七つの丘の救世者   作:TISS

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外伝
旧世界より 01


強烈な風圧に、轟々と絶え間なく聞こえる風切り音。視界いっぱいに広がる雲、その切れ間から見える遥か下の大地。わたし……松原 穂乃花は今、高空を自由落下していた。

結界(<<シールエリア>>)を展開しようとしても、この葉世界(リーフワールド)に術式が対応しておらず、すぐに霧散してしまう。

「おーーーちーーーるーーーっ!!!」

連続する気圧変化で片耳の鼓膜が破れたのか、自分の声の聞こえ方がおかしい。地面に激突してもブレイクすれば死にはしない、と頭ではわかっていても、初めての体験に絶叫してしまう。

◇―――ホノカ、両手を広げて、全身で風を受けるようにしてくだサイ! それで少しはスピードが遅くなりマス!―――◇

わたしのかなり上…高い場所を降下中のカレンちゃんから、シャード通信が入る。頭を抱えるような姿勢をやめて両手両足を広げると、若干ながら落下スピードが遅くなった気がした。

◇―――すぐに追いつきマス!―――◇

上から、ボン、ボンと散発的な爆発音が聞こえてきた。見上げると、カレンちゃんが落下姿勢を変えて増速、さらに身体の至近距離で初級の火炎魔法(ファイアアロー)を暴発、爆発させて強引な加速も行っていた。

◇―――カ、カレンちゃん! 火傷しちゃうよ!―――◇

◇―――慣れてるから大丈夫デス!―――◇

カレンちゃんはさらに加速と方向修正を繰り返して、あっという間にわたしと同じ高度まで降りてきた。火傷や服の焦げはなく、そのままわたしと手を繋いでくれる。

カレンちゃんのこなれた様子と手の暖かさ、あと見慣れた金髪に、心が落ち着いていく。

◇―――カレンちゃんすごい! 助かったよー!―――◇

◇―――SkyDivingはパパに何回か連れて行ってもらいマシタ~―――◇

カレンちゃんがすごく頼もしく思える。スカイダイビング経験者として、パラシュートがない時の対処法も知っているのかも――

◇―――でも、さすがにParachuteなしは初めてデス~ スリル満天デスね!―――◇

……無理だったみたい。わたしの表情が凍り付いたのを見て、カレンちゃんが慌ててフォローする。

◇―――大丈夫デス! ワタシの魔法でゆっくり着地できるはずデス!―――◇

◇―――どういう魔法なの?―――◇

◇―――まず、地面にぶつかる前に、目の前でFlameMagic(フレイムオーブ)を爆発させマス。―――◇

◇―――うん。―――◇

◇―――爆発でワタシたちの体が浮き上がって、ゆっくり着地できマス。以上デス。―――◇

つまりカレンちゃんがさっき見せてくれた空中制動を、規模を大きくして行うだけだった。荒っぽいけど確かに減速はできる。でも、この方法の最大の問題点は…。

◇―――名付けて、カレンエアクッション!―――◇

◇―――その魔法、わたしたちが燃え上がっちゃわないかな…?―――◇

カレンちゃんの放つ全力の火炎魔法(フレイムオーブ)……陽子ちゃんクラスの受け流し体術(<<ブロッキングガード>>)障壁魔法(<<マジックシールド>>)ならともかく、わたしの念動防御(<<念力盾>>)では防ぎきれる気がしない。

◇―――………―――◇

カレンちゃんは少し考え込んだ後、パーカーを脱いで袖の部分を足首に固定、裾を両手で持った。下からの風圧でパーカーが大きく膨らむ。

◇―――パーカーパラシュートデース!―――◇

◇―――それに二人は無理がありすぎるよぉ!―――◇

そんなことを話している間にも、高度はどんどん下がっていく。雲がほとんどなくなってきて、下の様子がはっきり見えてくる。私たちの真下は一面の蒼色で……海面だ! 海面なら地面への墜落よりはマシ、と思ったところで、ゆっくり着水するアイディアがひらめいた。

◇―――カレンちゃん、さっきのエアクッションの魔法、使えるかも!―――◇

わたしがカレンちゃんに伝えたのは、火炎魔法(フレイムオーブ)で海水を水蒸気爆発させてその爆風で減速する、という着水方法だった。この方法でも高温のスチームは受けてしまうけど、"カレンエアクッション"よりは温度が下がるはずだった。

◇―――ホノカ、ナイスアイディアデス! サポートは頼みマス!―――◇

◇―――うん!―――◇

海面はもう目の前で、今のスピードからして着水までは20秒もない。カレンちゃんは海面が射程に入り次第すぐ火炎魔法(フレイムオーブ)を撃てるよう、魔法陣を展開(<<ブーストマジック>>)して集中している。わたしはカレンちゃんに加速と精度向上の補助魔法(<<ヘイスト>>と<<クイック>>)をかけつつ、念動防御(<<念力盾>>)の展開準備。時空鞘から浮遊盾(ドローンシールド)も装備して衝撃に備える。

「ファイアー!!」

海面まで十数メートルのところで限界まで増幅(<<マナチャージ>>)した火炎魔法(フレイムオーブ)が解放され、突然高熱源にさらされた海水が大爆発。視界が真っ白になり、展開する念動防御(<<念力盾>>)に大きな負荷がかかる。すさまじい爆風と水蒸気の高熱にさらされたのは数秒間で、すぐに身体が横方向へ放り出される。

