七つの丘の救世者   作:TISS

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旧世界より 06

「九条様、体調はいかがでしょうか?」

「大丈夫デス、10分もあれば全快デス!」

私は、奇狼丸に背負われて通路を戻っていマス。体力回復のポーションは飲みマシタが、完全回復には少し時間がかかりマス。

しばらく、背負ってもらうことにしマシタ。

「…私の部下が"影"と接触した時には、数分で体全体が硬直して、どのような処置をしても助かりませんでした。九条様は、"魔法"で防いでいるのでしょうか?」

奇狼丸には、私の事情は簡単に話していありマス。別の世界から危険物(ゲートフラグメ)を回収に来たこと、神の欠片(シャード)を持つクエスターであること。さっきの炎や雷は"魔法"であること……いきなりそんな話をされて、本当に信じてもらえたかは怪しいデス。

「違いマス、これは"ブレイク"――危ないときに復活できる、クエスターの切り札デス。」

「切り札……九条様でも、危うい状況だったという事でしょうか。危険を冒してまで"影"を撃退していただき、本当に感謝しております。」

「私も背負ってもらってマスし、困ったときはお互い様デス!」

私がそう言うと、奇狼丸は黙り込んでしまいマシタ。…何かおかしなことを言ったデショウか?

「どうしマシタ?」

「…いえ、私の知っている神様――呪力を持つ人間とは、私どもバケネズミとの接し方があまりにも違い、驚いていたのです。先ほどの、別世界から来たという話は、正直半信半疑だったのですが……信じざるを得ないようです。」

…この世界の人間は、バケネズミとどう接しているのデショウか? 話を聞かないといけないデス。

「今度は、奇狼丸たちのことが聞きたいデス。あと、"神様"と呪力のことも教えてくだサイ!」

「わかりました。ではまず、私どもバケネズミという種族についてお話します。」

奇狼丸の話によると、バケネズミは"ハダカデバネズミ"というネズミが進化して、人間並みの知能を持った存在らしいデス。地下に、バケネズミの女王が統治するコロニーを作って生活していて、奇狼丸はコロニーの司令官だそうデス。

「そしてここからが重要なのですが…すべてのコロニーは神様の管理下にあり、普段から忠誠を誓い、様々な役務を提供しているのです。戦争など、コロニーとして行動をする際には、その旨を許可して頂かなければなりません。」

「その……神様っていうのは、そんなにすごい人たちなんデスか?」

「神様が生まれながらに持つ力――呪力は、非常に強力です。念じるだけで物を動かし、風を起こし、九条様のように炎や雷を起こすことも可能です。その圧倒的な力をもって、神様は私どもを監督していらっしゃるのです。」

念じるだけで物を動かす――真っ先に、ホノカの顔が思い浮かびマシタ。もしかして、超能力のことデショウか…?

「呪力は、生まれた時から全員使えるんデスか?」

「子供は、"祝霊"が訪れ"真言"を授けられるまで使えないと聞きますが――それ以降であれば、全員ですな。」

疑問が一つ解けマシタ。奇狼丸が私に低姿勢なのは、バケネズミを管理する超能力者?と、外見が同じだからデス。

(門扉欠片(ゲートフラグメ)回収の手伝いは、"神様"に頼んだほうが良さそうデス。そういえば、東京(ここ)のことをまだ聞いてないデス。)

さらに質問しようとしたとき、私を背負っている奇狼丸が立ち止まりマシタ。

「九条様、天井からロープが降りてきていますが、あちらが降りてきた場所でしょうか?」

奇狼丸の背中から降りて確認しマス。確かに私が降りてきた場所デスが――

(……? 地面が変デス)

ロープが降りてきている縦穴の真下の地面に、直径50センチくらいの小さなクレーターができていて、私が飛び降りた時の足跡が消えていマス。

「奇狼丸、ここで待っていて下サイ!」

そう言い残して、私はロープを伝って縦穴をよじ登りマス。

案の定、登った先の、白骨死体が散らばる部屋の中には、ホノカの姿はありませんデシタ。

外とつながるエレベーター方面の通路に足跡がないことを確認して、私は奇狼丸が待つ地下通路に戻りマス。

私の表情を見て、奇狼丸が心配そうに聞いてきマス。

「九条様、同行者の松原様のいる場所に戻るという話でしたが――何かあったのですか?」

「待っていたはずのホノカが行方不明デス。たぶん――」

私たちが来た方向とは逆、南に延びる通路の先を指さしマス。

「私を探して、あの先に行ってマス。できれば、探すのを手伝ってほしいデス。」

 

   *   *   *

 

暗い、曲がりくねった通路を、ペンライトの明かりだけを頼りに走る。

でも、いくら走ってもカレンちゃんは――カレンちゃんの戦っている音すら聞こえてこない。

進んでいる方向が間違っているのか、それとも――

(そんなわけ、ない!!)

そう自分に言い聞かせる。

(でも、それなら…… 私、逆の方向に走っているの?)

