穴の外周を
降りた先、おそらくエレベーターの出入口だった部分から先は、溶け落ちたコンクリートが天井からつらら状にぶらさがっていて、頭をぶつけないように中腰になる必要があった。内部は完全に真っ暗で、カレンちゃんの日本刀"雷切"の放電光を照明代わりして進む。懐中電灯も時空マントの中にあるけど、電池が手に入らない状況では温存しておきたい。
「カレンちゃん、明かり、どれくらい持ちそう?」
「2時間くらいなら大丈夫デス!」
先を歩くカレンちゃんに聞いてみると、大体予想した通りの答え。"雷切"の放電能力は魔力が必要で、その魔力も"使い手"のものでないと受け付けない。帰り道や戦闘が起こる事、カレンちゃんの疲労も考えると、1時間を過ぎたら外に戻りたい。
そう考えながら進んでいたら、カレンちゃんが突然立ち止まって、追突してしまった。
「わっ! …カレンちゃん?」
「ホ、ホノカ…」
前方、カレンちゃんが指さした先では天井が途切れて、さらに上の階の、つららだらけの天井が見えていた。床には砕けたコンクリートの塊と、おびただしい数の白いなにかが散らばっている。
「…? …なんだろう?」
わたしはよく見てみようと近づいてみて――
「…っ!!」
――それが、人骨だったことに気付く。
……いったん目をつぶって、深呼吸する。
「ホノカ、大丈夫デスか?」
「うん、ちょっとびっくりしたけど、もう平気だよ。…調べてみよう」
「手を合わせて行きマショウ」
その場で軽く手を合わせてから、人骨が落ちている…というより、積もっている付近に所持品が落ちてないかを調べ始める。やっていることは完全に死体漁りだけど、圧倒的に情報不足なこの状況では仕方がない。
天井が高くなっている空間は約10メートル四方で、おそらく吹き抜けがあった場所。"雷切"を掲げたカレンちゃんが照明を担当して、わたしが足元の人骨を、
「………」
かなり精神が削られる作業だった。落ちている人骨は相当風化が進んでいるのか、銃身でのけると簡単に砕ける。
「なんか顔色悪いデスよ…! 私が交代しマス!」
「ううん、大丈夫だよ。わたしじゃ、照明は代われないから」
本当は懐中電灯を使えば代われるけど、カレンちゃんにこの作業をやらせたくない、という気持ちが大きかった。そのまま作業を続けていると――
「わっ……!」
――突然明かりが消えた。正確には、カレンちゃんが"雷切"への魔力供給をやめて、放電光がなくなった。
「ホノカ、無理しないでくだサイ! 代われないなら、少し休むデス!」
「や、休むから、明かり消さないでっ!」
"雷切"以外に光源はゼロ、完全に真っ暗でなにも見えない。もう一度明かりを灯してもらって、人骨が落ちていない壁際まで移動した。
二人で床に座り込んで、壁によりかかる。
「…ワタシも、少し休みマス」
再び"雷切"の明かりが消えて、真っ暗になる。感じられるのは、壁や床の冷たさと、すぐ近くにいるカレンちゃんの息遣いだけ。
「ホノカ、そのままワタシのほうに、横になるデス」
「……? …うん」
カレンちゃんがいる(と思う)ほうに上半身を倒していくと、頬に暖かくて柔らかい感覚。暗くて見えないけど、これは――
(カレンちゃんの太もも…!)