「Nooooooo!!!」

別の方向へ吹き飛んだカレンちゃんの叫び声が聞こえた直後、わたしは頭から海中に突入した。

……あとから聞いた話だと、海岸を探索していたバケネズミが、100m以上はある水柱を目撃していたらしい。カレンちゃんの攻撃能力の高さを再認識させられる話だった。

 

 

あの後、わたしたちは浮遊盾(ドローンシールド)を浮き子代わりに使って休憩しながら、かなりの距離を泳いで陸地に上陸した。降下中にも少し見えていた陸地は見渡す限りの砂漠で、ところどころには底が見えない深い地割れ。上陸地点も砂漠がそのまま砂浜になっていて、まばらにある大岩以外は何もない場所だった。

魔法抵抗の薄いカレンちゃんが負っていた火傷を回復魔法(<<ヒール>>)で治した後、わたしたちは海岸線に沿って歩いている。

「うう~、体中がベタベタしマス!」

「どこかで塩を洗い流したいよね…」

海水でずぶ濡れだったのが歩いているうちに乾いてきて、塩分がベタついて気持ち悪い。こうなるのがわかっていたから河川に突き当たるように海岸線を辿っていたけど、いくら歩いても小川すら見つからない。飲料水を使うわけにはいかないし、わたしもカレンちゃんも氷結系(<氷>)の魔法は使えないから、空気中からの真水生成もできない。砂に足が埋まりやすいのも相まって、かなり疲れがたまってきた。

「ホノカ…もうbreakでもしないと歩けないデス~」

カレンちゃんが音を上げたので、近場の大岩に上って休憩をとることにした。障害物が他になく、岩の上の見晴らしはかなり良い。渡界前に時空マントへ押し込んだいろ○すを取り出して、丸々一本飲み干す。

「この世界、ホントに人がいるのかな……ここ、どこなんだろう…」

靴をひっくり返して中に溜まった砂を払い落としながら、つぶやく。圭ちゃんやココアちゃんがいなくて渡界できないこと、ここまで門扉欠片(ゲートフラグメ)どころか人間活動の痕跡すら見られないこと… いろいろと不安になってくる。

「大丈夫デス!」

「ひゃっ…!?」

突然、カレンちゃんが後ろから抱きついてくる。カレンちゃんの長くてきれいな――塩で少しべたついているけど――金髪が耳にかかる。心拍数が上がる。

「きっと砂漠の先に人がいマス! もしいなくても、ワタシがいるから一人じゃないデス!」

「…カレンちゃん…」

明るいカレンちゃんの言葉、励ましで不安が晴れていく。…そうだ、わたしたちはまだ、この葉世界(リーフワールド)についてほとんど知らない。ここは、この世界における広大な無人地帯なのかもしれない。それに、鋼鉄戦界(スティールウォー)大協約世界(グラン=スフィア)とは、人間の生活形態が全く異なる可能性もある。前向きな考えが次々と湧いてくる。

「……カレンちゃん、その、ありがとう」

「ドウイタシマシテー」

落ち着いてくると、カレンちゃんに抱きつかれて、顔が間近にある今の状態が恥ずかしくなってきた。カレンちゃんの吐息が首筋にかかって、思わず身じろぎする。

「カレンちゃん、そろそろ離してくれると――」

「ぺろっ」

「ひゃあああぁぁぁっ!!」

カレンちゃんがいきなり頬を舐めてきて、驚いて叫んでしまう。驚きと恥ずかしさと嬉しさがごちゃ混ぜになって、口をパクパクさせるけど言葉が出てこない。

「なんか前よりしょっぱいデース」

「海に入ったから当たり前だよ! いきなり恥ずかしいよーっ!」

「もっと恥ずかしいコト、したことありマスのに~」

追い打ちのセリフで、忘れもしない、巡ヶ丘駐屯地での夜のことがフラッシュバックする。顔から火が出そうだ。

カレンちゃんも思い出して恥ずかしくなったのか、わたしの背中から離れて、すぐ横に座る。…少しの間、気まずいような時間が流れる。わたしの顔の火照りが冷めてきたころ、カレンちゃんはまたしても爆弾発言を放った。

「そ、そういえばホノカ、トーキョーの都心のほうには行くんデスカー?」

「…………えっ?」




●登場キャラクター

 ・松原(まつばら) 穂乃花(ほのか)
  クラス:サイキック12/エンチャンター11/アタッカー5
  装備品:バスターライフル+レセプトボックス/ドローンシールド/念動魔手Ⅲ/念力甲冑/ハーミットローブ/マジックリングⅡ
  メジャー特技:《インビジブルハンド》/《キュア》/《ヒートコントロール》/《ライフシフト》/《ヒールⅡ》/《キュアⅡ》/《ヒール》/《シールエリア》/《ダブルアシスト》/《応急手当》
  パンデミックで滅びゆく"ライブスフィア"に残る生存者を救うため、"門扉欠片"を集めているクエスターの少女。

 ・九条(くじょう) 可憐(カレン)
  クラス:アタッカー12/キャスター11/サムライ5
  装備品:雷切/フレイムオーブ/ブレイドストーム/狩猟者の皮鎧/マジックリングⅡ
  メジャー特技:《シールエリア》/《強打》/《剣舞綾乱》/《ライフシフト》
  長い金髪が特徴的なクエスターの少女。穂乃花のパートナーかつ恋人。
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