一旦、立ち止まる。

…立ち止まってあたりを見回して、いつの間にか、明らかに人工的に作られた部屋にいることに気が付いた。

奥行き15メートルくらいの、天井が高めの長方形の部屋。壁や床、天井はコンクリートで出来ていて、部屋の隅の壁に大穴が開いて、今まで通ってきた通路につながっていた。

反対側には上り階段。そして部屋の中央に、真っ黒な四角い箱が転がっていた。

(ここ……シェルター?)

ずっと前、クエスターになりたてだった頃に、綾ちゃんに連れられて見学した"連盟"のシェルターに似ていた。

(あの箱は…?)

部屋の真ん中に鎮座している縦横1メートルくらいの箱は、シェルター内で異様な存在感を放っていた。

形は完全に正方形、表面は真っ黒で、金属製なのかペンライトの光を反射している。

床や壁が劣化してヒビだらけなのに対して、その箱の表面には傷一つなく、ホコリすらかぶっていない。

気になって、箱に近づいたとき――その箱が、喋った(・・・)

[警備範囲内に人間の生体反応を検知。スタンバイモード解除。]

「!?」

小さな駆動音とともに、箱が立ち上がった――正確には、箱の底面の一部が小窓のように開いて、そこから4本の脚部パーツが生えてきた。

脚部パーツは関節部が球体になっていて、かなり俊敏に動き回れそうだ。

[検知人物の顔画像情報の登録なし。…直ちに身分証明書の提示を求める。]

「えっと、私のこと?」

[敷地内に他の生体反応なし。身分証明書の提示を求める。]

どうやら、この箱…ロボット?は、このシェルターを含む私有地を警備しているらしい。

「身分証って、生徒証でもいいの? あと、あなたは何て呼んだら――」

[生徒証も顔写真入りであれば可能。当機の名称は"AIOSTAR 自立防衛型機密情報アーカイブ DW02-008LC"。現在時刻より988年11か月8日14時間53分前より、ランダルコーポレーション川崎支店を警備中。]

(988年…!?)

"アーカイブ"が、とんでもない年数を話し出した。崩れたビルを見た時から、ここが私のいた世界(ニュースフィア)から見て未来にあたる世界だとは予想していたけど――ここまで先だとは思わなかった。

このアーカイブが稼働したのが2010年代だとして、今は3000年代……千昭君の出身年代より、400年くらい先。

元の世界に戻るとき、千秋君を"接続点"にするのは不可能で、これだと門扉欠片(ゲートフラグメ)を使ったとしても自力で帰れない。

それに、"ランダル"――私のいた世界(ニュースフィア)が今の状況になった、元凶かもしれない企業。ここは、その支店らしい。

[繰り返す。有効な身分証明書を提示せよ。提示のない場合、機密保持条項に基づいた処分を執行する。]

アーカイブが物騒なことを言い始めたので、生徒証を取り出して見せる。988年前の――しかも、崩壊した並行世界の生徒証が有効とは思えないけど、これ以外に身分証は持ってない。

[認証開始。千葉県立もえぎ高等学校第2学年、松原穂乃花。セキュリティー登録者検索…該当なし。関係者データベース全件検索…一部該当あり。もえぎ高校について校長にゲスト権限あり。"松原穂乃花"を再検索…該当なし。]

私は、普通のレストランの一人娘。そんなデータベースに載っているわけがない。

(でも、校長にゲスト権限って…?)

[不法侵入者と認定。対象、松原穂乃花の生体情報をスキャン開始。身長157センチ、体重51キログラム、体脂肪率24パーセント――]

「ま、待って! すぐ出ていくから!」

いきなり女の子のプライバシーを暴露し始めたのは腹が立つけど、このアーカイブとトラブルを起こすつもりはない。

すぐに立ち去る、という私の言葉を無視して、アーカイブは私の走査(スキャン)を続けていく。

[緊急事態発生。対象から、すでに廃棄された研究用ウイルスを微量検知。空気感染を起こすα系列と推定。]

「えっ…!?」

[A-1警報の限定的な発令。マニュアルに基づき、対象の隔離と確保を実行する。ワイヤー射出。]

アーカイブの筐体の一部が開いて、私めがけて2本のワイヤーが飛び出してきた。

とっさに、時空鞘から浮遊盾を展開――ワイヤーは、割り込んだ浮遊盾に絡みついた。

「ちょ、ちょっと…!?」

アーカイブがワイヤーを巻き取ろうとするので、私も念動力で浮遊盾を引っ張り、綱引き状態になる。

[対象、マジックアイテムおよび念動力で制御された武装を使用。――警告する。抵抗をやめなさい。]

「私、探している人がいるの! 後で戻ってくるから、放して!」

もしカレンちゃんがここに来ていたのなら、侵入者を捕まえようとするアーカイブとトラブル、というか戦闘になっていたはず。シェルター内に戦闘の痕跡はないから、カレンちゃんがいる場所はこの先じゃない――すぐに、通路を戻らないといけない。

