「……腹減ったな」
そう呟きながら俺は白玉楼の廊下を歩いていた、呟きの原因は勿論、白玉楼の主人である幽々子さんによる食事の無差別飲食のせいだ
「いくら食い意地が張ってるからって……いや居候の身としては文句は言えないのか……?」
だからと言ってこのまま続くと俺が餓死してしまいそうであるが……流石にそこまではないと願いたいものだ
ふと思ったのだが俺が此処に来て全く働いていない、そろそろ何かが出来る所を見せておかないと唯のニートみたいになってしまう
そうと決まれば善は急げと、軽快な足取りとなり歩き出した…………のだが
「……あれ、此処どこだ?」
◇◇◇
〜幽々子side〜
今だに居間に残っていた私は、新たに増えた同居人の事を思い浮かべていた
人間であるのにも関わらず中級クラスの妖力を持つ、鈴白 零一
妖怪、ましてや半妖ですらないのだが、妖怪が本来持つ妖力と人間などが本来持っている、僅かながらの霊力を持っているのだ
気味が悪い事に彼はそれをまるで無いかのように見せる、隠密性というものがあり私自身も彼を見るまでは分からないほどであった
一度試しに霊視をして彼の魂を視たのだが、結果は人間と変わりのない魂……『普通』であったことも要因である
「何者なのかしらねぇ……。紫も詳しくは分かってなかったようだけれど」
何故紫の名前が出たのか、彼女が友人である事と零一が目を覚ます前、実は私が紫に会っていたからである
その紫から直々に頼まれたのだ、彼をしばらく此処に置いてあげて欲しい、と
私は最初は何故、と思ったが彼を見た時にその答えが出た
おそらく監視の意があったのだろう、幻想郷に連れて来るのはともかく、それとなく放浪されては監視が届かない場合があるからだと推測している
それに少しだけ興味があったのだ、ただ過ごす日常も悪くはない、だが新しい刺激があっても良いのかもしれない、と
「もしかしたら何か面白い事になるかもしれないわね」
自然と笑みが零れてしまう、これから起こりうるかもしれない何かに胸を躍らせつつ従者である妖夢を呼ぶ
「妖夢〜、おやつはないの〜?」
「幽々子様少しは控えてくださいよ……」
たまたま側に居たのかすぐに居間へと来て呆れたように言葉を漏らす従者、妖夢
「主人が餓死しても良いと言うのね……」
「……いや幽々子様、嘘泣きはやめてくださいよ」
「ちっ……」
「舌打ち!?」
もはや日常茶飯事となる妖夢弄りをしつつ、頭を撫でる
「冗談よ、冗談、もう妖夢は可愛いわね」
「なんなんですかぁ……もうっ……」
照れつつも素直に撫でられる妖夢、こういうところが可愛い所である、だからこそ弄るのをやめられないのだけれど
「それで妖夢。零一が木刀を振っていたみたいだけれど、振るように言ったのかしら?」
「はい。零一さんが自らやりたいと言いましたので」
先程私は、庭で木刀を必死に振り続ける零一の姿を見ていたのだ
チラッと見た程度なのでどういう訳かは分からないが、きっと妖夢辺りにでも触発されたのだろう
「腕前はどのくらいなのかしら」
「駄目、ですね。初心者にしては型に変な癖がついてないのですが、しっかりと振れていませんでした」
普通はその程度だろう、いくら妖力があると言っても使えているわけでもない、つまり普通の人間そのものの身体能力しかないと言うこととなる
……そもそも妖力を持っているの自体がおかしいのであるが
「それで妖夢は零一に手解きをする、と」
「そうですね……。本気らしいので、私も気合が入ってます」
どうやら妖夢は教える気はあるようだ
中途半端な気持ちではないということだろう、会ったのが昨日なのだからいきなり斬って確かめるような事をしそうだと思っていた私は内心驚いていた
剣の道を教えたのは妖夢の祖父であり妖夢はそれを誇りに思っている、だからこそ、そう簡単に教える物ではないと思っていたのだ
───あの青年は何を変えるのだろうか?
