万仙陣の残骸――あるいは阿頼耶の饗宴   作:呪人形

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甘粕は真面目に言っていた
みんなが見たいものはわかると

だったらそれを書けばいいじゃないか!
※綺麗な神野及び超エキサイティングな阿頼耶はでません


死者の世界に魅かれる者達の宴

万仙陣は崩れた。

第四盧生たる黄錦龍は緋衣南天により現世に呼び出され、遂には第二盧生の前に敗れて散った。

その戦いは世界人類を圧倒的に掌握した黄錦龍と、第二盧生柊四四八・第一盧生甘粕正彦・第三盧生クリームヒルト・レーベンシュタインという盧生連合。

それは世界を破壊し創世しうるまさに神話の如きバカの戦い。

 

まさに痴愚神たる阿片の王は、その共感しやすい夢の下でおおいなる力を揮い盧生連合を最初こそ圧倒したが、その脆弱すぎる本人の精神性を柊四四八に突かれ打倒された。

そして万仙陣は崩壊して白痴の夢は消え去り、その夢の産物である石神静乃の願う世界も崩壊して消え去った。

 

 

はずだった。

 

 

夢は崩壊して白痴の夢はなくなった。

しかし人類は、阿頼耶は、その白痴の夢を体験して体感し、その経験という衝撃を受けてしまったのだ。

阿頼耶が受けた衝撃は人類を奮わせ、悪い意味で興奮の坩堝へ叩き込んだ。

興奮は阿頼耶を揺り動かし、揺り動く阿頼耶は歪なズレを生み出し、ズレは新たな興奮の呼び水となりこのような狂った宴が催されることとなったのだった。

阿頼耶は全ての人類の集合意識体であり、それはズレは世界をも超えて糾える縄の如く絡み合い、遂には特異点としての牙を剥いたのだ。

 

 

現代に――彼女にとっては大正時代だが――戻ってきたクリームヒルトは、戻ってきた感覚を慣らせつつ顔を上げると、その整った顔を大きく顰める。

満州はアジア地域の文化を、中国の一部としての文化を深く色濃く持った地域のはずである。

だが、これはどうだ?

慣れ親しんだ様式の建築物は、あまりにも満州にあったそれとはかけ離れている。

しかも、だ。

 

「これは……私の城だけではない?」

 

邯鄲で慣れ親しんだクリームヒルトの創法による城でありつつも、また知らぬ何かしらの影響を大いに受けた悍ましい魔人の気配薫る魔城。

本質と変質を兼ね備えたそれは、まるで母胎の中に揺蕩うような安心感と、悪性腫瘍に侵されつくした破滅へと突き進む糜爛とした腐敗臭が混ざり合い、常人では正気を保てぬほど筆舌しがたい不協和音としてどちらも自己主張を繰り返していた。

そんな悪夢的状況の中で、ただ物珍しいと散歩するかのように足取り軽く奥へ――何かと混ざり合う中心点――に向かって歩みを進める。

陽圧と負圧のせめぎあいをする場へ、ゆっくりと歩いてきて自身の城と何かが混ざり合う中心点を見て、クリームヒルトは感心したような声を上げた。

 

「これはまた、面白い物だな」

 

歪み混ざり合った世界は不吉な色をもち、非ユークリッド幾何学的に捻じ曲がる世界は伸び縮みを繰り返しつつ一瞬たりとも同じ形状を作らないにも関わらず、その遠近感の異常を視覚に一切感じさせない。

そんな風光明媚とは程遠い地獄の咢のような場所で、一切周囲には視線を向けずにクリームヒルトは正面に立つ黒だけを見ていた。

空間から滲み出るのではなく、むしろ空間にすら存在を拒否されて同位相に居たくないと避けられているかのような黒は――否、良く見ればあまりにも重い比重は空間を殺し、ただそこに単一の存在として巌の如く立っている男。

立っているのは外見だけで言えば男である。

男だが見ただけでわかった、これは人ではなく物に過ぎない存在だと。

物でありながら死の概念を纏う凶器でしかないのだと。

 

常人であれば直視するだけで、自分が死んでるいるのだと勝手に納得させられ、精神も肉体も死を受容するほどの圧倒的な死そのもの。

気持ち悪い、恐ろしい、悍ましい。

生命として生まれた以上は絶対に逃れられない死。

そんな死を纏ったモノが目の前に居た。

クリームヒルトもそうだが、相手もここがどこなのか、いったいなぜここに居るのかは理解できてないだろう。

だが、居るからには、呼ばれたからにはただ自分の在り方を出し切るのみである。

 

「四四八も甘粕も居ないところを見ると、盧生ではなく私に用があるらしいな」

 

