東方剣舞録 〜希望と絶望〜   作:カルート

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八話 教師と生徒

「……全く、迷子か妖夢」

 

 恐らく時間は昼過ぎ、人が行き交う人里を歩きながらそう呟いた

 それも一人である、本来ならば妖夢が隣に居たはずなのだが逸れてしまい仕方なく探す始末になってしまっているのだ

 

「何でこう、迷ってばかりなんだ……。元の世界ではそんな事なかったんだが、狂ったか?」

 

 元々『アレ』のお陰で把握しているのなら迷う事は無いのだが此処に来てからどうもおかしい

 何か此の世界から影響でも受けているのだろうか

 だとすれば後で八雲さんに相談しなければならない

 

「どうしたんだ?そんな所で立ち止まって」

 

「え?」

 

 何時の間にか立ち止まってしまっていたようだ

 声を掛けられた方へと振り向くと、其処には薄い青みがかかった白のロングヘアーにヘンテコな学者のような帽子、服は青いワンピースのような物を着る女性の姿があった

 

 隣には髪色は紫、肩に乗るか乗らないかの長さでありちょこんと可愛らしい花の髪飾りを頭に付け緑の着物に髪飾りと同じ花柄である黄色の羽織、赤のスカートを着ている女の子が双方共に此方を見ている

 

「あ、あぁ。実は連れと一緒に此処を回ってる内に逸れてしまったらしいんだ」

 

「そういう事か。なに、君がキョロキョロと見渡しているから不審者かと思ったぞ。あぁ、私は上白沢 慧音(かみしらさわ けいね)だ。寺子屋の教師をしている」

 

「えーと、俺は鈴白 零一。取り敢えず宜しく上白沢さん。えーと、君は?」

 

「わ、私の名前は稗田 阿求(ひえだの あきゅう)でしゅ……っ〜〜」

 

 苦笑いしつつ自己紹介を済ませたのだが上白沢さんの隣にいた稗田は緊張しているのか噛んでしまい顔を赤くしていた、そのまま上白沢さんの後ろに隠れるようにしてしまう

 余り人前に出る事のない子なのだろうか

 

 寺子屋、と聞き慣れない単語が出てきたが昔の学校の事だと思い至る

 おそらく隣にいる稗田も生徒なのだろう

 やはり時代が此方の世界とはズレているようだ

 

「うんうん、挨拶は良い事だ。時に零一、君は外来人か?」

 

「そうらしいな。出身はここの世界ではない、というよりも一ヶ月前に来たばかりなんだが、よく分かったな?」

 

「そのような珍しい服装をしていたら誰でも気づくだろう」

 

 笑いながら答える上白沢さん

 幽々子さんにも負けず劣らず美人である為か少し気恥ずかしくなってしまう

 

「着物も一応あるけど、動き辛いから着たくないんだ」

 

「そう言うものなのか?私としてはその服装の方が随分とキテレツな物に見えるが……」

 

「キテレツって、此処にも洋服があるんだから別に何らおかしくないと思うぞ」

 

「まぁ、その話は良いだろう。零一、その連れの方を探すのを手伝おう」

 

「良いのか?」

 

「困った時はお互い様。助け合っていかないと人間生きていけないぞ」

 

「確かにそうだな。なら改めてよろしく頼むよ上白沢さん」

 

「あぁ、此方こそよろしくな零一」

 

 人里に住んでる人ならば詳しいだろう、其れに協力してくれるなら願ってもない事だ

 

「あ、でも寺子屋は大丈夫なのか?先生なんだよな?」

 

「今日は休みだから問題ない。零一は気にしなくて平気だ」

 

 日曜が休み、みたいなものだろうか

 毎日勉強だと生徒も先生も疲れてしまうからだろうと勝手な予測をする

 

「此処へ来て一ヶ月、と言っていたな。ならば序でに人里を案内しよう」

 

「其処までしてくれなくても……」

 

「ははは、回るついでだ。見た所此処へ来るのは初めてなのだろう?」

 

「なら……お言葉に甘えるか」

 

「阿求は如何する?私はこの者の案内をするが」

 

「私も行きます!」

 

