「九条様、体調はいかがでしょうか?」
「大丈夫デス、10分もあれば全快デス!」
私は、奇狼丸に背負われて通路を戻っていマス。体力回復のポーションは飲みマシタが、完全回復には少し時間がかかりマス。
しばらく、背負ってもらうことにしマシタ。
「…私の部下が"影"と接触した時には、数分で体全体が硬直して、どのような処置をしても助かりませんでした。九条様は、"魔法"で防いでいるのでしょうか?」
奇狼丸には、私の事情は簡単に話していありマス。別の世界から
「違いマス、これは"ブレイク"――危ないときに復活できる、クエスターの切り札デス。」
「切り札……九条様でも、危うい状況だったという事でしょうか。危険を冒してまで"影"を撃退していただき、本当に感謝しております。」
「私も背負ってもらってマスし、困ったときはお互い様デス!」
私がそう言うと、奇狼丸は黙り込んでしまいマシタ。…何かおかしなことを言ったデショウか?
「どうしマシタ?」
「…いえ、私の知っている神様――呪力を持つ人間とは、私どもバケネズミとの接し方があまりにも違い、驚いていたのです。先ほどの、別世界から来たという話は、正直半信半疑だったのですが……信じざるを得ないようです。」
…この世界の人間は、バケネズミとどう接しているのデショウか? 話を聞かないといけないデス。
「今度は、奇狼丸たちのことが聞きたいデス。あと、"神様"と呪力のことも教えてくだサイ!」
「わかりました。ではまず、私どもバケネズミという種族についてお話します。」
奇狼丸の話によると、バケネズミは"ハダカデバネズミ"というネズミが進化して、人間並みの知能を持った存在らしいデス。地下に、バケネズミの女王が統治するコロニーを作って生活していて、奇狼丸はコロニーの司令官だそうデス。
「そしてここからが重要なのですが…すべてのコロニーは神様の管理下にあり、普段から忠誠を誓い、様々な役務を提供しているのです。戦争など、コロニーとして行動をする際には、その旨を許可して頂かなければなりません。」
「その……神様っていうのは、そんなにすごい人たちなんデスか?」
「神様が生まれながらに持つ力――呪力は、非常に強力です。念じるだけで物を動かし、風を起こし、九条様のように炎や雷を起こすことも可能です。その圧倒的な力をもって、神様は私どもを監督していらっしゃるのです。」
念じるだけで物を動かす――真っ先に、ホノカの顔が思い浮かびマシタ。もしかして、超能力のことデショウか…?
「呪力は、生まれた時から全員使えるんデスか?」
「子供は、"祝霊"が訪れ"真言"を授けられるまで使えないと聞きますが――それ以降であれば、全員ですな。」
疑問が一つ解けマシタ。奇狼丸が私に低姿勢なのは、バケネズミを管理する超能力者?と、外見が同じだからデス。
(
さらに質問しようとしたとき、私を背負っている奇狼丸が立ち止まりマシタ。
「九条様、天井からロープが降りてきていますが、あちらが降りてきた場所でしょうか?」
奇狼丸の背中から降りて確認しマス。確かに私が降りてきた場所デスが――
(……? 地面が変デス)
ロープが降りてきている縦穴の真下の地面に、直径50センチくらいの小さなクレーターができていて、私が飛び降りた時の足跡が消えていマス。
「奇狼丸、ここで待っていて下サイ!」
そう言い残して、私はロープを伝って縦穴をよじ登りマス。
案の定、登った先の、白骨死体が散らばる部屋の中には、ホノカの姿はありませんデシタ。
外とつながるエレベーター方面の通路に足跡がないことを確認して、私は奇狼丸が待つ地下通路に戻りマス。
私の表情を見て、奇狼丸が心配そうに聞いてきマス。
「九条様、同行者の松原様のいる場所に戻るという話でしたが――何かあったのですか?」
「待っていたはずのホノカが行方不明デス。たぶん――」
私たちが来た方向とは逆、南に延びる通路の先を指さしマス。
「私を探して、あの先に行ってマス。できれば、探すのを手伝ってほしいデス。」
* * *
暗い、曲がりくねった通路を、ペンライトの明かりだけを頼りに走る。
でも、いくら走ってもカレンちゃんは――カレンちゃんの戦っている音すら聞こえてこない。
進んでいる方向が間違っているのか、それとも――
(そんなわけ、ない!!)
そう自分に言い聞かせる。
(でも、それなら…… 私、逆の方向に走っているの?)