いわゆる膝枕の状態。カレンちゃんに"する"ことは時々あるけど、"された"ことはない。顔が火照ってくるけど、それよりも――
(…なんか、眠い……)
この世界に転移する前、
「ホノカ、少ししたら起こしマスよ。 私は起きてマス」
「カレンちゃん、眠くないの…?」
「私、夜型デスから!」
そういえば、今朝…ライブスフィアの出発日も、カレンちゃんが起きてきたのは昼すぎだった。夜中、携帯ゲーム機で遊んでるのは知ってるけど、何のゲームをしているんだろう。
(……あったかい……眠い…)
膝枕をするとカレンちゃんはすぐ寝てしまうけど、その気持ちもわかる。この暖かさと安心感には、抗えない……。意識が遠のいていく。
「Goodnight,My sweet Honoka」
………。
……。
…。
* * * *
真っ暗な部屋に、ホノカの寝息の音だけが響いていマス。私は小声で…寝ている人が起きないくらいの声で、ホノカに話しかけマス。
「ホノカ、起きてマス……?」
しばらく待っても返事はありマセン。熟睡しているみたいデス。
手元にある"雷切"の明かりをわずかに灯しても、起きる様子はありマセン。
(…時間的に、数時間は起きないデスね)
転移直後のスカイダイビングに遠泳、砂漠歩きに加えて、このビルに入るときの掘削作業。ホノカは私より相当体力がありマスが、疲れはたまっているはずデス。
慎重に、ホノカが起きないように頭を支えながら、膝枕になっている足を引き抜きマス。
そのまま地べたに落とすわけにはいかないノデ、着ていたパーカーを脱いで丸めて、枕代わりにしておきマス。
"少しあたりを調べてきます すぐもどります"
起きる前に戻るつもりデスが、念のためメモを枕元に置いてから、私はホノカのそばを離れマシタ。そのまま部屋中央の骨の山……ではなく、その先、私たちが入ってきた通路とは逆側の、部屋の隅に向かいマス。
(…やっぱり、デス)
部屋の隅の床には、大人が余裕で入れるくらいの穴が開いていて、僅かに風が吹き出していマシタ。ホノカは気づいていなかったみたいデスが、立ち止まっている時に風の流れを感じていマシタ。この穴も絶対どこかに繋がっているはずデス。
(偵察スタート、デス!)
そのまま飛び込もうと考えマシタ…が、深さによっては戻るのに苦労しそうデス。
(そういえば、みーくんから渡されたロープがありマス!)
時空マントから取り出したロープの先端を、少し離れた柱に括り付けマス。問題はロープの長さが足りるか、デスが…。
私は試しに、足元に落ちていた瓦礫のかけらを穴に投げ込んでみマシタ。
(大丈夫デス、ね)
落としてすぐ、コーンという音が帰ってきマシタ。音がするまでの時間から高低差は十数メートル、この程度ならロープなしで、壁面をよじ登って戻るのも不可能ではありマセン。
とはいえせっかくロープを用意したし帰りは楽したいノデ、柱に結んでいないほうを穴に投げ込んでおきマス。
穴に飛び降りようとする前に、ホノカが寝ているほうを振り返りマシタ。
「ホノカ、ちょっと調べてくるデス!」
そう言い残して、私は穴に飛び込みマシタ。
落ちる途中、壁を数回蹴って、さらに雷切を壁面に接触させて減速しマス。が、それでもかなりの勢いで、穴の下の地面に着地。衝撃で地面にひび割れが走りマシタ。…さすがに足が痛いデス、クエスターでなければ骨折してマス。
足の痛みが引くのを待つ間に、あたりを見回しマス。
(…ここは、洞窟の中デス?)
降りた先は、直径3~4mはある洞窟の通路デシタ。私が降りてきた大穴以外の場所では、天井から無数に氷柱状の岩がぶら下がっていて、昔パパに連れて行ってもらった鍾乳洞を思い出させマス。雷切の放電量を上げて周囲を照らしマスが、通路がカーブしていて、あまり遠くは見通せマセン。
スマートフォンのコンパス機能で確認すると、通路は南から北へ緩く右カーブしているようデス。
(どっちに行きマショウ…?)
風は南から流れてきていマスが、私とホノカが目指していた東京は北デス。
(んー……)
少し悩んだ後、とりあえず北に進んでみることにしマシタ。もし行き止まりなら、戻ってくればいい話デス。
それから十分後。
北へ向かう洞窟の通路は一本道デスがカーブの連続で、進むうちに地面の凹凸が激しくなってきマシタ。湿度がかなり高くなってきて、服の中がジメジメしマス。
(この光ってるのはなんでショウ?)
少し前から壁や天井に、緑色に光る斑点が増えてきマシタ。かなり明るくて、雷切の放電に使う魔力の節約になっていマスが、少し不気味デス。
(……?)
前から――私が進んでいる急カーブの先から、何かが地面を擦るような音が聞こえてきマス。…大型の野生動物でショウか。私は立ち止まって、念のため
そして、曲がった通路の先から姿を現したのは――
「――W,Whats!?」
――体長3m以上はありそうな、巨大な
巨大蛭は私に気付いたのか、しばらく動きを止めマシタが――突然、私に向かって突進してきマス!