 緊張するのなら別に無理して一緒に行く事は無いだろうに、そう思いつつ上白沢さんと稗田の二人と共に人里を案内されながら歩く、途中何回も上白沢さんが住民達に声をかけられていたことから随分と顔が広く信頼を置かれているのだろう

 稗田も皆に顔を知られているのか挨拶をされていた

 もしかしたら二人は有力者か何かなのかもしれない

 稗田に関してはその娘辺りだろう

 

「ここが寺子屋だ。基本的に歴史を教えている」

 

「歴史……幻想郷ってそんなに前からあるのか?」

 

「そうだな。少なくとも500年以上前からある」

 

「500年……江戸時代辺りか」

 

「……江戸、外の世界の年代か」

 

「あれ、分かるのか」

 

「いや、書物に記されていたのに少し目にしただけだ。良ければ零一、外の世界について教えてもらえないか?」

 

「あ、私も気になります」

 

「俺のいた世界の事をか?少しだけ進んでるぐらいだぞ」

 

「興味があるからな。聞かせてもらえないだろうか?」

 

 と、言われても正直な所大した話などない

 言うならば機械などハイテクな物が沢山あるくらいだろうか

 身近な物で言えばケータイにテレビ、パソコンなどがあるが言っても分からないだろう

 

「えーと……遠くの人と話が出来る機械とかそういう物があって便利な世界だな。あまり困る事なんて無かった」

 

「きかい……?カラクリの事か?」

 

「あー、そうそう。そんな感じだ。でも中身はカラクリとは呼べない程高度な技術で作られてるな」

 

 幾ら高度な技術を持っている時代にいると言っても中身まで知っている訳では無いので使えるが作れる訳ではない

 だから量産出来る物ではないという事だ

 

 逆に此の世界には霊力など不思議な力がある為また別の意味で便利かもしれない

 道具も無しに空を飛んだりなど超能力のような事が出来るのだから負けてはいない筈である

 

「一応此処に来る前には持っていたんだが、来ると同時に無くなってたんだ。まぁどうせ持っていても此処じゃ使えないから良いけどな」

 

「使えないのか?」

 

「あぁ、えーと。糸電話を思い浮かべてくれ、其の糸の部分が此の世界では通ってないから使えない。後、片方も其れと同じ物を持っていないと使えないから意味無いって事」

 

「成る程……だからあの人は──」

 

 稗田が何を思ったのか考え込んでしまう

 大して気にならなかった為、視界から外し妖夢らしき人影が居ないか見渡すが如何やら居ないようだ

 

 日は何時の間にか傾き始め辺りは薄暗くなり始めている、と言っても周りの明かりにより其処まで暗いとは感じない

 

「居ないな……。まさか一回戻ったのか?」

 

「ふむ……そろそろ遅い時間になる。阿求、家に帰った方が良い」

 

「もうそんな時間……。そうですね。今日は有難うございました慧音先生。零一さんも有難うございました」

 

「うむ、気を付けて帰れよ」

 

「じゃあな、稗田」

 

 稗田はぺこりとお辞儀をすると人々が雑多に行き交う道へ消えて行った

 

 時間も遅い、だとするとそろそろ見付けないと些か拙い

 道端で寝るなどホームレスみたいにはなりたくない

 

「あー……どうするかな……。八雲さんも出てこないし」

 

「八雲?八雲 紫の事か?」

 

「そうそう、それ。あの胡散臭さ全開の妖怪、其の人さえ居れば何とかなるんだが……」

 

「だったら博麗神社を目指すと良い。だが今日は時間も遅い。私の家で休んでいけ」

 

 また博麗神社という単語が出てきた

 その単語に引っかかりを覚えるが今は気にする事は無いだろうと頭から振り払う

 

「流石に其処までは……悪いというか」

 

「行く宛はあるのか?それならば止めはしないが、まだ夜は冷える。外で凍え死なれても私は困ってしまうぞ。其れに人里の外は外で妖怪達の巣窟みたいな物だ」

 

 確かにこのままでは外で野宿する羽目になりそうだ

 此処は好意に甘えた方が精神的にも辛く無さそうだと心の中で妥協する

 