もし『此の世界』の理に逆らえるのなら、彼はきっと解決出来る手立てになるかもしれない
例え其れが高望みであっても、
私が動く時は、妖夢に何かがあった時
既に一度失敗している私に神様がくれたチャンス
モノに出来なければ、いや、失敗などあってはならないのだ
だから私は───
◇◇◇
「ちょっと待て、ここあれだろ迷宮的なやつだろ。しかも入ったら最後のやつ」
俺はと言うと迷い続け、彷徨っていた
かれこれ十分は歩いているのだが、気付かず門の所に来ていたのである
「妖夢は何処にいるんだよ!?」
「えっ、はい?」
「えっ」
後ろから声が聞こえる、バッと振り向くと其処には半霊を携えた妖夢が立っていた
「あ、あの……どうしたんですか?」
「いやその……妖夢を探そうと歩いてたら」
「……また迷ってたんですか」
呆れた顔で言われる、もはや何も言うまいと喉まで出かけていた言葉を飲み込んだ
「……妖夢の手伝いしようかと思ってな」
「それは嬉しいのですが、朝の仕事はもうほとんど終わってしまいました」
どうやら迷っている内に終わってしまったようである、何時の間に俺は方向音痴へと成り下がったのだろうか
「あー……そうなのか。あ、これから暇だったら弾幕の練習というかやり方を教えて欲しいんだが、良いか?」
「良いですよ。今日は昼ご飯の用意まで何もないので」
「お、良かった。早速教えて欲しい」
「でしたら場所を変えましょうか」
妖夢が歩き出す、それに並び歩く
朝、俺や妖夢が剣を振るっていた所で行うようである、つまり庭だ
妖夢に木刀も持って来るように言われた俺は、部屋から木刀を急いで取りに戻り駆け足で庭へと出る
「ではまずは私が手本を見せますので見ててください」
「ん、りょーかい」
妖夢が楼観剣を構える
雰囲気、と言うものだろう其れが全く違う、様になっているというレベルではなく剣士の圧力と言うべきであろう
それを妖夢は纏い漂わせているのだ
「……はっ!」
掛け声と共に妖夢が剣を振るう、すると白い球体、いや楕円形の塊が出現し空へと飛んで行った
今のが弾幕とやらなのだろう、あんな物など出している人間を見た事がないのだが、本当に出来るものなのだろうか
「今のが霊力弾です。これを複数出すことによって弾幕を張ることが出来るんですよ」
「初めて見たな……。少なくとも俺の世界にはそんなのなかったし、あんなのが複数も飛び交うのか……」
「慣れれば簡単ですよ?」
慣れる以前の問題である、原理そのものがどうなっているのかも不明な物をどうしろと言うのだろうか
「……えーと、此れどうやって出してるんだ?」
「身体の中にある霊力を刀に乗せて放っているんです」
「……いやそう流れるように説明されても分からないから。先ず霊力ってやつがよく分からないんだけど」
「そうですね……。精神エネルギー、みたいな感じでしょうか」
「精神エネルギー…うーん……ところで妖夢、此の霊力弾とやらは刀とか物を通さないと出せないのか?」
「いえ、私が刀を使うので刀を通してるだけですよ」
だとすれば、まずは手から出せるようにする練習からの方が良いかもしれない、おそらくコントロールってやつが出来ないと物を通してが出来ないだろう、と決めつけ木刀からではなく手から出せる練習をしようと脳内で予定を立てる
「なら……とりあえず俺は手から出せるようにするか。多分此れが基本なんだろうし」
「確かにその方が良いかもしれないですね。元々何かを通してやるものではないので」
手を前にかざし、先ずはイメージとして自分の中にある力というものを外に出そうと集中する……が思うように上手くいかないのが現実、非情である
つまり力んで目の前に手をかざしているだけで何も起こらないのだ
「……駄目だ。上手く出来ないな」
「まぁ……最初は誰でも出来る物じゃないと思います」
「だよなぁ……。妖夢はどれくらいで出来るようになったんだ?」
「私はいつの間にか出せるようになってましたよ?」
此れが才能というやつであろうか、女の子に負けているという悔しさからか涙が出そうである
その後、妖夢に見てもらいつつ何度も試したのだが全くもって結果は全滅であった
「……俺に才能がないのか……?」
ガックリと肩を落とす俺、そんな様子を見てか妖夢が慌ててフォローを入れてくれた
「そ、そんな事ないですよ!まだ今日始めたばかりじゃないですか!」
「…そう、だな。毎日続ければ成果が出るかもしれないな」
「そうですよ!だから頑張りましょう!」
「ん、ありがとな妖夢。そういえば、そろそろ時間じゃないか?」
「あ、そうですね。昼ご飯の用意をしに行かないと」
「俺も手伝うぞ。簡単な事なら出来るし、大変だろうからな」
「ならお願いします。幽々子様凄い量食べるから……」
「……妖夢も大変だな」
「いえ……もう慣れました……」
そう会話しながら台所へと移動する
テキパキと食事を作る妖夢を手伝いながら、俺はどうすれば霊力を上手く使えるのか、刀の稽古、体力作りと色々な事のスケジュールを頭の中で立てる
「零一さんって料理出来たんですね」
「ん?あぁ、一応俺一人暮らしだったからな。ある程度自炊した方が安上がりなんだよ」