「……」

 

巌のようなソレは口を開かない。

全てにおいて停滞するソレは、己の終焉以外については瑣末程の興味すら抱かず、ただただそこに在るだけであった。

だが、これはしょうがないことである。

ソレは――いや、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲンことマキナは既にどうしようもない程に終わっている。

終わって止まって壊れているのだ。

至高の終焉のみを求めて止まない戦車は、しかし他の黒円卓の団員が見たら驚愕しかねないほど珍しく、その表情に苦虫を噛み千切った渋さを浮かべていた。

常は感情も殺し尽くしているマキナが、初対面の人物相手に嫌悪感を抱いているのだ。

それこそメルクリウスでもない相手に、嫌悪感を抱くことにも驚きだが、その嫌悪感に比例して強大化する死の気配を受けて、なお笑みを崩さないクリームヒルトは他の団員が見ても一目も二目も置くほどの豪胆さだろう。

 

「そうか、私にその魂が惹かれているのか」

 

マキナの喰った膨大な魂は、マキナと同じく現世からの解放という至高の終焉を求めている。

だからこそ、阿頼耶を通じて死を肯定するクリームヒルトに対して、誘蛾灯に誘われる虫けらのように惹かれてしまっていた。

黄金の獣が喰った魂は戦奴として鬣らしくあらんとするが、大隊長含めてその他の団員に喰われた魂は非業の死が大半であり、主に付き従っているのではなく、開放を求めるただの奴隷に過ぎない。

しかも主に染まった魂は終焉を求め、目の前にある死に喜び勇んで飛び込みたかったのだ。

 

至高の終焉を求めるマキナは、しかし誰から死を与えられてもいいと言うわけではない。

カメラードとの全霊を賭けた決闘にて、勝利による解放か敗北による終焉のみを求めているのだ。

しかも、マキナの渇望はクリームヒルトと交わることはない。

大枠は死に繋がる渇望であるのだが、死という終焉を求める破滅の渇望に対して、死は救いのものという平等な死を標榜する自滅の盧生。

これは近いものではあっても、最早交わる事すらない全くの別物。

死の希求と死の肯定者。

死にまつわる内容でも、その実これだけの溝ができていたのだ。

 

「そう苛立つな、少し恥ずかしいじゃないか」

 

「キサマの存在を俺は肯定できない」

 

握られた拳からは、漏れだす敵意を止められないとばかりに硬く絞られる音が鳴り、冷めた鋼鉄の体に火が入る。

城で蓄積された戦闘技術は盧生に勝らずとも劣らず、むしろ純粋に技術だけで言えば盧生の中でも技術に劣るクリームヒルトと比較すれば、大いに水をあけていると言っても良い。

弓のように絞られた意思は炸裂を待つ砲弾のようであり、いつ暴発してもおかしくない緊張感が漂う。

 

 

 死よ 死の幕引きこそ唯一の救い

「Tod! Sterben Einz' ge Gnade! 」

 

 

この毒に穢れ蝕まれた心臓が動きを止め

Die schreckliche Wunde, das Gift, ersterbe,

 

忌まわしき毒も傷も跡形もなく消え去るように

das es zernagt, erstarre das Herz!

 

この開いた傷口 癒えぬ病巣を見るがいい

Hire bin ich, die off' ne Wunde hier!

 

滴り落ちる血のしずくを 全身に巡る呪詛の毒を

Das mich vergiftet, hier fliesst mein Blut:

 

武器を執れ 剣を突き刺せ

Heraus die Waffe! Taucht eure Schwerte.

 

深く 深く 柄まで通れと

tief, tief bis ans Heft!

 

さぁ 騎士達よ

Auf! lhr Helden:

 

罪人にその苦悩もろとも止めを刺せば

Totet den Sunder mit seiner Qual,

 

至高の光はおのずからその上に照り輝いて降りるだろう

von selbst dann leuchtet euch wohl der Gral!

 

創造   人世界・終焉変生

Briah― Midgardr Volsunga Saga」

 

 

世界に語り掛け自身に変革を告げる呪いの謳は、悍ましくも冒涜的なまでの死の希求。

求めに応じるかのように、まるで蛹が羽化するかのように、人間の型にはめ込まれた戦車は黒い死となった。

極々純粋な死のみを包括したそれは、クリームヒルトをもってしてもここまでとは想像だにできなかった代物であったが、それでも笑みを浮かべて心地よさそうに笑みを浮かべる。

 

「素敵な戦装束のようだが、私もドレスコードを合わせなければつまらないか」

 