一旦、立ち止まる。
…立ち止まってあたりを見回して、いつの間にか、明らかに人工的に作られた部屋にいることに気が付いた。
奥行き15メートルくらいの、天井が高めの長方形の部屋。壁や床、天井はコンクリートで出来ていて、部屋の隅の壁に大穴が開いて、今まで通ってきた通路につながっていた。
反対側には上り階段。そして部屋の中央に、真っ黒な四角い箱が転がっていた。
(ここ……シェルター?)
ずっと前、クエスターになりたてだった頃に、綾ちゃんに連れられて見学した"連盟"のシェルターに似ていた。
(あの箱は…?)
部屋の真ん中に鎮座している縦横1メートルくらいの箱は、シェルター内で異様な存在感を放っていた。
形は完全に正方形、表面は真っ黒で、金属製なのかペンライトの光を反射している。
床や壁が劣化してヒビだらけなのに対して、その箱の表面には傷一つなく、ホコリすらかぶっていない。
気になって、箱に近づいたとき――その箱が、
[警備範囲内に人間の生体反応を検知。スタンバイモード解除。]
「!?」
小さな駆動音とともに、箱が立ち上がった――正確には、箱の底面の一部が小窓のように開いて、そこから4本の脚部パーツが生えてきた。
脚部パーツは関節部が球体になっていて、かなり俊敏に動き回れそうだ。
[検知人物の顔画像情報の登録なし。…直ちに身分証明書の提示を求める。]
「えっと、私のこと?」
[敷地内に他の生体反応なし。身分証明書の提示を求める。]
どうやら、この箱…ロボット?は、このシェルターを含む私有地を警備しているらしい。
「身分証って、生徒証でもいいの? あと、あなたは何て呼んだら――」
[生徒証も顔写真入りであれば可能。当機の名称は"AIOSTAR 自立防衛型機密情報アーカイブ DW02-008LC"。現在時刻より988年11か月8日14時間53分前より、ランダルコーポレーション川崎支店を警備中。]
(988年…!?)
"アーカイブ"が、とんでもない年数を話し出した。崩れたビルを見た時から、ここが
このアーカイブが稼働したのが2010年代だとして、今は3000年代……千昭君の出身年代より、400年くらい先。
元の世界に戻るとき、千秋君を"接続点"にするのは不可能で、これだと
それに、"ランダル"――
[繰り返す。有効な身分証明書を提示せよ。提示のない場合、機密保持条項に基づいた処分を執行する。]
アーカイブが物騒なことを言い始めたので、生徒証を取り出して見せる。988年前の――しかも、崩壊した並行世界の生徒証が有効とは思えないけど、これ以外に身分証は持ってない。
[認証開始。千葉県立もえぎ高等学校第2学年、松原穂乃花。セキュリティー登録者検索…該当なし。関係者データベース全件検索…一部該当あり。もえぎ高校について校長にゲスト権限あり。"松原穂乃花"を再検索…該当なし。]
私は、普通のレストランの一人娘。そんなデータベースに載っているわけがない。
(でも、校長にゲスト権限って…?)
[不法侵入者と認定。対象、松原穂乃花の生体情報をスキャン開始。身長157センチ、体重51キログラム、体脂肪率24パーセント――]
「ま、待って! すぐ出ていくから!」
いきなり女の子のプライバシーを暴露し始めたのは腹が立つけど、このアーカイブとトラブルを起こすつもりはない。
すぐに立ち去る、という私の言葉を無視して、アーカイブは私の
[緊急事態発生。対象から、すでに廃棄された研究用ウイルスを微量検知。空気感染を起こすα系列と推定。]
「えっ…!?」
[A-1警報の限定的な発令。マニュアルに基づき、対象の隔離と確保を実行する。ワイヤー射出。]
アーカイブの筐体の一部が開いて、私めがけて2本のワイヤーが飛び出してきた。
とっさに、時空鞘から浮遊盾を展開――ワイヤーは、割り込んだ浮遊盾に絡みついた。
「ちょ、ちょっと…!?」
アーカイブがワイヤーを巻き取ろうとするので、私も念動力で浮遊盾を引っ張り、綱引き状態になる。
[対象、マジックアイテムおよび念動力で制御された武装を使用。――警告する。抵抗をやめなさい。]
「私、探している人がいるの! 後で戻ってくるから、放して!」
