七つの丘の救世者   作:TISS

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旧世界より 03

穴の外周を浮遊盾(ドローンシールド)で広げて入れるようにしたわたしたちは、元・ビルの探索を始めていた。

降りた先、おそらくエレベーターの出入口だった部分から先は、溶け落ちたコンクリートが天井からつらら状にぶらさがっていて、頭をぶつけないように中腰になる必要があった。内部は完全に真っ暗で、カレンちゃんの日本刀"雷切"の放電光を照明代わりして進む。懐中電灯も時空マントの中にあるけど、電池が手に入らない状況では温存しておきたい。

「カレンちゃん、明かり、どれくらい持ちそう?」

「2時間くらいなら大丈夫デス!」

先を歩くカレンちゃんに聞いてみると、大体予想した通りの答え。"雷切"の放電能力は魔力が必要で、その魔力も"使い手"のものでないと受け付けない。帰り道や戦闘が起こる事、カレンちゃんの疲労も考えると、1時間を過ぎたら外に戻りたい。

そう考えながら進んでいたら、カレンちゃんが突然立ち止まって、追突してしまった。

「わっ! …カレンちゃん?」

「ホ、ホノカ…」

前方、カレンちゃんが指さした先では天井が途切れて、さらに上の階の、つららだらけの天井が見えていた。床には砕けたコンクリートの塊と、おびただしい数の白いなにかが散らばっている。

「…? …なんだろう?」

わたしはよく見てみようと近づいてみて――

「…っ!!」

――それが、人骨だったことに気付く。

……いったん目をつぶって、深呼吸する。元の世界(ライブスフィア)では"かれら"、大協約世界(グランスフィア)では斃れた兵士。死体は見慣れたつもりだったけど、ここまでの数の白骨死体は初めてだった。カレンちゃんが心配そうに聞いてくる。

「ホノカ、大丈夫デスか?」

「うん、ちょっとびっくりしたけど、もう平気だよ。…調べてみよう」

「手を合わせて行きマショウ」

 

その場で軽く手を合わせてから、人骨が落ちている…というより、積もっている付近に所持品が落ちてないかを調べ始める。やっていることは完全に死体漁りだけど、圧倒的に情報不足なこの状況では仕方がない。

天井が高くなっている空間は約10メートル四方で、おそらく吹き抜けがあった場所。"雷切"を掲げたカレンちゃんが照明を担当して、わたしが足元の人骨を、念動銃(レセプトライフル)を棒代わりにしてかき分けていく。

「………」

かなり精神が削られる作業だった。落ちている人骨は相当風化が進んでいるのか、銃身でのけると簡単に砕ける。

「なんか顔色悪いデスよ…! 私が交代しマス!」

「ううん、大丈夫だよ。わたしじゃ、照明は代われないから」

本当は懐中電灯を使えば代われるけど、カレンちゃんにこの作業をやらせたくない、という気持ちが大きかった。そのまま作業を続けていると――

「わっ……!」

――突然明かりが消えた。正確には、カレンちゃんが"雷切"への魔力供給をやめて、放電光がなくなった。

「ホノカ、無理しないでくだサイ! 代われないなら、少し休むデス!」

「や、休むから、明かり消さないでっ!」

"雷切"以外に光源はゼロ、完全に真っ暗でなにも見えない。もう一度明かりを灯してもらって、人骨が落ちていない壁際まで移動した。

二人で床に座り込んで、壁によりかかる。

「…ワタシも、少し休みマス」

再び"雷切"の明かりが消えて、真っ暗になる。感じられるのは、壁や床の冷たさと、すぐ近くにいるカレンちゃんの息遣いだけ。

「ホノカ、そのままワタシのほうに、横になるデス」

「……? …うん」

カレンちゃんがいる(と思う)ほうに上半身を倒していくと、頬に暖かくて柔らかい感覚。暗くて見えないけど、これは――

(カレンちゃんの太もも…!)