「わ、私を食べるつもりデスか!? 美味しくないデスよ!?」
そう叫んで、横っ飛びに突進を回避しようとしマスが…洞窟の通路には、巨体を避けられるスペースがありマセン!
(迎え撃ちマス!)
巨大蛭の尖った頭部は目と鼻の先、
「――シッ!!」
目前に迫ったところで、
(――マ、マズッ…!)
頭部が無くなった胴体が突進した勢いを保ったまま、切断面から体液を噴き出しつつ、私を押し潰そうとしマス。即座に
土煙を立てて、巨大蛭の胴体は地面に倒れこみマス。
「…あ、危なかったデスー…」
押し潰されるのはもちろん、ただでさえ海を泳いだ時の塩分がついている服を、これ以上汚すのは絶対に嫌デス。いろんな意味で危ないところデシタ。
(それにしても、これ、クリーチャーじゃないデスよね…?)
地面に横たわった巨大蛭の死骸は、掻き消えたりせずにそのまま残っていマス。この世界独自の生物みたいデスが、そうなると――。
(これ以上進むのは危ないデスね…)
先に進んだら、この巨大蛭より強い生物に鉢合わせしそうデス。一撃、それか数回の攻撃で倒せる相手なら大丈夫デスが、それ以上だと
(そういえば、パーカーもないデス!)
防御効果のあるパーカーは、ホノカの安眠枕になってマス。障壁を張れず回復もポーション頼みな今の私は、防御面が丸裸デス。
(すぐに戻ったほうがよさそうデス)
引き返すことを決めた私デスが、その前にやっておくことがありマシタ。巨大蛭の死骸から少し離れて、スマートフォンのカメラを起動。全体が移るように撮影しようとしマス。ホノカに危険を伝えるために、写真は絶対必要デス。
(うーん…うまく映らないデス…)
明るさが足りないせいか、撮れるのはぶれたり、ピンボケした写真ばかりデス。まともな写真を撮ろうと、雷切の放電を調節して四苦八苦しマスが…。
――その時デシタ、遠くからかすかに、なにかの音が聞こえてきたのは。
「―――Д▼―――$Φ―――」
(…ッ!?)
私は写真を撮るのを止めて、雷切への照明用の魔力供給もカットして、
「―――▲ΕʣÁŒ!―――ギギギッ!―――」
「―――□Єݡඐ――ɦɐØ#Ñ!―――」
暗闇の中、何かの鳴き声、叫びにも聞こえる音。それに紛れて、カキン、カラン、という乾いた音。
(この音――金属……違いマス、武器が落ちる音デス!)
次の瞬間、スマートフォンを時空マントに放り込んで、雷切を再点灯。私はホノカのいるビルへ戻るという考えも忘れて、音が聞こえたほう……巨大蛭が進んできた、さらに先の通路へ駆け出していマシタ。
「助けに、行きマス――!」
●エネミー
・
◆データ
種別:動物 レベル:8 サイズ:LL
体:16/+5 反:14/+4 知:15/+5
理:14/+4 意:9/+3 幸:10/+3
命:11 回:8 魔:1 抗:9
行:13 HP:85 MP:58
攻1:<刺>+27/白兵 C値:12
対:単体 射:至近 代:なし
攻2:<殴>+26/白兵 C値:12
対:範囲(選択) 射:至近 代:なし
戦移:18m 全移:36m
防:斬7/刺8/殴10/炎6/氷6/雷6/光3/闇2
特技:《突貫》《猛攻》
◆解説
八輪陸蛭から進化した、体長4m程度の巨大な蛭。爬虫類並みの知能を持ち、音や振動で獲物の数・大きさを把握して襲いかかる。東京地下の生態系では上位の捕食者だが、天敵の
●キーワード
・雷切
雷の魔力を宿す
・
穂乃花と可憐が訪れたことがある
・東京/ライブスフィア
日本の首都。穂乃花たちは、東京は"かれら"が溢れて壊滅状態だと考えている。
・東京/ニュースフィア
かつて古代文明が栄えた日本の首都。地上は不毛の大地と化し、地下には危険な生物が跋扈する地獄のような場所となっている。
・ひざまくら
親子や夫婦、恋人の特権。穂乃花が可憐にすると、数分で可憐は眠ってしまう。ちなみに可憐は、穂乃花に「もっと柔らかい枕」を要求したことがある。