「……なら頼む。正直行く宛なんて無くて困ってたからな……」

 

「よし、ならば向かうとしよう。此処からそんなに掛からない」

 

 上白沢さんが歩き出す、其れに並び上白沢宅を目指すのだった

 

 

 

 

 

 上白沢さんの家は他の家と変わりない和風の家造りであった

 有力者かと思っていたのだが、もしかしたら人柄から人望があるという事だったのかもしれないと改めて思い直す

 

「どうした?私の家を見上げていても何も起こらないぞ?」

 

「あ、あぁ。いや、何でもない」

 

 慌てて取り繕うようにしつつ上白沢さんに続き中へと入る

 一人で住むには少し広い気もするがしっかりと整頓された如何にも教師らしい家であった

 

 空き部屋らしい部屋へと案内されると布団を提供してくれ、少ししたら呼ぶから其れまで休んでいてくれと言うと上白沢さんは部屋を出る

 恐らくだが夕飯の準備であろう

 

 しかし白玉楼とは違い、広過ぎるという事もない為か元の世界では皆が振り向く様な美貌も持ち主を意識してしまうのは無理も無い事だと思うのだ

 此処へ案内される途中、隣の部屋がちらっと見えたのだが恐らく其の部屋が上白沢さんの部屋だろう

 

 壁一つ先に居ると考えると無駄に豊かな俺の思考が妄想を始めてしまう

 

「つまり彼処で上白沢さんは……お、にゃ、はいっ」

 

 コンコン、というノック音で我に帰る

 慌てて返事をした為変な声を発してしまった

 

「にゃ……?零一、夕ご飯準備が出来たから来てくれないか?」

 

「わ、分かった。すぐに行く」

 

 足音が去って行くのと同時にほっと胸を撫で下ろす

 如何やら妄想に浸っている内に時間が経ち夕飯の準備が終わっていたようだ

 

 特に準備などの必要も無いので其のまま立ち上がり部屋を出、居間であろう場所へ向かう

 

「おお、来たか。大した物も用意出来なかったが良かったら食べてくれ」

 

「出してもらえるだけでも感謝しているのに、文句なんて言う程腐ってないぞ」

 

 冗談を言いながら座布団の用意された席へ座る

 雑炊のような物に漬け物、簡易的だが湯気が立ち上り良い香りが辺りへ立ち込める

 其れだけで腹が刺激され早く食物を、と求め始めるかのように腹が鳴った

 

「……う」

 

「ははは、別に恥ずかしがる事はない。品は少ないが量ならあるから存分に食べて良いぞ」

 

 いただきます、と二人定番である挨拶をし食べ始める

 香りの通り味は美味しく、白玉楼で出されていた食事にも劣らない物であった

 

 其れにしても室内でも上白沢さんは其の帽子を外さないらしい、今もなお被り続けながら食事をしている

 

 不思議に思いつつも食事を取り終え後片付けを手伝う

 白玉楼での日課が身に染み付いて来たのか雑用など無意識にやってしまっているようだ

 

「零一、後は私がやるから風呂に行って来たらどうだ?」

 

「俺は後でも構わないぞ。一番風呂の方が気持ち良いだろうし、上白沢さんが先に……」

 

「遠慮する事はない。私はまだ仕事が残っていてな。其れを終わらせてから入るから時間が空くんだ。入った後は先に寝ていて構わない。夜遅くなるからな」

 

「そういう事なら分かった。じゃあ先に入らせてもらうぞ」

 

「あぁ、ゆっくり疲れを取ってくれ。では私は部屋にいるから何かあったら呼んでくれて良いぞ」

 

 分かった、と返事を返し一度案内をされた風呂場へ向かうのだった

 

 

 

 

 

 風呂を上がり俺が案内された部屋へと向かう

 布団を敷き明日に備え寝る事とする

 

 隣の上白沢さんの部屋をちらっと覗いたのだが如何やら書物に何かを書き込んでいるようだ

 先生としての仕事だろう

 邪魔する訳にも行かず、何もする事がない為布団へと入り眠りへ就き意識を沈めるのだった

 

 

 

 

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