いわゆる膝枕の状態。カレンちゃんに"する"ことは時々あるけど、"された"ことはない。顔が火照ってくるけど、それよりも――

(…なんか、眠い……)

この世界に転移する前、私たちの世界(ライブスフィア)でゲートに入ったのは夕方ごろ。転移後のこちらの世界で5時間以上はたっているはずだから、ライブスフィア時間換算だと深夜。眠くなるはずだった。

「ホノカ、少ししたら起こしマスよ。 私は起きてマス」

「カレンちゃん、眠くないの…?」

「私、夜型デスから!」

そういえば、今朝…ライブスフィアの出発日も、カレンちゃんが起きてきたのは昼すぎだった。夜中、携帯ゲーム機で遊んでるのは知ってるけど、何のゲームをしているんだろう。

(……あったかい……眠い…)

膝枕をするとカレンちゃんはすぐ寝てしまうけど、その気持ちもわかる。この暖かさと安心感には、抗えない……。意識が遠のいていく。

「Goodnight,My sweet Honoka」

………。

……。

…。

 

   *   *   *   *

 

真っ暗な部屋に、ホノカの寝息の音だけが響いていマス。私は小声で…寝ている人が起きないくらいの声で、ホノカに話しかけマス。

「ホノカ、起きてマス……?」

しばらく待っても返事はありマセン。熟睡しているみたいデス。

手元にある"雷切"の明かりをわずかに灯しても、起きる様子はありマセン。

(…時間的に、数時間は起きないデスね)

転移直後のスカイダイビングに遠泳、砂漠歩きに加えて、このビルに入るときの掘削作業。ホノカは私より相当体力がありマスが、疲れはたまっているはずデス。

慎重に、ホノカが起きないように頭を支えながら、膝枕になっている足を引き抜きマス。

そのまま地べたに落とすわけにはいかないノデ、着ていたパーカーを脱いで丸めて、枕代わりにしておきマス。

"少しあたりを調べてきます すぐもどります"

起きる前に戻るつもりデスが、念のためメモを枕元に置いてから、私はホノカのそばを離れマシタ。そのまま部屋中央の骨の山……ではなく、その先、私たちが入ってきた通路とは逆側の、部屋の隅に向かいマス。

(…やっぱり、デス)

部屋の隅の床には、大人が余裕で入れるくらいの穴が開いていて、僅かに風が吹き出していマシタ。ホノカは気づいていなかったみたいデスが、立ち止まっている時に風の流れを感じていマシタ。この穴も絶対どこかに繋がっているはずデス。

(偵察スタート、デス!)

そのまま飛び込もうと考えマシタ…が、深さによっては戻るのに苦労しそうデス。GateFlagment(門扉欠片)で"イメージの翼"を使えばどんな高さでも大丈夫デスが、使ったら魂を削りマスし、一発でホノカにバレるデス。

(そういえば、みーくんから渡されたロープがありマス!)

時空マントから取り出したロープの先端を、少し離れた柱に括り付けマス。問題はロープの長さが足りるか、デスが…。

私は試しに、足元に落ちていた瓦礫のかけらを穴に投げ込んでみマシタ。

(大丈夫デス、ね)

落としてすぐ、コーンという音が帰ってきマシタ。音がするまでの時間から高低差は十数メートル、この程度ならロープなしで、壁面をよじ登って戻るのも不可能ではありマセン。

とはいえせっかくロープを用意したし帰りは楽したいノデ、柱に結んでいないほうを穴に投げ込んでおきマス。

穴に飛び降りようとする前に、ホノカが寝ているほうを振り返りマシタ。

「ホノカ、ちょっと調べてくるデス!」

そう言い残して、私は穴に飛び込みマシタ。

 

落ちる途中、壁を数回蹴って、さらに雷切を壁面に接触させて減速しマス。が、それでもかなりの勢いで、穴の下の地面に着地。衝撃で地面にひび割れが走りマシタ。…さすがに足が痛いデス、クエスターでなければ骨折してマス。

足の痛みが引くのを待つ間に、あたりを見回しマス。

(…ここは、洞窟の中デス?)

