東方剣舞録 〜希望と絶望〜   作:カルート

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三話 夢が記す物

「……おいおい、日が沈んでしまったぞ」

 

 俺は相変わらず白玉楼を彷徨っていた、歩いていれば誰か見つかる頃だと楽天的に考え、適当に歩いたのが間違いだったようだ

 

 少なくとも自分の世界では迷う事などあまりなかったはずなのだが、今は見渡せど同じに見える場所を通っている気がするのだ

 此処の広さや部屋の数は住人の数に比例してないのではないかと通る度に頭をよぎる

 

 ぶちぶちと愚痴を漏らしつつ歩き続ける事数分、やっとお目当ての人物と遭遇する事が出来た

 

「あ、零一さん探しましたよ」

 

「お、ちょうど良かった。妖夢探したぞ」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「零一さんも探していたんですか?」

 

「あ、いや。探していたというか……彷徨っていたというか……」

 

「……つまり迷ってたんですね」

 

 まさにその通りなのだが、これがプライドなのか肯定する言葉を出す事に詰まってしまう

 ただ仕方のない事だと思うのだ、この屋敷が広過ぎる、なのにあの食事の量である、エンゲル係数とやらが大変な数値を示しているであろう

 ふと疑問に思うのだがその収入源は何処から得ているのだろうか

 

 と失礼な事を考えているところに妖夢が用件を伝えてきた

 

「夕飯の準備が出来たのでお呼びしたのですが、部屋にいなかったのでこうして探しに来たというわけです」

 

「……あーいや、そのすまん」

 

「あ、いえっそんなに掛からなかったですし、問題ないです」

 

「いやそうじゃなく……えーとほらさっきの──」

 

「……っ……忘れてください!!」

 

「え、あ、あぁ分かった」

 

 忘れろというのならもう口にする事はないだろうが余程恥ずかしかったのだろう、顔が真っ赤に染まっている

 やはりそういう事に耐性がないのだろうか、もしあったのならそれはそれでどうかと思うのだが……

 

「幽々子さんに全部食べられる前に行こうか。昼食べてないから腹が減って……」

 

「あはは……。一応大事を取って、私達の分は分けておいてあるので平気だと思いますよ」

 

「お、妖夢ナイスだ」

 

「ないす…?」

 

「良くやったって意味だな。とりあえず早いとこ行くか。もし幽々子さんが待っていたら拙い」

 

「ふむ、なるほど……外の世界にはそんな言葉があるのですか。……っと、確かにそうですね。行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 時間を飛ばして夕飯後、俺は風呂場へと向かっていた

 

 あの後居間へと向かったのだが、案の定幽々子さんは夕飯を平らげていた訳である

 俺達は分けてあった分を食べていたのだが幽々子さんからの食べ足りない視線が物凄い刺さって、非常に食べづらい夕飯を終えたのであった

 

「疲れた……。今日一日だけで色々……いや、あり過ぎだろ」

 

 朝早くに蓮子に呼び出され、大妖怪である八雲さんと会い無理やり幻想郷へと連れて来られ、その後の白玉楼での騒動……今までの人生で此れ程濃い一日などなかったであろう

 

「……普通じゃない一日だったな。いやこっちの世界からしたらこれが普通なのか……?」

 

 すでに気持ちの悪い穴や幽霊、ましてや亡霊などを見ているのだから何が起こっても不思議ではない事は確かだ

 更には幻想郷という妖怪達のいる世界にいる時点で普通などではない

 

「ただ俺からしたら普通とはかけ離れてるよな。まぁ逆にその方がやり易いか」

 

 一人呟きながら脱衣所へと到着し服を脱ぎ、浴場へと向かう

 風呂は和風な枠組みで設置され檜風呂のような感じであった

 このような造りは旅館などでしか見た事ないためか少しの間眺めてしまう

 身体を撫でるような風が通り過ぎた事により我に返り、僅かに冷えた身体を洗い流し熱い湯の入った浴槽に浸かる、それだけで脱力してしまいそうだった

 