ゆるりと腰から剣を引き抜き、自身を深く阿頼耶へとリンクさせていく。

ここは特異点であり、言ってしまえば阿頼耶そのものである。

しかも特異点の発生理由を考えれば、人類の代表者たるクリームヒルトは盧生として完成した時よりも力が漲るのを感じた。

ここを作ったのは阿頼耶である。

この場を用意したのは阿頼耶である。

そして、この会合を求めたのも阿頼耶であるならば、クリームヒルトと阿頼耶の本来以上の同調など呼吸をするより容易なのだ。

 

「先手はレディーファーストだろ?」

 

基本的にクリームヒルトの戦術は単純明快である。

寄って、斬る。

素人剣法でももっとましな方法が想像できそうな戦術で、只管剣を振り回すだけである。

そんな戦術では、地獄の釜の底で幾千幾万の闘争を続けてきたマキナに通用しない。

戦場で培ってきた体捌きや勘、相手を幕引く為の戦術全てにおいてマキナは超越者の域にある。

そんな戦士の頂点たる男に、盧生の中でも技術のないクリームヒルトの攻撃が当たるはずがない。

はずはないのだが、それで済まないのがクリームヒルトのクリームヒルトたるゆえんである。

 

「クッ?!」

 

「むっ?」

 

死のぶつかり合いであるならば、幕引きの一撃でも簡単に倒せないだろうと予想はしていた。

だが、終焉を与え続ければいつかは壊せると狂信していた。

握りしめた拳を叩き込もうと、弓のように絞り込んだ肉体を発射しようと考えた時には、すでに死を内包した剣が眼前に迫っていた。

前進を止め顔を吹き飛ばそうと迫る剣を腕で受け、吹き飛びそうになる身体を巌のように圧し止めて瞠目しつつ今起こった現実を理解する。

汎用ではないが才を感じぬ体捌きにより生み出された斬撃は、あまり褒められた術理を感じさせるものではない。

しかしながら、振り回される剣どころではなく、踏み込んできたその一歩目すらもマキナの目には見えなかった。

 

至高には程遠い体捌きによる超越した斬撃。

 

これこそがクリームヒルトのスタイルである。

剣を振り回すだけでは達人に勝てない?

ならば達人すらも反応できない一撃を叩き込み続ければ良いじゃないか。

剣を受けられるならば、受けごと砕く鉄槌のような一撃を出せばいい。

剣を避けられるならば、避けきれない神速のような一撃を出せばいい。

フェイント?濃淡?強弱?術理?

そんなものは受けきれず避けきれない一撃があれば必要のないものでしかない。

盧生としての戟法の剛と迅を注ぎ込み、剣をただただ振り回す。

それが終段を用いない戦闘におけるクリームヒルトの真骨頂である。

そんな一撃を受けて崩れずとどまるマキナに、獰猛な笑みを浮かべてしまうのはしょうがないだろう。

 

「いまのでもう少しけ削れたと思ったんだがな」

 

本来であれば黒円卓に座する魔人は、その体に霊的装甲を纏っており通常の手段で傷つけることは――そもそも当たらないと言う点を含むが――難しい。

だが、マキナはそれでもガードをせざるを得なかったし、クリームヒルトも想像以上の堅牢さに少し驚いていた。

驚いてはいるものの、今の一撃だけで戦いの趨勢が決まったと理解してしまった。

 

「上手く止められたが、今の一撃で二百そこそこの魂が還ったようだな」

 

剣に触れて剣に感化された魂が、終焉の魔人の下を逃れて阿頼耶へ還っていく感覚があった。

つまり、マキナの保有する魂の貯蓄が幾万かはわからないが、受ければ受けるだけ総量が減り弱体化していく。

不死身の体は魂を燃料としており、ガス欠になれば魔人もただの人になるだろう。

しかも今のは装甲の上から、言ってしまえば撫でただけの段階でしかないのだから、もしこれが斬るなり刺さる状況になればいったいどれだけの魂が散華するのか?

だが侮るなかれ、蠱毒を踏破した魔人はその程度で怯みうる存在ではない。

 

「お前に打倒されるようなつまらん終焉は要らない、俺には俺の、俺だけの至高の終焉を求めるだけだ」

 

雨霰と降る斬撃は大砲のような威力を内包しつつ、機関銃の如き連撃を生み出している。

それを己が蓄積した技術で捌き弾き避ける中で、遂に訪れた間隙――刹那にも満たないが――を見て取ると幕引きの一撃を剣の腹に叩き込む。

そこにありつつも、死を内包して幕が落ちている剣に幕引きの一撃は効かないが、それでもそこに勝機を見たのはマキナの心眼とでも言うべきものだった。

 

剣は折れず歪まず立っているが、一撃を受けたクリームヒルトは嫌なものを感じて大きく一歩下がり間合いを開ける。

いつも通りの威容をもつ剣は、阿頼耶の後押しで本来以上の切れ味を誇って存在している。

そう、この剣には死と言う終焉だけではなく、過去・現在・未来を巻き込んだ特異点の阿頼耶の意思も混ざっているのだ。

マキナの元でクリームヒルトに幕引かれた魂は、奴隷から解脱して普遍的無意識の集合体へ帰って行く。

ならば、クリームヒルトを後押しする阿頼耶がマキナに幕引かれた場合、その幕引かれた魂はどうなるのか?