降りた先は、直径3~4mはある洞窟の通路デシタ。私が降りてきた大穴以外の場所では、天井から無数に氷柱状の岩がぶら下がっていて、昔パパに連れて行ってもらった鍾乳洞を思い出させマス。雷切の放電量を上げて周囲を照らしマスが、通路がカーブしていて、あまり遠くは見通せマセン。

スマートフォンのコンパス機能で確認すると、通路は南から北へ緩く右カーブしているようデス。

(どっちに行きマショウ…?)

風は南から流れてきていマスが、私とホノカが目指していた東京は北デス。

(んー……)

少し悩んだ後、とりあえず北に進んでみることにしマシタ。もし行き止まりなら、戻ってくればいい話デス。

 

それから十分後。

北へ向かう洞窟の通路は一本道デスがカーブの連続で、進むうちに地面の凹凸が激しくなってきマシタ。湿度がかなり高くなってきて、服の中がジメジメしマス。

(この光ってるのはなんでショウ?)

少し前から壁や天井に、緑色に光る斑点が増えてきマシタ。かなり明るくて、雷切の放電に使う魔力の節約になっていマスが、少し不気味デス。

(……?)

前から――私が進んでいる急カーブの先から、何かが地面を擦るような音が聞こえてきマス。…大型の野生動物でショウか。私は立ち止まって、念のため攻撃魔法の発動準備(<<マナチャージ>>)をしながら、音を立てる「何か」が現れるのを待ちマス。

そして、曲がった通路の先から姿を現したのは――

「――W,Whats!?」

――体長3m以上はありそうな、巨大なleech()デシタ。体表はオレンジと黒をベースにした色。洞窟の天井に届く異常なほどの巨体に、思わず後ずさりしてしまいマス。

巨大蛭は私に気付いたのか、しばらく動きを止めマシタが――突然、私に向かって突進してきマス!

「わ、私を食べるつもりデスか!? 美味しくないデスよ!?」

そう叫んで、横っ飛びに突進を回避しようとしマスが…洞窟の通路には、巨体を避けられるスペースがありマセン!

(迎え撃ちマス!)

巨大蛭の尖った頭部は目と鼻の先、炎の魔法(フレイムオーブ)を撃てる距離ではありまセン。準備していた魔法式を破棄、雷切を正面に構えて、刀身に氣を注ぎ込みマス(<<練気>>)

「――シッ!!」

目前に迫ったところで、一閃(<<強打>>)。巨大蛭の頭部が、胴体から切断されて吹き飛びマス。

(――マ、マズッ…!)

頭部が無くなった胴体が突進した勢いを保ったまま、切断面から体液を噴き出しつつ、私を押し潰そうとしマス。即座に加速魔法(<<ハイダッシュ>>)を発動、バックステップでなんとか退避しマシタ。

土煙を立てて、巨大蛭の胴体は地面に倒れこみマス。

「…あ、危なかったデスー…」

押し潰されるのはもちろん、ただでさえ海を泳いだ時の塩分がついている服を、これ以上汚すのは絶対に嫌デス。いろんな意味で危ないところデシタ。

(それにしても、これ、クリーチャーじゃないデスよね…?)

地面に横たわった巨大蛭の死骸は、掻き消えたりせずにそのまま残っていマス。この世界独自の生物みたいデスが、そうなると――。

(これ以上進むのは危ないデスね…)

先に進んだら、この巨大蛭より強い生物に鉢合わせしそうデス。一撃、それか数回の攻撃で倒せる相手なら大丈夫デスが、それ以上だとGateFlagment(門扉欠片)やシャードの加護を使うことになりマス。

(そういえば、パーカーもないデス!)