 しかしまずは今後の事を考えなければならない

 第一に此処でやる事と言えば妖夢の手伝いってところであろう、ある程度なら出来そうだがこの屋敷の広さを見るに掃除など大変そうである

 

 次に弾幕ごっこでの霊力弾とやらの放出の仕方を学ばなければならない

 ああは言っていたが、才能が無くとも努力でカバー出来ると言うのが持論であるためやれば出来ると思うのだ

 勿論、自衛としてなのである程度出来れば妥協は出来る

 

 そして最後に剣術だ

 妖夢が言っていた剣術指南と言っていた事から剣が扱えると見て良いだろう、むしろ扱えなかったら背中にある物がただのガラクタ、良くて棒切れとなってしまうであろう

 厨二病全盛期の時、剣使えれば格好が付くという阿呆らしい理由から剣道を習っていたため基礎なら出来るはずだ

 だとすれば一つの自衛の手段として使える可能性があると考えついたのだ

 

 とりあえずこんな所だろう、と此れからの事柄を纏め終わると思考に浸る事をやめ風呂を堪能し始める

 

「零一さん」

 

「んあ?」

 

 思考の海に沈み、浮上し始めた所へ脱衣所の方から声がかけられる、声からしておそらく妖夢であろう

 

「どうした、妖夢?」

 

「あの、此処に着替え置いておきますね。湯加減大丈夫ですか?」

 

「あぁ、わざわざありがとな。湯加減もちょうど良い感じで気持ち良いぞ」

 

「それは良かったです。着替えは私が洗濯しておきますので。では、私は行きますね」

 

 と言い残し脱衣所の扉が閉じられる音がする

 立ち去った、という事だろう

 

「さて、明日から頑張るか」

 

 一言気合いを入れておき、一人で入るには少しばかり広過ぎる風呂を堪能するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……良い湯だったな」

 

 風呂からあがり脱衣所で着替えを済ませ今は部屋、おそらく客間であろう所へと向かっていた、妖夢がその部屋を使って良いと言ってくれたのだ

 ちなみに着替えは白い装束みたいな服である

 普通に葬式とかで死者が着るような服だ、気にした所で何かが変わるわけでもこの服が変化する訳でもないので気にしない事にするが

 

 幽霊や亡霊などがいる屋敷だけはあるようだ、暗くなった外を見ると庭先で人魂らしき青白い物がふよふよと浮いている

 触れないらしいので特に何かが怖いというものはないが、改めて異世界に来たのだと実感させられる

 

 庭を眺めつつ、ぼうっとしながら歩いているといつの間にか客間、俺へ渡された部屋に辿り着いていた

 布団は相変わらず敷いてある、俺は其処へぼふっと倒れ込むように寝転がる、するとやはり疲労が溜まっていたのか眠気が襲い掛かってきた

 

「おやすみ……誰かが居る訳じゃないけどな」

 

 明日も早いであろう、そう思うと布団へと潜り込み一言、誰かに向けた訳でもない挨拶をし意識を睡魔へと委ねるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 俺は夢を見ていた、夢を見ていると理解出来るという事はまた珍しい夢である

 俺は今、浮いてるというべきか随分と高い位置から見下ろしている

 見下ろす先には少女がいた、そばにいるのは父親だろうか

 軒先の下で楽しそうに笑う少女、それを見て頬を綻ばせる父

 仲の良い家族なのだろう、ただ顔には見覚えがない

 

 

 急に場面が変わる、父親が此方を見上げているのだが先程よりも老いているのだ

 何やら和歌のようなものを、此方に優しい笑顔を向けながら読み上げている

 ……俺は何か物の視点から見ているのだろうか、そう考える暇もなく景色が移り変わり春が過ぎ、夏を越え、秋が来て、冬となる、その間も欠かさずその人は老いていくのも気にしてないかのようにここに足を運んでいる

 

 

 再び場面が移り変わる、だがそこでの景色は急変した

 その人が生涯をここで終えたのを皮切りに、次々と引き寄せられているかのように人々が死んでいく、まるで生気を吸い取り死へと誘うかのように、そして春を迎えた時あの時の娘──

 

 

『幽々子さん……!?』

 