 

この疑問を持った阿頼耶は、おおいに恐怖した。恐慌状態に陥ったと言ってもいい。

しかも、その事実を受けてクリームヒルトが俄然やる気を出したのを見て、恐慌はもはや狂乱にまで落ちていく。

 

 

高純度の死を内包するクリームヒルトとマキナだが、いくら濾過を繰り返そうとも死そのものになることはできない。

死そのものとはつまり現象であり、人間という不純物が入る以上は現象にはなりえない。

だが、これは違う。

人間という要素を排し、死をとことんまで突き詰めた存在である。

そのプレッシャーはさすがのマキナですら息を飲まざるを得ない。

 

「さあ存分にやろう」

 

振り上げられた一撃は、マキナを消し飛ばすだろう。

それがわかったとしても、求める終焉は自死ではないので待って死ぬことはできない。

一瞬でも存在する死を幕引くべく、己の持つすべてを注いで拳を構えたマキナが見たものは、溢れ出る死に耐え切れず消滅を始めた世界だった。

 

 

 

 

「つまらない幕切れだったな……」

 

死に耐え切れなくなった特異点は崩壊を始め、骸骨の城との接続もなくなり既に黒騎士もそこには存在していない。

自身の城という舞台装置も特異点に引きずられるように散り散りと消えていく。

本来であれば盧生とは言え阿頼耶に影響を与えることはできない。

それは当然で、破滅を厭わぬ戦い方をすれば自信を支持しない阿頼耶を殲滅し、従順な阿頼耶のみで世界の理すら変化せしめる神になってしまう。

死を想い死に至る事があるならば、そもそもクリームヒルトの支持者も眷属も尽くが死滅しており、人類の代表になることはなかっただろう。

 

だが、今回は阿頼耶のうねりによって生まれた特異点であり、いってしまえば脆弱点の様なものだったので、流石にマキナの幕引きの一撃の単発では壊しきれなかったが、クリームヒルトの終段により死が飽和し特異点は破綻に至ったのだ。

そこまで考えて、クリームヒルトは大きくため息を吐いた。

今頭を駆け巡るのは「もったいないことをした」というそれだけである。

あれほどの戦士と正面切って戦う機会を、これから脂がのると言うところでとり逃してしまったのだ。

終段は使うべきではなかった。

使っていなければあの拳が私と阿頼耶の繋がりを絶つのが先か、魂の総量を枯渇させるのが先かスリルある戦いがあっただろう。

やはり、もったいない。

それに――

 

「あの気配は何だったんだ?」

 

崩壊する特異点に延ばされた腕のような銀の存在は、黒騎士を掴んで自らの元へ引き戻すようだった。

そして、同時に感じた黄金の光……もしかすると特異点が崩壊したのは、特異点の脆弱性を外からついた何かが居たからだろうか?

もし崩壊が遅ければ、あの黄金も現れたのかもしれないと考えると、やはりつくづくもったいない。

 

「何か言ったかクリームヒルト?」

 

「なんでもないよ四四八」

 

阿頼耶もあれで懲りただろうから、もう狂宴は開かれないだろう。

だがもし、永劫の彼方に次の機会が訪れるならば、死の黒騎士との決着をつけ黄金とも出会ってみたい。

とは言え今はやるべきことがある。

 

「それはそうと四四八」

 

「なんだ?」

 

「私たちの子は男の子と女の子だとどっちがいい」

 

「お前はいきなり何を言ってるんだ!」

 

また袖にされてしまったな。

いや、待てよ。

あの黄金と子を為すのもありじゃないだろうか?

ふむ、少し盧生で居るのが楽しみになってきたな。




尻切れトンボと言わないで…
作者にはマキナを殺す方法は書けてもメスゴリラを殺す方法は思いつかなかったよ
しかもdiesを考えるとマキナも消滅レベルで殺せないしなぁ

あ、でもメスゴリラの嫁ぎ先は黄金でいいと思うんだ
黄金が愛してもたぶん壊れないしメスゴリラが愛しても腹上死は無さそうだし
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