[繰り返す、抵抗を中止せよ。]

「急いでるから、ワイヤーをほどいて!」

アーカイブが言う"ウイルス"や"マニュアル"は、間違いなく私のいた世界(ニュースフィア)に関わることだけど、今、のんびり話を聞いている暇はない。

すぐにでもアーカイブを無視して通路を戻りたいけど、ワイヤーが絡みついた状態では、浮遊盾を時空鞘へ戻せない。

後ずさりながら、浮遊盾をさらに引っ張る。2~3メートル引っ張ったところで、ケーブル長が限界に達したのか、ワイヤーを巻き取ろうとするアーカイブ本体が引きずられ始めた。

[ワイヤー駆動装置(アクチュエーター)に過大な負荷。逃走と判断し、機密保持条項の例外規定に基づいた逃走防止用マジックアイテムの使用を自己申請。…許可。]

嫌な予感がして、浮遊盾を投げ出して通路に向かって走り出す。だけど――一足遅かった。

[内蔵結界子を使用。敷地全体を外部空間から隔離開始。]

光源もないのに周りが明るくなり、身体が軽くなる感覚。すぐ目の前の通路との出入り口には、透明な壁ができていた。…結界の中に、閉じ込められた。

[非殺傷装備により対象を速やかに拘束。スタンワイヤー発射。]

アーカイブの開口部から、浮遊盾を拘束しているものとは別のワイヤーが飛び出してきた。私は横っ飛びに避けるけど、2射目、3射目が襲いかかってくる。

2射目は瞬間加速の魔法で強引に回避して、3射目は障壁で受ける。障壁にぶつかったワイヤーが白くスパークする――高電圧がかかっているみたいだ。

(結界を解除しないと…!)

結界を解除するには、解呪か、攻撃による破壊、結界主を倒すといった方法があるけど……私は解呪魔法なんて使えないし、アーカイブが襲ってくる以上、攻撃破壊している余裕もない。

――アーカイブを、破壊するしかない。

[スタンワイヤー効果なし。麻酔銃ユニットを起動。]

アーカイブの前面から銃身が生える。…一体、いくつ武装を持っているんだろう。

[射撃開始。]

障壁を連続展開。放たれた吹き矢型の飛翔物を弾きつつ、時空鞘から念動銃を取り出して、構える。

(発射(シュート)っ!)

障壁の解除と同時に、銃身内部に詰められた鉄球(たま)を能力で加速させ――射撃。

放たれた鉄球はアーカイブにクリーンヒット、バコン!という音を立てて、黒い外装にめり込む。

…貫通できなかった、かなり頑丈に作られているみたい。

[銃撃により装甲破損。火薬反応なし。念動力で弾丸を加速する銃型補助具による射撃と推定。]

「ねえ、結界を解いて。解いてくれたら、これ以上あなたに攻撃しないから!」

[………]

アーカイブが沈黙する。そして――

[対象の抵抗により、機密情報保存領域に損傷が及ぶと判断。例外規定10条に基づき、対象の排除を自己申請。]

(ダメ――話が通じない!)

話が通じないどころか、"排除"と言いだした。これは…まずいかもしれない。

[申請許可。ガトリングユニット、チェーンカッター、追加内部装甲を展開。簡易魔法詠唱プログラムおよびチャンバーシステム、ロード開始。]

アーカイブの側面が開いて、明らかに殺傷目的の武器が次々と出てくる。このロボット、アーカイブというより戦闘兵器…?

[戦闘開始(オープンコンバット)。]




●エネミー
 
 ・DW02-008LC(改)
  ◆データ
   種別:機械  レベル:22  サイズ:M
   体:13/+4  反:15/+5  知:14/+4
   理:18/+6  意:12/+4  幸:10/+3
   命:21  回:19  魔:23  抗:18
   行:20  HP:195  MP:138
   攻1:<殴>+45/射撃(錬金)  C値:12
    対:単体  射:20m  代:なし
   攻2:<斬><雷>+45/白兵  C値:12
    対:単体  射:至近  代:なし
   攻3:<氷>+40/魔法  C値:12
    対:単体  射:15m  代:なし
   戦移:20m  全移:40m
   防:斬10/刺10/殴11/炎8/氷6/雷4/光3/闇3
   加護:《フツノミタマ》《オーディン》《アカラナータ》
   特技:《※サイコ・バスター》《再起動》《再起動Ⅱ》《限定解除》《無形の守護》《自己領域》《妨害能力》《見破り》《BS無効:邪毒》《タンブルシュート》《チャージショット》《ヒール》
  ◆解説
   アイオスター社が開発した、機密情報保存用のロボット。多数の防衛装備や自己メンテナンス機能を搭載しているが、ランダルが開発元に無断で自律進化型の警備AIを追加した結果、軍の小隊をも殲滅できる戦闘兵器と化した。
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