 

 あの時の娘、女の子は幽々子さんのようであった、声は出せなかったが確かにそこにいるのは幽々子さんのようである、だが今はのほほんとした雰囲気ではなく儚い雰囲気を漂わせている

 その少女は何処かこの世界を嘆き、全てを諦めているような、まさに死人のような顔であった

 少女はそこで、この『桜の木』の下で…………

 

 

 と、俺の意識が急激に引っ張られる感覚が襲いかかる、遠ざかる少女の姿、此方を見上げその目には何を映していたのだろうか、もう何も見えない、景色が消え去り、意識が浮上し始め───

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「………ッ」

 

 目が覚める、そこは白玉楼の一室で妖夢が俺に使って良いと言ってくれた月明かりが差し込む部屋であった

 身体中変な汗で濡れ、気持ち悪いことこの上なく、息が上がっている

 

「……今のは……夢、か?」

 

 そうであったとしても随分と珍妙な夢である、昨日八雲さんから聞いた話のせいで色々と混合したのだろうか

 

「…………」

 

 可能性なら沢山ある、だけど答えが出るわけではないのだからもう考える事は止す事とする

 少なくとも今のは夢だ、これから起こる未来でもないのだから気にすることはないだろう

 

 寝る前に一旦水でも飲んで落ち着こう、無駄に考えるだけ徒労ってものである、そうと決まったらさっさと台所に向かおうと立ち上がり、部屋を出る

 月明かりのみで照らされる薄暗い廊下を歩く、するとその先に人影が見えた

 

「……あれ、幽々子さん?」

 

「あら、零一どうかしたのかしら?」

 

「あ、いや水でも飲もうかと思って、幽々子さんは何をしてたんだ?」

 

「私は……いえ、私も同じよ」

 

「……?」

 

 少し態度に違和感を覚えつつ何を見ていたのだろうと、視線の先を追う

 其処には、枯れた大木、西行妖があった

 

「それよりも零一、妖夢とはどんな感じなの?」

 

「え、どんな感じって……まだ今日会ったばかりだろ。ただまぁ礼儀正しい子だとは思うけどな」

 

「むぅ…そういう意味じゃないのに」

 

 じゃあどういう意味だよ、と心の中でツッコミを入れる

 声に出すとまた揶揄われるため言及はしないでおこう

 

「妖夢は真っ直ぐで良い子なのだけれどね。まだ半人前であることを気にしているみたいなの」

 

 ぽつりぽつりと幽々子さんが語り出す

 急にどうしたのだろうか、不思議に思いつつも耳を傾ける

 

「だから零一あの子を大人にしてあげてくれないかしら」

 

「何でそう誤解を招きそうな言い方をするんだ」

 

 真面目な話かと耳を傾けたのが間違いであったようだ

 げんなりしながら言い返す

 

「ふふっ、でも成長して欲しいのは本心よ?」

 

「……何で俺なんだよ?」

 

「なんとなくに決まってるじゃない〜」

 

 拍子抜けしてしまうような言葉を聞き、真面目に聞いていた自分が馬鹿らしいと脱力する

 

「まぁ妖夢が成長するとかそういうのは置いておいて、少なくとも仲良くしたいとは思ってるぞ」

 

「そう、なら安心したわ」

 

「もう遅いし俺はもう行くぞ。幽々子さんも夜更かしは体に障るから気をつけろよ」

 

「えぇ、ありがとう。おやすみなさい零一」

 

「あぁ、おやすみ。幽々子さん」

 

 軽く挨拶を交わしその場を後にする

 幽々子さんはまだその場に残るようだった、何をするのかは知らないが色々と思う所があるのだろう

 のほほんと言うべきかマイペースと言うべきかそんな感じだからどんな事を考えてるのか分からないのだが

 

 当初の目的であった台所で水を飲み、ついでにトイレへと行き、元の部屋へと戻り布団へと再び潜り込む

 

 流石にもうあの夢を見ることはないだろう、疲れていたから見た夢だと決めつけ、目を閉じる

 

 今度こそ意識は睡魔により沈んでいくのであった

 

 

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