ちなみに味は良くて平均以上、つまり普通に食べれられるであろう程度しか作れないが、一時期料理のレシピを色々と調べていたため家庭料理全般なら作れる、味は保障しないが
「一人暮らしですか……凄いですね」
「そんな事はないぞ。俺の世界では結構一人暮らししてる人はいるから珍しくも凄い事でもないんだ」
隣人の蓮子もそうである、そういえば今どうしているのだろうか
放置して来たから、部屋のゲームが回収されていそうである
帰ったら文句言ってやろうか、と思うのだがどうせ聞き入れて貰えない未来しか浮かばないため溜息しか出ない
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
「?」
「幽々子さんも待っているだろうし、さっさと完成させようか」
「あっ、はい」
どうやら今回は飯にありつけそうである、しかし此処の主人は食いしん坊過ぎると思うのだ
昼飯を完成させ居間へと運ぶ、幽々子さんはすでに、というか多分ずっと居たのだろう、変わらず脱力した姿で座っていた
「ご飯〜……」
「はいはい、今持ってきましたから」
「ブラックホールかよ……。実際これ何処まで入るんだ……?」
呆れながら盆に乗せてあった、料理をテーブルに並べ全員席に着く
手を合わせ定番であろう台詞を声を合わせるつもりはなかったのだが、全員同じタイミングで口にしてしまう
「「「いただきます」」」
そう全員で言い俺以外は食べ始めてしまう
昨日は二人だったので妖夢に習い、言ったのだが此処では普段から言っているようだ
二人の顔を見てしまった俺は慌てて料理が無くならない内にと、食べ始める
ちなみにメニューは焼き魚に里芋の煮転がし、ほうれん草のおひたしだ
俺の作ったのは里芋の煮転がし、好きなので結構得意料理である、味は一応蓮子のお墨付きで今度マエリベリーにも食べさせたいと言っていた程、自信はある
「あら、この煮転がしいつもと違うわね」
「あ、それは俺が作ったんだ。タレの味付けを研究みたいな事をしていたからな。俺が美味しく食べられるように考えたんだ」
「へぇ、零一なかなかやるじゃない。そんな腕があるなら是非、妖夢の婿にならないかしら?」
「え、何故そういう話になったんだ……?」
「な、なな、何を言ってるんですか幽々子様!?話が飛躍し過ぎですよ!?」
もはや定番である揶揄いだと思うのだが、妖夢は顔を真っ赤にし、わたわたとしている
見てて飽きないとはこの事だろう、実際に表情がころころと変わるため分かりやすいと言えば分かりやすいのだ
二人が騒ぐ中、俺は黙々と食べ続ける
朝飯抜いたせいで、腹が減っていたため此処で食べておかないと、また食べられてしまうので食べられる内に食べる、まさに戦争のような考えを実施中である
「零一さん!何で黙々と食べてるんですか!?何か言ってくださいよっ!?」
「だって今食わないと幽々子さんに食われるから」
「零一、怒っているのかしら?」
「え、いや別に怒ってないが餓死したくないからな」
「流石に餓死はしないと思いますよ!?」
「いや、いつかここの食材が尽きるという可能性がありそうだし」
「あ、それなら私が幻想郷の人里へ買い物に行っているのでなくなることはないです」
「人里?」
他に人が居るのなら一度は見てみたいものである、むしろ幻想郷に妖怪ではない普通の人間がいるのか気になる
もしかして人里と言いながら妖怪の里ではないのだろうか
「はい、この冥界ではなく地上にあるんです」
「地上、か……。今度行ってみたいな」
「でしたら今度買い出しの時行きますか?」
「お、良いのか?お土産になる物があればいいんだけど、あるかな」
「お土産……団子などはどうでしょう?」
「団子か……。すぐに帰れるのなら其れでも良いが、分からないならちょっと食べ物はアウトだな」
「それでしたら小物店などを回ってみてはどうでしょう?」
「小物……雑貨屋みたいな感じか。まぁ記念にだから無くても問題ないんだよなぁ」
「私も選ぶの手伝いますよ?物の方がふとした時に思い出しやすいですし」
「そういう考え方もあるんだな。とりあえずその時はよろしく頼む妖夢」
「あら、デートのお誘いかしら?」
「デ……にゃ……違いますよ!?」
妖夢は噛んだのかよく分からない鳴き声を出し、驚きの声を上げる、色んな意味で誘ったのは俺の方であるはずなのだが、否定の言葉を妖夢が言っているという慌てぶりだ
そんなに否定されては少し傷付くのだが、そんなの御構い無しに妖夢と幽々子さんの二人で従者を揶揄う主人という図の会話を繰り広げている
そして俺はその内に話に出た人里について考え始める
人里には興味があるのだが正直な話、先にやる事が盛り沢山な今、其方を終えてからにしたいのである
だが気になるのは時間、今は休み期間のため少しの間なら問題はないが、あまり長い事家を開けると蓮子達に心配をかけてしまう
これについて八雲さんに問い出さないといけないな、と思いつつ目の前で繰り広げられる談話を微笑ましく思いながら眺めるのであった
タイトル考える方が時間かかる……お読みいただきありがとうございます。カルートです。
日常も日常、話が進まないのは勘弁していただきたいです……。
こう自分でも何やってんだろ、って思う時が多々…
と、とりあえずこれからもよろしくお願いします。(汗