防御効果のあるパーカーは、ホノカの安眠枕になってマス。障壁を張れず回復もポーション頼みな今の私は、防御面が丸裸デス。

(すぐに戻ったほうがよさそうデス)

引き返すことを決めた私デスが、その前にやっておくことがありマシタ。巨大蛭の死骸から少し離れて、スマートフォンのカメラを起動。全体が移るように撮影しようとしマス。ホノカに危険を伝えるために、写真は絶対必要デス。

(うーん…うまく映らないデス…)

明るさが足りないせいか、撮れるのはぶれたり、ピンボケした写真ばかりデス。まともな写真を撮ろうと、雷切の放電を調節して四苦八苦しマスが…。

――その時デシタ、遠くからかすかに、なにかの音が聞こえてきたのは。

「―――Д▼―――$Φ―――」

(…ッ!?)

私は写真を撮るのを止めて、雷切への照明用の魔力供給もカットして、その「音」を聞き取ることに集中しマス(<<第六感>>)

「―――▲ΕʣÁŒ!―――ギギギッ!―――」

「―――□Єݡඐ――ɦɐØ#Ñ!―――」

暗闇の中、何かの鳴き声、叫びにも聞こえる音。それに紛れて、カキン、カラン、という乾いた音。

(この音――金属……違いマス、武器が落ちる音デス!)

次の瞬間、スマートフォンを時空マントに放り込んで、雷切を再点灯。私はホノカのいるビルへ戻るという考えも忘れて、音が聞こえたほう……巨大蛭が進んできた、さらに先の通路へ駆け出していマシタ。

「助けに、行きマス――!」




●エネミー
 
 ・虎斑陸蛭(トラフクガビル)
  ◆データ
   種別:動物  レベル:8  サイズ:LL
   体:16/+5  反:14/+4  知:15/+5
   理:14/+4  意:9/+3  幸:10/+3
   命:11  回:8  魔:1  抗:9
   行:13  HP:85  MP:58
   攻1:<刺>+27/白兵  C値:12
    対:単体  射:至近  代:なし
   攻2:<殴>+26/白兵  C値:12
    対:範囲(選択)  射:至近  代:なし
   戦移:18m  全移:36m
   防:斬7/刺8/殴10/炎6/氷6/雷6/光3/闇2
   特技:《突貫》《猛攻》
  ◆解説
   八輪陸蛭から進化した、体長4m程度の巨大な蛭。爬虫類並みの知能を持ち、音や振動で獲物の数・大きさを把握して襲いかかる。東京地下の生態系では上位の捕食者だが、天敵の黒後家壁蝨(クロゴケダニ)からは一目散に逃走する。

●キーワード

 ・雷切
  雷の魔力を宿す付与刀(エンチャントソード)。"人工的に特殊能力が付与された"という点で、魔剣や魔刀とは異なる。魔力を通すと使える放電の能力は、攻撃・照明・発電用など汎用性が高く、純粋な剣士より魔法剣士向き。希少品で、九条家の当主は権力でこの刀を入手、娘に贈った。

 ・大協約世界(グランスフィア)
  穂乃花と可憐が訪れたことがある葉世界(リーフワールド)。人間のほかに、天龍や両性具有者などの知的生命体、"導術"を使う超能力者が存在する世界。

 ・東京/ライブスフィア
  日本の首都。穂乃花たちは、東京は"かれら"が溢れて壊滅状態だと考えている。

 ・東京/ニュースフィア
  かつて古代文明が栄えた日本の首都。地上は不毛の大地と化し、地下には危険な生物が跋扈する地獄のような場所となっている。

 ・ひざまくら
  親子や夫婦、恋人の特権。穂乃花が可憐にすると、数分で可憐は眠ってしまう。ちなみに可憐は、穂乃花に「もっと柔らかい枕」を要求したことがある。
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