腕を引っ掻き、痛みが走る。今日2度目の負傷。

その人は、そのまま床に倒れこむ。

 

「圭っ!! …この態勢なら、これで!」

 

後ろにいた美紀がその人に駆け寄って、細剣を逆手に構えた。そのまま、振り下ろす。

バスッ、という音とともに細剣の先端がその人の頭部を貫いた。

その人は動かなくなる。

 

「大丈夫、かまれてない!?」

「……うん」

「よかった…」

 

2階には"彼ら"を通してなかったはずなのになんで、どうして――

混乱して、思考がストップする。

 

「この階も安全じゃないみたい、もっと上に行こう!」

「………」

「圭!!」

 

大声で我に返る。そうだ、とにかく安全な場所に逃げないといけない。

美紀が手を差し出す。私はうなずいて、美紀の手を取る。

再び駆けだそうとしたとき、私の頭の中に直接、声が響き渡った。

 

◇――だれか、助けて、だれか助けてください……!!――◇

 

完全オープンなシャード通信――私たちと同じクエスターからの、SOSの声だった。

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