もしカレンちゃんがここに来ていたのなら、侵入者を捕まえようとするアーカイブとトラブル、というか戦闘になっていたはず。シェルター内に戦闘の痕跡はないから、カレンちゃんがいる場所はこの先じゃない――すぐに、通路を戻らないといけない。
[繰り返す、抵抗を中止せよ。]
「急いでるから、ワイヤーをほどいて!」
アーカイブが言う"ウイルス"や"マニュアル"は、間違いなく
すぐにでもアーカイブを無視して通路を戻りたいけど、ワイヤーが絡みついた状態では、浮遊盾を時空鞘へ戻せない。
後ずさりながら、浮遊盾をさらに引っ張る。2~3メートル引っ張ったところで、ケーブル長が限界に達したのか、ワイヤーを巻き取ろうとするアーカイブ本体が引きずられ始めた。
[ワイヤー
嫌な予感がして、浮遊盾を投げ出して通路に向かって走り出す。だけど――一足遅かった。
[内蔵結界子を使用。敷地全体を外部空間から隔離開始。]
光源もないのに周りが明るくなり、身体が軽くなる感覚。すぐ目の前の通路との出入り口には、透明な壁ができていた。…結界の中に、閉じ込められた。
[非殺傷装備により対象を速やかに拘束。スタンワイヤー発射。]
アーカイブの開口部から、浮遊盾を拘束しているものとは別のワイヤーが飛び出してきた。私は横っ飛びに避けるけど、2射目、3射目が襲いかかってくる。
2射目は瞬間加速の魔法で強引に回避して、3射目は障壁で受ける。障壁にぶつかったワイヤーが白くスパークする――高電圧がかかっているみたいだ。
(結界を解除しないと…!)
結界を解除するには、解呪か、攻撃による破壊、結界主を倒すといった方法があるけど……私は解呪魔法なんて使えないし、アーカイブが襲ってくる以上、攻撃破壊している余裕もない。
――アーカイブを、破壊するしかない。
[スタンワイヤー効果なし。麻酔銃ユニットを起動。]
アーカイブの前面から銃身が生える。…一体、いくつ武装を持っているんだろう。
[射撃開始。]
障壁を連続展開。放たれた吹き矢型の飛翔物を弾きつつ、時空鞘から念動銃を取り出して、構える。
(
障壁の解除と同時に、銃身内部に詰められた
放たれた鉄球はアーカイブにクリーンヒット、バコン!という音を立てて、黒い外装にめり込む。
…貫通できなかった、かなり頑丈に作られているみたい。
[銃撃により装甲破損。火薬反応なし。念動力で弾丸を加速する銃型補助具による射撃と推定。]
「ねえ、結界を解いて。解いてくれたら、これ以上あなたに攻撃しないから!」
[………]
アーカイブが沈黙する。そして――
[対象の抵抗により、機密情報保存領域に損傷が及ぶと判断。例外規定10条に基づき、対象の排除を自己申請。]
(ダメ――話が通じない!)
話が通じないどころか、"排除"と言いだした。これは…まずいかもしれない。
[申請許可。ガトリングユニット、チェーンカッター、追加内部装甲を展開。簡易魔法詠唱プログラムおよびチャンバーシステム、ロード開始。]
アーカイブの側面が開いて、明らかに殺傷目的の武器が次々と出てくる。このロボット、アーカイブというより戦闘兵器…?
[
●エネミー
・DW02-008LC(改)
◆データ
種別:機械 レベル:22 サイズ:M
体:13/+4 反:15/+5 知:14/+4
理:18/+6 意:12/+4 幸:10/+3
命:21 回:19 魔:23 抗:18
行:20 HP:195 MP:138
攻1:<殴>+45/射撃(錬金) C値:12
対:単体 射:20m 代:なし
攻2:<斬><雷>+45/白兵 C値:12
対:単体 射:至近 代:なし
攻3:<氷>+40/魔法 C値:12
対:単体 射:15m 代:なし
戦移:20m 全移:40m
防:斬10/刺10/殴11/炎8/氷6/雷4/光3/闇3
加護:《フツノミタマ》《オーディン》《アカラナータ》
特技:《※サイコ・バスター》《再起動》《再起動Ⅱ》《限定解除》《無形の守護》《自己領域》《妨害能力》《見破り》《BS無効:邪毒》《タンブルシュート》《チャージショット》《ヒール》
◆解説
アイオスター社が開発した、機密情報保存用のロボット。多数の防衛装備や自己メンテナンス機能を搭載しているが、ランダルが開発元に無断で自律進化型の警備AIを追加した結果、軍の小隊をも殲滅できる戦闘兵器と化した。